『幻想 用語辞典』
新紀元社 編集 2021/5/18
<アールヴ>
・北欧神話に登場する妖精族。光の妖精リョールアールヴと闇の妖精デックアールヴの2種類に分かれている。リョースアールヴはアールヴヘイム、もしくは天界ギムレーに住み、豊饒神フレイの支配下にある。太陽より美しい輝く姿で、神々と行動を共にすることも多かった。古来より民間で信仰されており、祖霊の一種とする研究者もいる。一方、デックアールヴは瀝青(アスファルト)よりも黒く地下世界スヴァルトアールヴヘイムに住むとされ、小人族ドヴェルグと混同されることが多い。
<アールヴヘイム>
・北欧神話に登場する9つの世界のひとつ。光の妖精族リョースアールヴの住む世界で、豊饒神フレイに乳歯が生えたときのお祝いに贈られたとされる。どのような世界で、どんな場所にあったのかは伝えられていない。リョースアールヴが天界ギムレーに住むとされることから天上にあるとも考えられる。
<アヴァターラ>
・インド神話の概念。「降下」の意味で、神が生類を救うために地上に降臨した姿。シヴァ神やインドラ神もアヴァターラの姿をとるが、特にヴィシュヌ神のとった10の姿が有名。日本語では「化身」と訳される。
<アガルタ>
・中央アジアに存在すると考えられていた地下王国。19世紀のフランスの作家ルイ・ジャゴリオの『神の子』では「アスガルタ」、ポーランドの鉱物学者オッセンドウスキーの『獣・人・神』では「アガルティ」として取りあげられている。19世紀末にフランスのアレクサンドル・サン=ティーヴ・ダルヴェードルによって書かれた『インドの使命』によれば、ブラフマトマと呼ばれる祭祀王が治める優れた国家であり、住民たちはアトランティスの末裔なのだという。近代オカルト思想では一種の理想郷としてシャンバラなどとも同一視され、多くの人々を探し求めることとなった。
<アザゼル>
・アザエル、アザザエル、ハザゼルともいう。ユダヤ教の贖罪の儀式に登場する魔神。
・後の伝承では人間の女性との間に子供をもうけた堕天使の1人。
<阿修羅>
・インド神話のアスラの漢語訳。修羅とも。仏教では、仏教を守護する8つの種族、天竜八部衆のひとつ。
<アスクレピオス>
・ギリシア神話に登場する医療神。アポロンとテッサリアの王女コロニスの息子。浮気を疑われた母コロニスがアポロンに殺害されたため、胎内から取り出されたケンタウロスの賢者ケイローンのもとで育てられた。偉大な医者に成長するが、死者を生き返らせたことから神々の怒りを賢い命を落とす。その後、アポロンの抗議により許された神となった。
<アスモデウス>
・アスモデ、アスモダイともいう。イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、72の軍団を率いる地獄の王。かつては熾天使の地位にあった。
・透明になる術や幾何学、数学、天文学、工芸などの知識を授け、隠された財宝のありかを教える力を持つ。『旧約聖書』では、サラという花嫁に取り憑き悩ませていたところを旅人トビアと大天使ラファエルによって退治されエジプトに封じ込められた。
<アスラ>
・インド神話の神であるデーヴァと対立する一族。神に匹敵する力を持ち、デーヴァたちと協力して不死の霊薬アムリタを作ったが、アムリタはデーヴァたちに独占され、不死の存在にはなれなかった。天界に作った金の都市、虚空に作った銀の都市、地上に作った鉄の都市の3つの都市に栄えて三界を征服したが、シヴァ神が神々の力を合わせては放った一矢で滅ぼされた。仏教に取り入れられたアスラ阿修羅となり、仏法の守護者になった。
<アズライル>
・アズラエルともいう。ユダヤ、イスラム教の伝承における死の天使。イスラムの伝承ではイズライールとも呼ばれ、7万の足と14万の翼、人間の数と同じだけの目と舌を持つ。死を迎えるものの前に快い姿で現れるので、その魂がアズライルに恋してしまい、その間に魂を抜かれるのだという。またアズライルが大きな書物に名前を書き込むと人間が生まれ、消すと死ぬともされる。アダムを作るための塵を集めることの成功した唯一の天使とする伝承もある。
<アダム>
・『旧約聖書』に登場する人物。神によって創られた最初の人間。神はほかの生き物を支配する存在として、自らに似せて土からアダムを作った。エデンの園で管理者として暮らしていたが、妻のイブの勧めで知恵の木の実を食べたため、園を追放された。また、その罪によって土は神に呪われ、作物を得るのに苦労するようになった。アダムはその後930年生き、子孫をもうけて人類の祖になった。
<アダム・カドモン>
・ユダヤ神秘主義思想の伝承に登場する「原初の人間」。名前は「転落したアダム」を意味する。『旧約聖書』におけるアダムとは異なり、完全な神の似姿、理想の人間像とされる。
<アトランティス>
・ギリシアの哲学者プラトンの著作『ティマイオス』と『クリティアス』に登場する幻の大陸。また、その大陸に存在したとされる国家。名前は海神ポセイドンの血を引く初代国王、アトラスに由来している。大陸は首都アクロポリスのある島を2重の陸帯と3重の水路が囲む円環構造をしており、豊富な資源に恵まれた豊かな土地柄だった。強大な軍事力を持っていたが、慢心から都市国家アテネに敗北し、さらに神の怒りにより海底に没してしまったとされる。19世紀以降、プラトンの本にはない記述を含む偽史やオカルト思想の登場で超文明を持つ国家と考えられるようになり、創作の世界に大きな影響を与えることとなった。
<アドリヴン>
・イヌイットの神話に登場する冥界。深い海の底にある暗い世界で、冥界の女神セドナが支配している。ここにはセドナの父アングタも住んでおり、セドナに逆らった、あるいは罪を犯した死者の魂を選んでくるのだという。死者たちはここで罪の大きさに従って裁かれた。なお、より深い場所に、死者たちが快活に暮らし、自由に狩猟を楽しむアドリパルミウットという冥界も存在している。
<アトロポス>
・ギリシア神話に登場する運命の女神モイライの1柱。姉妹たちが紡ぐ、人間の一生を象徴する糸を切る役割を持つ。
<アナーヒター>
・ゾロアスター教の補佐的神格である陪神ヤサダの1柱。善神アフラマズダの娘。星の王冠と黄金のマントをまとい、2頭立ての戦車に乗った背の高い美女として描かれることが多い。全ての河川の源流である聖なる泉が擬人化された女神で、人々に生命を与え、雨や雲を支配し、豊作をもたらし、男女の種子や子宮、母乳を聖別するとされる。
<アナト>
・古代カナアンの女神。「山の貴婦人」、「乙女」の尊称で呼ばれる。嵐と豊穣の神バアルの妹にして妻であり、女神アスタルテは姉妹。戦と狩猟を司る女神で、しばしば兜や武器で武装した姿で描かれる。その気性は激しく、夫バアルを殺害した冥界神モトなどは剣でバラバラに切り刻まれ、臼で挽いて大地にばら撒かれた。
<アヌビス>
・アンプ、インプともいう。古代エジプトの神。墓所の守護神で、ミイラ作りや遺体を管理する。また、「開口の儀式」によって死者の身体機能を回復し、オシリスの法廷で天秤を使って死者の罪の重さを測る役目も与えられていた。黒い山犬、もしくはジャッカルの頭部を持った男性の姿、あるいは飾り紐を首に巻いた黒犬の姿で表される。上エジプトの都市ハルダイを起源とするが、後にオシリス神話に取り入れられ、オシリスとネフティスの子と考えられるようになった。さらに、ギリシアではヘルメス、ローマではメルクリウスとも同一視されている。
<アポロン>
・ギリシア神話に登場するオリンポス12神の1柱。大神ゼウスとティターン族のレトの息子で、女神アルテミスの双子の兄。予言、音楽、医療、数学、詩などを司り、疫病神としても恐れられた。デルフォィで行われる神託は、特に重要視されたという。月桂冠をかぶり、竪琴や弓矢を持つ優美な姿で描かれ、若者の理想像と考えられていた。後に太陽神と同一視されるようになる。
<アマテラス>
・オオヒルメムチともいう。日本神話に登場する天津神の主神。『古事記』では天照大御神、『日本書紀』では天照大神と書く。イザナギが黄泉の穢れを祓うために禊をした際に産まれた三貴子の1柱で、左目から生まれた太陽神でありイザナギに託された高天原を統治している。自ら機織りや稲作に励む一方、武装して弟スサノオを出迎えるなど激しい一面もあった。孫のニニギに三種の神器を授け、豊蘆原瑞穂国を治めさせたことが日本の国の始まりとされる。天皇家直系の先祖である皇祖神であり、現在は伊勢神宮に祀られている。
<アミ―>
・イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、36の軍団を率いる地獄の総統。かつては能天使の地位にあった。地獄では炎に包まれた姿をしているが、地上では魅力的な人間の姿で現れる。科学や占星術の知識を授け、秘密の財宝を見つけ、良い使い魔を与える力を持つ。悪魔として扱われることに不満を持っており、将来天界に復帰することを望んでいるとする文献もある。
<アムシャ・スプンタ>
・アマフラスパンドともいう。ゾロアスター教における善神アフラ・マズダが自らの仕事を手伝わせるために生み出した補佐的神格である陪神。ウォフ・マナフ、アシャ、アールマティ、フシャスラ、ハルワタート、アムルタートの6柱の男女の神々で、それぞれがアフラマズダの側面のひとつとしても機能している。また、ここにアフラ・マズダの創造の力を象徴するスプンタ・マンユが加えられることもある。
<アムドゥスキアス>
・イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、29の軍団を率いる地獄の公爵。一角獣、または人間の姿で現れる。オーケストラなどの楽団を必要とせずに素晴らしい音楽を提供し、樹木を思うままに曲げ、良い使い魔を与える力を持つ。
<アンドラス>
・イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の1柱で、30の軍団を率いる地獄の大侯爵。鴉、もしくは梟の頭に天使の体で、手には鋭い剣を持ち、黒い狼にまたがった姿で現れる。破壊や不和を好み、気に入った相手には敵対者を滅ぼす方法を教える。また、あらゆる家庭の主人や召使のなかで、注意や用心を怠ったものを殺害するとする文献もある。
<アンドロメダ>
・ギリシア神話の登場人物。エチオピアの王ケフェウスの娘。母カシオペアがアンドロメダの美貌を誇ったため、海神ポセイドンの怒りを買う。ポセイドンがエチオピアに差し向けた怪物の生け贄として差し出されるが、英雄ペルセウスに救われ彼の妻となった。
<アンヌヴン>
・ウェールズの神話、伝承に登場する異界。不思議な力を持つ人々や動物が住んでおり、様々な魔法の宝物が眠っている。後に、キリスト教の地獄と同一視されるようになった。
<アンラ・マンユ>
・アーリマン、アフリマン、アングラ・マンユともいう。ペルシア神話、ゾロアスター教における暗黒の地下世界に住む悪神で悪魔ダエーワたちの王。善神アフラ・マズダによって善の精霊、スプンタ・マンユと共に生み出されたとされる。しかし、時代が下るとアフラ・マズダの双子の兄弟で、彼に対抗してこの世のあらゆる悪しきものを創造したと考えられるようになった。世界の終末において、救世主サオシュヤントによって滅ぼされる。
<異界>
・この世界とは普段はつながっていないどこか別の世界。何らかの方法やタイミングが合う場合、あるいは神のような力のある存在だけが行き来できる。
<イシス>
・アセトともいう。古代エジプトの女神の1柱。頭巾をかぶり、椅子の標識を頭に載せた古風な衣装の女性の姿で描かれる。名前は「座席」の意味。運命を支配する大女神で、死者の守護者、新生児の守護者など様々な役割を持つ。さらに、すべての存在の名前を知る魔術の女王でもあった。悪神セトに殺害された夫オシリスを魔術で蘇生して息子のホルスをもうけており、彼がエジプトの王位を手に入れるのを助けたとされる。イシス信仰は密儀宗教として古代ローマにも取り込まれており、ローマ帝国の各地で信仰された。
<イシュタル>
・古代アッカド・バビロニアの女神。シュメールにおけるイナンナ。豊穣と愛を司る女神。また、明けの明星の女神ともされる。戦の女神でもあり、メソポタミアに流入したアッシリアの民にも崇拝された。これらの異なった彼女の神格は、それぞれ鳩、金星、獅子と結びつけられている。イシュタルは『イシュタルの冥界降り』において、冥界の女神エレシュキガルに囚われた夫タンムーズを救うために冥界に降る愛情深い女神として描写されている。
・実際、イシュタルは多くの愛人を持つ女神と考えられていた。
<出雲>
・現在の島根県東部。日本神話の主な舞台のひとつ。スサノオのヤマタノオロチ退治や、オオクニヌシによる国作り、国譲りの神話など、多くの神話が残っている。古くから栄えた土地で、出雲大社をはじめとする重要な史跡も多い。旧暦の10月には出雲に日本中の神々が集まるとされ、別の地域では「神無月」、出雲では「神有月」と呼ばれている。
<イナンナ>
・古代シュメールの女神。後にアッカドの女神イシュタルに神格を統合された。「天の貴婦人」とも称される重要な女神で、主神アン、あるいは神々の指導者エンリルの子とされている。愛と豊穣の女神、残忍かつ大胆な戦争の女神、天を飾る金星の女神など様々な側面を持つ。その性格は愛情深い反面傲慢で、自分の守護するウルクを発展させようと、智恵の神エンキを酔わせ、彼の持つ創造の力“メ”を強奪するなど、目的のために手段を選ばない狡猾さを備えていた。しかし、『イナンナの冥界降り』では、彼女を警戒する姉のエレシュキガルの罠により、一度殺害されている。
<ヴィシュヌ>
・インドの神。ヒンドゥー教の三主神の1柱。多数の化身アヴァターラの姿をとり、様々な神話に登場する。代表的なものは『マハーバーラタ』の英雄クリシュナ、洪水を引き起こす巨魚マツヤ、『ラーマーヤナ』の主人公など。仏教の開祖ブッダや、カリ・ユガに現れる救世主カルキもヴィシュヌの化身である。神鳥ガルーダに乗り、大蛇シェーシャ、またはアナンタを寝床とし、3歩で宇宙をまたぐ。ラクシュミーを妻とする。
<ウェパル>
・セパールともいう。イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、29の軍団を率いる地獄の公爵。人魚の姿で現れる。海を支配して船を導くことも沈めることもでき、敵に負わせた傷を化膿させ蛆をわかせ3日で死に至らしめる力を持つ。
<ウリエル>
・ユダヤ、キリスト教で重要視される大天使。手に炎を灯した姿で描かれる。ミカエル、ラファエル、ガブリエルたちと共に四大天使とされることもあるが、『旧約聖書』、『新約聖書』の正典にはウリエルの名は登場しない。各種の偽典の記述によれば、罪人を処罰する地獄の番人であり、最後の審判の際には冥界の門を壊す役割を持つとされる。また、神に選ばれ天に昇った義人エノクの案内役も勤めた。ユダヤ教の伝承ではカバラの知識をもたらした天使である。8世紀の教会会議において天使としての地位を剥奪されたが、後に復権を果たした。
<ウルク>
・古代メソポタミアの都市。現在のイラクのムサンナー県サマーワ市の東方に存在した。都市神は豊穣と愛の女神イナンナ、紀元前4000年ごろには都市化していたウルに並ぶシュメール最初期の都市であり、その規模はほかの都市の2倍に匹敵する巨大なものであった。
<ウルズ>
・ウルドともいう。北欧神話に登場する女神の1柱。3柱1組で行動する運命の女神ノルニルの代表格の1柱で、過去、現在、未来のうち過去を担当する。アース神族とされるが、神々の黄金時代を終わらせた3人の巨人の娘と同一視されることも多い。
<エーテル>
・ギリシア語で「空気」もしくは「天空」を意味する言葉で、古代ギリシアにおいて世界を構成する第5の要素と考えられていた物質。近代の自然科学では何もない空間を満たし、光や磁気、熱などを伝達する物質と考えられていた。近代の神秘学思想ではこの考えをさらに推し進め、肉体、霊魂と共に人間を構成する第3の要素で、両者を結びつけているとしている。もっとも、後にエーテルの存在は相対性理論により否定された。なお、現在エーテルと呼ばれているものは、メチルエーテルの略で麻酔、溶剤として用いられている。
<オシリス>
・イウ・ス=イル・ス、ウシルともいう。古代エジプトの神の1柱。死と復活、豊饒を司る神で、死者の罪を測り、正しいものには永遠の命を約束した。上エジプトの王の象徴である白冠、アテフ冠をかぶり、牧杖と殻竿を持ったミイラの姿で描かれる。名前の語源に関しては諸説あり、判然としない。地上最初の王として君臨していたが、弟の悪神セトの策略により殺害されたとされる。その死体はバラバラにされ、ばらまかれたが、妻イシスの手で回収、蘇生された。しかし、体の一部を失った不完全な蘇生であったため、結局オシリスは冥界を支配する神となったのだという。
<鬼>
・日本の伝説、伝承に登場する怪物。目に見えない存在や得体のしれない存在を表す「おに」に、中国で幽霊や化け物の総称として用いられた漢字「鬼」をあてたものとされる。幽霊や1つ目の怪物、姿を現さない怪物、人間が妄執から変化した怪物など、古くはその姿も様々であったが、仏教と共に伝わった地獄の獄卒や夜叉、羅刹の姿の影響を受け、現在のような角を生やした強面の巨人の姿で描かれるようになった。なお、牛の角に虎の毛皮の腰巻は「鬼門」を表す「丑寅」の方角を、3本の指は仏教における「慈悲」と「智恵」の2つの徳を欠くことを表すとされる。
<オベロン>
・ヨーロッパの民間伝承にたびたび登場する妖精王。ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』では小人の妖精王アルベリヒ、フランスの騎士物語『ボルドーのユオン』では森の妖精王オーベロンが登場する。
<国津神>
・地祇(ちぎ)ともいう。日本神話に登場する神々。天孫降臨以前から豊蘆原瑞穂国(とよあしはらみずほのくに)に住みついた神々がこう呼ばれる。天津神より下に置かれることもあるが、出雲の主神オオクニヌシのように、天孫降臨後も大きな勢力を誇る神々も存在した。
<サルタヒコ>
・日本神話に登場する国津神の1柱。『古事記』では猿田毘古神、『日本書紀』では猿田彦神と書く。
・その容貌は非常に個性的で、全身が輝いて天地を照らしていたとも、身長と鼻が大きく目は鬼灯のように輝き、口の縁が赤かったともされる。後にアメノウズメと夫婦になっており、中世以降は道祖神や庚申信仰と結びつけられた。
<サマエル>
・ユダヤ教における死の天使で、悪魔たちの王。12枚の翼を持つ。本来は熾天使(セラフィム)より上位に属しており、イスラエル以外の全ての地域を守護していたが納得せず、イスラエルを担当するミカエルに戦いを挑み敗北したとされる。イブを誘惑した蛇や悪魔アスモデウス、グノーシス主義の造物主ヤルダバオトなどと同一視される。
<サラスヴァティ>
・インドの女神。サラスヴァティは河の名前であったが、神格化され河の神となった。ブラフマー神の妃だが、ヴィシュヌ神の妃とされることもある。蓮華の花に座り、弦楽器を奏でる姿で描かれる。仏教に取り入れられ、学芸と財宝の神である弁財天になった。
<シャンバラ >
・チベット仏教の経典『時輪タントラ』などに登場する伝説の仏教国。ブッダの入滅に先駆けて12000点にも及ぶ重要な経典が運び込まれたとされ、現行の諸経典はこれらを簡略化したものとされる。イスラム教勢力とは敵対関係にあり、シャンバラとイスラム教勢力が最終戦争を行うという予言は周辺国家に大きな影響を与えた。20世紀のロシアの神秘思想家ニコライ・リョーリョフ以降、近代オカルト思想では指導者マハトマの治める理想郷とされ、地下王国アガルタなどとも同一視されるようになっている。本来はヒンドゥー教の神ヴィシュヌの化身カルキが治めた国の名。
<シリウス>
・おおいぬ座の一等星。冬に南の空に見える。全天で最も明るく輝く星。「焼き焦がすもの」の意味のギリシア語に由来している。エジプトではアセトと呼ばれ、女神イシスを表す星、ナイル川の洪水を引き起こし、恵みをもたらす星として愛された。
<ジン>
・アラビア、およびイスラム教の伝承に登場する精霊、もしくは悪魔。神によって熱風から作られたとされ、力を持つものから順にマリード、イフリート、シャイタン、ジン、ジャーンという5つの階級に分かれている。彼らは巨人や美女など様々な姿に変身でき、砂漠や廃墟、孤島などの人里離れた場所に住むと考えられていた。また、独自の王国を築いており、建物は宝石で作られているのだともいう。ジンの性質は千差万別で、人間に幸運をもたらすものもいれば、天変地異や災厄を引き起こす邪悪なものも存在した。女性のジンの中には人間の妻となるものもいたとされる。
<神智学>
・神秘的な体験や啓示などにより、直観的に神の本質や隠された叡知を得ることができるとする哲学、思想を持つ学問の総称。狭義的には20世紀の神秘思想家H・P・ブラヴァツキーとH・S・オルコットにより創設された神智学協会の思想や活動のことをいう。天球が7つの霊的段階を経て最初に戻る「回帰」、人類発生の起原となる「根源人種」からの段階的霊的進化、カルマと輪廻などを軸とする思想で、こうした知識は「大師(マスター)」もしくは「マハトマ」と呼ばれる霊的アドバイザーからもたらされたものとしている。
<人狼>
・狼男、ライカンスロープ、ワーウルフ、フランスではルー・ガルー、ドイツではヴェアボルフなどともいう。ヨーロッパの伝説、伝承に登場する怪物。人間から尾のない狼、もしくは狼と人間の中間的姿になって人々を襲うとされ、特に女性や子供を好むと考えられていた。人狼になる理由は、悪魔との契約や魔術、特殊な出自など様々であるが、中には狼に噛まれた、狼の足跡に留まった水を飲んだなど事故的なものもある。
<スクルド>
・北欧神話に登場する女神の1柱。3柱1組で行動する運命の女神ノルニルの代表格の1柱で、過去、現在、未来のうち未来を担当する。アース神族とされるが、神々の黄金時代を終わらせた3人の巨人の娘と同一視されることも多い。ワルキューレとしても名前があげられているが、彼女が両方の役割を果たしていたのか別の女神なのかははっきりしない。
<スサノオ>
・日本神話に登場する神の1柱。『古事記』では須佐之男命、『日本書紀』では素戔嗚尊と書く。イザナギが黄泉の穢れを祓うために禊をした際に生まれた三貴子の1柱で、鼻から生まれた。イザナギから海原を託されたが治めようとせず、母に会いたいと泣き暮らしたために追放される。
<ゼウス>
・ギリシア神話に登場するオリンポス12神の1柱。農耕神クロノスとレアの息子。天界を支配し、人間界の法と秩序、正義と王権を司る。神々の中で最も強く、常に先頭に立って敵対者たちと戦った。恋多き神でもあり、多くの女性たちとの間に神々や英雄、王族の祖などももうけている。王杓(おうしゃく)と雷霆(らいてい)を持ち、鷲を引き連れた威厳ある壮年の男性の姿で描かれる。
<セーレ>
・イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、26の軍団を率いる地獄の王族。翼のある馬にまたがった、長髪の美男子の姿で現れる。瞬く間にあらゆる事柄を行う力を持つ。一瞬でどこへでも移動し、盗まれた品々を手にいれるが、ことの善悪には無関心であるとされる。
<セクメト>
・セヘメト、サクメトともいう。古代エジプトの女神の1柱。2本の肩紐のある衣装を身にまとった牝ライオンの頭の女性、あるいは牝ライオンの姿をとる。太陽神ラーの娘とされ、古くから信仰を受けていた。また、メンフィスでは創造神プタハの妻とされる。王家の守護と戦いを司る女神であり、太陽の運行を表すラーの眼とも考えられていた。よく似た役割と外見を持つ湿気の女神テフヌトや、猫頭の女神バステトと同一視されることも多い。大変好戦的な女神で、名前は「力強い女」を意味する。ラーの命令で人間たちを成敗した際には、危うく絶滅させるところだった。神々は彼女を止めるために、血の色に染めたビールで酔い潰さねばならなかったとされている。
<セレネ>
・ギリシア神話に登場する月の女神。ティターン族のハイペリオンとテイアの息子で、太陽神ヘリオス、暁の女神エオスとは兄妹。美貌の羊飼いエンデュミオンを愛し、ヒュプノスから永遠の眠りを与えられた彼のもとに通って50人の子をもうけたとされる。また、大神ゼウスとの間に美貌の娘パンディアももうけている。後にアルテミスと習合され、月の女神の役割はアルテミスのものとなった。ローマではルナと同一視されている。
<創造神>
・この世界を創り出した神。何らかの材料、またはまったくの無から大地や海、生き物を作り出す。アフラ・マズダ、ブラフマー、オーディン、『旧約聖書』の神などがそれにあたる。ゼウスのように、主神であっても創造神ではない神もいる。
<ソロネ>
・座天使、オファニム、ガルガリンともいう。偽ディオニシウスの定めた天使の階級では第3位。複数形はスローンズ。炎を吹き多くの目を持つ巨大な車輪の姿、もしくは天秤を持った姿で表される。ユダヤ教の伝承では、神の戦車を構成しており、ケルビムたちが操作していると考えられている。
<高天原>
・日本神話に登場する天津神たちの住む国。アマテラスが治めており、『古事記』や『日本書紀』では天上の世界として描かれている。
<タケミナカタ>
・日本神話に登場する国津神の1柱。『古事記』では建御名方神(たけみなかたのかみ)と書く。出雲の主神オオクニヌシの次男で、高天原からの国家譲りの要求に反対して使者であるタケミカヅチに勝負を挑んだ。しかし、手も足も出ずに撃退されてしまい、長野県の諏訪地方まで逃げ延びる。追い詰められたタケミナカタは、天津神や父、兄への忠誠と諏訪の地から出ないことを誓って許され、諏訪大社の祭神として祀られるようになった。
<堕天使>
・傲慢や反逆など様々な理由から神の寵愛を失い、天界を追放された天使たちの総称。ルシファーをはじめ、悪魔と同一視されることも多い。一説には天使の約3分の1ほどが、堕天使であるともされる。
<ダマーヴァンド山>
・イラン北部に位置するアルボルズ山脈の最高峰。イランの伝説によれば、世界を滅ぼす邪竜アジ・ダハーカや、アジ・ダハーカと同一視される蛇王ザッハークが幽閉されているのだという。
<ニライカナイ>
・ニルヤ・カナヤなどともいう。沖縄南西諸島の神話、伝承に登場する異界。海の向こうにあり、人間の世界に豊穣、あるいは災いをもたらす神々が住むとされる。また、死者たちが行く霊界とも考えられていた。稲と火、そして島民の先祖たちがこの地からもたらされたともされる。多くの場合、東方にあるとされているが、地域により一定ではない。
<ニンフ>
・ギリシア神話に登場する妖精。ギリシア語ではニュンフェ。複数形はニュンファイ。様々なものに宿る精が美しい乙女の姿をとったもので、森のアルセイデス、谷間のナパイアイ、木々のドリュアデス(ドライアド)、山のオレイアデス、水辺のナイアデス、海のネレイデスなどのグループを作っている。多くは陽気な性格で歌や踊りを愛し、神々や人間たちの恋人となった。しかし、中には人間に害をなすようなものもいたとされる。
<ヌート>
・ヌトともいう。古代エジプトの女神。裸体、もしくは古風な衣装に星をちりばめた女性の姿で表される。大気の神シュウと湿気の女神テフヌトの娘で、天体の運行を司る。
<ハヌマーン>
・インドの長編叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する、猿の王スグリーヴァの配下の戦士。主人公ラーマが妻シータを取り戻すのを助ける。風神ヴァーユの息子で、『西遊記』の主人公、孫悟空のモデルともなった。姿を変え、空を飛ぶことができる。
<バフォメット>
・テンプル騎士団が崇拝していたとされる悪魔。一説にはイスラム教の開祖ムハンマドの名前をもじった名前とされる。中世から悪魔の名前として知られていたが、その姿については諸説ありはっきりしていない。19世紀以降の悪魔学において、牡山羊の頭と両性具有の体を持ち、サバトを支配する悪魔の姿が与えられた。同様に牡山羊の頭を持ち、サバトを支配する悪魔レオナルドと同一視されることもある。
<バラム>
・バランともういう。イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、40の軍団を率いる地獄の王。牡牛と人間と牡羊の頭、蛇の尾を持ち、燃え盛る目をして、しわがれ声で話す。また、熊に乗り大鷹を連れた、角が生えた裸の男の姿で現れるともされる。過去、現在、未来について正確に教え、人間を機知に富ませ、また望むものを透明にする能力を持つ。
<ハルファス>
・アルファスの別名とする文献もある。イスラエルの王ソロモンが封印、使役したと伝えられる72柱の悪魔の1柱で、26の軍団を率いる地獄の伯爵。コウノトリの姿で現れ、やかましい声で話す。都市を建設して武装した人間を集め、人間を戦場に送り出す力を持つ。また、町に火を放つともされる。
<パン>
・ギリシア神話に登場する神の1柱。伝令神ヘルメスの息子。牧畜と家畜を司り、自身も牡山羊の角と耳と髭、下半身を持つ。踊りと音楽を好む陽気な性格をしているが、怒ると手がつけられず、戦いの際には聞くものを恐怖に陥れる叫び声をあげた。本来はアルカディア地方の神とされる。
<盤古(ばんこ)>
・中国の伝承に登場する、原始の混沌から生まれた巨人。生まれてから1日に1丈ずつ成長し、盤古の成長に合わせて天地も分かれていった。3万6千年ののち地に伏し、その体から世界が作られた。左目が太陽に、右目が月に、髪や髭は星になり、血は河に、肉は大地になったという。
<憑依>
・ポゼッションともいう。神や悪魔、あるいは人間の生贄、死霊、動物霊などが体内に侵入し、肉体的、精神的に影響を与えること。シャーマン、霊媒、チャネラーといった専門家が行うコントロールされた状態と、ごく普通の人々が病気や錯乱状態に陥るコントロールされていない状態に分けることができる。また、特定の血統に受け継がれるものもあり、日本では「憑き物」、「〇〇筋」、「〇〇持ち」などと呼ばれる差別の対象となった。
<ヘスティア>
・ギリシア神話に登場する女神。農耕神クロノスとレアの娘で、かまどや家庭内の平和、結婚生活の維持などを司る。本来は神々の中心的存在オリンポス12神の1柱であったが、酒と酩酊の神デュオニソスにその地位を譲った。大神ゼウスに処女の誓いを立てて恋愛と距離をおき、もっぱら子供たちを庇護したともされる。
<ヘラ>
・ギリシア神話に登場するオリンポス12神の1柱。農耕神クロノスとレアの娘で、結婚と出産を司り、家庭の主婦たちを守護する。大神ゼウスの正妻という立場から、ゼウスと関係を持った女性や子供たちに激しい憎悪を燃やした。毎年春になるとカナトスと呼ばれる泉で身を清め、老いと憎しみの心を洗い流したとされる。
<ラグナロク>
・北欧神話における世界の終末。「神々の没落」などを意味するが、ワーグナーの悲劇『ニーベルンゲンの指輪』以降は「神々の黄昏」と訳されることが多い。その前兆は天界、地上、冥界に棲む魔法の雄鶏たちが時を告げることとされている。その後、長い荒廃の時代が続き、大寒波の到来や太陽と月の消失を経て巨人族とムスペルの軍勢の侵攻が始まる。彼らと神々は壮絶な戦いを繰り広げるが、最終的には全てがムスペルの長スルトの放つ炎で焼き尽くされ海に沈むことになる。しかし、世界は滅びるわけではなく、新たな太陽と月、理想的な大地が現れ、生き延びた神々や人間が戻り、大いなる支配者が到来するのだという。
<羅刹>
・インド神話や仏教の説話などに登場する悪魔の一族。サンスクリット語の「ラークシャサ」の音訳。女の羅刹は羅刹女という。強い力を持つものもおり、「ラーマーヤナ」で主人公ラーマの妻シーターをさらう羅刹の王ラーヴァナが有名。日本の説話では、人を食う恐ろしい鬼として描かれている。
<ラピュタ>
・イギリスの作家スウィフトの『ガリバー旅行記』に登場する巨大な浮島。大きさは直径約7.2キロ、厚さは約270メートルほどで、滑らかな一枚岩で支えられている。島の地下には巨大な舟形の磁石がいくつかのタガと軸で固定されており、その力で宙に浮き、移動することができる。もっとも、その範囲は磁石が反応する土地の上に限られていた。住人の男性は数学と音楽、天文以外頭になく、女性たちはそんな男たちに嫌気がさして地上の男性と関係を持っている。ラピュタの王と貴族たちは地上のバルビバーニという地域を支配しているが、そこでは「最新の学問」という名の机上の空論がもてはやされ、街や土地は荒れ果てていた。
<ラファエル>
・ユダヤ教、キリスト教、イスラム教において重要視される大天使。ミカエル、ガブリエル、ウリエルたちと共に四大天使と呼ばれることもある。旅人に身をやつして少年トビアに同行したことから、旅人の姿で描かれることが多い、また、このエピソードから癒しの天使、旅人の守護者などの役割を持つと考えられている。ユダヤ教の伝承では大地を癒す存在である一方、幽閉された堕天使たちを監視する役割も持つ。
<ルシファー>
・ルシフェル、ルチフェル、ルキフェルともいう。ユダヤ教、キリスト教の伝承に登場する堕天使。『イザヤ書』で痛烈に非難される堕落した王の呼び名「明けの明星」のラテン語訳「光をもたらすもの」に由来する名前で、ヘブライ語ではヘレス、ギリシア語ではヘオスポロスという。5世紀ごろには堕天使の名と考えられるようになり、サタンと同一視されるようになった。また、ユダヤ教の死の天使サマエルとも同一視されている。
<霊媒>
・神々や精霊、死者の霊などを憑依させ、彼らの意思を伝えることができるとされる人々。憑依は彼ら自身の能力、もしくは指導霊と呼ばれる存在の仲介によって行われるとされる。19世紀には心霊主義が流行した欧米諸国では、霊媒によるパフォーマンス的交霊術が人気を博した。
<ロキ>
・北欧神話に登場する神の1柱。巨人族のファールヴァウティとラウフェイの息子。本来は巨人族に属するが、オーディンの義兄弟となり神々の仲間に加えられた。容姿は美しいが、性格は気まぐれでひねくれ、奸智に長けている。しかし、調子に乗りすぎて自ら窮地に陥ることも多い。神々に厄介ごとをもたらす半面、様々な恩恵や宝物をもたらしてもいる。光神バルドル殺害から神々との仲は険悪になり、最終的に捕らえられ地下に幽閉された。妻シギュンが器で受けないと顔に毒蛇が毒を垂らすようにされており、その痛みで苦しむのが地震の原因とされている。ラグナロクにおいては巨人族の軍勢に加わり、神々の見張り番ヘイムダルと相打ちになるのだという。
<綿津見国 (わたつみのくに)>
・日本神話に登場する異界。海神ワタツミの治める国で、ワタツミノミヤと呼ばれる立派な門と垣根を持つ宮殿がある。ワタツミたちは陸地を上国と呼ぶことから海中にあると考えられ、ヤマサチヒコが訪れた際には竹籠の船で海中に潜る必要があった。魚たちは自由に活動しているが、浜辺があるなど水で満たされた空間ではない。
<ワルキューレ>
・ヴァルキュリャ、ヴァルキリー、ワルキュリア、戦乙女ともいう。北欧神話に登場する女神の一団、オーディンや女神フレイヤに仕え、戦場で有望な戦士たちを守護し、彼らが戦死すると魂を神々のもとへ導く。オーディンが支配するヴァルハラでは給仕役としてエインヘリアルとなった戦士たちをもてなした。その出身は様々で人間の王族や巨人族などからも選ばれたとされる。必ずしも神々に忠実ではなく、命令に逆らって罰せられるものもいた。天を駆ける馬や白鳥に変身できる羽衣を持っているとされ、羽衣を盗まれ人間の妻になる話も残されている。