『2060デジタル資本主義』
岩田一政 日本経済研究センター編
日本経済新聞出版社 2019/12/5
<改革シナリオで日本は復活可能だ>
・デジタル資本主義の詳細な未来図を描きながら、生産性向上に向けたデジタル化対応を加速する改革シナリオを提示する画期的日本経済論。
・的確な予測と責任ある提言。これは、日本経済研究センターが自らに課した使命です。日本には3つの大きな変化が迫りつつあります。
1つは、人工知能やIoTなどのデジタル技術の進化と浸透です。これらの「破壊的技術」がビジネスや生活を大きく変えるのは間違いありません。
デジタル化が進展する2060年の経済社会(デジタル資本主義)を見据え、今からどのような備えをすべきか考える必要があります。
・デジタル経済には負の側面もあります。費用をかけずに顧客を増やすことができるため、独占や寡占が起きやすく、企業が巨利を手にする一方、労働者の取り分(労働分配率)が低位に抑えられます。米トランプ政権が自国第一主義に走る根底にも、労働者層の賃金や雇用の揺らぎがあります。
・2つ目の大きな変化は、人間がどんどん長生きになっていることです。長寿になるのは素晴らしいことですが、働き手に社会保障の負担が集中する構造を続ければ、現段階では「貧困化」が進む可能性があります。財政上の工夫や新技術の活用で、豊かさを引き寄せる方法を考えます。
より長く働くことも、有力な処方箋の一つです。長く働くには、技術や経済環境の変化に合わせて働く場を変え、新しい技能を身につける学び直しが不可欠です。そのために、一定期間雇用を保証しながら10年単位で契約を区切る「中期雇用」制度の導入を提案します。
・3つ目は、地球温暖化が進んでいることです。温暖化の問題はどこか
ひとごとですが、ここ数年巨大な台風による被害が増え、危機が迫っているように見えます。
・幸い、経済のデジタル化はエネルギー消費を減らす方向に働きます。しかし、2050年に8割削減という政府目標は、高いハードルです。これを達成するため、本書ではエネルギー税制の組み替えを提案します。排出するCO2に応じて課税する環境税を導入し、税制のグリーン化を図るべきです。
・我々は5年前の長期経済予測『人口回復』(2014年)で、人口の安定化を目標とすべきと訴えました。出生率を現状の1.4台から1.8に引き上げ、外国人の受け入れを年20万人に増やす。それによって2100年に人口減を止める。人口減が際限なく続く状況では、税・社会保障の仕組みが維持できません。
あわせて提言したのが、国をもっと海外に開くことです。海外の人材や企業を招き入れ、彼らの知恵を生かしつつ切磋琢磨していく。その2つがなければ日本経済は衰退、「経済一流国」の座から滑り落ちるだろうと予測しました。
当時の見立てと提言は今でも全く色あせていません。5年の間に外国人(単純労働)の受け入れは増えましたが、出生率には回復の気配がありません。高度人材は日本を素通りしています。
<未来の風景――2060年のある日>
<未来年表 技術>
(2020年代)【ドローン】空飛ぶタクシーの技術が確立
【宅配】個人が携行するスマホとの連動で再配達なしに
【エネルギー】全世帯にスマートメーターが普及
(2030年代)【音声通訳】業務・学術用途で可能に
【クルマ】高速道路で完全自動運転が開始
【自動化】工場の完全自動化が加速
【自動化】店舗の無人化も加速
(2040年代)【音声通訳】観光や診察でも可能に
【医療】「AIで生活習慣病診断」実用化
【VR】離れた人との空間共有、速く手軽に
【工場】3Dプリンター普及で工場が激減
(2050年代)【音声通訳】日常会話も可能に
【金融】本人確認が顔・生体認証へ完全移行
【計算機】量子コンピュータの実用化
【クルマ】完全自動化へ。すべてEVに
<未来年表 生活>
(2020年代)【教育】大学のネット聴講広がる
【暮らし】音声入力による検索・通販が一般化
【暮らし】省エネした余剰電力の売買可能に
(2030年代)【金融】現金携行が不要に。銀行ATMが公衆電話並みに減少、支店も激減
【暮らし】AI・IoTがセキュリティや健康を管理
【情報】テレビ、新聞、雑誌といったメディアの区分がなくなる
(2040年代)【金融】通貨はデジタル通貨に
【クルマ】シェアリング広がり都市部での自家用車保有が激減。空飛ぶタクシーが普及
【情報】スマホからウエアラブル端末に
【買い物】VR型ネット通販が主流に
(2050年代)【会社】「毎日通勤」が少数派に
【金融】クレジットカードや銀行カードがなくなる
【家事】炊事・洗濯の自動化進む
【家庭・オフィス】CO2の排出ゼロに
<未来年表 世界経済>
【人口】インドが世界一に
(2030年代)【人口】30年頃、中国で減り始める
【GDP】中国が米国抜き1位に
(2040年代)【香港】「1国2制度」が期限
(2050年代)【GDP】日本はドイツに抜かれ5位に
【CO2】2050年までに「世界で半減」の目標
<未来年表 日本経済>
(2020年代)【財政】2025年に医療+介護で65兆円
【人口】団塊世代が全員75歳超に
(2030年代)【GDP】マイナス成長が普通に
【人口】75歳以上が2割に
(2040年代)【財政】消費税が15%に
【人口】団塊ジュニア60歳以上に
(2050年代)【財政】医療介護費、100兆円に迫る
【消費水準】現役層で今より6%低下
【人口】2060年に約1億人。65歳以上が38%、75歳以上が26%に
【シニア】70歳までの継続雇用が浸透。年金受給、70歳からに
【シニア】健康寿命が今より4歳延びる
【CO2】デジタル化で6割削減(政府目標は8割削減)
<シニアの未来――「中期雇用」導入カギに>
・日本人の寿命はさらに延びる。1980年生まれの男性は半数が88歳まで生き、80歳まで健康を保つようになる。女性ではそれが95歳と83歳になる。
・80歳まで健康を保つ時代に、60代での引退は早すぎる。長い人生を自ら支え、後世代の負担増を避けるために、より長く働ける雇用制度が必要になる。10年長く働くことを目指すべきだ。今の継続雇用では意欲ある高齢者を活かせない。
・若い頃から専門性を蓄え、技術や市場環境の変化に対応しながら、シニア期の仕事を選び取れる社会を目指すべきだ。10年単位の「中期雇用」解禁を提言する。
<女性は「人生100年」に接近――80歳まで健康に>
・人生を考える前提として、どのくらいの長生きが期待できるのか、見通しから確認しよう。生まれた年別に半数の人が達する寿命(中位数)を示した。1980年生まれの世代では、男性の半数が88歳まで、女性の半数が95歳まで生きる見通しだ。2010年生まれでは、それぞれ91歳、98歳に達する。女性では「人生100年」が近づく。「団塊の世代」にほぼ相当する1950年生まれに比べて、1980年生まれで4~5歳、2010年生まれでは7~8歳寿命が延びる計算だ。
1980年生まれは、2060年には80歳になっている。その時点で「健康寿命」が男性で80歳、女性で83歳だから、半数の人は健康を保っている。健康寿命は日常生活に支障がなく、健康を保つことができる期間という意味だ。
後の世代になるほど長生きになるのは、食生活や衛生状態、生活習慣などが傾向的に改善しているためだ。脳卒中やがんのリスクは着実に低減している。半面、「健康で長生き」への壁として立ちはだかりそうなのが、認知症だ。
<解雇はほぼ自由も、転職支援手厚く>
・トランポリンのショックを和らげる機能に当たるのが、再就職支援だ。スウェーデンでは「人員が余剰であること」が解雇の正当な理由に相当するとされており、整理解雇は一定のルールに従う必要があるものの、実態としては企業の都合で自由で行われている。
その一方で、労使双方の合意にもとづき設立された「職業安定評議会」と呼ばれる非営利組織が、リストラされる従業員の再就職を手助けしたり、失業時の収入を補填したりしている。
労使合意の仕組みが機能しやすい背景には、労働組合の高い組織率がある。
<長寿社会の年金――公的年金を75歳から>
・長く働く社会を実現するうえで避けられないのが、年金制度の見直しだ。我々は2060年には公的年金の支給開始年齢が70歳に引き上げられていると見込んでいるが、さらにそれを引き上げ、75歳からにすることを提案する。前述のとおり、年金受給は就業への意欲を削ぐ大きな要因になっている。健康であるうちは、自助努力で生活することを基本にすべきだ。
<基礎年金の財源を税に転換――老年期のベーシック・インカムに>
・もう1つ提案したいのが、基礎年金の税方式化である。
年金支給対象になる「高齢者」となる年齢を引き上げる我々の案は、現役層の負担を軽くするために、自助努力の範囲を広げるものであり、安全網からこぼれ落ちる層が増える可能性がある。
この観点から、現状では、受給には保険料の拠出実績を必要とする保険方式をとっている基礎年金を、税方式に転換することを提案する。税方式の下では、保険料の支払いが不要になり、全員が年金を受け取ることができる。
・税方式になった基礎年金は、国民全員に支給するという意味で老年期のベーシック・インカム(最低所得保障)になる。デジタル経済では、技術やスキルの陳腐化が早くなり、労働分配率が下がるなど、働き手には逆風が強まる可能性がある。高齢期の所得が保障されることは、国民に安心をもたらすだろう。
<トランプ主義の未来――自国主義慢性化も>
・トランプ政治が象徴する自国第一主義の根底には、雇用の揺らぎがある。新興国からの割安なモノ、低賃金労働力の流入に加えて、デジタル化や自動化が、安定した製造業雇用を奪ってきた。
・自国第一主義は慢性化する恐れがある。これまで国際競争を免れてきたサービス業に自動化の波が押し寄せるからだ。ホワイトカラーの仕事にも人工知能(AI)が入り込み、自由や市場を重んじてきた層も保守化する可能性がある。
・米大統領が攻撃目標とする米中の貿易不均衡は長期化する。不均衡は各国の貯蓄投資バランスに根ざしており、米国が財政赤字是正を果たさない限り同国は貯蓄が不足、経常赤字から抜け出せない。関税を引き上げても効果はない。
・自由貿易を擁護する手立ては大きく2つ。1つは、各国が安全網を整えることだ。転職や新しい技術の学び直しを容易にする環境整備が重要だ。もう1つは。自由貿易を推進する地域との連携。欧州やアジアとの経済連携を深め、孤立主義を封じ込めるべきだ。
<雇用の揺らぎは20年前から――グローバル化+自動化で>
・トランプ現象やブレグジットが象徴する民意の変調は、新技術の普及が引き起こした経済社会の反応だ――。こうみるのは、ジュネーブ国際高等問題研究所のリチャード・ボールドウィン教授だ。
ボールドウィン教授は、情報技術革命によって先進国だけが経済成長の恩恵に浴する時代が終わり、中国など新興国が台頭、両者の経済力が接近するのは必然と見立てた。
・先進国で揺らいだものの典型が製造業の雇用だ。雇用の分布を産業別に見ると、主要7カ国では北米と英国で製造業の比率が10%程度と低い。日本、ドイツ、イタリアでは相対的に製造業雇用が残っている。
米国では、製造業が高校卒業程度の中低学歴層に安定した職場を提供してきた。労働組合の組織率が高いため、高めの賃金が確保でき、一定の年功制もあった。工場の周辺に関連企業の集積ができ、安定した地域社会も形勢できた。
しかし、それが崩れた。要因の一つがグローバル化の進展だ。2000年に米国政府は、中国を通常の貿易相手国として認めた。それまでは天安門事件などで両国関係が不安定だったため、中国製品への関税率を毎年大統領が承認していた。同年に低関税が恒久化され、翌年には中国が世界貿易機関(WTO)に加盟、米企業による中国製品の調達や、中国側での輸出をにらんだ設備投資が本格化した。2000年から10年間で、米製造業雇用は33%も減少した。
<人々の悲鳴、トランプ大統領が吸い上げ>
・ロボットなどによる自動化も製造業雇用の減少につながった。米MITのダロン・アセモグル教授らは、2000~10年の製造業雇用の減少のうち、中国からの輸入に起因したのは10%と推計、米インディアナ州立大学のマイケル・ヒックス教授らは雇用減少の88%が技術要因によると見積もった。
政治の場ではグローバル化が悪者にされることが多いが、実際にはむしろ自動化技術が大きな影響を与えた可能性がある。
製造業から離れると、転職先のサービス業では多くの場合、低い賃金しか受け取れない。人が減り、廃工場が残った地域はラストベルト(さび付いた工場地帯)となる。16年の米大統領選挙でトランプ候補に票を投じ、選挙の結果を左右したのは、こうした地域に残った人々だった。
<電子移民が増える――音声通訳進化し非英語圏にも>
・ボールドウィン教授は、グローバル化と自動化の影響は今後さらに大きくなると警鐘を鳴らす。理由は3つある。
第1は、移民の裾野が広がることだ。実際に国を超えて移動する移民から、外国にいながら仕事をする「電子移民」(テレ・マイグレーション)が増えていく。テレワークの国際版だ。精度が大幅に向上した自動音声通訳が、電子移民の起爆剤になる。
<自動化の矛先はサービスへ>
・第2が、サービス分野で自動化が進むことだ。従来のロボット化は主にモノの分野で起きていた。工場内の製造プロセスを自動化するイメージだ。
<ホワイトカラーも安泰とは言えず>
・第3が、ホワイトカラーの一部にも自動化の波が及ぶことだ。これまで雇用が不安定化したのは、主に製造業だった。その受け皿がサービス業だった。ホワイトカラーはグローバル化や自動化の波をかぶらずに済んでいた。しかし、今後は彼らも安泰とは言えない。
<会社より人を守る雇用制度を>
・保護主義に走る誘因を絶ち、自由貿易を擁護するには何が必要か。
穏健な政策を育むのは、生活の安定だ。デジタル社会においては、転職を円滑にする仕組みが生活の安定に寄与するだろう。
デジタル技術はあっという間に経済に浸透する可能性がある。1年前にあった仕事が、今年は自動化されてなくなっているというケースも増えるだろう。そんななかでは、今までのビジネスモデルや仕事を守るのではなく、むしろ企業は新技術を積極的に導入し、労働者はそれを使いこなす技能を備える道を選ぶべきだ。
<日本は自由貿易の砦に――欧州・アジアと連携を>
・自由貿易地域を広げれば、締め出された国・地域は不利になり、自由貿易協定に参加する誘因を持つようになる。これが「ドミノ効果」だ。19年に米国が日本との貿易協議を急いだのは、TPPで不利になった肉類や乳製品など農産物業界が悲鳴をあげたからだ。日本は自由貿易の砦となり、欧州やアジアと連携して、開かれた経済環境を維持・向上するリーダーとなるべきだ。
<維持可能な未来へ――デジタル資本主義の改革を>
・デジタル社会への移行は、日本の将来を決定づける最も重要な課題だ。デジタル社会では、データや人工知能(AI)アルゴリズムなど無形資産の効率的な蓄積がカギとなる。日本は、無形資産を「良き社会」構築のために有効活用できるような仕組みを社会に組み入れていくことが求められている。
<プラットフォーム企業に巨額の富>
・もう1つ注意すべきなのは、富や所得の格差拡大だ。巨大情報技術(IT)企業は労働分配率が低い傾向にあり、そのような企業が大きな市場シェアを占めるようになれば、社会全体の労働分配率も下がり、所得が一部の人に集中しやすくなる恐れがある。
一例を挙げれば、巨大IT企業の労働分配率は5~15%程度であるが、ウォルマートのようなサービス部門企業の労働分配率は80%だ。
<「情報銀行」は利益還元の第一歩>
・2019年に始まった「情報銀行」の認定制度は、個人データのコントロール権を本人が持ちつつ、自らの選択によりデータを流通・利用されるための、日本独自の取り組みだ。
<米中対立――ブロック化の構図彷彿>
・先進国ではデジタル化、サービス化が進む裏側で、製造業の比率が低下し、安定した雇用が失われ、労働分配率の低下と所得格差が拡大する傾向にある。そうした背景の下、米国ではトランプ政権が登場し、中国などへの関税引き上げ、移民受け入れの厳格化など、保護主義的な政策が次々と実行に移されている。
・現在の米中貿易摩擦の状況は、世界恐慌後に、各国が通貨切り下げ競争を行い、英国中心のスターリング圏とドイツ中心のライヒスマルク圏とブロック化し、お互い保護主義政策に陥った構図を彷彿とさせる。世界恐慌後のブロック経済化が後に第2次世界大戦につながったことを思い起こすと、こうした分断は気がかりな兆候だ。
デジタルサービスに関しても米中の姿勢は対照的だ。米国はデータの自由な流通を推し進めようとしているのに対し、中国はグレート・ファイヤーウォールとも呼ばれるインターネット検閲を行い、海外から中国民へのインターネット・サービスの提供を制限し、国内からのデータの持ち出しも許可なしにはできない。また国内のインターネット情報も国が取集・管理しており、「デジタル・レーニン主義」と呼ばれることもある。
『未来の中国年表』
超高齢大国でこれから起こること
近藤大介 講談社 2018/6/20
<2018年 中国でも「人口減少時代」が始まった>
・長年にわたる「一人っ子」政策が、少子高齢化時代を大幅に早めてしまった。しかも日本と違って、国の社会保障制度が十分に整っていないまま少子高齢化へと突入することになる。
(出生数が1786万人から1723万人へ)
・少子高齢化が世界で一番進んでいるのは日本だが、中国は日本に遅れること約30年で、同じ道を歩んでいる。
・ところが、全面的な「二人っ子政策」元年とも言える2017年に出生数は増えるどころか、63万人も減少してしまったのである。
(「子育てする20代女性」が600万人も減っている!)
・出生数が減少した主な原因は、ひとえに一人目の子供の出生数が減少したためだ。
・それにしても、一人目の子供の出生数が、日本の3年分近くに相当する年間約250万人も減少するというのは、尋常な社会ではない。いったい中国で何が起こっているのか?
(人口激増を懸念した鄧小平)
・そして食糧を豊富にするためには、できるだけ多くの人々を、農作業に従事させる必要があった。古代から中国大陸において戦争が絶えなかったのは、一つは土地の争奪が原因だが、もう一つは人間の争奪戦だった。
・こうして中国は、憲法で家庭の出産数に制限を設けるという、世界でも稀有な国家となったのだった。
(日本の人口よりも多い「中国の一人っ子」)
・2010年の時点で、全人口13億3972万人中、一人っ子の数は、すでに1億4000万人に達していた。これは日本の総人口よりも多い数だ。
(親と祖父母が子供を徹底的に甘やかす)
・一般に、中国が日本を反面教師にしている事柄が二つあると言われる。一つは日本のバブル経済の崩壊で、もう一つが日本の少子高齢化である。
・特に、中国の人口規模は日本の11倍にあるので、近未来に人類が経験したことのない少子高齢化の巨大津波が襲ってくるリスクがあったのだ。
(激論!「二人っ子」は是か非か)
・こうして2016年元旦から、「人口及び計画出産法」が改正され、中国は全面的な「二人っ子政策」の時代を迎えたのだった。
(子供を生まなくなった3つの理由)
・①子育てコストの上昇、②公共サービスの欠如、③出産観念の変化(夫婦二人きりの生活を楽しみたい)
(病院の診察整理券を狙うダフ屋たち)
・私が北京に住んでいた頃は、病院の「挂号」(診察の順番を示す整理券)を確保するために夜明け前から並んだり、「挂号」を高く売りつける「黄牛」(ダフ屋)が病院内に跋扈したりということが起こっていた。
(貧富の格差が定着する)
・だが中国は、依然として世界最大の発展途上国であり、あらゆるものが未整備のまま、少子化に突入したのだ。
<2019年 首都・北京の人口もごっそり減る>
・自然減に加え、習近平政権の複雑な思惑と極端な政策により、この年から北京は大きく姿を変えていく。
(2万2000人の減少)
・21世紀に入って17年目にして、初めて北京市の人口が減少したのだ。
(北京の人口が減る本当の理由?)
・北京市の人口がマイナス成長に転じたことは、北京市の人口は発展の変動の趨勢にマッチしたもの。
(3億人の出稼ぎ労働者)
・「農民工」の都市部での悲惨な状況は、たびたび社会問題となってきた。
・彼ら全員に大都市の戸籍を与えていけば、大都市はすぐにパンクしてしまう。だがそうかといって、「現代版アパルトヘイト」と揶揄される中国の戸籍制度は、隣国の北朝鮮を除けば、世界に類を見ないものだ。
(「特大都市」「超大都市」への移転はより厳しく)
・北京市の戸籍改革計画では、「中心部6区の人口を、2020年までに2014年比で15%減らす」としている。
(自治体が住人を選抜する!)
・習近平政権による戸籍改革で、もう一つ興味深いのは、「積分落戸」と呼ばれる新制度の導入である。これは、「特大都市」及び「超大都市」の戸籍を取得したい中国人を点数づけして、自治体が選別するというものだ。
(「第二首都」誕生)
・一つめは、「第二首都」の建設である。
(「低端人口」の一掃が始まる)
・その出稼ぎ労働者たちのことを、「低端人口」(下層の人々)と呼んでいるのだ。
・「低端人口」は、北京市内に数百万人いるとも1000万人近くいるとも言われた。
(本地人と外地人の分断)
・「『低端人口』を追い出さないから、北京の街は汚いし、人騙しは跋扈するし、治安も悪い」
(「拆拆拆」される人々)
・これによって、合法と違法の間のような、道路に少し張り出した店舗やレストランなども、すべて撤去させられてしまった。中国語で「撤去する」という動詞は「拆(チャイ)」と言うが、「拆拆拆」という言葉が、たちまち北京で流行語になった。
(20年前にタイムスリップ)
・つまり、北京の街並みは、20年前にタイムスリップしたのである。
・「低端人口がいないと、ゴミの回収から宅配便の配達まで何もできなくなってしまうことが分かった。それが春節の後、彼らを黙認するようになった」
<2020年 適齢期の男性3000万人が「結婚難民」と化す>
・適齢期の男性が適齢期の女性よりも圧倒的に多い社会が到来する。「剰男」(余った男)たちが選ぶ3つの道とは?
(「一人っ子政策」最大の副作用)
・だが、そうした歪みの中でも看過できない「副作用」が、男女比率の歪みである。
(女性100人に男性118人)
・嬰児の性別の話に戻ろう。中国の農村部では、女児が生まれた場合、役場に出生届を出さなかったり、間引いてしまったり、業者に売りつけてしまったりということが横行した。何と言っても、欲しいのは跡取り息子なのである。
・世界の出生数を見ると、男子が女子より多いのは各国に共通な現象で、国連では「102から107の間」を正常な国家と定義づけている。
・だが、時すでに遅しだった。中国は2020年には、結婚適齢期とされる20歳から45歳までの人口で見ると、男性の数が女性の数よりも、3000万人も多い社会となってしまうのだ。
(「持ち家のない男」は話にならない)
・中国の女性は、マイホームを買えて、「家を成せる」男性と結婚したいのである。
(国策ドラマだった『裸婚時代』)
・2011年春、中国全土で『裸婚時代』というテレビドラマが大ヒットした。「裸婚」とは、何とも意味深な漢字だが、「裸一貫(無一文)で結婚する」という意味である。つまり、究極のジミ婚である。
(「お一人様の日」で大儲け)
・それは、「1」が4つ並ぶ11月11日を、「お一人様の日」と定めて、結婚できなかったり、彼女や彼氏がいない若者たちに、24時間限定の大規模なセールを行ったのである。
(「超男性社会」の近未来)
・重ねて言うが、2020年の中国には、20歳から45歳までの男性が、同年齢の女性より3000万人も多いという、人類未体験の「超男性社会」が到来する。
・将来は「アフリカ系中国人」という人々も、普通に目にするようになるかもしれない。
(同性愛大国への道)
・近未来の中国で起こるであろう二つ目の現象は、男性の同性愛者の増加である。
・「人民解放軍の若い兵士たちの中には、大量の同性愛者がいる」
・社会主義国の中国では、例えば、人民解放軍などの組織では同性愛は禁止しているが、それでもいまどきの若者たちは、意外にあっけらかんとしている。そもそも中国人は他人に無関心なこともあって、同性愛の青年たちは徐々に表に出始めてきているのである。
(「空巣青年」の「孤独経済」)
・第三の現象は、「空巣青年」の増加である。
・日本語の「空き巣」とは無関係で、親元を離れて大都市で一人暮らしをしている若者のことだ。
<2021年 中国共産党100周年で「貧困ゼロ」に>
・北京から農村に追放されて貧しい青少年時代を送った習近平は、農村の貧困層の支持を盤石にし、長期政権を実現させるため、ありとあらゆる手段を使って脱貧困を目指そうとする。
(中国の「中流」「貧困ライン」の基準)
・長い演説の中で、これでもかというほど「脱貧困」を力説したのだった。
(3000万人の「最貧困層」を3年でゼロにする)
・貧困家庭が政府から生活保護を受けるには、地元の役場へ行って、年収が2300元(約3万9000円)以下であるという「貧困証明書」を入手しないといけない。この年収2300元という基準は、胡錦涛時代の2011年に定めた。「貧困証明書」の様式は各地域によってまちまちで、個人がいかに生活が苦しいかを記述し、役所がそれにハンコを押す。
・習近平主席が言う「貧困を撲滅する」という意味は、「貧困証明を取る人をなくす」ということである。「貧困証明書」取得者は2017年末時点で、約3000万人いる。そこで、2018年から毎年1000万人ずつ減らしていき、2020年にゼロにしようという計画なのだ。