『100年経営』 世紀を超えるマネジメント
若松孝彦 ダイヤモンド社 2011/3/18
<7つの経営プログラム>
・100年先を見つめて、会社存続のために何をするべきか、「7つの経営プログラム」で会社の未来をつくる!
☑粗利益率40%・経常利益率10%・連続10年
☑1T3Dナンバーワンブランド戦略
☑究極の資源配分、承継こそ最大の戦略
☑社長を10人育てるサテライト組織
☑語り継ぐ経営システム
☑100年カレンダーをつくる
☑STSで変革をマネジメントする
<100年後、私はこの世にいない>
・私は経営コンサルタントとして、20年間で約1000社の会社に経営アドバイスをしてきた。中小企業から中堅・上場企業まで、企業再生や成長戦略の策定など、多くの経営の修羅場や戦略の現場を経験してきた。また潰れる会社、勝ち組企業、老舗企業など、企業の栄枯盛衰をそばで見てきた。「会社」とは、本当に不思議な生き物だと思う。
「会社は操業50年で老舗、100年で時代、200年で歴史になる」
<老舗企業の研究本ではない>
・「存続するために会社は何をすべきか」この悩みを少しでも持っているなら、その「問い」には真剣に答えたつもりである。
<変化をマネジメントできる会社>
・成長の前に変化ありき、経営資源の再配分のない成長は膨張である。100年経営を実現するためには、「変化をマネジメント」しなければならない。これが、会社存続の絶対的な経営技術となる。脱皮できない会社は消えるのである。
<会社を変えるチャンスは3回訪れる>
・「赤字」「不況」「継承」。会社を変えるチャンスは、3回訪れる。好況時の変化は、膨張である可能性が高い。不況時やピンチのときの変化が、真の成長である。
<日本経済の100年経営プログラムを考える>
・経営の現場から日本経済や地域経済を眺めたとき、大きな危機感が生まれてくる。本書で述べる100年経営プログラム(無借金経営システム、存続エンジンの開発、承継戦略のシナリオ、自律する組織デザイン、ミッションマネジメント、後継者育成カリキュラム、100年経営の階段)を、日本経済の運営に当てはめながらお読みいただくと、経済政策的な学び方ができるかもしれない。
・例えば、7つの経営プログラムでアプローチしたとき、「無借金国家経営システム(現実は借金漬け)」「存続エンジンとして3つ以上の世界ナンバーワン産業づくり(従来の競争力産業の地盤沈下)」「100年先まで世代継承できるシナリオ(人口減少と高齢化社会)」「ナンバーワン産業を生み出し続ける国と地方の組織デザイン(中央集権の組織体制)」「あるべき姿を描いた経営資源の再配分(使命感なき目先重視の政策)」「次代のリーダーを輩出して育成する仕組みづくり(頻繁に変わるリーダーたち)」「将来も日本が成功者であるための階段(破綻国家への下り坂)」となる。
・残念ながらカッコ内が現実であり、本書で提唱している100年経営プログラムとはあまりにもかけ離れている。これは何を意味するのか。このままでは、「日本経済の寿命が、会社の寿命を決める」ことになる。
<会社寿命はいつの時代でも「四択」>
・会社の運命は、4つのコースから選択しなければならない。存続、売却、廃業、倒産である。会社は「続けるか、売るか、やめるか、潰れるか」と常に隣り合わせの運命にある。その運命はリーダーの腕前、舵取り次第で決まる。
・私の約1000社の経営アドバイスの記録や記憶をたどると、およそ60%は事業承継が経営課題の本質であったように思う。
・タナベ経営の創業者・田辺昇一は、「会社は事業に成功して50点、承継ができて100点」と言った。事業承継は本当に難しい。将来を左右する重要事項でありながら、5年から10年に一度しか発揮しない経営技術だからである。同族企業であれば、20年に一度である。
<日本企業が直面する5つの新しい現実>
現実1 創業200年以上の会社は0.07%、100年では0.5%
現実2 創業5年以内に35%が消え、50年を迎えるのは5%
現実3 社長の高齢化
現実4 20年間で約100万社が消えている
現実5 倒産、廃業、売却の増加
<現実から見える未来>
・新しい5つの現実を線でつないでみると、次のような構図が浮かぶ。
「会社の業績が厳しい→経営の舵取りが難しい→現社長が経営せざるを得ない→社長の高齢化が進む→会社の将来性や魅力が乏しくなる→後継(候補)人材がさらに少なくなる→経営意欲の喪失→廃業(売却)
私は、この悪循環の構図を「後継者不足の時代」と呼んでいる。「後継者不足」にはさらに3つの真因がある。「なり手不足」「少子化」「悲観論」である。
<社長業の「なり手不足」>
・業績の悪い会社は、例外なく借金が多い。特に中小企業の場合、会社を所有するオーナーと、会社を経営する社長が一体化しているため、社長には債務保証問題がついてまわる。
同族・非同族にかかわらず、自宅を担保に差し出してまで会社を引き継ぐ人がいなくなっできた。この10年間で、中小企業と金融機関との取引スタイルが大きく変化したことも影響している。金融機関の不良債権処理の中、メーンバンクがそれにふさわしい役割を果たせなくなり、メーンバンクが会社を潰すことすら当たり前の時代になった。会社が倒産すれば社長は丸裸――。会社を起業しよう、社長になろう、社会を変えよう、という気概より、同族後継者ですら「社長という仕事は割に合わない」という意識が優先し始めている。後継経営者の「なり手不足」を招いている。深刻な原因である。
<「100年経営プログラム」を導入せよ>
プログラム1 無借金経営システム。無借金経営――粗利益率40%・経常利益率10%を連続10年以上続ければ、実質無借金になる。
<2つのシェア20%以上>
・次に取り組むべき倍数の「20」は、自社が取り扱う製品・サービス領域で、「2つの市場占有率(シェア)を20%以上にすること」だ。2つのシェアとは、「ターゲット市場におけるシェア」と「得意先内におけるインストアシェア」のことである。
〈存続エンジン 1T3D戦略(事業シフトの法則)〉
・「単品たらふく病気になる、バラバラ少々健康」。おいしいからと言って単品ばかり食べているとバランスを崩し、病気になる確率が高くなる。事業も人間の体と同じである。儲かっているからと言って、一つの事業ばかりをやっていると、いずれ経営のバランスを崩すことになる。
・これを予防し、正しく変化(シフト)する戦略を私は「1T3D戦略」と呼んでいる。「1T」とは、1つの「テクノロジー」、すなわち固有技術(真の強み)を意味する。「3D」のDは、「ドメイン」、つまり事業領域の頭文字であり、3つのターゲット事業領域の創造を意味する。
・以上を考慮すると、1T3D戦略の推進は、まず、①水平展開である新規チャネルの参入可能性を検討し、次に、②垂直展開による川下攻略を意識して、③自社ブランドを開発できるよう川上から付加価値コントロール力を構築し、最終的に④川下へ参入してブランド確立を実現する戦略シフトが基本となる。
・100年経営を目指す存続エンジンは、「固有技術を生かしてニッチ市場を創造し、“開発見込型ナンバーワンブランド事業”を垂直と水平の展開力で”3つ以上“開発せよ」となる。「会社(事業)の寿命は30年」と言われて久しい。一つ目の事業の柱で30年、三つの事業で90年、限りなく100年に近づくのである。
<次の時代へ新規事業の種をまく>
・1T3D戦略を遂行するためには、存続エンジンとなる「新規事業の種」を市場や組織内にまき、育てなければならない。「まかぬ種は生えない」のだ。
<兄弟経営は3代目までに80%が失敗する>
<承継の無責任――兄弟仲よく、平等に>
<兄弟経営が派閥経営になるとき>
<承継こそ最大の戦略>
・戦略とは、持てる経営資源の再配分である。実は、経営の中で最も大切な資源配分は、会社寿命の90%以上を決める「トップ人事」という資源配分である。
・「戦略の失敗は戦術ではカバーできない。しかし、承継の失敗は戦略でもカバーできない」
・承継の失敗は、会社の成長を5年以上停滞させる。5年間が企業戦略遂行の命取りになることは容易に想像できる。「私のコンサルティング経験の約60%は、本質的には事業承継にまつわる課題であった」、と申し上げたのはこれを意味している。「承継こそ最大の戦略」なのである。
『データでわかる2030年の日本』
<100年で日本の人口は3分の1に減少>
・(人口)100年で日本の人口は3分の1に減り、人の住まない地域が増える!
・(高齢化)働き盛りが人口の3割しかいなくなり、現役10人が高齢者など10人を支える社会になる!
・(結婚・家族・世帯)未婚、離別、死別が人口の半数近くになり、親子ともに高齢者の世帯も増える!
・(教育・所得・福祉・住宅)大学定員割れ、空き家増加。正社員減少、改善が必要なことがたくさんある!
・今、日本は大変な転換期にあります。人口が減り、高齢者が増え、働き手である若い世代が減っていく、社会保障費は拡大し、消費税をはじめとした税金もおそらく上がっていくでしょう。高度経済成長期につくった道路などのインフラも老朽化していきます。
・今年、2013年は、1947年から49年に生まれた団塊世代(第1次ベビーブーム世代)は65歳前後になっています。団塊世代は、日本でも最も人口が多い世代です。彼らは2030年になると80歳を超え、ほとんどの人は仕事をせず、もしかしたら病気になったり、寝たきりになったりしているでしょう。
・2030年までの間に、われわれ日本人は、社会のさまざまな仕組み、制度を根本から変えていき、2040年からの社会に備えなければならないのです。
<日本の人口は20世紀に3倍増えた>
・ざっくり言うと、4000万、8000万、1億2000万と増えた。50年間で4000万人ずつ、2倍、3倍と増えたのですね。すごい増え方です。
<100年後に日本の人口は3分の1に減る>
・昔は「多産多死」の時代と言います。これが明治以降は「多産少死」の時代になる。江戸時代と同じ調子でたくさん子どもを産んでも、あまり亡くならなくなった。だから人口が増えたのです。
戦後になると「少産少死」の時代になる。2人産めば2人とも生き残る時代になった。しかし現代は「超少産」になってしまったので、人口が減るわけです。
・せっかく1億2000万人台にまで増えた人口も、現代では子どもを産む人が減ったために、2050年になると9700万人ほどに減る。2100年には、4959万人になる。2110年葉4280万人です。20世紀には100年かけて3倍に増えた人口が、21世紀の100年をかけてまた3分の1近くに減るのです。
・しかも、この予測は「中位推計」というもので、出生数や死亡数の増減の仕方を多すぎも少なすぎもしない中間的な仮定で予測したものです。出生数の減り方がもっと激しく、かつ死亡数の増え方ももっと激しいと仮定すると、2110年の人口は3014万人にまで減ってしまうのです。
<アフリカの人口が35億になる>
・日本以外の国々の人口は、一部の先進国を除けば、今後も増え続けます。現在は世界全体で70億人ほどですが、国連の予測によると、2100年には100億人になる。増えるのは主に新興国と呼ばれる国々です。
<中国とアフリカが結びつきを強める>
・また、川端氏によると、中国とアフリカの貿易額はこの10年で24倍に拡大し、2009年以来、アフリカにとって中国は最大の貿易相手になっているのだそうです。中国外務省はこのほど、アフリカで働く中国人の数は100万人を超えるとの試算を発表しています。
<人が住まない地域が増える>
・人口の半数以上が65歳以上である地域を「限界集落」と言いますが。そういう限界集落が増え続ける。
・相続する人がいない土地や家が増えるのですから、土地の価格は安くなるでしょうし、空き家が増えます。安くなった土地を外国人が買うというケースも増えるのではないでしょうか。
<外国人が日本を買い占める?>
・すでに現在でも、売れ残ったマンションなどを外国人に安く売ることは頻繁にあるようです。
『日本最悪のシナリオ 9つの死角』
日本再建イニシアティブ 新潮社 2013/3/15
<最悪のシナリオ>
1 <尖閣衝突>
(課題)
・尖閣危機のシナリオを極小化する重要なポイントの一つは、中国側の上陸行動を防ぐ、あるいは最小限にする日本側の迅速な初期行動にある。それを可能にするシステムはできているのだろうか?
・中国側にとって、尖閣問題は対外戦略問題であると同時に、国内の権力闘争、ナショナリズムの問題である。中国国内に対して、日本側の正当な言い分を伝え、理解を得る発信をどうやって生み出すべきだろうか?
・国際社会に対して、日本は何を発信して、どうやって理解を得たらよいだろうか?また、国内世論にはどう対処すべきだろうか?
2 <国債暴落>
(課題)
・日本の将来に必要不可欠な社会保障制度改革と年金改革を先送りしかねない政治家の判断について、国民側から議論する必要はないだろうか?
・膨張する医療費をどうすべきか。政治と官僚による“上流からの改革”だけでなく、“下流”から議論を起こしていくにはどうしたらよいだろうか?
・改革のチャンスを渡してきた背景には何があったかのか検証する必要があるのではないだろうか。
3 <首都直下地震>
・30年以内に直下型地震が東京を襲う確率は、場所によっては7割を超える。
・東日本大震災後、東京都は都民に“サバイバルの時間”を意識させる条例を制定した。全事業者は従業員の3日分の水と食料を備蓄するよう定めた条例で、帰宅困難者を出さないための対策である。
(課題)
・政府の被害想定で見過ごされてきた東京湾封鎖ならびに電力喪失というシナリオを真剣に検討すべきではないだろうか。
・最悪シナリオにおいて首都機能をどこでどうやって継続するのかの検討が必要ではないだろうか?
・ライフラインが途絶して発生する膨大な数の被災者の生活をどう支えるのか。支援を被災地に送る発想だけではなく、被災者を外に出す発想の転換が必要ではないだろうか。
・都県や市区をまたぐ広域的な行政対応をどこがどうやってマネジメントするのか?
・政府のアナウンスが誤解やパニックを招かないようにするにはどうしたらよいだろうか?
・平時から求められるリスク対策の費用負担を、どう考えるべきだろうか?
4 <サイバーテロ>
(課題)
・私たちの生活に直結する国家や企業の重要情報が、激増するサイバー攻撃によって盗まれている。国内の対応体制の盲点はどこにあるのだろうか?
・国内にも世界に負けない優秀なハッカーたちがいる。日本を防御するためには彼らを登用するには、何が障害になっているのだろうか?
・オールジャパンで対抗するために、役所や政府機関の改革すべき点はどこか?
・現代社会はオンラインへの依存度を高めて、自らリスクを高めようとしている。利便性とリスクのバランスについて、どう分析したらよいだろうか?
・サイバーテロはそもそも敵の特定が極めて困難である。インテリジェンス機能を強化させるにはどうしたらよいだろうか?海外のインテリジェンス機関との協力が必要ではないだろうか?
5 <パンデミック(感染爆発)>
(課題)
・日本の医療機関は、医師、ベッド、人工呼吸器、ワクチンなどすべてにおいて不足し、平時から医療崩壊の危機にある。こうした現状を踏まえた上で、「新型インフルエンザ等対策特別法」に基づいた具体策の検討がなされているだろうか?
・日本国内だけでパンデミックに対処するには無理がある。海外の国に協力を求めるにはどんなことを整備すればよいだろうか?
・現在の法体制に、海外からの支援を遅らせたり、被害の拡大を招きかねない盲点はないだろうか?
・医療現場を崩壊させている原因は、行政や医療機関だけだろうか?患者の意識改革も必要ではないだろうか?
6 <エネルギー危機>
(課題)
・エネルギー危機には、資源の確保、市場への心理的な影響、国内への配分という3つの問題がある。この3つの問題を克服するにはどんな努力が必要だろうか?
・エネルギー危機の3つの問題をさらに悪化させかねないのが、アナウンス方式である。正しい情報が、一転してデマ。風評被害、パニックを呼び起こしてしまうのはどこに原因があるからだろうか?
・中東への依存度を抑えてエネルギー調達元の分散化を図るためには、具体策をさらに議論すべきではないだろうか?
7 <北朝鮮崩壊>
(課題)
・朝鮮半島で危機が起きた場合、現地在住日本人の退避について具体的な方策は練られているだろうか?
・日本の安全保障の戦略ビジョンを国内外に打ち出しているのだろうか?
・首相や首相官邸の事態対応が後手に回ってしまう場合、平時に何が足りないからだろうか?
・朝鮮半島で危機が起きれば、日本経済にも大きな影響を及ぼす。危機に対する予防策は平時から考えられているだろうか?
・平時から情報機関が独自に提供する首相への情報は、政府として共有・分析されているだろうか?首相を混乱させてしまう仕組みに陥っていないだろうか?
8 <核テロ>
(課題)
・防災や減災、また企業の事業継続や安全保障に関する訓練は、「式典化」していないだろうか?
・ファースト・レスポンダーの提携に際し、現場の権限の不明確さを具体的にどう克服すべきだろうか?
・「3・11」で起きた首相官邸と官庁との連携の失敗や国民からの不信を克服するために、統治する側はどんな努力をしているのだろうか?
9 <人口衰弱>
(課題)
・国家を衰弱させかねない人口構造の問題は、以前から危機を予測できていた。危機を知りながら、解決に向けた政策の優先順位が低いのは何が原因なのだろうか?
・国家として人口問題にどう立ち向かうかというビジョンを打ち出せていないのはなぜだろうか?
・出産や育児の環境を整えていない現状を続けていけば、危機はより大きくなっていく。全世代の意見を汲み取るための選挙制度改革など、国民的な議論を喚起すべきではないだろうか?
・前世代のツケを次世代が肩代わりする社会保障の仕組みは、個人への負担を増加させる一方である。この危機意識を国民に共有させるには何が足りないのか?
<「最悪のシナリオ」を起こさないために、政治は「制度設計責任」を果たせ>
<巨大リスク社会、巨大リスク世界>
・巨大なリスク社会と巨大なリスク世界が出現してきた。都市化に伴い巨大技術を活用する社会は、巨大なリスクを抱え込むリスク社会でもある。オプション取引やデリバティブなどの金融リスクヘッジ商品がさらなる巨大金融リスクを息子のように生み出す姿は、「自らのデザインの中の悪魔」と形容される。
<盲点と死角>
・盲点と死角は、日常、私たちが感じている日本のシステムとガバナンスと意思決定プロセスの問題点である。そこに地雷原のように埋め込まれてた数々の神話とシンドローム(症候群)である。例えば――、
・同質性(と閉鎖性)を根拠に、日本が「安全・安心」大国であるかのように思いこみ、それを自画自賛する「安全・安心症候群」。
・リスクを冷静に評価し、それを受け入れることを回避し、ひいてはタブー視する「リスク回避症候群」(失敗や恥を怖れる杓子定規の段取り重視、式典化する訓練)。
・「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿文化。つまりは、利害相関関係者(ステークホルダー)としての参画を意識的に排除し、各省、各部門のたこつぼ化と縄張り争いに精出す「部分最適症候群」。
・「チームジャパンとしての対応」ができず「オールリスク」を取る体制ができない「全体真空症候群」。
・明確な優先順位を設定することを忌避し、なかでも“損切り”の決断がなかなかできない「トリアージ忌避症候群」。
・権限と責任を曖昧にする「総合調整症候群」(「総合調整」という名の指揮命令系統の意識的曖昧化)。
・本部・本店は指図するだけ、ロジ(調達・補給)も不十分、ただただ現場にしわよせを与える「ガナルカナル症候群」。
・「安全保障国家」としての形も内容も未熟なまま、いざというときの米国頼みの「GHQ症候群」。
・9つの「最悪シナリオ」があぶり出した日本の国家的危機と危機対応の姿は、戦後の「国の形」が国家的危機に取り組むにはきわめて“不具合”にできており、また、私たちの社会があまりにも無防備であるという厳然たる事実を示している。
日本の「最悪のシナリオ」を描く作業は、日本のカントリー・リスクを評価する作業でもある。それは日本の「国の形」と「戦後の形」を問う試みにならざるをえない。
・日本の国家的危機を考える場合、首都直撃のパンデミックやサイバーテロのような急迫性の高い危機だけが危機なのではない。
国債暴落と人口衰弱の2つは、日本という国の悪性細胞が次々と移転する時限爆弾のような存在である。
日本全体を丸ごと蝕む致死的なリスクという意味ではこの2つがもっとも恐ろしい危機となるかもしれない。
・問題は、政治である。政治家は、世論の反発や票離れを恐れるあまり、日本の将来に必要不可欠な社会保障制度改革や年金改革に着手できずにいる。
・国債大暴落と人口衰弱の「最悪シナリオ」を起こさないための確かな「制度設計」を急がなければならない。政治はその「制度設計責任」を果たさなければならない。
・多くの場合、それらのリスクは、東日本大震災と福島第一原発事故がそうだったように、複合的な性格を帯びる。司司(各省庁)でことに対処するのでは間に合わない。「国を挙げて」取り組まなければならない。それだけにガバナンスの善し悪しがこれまで以上に危機管理において決定的な要素となるだろう。
ガバナンスとは、経済的、社会的資源を運営、管理する上での権限と権力のありようである。危機管理ガバナンスの再構築は政治の仕事である。司司(各省庁)の行政にその仕事を委ねることはできない。
<レジリエンスとリーダーシップ>
・あれから2年が経つのに、東日本大震災と福島第一原発事故の国難から日本が回復し、それをバネに復興に向けて歩み出した実感を私たちがなお持てないのは、そうしたレジリエンス(復元力・政府のリスク管理能力)を現出させ、演出するリーダーシップがこの国に希薄であることとも関係しているだろう。
・スイスの世界経済フォーラム(ダボス会議)は2013年の冬の会議で「国別レジリエンス評価」報告書を発表した。
主要な世界的リスクとして考えられる50の指標を総合して各国別のレジリエンス(政府のリスク管理能力)度を評価したものだが、ドイツ、スイス、英国が最上位。米国、中国がその次。その後、インド、イタリア、ブラジルと来て、日本はその下である。大国のうち最下位はロシアとなっている。
ほとんどの場合、国際競争力とレジリエンスは正比例している。国際競争力が高い国であるほどレジリエンスも高い。その中で、日本は例外的存在である。国際競争力はなお高いが、レジリエンスは低い。