日本は津波による大きな被害をうけるだろう UFOアガルタのシャンバラ 

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「日本銀行を政府の子会社化して国債を持たせてしまえばいい」というような安易な考え方。(1)

 

 

 

東京五輪後の日本経済』

元日銀審議委員だから言える

白井さゆり  小学館  2017/9/13

 

 

 

<異次元緩和に、果たして効果はあったのか?>

<異次元緩和の成果>

黒田総裁の下で推し進められた異次元緩和ですが、まず効果があった点とは、極端な円高と株安を是正できたということでしょう。

 

・ただ、雇用の改善については、仮にアベノミクスが登場しなかったとしても、日本社会が人手不足になるのは時間の問題だといわれており、それに伴って、失業率が低下することは、ある程度予想されていました。

 労働人口は1990年代から減り始めていましたし、団塊の世代の人たちが次々と退職していくため、人手不足になることは目に見えていたのです。

 

異次元緩和の実体経済への影響

・一方、異次元緩和によっても効果がなかったといえる点についても、しっかりと見ていかなくてはなりません。まずはっきりいえるのが、異次元緩和を実行した後も、大した経済成長を実現することはできなかったという厳然とした事実です。

 

しかも、2016年末にGDPの算出方法が国際基準に合わせて改訂されたことに伴い、新たに研究開発費などが算入されて、2013年からのGDPが比較的大きく押し上げられました。

 ところが、そうした支援材料があってもなお、実質成長率は大きくは伸びなかったわけで、異次元緩和の実体経済への影響はそれほど大きくなかったといわざるを得ません。

 

<「円安効果」による輸出増は実現できたのか?>

・2012年12月に自民党が政権に復帰した頃から、日本銀行による将来の金融緩和政策を織り込むようにして、市場では急激に円安が進み始めました。そして、2015年には一時1ドル125円を越える水準にまで、円安が進行したのです。

それではこの間、輸出は増えていったのでしょうか?

 一般的に、通貨安になると、他国の商品との競争が有利になるため、一国の輸出は増えるといわれています。しかし、結果を見ると、異次元緩和スタート以降も、あれほど円安が進んだにもかかわらず、輸出数量が増えることはありませんでした。

 

・しかし、円安によって輸出数量と輸出物価がともに増えていくという好循環を生む、いわゆる「円安効果」は実現しなかったのです。これは、長引く円高の影響などもあり、企業がどんどん海外へと工場を移したことが、その大きな原因として挙げられるでしょう。つまり、もはや日本は、円安によって単純に輸出が増えるような構造ではなくなっているのです。

 

・また、人口減少が続く日本国内の市場だけで生き残っていくことは到底できないため、企業は積極的に海外企業の買収を進めていくことも考えています。そのため、高収益を上げているにもかかわらず、企業は多額の内部留保を積み上げるという行動を選択しています。

 その結果、従業員の所定内給与(決まって支給される給与)はなかなか上げずに、収益が上がった場合にはボーナスによって調整するという状況が続いています。

 しかしながら、所定内給与が安定して増加して、しかも物価上昇分を越えて増えていくようにならなければ、家計はなかなか将来を客観的に見ることはできません。

 

異次元緩和が目指した「物価上昇率2%」のゆくえ

それでは、この「物価上昇率2%」は、本当に実現できるのでしょうか?残念ながら、2017年時点では、「物価上昇率2%」の目標には、ほど遠い状況にあります。

 

<異次元緩和を「総括」する>

厳しい言い方をすれば、一番大切な目的に対して、異次元緩和は期待通りの効果を発揮できなかったわけです。異次元緩和のような「非伝統的金融政策」は、決してパワフルな政策ではないことがわかってしまったともいえます。

 

<「過去最高」の企業収益。それでも手放しでは喜べないのはなぜか?>

<売上増加を伴わない「過去最高益」>

・もちろん、個々の企業では事情は異なりますが、おしなべて見ると、アベノミクススタート以前と以後とでは、企業の売上高はほとんど変化していないのです。収益は増えたけれど、売上は増えてはいないという状況です。

 

<危うい均衡の上に立つ高収益>

それではなぜ、企業が高収益を実現できているかといえば、それは、各企業のコストカットの努力によるものです。長く景気が低迷する中、各企業は経費節減を進めるなど、筋肉質な体質づくりに努めてきました。値上げをする場合でも、より付加価値をつけた商品やサービスを提供して、消費者に納得してもらえる工夫もしています。

 今日の高収益は、こうした企業の涙ぐましい努力によるとところが大きいのです。

 

・企業の側も、売上高が増えない中、この先も簡単には売上が上がらないことをよくわかっています。そのため、設備投資には慎重になります。また、今後は国内市場の縮小が予想される中、海外市場へと活路を見出すべく、買収のための資金を確保する必要があり、そのため従業員の賃金を上げることにも消極的にならざるを得ません。

 

<世界経済のゆくえ>

ブレグジット

・こうした独自の需要と強みを持つシティに対して、これに追随できるような国は、ユーロ圏にはひとつもありません。したがって、仮にブレグジットが現実になったとしても、世界中からの資金がシティに集まってくるという流れが止まることはないでしょう。

 

こうして見ると、ブレグジットは、イギリスにとっても、そう悲観的なことばかりではないかもしれません。長い目で見れば、有益なことのほうが多い可能性もあります。EUよりも規制を少なくして、もっと法人税率を下げれば、世界の主要企業がますますロンドンに拠点を構えるようになるかもしれません。

 実際、ブレグジットの世界経済への影響については、「それほど大きくはないだろう」というのが、ヨーロッパの多くの識者の考え方です

 

中国バブルは崩壊するのか? そのとき、世界経済、日本経済はどうなる?>

中国が抱える2つの「過剰」問題

・政府の債務自体は対GDP比で40%前後と、それほど大きくはないようですが、企業債務はどんどん増えていき、すでに対GDP比で170%から200%を越えるほどにまで達しているとの推計もあります。

 また、中国では、こうした企業債務に加えて、家計の債務も増えています。とくに住宅の価格高騰を受けて、住宅ローン債務が大幅に増加する傾向にあります。現時点では、家計の債務の大きさは政府債務と大きくは変わらない程度のようですが、公的・民間の債務を合計すると対GDP比で200%を大きく超えるほど膨張しています。そのため、習近平首席がどう対応するのか、世界の注目が集まっています。

 

さらに、企業の過剰生産能力による問題も深刻ですリーマンショック以降、中国政府は景気刺激策として大規模な財政出動を行いましたが、これがさらなる企業の過剰生産能力問題を生むことになりました。

 

・この状態に対しては、いずれ何らかの手を打つ必要がありますが、過剰生産能力による供給過剰の状態を解決しようとして供給に制限をかけると、それによって大量の失業者が発生してしまうことになりかねません。そうした事態を避けるためにも、中国政府には慎重な舵とりが求められます。

 

資本流出を妨げるか?

中国経済の諸問題を語る中で、忘れてはならないのが、「資本流出」の問題です。中国は、2014年から、それまでの「資本流入」から「資本流出」へと転じました。これは、外国から中国に対して入ってくるお金よりも、中国から外国へと出ていくお金のほうが多くなったということを意味します。2015年には、約1兆ドルもの資金が中国から国外へと流出したとする試算もあります。

 

・一般的には、通貨安になると輸出が増える効果を生むなどのメリットもありますが、中国当局はむしろ、人民元安が進むことで中国からのさらなる資金流出を招き、これに歯止めがかからなくなることを懸念しているようです。

 

<「中国発のリーマンショック」は起こるのか?>

これまで見てきたように、中国経済は、主に企業による「過剰債務」問題や、企業の「過剰生産能力」問題、さらには「資本流出」問題など、さまざまなアキレス腱を抱えています。

 また、上海や北京などの不動産価格が高騰し、もはやバブルと呼べる水準に達しているのではないかとの指摘もあり、不動産バブル崩壊による経済への悪影響を懸念する声もあります。

 それでは、右記のような諸問題がやがて顕在化して、それが世界中へと波及する「中国発のリーマンショック」のような事態を引き起こすことになるのでしょうか?

 私は、そのような事態になりにくいと考えています。

 

・以前は、中国経済が減速したとしても、それが大きく世界経済に影響することはありませんでした。ところが現在では、購買力平価(各国の通貨が自国内でモノやサービスをどれだけ買えるかという比率)で換算したGDPは、すでに中国はアメリカを抜いて第1位となっているのです。

 これほど世界での存在感を強めているため、中国経済が減速した場合には、まずアジア・太平洋の市場全体が大きな影響を受け、やがてそれが世界全体へ波及していくという構造になっているのです。

 

<膨張する政府債務。東京五輪後に日本の財政は「破綻」するのか?>

海外ではまったく信じられていない「日本の財政再建

こうした中「統合政府論」といったことを主張する人たちが現れました。日本銀行は政府の子会社と見なせるため、日本銀行が買い入れた国債は政府の負債と相殺されるのだから、日本の財政再建は着実に進んでいる、というのです。

 

・いずれにしても、ここではっきりといっておかなくてはならないのは、海外では日本の財政再建が可能であるとは、まったく信じられてはいない、という事実です。

 

すでに指摘した通り、日本の政府債務は、世界標準である対GDP比「60%」などは、もはや夢のまた夢というレベルにまで膨らんでいます。これがどれほど深刻な事態であるのかを、私たち日本人は、今一度、しっかりと認識しておく必要があると思います。

 

「国民の金融資産1800兆円」の安心感

・私たちはいずれ、日本政府が抱える膨大な債務の問題について、真剣に向き合わなくてはならないときがくるということです。

 

<「統合政府論」は正しいのか?>

「統合政府論」では、日本銀行を政府の子会社と見なし、バランスシートを統合して考えます。そうすれば、日本の財政はすでに再建されている、というのです。

 どういうことかというと、現在、日本政府の債務として、長期国債が1000兆円程度あります。一方、日本銀行には、金融緩和政策の一環として市場から買い入れてきた日本の長期国債が、資産として約400兆円以上計上されています。

 そこで、政府と日本銀行を一体として考えると、約1000兆円の日本政府の債務のうち400兆円分は日本銀行の資産400兆円と相殺され、政府の債務(長期国債)は差し引き600兆円にすぎなくなるというのです。しかも、今後も日本銀行国債の買入を進めていけば、ますます政府の債務は減っていくというのです。

 これがもし本当ならば、これほどうまい話はありませんが、果たしてそうなのでしょうか?残念ながら、私はそうではないと考えています。

 まず、現在の制度化では、政府と日本銀行のバランスシートを統合するという考えには、実際の運営の観点から見ると、あまり現実味がないからです。

 

仮に日本銀行を政府の完全子会社化して、政府の国債を持たせるだけの機関とすれば、日本銀行はもはや「政府のいいなりになる銀行」にすぎなくなります。

 

東京五輪後、「ハイパーインフレ」は起こるのか?>

結論からいえば、私は日本でハイパーインフレが起こる可能性は、かなり低いと考えています。

 

・もし、政府が膨大な政府債務を放置して、このまま財政再建を進めなければ、日本国債や円はほとんど市場の信認を失っていき、日本はますます世界の小国へと転落していくことでしょう。

 

東京五輪後、日本経済は「成長」していけるのか?>

<成長なき社会>

・これからの日本は、ものすごいペースで人口減少が進んでいくとともに、高齢者の割合がどんどん増えていくと予想されています。

 それに伴い、生産年齢人口がどんどん減っていくため、人手不足がいよいよ深刻になり、経済成長はますます難しくなっていくでしょう。

 

いよいよ始まる企業淘汰

・現在、日本経済は供給力と実需がほぼ釣り合っており、設備もフル稼働に近い状態になっています。中には、老朽化した生産設備を使って生産を続けているため、稼働率が目いっぱいに高まり生産能力が限界にきている企業も少なくありません。

 ただ今後は、供給能力よりも、需要のほうがより早く減っていく可能性が高いと考えられています。

 しかしそうなると、モノやサービスをたくさんつくっても売れない、という状況が生じてきて、いよいよ企業淘汰が始まることになります。

 

<「シェアリングエコノミー」の時代>

・「シェアリングエコノミー」とは、個人が保有している遊休資産の活用を、インタ―ネットなどを通じて仲介するサービスのことをいいます。

 

・つまり、たとえモノを所有しなくても、必要とするときには何でも簡単に利用できる、そんな社会が実現しつつあるのです。

 となると、これからはますます、「頑張ってでも車を買おう」という人たちは少なくなっていくことでしょう。

 日本経済がこれから「成長なき社会」へと突入していく可能性が高い大きな要因は、こうしたところにも見出せるのです。

 

東京五輪後の未来のために、政府や日本銀行がやるべきことは?

<「軌道修正」する勇気を>

・これからの日本社会は「成長なき社会」に突入する可能性が高く、高い経済成長を実現させることは容易ではありません。だからこそ、政府や日本銀行は、その難題に向き合い、正しく現状を理解したうえで、これに果敢に挑戦していくしかないのです。そのためには、政策が誤っていたと気づいたならば、それを速やかに軌道修正する柔軟さが、何より求められます。

 具体的にいえば、まず、日本銀行が現在も続けている金融政策を、より現実的なものへと修正していくことです。

 

国民に向き合った政策を

・では、国民のこうした「不安」の原因は、突き詰めればどこに行き着くでしょうか?それは社会保障に対する不安と、政府の膨大な債務に対する不安だと、私は考えます。

 

・彼らと話していると、多くの場合、その不安の原因は、「将来、ちゃんと年金がもらえるかわからない」「政府は信用できない」の2つに行き当たります。

 彼らは、こうした2つの不安要素が存在するゆえに、将来に備えてせっせと貯蓄に励まざるを得ず、安心して消費を増やすことができないのです。

 

日本政府はこれまでずっと、つねに問題を先送りする政策を続けてきました。しかしそれはやがて、必ず将来世代にツケを回すことになります。

 しかも日本はすでに世界最悪レベルにまで財政が悪化しているのです。これ以上の先送りは許されません。つかの間の低金利の世界に安住することなく、政府はしっかりと財政再建への道を探っていくべきなのです。

 

「成長なき社会」の中で、どのように政府債務を減らしていくのか?

・これまで、日本社会はこれから、「成長なき社会」へと突入する可能性が高いことを述べました。また、その一方で、財政再建の重要性を説いてきました。

 しかし、経済成長ができない国で一体どのようにすれば、政府債務を減らしていくことができるのでしょうか?

 

東京五輪後に、国民1人ひとりが実践していくべきこととは?

<「自ら判断できる」国民へ>

・この結果を見ても、日本人の多くが、政治にしても経済にしても、自分の生活にもかかわる大切な事柄であるにもかかわらず、「他人にお任せ」という態度になっていると感じます。もっといえば、今の日本には、厳しい現実から目を背けて、「今さえよければいい」という風潮が漂っているようにも思えるのです。

 しかし、こうした考え方は、非常に危険です。なぜなら、これはどの国でもいえることですが、政府関係者や金融政策担当者が、必ずしも正しい政策を行っているとは限らないからです。

 

<「自助努力」を始めよう>

・すでに指摘した通り、日本はこれから「成長なき社会」に突入していく可能性が高いのです。そうした経済情勢の中で、もしインフレが起きるとすれば、それは需要拡大による「デマンドプル型」のようないい形でのインフレではなく、生産費用の上昇による「コストプッシュ型」といった、国民生活にとっては悪い形で実現する可能性が高くなります。

 

また、少子高齢化が進み、政府が巨額の債務を抱える中では、残念ながら、社会保障費は削減される方向へと進まざるを得ないでしょう。そうなれば、年金だけで豊かな生活を実現していくことは、一段と難しくなります。

 だからこそ、私たちには「自助努力」が求められるのです。そのための具体的な方法としてはまず、今度は国民1人ひとりが預金や現金だけに頼るのではなく、リスクをとって積極的な資産運用をしていくことです。

 そのひとつが、外国通貨や外貨通貨建て資産への積極的な投資です。

 

・それともうひとつ、株式投資にも必要以上に慎重になるべきではありません。バブル崩壊後、日本の株価は過去最高値の半値程度に沈んだままですが、諸外国に目を転じれば、多くの国でどんどん過去最高値を更新しています。

 

さらに、なんといっても、私たち1人ひとりが健康に留意して、できるだけ長く働いていけるように心がけ、それを実践していくことも大切です。

 

東京五輪の宴の後で>

・2013年9月の「東京五輪開催決定」を受けて、多くの国民の心は明るさを取り戻しました。「これから経済も上向きになる」。そう考えた人々も多かったことでしょう。それは素晴らしいことですが、2020年には東京五輪は確実に終了します。東京五輪開催に向けた人々の期待が一気にしぼみ、日本経済は大きく減速する可能性があります。

 そのとき、日本人はあらためて、日本経済が置かれている厳しい現実と向き合うことになるでしょう。

 

・これまでくり返し述べてきた通り、日本はこれから「成長なき社会」へと突入していくことが見込まれています。そうした社会において、私たちは何をしていくべきなのか、残念ながら、まだその明確な答えはありません。

 

しかし、そうした現状の中で、現実から目を背け、「日本銀行を政府の子会社化して国債を持たせてしまえばいい」というような安易な考え方が出てくるたびに、私は「この国の未来は本当に大丈夫なのか?」と本気で憂えてきました。

 

世界には国民が自国の通貨すら信じられない国がある

東京五輪後」の日本経済は、これまでの人類が経験したことのない、道の世界へと突入していきます。

そうした未知の世界で、私たちは何ができるのか? そして何をすべきなのか?今はまだ、その明確な答えはありません。

 

 

 

『アメリカは日本経済の復活を知っている』

浜田宏一     講談社  2013/1/8

 

 

 

白川方明という名の優秀な学生

・経済学者として長い間、教鞭をとってきた私だが、学生に「大学院に進んでみないか」と声をかけることは少ない。本人に能力がなければ、あとから、本人にとっても、指導する側にとっても、たいへんになるだけだからだ。いまでは就職難のため、あるいはモラトリアム期間の延長のために大学院へ進む学生も珍しくないが、私は決して勧めようとは思わない。

 そんななかで数少ない例外の一人が、白川方明氏だった。そう、日本銀行総裁である。

 白川氏に初めて会ったのは、1970年のことだ。私が東京大学経済学部で教鞭をとっていた時代。その聡明さには、たいへんな感銘を受けた。

 

人口はデフレの要因なのか

・日銀は「人口がデフレの要因である」ことも主張したいらしい。ところが、人口をデフレに結びつけるのは、理論的にも実証的にも根拠のないものだ。もちろん人口は成長の要因にはなるが、実質生産に、人口あるいは生産年齢人口が影響するのは当たり前のことである。

 しかし、貨幣的現象である物価、あるいはデフレに人口が効くというのは、経済の解剖学すなわち「国民所得会計」から見ても、生理学すなわち「金融論」から見ても、まったく的外れな議論だ。医学の発達した社会で、床屋の素人談義で患者の診断と治療法をきめようとしているのが日銀の姿なのだ。

 日銀が国際会議等で示す研究成果もレベルが低い。統計学の講義のいちばん初めに注意されることだが、偶然グラフに数字が都合よく出てきて、あたかも関係があるように見える、「見せ掛けの相関」を使ったりする。

 たとえば嘉悦大学教授の高橋洋一氏が指摘しているように、33ヵ国のうちから都合のよい24ヵ国だけを選ぶという、統計学上における一種のカンニングを行ったりしている。経済の「治療」に当たる医者がやるようなことではないだろう。

 

・人口構成がマクロ経済に関係があるのはもちろんだが、現在の経済学では、デフレの原因とは決して結びつけることはできない。ここにも、総裁の主著『現代の金融政策』(日本経済新聞社)の各所に見られるように、日本銀行の都合で経済学を書き換えてしまう一例がある。

 このようなまやかしの手法を使った日銀正当化のために、果たして国税を使って国際会議など開催してよいものだろうか。

 

・経済学の現状から見ると、ノーベル経済学賞候補としてよく名の挙がる清滝信宏プリンストン大教授の共同研究が示唆するのは、リーマン・ショック以後、英米の大胆な金融拡大があったからこそ、世界大不況のような破局から人々が救われた公算が大きいということに他ならないということだ。

 

マクロ経済学の分野において「低金利は企業を脆弱にする」という議論は、実質金利名目金利を無視している。

 

<「良い日銀」と「悪い日銀」>

・バレンタインデーの政策変更で、いったんは正統的な政策に戻ったように見えた日銀だが、それはいやいや行ったのではないかという不安もあった。「バレンタインデー緩和」は、私にとっては「良い日銀」であったが、総裁の談話などを聞いて、「悪い日銀」がまだ隠れているのではないかと思えたのだ。

 案の定、何ヵ月か経つと、私が「良い日銀」の看板にだまされていたことが分かってきた。

 

<日銀の意識に「庶民の生活」はない>

・毎日のように通勤電車を止める飛び込み自殺。その一部は明らかに経済的要因で説明できる。しかし、日銀政策委員会を傍聴した人によれば、日本銀行には、金融政策が、失業、倒産、そして自殺を増やすという形で庶民の生活に密着しているという意識がないらしい。

 円高政策は弱い企業をいじめる政策である。経済の空洞化を推し進める政策であるのはもちろん、地方切り捨ての政策でもある。空洞化の流れで、企業が外国に工場を移転しても、東京のヘッド・クォーターは残る。結果、工場があった地方は疲弊する。東京は超円高に耐えられても、地方はそうはいかないのである。そう考えれば「大阪維新の会」の支持者が多かったのもうなずける話だ。

 これらのメカニズムに気づかない、あるいは気づいても黙っている学者、報道しないマスコミも同罪といっていい。20世紀初頭にかけて足尾銅山の鉱害と戦った田中正造が議会で質問したように、「亡國に至るを知らざれば之れ即ち亡國の儀」なのである。

 

・「しかし今もっとも責められるべきは、財務省や財界や政府と言うより日銀であろう。デフレ不況を十数年も放置してきた責任の大半は日銀にあるのだ。リーマン危機以来、アメリカは通貨供給量を3倍に増やすなどを米英中韓その他主要国の中央銀行は猛然と紙幣を刷り景気を刺激した。日銀は微増させただけで静観を決めこんでいる。ここ3年間で円がドル、ユーロ、ウォンなどに対し3割から4割も高くなったのは主にこのせいだ。今すべきことは、日銀が数十兆円の札を刷り国債を買い、政府がその金で震災復興など公共投資を大々的に行い名目成長率を上げることだ。札が増えるから円安にもなる。工場の海外移転にも歯止めがかかる。ここ14年間、経済的困窮による自殺者が毎年1万人も出ている。日銀は動かない」

 

・経済学の専門家でない藤原氏に分かることが、どうしてエコノミスト、学者、政治家、マスコミには分からないのであろうか?

 

経済学200年の常識を無視する国

閣僚たちは「ヤブ医者」の群れだった

・閣僚は、医者であるはずなのに、経済学の解剖学、すなわち高橋洋一氏の強調するバランスシートの基本が分かっていない人たちばかりだった。経済がどのようなメカニズムで動くのかという生理学にいたっては、ほとんどの閣僚が無知もしくは誤解していた。

 生理学とは、たとえば「デフレに一番効くのは金融緩和である」という、大学1年生の経済学の教科書にも載っている基本原理だ。どんな経済政策で働きかけると、経済のどの部分にどう波及していくのかを理解しないで、日本経済という大船の舵をとろうという閣僚たち……。

本人から見れば最強の内閣なのだろうが、国民にとっては、いつ座礁させられるか分からない恐ろしい内閣だった。

 

・まず、藤井裕久氏である。このとき官房副長官となった藤井氏は、「円高は日本にとっていいことだ」と言い続けてきた元大蔵官僚だ。政治家として大蔵大臣、財務大臣も経験しているが、ずっと円高論者だった。

 経済財政担当大臣の与謝野馨氏も、「円高がいい」「デフレでいい」という持論の持ち主。円高デフレの際にも財政金融政策を使わなくてもいいという、これから説明するような世界の経済学の常識に真っ向から反する理解と政策を掲げてきた。

 いってみれば、目の前に重篤な患者が横たわり、しかも自分がその病気を治すための薬を持っているのに、「薬は使うな」と指示しているようなものである。

 これは、日銀とまったく同じスタンスである。

 

・もちろん、私は日銀や政府の政策担当者に個人的な恨みなどない。私が東京大学時代や、イェール大学で教えたり、指導したりした人、共同研究者だった人が、日銀、財務省経済産業省などにはたくさんいる。重要な地位にいる人も多い。みな、いまでも親しい友人だ。しかし、彼らのすることが国民生活に及ぼす効果や弊害を考えると、「人は憎まず、されど政策の結果(=罪)を憎む」といわざるをえない。

 

首相の狂気「増税すれば経済成長する

大臣たちだけではない。菅直人首相は、信じられないことに、「増税すれば経済成長する」と語った。「利上げすれば景気が回復する」といったのは枝野幸男官房長官だ。

 もう笑うしかない—―そんな高橋氏の言葉に、私はうなずくしかなかった。

 

・君子が豹変したことよりも、内閣の経済政策に関する理解と主張が、現代の常識にのっとらない、きちんとした「治療」とはかけ離れたものであることが問題なのだ。

 新内閣の最も重要なポジションに、まったく間違った、経済の常識からすれば逆の政策をやろうという人たちが就いていた。その周囲も、官房長官をはじめ、みなデフレ派だ。まさに驚くべき布陣だった昔、私も務めたことのある経済社会総合研究所長の座には、金融政策がまったく効かないというマクロモデルをつくった人物が就いていた……。

 高橋氏はこの対談で、さらに、「そこにもう一人、加えなければならない人がいます。前の官房長官仙谷由人代表代行です」と語っている。

 このとき、民主党の「社会保障と税の抜本改革調査会」の会長に就任した仙谷氏は、「需給ギャップがあっても何もするな」と明言したことのある人物だったのだ………。

 

無視された経済学200年の重み

・だが、内閣はその積み重ねをまったく理解していなかった。それどころか、経済の理屈とは正反対のことをしようとしてきたのだ。

 経済学においては、自然科学のようにパッと予測することは難しい。制御に関しても、まだ曖昧な面がある。とはいえ、さまざまな学者たちが、事実を積み重ねながら考えてきた200年余の歴史があるのは事実だ。

 菅内閣と野田内閣では、その現実がまったく無視されてしまったのである。経済学が積み重ねた貴重な歴史を無視するアイディアに取り込まれた人たちを集めて、内閣が形成された。

「まあ見事といえば見事ですね。国民にとっては非常に恐ろしいことですが」

高橋氏の対話中、私の口からはそんな皮肉が自然と口をついて出た。

 そういう状況だっただけに、私は空路で、「こんな内閣の経済政策を議論しに、イェール大学の講義を補講にまでして帰国するのは時間の無駄かもしれない」と、日本に着いたらトンボ返りでアメリカに引き返そうかとも考えた。だが、かつて教わったジェームズ・トービン、フランゴ・モディリアーニ(ともにノーベル経済学賞受賞者)といった先生たちの顔を思い浮かべると、そうもいっていられないと感じたのである。

 

・以下で紹介する政策も菅内閣時代のものだが、当時の財務の責任者は野田佳彦氏。つまり後の総理大臣である。野田内閣でも、やはりまったく経済の論理に反する政策が続けられた。

 

<日本政府の空洞化促進政策>

・そこに示されていたのは、菅内閣が8月24日に発表した「円高対応緊急パッケージ」であった。

 1000億ドルとヘッドラインにうたっているように、たしかに対策の規模は大きい。しかしその内容を見て、本当に驚いた。これほど経済原理とかけ離れた対策が打ち出されようとは思いもしなかったからである。

 緊急パッケージは次のような骨子から成り立っている。

(1) 政府は日本が豊富に持つ外貨準備を使い1000億ドル(約7兆6000億円)の基金をつくり、円高で苦しむ企業に対して緊急に低利で融資する。

(2) この基金は、国際協力銀行を通じて融資され、日本企業が行う海外企業や資源の買収を容易にする。

(3) それと同時に(これは罰則を伴わない規定でもあるので以下では議論しないが)、金融機関に外貨での資産残高を報告させる。

 これになぜ驚いたかというと、まったく円高対策になっていないからである。

 円高の原因や、それに対応する政策手段について、大臣はもとより官僚も、国際金融論の初歩的な知識すら持っていないに違いないと感じられた。

 さらに数日後、日本の友人から知らされた新内閣の顔ぶれにはもっと驚いた。そのパッケージをつくった大臣、すなわち野田佳彦氏が、こともあろうに首相となり、後任の財務大臣には、経歴から見て財政とは無縁な素人、安住淳氏が就任したからだ。

「いままでと同じく、今後も財務官僚の案をオウム返しに述べます」と宣言したようなものである。長年にわたる誤った金融・財政政策によって冷え込んだ日本経済を再建するために、この内閣がいかに「不適在不適所」であるかはいうまでもない。

 

<世界は日本経済の復活を知っている>

東日本大震災は、負担を将来に先送りし続けてきた公債依存型の財政の弱点を顕わにした。しかし、消費増税で一気に財政を改善しようとしても、それは国民経済のパイ全体を小さくしてしまうことになる。それによってもたらされるのは、歳入の減少に過ぎない。

 増税を急ぎすぎると、むしろ日本経済にダメージを与えることになるのだ。

 まず必要なのは、充分な量的緩和によって、デフレ、需給不足、低成長から脱すること。そしてそれは、経済を学んだ人間なら、世界中誰もが知っているはずの常識である。

 そこに、日本復活への鍵がある。言い換えるなら、世界は日本経済の復活を、すでに知っているのだ。

 

<「美しい国」を取り戻すために>

安倍晋三氏の著書のように、日本に帰るたびに、私も日本は「美しい国」だと実感する。自然の美しさにとどまらず、心の細やかさもある国である。病院で検査の採血をしてもらうだけでも、治療の細やかさ、やさしさが伝わってくる。このような美しい日本が、金融政策を「しょぼい」レベルに保っているために、毎年、若年失業率の高い、設備稼働率の低い状態を続け、さらにそれが将来への成長の活力を奪っているのは、残念で仕方がない。

 私はホテルの周りを取り巻く長い空車タクシーの列を見るたびに、日本経済の現状に思いを馳せてしまう。円高、デフレ、空洞化を解消して、「美しい国」を取り戻してほしい。それが私の切なる願いである。