『未来の地図帳』
人口減少日本で各地に起きること
河合雅司 講談社 2019/6/19
<少子化を傍観した平成>
・新時代を迎えるにあたって平成を振り返ってみると、私は「少子化を傍観した時代」であったと捉えている。平成の歩みは、イコール出生数激減の歩みだったからである。
平成元年である1989年は「少子化日本」にとって象徴的な年であった。合計特殊出生率が1.57となり、丙午だった1966年の1.58を下回ったのだ。いわゆる「1.57ショック」である。
・とはいえ、厳しい状況に追い込まれている現実がある。過去の出生数減少の影響で出産可能な女性数も激減していくため、日本の少子化は簡単には止まらないからだ。
出生率が多少改善したとしても出生数は減っていくという事実から顔を背け、目を閉じていたのでは何も解決しない。
<人口減少は2段階で進む>
・減少幅は年を追うごとに拡大していく。2050年代には毎年、毎年90万人ほど減る。みるみるうちに、この国は小さくなっていくことだろう。
国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の「日本の将来推計人口」(2017年)によれば、わずか40年後には9000万人を下回って、現在より3割ほど少ない「7割国家」となる。そして、100年も経たないうちに人口は半減する。
・意外と知られていないことだが、人口減少は2段階で進む。
第1段階は2042年までだ。この時期は若者が減る一方で高齢者数は増え続ける。すなわち、これからの四半世紀、われわれは高齢者対策に追われることになる。
そして、2043年以降が第2段階だ。高齢者も減り、若い世代はもっと減っていく時代だ。高齢者も若者も減るのだから、この頃から人口は急落する。しかも総人口の4割近くを高齢者が占めるようになるため、社会の担い手が不足して日常生活がいろいろな形で麻痺してくることだろう。
<地域差が際立ってくる>
・2段階で進むこと以上に踏まえておかなければならないが、人口減少も少子高齢化も全国一律に進むわけではないという点だ。
<47都道府県は維持できない>
・とりわけ47都道府県の枠組みの中でやり繰りしなければならない参議院は、300小選挙区の衆議院と比べて是正が難しい。
<三大都市圏も終わりを迎える>
・維持できなくなるのは「47都道府県」だけではないかもしれない。これまで国土計画は「東京圏」と「関西圏」、「名古屋圏」という三大都市圏を軸として考えられてきた。だが、こうした“現在の三大都市圏”でさえいつか終わりのときを迎えることになるかもしれないのだ。
<「ドット型国家」への移行>
・私は、旧来の発想を転換して「戦略的に縮む」ことを提唱している。多少は小さな社会になろうとも、「豊かな国」は実現し得ると考えるからだ。
「戦略的に縮む」には、「国土の均衡ある発展」から路線転換し、「拠点型国家」へと移行する必要がある。地図に落とし込めば点描画となるような「ドット型国家」への移行だ。
<現在と未来の人々の足跡を追う>
<人口減少という「静かなる有事」に対する危機感>
・具体的には、その影響が各地域にいつ頃、どのような形で降り注ぎ、日本列島がどのように塗り替えられていくのか、その推移を内側から描き出そうというのである。誰も見たことのない「未来の地図帳」を作ろうということだ。
<すべて「自分ごと」として考える>
・だが、不確定な要素が多いということは、現時点では厳しい未来が予測される地域でも、今後の取り組み次第で「未来」は書き換えが可能ということである。
<現在の人口減少地図――日本人はこう移動している>
<市区町村による“住民の綱引き”に勝者はいない>
<24時間営業からの撤退>
・「24時間営業だからコンビニは成長した」という本社側の言い分は分からないでもない。しかし、何時に売れ筋商品を何個運ぶという徹底管理のビジネスモデルそのものが、地域によっては曲がり角に差し掛かっていることに気が付かなければならない。
<流出する京都市の危機感>
<外国人労働者の現界>
・それどころか、政府には人口減少対策として「無理解」とも思える動きさえ見られる。その典型例が、外国人労働者の受け入れ拡大だ。
安倍政権は経済界の強い要望を受けて、これまで認めてこなかった単純労働の容認に舵を切った。それどころか、強引とも思えるスピード審議で法制化を図り、彼らに永住の道も開く実質的な「移民政策」へと大転換をした。
・ただ、その発想は「現状の社会規模」を前提としている。「2019年の社会」を維持せんがために無理を重ね続ける手法に成算があるわけではない。問題の根本解決につながらないばかりか、むしろ日本の衰退を速めることになりかねない。
<地域差を正しく理解する>
・それはビジネスでも同じだ。地域差を正しく理解することとは、その差を活用しながら、日本社会を豊かにしていく術や、新たな成長の芽を見つけ出していくことでもある。
人口減少社会において、地域差が拡大していく要因は2つある。1つは地域内の出生数が減ることである。もう1つは若者の大都市への流出だ。
<東京は共存の道を探るべき「日本の外国」である――東京へ一番若者を送り出している道府県は、大阪府。地方から東京圏に仕事を求めて出てきた女性の増大が、一極集中の流れを押し上げている。>
<故郷の年老いた親を呼び寄せている>
・現時点での人々の動きを確認するにあたってまず注目したいのが、東京一極集中だ。政府の歯止め策も空しく、むしろ拡大し続けている。
<どこの道府県が送り出し元か?>
・話を若い世代の一極集中に戻そう。若い人が東京圏に出たまま戻らないということは、地方において子供を産むことができる若い女性が減るということでもある。結果として、地方の出生数は減っていく。
<就職先を東京に求める女性の増大>
・人口減少日本の中において、東京圏を全く違う歩みを辿る「外国」と位置づけ、非東京圏の各エリアは人口が減っても成り立つ仕組みへ転換することで、共存する道を探っていくほうが現実的だろう。
<三大都市圏の中で減少スピードが最も速いのは、関西圏――地方出身者は関西圏へ目を向けなくなってきた。転職や結婚などを機会に、東京圏へ移動してゆくのが実情なのだ。>
<下落傾向に歯止めがかからない>
<関西圏の「ひとり負け」>
<転職や結婚を機に東京圏へ>
・関西圏で一旦は就職した人が、30~40代となって転職や結婚などを契機に東京圏へ移動しているケースの多さを窺わせる。20代にも一定数はいることだろう。
<“ミニ東京作戦”は成功するか>
・ところで政府は、東京一極集中に歯止めをかけるべく「中枢中核都市」構想を打ち出している。東京圏以外の政令指定都市をはじめとする82都市を選び出し、都市機能を強化して流れを堰き止めようというのだ。
<「西の都」の人口拡大を下支えしているのは、外国人住民――出生数が亡くなる人の数に追いつかない。よその地から引っ越してくる人によって、人口はなんとか増えている。>
<大阪維新の会の大勝利>
・2019年4月に行われた大阪府知事と大坂市長のダブル選挙は「大阪都構想」を掲げる大坂維新の会の大勝利に終わった。
<社会増数も自然減数も全国トップ>
・大阪市民の出生数が亡くなる人の数に追いつかず、その目減り分をよその地から引っ越してくる人によって穴埋めし、人口が増えているということだ。
<転入者の3人に1人は外国人>
・外国人住民の多さが大阪市の人口拡大を下支えしている姿が浮かび上がる。
<名古屋市最大の懸念材料は、リニア新幹線と広すぎる道路――人口増加の一途をたどる230万人都市・名古屋。懸念材料への対抗策はずばり、「大いなる田舎」に徹することだ。>
<なぜハイペースで人口膨張するのか>
・名古屋市には大企業が集積しているため、人口の流出入は雇用情勢の影響を受けやすい。リーマンショック後には大きく縮小した時期もあったが、
それを乗り越え、経済状況の伸びに引っ張られる形で全国から人が集まってきていることが大きい。
<愛知県全体からも人口を集める>
<外国人が大きくものをいう>
・すなわち名古屋市の人口増加は、いまや外国人の存在が大きくものをいうようになってきているということだ。
<将来の人口減少を加速させる要因>
・さらに対関東を男女別にしてみると、男性の場合20~24歳が唯一、転入超過(147人)となっている。女性については25~29歳が464人、30~39歳で559人と出産期にある年齢での流出が目立つ。この年齢層の流出は出生数を押し下げ、将来の人口減少を加速させる要因となるだけに看過できない。
<一極集中が続く東京圏、その内側を覗いてみれば――人を集めていない横浜市、若さあふれる川崎市、高齢者が移り住むさいたま市………それぞれの内実とは?>
<東京都 都心部へ続々と移り住む>
<首都・東京の内側>
・転入超過数の市町村ランキング全国1位は東京都特別区部(23区)の6万909人だ。
<東京からは埼玉へ>
・隣接3県との動きも激しい。23区から見た転入超過数が最も多いのは、神奈川県で5072人、千葉県が1402人だ。埼玉県に対してだけは2297人の転出超過となっている。
<神奈川県“草刈り場”と化す横浜市>
<「トシトシテノ中心」ではない>
・市民の意識は東京都心部に向かいがちだ。横浜市の中心市街地が、本当の意味での「都市としての中心」にはなっていない。
<埼玉県 東京圏の高齢者の受け皿に>
<さいたま市が若者を惹きつける>
・さいたま市の場合、2018年9月に130万都市となったが、同市の資料によれば2013年以降は転入者の約6割が20~30代だ。東京都心部へのアクセスがよく、各種の「住みよさ調査」で上位にランキングされるように、若者の人気が続いている。
<成田市からは流出>
・一方で、成田市は2246人の転出超過(全国5位)であり、東京都心部に通うには遠いエリアでは人口流出が見られる。
<“介護難民”は探している>
・退職後に良質な住環境を求めて移り住む人が多い一方、75歳を超えて要介護状態になると、埼玉県内にも施設の「空き」を探すケースが少なくないという。
<未来の日本ランキング――20年後、日本人はどこに暮しているか>
<東京圏という「外国」は、老化に苦しむ>
<2020年 高齢者のひとり暮らしが増加する>
<5年で1割以上も人口が減る奥多摩町>
・ここまで都道府県を中心に日本列島に起きる変化を見てきたが、市区町村単位で見ると、人口減少の進み具合にさらなる差を見つけられる。日本全体としての人口予測は難しい。まさに“専門家泣かせ”ではあるが、まずは東京圏の「未来の地図帳」を描くことにしよう。
私は第1部において、東京圏のことを人口減少日本の中において全く違う歩みをたどる“外国”と位置づけた。
先にも触れたが、2018年は東京圏が13万9868人を上回る転入超過となっており、東京一極集中は相変わらず続いている。東京都は2045年になっても、2015年より人口が多い状態をキープしていることも紹介した通りだ。
・東京都全体は2030年に人口の頂点を迎えるが、多摩地区だけに限れば、2020年の422万1719人をピークとして、それ以降減り始める。多摩地区も地域によって減り方が異なる。多摩ニュータウンの広がる多摩市は1.2%減となる。都心のオフィス街から遠く離れた青梅市(2.4%減)、昭島市(1.4%減)、東村山氏(2.8%減)、瑞穂町(1.7%減)、日の出町(2.4%減)でも減少が確認できる。福生市(6.3%減)や羽村市(3.3%減)は減少幅が大きくなり始めている。
<郊外から都心部へ住み替える選択>
・こうした都心部マンションの価格が上昇しない限り、都心回帰の流れは続くだろう。
<2025年 練馬・足立・葛飾・杉並・北区の4人に1人が高齢者>
<23区では“住宅難民”も>
・東京圏で2025年までに75歳以上が2015年と比べて175万3000人増える。空地が乏しく、高齢者向け施設の整備が遅れている23区では“介護難民”や年金受給額が減ったり、医療費や介護費が増えたりして家計が苦しくなり、賃貸物件に住み続けられなくなる“住宅難民”が深刻な問題として浮上するだろう。
<2035年 多摩地区すべてが人口減少に>
<「老いた区」に空き家が増える>
・2034年には団塊世代が85歳以上となり、日本全体では80歳以上人口がピークである1630万6000人に達する。
<2065年の日本社会が見られる>
・日本全体で高齢化率が最高になるのは2065年の38.4%だが、2035年時点で福生市(40.8%)や青梅市(38.7%)などは同水準の値を示す。これらのエリアでは、「2065年の日本全体の高齢社会の風景」を、30年も早く見ることができるのである。
<“まだら模様”のメガタウン>
<「老いた団地」が地価を下落させる>
・“まだら模様”のメガタウンは、都心のオフィス街から放射状に街が伸び続ける発展の終焉を意味する。相続人も分からない所有者不明の物件や、高齢住民が多く、建て替えがままならないマンションなどが増えてくるのもこの頃だ。
<2045年 「二層構造の一極集中」が起こる>
<中央・港・千代田区は上方修正>
・日本全体で見れば東京圏への一極集中が続き、東京圏の中でもさらに中心市街地へと人々の集中が進む「二層構造の一極集中」が起こるということだ。
・この間、関西圏や名古屋圏はほぼ横ばいであり、「高齢者の東京一極集中」が進むことだ。これだけ東京圏が高齢者を集めるのだから、この頃の地方は高齢者も激減する人口減少に陥る。
<練馬・杉並・世田谷区民の3人に1人が高齢者>
<東京のベッドタウンも同じように>
・こうした事情(高齢化)は多摩地区でだけではない。サラリーマンたちが住宅を求めて移り住んだ神奈川県、埼玉県、千葉県内の通勤可能エリアの自治体の、2045年の姿からも同じような変化が見て取れる。
<2025年 神戸市が「150万都市」から脱落>
<北九州は5%超の減少>
<「町工場」の倒産が大企業を揺るがす>
・影響は高齢者の暮らしに限らない。大都市では日本経済の縁の下の力持ちともいうべき中小零細企業が、2025年頃から大幅に減るかもしれないのだ。
<2035年 札幌市が“北のシルバータウン”に>
<川崎、さいたま、福岡は人口を維持>
・20ある政令指定都市のうち、85%が人口減少となる。名古屋、札幌、広島、岡山といった都市は、周辺の自治体から人口を吸い上げる形で人口を拡大・維持してきたのだが、この頃になると吸い上げようにも源泉が枯渇してしまっているということだ。
<県庁所在地・地方都市は、不便さの増すエリアが拡大>
<2020年 奈良県の村ではわずか5年で2割減>
<減らない県庁所在地も何とか横ばい>
・10%以上減るところも含めると、推計対象である1659(福島県を除き、かつ東京23区は含む)の市区町村の約15%にあたる256市町村に上る。人口が大幅に減少するエリアが地方から広がり始めるのが2020年の日本の姿だ。
<2025年 「限界自治体」が111ヵ所に>
<住民の約7割が高齢者の町>
・「限界自治体(人口50%以上が65歳以上の高齢者になる)」が珍しい存在ではなくなる。
<希望する介護施設に入れない>
・「いずれは埼玉や千葉の施設に入れてもらおう」と皮算用をしていても、いざその時を迎えたら希望するエリアに入れる施設がなかったという“悲劇”は現在でも珍しくないが、高齢者が激増する2025年にはますますそういうケースが増えそうだ。
<2035年 「無医地区」が広がってくる>
<選挙の立候補者がいない>
・2035年頃になると、地方選挙への立候補者が足りないといった市町村が相次ぐだろう。
<医師もいない>
・さらに深刻なのは医師不足だ。2025年のところでは東京圏の介護施設不足について詳述したが、この頃になると医師の偏在が拡大しそうなのである。
<2045年 県内偏在がぐんと進む>
<人口813人の市>
・かつて炭鉱で栄えた歌志内市は全国で最も人口が少ない市だが、2045年には813人しか残らない。14歳以下の人口はわずか21人になると予想されており、こちらにも存亡のときを迎える。
<人口が一挙に動き始めるとき>
・理髪店や美容院がなくなった地区の住民が、乗り継ぎの悪い路線バスで片道何時間もかけたり、往復数千円のタクシー代を支払ったりして町まで出かけていくといった話はすでに耳にするが、貯蔵や輸送に向かない“買いだめができないサービス”で、しかも生活に欠かせないサービスが成り立たなくなったとき、人口が一挙に動き始めることとなる。
<自治体職員がいない>
・2035年の項で地方選挙への立候補者不足に言及したが、議員だけでなく自治体の職員も補充できなくなってくる。
<税収、サービス施設が足りない>
・先にも触れたように、これまでの行政改革で地方公務員の定員削減が進んでおり、今後は人件費の大幅な圧縮も見込めない。行政サービスや公的サービスを行き渡らせることが困難となる自治体が登場することになる。
<リタイア世代の中心市街地回復>
・言い方を変えるならば、東京の都心部への集中以上に、地方圏では各県庁別所在地の便利な市街地への人口集中が進むということだ。
<同一県内2地域居住>
・当たり前のことだが、生活に必要なサービスの撤退は、暮らしそのものを困難にする。2045年に至るまでもなく、全国の多くの地域で「同一県内2地域居住」をはじめとするコンパクトシティ化が避けられなくなるだろう。
<それぞれの「王国」の作りかた>
<なぜ地方創生はうまくいかないのか?>
<ボタンの掛け違い>
・最大の要因は、出発点からのボタンの掛け違いである。
第1の間違いは、安倍首相が人口ビジョンの中で「2060年に1億人程度の人口を維持」と掲げたことだ。これで官僚たちの思考がストップしてしまった。
人口減少に何らかの手を打たなければならないという首相の意気込みは買いたい。だが、繰り返し説明してきたように、子供を出産できる若い女性の激減が決まってしまっている以上、日本の少子化は止めようがない。
<令和時代に求められる5つの視点>
<スマートな暮らしを実現できる場に>
- 拠点という「王国」を作る
・第1の視点は、既存自治体とは異なる拠点を各地に作ることだ。こうした拠点は住民の自立性が高いエリアとするため、本書では敢えて「王国」と呼ぶことにする。
拙著『未来の年表』では「非居住エリアを明確化」という処方箋を示したが、面的広がりによる発展モデルが終わった人口減少日本では発想を大きく転換し、居住可能なエリアを「王国」として整備することである。
これまでの政府の地方創生のアプローチは、「仕事を作れば人は動く」というものであった。
<出会いの場を用意し、「賑わい」を作る>
・これに対して、いま求められるアプローチは、自治体の中の狭いエリアに限定してリノベーションを行うことだ。「王国」としての拠点構想は、人を中心に据えた出会いの場を用意し、「賑わい」を作っていく。それがエリアの活力となり、仕事が創造され豊かな暮らしを実現していくという好循環を生み出すことに主眼を置いている。
・第2の視点は、都道府県と基礎自治体の二層制度を見直し、都道府県が基礎自治体の役割を担うようにすることだ。
- 働くことに対する価値観を見直す
・第3の視点は、働くことに対する価値観の見直しだ。令和は高齢者の激増と勤労世代の激減への闘いの時代となる。勤労時代が激減しても暮らしが機能するようにするには、少しでも人手をかけずに社会が回っていく仕組みづくりが急がれる。
<縮みながら成長するモデルへ>
・日本は人口減少社会になってもなお、「大量生産・大量販売」という成功モデルから脱却できないでいる。少し成功したり、儲かったりすると、さらに売り上げを伸ばそうと設備投資を急ぎ、必死に人手をかき集めようとする。しかしながら、今後は働くことのできる人口そのものが減っていくのだから、こうしたモデルが続くはずがない。
- 「在宅医療・介護」から転換する
・第4の視点は、「在宅医療・介護」からの転換だ。令和は高齢者の中でも80代以上が増えていく時代となる。
家族介護から社会全体で負担を分かち合うという理念のもとに、介護保険制度は2000年にスタートした。ところが、高齢化に伴う利用者の増大によって、介護費用は爆発的な伸びを続けており、政府は方針を転換し、「『病院や介護施設』から『自宅を含む住み慣れた地域』へ」というスローガンのもとに在宅シフトを推進している。
“介護難民”の増加が懸念されている中で、社会的入院の必要性や要介護度の高くない人が入る特別養護老人ホームを減らすことで、真に必要とする人のベッドを確保するとともに、社会保障費の抑制につなげたいというのが狙いである。
<元気なうちから高齢者は集まり住んでおく>
・このためには、元気なうちから高齢者が集まり住んでおくことだ。交通の便利な中心市街地に高齢者向けの居住スペースを建設するか、あるいはこうした建物の周辺に第1の視点にある「王国」を作ることだ。
- 東京圏そのものを「特区」とする
・第5の視点は、人口減少日本において、しばらくは独自の課題を抱える東京圏という「外国」に対して行おう。東京圏はいわば、「3500万人の巨大都市国家」となる。ならば、名実ともに外国とすべく、東京圏そのものを「特区」としてしまうことだ。
<国民の幸せと国の一層の発展>
・令和の日本において必ず起きることが2つある。ひとつは、高齢化の進展だ。高齢者数がピークを迎え、日本が最大のピンチに陥る2042年は「令和24年」である。「高齢者の高齢化」も進み、2054年には75歳以上人口が最多になる。令和とは高齢者対策に追われ続ける時代だといってもよい。
もうひとつは、末端から壊死するように各地で人が減っていくことだ。有史以来、一度も経験したことのない激変が日本列島を覆う。
『未来の年表 2』 人口減少日本であなたに起きること
河合雅司 講談社 2018/5/16
<人口減少カタログ>
<必読!! これからあなたに起きること>
- 伴侶を亡くすと、自宅が凶器と化す
- 亡くなる人が増えると、スズメバチに襲われる
- 東京や大阪の繁華街に、「幽霊屋敷」出現
- 「天空の老人ホーム」が林立
- 食卓から野菜が消える
- 甲子園出場を決めたが校歌で仲間割れ
- デパートの売り場が大混乱
- 「貧乏定年」が増大
- 中小企業が黒字でも倒産
- やる気のない万年ヒラ社員続出
- 親が亡くなると地方銀行が消滅
- 東京で遅刻者が続出
- 投票ができず、民主主義が崩壊
- ネットで買った商品が一向に届かない
- 灯油が途絶え、凍え死ぬ
- 流木から逃げまどう
- 80代ガールが流行を牽引する
- 刑務所が介護施設と化す
・少子高齢化は予想もつかない事態を引き起こす!!
<庄子(しょうじ)家の1日に起きたこと>
庄子大作(50歳)=中堅企業の管理職。マンション住まい
庄子初恵(48歳)=大作の妻。介護スタッフ
庄子かなえ(22歳)=大作・初恵の娘。大学生(独り暮らし)
庄子あきら(16歳)=大作・初恵の息子。高校生(両親と同居)
庄子トメ(80歳)=大作の母。無職(独り暮らし)
<(大作)>
・電車の運行本数が減ったことを失念して乗り損ね、朝の会議に遅れる
・部署に若手が配属されないので、電話取りに追われる
・「会社は団塊ジュニアの出世を抑えて人件費を節約している」という話題で、同期と昼食
・出張のためにいつもの飛行機を予約しようとしたが、いつの間にか廃便になっていた
・高年齢社員がセンスの古い商品企画を得意気にプレゼンし、会議がシラける
・テレワークについての社内議論を進める
・万年ヒラ社員の先輩が泥酔して、会社の愚痴を延々聞かされる
・インタ―ネットを駆使して、副業にいそしむ
・近くのガソリンスタンドが次々と廃業したためにストーブに灯油を補充できず、ぶ厚い布団で震えながら眠る
<(初恵)>
・誰も住まなくなった隣の部屋が、いつの間にか「民泊部屋」になっていて、その騒ぎ声で目を覚ます
・へそくりを貯めていた地方銀行が潰れそうだと友達に言われ、急いで解約しに行く
・50代の介護スタッフと、「8050(80代の親と50代の子の親子関係)問題」と「2042(2042年、高齢者人口がピークの4000万人)問題」について真剣に議論する
・学生時代の友人とお茶をしに繁華街に出ると、「幽霊屋敷」が増えていてビックリ
・「火葬場は何とか予約できたんだけど、お坊さん不足で親の葬儀が10日待ちだったのよ」と、同僚から愚痴を聞かされる
・野菜が高騰し、夕食の献立に悪戦苦闘
・友人から聞いた「再就職難民」という言葉が心に引っかかり、起業を考える
・老後の暮らしを見据え、ライフプランをノートに書き連ねる
<(かなえ)>
・信号無視の乗用車に轢かれそうになる。どうらや高齢ドライバーの暴走らしい
・大学近くのレストランに出かける。その隣の空き家から飛んできたスズメバチに襲われる
・アルバイト先の電器店で、何度説明しても理解してくれない高齢女性に辟易
・社会人の彼氏の転勤が決定。結婚・子育ての不安が広がる
・大学のゼミOGから、「正社員でも定年後は大変のようだ」と聞かされる
・ネット通販で今日届くように注文した服が、一向に届かない
・防災無線の「夕方からの豪雨で、アパート裏の山林が崩れそうだ」という放送でパニック
<(あきら)>
・たまたま、車いす高齢者が何人も乗ってきたためにバスのダイヤが乱れ、授業に遅刻する
・ひとりっ子の同級生が、「オレ、糖尿病なんだよ」と、カミングアウトする
・人気の食べ放題店に行くと、高齢店長が大病を患い後継者がいないから廃業するとの張り紙
・7校からなる野球部の混成チームの甲子園出場が決まったが、どこの校歌を歌うかで揉める
・帰宅途中、自販機の飲み物がすべて売り切れで、喉がカラカラ。配送会社の人員不足か……
・母・初恵と、野菜がほとんど並ばない夕食を食べる
・テレビが高齢者向けの医療・健康番組ばかりだったので、すぐに消す
・学校の課題図書になった『未来の年金表』を読み始め、自分の生きる将来に驚愕する
<(トメ)>
・同じマンションに住む認知症高齢者が、オートロックの開け方が分からず困っていたので、助ける
・梅干しの入った瓶のフタが開けられず、大作に電話で泣き言を言おうかと悩む
・スーパーに行くと、「こんなに貧しい生活が続くなら刑務所に入ったほうがマシよ!」と叫びながら、万引き容疑で捕まる高齢女性を目撃
・週に1度だけ開かれる商店街を訪れる
・仲間たちに生け花を教える
・移動投票所が家の近くにやってきたので、期日前投票をする
・ふだん使わない部屋を物置きにすることに決めて、衣服などを整理
・浴室で滑って転倒し、後頭部を強打する。痛みが取れず119番
・救急隊員の不足によって、救急車がまだやってこない
・これらの出来事は、少子高齢化によって起きます。これからの日本で生きるあなたの身にいつ降りかかってきても、おかしくはありません。
<街は高齢者だらけ>
・日本は劇的に変わっていく。例えば、25年後の2043年の社会を覗いてみよう。
年間出生数は現在の4分の3の71万7000人に減る。すでに出生届ゼロという自治体が誕生しているが、地域によっては小中学校がすべて廃校となり、災害時の避難所設営に困るところが出始める。20~64歳の働き手世代は、2015年から1818万8000人も減る。社員を集められないことによる廃業が相次ぎ、ベテラン社員ばかりとなった企業ではマンネリ続きで、新たなヒット商品がなかなか生まれない。
・しかし、2043年とは、総人口の7人に1人が80歳以上という社会だ。独り暮らしであるがゆえに否応なしに外出する機会は増えるが、若い世代の「流れ」についていける人ばかりではない。こんな過密ダイヤはとても続けられない。
80代ともなれば、動作は緩慢になり、判断力も鈍る人が増える。こうした高齢者が一度に電車やバスを利用するのだから、駅員は乗降のサポートに追われ、ダイヤ乱れなど日常茶飯事となるのだ。