<真似される、真似する>
<どこから訴えられるか分からない>
・インターネットを通じて流れる情報が爆発的に増え、知的財産権に関わるトラブルが生じている。自分たちの製品や作品を真似されてしまう。あるいは知ってか知らぬか、他者の製品や作品を真似したり、他者の知的財産を誤用したりする。
前者はこれまで特許権に基づいた「技術」の模倣が多かったが、近年はそこに「デザイン」が加わった。
・意匠登録をすれば必ず模倣問題が防げると言うわけではないが、デザインを重視した商品を販売している場合、国内のみならず海外も含めた国際意匠出願が必須になっている。
・知的財産権を巡っては、真似されるだけではなく、意図的ではないにしろ真似してしまう恐れがつきまとう。それは金銭的にも、金銭に換算できないブランド価値の損失という意味でも、大きな悪影響を与える。
<GAFA落日>
<栄枯盛衰、ITの覇者は弱る>
・「ルール急変」のところで述べた通り、オープン化は「その影響を嫌う勢力から揺り戻しの圧力を受けつつある」。インターネットで人々がつながる世界で巨大化した、「GAFA」と呼ばれる米国企業4社に対する反動が目につき出した。
特にグーグル、フェイスブック、アマゾンはインターネット上で利用者がどのような行動をしたか、閲覧や投稿、購買の履歴を記録している。世界経済フォーラムが「パーソナルデータはインターネットにおける新しい『石油』になる」と予想した新資源を手に入れた。
<GDPR(一般データ保護規則)>
<データ保護がもたらす分断>
・EUは2018年5月25日からGDPR(一般データ保護規則)を施行した。目的はEU域内の個人・住民が自身の情報をコントロールする権利の確保。言うまでもなく、GAFAのような米国勢、台頭する中国のネット企業に、EU域内の個人データという「石油」が流出することを防ぐ狙いがある。
<ネット経済への無理解>
<分かっている人は誰か>
・このように米国とEU、そして中国を支え、新たな石油を巡る競争がインターネット上で繰り広げられているが、ここでも「日本素通り」の恐れがある。そもそも日本企業はインターネット・エコノミーを理解しておらず、法規制への遵守は別として、戦略的な対処をしていないという指摘がある。
<開社力の欠如>
<守りの意識が強すぎる>
・社会が成熟し、ニーズの多様化が進んだことで、企業の継続的な成長、あるいは業績維持が難しくなっている。単一の商品やサービスをマス市場に販売できなくなってきた。従来と同じモノやサービスを提供しているだけでは顧客は離れていってしまう。
・新たな価値を生み出すには、こうした元々あまり接点がなかった業界同士が同じ目的のために協調していく必要がある。それには社外に門戸を開き、外部と積極的に連携することで複雑な問題の解決を目指す「開社力」が欠かせない。
・こうした状況に陥ると業績が伸び悩んでも斬新な対策を打ち出せない。ディスラプティブな(破壊的な)プレーヤーが登場し、市場を奪っていくのを、指をくわえて見ていることになる。業界あるいは海外の動向をつかめなくなれば世界の新しい常識も分からなくなり、ますます乗り遅れていく。
企業組織の「生命力」を強くし、さらなる成長を目指すには、社外に求める技術やノウハウと自社で持ち続ける技術やノウハウを明確に区別するとともに、スピード感をもって効率的に社外の力を取り込むことと、そのための意識改革が欠かせない。
<企業メディア炎上>
<ネット時代の新たな落とし穴>
・ネット社会においてはウェブサイトや企業SNSなど、自ら情報を発信できる、いわゆるオウンドメディアの重要性が高まった。同時にネット社会ならではの「炎上」という事態が頻発しつつある。
・とはいえ、情報発信の目的の一つはネット上で話題となりSNSなどを通じて拡散してもらうことにある。いわゆる「バズらせたい」ということだ。そのため情報発信の担当者、広告担当者はある程度エッジの効いた内容を発信していかざるを得ない。それが行き過ぎると炎上してしまう。
ネット炎上によって企業ブランドにダメージを与えたとしても、業績に大きな影響を与え、経営者の責任が問われる事態にまで発展することは今までそれほどなかった。だが、それは変わってくる。
<内部情報の暴露>
<国が司法取引を導入、内部通報を後押し>
・2018年6月、他人の犯罪を明らかにすれば見返りが軽くなる「日本版司法取引」が導入された。対象には、詐欺や恐喝、薬物・銃器などの犯罪のほか、贈収賄や脱税、カルテル、談合、粉飾決算、インサイダー取引などの経済犯罪が含まれる。今後、複数企業が絡む犯罪なので企業側が進んで司法と取引し、従業員を守ろうとするケースが増えると予想される。
・暴露に踏み切りかねないのは、企業内の正社員、非正規社員、アルバイトだけではない。その家族や退職者、取引先などの関係者も情報を持っている。こうした人々を監視することなどできない。企業が襟を正し、良い会社になろうという努力を継続することが根本的な対策と言える。
<不意打ち口撃>
<口コミが背後から襲いかかる>
・内部告発や暴露はなんらかの意図があって行われるが、そうではなく従業員の単なる不用意な書き込みや投稿が思わぬ被害を引き起こすこともある。
ある銀行では芸能人が来店したことを行員の家族がネットに投稿してしまい、炎上した。顧客の守秘義務を扱う金融機関にとって致命的な問題として、その銀行は再発防止に取り組む姿勢を打ち出した。
・ネットやSNS上に投稿された企業イメージを損なう書き込みを放置しておくにはいかない。弁護士など専門家に相談して早めに削除申請を出すことで被害を抑制したいが、これがなかなか難しい。
<火消し失敗>
<謝り方を間違うと再炎上>
・火は最初から大きいわけではない。小さいうちに消せれば炎上被害は避けられるはずだが、消化は容易ではない。準備が足りないと、火消しに失敗し、逆に火を大きくしかねない。
<危機管理広報の危機>
<「たいしたことではない」は禁句>
・品質データ改竄、異物混入、情報漏洩、不正会計など、不祥事やコンプライアンス違反が目立つ。リスクが実際に危機として発生してしまった場合、ダメージの最小化を図るクライシスマネジメント(危機管理)が発動される。
ところが危機管理で重要な、迅速かつ適切な広報の対応を誤ると、著しいブランドの毀損など、本来の対価を超えた代償を払うことになってしまう。
・誤りがちな例として大森氏が挙げるのが事実の矮小化である。「いざ不祥事に直面すると『たいしたことではない』『安全性に問題はない』など、情報公開に後ろ向きになる声が出がちだ。しかし、それを判断するのは自社ではなく、社会であることを忘れてはならない」。
<リスクマネジメント形骸化>
<識別して一安心>
・形は整えたわけだがこれだけでは機能しない。ISOのマネジメントシステムを取り入れたときに見られた。資料を作って安心する形式主義がリスクマネジメントにおいても出てきている。リスクの識別にばかり目を向ける。書式や手順を整えることに精を出す。これこそリスクマネジメント形骸化というリスクである。このリスクからチャンスは出てこない。
<「リスク回避」の回避>
<回避策をとれるリーダーはいるか>
・経営危機につながる何かを回避する策それ自体が痛みを伴うことも多く、断行する決断をなかなか下しにくい。「そこまで大変なことにはならない」と逡巡しているうちに、取り返しがつかない事態になることもある。腹をくくり回避策をやってのけるタフな経営幹部がいなければリスクマネジメントは機能しない。
<思い込み>
<「大丈夫なはず」は大丈夫ではない>
・リスクマネジメントが難しいのは、リスクが見えないからである。たとえ識別はしていても「目で見えないと納得できない」「実際に起きてみないと動けない」ということになりがちだ。目の前に危機が迫ってきて、ようやく腰を上げ、回避しようとしてもそれは難しい。
識別にしても、頭で考えたもの、あるいは類似案件で過去に発生したものを列挙しているに過ぎない。見過ごしているものがあれば、それが発生したとき、直撃を受けてしまう。
<地球寒冷化>
<食料不足とインフラ機能不全を引き起こす>
・思い込みというものを考える材料として「地球寒冷化」を取り上げてみよう。書き間違いではない。地球の気温が下がっていくと警告する研究者や学者、研究機関は存在する。
・これまで太陽は活発な時期と停滞する時期を繰り返してきた。ザーコバ教授によると現在は停滞期に入っており、2030年に向けて気温が下がっていき、寒冷期になるという。同じ2015年の11月にはNASAが人工衛星を使って南極の氷床を計測し、氷が溶けている地域と氷が増えている地域の両方があり、南極全体として氷床は増えていると発表した。NASAの計画が正しいなら、温暖化に逆行する事象と言える。
・とはいえ、気候変動に関する論文や発表そして報道の多くは地球温暖化についてであり、地球寒冷化を主張する学者や機関の意見は少数派に見える。太陽の活動(黒点の動き)と地球寒冷化に何の関係もない、と全面否定する指摘は少なくない。
リスクマネジメントの観点から言うと、地球が寒冷化していくのか、温暖化していくのか、白黒を付けることに意味はない。気候変動のメカニズムや太陽との関係について分かっていないことはまだまだある。確実なのは、誕生以来、地球は温暖化と寒冷化を繰り返してきたということである。どちらかだけを確実に起きる前提としてとらえることはリスクマネジメントの立場からすると適切ではない。
・そもそも気候変動という大規模かつ複雑な現象を単純な因果関係で説明できるかどうか、そこからして定かではない。寒冷化の論者は前出の通り、太陽活動の停滞により地球の気温が低下するという因果関係を主な論拠とする。これに対し、温暖化の論者は温室効果ガスが増加し、気温の上昇を招くという因果関係を論拠にしている。
・温暖化については多くの企業が対応策を中長期計画などに取り入れている。温暖化対策に不熱心ということで株価が下がるリスクを回避する意図もある。
寒冷化についてはどうか。発生時の影響は甚大である。気温が下がること自体の影響に加え、天候不順になると光合成に影響する。穀物や野菜など食料の栽培と収穫が難しくなり、食料不足になりかねない。欧州では寒冷化に強い種子の研究があるという。
・社会インフラを支える各種機器について、現状では特定地域で使用するものを除き、寒冷化対策が施されているとは言い難い。人類が体験した前回の寒冷期は17世紀から18世紀、産業革命の時代にまでさかのぼる。それ以降、ざっと300年の間、人類は寒冷期の経験がないまま今日に至っている。
<東京五輪>
<危ないと言われるが本当はどうなのか>
・アサンプションを考える格好の題材がある。東京オリンピックである。すでに開催期間中の交通・移動の混雑や停滞、国際空港の発着陸回数の増大とそれに伴う航空管制の負荷、入管手続きの増大、酷暑対策、サマータイム導入、といったことが指摘されている。ビジネスへの影響もある。建築・土木であれば、工事費の高騰、労災増加、設計・施工ミス増加などだ。
こうした事項に「はず」を付けて考えてみる。ビジネスチャンスに変えるアイデアがひらめく可能性がある。
<鈍感経営>
<しなやかな思考でチャンスをつかむ>
・今後2030年までを展望し、リスクを洗い出した際、経営者に関するものが複数あった。例えば「文系脳経営」(情緒的かつ非合理的かつ非挑戦経営)、「慎重経営」(バブル崩壊後の30年間に出世した人は慎重だが部下が提案するアイデアを判断できない)などである。
しかし理系であれば合理的に考えるとは限らないし、挑戦するとも言い切れない。文系であっても理系の参謀と組めばよい、慎重であることは欠点ではなく、部下の提案を評価できないこととは別である。
大事なのは思考のしなやかさではなかろうか。アサンプション(思い込み、前提)を見出し、正しくない思い込みであるならそれを止め、前提を見直すには、柔軟な思考が求められる。
『資源争奪戦』
最新レポート 2030年の危機
柴田明夫 かんき出版 2010/1/6
<資源価格の乱高下は何を意味するのか>
・21世紀に入って上昇トレンドをたどり始めた原油や金属などの資源価格は、2008年前半にかけて歴史的な高値を記録したかと思うと、年の後半にはこれまた歴史的な暴落を見た。
しかし、暴落したとはいえ、そのレベルは過去と比べるとはるかに高い水準へと移行している。ここ数年の資源価格の乱高下はいったい何を示唆しているのだろうか。
・筆者の考えはこうだ。
ここ数年の資源価格の高騰の背景には、中国やインドなどの人口大国が工業化による本格的な経済成長軌道に乗ってきたことがある。それによって、地球が「資源の枯渇」と「地球温暖化」という、誰にも止められない「2つの危機」を加速させてしまった。この延長線上には、ポイント・オブ・ノーリターンの世界、時間の流れのように後戻りができない地球の成長の限界、つまり「臨界点」が待ち受けている。
我々にできることといえば、省エネ・省資源・環境対応の新エネルギーや代替エネルギーの開発を同時に進めることで「2つの危機」の進むスピードを緩和させることしかない。
・おそらく2030年前後には地球は「臨界点」を迎えてしまう可能性が高いためだ。
例えば、原油は楽観的見方に立っても30年には、「液体で濃縮され、生産コストの安い」原油は埋蔵量の半分を掘り尽くされ、生産のピーク・オイルを迎える。地球の平均気温が18世紀の産業革命前に比べ2度上昇してしまうのも、早ければ32~40年との見方がある。世界人口が地球の養える人口80億人を超えるのは25年だ。一見バラバラに進んでいる現象が30年前後にひとつに繋がって、ついに臨界点に達してしまう。
我々は「地下系」から「太陽系」への移行を急がなければならない。
<この「つなぎ」の期間をどうするかということも、重要な問題である。>
・「つなぎ」といっても5年や10年の話ではない。めざす太陽系エネルギーに立脚した低炭素社会は早急には訪れないからだ。
・究極の脱炭素社会の構築に向け、太陽光発電、太陽熱発電、二次電池、燃料電池の開発・普及を急ぐとともに、「つなぎ」として、地下系資源の省エネ・省資源・環境対応がこれまで以上に重要である。
・一方、我々の地球では、「水不足」という新たな問題も深刻化しつつある。すでに、限られた資源をめぐって資源保有国と消費国、資源保有国同士の「グレートゲーム」が繰り広げられている。地球の「臨界点」が迫っている現在、そんなゲームをやっている場合ではない。
<エネルギー関連の国際機関IEAが予測、2030年に原油200ドル突破の恐れ>
・原油価格が2008年に100ドルを上回ったことの意味は、世界の経済・産業構造をいち早く「省エネ・省資源。環境対応型」「新エネルギー開発促進型」に転換すべしとのメッセージである。
まして、地球が「安い石油資源の枯渇」と「地球温暖化」という不可逆的な「2つの危機」の直面していることを考えれば、我々にできることは、一刻も早く、2つの危機が進む速度をできる限り緩めることしかない。
これらの課題に同時に取り組むためには、これまでの安い資源価格では不可能で、高い原油価格の追い風が必要なのである。にもかかわらず、今回の急落は100ドルを超える原油に世界経済が耐えられないという形で生じた。
実際、原油が08年5月に120ドルを突破してくると、米国議会などでは投機資金に対する規制強化の動きが強まり、市場も世界景気減速に伴う石油需要の減退観測が広がった。市場が悲観一色に染まるなかで、ヘッジファンドの手仕舞い売りが加速した。
その発想そのものが、1990年代までの安い資源価格時代の経済・産業構造を前提とした考え方である。そうである限り原油は、急落すれば過渡期の需要が拡大し、何度でも上値を試しては急落するといった同じことが繰り返される「閉じない」世界に陥ってしまうことになる。
・供給面では、最近の原油価格の上昇が投機資金によるマネーゲームとの見方が定着すれば、誰も危なくて開発投資をしようとはしないだろう。しかし、需要は中国などの新興国が先進国水準に向かう「過渡期」の需要だから毎年累積的に拡大し、結局、供給が逼迫し価格が高騰することになる。
逆説的であるが、原油価格が100ドル近辺で底入れし、誰もが原油100ドル時代の到来を認識すれば、省エネ・省資源・環境対応、あるいは代替エネルギー、新エネルギーなどの投資が促され、高い原油価格に順応した経済・産業構造が構築されて落ち着くことになる。
・今後は実体経済を見直す動きが強まり、あらためて新興国を中心に資源需要が拡大し、資源価格は再び上昇圧力が加わると見るべきであろう。
とくに世界金融恐慌という最悪の事態を回避するため、日米欧の金融当局が利下げや流動性供給といった行動をとっていることから、あらたな過剰流動性の発生につながり、投資マネーが再び原油などの資源市場に流入する可能性も高い。
・国際エネルギー機関(IEA)は、「08年版世界エネルギー見通し」で、原油価格が低迷すれば開発が遅れて新興国の需要増を賄うことができず、原油は10年にも100ドルを超え、30年には200ドルを突破する恐れがあると警告した。
その後、「09年版エネルギー見通し」では、風力や太陽熱など再生可能エネルギーへの世界的投資が拡大すると見て、若干、予測を下方修正した。それでも中長期で新興国を中心に需要が拡大し、30年の原油価格は190ドル程度まで上昇すると大筋では予測を変えていない。
<原油価格暴落で開発中止・延期が続発 資源ナショナリズム高揚で供給不安増す>
・IEA(国際エネルギー機関)によると、2030年に向けて拡大する世界の石油需要に対して原油生産も拡大するが、在来型油田(すなわち液体で濃縮されて掘りやすい特定の場所にある生産コストの安い油田)からの生産は10年の手前でピークアウトしている。今後は、新規の油田やカナダのタールサンド(油砂)などの開発が不可欠だ。
しかし、タールサンドは、「液体で濃縮されていない」資源であり、新規に発見された油田は、メキシコ湾やブラジル・リオデジャネイロ沖200キロの7000~8000メートルの深海にあるなど、開発・生産コストの高い油田である。当然生産が持続されるには限界生産コストがカバーされなければならない。価格が暴落すれば、これらの開発が難しくなる。
・ちなみに、大阪商業大学教授の中津孝司氏は『日本のエネルギー戦略』のなかで、産油国の経常収支を赤字にする原油価格について、ベネズエラで1バレル=90ドル、イラン57.3ドル、サウジアラビア43.6ドルと紹介している。
また、産油国の国営石油企業が世界全体の埋蔵されている原油の8割近くを握っており、アメリカを中心とする石油メジャーが握っているのは1割程度でしかない。
<GMが破綻、トヨタが大幅赤字転落、「新たな不確実性」の時代が始まった!>
・現代は何が起こるかわからない「不確実性の時代」に突入した。とくに、リーマン・ショックを契機とした「未曽有の経済危機」を経験したことで、多くの人々の価値観も変わってしまった可能性が高い。まさに、「不確実性の世界」に突入したといえよう。
この言葉は、1977年にカナダ出身の経済学者ガルブレイスが初めて、不透明で先の見えない時代の到来を予見したものだ。
当時は、ドルと金のリンクがはずれ(ドル・金本位制の終焉)、あらゆるものの価格が変動する時代であり、二度の石油ショックの狭間であった。それでも当時は、世界は東西に分かれ、西側世界においての問題でもあった。
これに対し現在我々が直面している「不確実性」は、地球規模の問題である。
・一方、これまでのように商品市況が経済活動に連動するかたちで循環的な動きをしている時代にあっては、将来の価格変動リスクはある程度軽量化ができた。また、価格が大きく変動すれば裁定が働き、マーケットは安定に向かった。
しかし、前述した5つの新しい不確実性の時代は、それこそ何が起こるかわからない「何でもありの世界」の出現を意味する。このため、将来のリスクが軽量化できず、それだけ市場のボラティリティ(流動性)が高まることになる。
・新たな不確実性は、商品市況でいえばより大きなボラティリティ価格(変動幅の拡大)となって現れる。それは、メーカーなどの当事者にとっては、価格変動リスクを先物市場でヘッジし第三者(スペキュレーター)に移転するニーズが強まることであり、スペキュレーターにとっては、大きな利益追求のチャンスをもたらすことも確かだ。
<世界の投資資金は資源市場に再び回帰 実物経済が強まり「マネー」から「資源」へ>
・実物経済における為替リスク、天候リスクなどは、原料から中間加工品、最終製品に至る間に、価格リスクが雪だるま式にふくれあがる。それをヘッジするのが、商品先物市場なので、そこでは実物相場のブレが数倍に拡大して反映されることも頻繁に起きる。
先物市場に参加する資金は元来、ヘッジ機能を期待する当事者が中心だった。当然、市場としては規模が小さい。時価総額は、株式市場よりひとケタ小さな規模でしかない。
・とくに米国証券大手ゴールドマン・サックスが、「向こう6~24ヵ月の間に原油価格が150~200ドルに達する可能性がある」との見通しを発表したことも投機筋の買いを誘った。
・当時は、商品価格そのものが高騰しているため、高いパフォーマンスを求めて年金基金や政府系ファンドが相次いで商品市場での運用を開始した。
ただ、個人の投資家からみた場合、商品価格がパラダイム・シフトすることによる問題は、価格変動のボラティリティ(変動幅)が極めて大きくなることだ。最近の原油価格は1日で10ドル前後変動してしまう。資金に限りがある個人としては、危なくてこの値動きについていけない。
・開発投資の遅れによる資源価格の下方硬直性が、相場の下落という形で探られるもみ合い状態が一段落したとき、投資資金が堅調な成長分野としての資源市場へ再び回帰することは容易に予想される。それは08年7月を大きく上回る資源高騰につながる危険があると思う。
サブプライムに端を発する金融危機は、デリバティブや証券化による高度なレバレッジ金融によってマネー経済(金融経済)が極大化した末のバブル現象だった。
今後の世界経済は、ファンドへの規制などを通じて投機的マネー経済の影響力が低下するとともに、資源価格の下方硬直性などに基づく実物経済の影響が強まるというのが大方の見方である。
「マネー」から「資源」へ、時代は大きく転換を迎えたといえるだろう。
<ミッシング・バレルが原油価格低迷の原因 過去最大の減産でも製品在庫増大>
・2008年から09年にかけての原油価格の低迷には、金融危機に伴う需要減退があるが、もうひとつの要因として、「ミッシング・バレル(失われた石油樽)」の問題が指摘できよう。この言葉は1999年2月に原油価格が11ドル近辺まで急落したとき、英エコノミスト誌が「原油5ドル説」を唱えた際の根拠として取り上げられた言葉である。
当時の原油市場を振り返ると、アジア通貨危機で世界の石油需要が大きく減少しているにもかかわらず、OPECが08年11月の総会で日量250万バレルの大増産を決定し、それまで25ドルであった原油価格の暴落を招いてしまう。
こうした状況下で、同誌は、世界には生産は確認されたが消費が確認されていない「ミッシング・バレル」が大量にあり、OPECが減産に転じたとしても原油価格の上昇は期待できず、原油は5ドルに向かう、というものであった。今度もよく似ている。
<燃料使用量や温暖化ガス排出量を減らし排出量規制に対応する日本企業の技術>
・EUが域内に離着陸するすべての航空機に対し、その運行会社の国籍に関係なく温暖化ガスの排出量規制をかける方針であることは、すでに述べた。
アメリカや日本など、各国政府が規制免除を求める姿勢を明らかにしたのとは対照的に、アメリカの航空機メーカー・ボーイング社は、主力の中型機787の燃費を、従来の同型機比で2割改善する方針を打ち出した。
・化石燃料に代わる新エネルギーとして期待が大きいのが太陽光エネルギーだ。太陽光エネルギーの設備容量において、日本はドイツに次いで世界第2位。しかもドイツとの差は接近している一方、3位以下を大きく引き離している。
・風力は太陽光と並ぶ、究極の再生可能エネルギーだろう。世界で最も風力発電が進んでいるのはドイツだが、日本はなかなか進まない。
ドイツだけでなく、ヨーロッパはアルプスから強風が吹き降りるため、風力発電には適している。これに対して日本の場合は、一方向から常時安定的に強風が吹く場所がほとんどない。
<新興国の人口爆発と温暖化による異常気象で21世紀は水戦争が深刻化する>
・世界各地で水不足が深刻化している。
新興国における人口爆発や都市化による水の消費量が急増する一方、供給面では地球温暖化による異常気象が頻発しているためだ。「21世紀は水の世紀」といわれる。水不足は国家間の争奪戦を引き起こすのみならず、水質汚染にもつながる。反面、水問題は様々な水関連ビジネスを生み出している。
地球上の水のうち、我々が利用できる淡水は0.6%にすぎない。しかも水は、石油と違って代替するものがない。
一方、人口増や経済発展に伴い世界の水使用量は年率1.4%で増加している。これは40年間で2倍のペースであり、世界人口の増加ベースに匹敵する。
世界の水の消費量の約7割は食糧を生産するために使われている。拡大する食糧消費に応じて生産を増やすためには、灌漑整備をして大量の水を使い、品種改良した高収量品種を導入し、農薬・肥料を多投し、農業機械化体系にもっていくことが必要だ。
・しかし、今食糧を生産するための水の制約が強まっている。
この背景には、中国やインドなどの新興国が工業化による急速かつ持続的な成長段階に入ったことで、工業用水や生活用水の需要が急速に高まっていることがある。今後、新興国の工業化によって、工業部門と農業部門での水の争奪戦が強まりそうだ。
・今後水不足は、アジアでより先鋭化する可能性が高い。アジア地域は、世界人口の約6割を占めるが、降水量は世界の36%にとどまっている。しかし、世界で最もダイナミックに成長しているのがアジアである。
とくに争奪戦が強まるのは、中国においてであろう。
急速な工業化が進む中国では、すでに北部を中心に水不足が深刻化している。09年に入ってからも、中国の穀倉地帯である北部や内陸部の小麦地帯で干ばつが深刻化し、数百万人の飲料水の不足が伝えられている。
<治水・利水・環境のバランスをとり水環境の高度化に向けたビジネスが拡大中>
・水をめぐる問題が深刻化するなか、水関連ビジネスが急拡大している。それらは大きく、治水・利水・環境のバランスをとりながら、質と量の両面から、水資源を効率的に確保・利用するために、水環境の高度化を進める取り組みである。
これらのうち、水関連ビジネスの本命は、水道事業や海水淡水化関連事業などの淡水供給市場である。
世界では「水道事業の民営化」の流れを背景に、フランスのスエズ社、ヴェオリア社、イギリス本拠のテームズ・ウォーター社が、世界のすべての地域をターゲットに水供給事業を拡大している。
・もともと上下水道事業は、公共セクターが担う性格のものである。
しかし、欧州をはじめとする先進国では、財政難のため老朽化した施設への対応ができなかった。
こうしたなかで、イギリスでは当時のサッチャー首相が1980年代に、電力・ガスに続き、上下水道事業の規制緩和を行った。これら公的セクターに民間活力を導入することで効率化を図り、サービスを向上させることが狙いであった。
欧州をはじめ各先進国がこれに続いたが、新興国や発展途上国でも、急速な経済発展や都市化にインフラの整備が追いつかず、公的資金も不足しているなどの実情から、国連や世界銀行などの水問題に関する政策に、民営化手法が織り込まれるようになった。
<海水淡水化と再処理水利用の2つの造水ビジネスが急成長!>
・深刻化する水不足・水汚染といった問題に対して期待されるのが、2つの造水ビジネスだ。海水淡水化と、使用した水を再処理して中水として利用することである。
一般に海水淡水化には、「蒸発法」と水処理幕を使った「逆浸透膜法」がある。
・これに対し、近年注目を浴びているのが逆浸透膜法だ。これは、1ナノメートル(10億分の1メートル)以下の細かな穴が開いた膜に、高い圧力をかけて海水を通し、塩分やホウ素などを取り除き、真水に変えるというものである。
<エタノール生産はアメリカとブラジルが中心 原油高騰で代替エネルギーへの期待>
・バイオエタノールの生産が急増し始めたのは2000年以降である。世界のエタノール生産量は、01年の約310億リットルから07年には約640億リットルへと、6年間で倍増している。
この中心はアメリカとブラジルであり、同期間における世界のエタノール生産量に占める両国のシェアは、46%から75%へと急上昇している。
<日本は「つなぎ」の期間をどうするか>
・筆者は、ここ数年の資源価格の高騰は、「安価な資源の枯渇」と「地球温暖化」という「2つの危機」に対し、対応を急げというシグナルと見ている。中長期的に過渡期の需要が拡大する一方、それに必要な開発投資が不足しているとなれば、投機マネーが入ってくる。