<「検察の裏金」の内部告発者は次々と「口封じ逮捕」された>
・その証拠に、実際、三井をはじめとして、何とも驚くべきことに、週刊誌などに調活の裏金流用の実態を内部告発した人間の3人が逮捕されているのである。
<「検察の裏金は外務省よりヒドイ。このままでは巨悪追求はムリ>
・三井自身、手記の中でも、「私は検察の現場が好きだった。捜査が好きだったのだ」と述懐しているように、典型的な職人肌タイプの検事だった。
三井によれば、捜査の行きつくところは、とどのつまり、被疑者に「真実をうたわせる(=自供させる)」ことなのだという。
・三井が逮捕された日の02年4月22日付の夕刊各紙が、軒並み一面トップの扱いでそれを報じていたのを見たときの衝撃は、今でも筆者は忘れられない。
ただ、その中で、朝日新聞だけが、他の全国紙よりはかなり踏み込んだ記事で、三井が検察の裏金問題を実名で内部告発しようとしていた矢先の逮捕で、それが「口封じ目的」だった可能性にも言及していた。
<ライブドア事件>
・とりわけ、ライブドア関連に流れていったアングラマネーに絡み、堀江貴文は指定暴力団山口組6代目組長・司忍(山口組本家組長には05年7月に就任)と面会していたという情報を筆者は掴んでいる。しかし、宮崎学はこれら2つの事件についての発言では、右翼や暴力団が深く関与する、そうした「地下経済」の利益(=利権)を損なわないというか、結果的には、それを擁護する立場に終始している。
・「反骨」を標榜している宮崎の妙な発言は、まだある。
社民党衆院議員だった辻本清美が03年7月、秘書給与を流用したとして詐欺容疑で警視庁に逮捕されたが、その直後の『アサヒ芸能』同年8月7日号のコラムでは、こうも書いている。
<ただ、いくら見え透いた茶番とはいえ、警視庁がこれだけの行動に出た以上、辻本について表以外の隠し玉を持っている可能性は高い。
それは辻本と北朝鮮との関係である。これまでにも彼女と深い関係にあったとされる某出版社社長を通じて資金が北に流れているという噂はあった。>
そもそも、刑事告発から1年4ヵ月も店晒しにしておいて、衆院の解散風が強まった時期を狙っての逮捕自体が、「国策捜査」以外の何物でもないが、ここにある「某出版社社長」とは、本書を刊行している「第三書館の北川明社長」である。
じつは、警視庁の狙いは、当時の拉致問題による強烈な「北朝鮮バッシング」の追い風に乗せることで、辻本が詐取したとされる秘書給与が、この「第三書館の北川明社長」を通じて、北朝鮮に流れていたという情報をリークすることだった。
それは事実とは異なっているが、しかし、「噂」の形でも流すことで、その出版社の社会的評価の低下を図ることができる。実際、この宮崎のコラムを受ける形で、03年8月8日付け毎日新聞夕刊は、辻本が「なんでやねん」を出版していたこの第三書館が警視庁の家宅捜査を受けていたことを報じている。いわば、宮崎は警察の「お先棒」を担いだことになるわけだ。
<「ヤクザを批判すれば、命はないと思え」と脅迫する「作家」>
・要するに、「ヤクザを批判した人間に、命はないと思え」と脅迫しているものだが、果たしてこれが「作家」を名乗る人間が書くべき文章だろうか。
<国策捜査>
・そうした格好のターゲットとなったのが、この安田好弘(弁護士)であり、秘書給与詐取事件で逮捕された辻本清美(05年9月の総選挙で社民党公認で出馬、大阪10区で落選するも比例で復活当選)、さらに、鈴木宗男(辻本と同じく05年9月の総選挙で新党大地から出馬、北海道比例ブロックで当選)、佐藤優(外務省元主任分析官)、そして、この三井環ではないだろうか。これらの人間に共通していたのは、「権力中枢に歯向かう姿勢」が顕著に窺えた点である。
鈴木宗男とワン・セットで、02年5月に東京地検特捜部に逮捕された佐藤優は、手記『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社、2005年)の中で、取り調べを受けた東京地検特捜部検事・西村尚芳との間で、逮捕から3日目の段階で、こんなやり取りがあったことを明かしている。
<「あなたは頭のいい人だ。必要なことだけ述べている。嘘はつかないというやり方だ。今の段階ではそれでもいいでしょう。しかし、こっちは組織なんだよ。あなたは組織相手に勝てると思ってるんじゃないだろうか」
「勝てるなんか思ってないよ。どうせ結論は決まっているんだ」
「そこまでわかっているんじゃないか。君は。だって、これは『国策捜査』なんだから」>
・それゆえ、既に被疑者を逮捕した時点で、「起訴→有罪」はパッケージであり、仮に一審で無罪が出ても、検察は組織のメンツに賭けて控訴、上告して「10年裁判」に持っていく。そのため、被疑者の多くは「失うべきものが余りにも多い」と諦め、検察の筋書きに沿ったストーリー通りの調書に署名、捺印し、「執行猶予」を勝ち取る戦術を選択する。もちろん、「真実とは何か」を愚直に追求していく姿勢など、そこには微塵もない。
<アジア刑政財団>
・「“国策捜査“といえば、検察のお偉いさんから『この政治家を捕まえろ』と現場に指示が下り、まるで落下傘にぶら下がるように“訳あり”の告発資料がドッと降りてくる。その告発資料を持ち込んでくるのが、この財団(アジア刑政財団)なんだよ」
『日本の裏金 【上】首相官邸・外務省編』
古川利明 第三書館 2007/2/10
<私的流用を除いても2億円以上の裏金が闇の中へ消えた>
・機密費は、既に触れたように「官房機密費」として内閣官房に計上される分と、外務省から上納して持ってくる分とがある。
外務省から持ってくる分については、総理府(現・内閣府)の会計課を経由して、官邸内の首席内閣参事官(内閣総務官)の部屋に持ってきて、そこから主に官房長官室の金庫へと現金が補充されるわけだが、松尾がカネを受け取りに行っていたのは、官邸内のこの首席内閣参事官のところだった。
・松尾が要人外国訪問支援室長時代に、私的に流用したされる機密費は、少なくとも8億円に達している。うち、競走馬(19頭)の購入資金に計3億4千万円、ゴルフ会員権に4千3百万円、マンションに8千万円、さらに3人の女性に計8千2百万円を渡したことが判明している。計算の上では、これから差し引いた少なくとも2億5千5百万円のうち、計2億円については預金として自らの銀行口座などに入っていたことが確認されている。それゆえ、松尾が「私的流用したカネの多くは、文字通り、「闇の中」へすっぽりと消えてしまった格好になっている。
<機密費捜査のターゲットは橋本龍太郎の「業務上横領罪」>
・事件の捜査にあたった警視庁の幹部は言う。
「今度の事件で、我々の捜査の最終ターゲットは橋龍(=橋本龍太郎)だった。つまり、そういった外遊の際の『支度金』の名目で、首相自身にも渡っている。特に外遊が増えたのは橋龍のときだったし、そうやって外遊の回数を増やせば、支度金名目で受け取れる金額も増える。こうした『松尾』というクッションを間に挟むことで、足が付かなくなるわけだ。橋龍にはオンナの問題もあったし、そこからスキャンダル対策にカネが流れていたのではないかと睨んで、現場のレベルでは橋龍を業務上横領で立件したいという思いがあったが、なかなかそこまでは詰み切れなかった。そういうところもあって、松尾の公金横領を『業務上横領』ではなく、『詐欺』の方での立件に至ったところはある。
・橋本龍太郎の女性スキャンダルで最も有名なのは、首相在職当時に週刊誌に報道された、中国人の公安当局に関係する女性とのものではないだろうか。
これは、96年6月に週刊現代などが第一報を伝えた後、『週刊文春』の97年9月11日号から3回にわたり、より詳細な内容を報じていたものである。
橋本が所属していた経世会(竹下派)は、その前身である。日中国交回復に力を注いだ田中角栄の時代から、79年に始まった対中国への円借款による医療援助を通じて、中国の衛生部や民生部とも太いパイプを構築していったが、中でも厚生族のドンでもあった橋本は、その筆頭に位置していた。
橋本と愛人関係にあったその女性は、衛生部の通訳としてたびたび来日し、80年代半ばには、駐日中国大使館に赴任していた夫の随員として日本に住んでおり、そうしたあたりからも両者は親密になっていったようである。
問題がこじれたのは、この中国人女性が橋本と付き合っていた当時は既に結婚しており、夫が「橋本と妻との交際が離婚に繋がった原因の一つ」と主張していた点に加えて、この女性が「中国公安当局のスパイ」だったことが、それに拍車をかけた。
とりわけ、89年6月の天安門事件に抗議し、日本も含めて西側諸国は中国への経済援助を一時、凍結していたが、それからわずか半年足らずの時期に、中国のベチューン医大病院医療プロジェクトに対する26億円もの日本政府の無償援助計画が合意に至った背景に、「中国に甘い橋龍の存在があったからではないのか」と槍玉に挙げられていたからである。
・この問題は、週刊文春の報道を機に国会でも取り上げられ、さらに、こうした動きとリンクするかのように、中国人の元夫が、妻だったその女性を名誉棄損で東京地裁に訴えたことから、橋本はかなりの窮地に立たされていた。
要は、中国側がいわゆる「美人局」の手口で、日本国の最高首脳を脅し上げたようにも見えるが(もっとも、女性を使った諜報工作は中国の公安当局が最も得意とするところではるが)、ひょっとしたら、こういうスキャンダルを手打ちにするための「口止め料」として、松尾から橋本に渡された外遊の際の「支度金」が充てられた可能性はある。
<川島裕外務次官の女性問題口止め料にも機密費支出?>
・それと、もう一つ、松尾が「外交の根幹に関わる部分で、相手国に口止め料的に支払った」という可能性があるものとして、同様に、外務省事務次官だった川島裕(03年より宮内庁式部官長)の女性問題がある。
これは、『噂の真相』の99年7月号が「外務省No1事務次官就任が内定した川島裕大使を襲った“亡国的醜聞”」のタイトルの記事でスッパ抜いたものだが、川島が韓国公使だった92年8月から94年1月の間、ソウル市鐘路区にあった高級料亭「祥雅(サンア)」に機密費を使って入り浸り、そこの李南煕(イ・ナムヒ)という女性経営者と眤懇になったが、その下で働いていたホステスに川島が入れ上げ、その後、川島が本省のアジア局長に就任して東京に戻ると、このホステスをソウルから呼び寄せたのだという。
ところが、赤坂のマンションで川島がそのホステスと行為の及んでいたところを、一部始終、ビデオで隠し撮りされ、それを韓国の国家安全企画部(旧KCIA、現・国家情報院)が入手していた。
<「自分を処罰するなら、機密費の不正使用をばらす」で、パス>
・結局、外務省のノンキャリア会計担当事務官・松尾克俊に対する機密費流用事件の捜査は、あくまで「松尾個人の犯罪」ということで幕引きがなされ、政権中枢の腐敗にメスが入るということはなかったのだが、その「意趣返し」とばかりに、警視庁は、松尾を最初の逮捕も含めると計4回逮捕したのち、その後、同じノンキャリアの会計担当事務官2人を逮捕した。
<「榎公使は山本事務官の不正行為の『共謀者』」(天木元公使)>
・ところが、当時、在オーストラリア大使館で、この山本が転出するまでの約3カ月間、上司である同大使館ナンバー2の公使として、一緒に仕事をしていた元レバノン大使の天木直人は、手記『さらば外務省! 私は小泉首相と売国官僚を許さない』(講談社、2003年)と、この手記の刊行直後に発売となった『週刊現代』03年10月25日号において、このときの山本の公金流用の実態を明かしている。
<権力の旨味と政争の具に供された官房機密費>
<「金庫にいつも8千万円。なくなると夜間に補充」(武村正義)>
・こうした官房機密費のうち、官房長官室の金庫に入る「官房長官扱」の分の執行については、基本的には総理大臣も口を挟めない「官房長官の専権事項」とされる。前述したように、官房長官が直接、相手に手渡すこの分については、慣習的に一切、領収書を取らないため、「当事者同士の証言」以外は、カネのやり取りの証拠は存在しない。
<羽田内閣では、官僚がサボッて、金庫を補充しなかった?>
・「確かに私の記憶では、2ヵ月おきに補充されていたと思います。でも金庫にドッサリということはなかった。『7月になったらちゃんと(補充)します』と事務方に言われていたのですが、その前に政権がなくなってしまった」
「だから、野坂浩賢さんの『長官室の金庫には常時8千万円の現金が入っていた』『難しい政局を乗り切ろうとして……1回あたり計5百万円ぐらい(を与野党の国対幹部に配った)』という話を聞いてびっくりした」
・事実、時事通信政治部次長だった田崎史郎が、小沢一郎のオフレコ発言を公表した手記『小沢一郎との決別』(『文藝春秋』94年10月号)には、次のようなくだりがある。
<「選挙の時のカネの配り方を知っているのはおれだけだ。それは二階堂(進。自民党元幹事長)さんがやらんかったもんだから、全部、おれとオヤジ(田中元首相)が相談しながらやったんだから>
<「官房機密費を渡すこと」を条件にして誕生した海部内閣>
・「間違いなく橋本(龍太郎)が大本命で、本人も90%以上やる気だった。で、いざ誰にするかという段階になって、橋本で大丈夫かということになった。正確に言うと、橋本には女の噂があってね。これが問題ありとなれば、別の人を立てるしかないというわけだ」(渡部氏)
経世会には宇野政権を作った責任があるという言い訳は、きれいごとに過ぎなかったのだ。
・「海部は、真面目な男だからね。愛妻家なのは誰もが知っている。ですから、直ぐに金丸さんには“(女の問題は)絶対心配ありません”と言った。そしたら、金丸さんがその場で、派として海部を推すということをあっという間に決めたんです。宇野に続いてまた女性問題でしくじるわけにはいかない。海部のいた旧三木派はクリーンなイメージがあったし、力のない派閥だったからね。金丸さんとしたら、海部を立てることはグッドアイデアだったんでしょう」
このとき、海部擁立の条件として、経世会が突きつけた条件が「官房機密費を渡すこと」だったとされている。
<海部総理大臣が自分で盆暮れ、金丸信に3億運んだ>
・「私が知っている機密費のおどろおどろしい使い方といったら、海部が総理大臣のとき、盆暮れに金丸さんのところに3億円ずつ持っていったということだろうか。総理が自分で現金の束を運んだという話だ。政権を延命させたければ、総理大臣だって、それくらいのことはする」
このように首相としての海部は完全に経世会に首根っこを抑え付けられた。
・既に説明したように、官房機密費のうち、とりわけ、官房長官室の金庫に入る毎月1億円前後の「官房長官扱」の枠は、官房長官の専権事項とされている。
しかし、これらを含めて、官房機密費を「誰」がコントロールするかは、政権中枢にいる人たちの「力関係」が大きく影響している。つまりカネは「権力を持っている人間」のところに流れていくのである。
<小泉首相の飯島秘書官はホテル代が毎月100万以上>
・安倍晋三首相もまた、父親と同じ官房長官の職にあった(05年11月――06年9月)。官房機密費のシステムが基本的に変わっていないのだから、安倍も官房長官時代に「1カ月1億」の裏金を毎月扱っていたことになる。彼が『美しい国・日本』を目指しているのであれば、なおさらのこと、自らが執行にタッチしたこうした「官房機密費の中身」に対する説明責任があるのではないだろうか。
<「官房機密費が「機密」のために活用されることは殆どない」>
・伊藤はこうした飲み代の「出所」が官房機密費からだったことをはっきりと明かしたうえで、その『永田町「悪魔の辞典」』では「官房機密費」について、次のように説明している。
「総理大臣や官房長官が自由に使える交際費。『機密』のために活用されることは殆どない。領収書は不要」
官房機密費が「オフィシャルな権力の裏金」の保守本流であるとすれば、その「使途」の最大目的は、「権力基盤を維持する」ということに尽きる。
その要諦を一言で言えば、「カネの力で相手を籠絡する」ということである。具体的には、与野党対策(国対)、選挙買収、マスコミをはじめとする言論・文化人らの懐柔、さらには、スキャンダル潰し、である。
<「政府の付き合う団体、審議会、内政に3分割支出」(塩川正十郎)>
・「官房機密費の使途はそれほどいい加減ではないんだ。大雑把にいうと、3分割され、一つは政府が付き合いする団体に流れる。これは600団体くらいある。もう一つが種々の審議会や諮問機関にかかる費用、これは政府がお願してお集まり頂くわけだからこちらで費用負担するのは当然だろう?残る3分の1は内政だ」
ここにある「内政」とは、要は、「政権基盤を維持するうえで必要な政治的な運営経費」のことで、具体的には、既に触れている国対や選挙、餞別などである(それは、現金の場合もあるし、料亭や高級クラブなどでの飲食のこともある)。
・「野党対策に使っているのは事実です。現ナマでやるのと、それからまあ、要するに一席設けて、一席の代(金)をこちらが負担するとか」
<機密費効果で成立した消費税導入と重要法案>
・1回あたりの支出が1千万円を越える「臨機」の裏金支出とは、内政においては、選挙のほかだと、「政局」、つまり、国会で「重要法案」を通すときである。
これは、既に見てきたように、機密費が内閣に予算計上された明治時代から延々と続いていることであり、むしろ、表沙汰にならずに「闇」の中へ消えていったものの方が、とてつもなく多いといえる。
戦後、表向きは「保革対決」といわれてきた55年体制下では、こうしたウラの国対政治においては、法案の取引を巡ってやりとりされる「金額」は、「重要法案1本あたり、5千万から1億」ということが、まことしやかに囁かれてきた。
<「ある国王に1千万円の官房機密費。買収同然だ」(武村正義)>
・もちろん、こうしたカネのやりとりも闇から闇へと葬り去られるので、表沙汰になるということはほとんどないが、筆者の取材で、そうしたスキャンダル対策に多額の官房機密費を支出していたとの、交際相手あった女性からの証言が出ているのが、森内閣の官房長官だった中川秀直(在任2000年7月――10月。06年9月の安倍内閣の発足に伴い、自民党幹事長に就任)である。
<官房機密費の「究極の使徒」は私的流用すなわち「握りガネ」>
・官房機密費の「究極の使途」とは、「私的流用」、すなわち、「握りガネ」として、自らの懐に入れる分だろう。
首相をはじめ、随行の人間たちも外遊の際、「支度金」(もしくは「餞別」)と称して、外務省からの上納分からも含めて、機密費から現金を受け取っているというのは前述したとおりだ。
<「裏金」=権力の味>
・そもそも、カネ自体にオモテもウラもない。そのやりとりを隠してしまうから、「裏金」と呼ぶだけのことである。
<「権力の裏金」機密費はヘソクリと根本的に違う>
<組織のあるところ裏金はある。権力の味の最も強い裏金こそ>
・この本では、「官邸・外務省」、「法務・検察」、「警察」に存在するオフィシャルな裏金を見る。それらの原資のメインはいずれも、戦前の「機密費」にルーツを持つ、「報償費」、「調査活動費」、「捜査費」という名称でそれぞれ予算計上されているものである。
こうした「裏金」は、あっさり言ってしまえば、官公庁はもとより、会社組織や労組、特殊法人などを含めたいろんな団体にも、ほぼ例外なく存在している、といってもいいだろう。
・最近(04――05年)の一連のNHKの不祥事問題で、受信料の不払いが殺到し、会長が辞任に追い込まれる事態にまで発展したが、そのきっかけとなったのは、NHKの芸能番組のチーフプロデューサーによる「裏金づくり」だった。
ここ数年「役所の裏金問題」がブレイクする契機は、前章で触れた、01年に発覚した外務省機密費流用事件だろう。
<「銭のない候補者に金をやる。当選しそうな者に」(竹下登)>
<自民党の機密費「政策活動費」は官邸機密費を上まわる>
・前出の週刊ポストによると、00年から02年までの3年間の自民党本部の収入総額は992億円に上っており、その内訳は、国民政治協会などを通した企業・団体献金が約130億円、個人献金約10億円、党費収入約48億円となっているが、最大の資金源は国民の税金から支払われる「政党交付金」の約442億円だった。繰越金などの重複を除けば、自民党本部にあるカネの半分以上は国民の血税である。
・「情報公開法の施行」が、国に所属する行政機関の中でも、とりわけ権力中枢といわれる「法務・検察」、「警察」といったところにいる人間たちに、どれだけの「恐怖」を与えていたかは、我々の想像以上のものがある。
法務・検察であれば「調査活動費」、警察であれば「捜査費」と、いわば「オフィシャルな裏金」を持っている。オンブズマンはもちろん、それに焚き付けられたマスメディアの追及の矛盾が、もし、「ここ」に向かってきたら、とてもではないが、「組織が持たない」のである。
<「捜査当局が裏金づくり。それをやっちゃあ、おしめえよ>
<「権力の裏金」を会計検査院はチェックできない>
<国家予算の審査請求ができるのは直接利害関係人だけ>
<国会は国民による違法な税金の使途チェック立法を>
<日本中で一番仕事をしていない役所が会計検査院>
・「会計検査院の人件費は税金の無駄遣い」として、こう指摘している。
「日本のお役所の中で、一番、無駄遣いをしているのは、どこだと思いますか?元役人の立場から言いますと、自信を持って「会計検査院」を推します」
・「税金の無駄遣いがこれだけありました」と会計検査院の発表ニュースが、毎年、流れます。会計検査院が指摘した税金無駄遣いの額は、会計検査院の人件費を若干上回るくらいの額なのです。桁が2、3桁違うだろうというのが、元現場にいた人間の実感です。というより、会計検査院の人件費はすべて、税金の無駄遣いだろう、
<「権力の裏金」を限りなくゼロに近づける努力を>
<文明社会のタブーとリンクしつつ、カネは影響力を持つ>
・人間社会、とりわけ、文明が高度に発達した社会において、「タブー」とされているものが、3つある。それは、「死」、「セックス」、そして「カネ」である。
・現代の「資本主義社会」においては、「カネで買えないモノはない」とさえ言われているが、貨幣が持っている機能とは、「交換」と「蓄積」である。
カネさえあれば、食料や衣服、住宅を確保できるのはもちろん、旅行やエステ、さらには風俗店といったサービスも受けることができる。病院で治療を受ければ、保険が適用されるとはいっても、いくらかの自己負担分は必要である。とりわけ、国民皆保険制度が確立していないアメリカではその高額の治療費から、「病気破産」ということがいわれているほどだ。
そうしたカネはインフレで貨幣価値が下落でもしない限りは、タンス預金であれ、銀行なり郵便局に預けてさえおけば、貨幣が持っている「等価交換性」が損なわれることはない。
つまり、現代においては、カネは生存欲、食欲、性欲、所有欲といった、ありとあらゆる人間の欲望を満たしてくれる存在なわけだ。
・ユング学派は、こうした文明社会においてタブーとされる「死」、「セックス」、「カネ」の3つを象徴しているものは、「グレートマザー」(偉大なる母性)であるとしている。逆に言えば、こうしたタブーの成立とは、グレートマザーなるものに対する「抑圧の裏返し」なのだという。
<カネの魔力を知るからこそ、「権力の裏金」のウミの抉出を>
・おそらく、人間の社会が存在する限り、貨幣が消えてなくなるということはないだろう。であれば、本書で見てきた「権力の裏金」が、今後、消えてなくなることもないだろう。
しかし、こうした「権力の裏金」は、できる限り少なくし、そして、ゼロに近づける努力は常に続けなければならない。
なぜなら、「権力の裏金」とは「暗黒政治の産物」であるからだ。人間の良心を麻痺させ、腐敗、堕落させてしまうのが、こうした「カネ」の力だからだ。腐敗した政治は、そこで税金を払っている国民を、間違いなく不幸にする。それだけは絶対に食い止めなければならない。
逆に言えば、民主主義をさらに確固としたものにしていくためには、とりわけ筆者をはじめとするジャーナリズムが、こうした「権力の裏金」が抱え持つウミを徹底的に抉り出さなければならない、ということに他ならない。
『あなたのすぐ隣にいる中国のスパイ』
鳴霞 千代田情報研究会 飛鳥新社 2013/4/6
<騙される>
・来日後の私は、大学や兵庫・大阪の中国語学校で教える傍ら、日本企業の通訳もしていたが、その折痛感したのは「日本人がいかに易々と中国人に騙されるか」である。
<中国人学者たちの怪しい行動>
・日本企業は「人権」「友好」「学術研究」という冠をつければ、技術も機密も公開、資金まで提供して丁寧に教えてくれると、中共政府は見くびっている。この状態こそ、日本が「スパイ天国」であると揶揄され、世界から嘲笑の的になっている理由である。
中共は「スパイの21世紀的役割は、技術的遅れを埋め合わせる機密情報の入手」と規定している。国家として科学技術力が欠けていることを認識し、先進各国の先端技術を欲しがっている。しかし、先端技術を習ったり買ったりするような状況は想定していない。
中共は、習うこと、または習うことによって入手した技術は古いもので、最先端のものではないという認識を強く持っている。
<美女スパイの手口>
・中国のスパイ活動といえば、すぐ「ハニートラップ」という言葉が浮かんでくる。女性を近づけて相手を油断させ、情報を取ったり、工作したりすることであるが、日本の橋本元首相や自民党の前総裁・谷垣禎一氏も、これに引っかかったのではないかという噂がある。亀井静香前国民新党代表は、自民党時代、中国を初訪問する際、後藤田官房長官に直々に呼ばれ「中国の女性通訳には気を付けろ」と注意を受けたという。実際、中国を訪れると、すこぶるつきの美人通訳が現れ、耳に吐息を吹きかけるように小声で通訳するので、非常に困惑したという。
中国における「ハニートラップ」の歴史は古い。
・また、2005年に明らかになった駐上海日本国総領事館の男性館員が自殺した事件なども、現代の「中共によるハニートラップ」として記憶に残る事件だ。
・また、あるときは男性館員が犯したささいな法律違反(例えば中国では未婚の男女がホテルの一室にいるのは違法)を他の公安職員に摘発させ、自ら館員を助ける役を買って出た。その際に用いた中国語文書も存在しており、日本政府はこの文書を根拠として、中共政府に「領事関係に関するウィーン条約」違反として抗議した。
・古来、「英雄艶を好む」ということわざがある。為政者や事業家など、「精力的に仕事をこなす人々」は「女色を好む傾向が強い」というほどの意味だが、最近では、多くの日本人が「英雄」になってしまっており、それだけスパイの対象も増えていると言えなくもない。自衛隊や領事館員ばかりではない。企業の技術者や最先端の研究を担っている大学の准教授などもその対象であろうし、インターンの大学院生や国会議員の秘書なども「英雄」になってしまうのである。
・また、ビジネスは「グリーンと銀座で動く」といわれたが、料亭での政治が姿を潜めると同時に、政治家も、夜の銀座に蝟集することが多くなった。つまり、銀座だけでなく六本木や赤坂など、夜の街は日本のビジネスマンのみならず政治関係の「英雄」も集う場所となっていったのである。そのような夜の街の異変が2011年2月15日の夕刊紙に報じられた。「中国の軍幹部令嬢らが日本で謎のクラブ勤め」という記事であるが、筆者もコメンテーターとして登場しているので、以下に要約を紹介する。
中国人民解放軍の幹部らの複数令嬢が、東京の銀座や新宿のクラブに勤めていることが、在日中国人社会でひそかに話題となっている。金銭的に余裕があるはずだけに、その目的や真意について、「日本の政財界に特別なコネクションを構築している」から「スパイ説」まで、さまざまな憶測が飛び交っている。
・米国では、2009年だけで、米司法省が捜査に着手した中国絡みのスパイ容疑事件は、なんと400件を超えたという。
・最近は銀座でも赤坂でも、中国人の経営するクラブや中国人ホステスが少なくない。中国人のホステス専門の店ではなく、かなり老舗の名前の通ったクラブにも「中国からの留学生」と称するホステスがいることがある。
・今はなくなったが、麻生太郎氏が首相になる前、昵懇の女性が経営する「シュミネ」という高級クラブがあり、そこにも、長期間北京出身のホステスが在籍していた。高名な政治家が通う店であるから、政界関係者や官僚、企業経営者などが多く集まっていた。
・もともと中国には「千金小姐」といって、どんな貧しい家の娘でも美人に生まれてくればカネになるという即物的な考え方があるほどなのだ。
・日本人の恥の文化に付け込むのが「ハニートラップ」の本質であり、同時に、これは日本のみならず、一夫一婦制を持つ数多くの近代法治国家の間で行われている、中共スパイの常套手段なのである。
<嵌められても気づかない国会議員たち>
<世界のどこよりも簡単な日本政界工作>
・2012年7月18日号の国際情報誌『SAPIO』に、衝撃的な記事が掲載された。ジャーナリストの山村明義氏の署名記事で、「お寒い事情、赤いスパイへの警戒感ゼロの野田民主党政権を中国への機密情報「筒抜け政権」と命名する」と題されていた。
・あまりにも無防備な事態に、日本に詳しい中国共産党のある幹部はこう嘯くのだ。「今の民主党政権は国家情報の危機管理意識が皆無に等しい。我々が日本人に近づき、日本の重要な情報を握るのはもはや難しいことではなく、裏の偽装すらする必要もない」
・現実に昨年(2011年)7月から11月にかけて、同じ東京・永田町の衆参の議員会館で、中国国内からと思われる国会議員のメールがウイルスに感染し、外国への情報が送られたとされる「サイバーテロ事件」が起きた。
・ところで、ウイグル会議開催直前、在京の中国大使名でウイグル国会議員連盟の各議員に、会議への参加を見合わせるよう強く求める要望書が届いたのだ。これだけでも明らかな内政干渉だが、それはさておき、その配布先を見てみると、議員連盟に当時参加していない議員にまで届いている。逆に参加しているのに、抗議文が届かなかった議員もいる。調べてみると、ある時期に作成された名簿を元に送付されていることが判明した。
では、なぜ中国大使は「日本ウイグル国会議員連盟」の名簿を知ることができたのか。
・国会議員には「行政調査権」というものがあって、それを行使すると国の機密資料を簡単に手に入れることができる。以下は伝聞であり、未確認のものであるが、国政に関することなのであえて公開する。まだ民主党政権になる前の話であるが、辻本清美議員の秘書から行政調査権を使ってある資料の提出が要求された。
・したがって、財務省の官僚は議員のところに資料を持って直接出向いた。ところが議員本人に面会したところ、そのような調査の依頼はしていないという。
・民主党政権下で、首相官邸に出入りできる人間が1300人に膨れ上がっていたというのだ。その中には「80人ほどの左翼的メンバーがいたり、前科一犯の人」もいた。
・まさに現在の日本の情報管理の甘さ、為政者たちの情報に対する認識の決定的な欠如を示していたとしか言いようがない。
<熱烈歓迎(訪中)の中身>
・彼らは手荷物をあけてみたりなど、すぐわかるようなことはしない。しかし、パスポートは、実は個人情報の宝庫だ。本籍地は当然だが、過去に中国や他の国のどこに滞在したかまで記録されている。中共はその個人の情報を得て、調査を始める。特に、事前に中国の他のどこかを訪れていた場合、たちどころにそのときの行動を調べ上げる。ちなみに、イスラエルの場合、外国人訪問者が希望すれば、入国のスタンプは押さない。イスラエルに敵対するイスラム国に行った場合、迷惑をかけないようにという配慮からだ。
・さらに、前もってホテルの部屋などに運び込まれた荷物は、歓迎会の間にすべて中身を見られていると思ったほうがよい。書類などは、コピーされていることが少なくない。
・シャワーを浴び、一夜を共にしたりすれば、彼女たちの行為はより完璧となる。当然その前の全裸で抱き合う画像も撮られているので、男性がスパイ行為に気づいて文句を言えば、それを持ち出される。中国の役人に泣きついても、基本的には無意味である。中国には「夫婦、親子以外の男女(外国人同士の場合は除く)が、夜11時以降、ホテルの同じ部屋にいてはならない」とする法律があり、法律違反で逮捕されかねないのだ。
・2004年、自民党の山崎拓元副総裁と平沢勝栄議員が、中国の大連市で拉致問題解決のために北朝鮮の高官と交渉をしたことがある。この時、ここに書かれたような状況で、日本側の交渉の内容が事前に漏れていたということを、大連の『紡垂新聞』が報じている。このほど左様に、中国では十重二十重にスパイ網が存在するのだ。中国と一度でも関係した外国人はファイルが作られ、それが年々更新され、膨大なものとなっていく。