(2021/7/8)
『世界と日本経済 大予測2021』
渡邉哲也 PHP研究所 2020/11/12
・時代の転換期を読み間違うと、大きな損失を被る。過去の歴史から見て、戦争や疫病、大恐慌などに際しては枠組みの大転換が起きている。20世紀から現在までの歴史だけ見ても、いま、そのタイミングが到来したと言っていい。
<新型コロナウイルス感染症により、世界全体で大規模な変化が起きている。>
・これから起きることは明確だ。必要なものと不要なものの分類と整理と淘汰が進み、より大きな社会変革を生み出す。
暮らしや行動様式だけでなく、政治そして経済にも同じことが言える。米中の対立が過熱し、中国に依存するビジネスモデルはまもなく瓦解するだろう。国内外の不動産バブル崩壊にも備えなければならない。
・スペイン風邪の流行と終息(1918年~1920年)、第1次世界大戦開戦(1914年)から、およそ100年。その間、ほぼ30数年ごとに大きなレジームチェンジがあり、それが重なるとさらに大きなレジームチェンジがやってくる。
<これまでの経験則は通用しない>
・2021年が激動の1年になるのは間違いない。コロナ禍とその対応で止まっていた時を取り戻すかのように時代が動いていく。
・したがって、これまでの経験則が通用しなくなる。常識にとらわれず、メディアの情報を鵜呑みにしない姿勢が求められる。
<リスク1 新型コロナウイルス 収束はワクチンの普及次第>
・結論を言えば、新型コロナウイルスの収束は、ワクチンがいつまでに、どの程度生産・供給できるかに左右される。
良質のワクチンを供給できれば通常のインフルエンザと大差なく、リスクは一気に軽減される。ワクチンの開発が遅れ供給できなければ、マスクをする、消毒する、外出を控えるなど、これまでの基本的な対策を愚直に実行していくしかない。
<ウイルスが変異する可能性も>
・ただし、新型コロナウイルスがもつ「変異しやすい性質」には注意が必要だ。ワクチンを開発しても、それがどの程度効果があるかは未知数である。
インフルエンザのワクチンもウイルスの型が変わるたびに変更されるように、新型コロナウイルスも単一のワクチンでは済まなくなっていく可能性は十分にある。変異に合わせて作り替えるとしたら、全世界から新型コロナウイルスを一掃するのは容易ではない。
<スペイン風邪より長引くことはない>
・こうしたなか、医療機関における新型コロナウイルス感染症への対処法が確立されてきたことも見逃せない。
新型コロナウイルスによって引き起こされる最も顕著な症状は血管炎だ。血管炎にステロイド療法は効かないと言われていたが、徐々にその効果が認められ、イタリアでは致死率が急激に低下。世界全体で見ても致死率は低くなっている(無症状感染者は増えている)。
そもそも、世界で感染者数が3700万人を超えたとされるが、季節性インフルエンザも、その程度の感染者は出るわけで、数字そのものは驚くほどではない。
・1918年に世界的に流行したスペイン風邪は、終息までにおよそ2年かかっている。
・さらに、開発中のワクチンを考慮すれば、新型コロナウイルス2年を要さず抑え込める可能性はある。ただし、そうであっても新型コロナウイルスが消滅するという話ではない。社会的パニック状況からの脱却は意外に早くても、その影響は、中長期的に続いていくと考えるべきである。
<リスク2 消費の後退 「おうち習慣」からの「外出控え」がより顕著に>
・ワクチンの開発による最大の効果は、医学的観点では感染症の抑え込みにほかならないが、経済や流通の観点においてはワクチン接種によって人の動きが自由化する点にある。
・ただし、消費行動が活発になるとはいっても、一時的・単発的にすぎない。
・自粛期間が長かったため、消費者もお金を使う習慣が薄れている。「外食しなくても自炊すればいい」「家が一番くつろげる」「家でプチ農業でも始めようか」など外出するだけの活力を失い、消費行動どころではない状況に陥っている。そう簡単に、国民の「おうち習慣」は抜けないだろう。そう考えると、ワクチンが普及しても、実体経済が明るくなるにはしばらく時間を要すことが予想される。
<リスク4 本格倒産 2021年、「ゾンビ企業」が一掃される>
・2020年上半期の倒産件数は3943件、前年同期比で1.4%の減少、負債総額は6316億円余で、前年同期比でじつに15.9%も減少している。
世間では「コロナ倒産」と面白おかしく騒がれているが、その件数も負債総額もじつは前年以下である。この理由は簡単で、新型コロナウイルス対策によるセーフティネットが機能しているからだ。
・こうした保証・助成・給付等によって、本来、倒産するはずの企業が生き延びたというのが、倒産件数の前年比減につながった要因と推認すべきだろう。
<後継者問題に悩む企業が一足早く倒産>
・これとは逆に、本来、続くはずだった店舗や企業が店じまいをするケースも散見される。ギリギリ赤字にならない程度だった老舗が、後継者不在問題も絡んで以前から廃業するタイミングを計っていたところ、コロナ禍をきっかけに、「余力があるうちに店を閉めてしまえ」と決断したパターンである。
<台湾はすでに独立している>
・台湾は金融の独立、通貨の独立、安全保障の独立、すべてが独立して、国家として存続している。
<リスク19 資本移動の制限 >
<どれだけ中国で稼いでも、自国に送金できない異常さ>
・すでに中国ではその状態が生まれており、決められた額を超える資金の持ち出しは認められていない。資本移動の自由がないため、利益を持ち帰れず、中国国内に再投資するしかない。その結果、儲けたお金は、中国のGDPを引き上げ、中国人の雇用を生み出すだけでしかない。
<引き上げを見越して、事業転換する日本企業も>
・資本の移動が制限されているなか、資金を運ぶ手段はないのか。
じつは一つある。中国で作っていたものを日本国内に持ち帰ることができれば、国内に資金が還流し、国内の消費市場が活発化するとも言える。
・その会社はいま貿易業だったが、現地であげた利益を日本国内で販売している。もともと中国に工具を輸出する企業だったが、現地であげた利益を日本国内に還元できないため、中国からモノを輸入し、日本で売って現金化している。
<君子は中国に近寄らず>
・中国企業は取締役会の上に中国共産党支部をつくる必要があり、企業は共産党の指示で動いている。共産党員の取締役は確実に入るため、共産党の了解が取れないと撤退ができないのだ。なんとも理不尽である。
したがって、「撤退したかったら、資本をすべて置いていけ」と要求されるだろう。これが共産党一党独裁の国でのビジネスの実態。そんな市場に飛び込む日本企業が賢くないと言ってしまえばそれまでだが、リスクを事前に考えれば「君子は危うきに近寄らず」を肝に銘じるべきである。
・やはり、いつ中国から引き上げてもいいように、なるべく身軽な状態を維持しようと努めるのはアパレル業界も同じである。
<リスク20 ドル建ての株価 計画経済に基づく人民元相場に騙されてはいけない>
・中国は新型コロナウイルスを世界に伝播させたものの、いち早く、その影響から脱し、直近だけ見ると経済は伸びている。ただ、その実態は感心したものではなく、人民元を大量に発行し、見かけをよくしているだけにすぎない。
・しかも為替そのものが中国人民銀行に操作されている。だから、仮にハイパーインフレが起こったら、一瞬にして株の価値は100分の1になっても不思議はない。中国の場合、計画経済における国内市場の値段であって、それを国際資本と比較するのはおかしいということは覚えておくとよい。
中国で物を生産しても、まったく無意味であるばかりか、マイナス面のほうが大きい。
中国との関係悪化が進むいま、日本企業が製造拠点を国内に戻す、あるいは他国へ移すといったことは、早急にやるべきである。早く逃げ出した会社ほど安全であり、逃げ切れなかったところは大損を抱えることになる。
<リスク21 中国不動産バブル 不良債権の増加が顕著化する>
・西側先進国企業が撤退すれば、中国は技術を失い、世界の工場としての立場も危うくなる。当然、失業者が増加し、景気は悪化する。
また、バブル状態にあるとされる消費市場も一気に崩壊する。
その象徴として、中国の消費を支えている不動産価格が大幅下落に転じ始めた。
<リスク22 富裕層の資産逃れ マネーロンダリングを塞がれ、慌てふためく習近平国家主席>
・また、2017年からは共通報告基準に基づく自動的情報交換制度が発効し、非居住者の金融口座や取り引きなどの情報は各国でお互いに提供することになった。そのため、個人の隠し財産の情報はすべてアメリカに筒抜けだ。中国共産党の幹部はいま、莫大な資産を逃がす場所を失い慌てふためいているだろう。
<リスク23 技術流出 日米の買収包囲網により、立ち消えた「中国製造2025」>
・中国経済は実体がよくわからない。
自由主義圏の経済とは異なり、完全なる計画経済だからだ。人民元を好き放題に刷っており、外観上の数値が経済の実態を示しているとは一概に言えない。
ただ確かなことが一つだけある。香港にある資金が逃げ出していることだ。
・その象徴として、2015年に発表された「中国製造2025」は完全に停滞しており、習近平国家主席も言及しなくなった。
<技術流出を防ぐ法整備が急がれる>
・外為法、秘密特許、人的認証制度。この三つによって日本からの技術の略奪を防ぐしかない。
<リスク24 千人計画 中国スパイによる技術遺漏にご用心>
・一説によると、アメリカは千人計画の対象者リストをすでに入手していると言われており、早晩、世界各国と連携して技術漏洩した人材の取り締まりが始まるとされている。そうなると、中国はいよいよ「中国製造2025」どころではなくなってくる。
<中国人研究者の排除が止まらない>
・一方、アメリカは研究分野からの中国人の排除を始めた。すでにアメリカは研究分野等のビザを5年から毎年更新に変更。2020年9月には、1000人もの中国人のビザ取り消しを決定した。これにより、先端技術分野からの中国人研究者はほぼいなくなった。
<リスク25 ハリウッドへの介入 映画界に忍び寄る中国の影>
・中国の「世界進出」は、映画の聖地ハリウッドにも及ぶ。
テンセントをはじめとする中国企業が、ハリウッドのコンテンツ企業を大量に買収している。
<リスク26 輸出管理法 中国の制裁防衛策により、「技術の分断」が進む>
・輸出管理法は、西側の輸出管理法と同等の法律と考えていい。
<リスク27 中国大企業の失速 アリババ、テンセントにますます資本が集約される>
・GAFAMと中国のベンチャー企業群「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」では、米中それぞれ政府の対応がまったく違う。
・しかし、中国は逆で、BATとアリペイに国内の資本を集約させている。政府が寡占状態を創出、集約させて国際競争力をつけさせる。そうすれば、企業の数が減り、市場をコントロールしやすくなるメリットも享受できる。最終的には、BATを国有化してしまえばいい。自由な経済活動への参加など、これっぽっちも考えていない。
<リスク28 SWIFT 中国の国際決済が一発で止められる恐怖>
・金融面を見ると、アメリカは今後、中国を国際決済のシステムから排除することを考えている。
<リスク29 債務のワナ 中国の租借権ビジネスは限界を迎える>
・今回のコロナ禍で、世界約200カ国のうち100カ国以上がデフォルト危機に陥った。これに対しG20は、パリクラブを介した債務整理を主張している。
<リスク30 尖閣危機 中国に対抗する「シックスアイズ」締結が急がれる>
・中国が何を考えているのか、世界地図を俯瞰して見ると明確になってくる。
・このうちどこかを自国の領土領海にすれば、自由に太平洋に出ていくゲートウェイができると考えると、尖閣諸島周辺の状況も見えてくる。もちろん、尖閣諸島周辺の地下資源、石油、天然ガスも視界に入っている。
<リスク39 実体経済の停滞 海外の工場はこぞって国内回帰する>
・国内経済は「再来年度(2022年度)でも感染拡大前の水準には戻らない」という厳しい声。
・ただし、見方を変えれば、国の将来に向けての産業構造を変革させる大きなきっかけにはなる。停滞期を迎えるが、産業や人間の行動基準、そして企業そのもののあり方を変えるにはいいタイミングではある。
その一つが、製造業の国内回帰である。
<リスク40 東京五輪 経済効果薄、さらなる延期も>
・直近の景気の動向に影響を与えるのが、2021年に延期された東京五輪・パラリンピックだが、開催には不透明な部分が大きい。
<リスク41 インボウンド減 2021年以降も復活は見込めない>
・新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、インバウンドはほぼ壊滅状態だ。
・端的に言って、観光業は主力産業にすべきものではない。所詮は余暇の産業であり、ベースにある製造業が堅調なうえで成り立つもの。
<外国人に依存しない産業構造の変化が急務>
・また、外国人に依存しない産業構造の構築が不可欠だ。人件費が安い人材を海外から連れてきてコストダウンを図るのではなく、「コストダウンのために何が必要であるか」という視点に立ち、必要な投資がされるべきだ。
<リスク42 不動産相場 都心のオフィスビルは「がら空き状態」に>
・コロナ禍の影響は不動産価格にも及ぶ。とりわけ商業用不動産は、今後、下落していくことが予想される。
<中国人が手放した物件を香港人が買う>
・昨今、日本の不動産を買う中国人が減少傾向にある。それどころか、じつは中国人が手放した物件を香港人が購入するケースが増えている。
<リスク43 紙幣価値の低下 世界的な「通貨の希薄化」で金の価値が上がる>
・新型コロナウイルス感染症の拡大で経済活動が停滞、どの国も基本的に「バラ撒き」政策を取っている。
<リスク44 自社ファースト主義 頭を使わない会社は淘汰されていく>
・業績悪化の話ばかりを耳にするが、この国難にあって前出の空調関連のように、利益を大幅に増加させている企業もある。
<いまこそ「顧客第一」に立ち戻るべき>
・コロナ禍でも景気のいい企業の経営者は、「どうすれば儲かるか」「どこに新たな需要があるか」を真剣に考えている。規模の大小に関わらず、頭を使わない会社は消えている。当たり前と思われるかもしれないが、これが経営の本質とも言える。
<リスク45 コンビニ業界の光と闇 CI戦略が明暗を分ける>
・コンビニ大手で明暗が分かれた格好だが、絶好の商機にローソンは何をしたのか。
主な要因は、パッケージングの失敗と私は見ている。ローソンは2020年春に無印良品を展開する良品計画との提携に合わせ、プライベートブランドのパッケージを全面リニューアル。オシャレで若者受けしそうなシンプルなデザインが商品の顔となった。
しかし、「中に何が入っているかわからない」「絵柄が似た商品を間違って買ってしまった」など酷評の嵐に晒される結果となった。洒落たデザインなら消費者が手を出すと考えた思考回路は、現代史に残る謎と言っていい。
ローソンの失敗は、コーポレート・アイデンティティが経営に大きく影響するという商売の基本をわれわれに教えてくれた。
<リスク46 サプライチェーンの代替 大危機に強いトヨタのリスクマネジメント>
・アメリカでは、アメリカトヨタのサプライチェーン内で組み上がるようにしている。ジャスト・イン・タイム生産システムの看板方式により、セブンーイレブンのような地域別のサプライチェーンで極力完結できるようにしている。
・徹底した危機管理で難局を乗り越えたトヨタに対して、日産はルノーと一緒になって、欧州型のグローバルサプライに切り替えたことが完全にあだとなった形だ。地産地消型を忘れたグローバルモデルに転換したために、致命傷に近い傷を負う結果につながった。
日本の自動車メーカーのトップを独走するトヨタにも課題はある。トヨタの収益に大きな割合を占める中国事業である。中国でビジネスをしていても、利益を持って帰れないから現地で再投資するしかない。投資を繰り返せば、バランスシート上の売り上げだけが大きくなっていき、大きなリスクになりつつある。それをどうするか、トヨタの出方には注目しておきたい。
<リスク47 ソフトバンク 米中の“股裂き”で苦しむ立場はいつまで続くか>
・前著『世界と日本経済大予測2020』でも解説したが、ソフトバンクは現在もなお相当厳しい状況に置かれている。
アリババをはじめとする中国企業に多額の投資をしていることで、米中の対立で股裂き状態になっている。
ソフトバンクがアメリカの規制を受けずに営業するには、社内のサービスにソフトバンク製のソフトと回線の使用を控えることが条件になる。
社内ではNTTやauを使って、お客さんにはファーウェイやアリババの製品などを売る。ところが、ソフトバンク製品をサポートすると制裁対象になってしまうから、別会社をつくる必要がある。なんとも複雑なビジネスだが、それしかない。
米中とのあいだで“股裂き”に遭っている状態のなか、二者択一を迫られたときに、中国と心中する覚悟があるかは未知数である。
<リスク48 テレビCMの激減 芸能人のユーチューブ進出は止まらない>
・エンターテイメント産業も、コロナ禍の直接的な被害者だ。だが、同情の余地はなく、個人的にはエンターテイメント産業はすでに終わった存在と見ている。
<高齢者がテレビの嘘に気づき始めた理由>
・「テレビ離れ」は若者だけに限らない。じつは高齢者層もテレビも見なくなってきている。
理由の一つに、偏った報道が通用しなくなったことが挙げられる。ユーチューブやSNSの視聴慣習が高まり、テレビの報道が偏っていることに気がつき始めたのではないか。
<リスク49 新聞の失墜 イベント中止に伴い利益激減、構造変革が待たれている>
・コロナ禍で最も大きなダメージを受けたのは、メディアのなかでは新聞かもしれない。
テレビ局のCM激減は前述の通りだが、新聞は広告収入だけでなく実際の業務にも支障が出ている。たとえば、新聞記者は取材に行けなくなった。
<リスク50 四半期決算 目先の利益確保より、“企業百年の計”を立てよ>
・トランプ大統領は大統領選挙で当選した2016年からの数年、この数十年の大きな国際経済における問題として、現在上場企業に義務付けられている四半期決算を半期決算に変更することを主張し続けてきた。これには筆者も賛同する。
・いっそ四半期をやめて、たとえば半期決算にすれば、もう少し長い視野でのサプライチェーン構築が可能になる。“企業百年の計”ではないが、企業の中長期計画を多少なりとも組み上げられるのではないか。
<「日本」はこれから強くなる>
・拉致問題や中国との関係など、これまで通りの路線を継続するとしているが、安倍政権よりもハト派的な政策をとる可能性も否定できない。憲法改正に関しても後退する可能性がある。
<リスク52 スガノミクス アメリカ資本の参入は期待できない>
・コロナ禍でボロボロになった国内経済はそう簡単には立ち直らず、景気がさらに悪化するのは目に見えている。そのうえ、米中の対立が激化し、国際政治の荒波が持ち込まれ厳しい政権運営が予想される。
<リスク53 外交戦略の転換、対米、対中方針は現状維持>
・だが、心配は無用だろう。日米の緊密な同盟を維持する方針は自民党政権である限りは変更しない。
・注意が必要なのはむしろ中国との関係だが、これも大勢は変わらないだろう。自民党の党内勢力で考えたときに、親中派は少なく3分の1もいない。米中の二者択一をしなければいけない世界情勢のなか、あえて中国を選ぶ選択肢はない。自民党内でそのようなことになるはずはないし、また、国民も認めないはずだ。
<中国包囲網は継続される。>
・そもそも、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」は安倍首相の私案ではない。日本の外交方針でもある「自由と繁栄の孤」でインドを巻き込んだ中国包囲網は、アメリカではさらに発展させた太平洋版NATOとして論じられることが多い。
<首相の仕事は、内政より外交>
・勘違いされがちだが、総理大臣が内政で発揮できる力は外交ほどではない。大きな方針を決めるなどイメージづくりはできるが、内政では党の力が相対的に強い。
・一方、外交においては、首相の権限が圧倒的に大きい。
・ちなみに、外交の実務を任されているのは外務大臣ではない。トップ会談の次に行なわれているのはG20での財務大臣の会談である。
<リスク54 多発する災害 来る震災・水害に備えて列島強靭化は急務>
・ここ数年、世界はもちろん、日本でも異常気象が叫ばれている。
2019年だけでも、6月に九州南部で、降り始めからの総降水量が1000ミリ超の記録的な大雨となり死者2名を出し、8月にも九州北部地方で600ミリを超える雨が降り、死者4名を出した。10月には台風19号、21号が関東地方を直撃し、死者98名、住家の全壊2806棟を出すなど大きな被害が生じた。
こうした猛烈な台風や雨が世界的に気候変動とどう関わっているかは一概には言えないが、南シナ海の海面温度が上がっていたり、北極の氷が溶けたり、世界的な環境の変化に多少なりとも影響を受けているだろう。
そうした地球環境の変化を踏まえて、日本でも首都直下型地震や水害に備えなければならない。これに関しては列島強靭化を進め、災害が発生しても被害が出にくい環境をつくっていくしかない。
<感染症病床が足りない>
・東京都内は東京五輪・パラリンピックを控えているためインフラ更新が進み、緩やかに強靭化はされているが、昨今のスーパー台風や、これまでに経験したことのない豪雨、長雨などの災害にどこまで対応できるかは未知数の部分が大きい。しかも対策にはコストがかかるので、リスクとのバランスも考えないといけない。
<ホテルを病棟に変える制度が求められる>
・また、非常時に協力してくれるホテルなどに補助金や助成金を出すなどの仕組み、何かがあったときに法改正も含めてホテルを接収できるような協力ホテル制度とでも呼ぶべき制度を整える必要もある。いつでも病棟に変えられるようにしないと、第二の新型コロナウイルス禍が発生したときに医療崩壊につながりかねない。
<リスク55 働き方改革 リモートに照準を合わせた教育整備が進む>
・逆に、ある程度の専門性の高い学業を教わる高校や大学では、全部オンラインにしてもいいぐらいだ。やる気のある生徒には対面型でもオンラインでも大差ない。今後のオンライン授業はどうあるべきか、これも考えておかなければならない課題である。
<リスク56 「地方創生」 「地元のモノ」を活かした産業が伸びる>
・もっとも、地場産業として成り立つのは、基本的に「昔からあった産業」だけだ。最適化されたからその地に根付いたのであり、人工的に移植するような形では根付かない。異質なものを持ってきても、拒絶反応を示すだけである。
<リスク57 先例踏襲 ビフォーコロナにはもう戻らない>
・また、政治と経済は別という欺瞞も完全に否定されつつある。これはアメリカや世界で展開する中国企業を見れば明らかである。
つまり、安全パイとしての先例踏襲、「これまでは」こそが、すべてにおいて最大のリスクであり、これまでとは違うと考え、どうするか能動的に動くことこそが成功のカギとなる。
<いまはピンチでもあるが、チャンスでもある。>
・戦争の時代を迎えるにあたり、他人をアテにしてはならない。大事なのは情報の取捨選択。自ら考えて合理的に答えを導き出す意識をもつことだ。
『ポスト・コロナ「新しい世界」の教科書』
<コロナ収束後から始まる世界の地殻変動>
・スペイン風邪の流行(1918~20年)から約100年の時を経て、世界は新型コロナウイルスの猛威に襲われた。
スペイン風邪では世界中で5億人が感染し、1700万から5000万人の死者が出たと言われている。
・そして2020年、世界で中国発の新型コロナウイルス感染症が猛威をふるった。その結果、各国は国境を閉じ、ヒトとモノ、カネの動きが滞る事態となっている。
・日本企業はローテク技術を新興国や中国に移すことによってコストダウンを図ってきたが、今回の新型コロナ問題によりサプライチェーンが分断されることによって、ローテク製品がないがゆえにハイテク製品がつくれないという状況になることの危うさに、日本の多くの人たちが気づくようになった。
<嘘で被害を拡散させた中国への制裁が始まる>
<統計学が見抜いた中国の嘘>
(高橋) いやもう、中国の発表は全てウソですよ。ウソだということがすぐにわかる。
たとえば、武漢からチャーター機で帰国した日本人は600人弱ですが、感染者は14人で感染率は2.3%くらい。これらの日本人が武漢で感染者と接触した率は中国人と同じか、少し低いぐらいだという推定をたてます。
武漢の人口は1089万人。先の感染率を当てはめると少なくとも20万人以上は感染者がいるはずです。また、先の数字から致死率はだいたい5%と見積もると、少なくとも武漢だけで1万人は死者が出ていないとおかしい。そういうことがわかるわけです。
(渡邉) 武漢市は4月29日現在で、感染者累計5万333人、死者は3869人。明らかに少ないですよね。
<これから中国へ向かう全世界の怒り>
(高橋) 新型コロナウイルスについては、武漢のウイルス研究所から漏れた、あるいはウイルス研究所でつくられた人工ウイルスだという話もあります。
その真偽についてはわかりませんし、眉唾な情報もありますが、少なくとも初期段階において世界に向け正しいディスクロージャーをきちんとしなかったというのは確かです。
<中国に接近した国ほど被害が拡大>
(高橋) 先ほども少し話が出たように、中国は他国にマスクや防護服などを売りこんだりしていますが、これが不良品ばかりで非常に評判が悪い。
たとえばオランダは中国から医療用のN95マスクを輸入しましたが、3月に到着した130万枚のうち、60万枚が不合格だったため、全量を不良品として返品しました。
3月中旬にはスペインとチェコに送られた数十万枚の新型コロナウイルスのテストキットも不良品ばかりだったということです。
フィンランドでは、中国から購入した200万枚の外科手術用マスクと個人用防護具23万個の全部が不良品だったため、国家緊急供給庁の責任者が辞任する騒ぎとなっています。あまりの中国の対応に、どの国も怒りだしている感じがします。
・(高橋) イギリスは完全に中国に対して敵対的になりそうな感じが するし、マクロンも同様で、これでメルケルまでもそうなってしまうと、中国がこれまでヨーロッパで影響力増大に努めてきたことが、みんな崩れてしまうかもしれない。実際、中国と親密だった国ほど、被害が大きいですからね。
(渡邉) さらに言うと、政治的に中国と接近していた国ほど、実は国民の不満は大きかったのです。
イタリアでは、革製品や工場や縫製工場などを中国企業が買い漁り、そこへ中国人労働者を送り込んで製造技術を盗んで、「made in Italy」として世界に輸出していた。つまり、イタリア人の雇用を奪っていたわけです。
イタリアはヨーロッパでも中国人移民の多い国で、合法的な中国人移民は30万人以上ですが、不法滞在中国人はそれ以上存在すると言われます。
とくに人気ブランドが多く存在する北イタリアのミラノは「イタリアにおける中国人の首都」と言われているそうです。
<ようやく真実の数字に近づいた中国のマイナス6.8%>
(高橋) この新型コロナ・ショックの影響で、中国は2020年1~3月のGDP成長率をマイナス6.8%と発表しました。
<中国を待ち受ける悲惨な未来>
・(渡邉) 中国のGDPは、地方政府が報告してくるGDPを全部足し合わせたものと、中央政府が発表するGDPが数十兆円規模で乖離していることは有名です。とくに地方政府が自らの手柄のためにGDPの水増しをしている。
(高橋)先述したように、私は2016年に刊行した本のために中国のGDP成長率を計算して、マイナス成長だと書きました。
ところがその本を出したら、中国政府の関係者から大学に文句が来たのです。さらには、日本人の中国研究者からも大学にものすごい抗議がありました。
<なぜ中国に騙されるのか>
(高橋)私が中国の本当のGDP成長率を計算してみようと思ったのは、ソ連(ソビエト連邦、1922~91年)の統計のインチキというところから始まっているのです。ソ連は、建国以来70年間、統計をごまかし続けてきたのですが、それがソ連崩壊によってわかった。崩壊後に、あれも違う、これも違うというのが山のように出てきた。
それで、中国の国家統計局のシステムと組織は、現在もソ連の国家統計局と同じなのです。だから、同じようにごまかしているのが普通だろう、ということで、見直してみたわけです。
中国の輸入量は世界各国の中国への輸出量とだいたい一緒だと推論し、その数字をもとに、消費税とGDPが連動するという経済学理論を組み合わせて推計したところ、中国のいまの経済成長率はマイナスになったというわけです。
実は失業率統計があるとGDPの統計が正しいか嘘かが検証できるのですが、中国は失業率統計を隠しているのです。中国も賢いから、嘘がバレる材料となる数字は、ソ連の経験に学んでみんな隠すわけです。
ソ連の統計の嘘というのも、ソ連が崩壊してようやく資料が出てきてわかったことであって、それまではアメリカの経済学者が寄ってたかって計算しても、誰も嘘だと証明できなかった。
・(渡邉) 旧ソ連に騙された学者も多いですが、中国に騙される学者も多いですよね。
情報統制していて、しかも国有企業を株式市場に上場させるという、資本主義ではありえないことをしているのに、それを誰も不思議だとは思わない。
少数民族弾圧も知らぬ素振りで日中友好を声高に主張する「親中学者」も少なくありません。中国市場への魅力なのか共産主義というイデオロギーに夢を見ているのかわかりませんが、そういうパンダハガーが日本にはとても多い。