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ロシア帝国時代にはウクライナ語の使用を禁じられるなど、辛酸をなめてきたウクライナにとって、ロシアからの独立は悲願達成だったといえる。(1)

 

(2022/5/6)

 

 

 

『図解 地政学入門』 

高橋洋一    あさ出版 2016/8/2

 

 

 

・「地政学」――つまり“地理的な条件が一国の政治や軍事、経済に与える影響を考えること”である。これはひと言で定義すると「世界で起こってきた戦争の歴史を知る」になる。地理的な条件とは、領土やその周辺地域のこと。領土といえば国同士が争い奪い合ってきたもの、つまり戦争がつきものだ。だから、地政学とは戦争の歴史を学ぶこと、といえる。そして、近代以降は「陸」から「海」へとその覇権争いの舞台が移された――。

 

地政学とは何か

ひと言で言えば地政学とは「世界の戦争の歴史を知ること」だ。地球上のどんな位置にあり、どんな地理的危機にさらされ、あるいは地理的好機に恵まれながら発展してきたか。地理的条件によって、一国の危機意識も戦略思考も何から何まで変わる。

 その国の性格に、俗に「国民性」「お国柄」などと呼ばれるものの根幹にも、地理的条件が大きく関わっているといっても過言ではない。これら危機意識や戦略思考が目に見える形で現れるのが、戦争だ。

 

・置かれた地理的条件によって、それぞれの国の生き残りや発展をかけた野心が生まれ、そこから、さまざまな戦争が起こってきた。すべての戦争には、地理的条件による各国なりの「切実な事情」が絡んでいる。

 

・知識は、現代を生きる知恵として生かされてこそ、身につける意味がある。

 

よりよい、より広い土地をめぐる「戦争の歴史」――地政学

「川を上れ、海を渡れ」――地政学とは何か?

・「川を上れ」とは、「歴史を遡って考えてみよ」ということ。「海を渡れ」とは、「海外の事例を参照してみよ」ということ。地政学とは、その川を上ること、海を渡ることを、「戦争というものに当てはめて実践するものである」ともいえるだろう。

 

ただ、国家や国境あるいは民族という単位で行われてきた戦争の歴史を頭に入れておくことが、現代を生きる知恵に直結するのは確かだ。

 

・歴史は、偶然の産物ではない。奇しくも起こった出来事が影響したこともあるだろうが、歴史の背景には例外なく、「国家の思惑」「目論見」、もっといえば「野心」が存在している。世界史とは、そうした国家の思惑、目論見、野心が複雑に絡み合い、争い合いながら作られてきたのだ。

 

・そこで大きな要素となるのが、「地理的な条件」である。なぜなら、国家の野心とは「領土にまつわる野心」にほかならず、戦争とは領土および領土に付随するもの――すなわち「より広い、よりよい土地」をめぐって起こってきたものだからだ。

 

今も昔も、土地をめぐって国同士が「押し合って」いる

・相手が引けば自分が押すというのが、国際政治の常道だ。

 

言い方は悪いが、国際社会は「なめるか、なめられるか」の世界でもある。

 

このように、互いの実力、行動力の探り合いや、「相手が引いたら自分が押す」式の駆け引きが、国際政治の舞台では常に繰り広げられている

 

本当は地政学というより「海政学」――海洋国家こそ覇権をとれる

・地理的条件が国家の動向を左右する、それが地政学の前提だと話した。

 地理といっても、より厳密に、とりわけ近代以降でいえば、重要なのは「陸」よりも「海」だ。海を制する海洋国家が、覇権を握るといってもいいだろう。

 

なぜ、戦争になるのか? 今は少しはマシな「平和な時代」なのか?

なぜ、今まで数多の戦争が起こってきたかといえば、人が「より広い、よりよい土地」を求めてきたからだ。

 しかし、今や世界の趨勢は「不戦」に向かっている。積極的に戦って土地を奪うより、戦争を避けようという力学が働きはじめている。

 

<「民主主義国家同士は戦争をしない」という国際理論

・前項で見たように、データ上、人類は20世紀になって平和的になった。ひと言でいえば、「民主主義国家同士は戦争をしない」という、国際政治理論である。

 

・もちろん、民主主義国家同士は「絶対に戦争をしない」わけではない。

 しかし、民主国家は独裁国家に比べ、「戦争を起こす確率が絶対的に低い」といえる。なぜなら、民主主義という政治システムは、根本的に戦争とは相容れないからだ。

 

・20世紀になって、人類はそれ以前に比べると、少し平和的になった。それは、民主主義という政治システムが成熟し、定着しつつあるからだ。

 

・地域主義国家では個の価値が低く、独裁者や特定の政党の独断によって国の方針が決まる。国家リーダーが「隣国と戦争をして領土を奪う」といえば、誰も逆らえない。

 

昔も今も「海」へ向かいたいロシアの地政学

ロシアから見た世界――肥沃な土地と不凍港が欲しい

・ロシアの国としての原型は、9世紀末、主に東スラブ人が現在のウクライナ首都の周辺に築いたキエフ公国である。

 キエフ公国は着々と国力を高め、10世紀末に最盛期となるが、13世紀前半、モンゴル人の侵攻を受けて征服される。

 キエフ公国の征服とともに、黒海カスピ海の沿岸を含む広大な土地に、モンゴル帝国の国家(ハン国)の一つ、キプチャク・ハン国が築かれた。

 のちにモスクワ大公国が独立するまでの約2世紀半、東スラブ人はキプチャク・ハン国の支配を受ける。当時、モンゴル系の遊牧民を「タタール人」と呼んでいたことから、この時期は「タタールのくびき」の時代とも呼ばれている。

 1480年、その被支配の時代を終わらせたモスクワ大公国は、周辺地域を次々と統合していく。1721年には、ロシア帝国が成立、その支配地域は19世紀半ばには、ユーラシア大陸の北半分をほぼ覆い尽くすほどにまで広がった。

 

これからロシアが関わった戦争を見ていくが、どの戦争でも、とにかく南に進出したロシアの野心がよくわかる。

 

ソ連アメリカや西欧とはイデオロギーを異にする大国として、世界大戦後の二極時代の一極を形成していく。かねてより続けてきた南下政策に加え、イデオロギー対立という意味でも、ソ連、そしてロシアは主に東欧を舞台に、西欧諸国と大規模な「押し合い」を繰り広げるのである。

 クリミア危機(2014年)には、ソ連が崩壊しロシアとなった今でも、西欧諸国との押し合いは続いているということが端的に現れている。

 

【年表】ロシアの主な戦争の歴史

1768年 第一次ロシア・トルコ戦争

 ふたたび南下政策が活性化したロシアが、オスマン帝国へ進攻。ロシアが勝利し、クリム・ハン国の保護権とともに、ボスポラス海峡とダーダルネス海峡の商船通行権を得た。

 

1787年 第二次ロシア・トルコ戦争

 ロシアが併合したクリム・ハン国をめぐる争いが発端。孤立無援となった、オスマン帝国がロシアに屈せざるを得ず、ロシアのクリミア半島領有権を認める。第一次・第二次ロシア・トルコ戦争および、1772年、1793年、1795年のポートランド分割により、ロシアは大幅な領土拡大を実現。

 

1804年 第一次イラン・ロシア戦争

 中東方面への南下政策の一環として、ロシアがイランに進攻。ロシア派コーカサス地方グルジアジョージア)と北アゼルバイジャンを獲得。

 

1812年 モスクワ遠征

 ナポレオン戦争の一環。ナポレオンは周囲の西欧列強のみならず、ロシアにも手を伸ばしたが、想像を絶するロシアの寒さに行く手を阻まれ、甚大な被害を出しながら敗走。ロシアははからずして、領土拡大に成功。

 

1826年 第二次イラン・ロシア戦争

 アルメニアの領有権をめぐって始まった戦争。イランに不平等条約を受け入れさせ、ザカフカース全域を手に入れた。

 

1853年 クリミア戦争

 もとは、断続的に続いているロシア・トルコ戦争の一環。主戦場となった半島名をとり、クリミア戦争と呼ばれる。ロシア帝国とフランス、イギリス、オスマン帝国の同盟国が戦った、近代史上稀に見る大規模な戦争。ロシアが講和に応じた。

 

1856年 アロー戦争

 直接関わってはいないが、南下政策を諦めきれないロシアが、東アジア方面へと目を向けるきっかけとなった。

 

1877年 露土戦争

 この戦いで、オスマン帝国は大きく弱体化。ただ、ロシアの南下政策は他国の干渉によって、またも頓挫した。

 

1904年 日露戦争

 ふたたび東アジアに目を向けたロシアと日本の利害がぶつかった戦争。日本に敗戦し、東アジアへの進出を諦めざるをえなくなった。

 

1914年 第一次世界大戦

 ロシア軍が多大な犠牲を払い、大敗退。ヨーロッパ史上、類をみないほど広大な領地を失うという結果に。

 

1939年 第ニ次世界大戦

 連合国の一員として戦い、戦勝国となったことで国際的な地位を確かなものに。

 

ロシア・トルコ戦争とポートランド分割――帝国の完成

不凍港や肥沃な土地を求めて南下したいロシアと、それを食い止めたいオスマン帝国との戦いは、16世紀から繰り返されてきた。ロシア帝国成立後も、じつに200年もの間、断続的に繰り返された。

 まずここで取り上げるのは、1768年の第一次ロシア・トルコ戦争の前段から1787年の第二次ロシア・トルコ戦争までの流れである。

 

・勢いに乗ったロシアだったが、そんな折の1789年、フランス革命が起こる。王制をひっくり返す革命の余波を恐れたロシアは、オスマン帝国との戦争を中断し、講和したのだった。

 

・この第一次・第二次ロシア・トルコ戦争と同時期に行われたのが、1772年、1793年、1795年の三度にもわたる「ポートランド分割」である。ロシア、プロイセンオーストリアが、領土拡大を図ったのだ。

 

・こうしてロシアは、第一次、第二次ロシア・トルコ戦争とポートランド分割により、大幅な領土拡大を実現した。

 

ナポレオン戦争――フランスを撃退、領土を広げる

1812年、ロシアはフランス革命後に侵略戦争を始めた、ナポレオン軍の進攻を受ける(モスクワ遠征)。

 このナポレオン戦争では、一時はモスクワへの入城まで許すことになったが、ロシアは万策を講じてナポレオン軍を撃退する。そればかりか、講和会議の決定により、フィンランドなどの領地を、図らずも手に入れることになるのである。

 

ナポレオンの勢いを恐れたイギリスは、1805年、3度目となる対仏大同盟を結成、スペイン沖の海戦でフランス軍を撃破する。

 ここでナポレオンはイギリス本土への進攻を諦め、戦術変更を講じる。イギリスを経済的に封じ込めるために、1806年、ベルリンで大陸封鎖令を発令したのだ。

 ひと言で言えば、ヨーロッパ大陸の諸国や北欧諸国に、イギリスとは通商せず、フランスと通商することを命令したのである。ヨーロッパの経済を牛耳ることでイギリスをヨーロッパの市場から締め出し、経済的に自滅させようというわけだ。

 しかし、ナポレオンの目論見書とは裏腹に、大陸封鎖令はヨーロッパ大陸の経済を混乱させ、反仏感情が高まった周辺国では反抗する国も出てきた。

 

・こうしてロシアは、ナポレオン戦争を通じて、またも領土拡大に成功したのである。

 

イラン・ロシア戦争とアフガン戦争――南下するロシア、阻みたいイギリス

とにかく南へと進みたいロシアの目は、次第に中東にも向けられていく。そこで起こったのが、アフガニスタンをめぐるイギリスとの対立である。

 アフガン戦争(第一次、第二次、第三次)は、ロシアの支援を受けたイランのアフガニスタン進攻に、ロシアの南下政策を危険視したイギリスが介入した戦争だ。

 

1880年、第二次アフガン戦争に勝ったイギリスはアフガニスタン保護国化し、イラン南部はイギリスの、イラン北部はロシアの勢力内に収まることになる。

 

エジプト・トルコ戦争とクリミア戦争――英仏に敗れて黒海方面を断念

・エジプト・トルコ戦争は、エジプト人総督ムハンマド・アリーが、1821年の ギリシャ独立戦争オスマン帝国を支援した見返りに、シリアの領有権を求めたことに端を発した。

 この要求をオスマン帝国が拒否すると、1831年ムハンマド・アリーはシリアに出兵し、二次にわたるエジプト・トルコ戦争が勃発した。

 

・結局、ロシアは、先のロンドン条約とパリ条約によって、ボスポラス海峡、ダーダルス海峡の独占的航海権とドナウ川河口を失い、黒海沿岸に築いたはずの拠点を一気に失ってしまった。

 繰り返しオスマン帝国と戦い、黒海から地中海方面へと進出しようと努めてきたロシアの南下政策は、ここで大きく挫かれることになったのである

 

アロー戦争――英仏勝利に乗じて、ついに不凍港を築く

アロー戦争は、ロシアが直接関わった戦争ではない。

 ただ、南下政策を諦めきれないロシアが、今度は東アジア方面へと目を向けるきっかけとなった戦争なので、ここで取り上げる。

 

・結局、英仏に敗れた清は、天津条約の批准に加えて、開港を11港にすること、天津条約で定められた賠償金を増額することなどを定めた、北京条約まで結ばされることになった。

 

・この流れに乗じたロシアは、英仏とは別に1858年にはアイグン条約、1860年には北京条約を締結する。それらによって黒龍江左岸、および沿海州の領有権を清に認めさせ、沿海州にはウラジオストック港を開港する。

黒海方面では挫折したロシアだったが、英仏と清が戦ったアロー戦争にうまく便乗したことで、ようやく不凍港を築いた。これが東アジア方面に南下する道筋となるのである。

 

露土戦争――圧倒的勝利を収めるも西欧の介入を招き後退

クリミア戦争黒海方面への南下政策を中断していたロシアは、ふたたびオスマン帝国に進攻する。

 

・まずボスニア・ヘルツェゴビナのスラブ系民族のキリスト教徒(ギリシャ正教徒)農民が蜂起し、ブルガリアでも同様の反乱が起こると、周辺のセルビア公国モンテネグロ公国は彼らを支援する姿勢を示す

 

・ロシアは、これを、折しも高まりを見せていたパン・スラブ主義(スラブ語を話す民族の団結を目指す思想)を掲げて、バルカン半島へ進出するチャンスと見た。

 そして1877年、スラブ系民族保護の名目のもと、ロシアはオスマン帝国に宣戦布告をする。

 バルカン半島コーカサス地域で、ロシアは次々とオスマン帝国を撃破、1878年、サン・ステファノ条約の締結をもって露土戦争終結する。

 

・イギリスとオーストリアが、真っ先にサン・ステファノ条約に異議を唱えたのは、こうした背景からである。

 そこで、ドイツが調停役に立ってベルリン会議が開かれ、1878年に新たに結ばれたベルリン条約によってサン・ステファノ条約は大幅に修正された

 せっかくオスマン帝国を破り、バルカン半島から地中海へと至る足がかりをつかんだかに見えたロシアだったが、他国の干渉によって、またも南下政策は頓挫したのである。

 

日露戦争――日本海への南下を目論むも、革命の気運が高まり帝国弱体化へ

露土戦争で勝利したにもかかわらず、思うような戦果は得られなかったロシア。そこでロシアの目は、ふたたび東アジアに向けられる。これが新興国・日本の利害とぶつかり、日露戦争が起こるのである。

 

・しかも、ロシア国内では革命に向けた動きが進んでいた。1905年1月には、戦況が不利になるなかで「血の日曜日事件」が起こり、これを機に第一次ロシア革命が起こる。

 ロシアにとって日露戦争とは、国内で革命の火が燃え盛ろうとしているなかでの戦争だった。

 

・こうしたなかで1905年、アメリカの仲介によって講和会議が開かれる。そこで結ばれたポーツマス講和条約では、南樺太の領有、朝鮮や遼東半島の勢力圏への組み入れ、南満州鉄道の利権の承認、沿海州カムチャッカ半島の漁業権の獲得などが日本に認められた。 

 ロシアは先のベルリン条約ではバルカン半島進出を阻まれたので、今度は沿海州を南下の足がかりにしようとした

 しかし、折しもロシア国内では革命の動きが盛んだったこともあり、ロシアは日本に敗戦し、東アジアへの進出を諦めざるを得なくなったのである。

 

第一次世界大戦――連敗を重ねるなかでのロシア革命ソビエト連邦成立

・ロシアの動きを見ていると、黒海方面か東アジア方面か、つねにいずれかの方面への南下を試みていることがわかる。一方で阻止されたらもう一方へ、そこで阻止されたら、またもう一方へ、という具合だ。

 

・ロシアにとって第一次世界大戦とは、もともと拡張路線をとっていたロシア帝政がバルカン半島における勢力を拡大し、黒海方面への南下政策にふたたび力を集中させるためのものだった。

 しかし、帝政への不満を抑えきれず、革命成立を避けられなかったことで、かえって、ヨーロッパ史上、類を見ないほど広大な領土を失うという結果になったのである

 

・その後、ロシア国内では、農民の支持を得た社会革命党が第一党に選出されたことを受け、ボリシェビキは議会を解散し、プロレタリア政党の一党独裁を形成した。

 この間、ロシア周辺地域でもソビエト政権が次々と誕生する。ロシアの革命政権が反革命勢力に対抗して力をつけていたのに、呼応したのだ。

 結果、ウクライナ、ベロルシア、ザカフカースの三共和国が加わる形で、1922年、ソビエト連邦が成立した

 

ロシア革命をきっかけに第一次世界大戦から離脱し、いったんは広大な領土を失ったロシアは、同じロシア革命によって体制が変わったことを機に、いまだかつてないほどの勢力圏を獲得したのである。

 

第ニ次世界大戦――アメリカに並ぶ大国としての地位を確立

ロシア革命によって巨大な連邦国となったソ連は、第ニ次世界大戦では連合国の一員として戦い、戦勝国となったことで国際的な地位を確かなものとした。

 しかし第ニ次世界大戦以降、社会主義国として東欧諸国への影響力を強めるために、西欧とアメリカから警戒される。これが、米ソが互いに巨大な軍事力をちらつかせながら牽制し合う「冷たい戦争」、すなわち冷戦へとつながるのである。

 

・そして1945年5月にドイツが降伏すると、8月8日にソ連は日ソ中立条約を破り日本に進攻する。

 2度にわたり原爆をも落とされた日本が、これ以上戦い続けることは不可能だった。8月14日に日本はポツダム宣言を受諾し、無条件降伏となったのだ。

 英米との約束どおり対日参戦したソ連は「戦勝国」となり、戦後に発足した国際連合の安全保障国理事会の常任理事国に就任する。

 

・では、その後、ロシア帝国の時代から試みてきた南下政策は、どうなったのか。1979年、アフガニスタンに進攻したことは、いまだに残る南下への野心を積極的に表した最近の例といえるだろう。

 しかし、アメリカに支援されたアフガニスタンの兵士に阻まれ、1988年からソ連軍は続々と退散することになる。

 そして1991年、ソ連は崩壊してロシアとなるが、アメリカに並ぶ大国としての国際的地位は保たれ、今も国連安保理常任理事国の一つである。

 

ソ連崩壊とクリミア危機――ロシアは今後どうしたいのか

ソ連では、1985年に共産党書記長に就任したゴルバチョフによって、1986年からペレストロイカ政策が行われた。ペレストロイカとは「再構築」「改革」を意味する。これと同時にグラスノスチ(情報公開)も進み、

報道の自由度が格段に増した。さらに一党独裁を脱し、代わりに導入した大統領制によって、ゴルバチョフが大統領に就任した。

 

ペレストロイカは、あくまでも一党独裁が60年以上続いたことで停滞した社会を立て直すための政策だった。だが内実を見れば、それは民主的改革にほかならず、結果、ソ連という一党独裁連邦国家そのものの崩壊を招いたのである。

 ソ連を構成していた15の共和国は分裂、独立していった。

 

・放っておけば、西欧の勢いがロシアにまで及びかねない。2014年のクリミア危機の根本には、こうしたロシアの危機感がある。ロシアにとってウクライナは、西欧の影響を食い止めるための重要な緩衝国である。だからロシアは、ウクライナの動向につねに目を光らせてきたウクライナの政権が西欧寄りと見れば野党を応援し、ロシア寄りの政権と見れば支援し、という具合である。

 

ウクライナのほうも、ソ連崩壊時に独立は遂げたものの、ずっと揺れ動いてきた。

 ロシア帝国時代にはウクライナ語の使用を禁じられるなど、辛酸をなめてきたウクライナにとって、ロシアからの独立は悲願達成だったといえる。

 しかし、今となっては国内には少数派とはいえロシア語を話す人々がおり、産業はロシアに大きく依存しているなど、複雑で酷な事情がある。そうした事情もあって、ウクライナを勢力下に置きたいロシアの力を、きっぱり取り払うことができない

 

・そんななか、2014年2月、ウクライナではロシア寄り政権が倒され、西欧寄りの暫定政権が打ち立てられた。

 ロシアとしては黙ってみているわけにはいかない。暫定政権が勢いづいて正当な政権として定着すれば、そのままNATO、EU加盟という流れになる可能性は、きわめて高かったからである。

 

・ただ、もしウクライナNATO、EUに加盟したいと言えばおそらくアメリカ、西欧諸国は、諸手を上げて歓迎するだろう。ロシアの力を削ぐことができるからだ。ロシアも、そこのところは重々承知であり、ウクライナは、西欧諸国の影響を食い止める最後の砦だ。

 

・しかし、ウクライナに西欧寄りの暫定政権が誕生してしまったことは、変えようがない。だから、ギリギリの選択として、ロシアはクリミアを併合したのである。

 これで万が一、ウクライナの暫定政権の勢いが衰えず、西欧になびいてしまったとしても、水際で影響を食い止めることができるというわけだ。

 

・ロシアのクリミア併合は、一応は住民投票という民主的な手法で決定されたが、欧米からは激しく非難された。はたから見ていると、なぜ、そんな総スカンを食らってまで、大国ロシアが小さなクリミア半島にこだわるのかと不思議だったかもしれないが、ロシアには、どう非難されようともクリミアを併合したい事情があったのだ。

 クリミアについては、ロシア系住民が多く、半島内にロシアが2045年まで租借しているロシア軍港(セバストポリ)があり、また、戦後1954年まではロシアに帰属していたという歴史経緯もあった。

 あの小さな半島をめぐり、かつての冷戦構造のせめぎ合いが、いまだに渦巻いているのである。

 

クリミアでギリギリの攻防を見せたロシアは、これから、どうしたいのか。おそらく、ロシアはかつての帝国時代のような拡張主義的な野心は、もはや抱いていないのだろう。ただ西側の影響が自国に達し、政治経済が大きく変革してしまうのだけは避けたいという、防衛一辺倒になっていると見ていい。

 クリミア危機は、そんなロシアの姿勢の変化すら垣間見せる出来事だったといえる

 

日本の現在と今後を考える

「引いたら押される」が常識の国際政治

・戦争は「より広い土地、よりよい土地が欲しい」という一点に集約される。言い換えれば、国家は「より多くの富」を求めて、領土拡大を渇望してきたのだ。

 

・つまり、戦って自分を守るためではなく、戦わずして自分を守るために、しっかり武装しておくということだ。

 

地政学的リスクで考えれば明確すぎる「集団的自衛権」の是非

・同盟とは、持ちつ持たれつの関係だ。「同盟国が攻められたら力になる」という約束を相互に交わさなければ成り立たない。

 

・現代のアジアは、紛れもなく世界の中でもっとも戦争が多い地域なのだ。

 

ロシアが半ば強制的にクリミアを併合した経緯もあり、黒海沿岸も決して安定しているとはいえない。

 

・これまでも触れてきたように、民主主義国家同士では戦争が起こりにくいという国際政治の理論がある。つまり、アジアで戦争が多いのは、アジアに民主主義国家が少ないから、といえるのである。

 逆に、すでに民主化が済み、定着しているヨーロッパで今後、戦争が起こる可能性は、きわめて低いといえるだろう。

 唯一、脅威といえばロシアだが、それでもアジアの民主度の低さ、戦争の多さに比べればはるかにマシである

 

同盟関係の強化は戦争リスクを減少させる。より具体的にいえば、

〇きちんとした同盟関係を結ぶことで40パーセント

〇相対的な軍事力が一定割合増すことで36パーセント

〇民主主義の程度が一定割合増すことで33パーセント

〇経済的依存関係が一定割合増加することで43パーセント

〇国際的組織加入が一定割合増加することで24パーセント

というパーセンテージで、戦争リスクが減少するという。

 

なお、国際政治では、同盟と軍事力を強調するのがリアリズム、民主主義、貿易依存と国際機関を強調するのがリベラルといわれて、平和を模索するための代表的な考え方であった。

 リアリズムとリベラルは長く対立し論争してきたが、戦争データによる実証分析では、どちらも正しかったことがわかった。

拙著『バカな外交論』の冒頭で、私は外交とはすなわち「安全保障と貿易について話し合うこと」と述べた。

 

・一部の野党のいう、集団的自衛権の行使は戦争リスクを高めるというのは、過去の戦争データを見ればウソであり、国際社会では恥ずかしい意見である。

 

・先ほどもいったように、きちんとした同盟関係とは、いざというときには互いに守り合うという約束を交わす、すなわち集団的自衛権が前提となる。

 

・まだま「より広い、よりよい土地」を求め、実力に訴える可能性がある国に対し、信頼できる同盟国とともに集団で守り合う姿勢を「見せる」ことは、自己防衛の基本なのである。

 

日本にとって最大の脅威は、やはり中国

第ニ次大戦以降、アジアは最大のリスク地帯。その只中にある日本にとって、最大の脅威となる国はどこか。「赤信号」が灯っているのは中国と北朝鮮であることは、いうまでもない。とくに中国の脅威は無視できない。

 

その上、中国の漁民には「擬似海軍」という一面もあるといわれている。厄介なのは、内実は海軍も同然であっても、表向きが漁民では軍事的に対応することができない点だ。要するに、「漁民」であることを隠れ蓑に、彼らは中国政府から海軍に匹敵するような任務を与えられている。そう懸念されているのである。

 

つまり、国の最高法規である憲法において、共産党が国を動かすことの正当性が織り込まれている憲法とは本来、政府を制限するものであるべきなのに、中国の憲法は、実質、共産党一党独裁体制を支えるものになっているのである。

 だから、中国は立憲主義ではないといっているのだ。こうした名ばかりの憲法では、本当に公正な普通選挙が行われないのもうなずけるのではないか。

 このように、民主主義のロジックも立憲主義の常識も通用しない国を隣国にもっているということを、日本人は理解しておかなければならない。

 

日米安保体制が、日本の生き筋

・他国への武力介入には、とにかくお金がかかる。財政的に苦しくなっているアメリカは軍事費の削減を目指しており、世界のもめごとからも少しずつ手を引こうとしているのだ。

現在のアメリカの最大関心事といえば、太平洋と大西洋の両方をきちんと押さえておくことだろう。

 

・大西洋には、今のところ大きな懸念はない。心配の種はやはり、南沙諸島で好き勝手振舞っている中国だ。現にアメリカ海軍の戦闘機が南沙諸島上空にまで迫り、中国軍から激しい警告が発せられたことなどもあった。

 アメリカと中国の間では、太平洋をめぐる「押し合い」が生じている。

 

アメリカの軍事予算は、2005年を過ぎたあたりから、年あたり60~70兆円ほどをキープしてきた、それを削減するとなると、日本が同盟国として出さなくてはいけない分が多くなる。

 今は国家予算の20分の1程度で済んでいる軍事予算が膨れ上がれば、当然、日本の財政はそうとう圧迫されることになる。

 アメリカとは強固な同盟関係を継続させ、あくまでも、軍事費的にも人員的にもアメリカ主導のもとで協力するという体制で、太平洋に対する中国の野心を抑え込んでいくべきだ。

 

アメリカにとってもリスクである中国に協力して向き合うことが、やはり日本の生き筋なのである。

 

 

 

 

(2020/4/23)

 

 

『「帝国」ロシアの地政学

「勢力圏」で読むユーラシア戦略

小泉悠   東京堂出版     2019/6/26

 

 

 

ロシアの地政学的戦略を知るための格好の書

ウクライナの軍事侵攻とクリミア半島併合、中東への介入、中国への接近、北極圏への侵出、そして日本との北方領土問題など、近年ロシアの「勢力圏」は東西南北に広がりをみせる。ロシアの狙いは何か?プーチンの言う「ソ連崩壊は)20世紀最大の地政学的悲劇」の意味するところは?

 

交錯するロシアの東西

近くて遠い島

・2018年7月、筆者は北方領土国後島にいた。

 

・「数日前まではすごく寒かったんだけど、日本人が暖かさを運んでくれましたよ」という島民の言葉も、うだるような暑さの東京からやってきた筆者にはうらめしいだけである。続いて訪れた択捉島もひどく暑く、持参したウインドブレイカーには数えるほどしか袖を通さなかった。

 北方領土を訪れるのはこれで二度目だった。

 

クリミアから来た酒

・ビザなし交流に船が用いられる理由は、当初、純粋に技術的なものだった。つまり、北方領土には軍用飛行場を除いて空港が存在しなかったため、船で行くほかなかったのである。

 

・こうした事情もあるので、島内では基本的に自由行動は許されない。特に「国境」の島である国後島では制限が厳しいらしく、筆者が訪れた二度とも、古釜布の中心部を集団行動で視察するのがせいぜいであった。日本政府としても、訪問団が勝手な行動をとって政治問題に発展するのは避けたいところであろう。特に筆者が参加した二度目の訪問では、その直前に国後島を訪れた訪問団が持参した衛星電話をロシア当局に没収されるという事態が発生したばかりであった。

 

・よく「北方領土でロシア化が進んでいる」といったことがメディアで言われるが、「進んでいる」というよりもロシア化は「完了している」というのが筆者の印象である。それも5年前に比べると建物の多くが綺麗にリノベーションされていたり、かつては泥道だった道路がアスファルトで舗装されていたりと、インフラは格段に改善されている。

 

・隣の店は酒屋で、酒瓶がずらりと並んでいた。ロシア人と言えば酒好きで知られる。キエフ大公ウラジミール一世は国教を定めるにあたり、イスラム教、ユダヤ教キリスト教を検討したが、イスラム教では飲酒を禁じていると聞くと「ルーシの民から酒の喜びを奪うことはできない」と述べてイスラム教を退けたという伝説が残っているほどだ。最近ではインテリ層が公の場であまり酒を飲まなくなり、ビジネスライクな夕食ではワイン一杯だけ、という人も少なくないが、労働者階級は依然としてよく酒を飲む。一番人気は何と言ってもウォッカだが、ワインやコニャックもよく飲まれてきた。

 ただ、並んだ酒瓶のラベルは、筆者がモスクワで見慣れたものと少し違うようだ。

「これはクリミアのウォッカですよ」

 

「フラスコ」と「浸透膜」

本書のテーマを一言で述べるならば、ロシアの「境界」をめぐる物語、ということになろう。

 教科書的な理解によれば、国家は国境線で隔てられる領域を有し、その内部において主権を行使するということになっている。これに国民を加えたのが、いわゆる国家の三要件と呼ばれるものだ

 もちろん、これは一種の理念型であるから、常に現実に当てはまるわけではない。実際、国境線をどこに引くかをめぐって国家間が対立し、国家の境界がはっきり定まらないという事態は決して珍しくない。ここまで述べてきた日露の北方領土問題はその一つだが、世界を見渡せば、国境問題の例は他にも枚挙にいとまがないほどである。その中には、ナゴルノ・カラバフ地方の領有をめぐるアルメニアアゼルバイジャンの紛争のように深刻な軍事的対立の火種となっているものもあればカシミール地方をめぐるインド、パキスタン、中国の紛争のように三つ巴の様相を呈するものもある。概して平和的な関係にある米国とカナダさえ、いくつかの拠点では国境紛争を抱えている。

 

・国家の構成要件である国民についても、ロシアの理解には特殊性が見られる。ロシアの言説においては、「国民」という言葉が法的な意味のそれ(つまりロシア国籍を有する人)ではなく、民族的なロシア人(あるいは「スラヴの兄弟」として近しい関係にあるウクライナ人やベラルーシ人)と読み替えられ、政治的・軍事的介入の根拠とされることが少なくない。

 そして、このような「国民」の読み替えが上記の「浸透膜のような境界とグラデーション状の主権」という理解と結びつくことで、「ロシア人の住む場所にはロシアの主権が(完全ではないにせよ)及ぶ」という秩序観が成立する。しばしば帝国のそれになぞらえる、特殊な秩序感である。

 では、こうした秩序観は、どのような思想的背景の下に生まれてきたものであり、ロシアをめぐる国際関係にどのような影響を及ぼしているのだろうか。あるいは、約6万キロメートルに及ぶロシアの国境線は、一様に「浸透膜」として振る舞うのだろうか。それとも地域的な差異が認められるのだろうか。そして我が国が抱えるロシアとの北方領土問題は、このような構図の中でいかに理解されるべきなのだろうか。

 本書は、「境界」の概念を軸として、こうした問いに答えていこうという試みである

 

冷戦後のロシアにおける「地政学」の文脈

地政学」の氾濫

・ロシアの境界をめぐる神話を始めるにあたり、まずは地政学という観点から冷戦後のロシアを見ていくことにしたい。

 ロシア人は、この地政学という言葉が大好きで、ロシア人との会話やロシア語の文章にはやたらに「ゲオポリティカ=地政学」」が登場する。ただし、後述する古典的な意味での地政学、すなわち政治と地理の関係に着目するという考え方がそこに反映されていることは稀で、単に国際安全保障上の諸問題、という程度の使われ方である場合が多いようだ。この意味では、金融業界でよく用いられる「地政学リスク」に似た趣がある。

 ロシア語に「地政学」が溢れるようになったのは、ソ連崩壊後のことであったソ連では地政学ナチスイデオロギーであるとされ、極めて否定的な扱いを受けていたためで、現代のロシア人がこれほどまでに「地政学」という言葉を愛用するのは、どうも当時の反動なのではないかとさえ思われる。

 

・では、ロシア的文脈における「地政学的なるもの」とは何か。これについては次節で述べるとして、まずは一般的な意味における地政学について簡単に概観しておきたい。

 この数年、日本では一種の地政学ブームが起きており、書店へ行けば地政学と銘打った本が平積みになっているのを目にする地政学と言ってもいくつかの流派があり、それぞれの意味するところはかなり食い違う場合も多いのだが、昨今人気を博しているのは主に英米流のそれであるようだ。英国のマッキンダーが提唱し、のちに米国のスパイクマンが完成させた英米地政学においては、大陸勢力(ランドパワー)がユーラシア大陸の枢要部分(ハートランド)を支配することに強い警戒感を示すユーラシア大陸の生産力や交通の要諦であるハートランドを握る勢力はやがてユーラシア大陸を統一し、英国や米国といった海洋勢力(シーパワー)の覇権を脅かしかねないためである。この意味では、ドイツとの二度にわたる世界大戦やソ連との冷戦は、ハートランドの覇権をめぐる闘争であったと位置付けられることになり、実際、英米地政学は科学というよりもユーラシアに対する戦略論という性格を色濃く有していた。ランドパワーである中国の拡張に直面する日本で英米地政学が人気を集めるのは、そう不思議なことではないだろう

 

・他方、ドイツのラッツェルやハウスホーファー、あるいはスウェーデンのチェレーンといった思想家によって19世紀から20世紀前半に体系化された大陸系地政学は、国家を一種の生命体に見立てた。そして、生命体たる国家は「成長」の過程で人種・言語・文化などを同じくするエスニック集団を吸収し、さらにこの集団が自活するに足るだけの「生存権(レーベンスラウム)」を支配下に置く「権利」を有するとされる。

 こうした思想が生まれてきた背景には、ドイツ民族が統一国家を持たず、いくつもの国家に分割されていたという事情が存在する。のちにナチス・ドイツが東欧諸国を侵略するに際して根拠としたのはこのような「生存圏」の論理であり、それゆえにソ連では地政学ナチスイデオロギーとされたのである。

 

巨大国家ロシアの様々な横顔

・しかし、「地政学」と銘打つかどうかは別として、ロシアの思想においても地政学的な要素が見られることはすでに述べたとおりである。そして、ここでいうロシア流地政学は明らかに大陸地政学の影響を受けたものであり、特にソ連崩壊後のロシアではそれが顕著になった。

 

ロシアと言えば正教を信仰する白人の国家というイメージが先に立つが、これはロシアという巨大国家の一側面に過ぎないたとえば本書執筆時点で最新の2010年度国勢調査によると、ロシア連邦には194もの民族が存在するとされており、このうちロシア人としての自認を有する者は全体の78%弱(当時の総人口である約1億4286万人中の約1億1100万人)。これにタタール人(約531万人/3.7%)、ウクライナ人(約193万人/1.4%)、バシキール人(約158万人/1.1%)、チュバシ人(約144万人/1%)などとなっており、実に幅広い民族から構成される国であることがわかる。ロシアの国土が欧州部から極東アジアにまで跨る以上、当然の帰結ではあるが、比較的均質な日本の社会からすると目の眩むような多様性である。

 

先の2010年度国勢調査によれば、ロシアに住む朝鮮族は約15万人。元々はロシア極東部の北朝鮮満州との国境に暮らしていたが、スターリン時代の強制移住によってソ連各地に広がり、ソ連崩壊後には商売のために都市部へ移住してきたという人々も多い。商業的に成功する人々も少なからずおり、モスクワ大学にほど近いコスイギン通りのホテル「コールストン」は本格的な焼肉屋や朝鮮食材店を備えることから、日本や韓国の駐在員に人気のスポットである。

 

・ロシアの民話にも目を向けてみよう。ロシア民話と言えば文豪トルストイによる再話「おおきなかぶ」が有名だが、これはロシア欧州部で語り継がれてきた物語である。一方、2005年からインターネット上で公開が始まった民話アニメ・シリーズ「宝石の山々」では、ロシアの各地に暮らす諸民族の民話が数多く紹介され、人気を博している。この中には「おおきなかぶ」のようにロシアの昔話も含まれるが、そのほかにも朝鮮系やヤクート人などアジア系諸民族の民話、チェチェンをはじめとする北カフカス地方の民話などが各13分の美しいアニメーションに仕立てられ、眺めているだけでもロシアという国の多様さを思い知らされる。

 

・当然、宗教も多様である。数の上では正教徒が多いのはたしかだが、その他のキリスト教諸派ユダヤ教イスラム諸派といったいわゆる「聖典の民」は一通り揃っており、さらには仏教徒さえ70万人ほど存在する。実際、モスクワの街中を歩けばタマネギのような丸屋根をいただいたロシア正教会の聖堂に混じって、ユダヤ教シナゴーグイスラム教のモスクなど、様々な信仰が混在していることに気付くだろう。特に日本大使館からほど近い場所に最近建設されたモスクはロシア最大級の規模を誇り、ラマダンの季節ともなれば付近の平和大通りを封鎖して無数のムスリムが祈りを捧げる様子を目にすることができる。

 

アイデンティティ地政学の癒着

冷戦後のロシアが抱え込んだ大問題は、この多様な民族・文化・宗教がなぜロシアという一つの国家の下にあるのかを説明する原理がなかなか見出せなかったことにある。

 ロシアを代表する国際政治学者の1人、ドミトリー・トレーニンがその主著『ポスト帝国』で述べたように、ロシアはロシア人を中心としつつも、非常に多くの非ロシア的要素を内包する国であるためだ。

 

ソ連とは、共産主義という理想に向かって、ルーシ民族を中心に諸民族が団結した同盟なのだ、ということである。実際、ソ連の正式名称である「ソヴィエト社会主義共和国連邦」の(ソユーズ)は通常、「同盟」「連合」「組合」などを意味する言葉であり、普通は「連邦」とは訳さない。以上で述べた本来の字義に従えば、ソ連とは「連邦」ではなく、独立した社会主義共和国が結成した「同盟」であるということになる。ソ連はこの建前を最後まで守っており、ソ連を構成する15の社会主義共和国は独自の「憲法」や「省庁」を持っていた。形ばかりとはいえ、各共和国の「外務省」さえ存在していたのである(実際にはモスクワの本省の出先機関だった)。

 それは平等な関係に基づく同盟というよりはモスクワによる諸民族の支配であるというのが実際に近かったが、たとえお題目に過ぎないとしても、ソ連という国家の存在理由を問われれば、すぐに取って出せるわかりやすい理念が一応はあった。

 

一方、ソ連崩壊後のロシアにこのような理念を見出すのは困難であるソ連崩壊の結果、かつてのロシア社会主義共和国連邦が独立したのがロシア連邦であって、その成立はいわばなし崩し的なものであった。また、1993年に成立した現行のロシア連邦憲法は、ロシアがいかなる国家イデオロギーをも持たず、義務化もしないことをその第13条において謳っている。当時のロシアにとっての最優先課題は共産主義体制との決別であって、国家としてのアイデンティティを打ち出すまでには至っていなかった。

 再び国家を例にとろう。新生ロシアでは新しい国家をなかなか制定することができず、1990年代にはロシア帝国時代の作曲家グリンカによる未完成曲を編曲した「愛国歌」が歌詞なしのまま演奏されていた。建国の理念が曖昧な以上、国歌において歌い上げられるべき内容をロシア国民全体が納得する形で定めることができなかったのである。

 この問題はプーチン政権化の2000年、ソ連国家のメロディーに新しい歌詞をつけるということで一応の解決を見た。

 

・このように、現在のロシア国歌ではロシアを「愛しき我らの国」とするばかりで、国民団結の理念はやはり示されていない。「幾世の兄弟なる民族の結束」がそれに当たると言えなくもないが、近代になってからロシアに併合された北カフカスの人民と、ルーシ民族の興りから歴史を共にしてきたウクライナ人が共にロシアの下に集う原理を説明できているかと言えば、極めて心もとないところであろう。実際、ソ連が崩壊すると北カフカスチェチェン人がロシア政府に反旗を翻し、独立闘争に打って出たことは記憶に新しい。要は、非ロシア系諸民族がロシア国歌にどれだけ耳を傾けても、なぜ自分たちがロシア国民なのかを理解できなかったのである。

 

・この意味で現在のロシアにとって第2次世界大戦の記憶は貴重なアイデンティティよすがとなっている。それは単にソ連という国家の勝利だったのではなく、ナチズムという悪に対する勝利だったのであり、ソ連はここで全人類的な貢献を果たしたのだという自負は現在も極めて強い。現在のロシアに暮らす諸民族に対しても、「共にナチスと戦った仲」だという意識は(ナショナル・アイデンティティとまでは言えないにせよ)一定の同胞意識を育む効果を果たしている。ロシアの社会が日本では考えられないほど軍隊好きなのも、単に国民性というだけでは片付けられない部分があろう。

 ドイツの降伏を記念して毎年5月9日に行われる戦勝記念パレードは、そのことをまざまざと実感させてくれるイベントだ。

 

・また、ソ連崩壊後のロシアは、新たに画定された国境の外部にも問題を抱えていた。プーチン大統領はかつて、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」であると述べたことで知られるが、その後に続く言葉が注目されることは少ない。すなわち、「数千万人の我が国民と同胞が、ロシアの領域外に居ることになってしまった」という一言である。これはソ連崩壊によって2600万人とも言われるロシア系住民がロシア連邦の国境外に取り残され、ロシア民族が分断されてしまったことを示している。ロシア人が「ほとんど我々」と呼ぶベラルーシ人やウクライナ人を含めれば、分断の規模はさらに巨大なものとなる。プーチン大統領の言う「地政学的悲劇」が、単に超大国としての地位を失ったことを嘆くだけのものではないことは明らかであろう。

 

・以上のように、ソ連崩壊によって「ロシア的なるもの」は国境で分断され、新たに出現したロシアの国境内には「非ロシア的なもの」が抱え込まれることになった。つまり、民族の分布と国境線が一致しなくなったわけで、こうなると「ロシア」とは一体どこまでを指すのか(国際的に承認された国境とは別に)という問題が生じてくる。これは地政学(「ロシア」の範囲)をめぐる問題であると同時に、アイデンティティ「ロシア」とは何なのか)の問題でもあった。

 ここにおいて、冷戦後のロシアでは、地政学アイデンティティがほとんど判別不能な形で癒着することになったのである。

 

「中国ファクター」の虚と実

「中露対立」への期待

・日本にも「面」の思考がないではない。たとえば急速に台頭する中国の脅威に対抗するためロシアと連携しようという、よく目にする考え方は、その一例であろう。ロシアとの平和条約締結交渉は「中国の脅威に日露が共同対処することも念頭にある」という、自民党河井克行総裁外交特別補佐の発言に見られるように、安倍政権の対露外交の背後にも中国への脅威認識が常に存在してきたと思われる。

 しかし、この考え方は、ロシアが日本と同じように中国への脅威を感じている筈だという前提に基づいている。アジアに位置する日本と、ヨーロッパに中心を置くロシア。米国の同盟国である日本と、米国との反目を強めるロシア――。これだけ多くの異なる条件を抱えた日露の対中認識は、果たして簡単に一致するものだろうか。そして、この点が検証されることなくしては、日本が期待する「対中国での日露連携」というビジョンの妥当性はそもそも測れないのではないだろうか。

 

・翻って、ロシアはどうか。中国への警戒感を募らせる日本の世論にとって、「ロシアが対中警戒論(あるいは脅威認識)を抱いている」という話題はそれなりにウケがよい。ロシアは中国の「人口圧力」すなわち大量に押し寄せる中国移民を警戒している。中国はロシアの軍事技術を違法コピーしている、ロシアは中国の中央アジア進出や北極進出を快く思っていない――といった話は日本で(多分に期待を込めつつ)しばしば語られるところである。

 

・他方、中国に対する脅威認識が全くないわけではない。所長は中国についての見方を次のように話してくれた。

「私の意見は、カナダのトルドー元首相が米国について述べたのと同じです、つまり、『象の隣で眠るようなもの』ということです」

 

・ロシアの中国観もこれと同じだという。巨大な力を持つ隣人とどう波風を立てずに付き合っていくか、言い換えれば、隣人をいかに隣人のままに留め、敵にしないかがロシア極東部の関心なのだ。隣の象が年々巨大になっていく中では特にそうだろう。

 

味方ではないが敵でもない。>

・このような傾向は、極東に限らず、ロシアの対中政策全体にも見て取れる。ことに2014年のウクライナ危機以降はそれが顕著になった。

 たとえば経済面を見てみよう。従来、ロシアの最大貿易相手国はドイツとオランダであったが、この数年は中国がトップとなり、2018年には両国の貿易高が初めて1000億ドルを突破した。

 

・さらに2015年、プーチン大統領は訪ロした習近平国家主席を前に、ロシアのユーラシア連合プロジェクトと一帯一路を「連携」させると発表した。「連携」なるものがどこまで実態を伴うのかは別として、政治的にはロシアが中国の一帯一路に異を唱えないことを示した画期と言える。

 軍事面について言えば、旧ソ連の勢力圏を第一正面とするロシアにとって、アジア正面に重心を置く中国が同盟相手たり得ないことはたしかであろう。

 

・したがって、ロシアの対中安全保障政策は「同盟にはなれないが敵にもならない」という関係の構築を目指して進められてきた。

 

・ロシアが対中国で日本と協力できないのは、日本ほど中国の脅威を感じて「いない」からではない。巨大な隣人と直接に国境を接しているロシアの対中脅威認識は日本などの比ではなく、それゆえに中国との関係悪化をなんとしても避けることこそがロシアにとっての安全保障とみなされている、という構図が描けよう。

 

蜜月はいつまで続くか

・ただ、ロシアが中国に対してはそれなりの不満や警戒感を募らせていることもまた無視されるべきではない。ロシアにとって最も憂慮されるのは、旧ソ連諸国に対する中国の進出が経済の領域から政治・安全保障にまで及んでくることであろう。

 たとえばロシアは従来から、旧ソ連諸国に対する武器供給を重要なレバレッジとしてきた。ロシアが勢力圏とみなす国々は、経済力が乏しかったり、権威主義的体制をとっているために西側諸国の先端兵器を購入できなかったりする場合が多かったためである。したがって、安価でそれなりの性能の武器を提供できるロシアの武器開発・生産能力は、旧ソ連の勢力圏を維持する上で無視できないツールであったが、ここに第三極として中国が進出してきた。中国はロシアと同様、西側諸国が武器を売らないような国に対しても武器を供給するため、ロシアは唯一の武器供給国として振る舞うことが次第に困難になりつつある。

 

・ちなみに本章の冒頭に掲げたのは、ロシアの現代作家ウラジーミル・ソローキンによる2006年の小説、『親衛隊士の日』の一節である。この小説の舞台である2028年のロシアでは帝政が復活しており、西側諸国からは「大壁」によって孤立している。主な友好国は同じく皇帝を復活させた中国だが、今や経済力でも科学技術力でもロシアは大きく後れをとっており、宮廷内では中国語が話されている――という世界だ。

 荒唐無稽なビジョンと言ってしまえばそれまでだが、中国の台頭に対してロシアが抱く複雑な気分もそこから読み取ることができよう。

 

新たな地政学的正面  北極

北極の地政学

北極の戦略的意義――近代~20世紀

・ロシアはユーラシア大陸の北辺を広く領有しており、このうち310万平方キロメートルが北極圏に分類される。広大なロシアの、約5分の1が北極であるということになる。

 従来、北極圏の人口はその自然環境の厳しさからごく少数に留まっており、経済的な利用にも限度があった。他方、地政学という観点から見ると、北極は他の正面に劣らぬ重要性を有しており、自然環境と政治的環境の変動によってその重要性をさらに増しつつある。

 

ノルウェー防衛研究所のタムネスとホルツマークは、北極の戦略的意義を、北極自身の有する地理的価値(特に資源の豊富さと空間の有用性)および北極自身には属さない四つの外部要因に分けて分析した。四つの外部要因とは、「発見および探検に関する人間の衝動」、「科学の進歩」、「対立および紛争」、「気候変動」である。北極自身が有する絶対的な価値(資源や空間)と、これをより相対的な価値(政治・経済・軍事的な効用)へと変換するための外部環境の相互作用が北極の戦略的意義を規定するということになろう。

 

・しかし、20世紀に入ると、北極の持つ安全保障上の重要性は大きく増加した。第1次世界大戦および第2次世界大戦において、北極はロシア帝国およびソ連に対して英国や米国から援助物資を送り込むための戦略的輸送ルートとなり、これを妨害しようとするドイツとの戦闘も発生するようになったのである。

 

このように、冷戦という「対立および紛争」要因と、航空機・ミサイル・核兵器等の出現という「科学の進歩」要因により、北極は冷戦の最前線に躍り出たと言えよう。別の言い方をすれば、北極の有する「資源」と「空間」という絶対的価値のうち後者に、核抑止力の基盤という新たな意義が加わったことになる。

 

21世紀における北極像

・冷戦後の北極には新たな側面が加わった。「気候変動」要因、すなわち地球温暖化の影響により、北極を覆っていた冠氷が減少傾向を見せ始めたためである。北極の冠氷面積は年間を通じて変動するが、一般的に最も面積が大きくなるのは3月であり、9月には最小となる。

 

この気候変動は、北極の有する戦略的意義を大きく変化させうるものと言える

 その第一に挙げられるのが、資源地帯としての利用可能性である。北極が大きな資源ポテンシャルを有していることは以前からわかっていたが、ソ連の崩壊および冷戦の終結という政治的変化と、探鉱・採掘技術の進展という「科学の進歩」が、北極における資源利用の可能性をさらに拡大した。

 

・第二に、資源利用の可能性拡大と同じ理由によって、航路としての北極海の利用可能性が拡大した。

 

ロシアにとっての北極

戦略的資源基盤

・以上を踏まえた上で、今度は、ロシア側が北極をどのように位置付けているのかについて考えてみたい。

 現在、ロシアの北極政策を最も包括的に規定しているのは、2008年に策定された「2020年およびそれ以降の期間における北極についての国家政策の基礎」である。北極政策の基礎には、前節で見た冷戦後の北極をめぐる環境変化が色濃く反映されている。

 その第一は、北極を「ロシア連邦の戦略的資源基盤」と位置付けている点だ。北極が巨大な天然資源埋蔵量を有する可能性についてはすでに紹介したとおりであるが、ロシアが今後とも資源大国としての地位を保つためには、北極の資源開発は死活的な意義を有する。

 

第二に、NSR(北極海航路)が「北極圏におけるロシア連邦の国家的統一輸送路」と位置付けられ、その整備と利用を国家的な規模で行うとしている。

 

「大国」のステータス

・ロシアの北極政策については、政治的な影響力の拡大、特に「大国」としての地位を確保しようとする意図も度々指摘されてきた。ロシアは国際的な重要性を高める北極問題をテコに、新たな国際秩序における「大国」としての地位を獲得するとともに、北極圏諸国に対する主導権を確保しようとしている。

 

「要塞」か、開かれたマリーナか

・これまで見てきたように、ロシアは北極に大きな経済的意義を認める一方で、その裏返しとして軍事的な脅威認識を強めるアンビバレントな様相を呈している。それゆえに、国家として見た場合のロシアの北極政策には、協調的な側面と対立的な側面の双方が混在しており、周辺諸国にとっての不確定要素とみなされてきた。

 

第一に、米国におけるシェール革命や新興国におけるエネルギー需要の頭打ちによってエネルギー資源の国際価格は2010年代半ばに急落し、原油の場合、1バレル50ドル台という低水準で推移している。

 

・第二に、商業航路としての将来性が挙げられる。使用できる期間が限定されること、それもその時々の気象条件によって大きく変動すること、高額の通行料の支払いが必要であること、場合によっては高コストの砕氷船によるエスコートが必要になることなど、NSRの商業利用に関しては様々な障害が存在する。

 

しかし、第三に、核抑止基盤としての北極の価値が、予見しうる将来において大きく変化する兆候はない

 

・このように、今後の北極において協調と対立のいずれの側面が前景化されるかは、ロシアと西側の「対立および紛争」が決定的な影響を有すると思われる。

 

巨人の見る夢

・ロシアは巨大である。そのことは、ヨーロッパに向かう飛行機の中で容易に実感できよう。飛行機が日本から離陸して水平飛行に移るとすぐにロシア領空に入るが、それから機内食を食べ、映画を1本観て、仮眠から目を覚ましても、まだそこはロシアである。時速1000キロメートルで数時間にわたって飛んできたことを考えれば、その国土の途方もない広がりに想いを致さずにはいられない。

 しかし、その巨大さゆえに、ロシアは自らのアイデンティティに苦しみ続けているように見える。

 ロシアが欧州の文化を基調とする国であることは疑いないだろう

ロシア極東部の都市を訪れると、東京から沖縄に行くのと時間を経たに過ぎないにもかかわらず、そこは突然ヨーロッパになる。

 

ソ連崩壊後、「ロシア」の範囲をめぐって試行錯誤を繰り返したのちにロシアが見出したのは、旧ソ連諸国を消極的にではあっても「勢力圏」として影響下に留めることであったこのような論理の帰結が2014年のウクライナへの介入であり、それに続く西側との対立の再燃であったと言えよう。

 だが、これはロシアの論理である。カナダが米国を、ロシア極東部が中国を巨大な象に見立てる声を紹介したが、旧ソ連諸国から見たロシアも実は巨象なのではないか。

 あるいは、ロシアを夢見る巨人と見立ててもよいかもしれない。ユーラシアの巨大な陸塊の上で、ロシアは壮大な「勢力圏」の夢を見ている。

それは巨人の頭の中に広がる世界ではあるが、巨人が高揚のあまり、あるいは自らを脅かす「カラー革命」の悪夢に怯えて寝返りを打てば、隣人たちに影響を与えずにはいられない。2014年にウクライナで発生し、現在まで続く紛争は、その長い余韻と言える。

 もちろん我が国もまた「巨人」の隣人であることは忘れられるべきではない。米国に対するカナダのように、日本がロシアに依存しているわけではないが、北方領土問題が共存する以上、北方領土問題が存在する以上、日本は否応なく巨人の去就に影響されざるを得ない。

 

 

 

地政学の論理』

拡大するハートランドと日本の戦略

中川八洋   徳間書店  2009/5

 

 

 

マッキンダー/スパイクマンの地政学

地球をくまなく、一瞬にして感知できる「知の偵察衛星」が、マッキンダー/スパイクマンの地政学である。本書が、マッキンダー/スパイクマン地政学の教科書を兼ねているのは、この理由による。スパイクマン地政学は、21世紀の日本の外交にとって不朽の羅針盤であり、マッキンダー地政学は、21世紀日本の国防にとって死活的な海図である。

 

日清戦争日露戦争前夜に回帰したアジア――日本の「脱亜」と米国の「入亜」なしに、日本の生存は可能か

・日本国をめぐる東アジア情勢は、120年前を再現し、1890年頃の日清戦争(1894~95年)前夜と1900年頃の日露戦争(1904~05年)前夜が同時に襲う、そんな大危機が発生する事態になった。日本は、国家の存続が危うい、存亡の危機の時代を、戦後初めて迎えた。

 日本はもし、国家の永続を願うならば、到来したこの未曽有の新情勢から、目を逸らしてはならない。詭弁的な理屈をこねまわして、現実を隠蔽したり歪曲に努めたりしてはならない。

 

・結論を先に言えば、スパイクマン地政学は、日本に「脱亜」を勧告し、米国に「入亜」を義務づけんとする。マッキンダー地政学は、日本に隣接する2つの巨大なランド・パワーが北と西から、“沖合いの小さな島嶼国家”日本に鎧袖一触に侵攻する時がきたと警告し、日本に「陸軍力3倍強」を判決する。

 日本は、脅威から地理的に隔たった、南太平洋に浮かぶ“楽園”タヒチ島ではない。

 

シー・パワーの要件をいっさい欠くため、日本は「海洋国家」ではない。あくまでも、ユーラシア大陸に隣接する“沖合いの小さな島嶼国家”にすぎない。かつての「栄光の海洋国家」であった英国や、現代の「スーパー海洋国家」米国とは、日本は比すべくものは何もない。それに類する要件はいっさい存在しない。日本とは、2大ランド・パワーの脅威に慄く“沖合の小さな島嶼国家”で、それ以外ではない。

 

<上陸作戦は99%以上の確度で成功する>

日本海東シナ海も、大規模な軍事力を一瞬にして日本列島に横付けできる。“高速道路”である。北方と西方から侵略する、白色蛮族(ロシア人)と黄色蛮族(支那人)の上陸を、上陸阻止に成功した作戦は数例しかなく、敵の上陸作戦は、必ず成功する。

 

・今もチェチェンチベットにおいて虐殺のし放題の、強力な軍事力を増強して止まない「第1ハートランド(中央ハートランド)」と、「第2のハートランド(東ハートラント)」の2つのヴァンダル(蛮族)に対して、日本が自由と独立と主権とを欲するのなら、マッキンダー地政学とスパイクマン地政学の原理原則から逸脱してはならない。この2人の英米の頭脳を無視すれば、ヒットラー・ドイツとスターリンソ連に挟撃され、たった2週間で滅んだ、1939年9月のポーランドの悲劇を、必ずや再現する。

 

米国一極構造で安定堅牢なヨーロッパ、冷戦が再開した“火薬庫”アジア

「第2ハートランド」の台頭と「第1ハートランド」の再膨張に、日本はどう立ち向かうのか

<「頽廃と悖徳の光景が、日本全土を覆っている。これでは、日本の命運は、遠からず尽きるだろう」>

・今日の日本は、火星かどこかの異星人のように、暢気というより能天気な惰性に日々を享楽している。音もなく静かに牙をむく「ランド・パワー」ロシアに北方から侵攻される軍事脅威にも、昇竜のごとく勃興した新「ランド・パワー」中共が微笑でじわじわと西方から忍び寄る軍事脅威に対しても、無関心を通り過ぎ、国家存亡の深刻なこの急迫の事態を直視しようとはしない。

 代わりに、景気対策とか社会保障とか政権交代など、お祭り騒ぎ以下の低級で軽薄と幼稚な罵りあいや責任転嫁にすぎない“政界ごっこ”を、劇場観劇のように享楽するばかりである。

 

「第2ハートランド」の、台湾/沖縄/ベトナムへの侵攻はいつ?

・“東アジアの雄”中共のランド・パワーとしての凄みは、数千万人を数週間で動員できる、超巨大なマンパワーの陸軍力のみにあるのではない。「第2ハートランド」のランド・パワーを決定的に強大化する、鉄道/高速道路/航空による兵站輸送力網の近代化的整備の未曽有の発展によって、(日本の25倍の)面積960万㎢の中共が、巨大な鋼鉄の体に改造したことにある。それはマッキンダーが警告する、古代ローマ帝国が道路網を整備することにおいてローマ帝国を盤石なものにしたように、ランド・パワーの中共は、地上と空中の交通網を近代化し、ロシアに次ぐ巨大な“大陸聖域(ハートランド)”へと変貌を遂げた。

 

・台湾の主権維持はほぼ絶望で、台湾が支那本土に吸収される事態は、1938年3月、小国オーストリアを併呑したヒットラーの蛮行を彷彿とさせて、いずれ現実となる。そして、台湾併合の次は、沖縄占領を敢行するだろう。すでに実行している強盗のような東シナ海での天然ガス生産にしろ、尖閣列島の領有への野望にしろ、それらは沖縄侵攻への前哨戦である。

 

台湾が“赤い支那”に併呑されるのを阻止する方法は、台湾の東に強力な軍事力を展開することである。>

・台湾は“沖縄を守る不沈空母”であり、台湾の独立なしに沖縄の安全はない。この程度の初歩的な常識をもつのが、主権国家の正常な国民ではないのか。

 具体的には、日本が、台湾に隣接する沖縄の島々すべてを堅牢な要塞と化するとともに、最低限でも5百輌以上の中型戦車部隊(5万人規模の地上部隊)を平時から配備しておく必要がある。また日本は、VTOLシー・ハリヤー24機搭載の4万トン程度の空母を、少なくとも2隻、そして原子力潜水艦4隻を保有する緊急性に直面している。しかし、日本が、いつまでも“軽武装自衛隊”であれば、台湾は支那本土に合併される道を選択するほかない。

 

沖縄を“米国軍事力の要塞”としておくことが、台湾を守り、沖縄を守る。

この「1390億ドル」は、日本の防衛予算の3倍である。中共の低い人件費や購買力平価を考慮すれば、日本の10倍~20倍の軍事費に相当する。日本は直ちに、防衛費を最低でも3倍以上に増加する必要がある。(核兵器だけは米国と協議する必要があるが)空母も爆撃機も巡行ミサイルも、対抗する兵力はすべて保有すべきである。

 これに必要な、逼迫する国家予算の不足分はすべて、社会保障費を削って充当すればよい。国家が存在して初めて社会保障が可能であり、国家が消えれば社会保障制度そのものも消える。国防と社会保障とは、二者択一ではなく、優先順位がピンとキリに相違する。

 

ロシア帝国の、グルジアの次なる標的は北海道か?

・世界最大規模のランド・パワーで「第1ハートランド」の新ロシアは、プーチンKGB(備考)の共同的独裁のもと、石油・天然ガス等の資源輸出からの厖大な利益をすべて軍拡に投入している。その侵略の牙は、2008年8月のグルジアだけで済むはずもない。ウクライナと日本が、その次の標的であろうことは、自明に過ぎよう。だが、ウクライナは、陸続きのポーランド/チェコ/ルーマニアに米軍力が控えている“米ロの緩衝地帯”だから、日本より安全かも知れず、そうすると「第2のグルジア」が日本だろうことは間違いない。

 

・(備考)数十万人を擁したソ連の巨大秘密組織KGBは、新ロシアでは、

対外謀略・諜報部門の第一総局はSVR(対外情報省)に、国内弾圧・軍監視部門の第2/第3総局などはFSB(治安省)に分割・改編された。だが、縮小はされず、組織は人数を含めソ連時代より拡充している。ロシア外交は外務省も当然だがすべてSVRの管轄下にある。内政や経済はFSBの管轄下にある。新ロシアとは、“旧KGBソ連を簒奪し共産党を追放して創った国家”と解するのが現実に一致する。

 

<日本は、“平成の尾崎秀実”が暗躍する季節か?―—逆立ちの世界を描く“世紀の虚書”『覇権の終焉』>

国家が危殆に瀕したとき、必ず、デマゴーグたちが賑わいを見せる。救国の声は、かき消される。正論は、拒絶される。危機の到来時は、必然的に視界が悪くなるので、いかなる嘘も偽りも、ハーメルンの笛で伴奏させれば、さも本当かに錯覚させられる。

 “救国の正論”は、慎重と熟慮を喚起し軽率な行動を控えさせるので、面白くない。汗をかけ、血の覚悟をせよ、子供への義務を思いおこせ、臥薪嘗胆のときである、などと、必ず国民に賢慮と勤勉と倫理性とを要求するから、享楽と軽薄に慣れ親しんだ日本人は、これを敬して遠ざける。

 

・例えば、「世界は多様化する」「米国一極構造は崩れた」「アメリカ主導の世界体制は終った」「米国は衰退はじめた」「ドルは紙切れになった」「米国との同盟という船はオンボロになったので、急いで下船しないと危ない」などの妄論・暴論は、このトリックスターの典型だろう。『覇権の終焉』は、この種の扇動本として出色の出来栄えで、著者はトリックスターというより、ゲッペルスの再来かもしれない。

 しかし、反マッキンダー/反スパイクマンの『覇権の終焉』は、何もかも非現実の虚構を羅列しているので、その主張の逆をすれば日本が選択すべき正しい外交となる点で、便利な反面教師でもある。世界の真像は、この書を逆さにするだけで、鮮やかに正しく浮かび上がってくる。

 

・つまり、『覇権の終焉』の描く中東情勢は、まったく逆立ちした小説まがいの虚構で、あえて「覇権」の2文字を用いた表現をすれば、「(米国の中東)覇権は未完」と言うにとどまる。『覇権の終焉』は、米国がアラブの敵であった過去を、さも現在かのごとくにすり替えた、非在の虚像を描いた虚本である。多様化しているのはアジアのみ。このアジアでの変化は、米国の衰退とかその対外影響力の翳りとか、米国に起因する原因によって発生しているのではない。ロシアが帝国として復活してきたこと、および赤い支那が猛スピードの軍拡で軍事超大国に成長する路線を邁進していること、この2つの要因による。

 

・そして、ロシア帝国も赤い支那も、その「ハートランド」性において、米国その他のシー・パワーの侵入を拒絶する能力がほぼ完全であることにおいて、一方的なアジアでの大侵略を決行する確度が高くなってきている。ロシアの「第1ハートランド」と赤い支那の「第2ハートランド」の膨張の脅威が、アジア国際情勢の特性になった。前者は「南下」であり、そこには日本1ヶ所しかない。後者は「東征」であり、そこには台湾と日本の2ヶ国がある。日本は、この2つの「ハートランド」に挟撃される。

 

注意すべきは、この「3極化」とは3極化であって、「(日本も含まれる)多様化」と混同してはならない。日本は軽武装の故に「1極」にはなれず、東アジアは米/ロ/中共の3ヶ国による「3極の多様化」である。しかも、中ロが「条約」を有する軍事同盟国であることを考慮すれば、東アジアは「米国対ロシア・中共連合」の2極対立構造、すなわち冷戦時代の東西対立が、そっくり再生されている。つまり、ポスト冷戦の1989年から2008年までの約20年間とは、東アジアでは、東西冷戦を一時的に凍結した「休戦」にすぎなかった。

 

・『覇権の終焉』の「多極化時代だから日米同盟は不要」などが、いかに逆立ちの謬説で詐言のきわみかは、もう明白になっただろう。クラウトハマーが「米国一極構造であるから同盟は不要」と論じたように、米国1極構造であれば日米同盟の役割は小さいが、多極化構造となれば日米同盟の機能とレーゾンデートルは、10倍以上に一気に跳ね上がる。

 

2008年の東アジアの冷戦再開とは、日本が、北から「第1ハートランド」の、西から「第2ハートランド」の、それぞれの侵略の脅威が増大する事態のことである。

 

この事態で日本が生き残る道は、第1には、国あげて国防力の増強に邁進するしかない。第2には、それとともに、米国との同盟の絆の、これまで以上の強化が欠かせない岡崎久彦の持論は、日本の“国防力3倍増”が欠けていて、タイヤが1つない車のようだが、日米同盟と祖国・日本の生存「サバイバル」の基本関係については、正しく洞察している。

「日米関係さえ堅持できれば、日本は、われわれの孫、曾孫の代まで、安全と繁栄を享受できると思う」

 

・ところが、日米同盟の破棄をアジり、日本列島を中ロ両国の侵略下で分割させ日本国を破滅に至らしめる“逆送の外交”キャンペーン、それが『覇権の終焉』である。かつてスターリンの命令に従って、日本を亡国の淵に転落せしめた大東亜戦争をアジった尾崎秀実の生まれ変わりといえる『覇権の終焉』の著者は、“平成の尾崎秀実”と称されるべきだろう。

 話を戻せば、日本は、このように危険で自己破滅的なデマゴギーに振り回されないためにも、現実の世界を正確に観る手立てを身につけねばならない。それは、不変の地理を安全保障から冷静に活用する英米地政学より優れたものはなく、本書が、英米地政学をわかりやすく概括的に提示する理由は、これにほかならない。

 

出生率3倍増なくして、消える日本の対ハートランド防衛力

・海洋に浮かぶ島国に対する、ランド・パワーの侵略勝利は、大陸沿岸に海軍基地を有したとき、すでに定まっている。ランド・パワーが「制海」を完遂すれば、必ず「無敵のシー・パワー」も兼ねるからで、この公理は、ローマ帝国の侵略に抗しきれずに滅亡したカルタゴの悲劇において証明されている。ランド・パワーこそが、全世界の“海洋支配の覇者”となる潜在力において、シー・パワー国を凌駕している。

 

・しかし、島国人は、「<ランド・パワー>対<シー・パワー>」という19世紀的な図式しかわからず、「侵略する<ランド・パワー兼シー・パワー>」に対する「防衛する<シー・パワー>」という、20世紀以降の戦争の基本形態を理解しない。日本人は「島国人」の中でも、際立って、この無理解・無知の典型である。

 しかも、ランド・パワーが、大陸沿岸に海軍基地を有し、シー・パワーとなった上に、十分なマンパワーと経済力を有した場合、その侵略は地球規模の慣性をもつから、島嶼国家の海・空軍力ごときで、この侵略を拒否できるものではない。この結果、海洋は、シー・パワー国が支配できず、不可避に、ハートランドのランド・パワーが必ずや“海洋の覇者”になる。

 

・東アジアとは、ランド・パワーの海洋支配が目前に迫っている、世界で最も熱い動乱の地域である。だから、東アジアでの島国の、自由と独立の主権維持は、すでに風前の灯といってよい。この地域での島嶼国家の存立は、危機を越えて絶望を孕んでいる。

 このことは、「第1ハートランド」「第2ハートランド」の大膨張の脅威にさらされている島国は、軍事的な国防の強化のみならず、マンパワーと経済力における絶対優位を維持する急迫の事態に瀕していることである。

 

日本経済のこの根源的な崩落現象の主たる原因は、①(国内市場の喪失と技術革新力の大劣化をもたらす若年層の大減少をきたした)出生率の大低下、②巨大に累積した財政赤字、の2つにある。解決方法は、A「合計特殊出生率2.08以上」の回復、B(一部の社会福祉関連を除き)社会保障制度の全面的な縮小による、10年以内での現在の超・財政赤字の解消、C勤勉の美徳の復活と知育教育の大強化(詰め込み教育の倍増)、の3つを最優先国策とすることしかなく、これに反するいかなる方法も不毛だし、状況悪化を促進する。

 

・しかも社会保障制度は、後代が先代の老後の面倒を見るという世代間連携の制度であり、子供を生まなかったものを対象とすることは、この制度の根幹を否定する背反行為である。現在65歳以上で養子も取らず子供ゼロに対しては社会制度は年金部門でも医療部門でも、直ちに適用除外としなければならない。子供が1人であれば、いずれも半額とする。このような正常な制度への是正は即時実施する必要がある。

 

もともと、日本の776兆円(地方を含む長期債務残高、2008年末)という巨額の財政赤字は、社会保障制度と地方交付金制度から発生しており、社会保障制度への国庫負担金(約22兆円)を4分の3カットするだけで年15兆円以上を借金返済にまわすことができる。そして、社会保障制度の大幅な削減・制度の導入は、国民こぞって家族重視ならびに出産重視へと大転換が発生する。2.08の回復は、これで達成できよう。立居振舞いの躾文化も回復してこよう。

 

すなわち、日本が国をあげて推進すべきマンパワー策は「出生率4.0」「出生数3百万人」であり、経済はこれを日本の21世紀における国策の第1番目とする旨を宣言すべきである。

「新生児出生数は年3百万人」のマンパワー重視策こそ、軍事力と経済力と並び、日本の平和(国防)を支える3大柱(鼎)で、亡国に直結している今日の「マンパワー激減促進の革命」から、日本を救う唯一の道である。

福祉国家”を是とする時代など、とうの昔に害のみ残し終わっている。日本は、男児すべてが剣(戦車とミサイル)を手にする、“要塞国家”の時代に突入した。後代の子孫に祖国を相続する義務に国民一丸となって邁進する、日本の新時代の到来である。

 

<非在の、ハウスホーファーの「太平洋」――海洋の魔力で敗戦国ドイツを“大空間”づくりに走らせるレトリック>

・オスヴァルト・シュペングラーの著『西洋の没落』は、その第2巻が出るころ(1922年)、大ベストセラーになっていたが、同じころ、ハウスホーファーの『太平洋地政学』も出版された(1924年)。ハウスホーファーが、アナーキストを本性とする民族社会主義者ヒットラーに魅せられたのも、この時期だった。

 両書とも、ヴェルサイユ条約の賠償とそれに対抗するための天文学的な超インフレに絶望とニヒリズムとが蔓延する、第1次世界大戦の敗戦国ドイツの打ちひしがれた戦後に、光明を与えんとするイデオロギー色の濃い働きをすることにおいて、絶大な人気を博した

『西洋の没落』は、「西洋」と、広域全体を論じているようだが、具体的には英国を標的として、(第1次世界大戦での)戦勝の英国を呪い、「英国の没落」を黒魔教のように祈禱して、祖国ドイツを聖別せんとするのが趣旨だった。社会主義者シェペングラーの「反英」感情が夜闇の花火のごとくに連続爆発して、その放つ轟音がドイツ人の耳をつんざいて快感を与えたのである。

 

ハウスホーファーは、シー・パワーの英国と米国を、ユーラシア大陸の周縁リムランドから追放せんとすることを大目標としていたように、その「反英」、反アングロ・サクソンの、対英米憎悪は常軌を逸していた。

 

「太平洋がドイツを呼んでいるぞ!」?

・改訂版の『太平洋地政学』は、オーストリア合邦の直前(1937年末)に上梓したようだが、その結論の章(第26章)は、ドイツの領土と国風について、まず「生活空間」が小さいから、「柵に釘付けにされたドイツの<生活形態>の中からは、………(ヒットラーが政権をとる)1933年までに見られたような小空間的な分裂、畸形化、退化が生じた」とする。次に、大空間の太平洋を“魅惑の海洋”だと指さす。「太平洋のいたるところに見出されるような何らかの大空間的成長と発展」、と。

 ハウスホーファーが、ナチやヒットラーに傾倒したことは、この記述からだけでも判明していよう。

 

・「太平洋は、私の体験によれば、今日のドイツ人に対して、最も友誼的である上に最も未来性に富んだ海洋だからである。したがって太平洋は、わがドイツ民族同胞にとっては、彼らの日常的な先入観に囚われず、また傷つけられてはいないものとして示すことができる」

 

  

<●●インターネット情報から●●>

ウィキペディアWikipedia(フリー百科事典)によりますと

マッキンダー

 

ハルフォード・マッキンダー卿は、ハートランド論を唱え、ユーラシアを基点とした国際関係の力学を地理的に分析した。なお、マッキンダーは自身の理論を一度も地政学と称したことはないが、今日における地政学という体系はほぼマッキンダーの理論をその祖と仰いでいるといっていい。マッキンダーの主張は以下の通り。

1.世界は閉鎖された空間となった。

2.人類の歴史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史である。

3.これからはランドパワーの時代である。

4.東欧を制するものは世界を制する。

 

海洋国家イギリスに生まれ育ちながらマッキンダーランドパワー論者となったのは、大陸国家の勢力拡大への脅威から海洋国家イギリスを如何に守るかという戦略のあり方について研究の重きを置いたことによる。

 

マッキンダーの理論では、そもそも大陸国家と海洋国家は相性が悪いということが基本原理となっている。海洋国家はけして攻撃性の強いものではないが、隣国の勢力が強くなることを忌み嫌う。大陸国家は外洋に出て、新たな海上交通路や権益の拡大をしようとすれば、海洋国家はそれを防ぐべく封じ込めを図ろうとする傾向を持つ。そうしたことから大陸国家と海洋国家の交わる地域での紛争危機はより高まる。

 

マッキンダーは1900年代初頭の世界地図をユーラシア内陸部を中軸地帯(ハートランド)、内側の三日月地帯、外側の三日月地帯とに分け、「東欧を支配するものが、ハートランドを支配し、ハートランドを支配するものが世界島を支配し、世界島を支配するものが世界を支配する」とした上でイギリスを中心とした海軍強国が陸軍強国による世界島支配を阻止すべきだと論じた。

 

さらにマッキンダーはドイツ・ソ連の覇権闘争を予見し、イギリスなどの海洋国家の脅威になると述べ、ドイツとソ連の膨張を恐れ、独ソ間に緩衝地帯を設けよと主張し、さらに海洋国家によるミッドランド・オーシャン連合を提唱した。

 

マッキンダーの理論は地政学の世界に大きな功績と影響をもたらしたが、その理論は大艦巨砲主義の思考に留まるものであり、次第に注目された航空機戦力などによる空軍力のシーパワーへの影響を軽視したため、マッキンダーハートランド論は時代遅れであるという批判を受けることになる。とりわけ空襲という戦法がとられるようになった第一次世界大戦以降、強力な艦隊を以って制海権の維持を志向する海軍国の戦艦中心の戦略論は大きな転換期を迎えた。理論の後継者にニコラス・スパイクマンのリムランドがある。

 

 

「ニコラス・スパイクマン」

リムランド理論

 

ニコラス・スパイクマンはマハンのシーパワー理論やマッキンダーランドパワー理論を踏まえてエアパワーにも注目しリムランド理論を提唱した。

 

マッキンダーが「東欧を制するものはハートランドを制し、ハートランドを制するものは世界島を制し、世界島を制するものは世界を制する。」と述べたのに対し、一見広大で資源に恵まれているハートランドが、実はウラル以東では資源が未開発な状態で農業や居住に適していないために、人口が増えにくく工業や産業が発展しにくい点、反対にリムランドは温暖湿潤な気候で人口と産業を支える国々が集中している点にスパイクマンは着目し「リムランドを制するものはユーラシアを制し、ユーラシアを制するものは世界の運命を制する。」と主張した。

「スパイクマン」はリムランド理論を踏まえて米国の政策に以下の提案を行っている。

1.ハートランドへの侵入ルートにあたるリムランドの主要な国々とアメリカが同盟を結ぶこと。この侵入ルートをふさぐ強力なリムランド国家(例、ヒトラー・ドイツによるフランスやノルウェー支配/ギリシャやトルコとの同盟)をつくらせないこと。

2.リムランド諸国間のアメリカ抜きの同盟をバラバラに切断するが、同時に、ハートランドの国にリムランドの国々を支配させないようにする。

3.現代(当時は第二次世界大戦中)の船舶技術において、アメリカをとりまく大西洋も太平洋も「防波堤ではなく、逆に高速道路である」と認識しており、現代の兵器技術においていかなる国のパワーも地球上のいかなる場所であれ「地理的距離とは無関係に投入できる」と見抜いており、アメリカの孤立主義モンロー主義)の不毛と危険を警告し続けた。

 

また、この理論に基づけばこれらリムランドに該当する極東の国々つまり中国、朝鮮の間でそれぞれが分裂した状態であることが望ましいということになると指摘する研究者もいる。

 

 

<●●インターネット情報から●●>

2018/1/18(ヤフーニュース)

(CNN) ロシアの脅威の高まりを受けて軍備を増強しているスウェーデンが、戦争に巻き込まれる事態を想定した備えを呼びかけるパンフレットを、この春にも470万世帯に配布する。

 

パンフレットは市民に対し、「平和時における危機や惨事だけでなく、社会とスウェーデンに対する別の種類の攻撃」にも備えるよう促す内容。「世界がひっくり返った」事態を想定し、自宅に十分な量の食料や水や毛布などを用意しておくよう国民に助言するとともに、自治体に対してはかつての冷戦時代の防空壕(ごう)を準備するよう求めている。

 

 有事対応当局者は17日、CNNの取材に対し、パンフレット作成の背景として、バルト地域の治安情勢を挙げた。

 

スウェーデンは全土で軍備強化を図り、徴兵制を復活させるとともに、バルト海に面した戦略的な要衝となるゴットランド島に部隊を配備している。

 

 徴兵制は2010年に廃止されたが、17年3月になって、徴兵制を18年から復活させると発表した。

 

 15年2月には、国防予算を今後5年間で7億2000万ドル増額することを決定した。しかし国防軍の人員は不足している。

  

 

 

『保守の正義とは何か』

公開霊言  天御中主神  昭和天皇  東郷平八郎  

大川隆法   幸福の科学出版  2010年8月7日

 

 

 

能力の高い人材を抜擢せよ

・私は海軍にいたから、地上戦は海戦と同じではありませんが、どちらかと言えば、いわゆる空中戦のほうが少し近いかもしれませんね。武器効率や作戦立案のところは、海軍のほうにやや近いかもそれませんが、少なくとも、将となる人材の能力が低いことが大きいですね。

 

・個人個人の判断能力がとても低いですね。非常に能力の低い人がタイトル(肩書)をたくさんもらっているのではないでしょうか。だから、内部的に見れば、もう少し「実力人事」をきちんとやらないと駄目ですね。年齢や性別にかかわりなく、能力の高い人が上に上がれるようにしなければいけません。きちんと判断ができ、きちんと意見を通せて、解決策が見通せるような人を上に上げられるような体制をつくらないと駄目ですね。

 先の大東亜戦争においても、海戦で敗れたのは、もう将だけの問題ですよ。実際には、優秀な人はいたのですが、下にいたために力を発揮できませんでした。やはり、最終判断をするものが間違えたら、勝てないところはあるのです。したがって、しばらくは、抜擢人事をやらないといけないのではないでしょうかね。うーん。そう思いますね。

 

 

 

『戦争と経済の本質』    「教養」として身につけておきたい

加谷珪一   綜合法令出版    2016/6/22

 

 

 

<国家予算の280倍のお金をつぎこんだ戦争>

比較的安上がりだった日清戦争日露戦争の戦費

明治維新後の日本にとって最初の大規模な戦争となった日清戦争の戦費は、当時の金額で約2億3000万円、日本にとってはじめての近代戦となった日露戦争の戦費は約18億3000万円でした。

 当時と今とでは物価水準が大幅に異なっていますから、金額を直接比較することはできません。また政府がどの程度の支出を行うのかについても時代によって変化しますから、国家予算との比較も参考となる程度でしょう。戦争にかかったコストを適切に比較するには、やはりGDPとの対比が最も有効です。

 

日清戦争開戦当時のGDP(当時はGNP)は13億4000万円だったので、戦費総額のGDP比は0.17倍でした。現在の日本のGDPは約500兆円ですから、0.17倍という数字を当てはめると85兆円という金額になります。現在の国家予算は約100兆円ですから、国家予算に匹敵する金額を1つの戦争に投じた計算となるわけです。

 

・一方、日露戦争の開戦当時のGDPは約30億円だったので、戦費総額のGDP比は0.6倍ということになります。日露戦争は、日清戦争の時よりも、はるかに戦費負担が大きくなりました。現在の金額に当てはめると、300兆円ということになりますから、国家予算の3年分です。

 

・これが太平洋戦争になると根本的にケタが変わってきます。

 太平洋戦争(日中戦争を含む)の名目上の戦費総額は約7600億円。日中戦争開戦時のGDPは228億円なので、戦費総額のGDP比率を計算すると、何と33倍で国家予算に対する比率では280倍という天文学的数字となります。

 

<占領地で通貨を乱発して何とか戦費を調達>

・ただこれには少々カラクリがあります。

 太平洋戦争は日本の経済力を無視した戦争であり、そもそも遂行が不可能なものでした。通常の手段でこの戦費を調達することはできず、戦費のほとんどは日銀の直接引き受けによる国債発行で賄われました。

 日銀が無制限に輪転機を回すということですから、当然のことながらインフレが発生します。終戦後、これが準ハイパーインフレという形で爆発しますが、戦時中から、すでに物価水準はどんどん上がっていきました。

 さらに、日本軍は占領地域に国際金融機関を設立し、現地通貨や軍票(一種の約束手形)などを乱発して無謀な戦費調達を行いました。

 

米国の戦争負担は思いのほか軽い

財政の維持が厳しい日本、余裕の米国

・第2次世界大戦の戦費総額は、約3000億ドル。開戦当時の米国のGDPは920億ドルなので、GDP比は3.2倍となります。絶対値としてはかなり大きい数字ですが、GDPの8.8倍を投入した日本と比べると相対的な負担はかなり軽いと見てよいでしょう。

 ちなみに当時の購買力平価に基づいた米国のGDPは日本の約5倍だったので、米国はドル換算で日本の2倍の戦費を投入した計算になります。5倍の経済規模があり、極めて高い技術力を持つ米国と全面戦争をしたわけですから、やはり常識的に考えて勝ち目はありません。

 

朝鮮戦争は、のべ570万人の兵力と300億ドルの経費を投入しています。しかし期間が36カ月と比較的短期間で、GDPとの比率では0.1倍と低い水準に抑制されました。

 泥沼の戦争と呼ばれ、米国衰退のきっかけになったといわれているベトナム戦争も、数字上はそれほど大きなインパクトではありません。のべ兵力は870万人、戦費総額は1100億ドルに達しますが、GDPに対する戦費の規模は0.15倍であり、朝鮮戦争の1.5倍規模です。

 イラク戦争の戦費は1兆370億ドル、のべ動員兵力は200万人です。米国経済は90年代に入って再びめざましい成長を遂げましたから、イラク戦争のGDP比もわずか0.1倍にとどまっています。

 各戦争の戦費負担は、すべてGDP比の15%に納まっていることがわかるでしょう。

 

経済が強い国は着実に戦争を実施できる

戦争に必要なお金は何に使っているのか?

軍事費で人件費より燃料や資材費の割合が多い理由

・軍事費全体のうち、もっとも大きな割合を占めているのが、燃料や資材など、軍事的なオペレーションの実施に必要となる経費です。オペレーション費は全体の約34%を占めています。次に多いのは人件費で全体の約23%程度、続いて装備品の調達費が約16%、研究開発費が約11%と続きます。

 

・つまり兵器のハイテク化がかなりのスピードで進行しており、戦争のコストに占める人件費の割合が低下しているのです。

 

・近い将来、先進国にとっての戦争は、人員をできるだけ投入しないスタイルに変わっていくでしょう。

 

空母のトータルコストは4兆円

<空母は、世界戦略の中核となる装備>

空母は50年かけてコストを支払っていく

原子力空母の直接的な建造費は約7300億円になります。しかしこれは、艦の建造に必要な初期コストに過ぎません。

 

・最終的に艦の建造や修繕に必要なコストの総額は約1兆1600億円となります。

 

原子力空母は1年のうち半分程度の期間しか稼働させることができません>

・費用の中でもっとも大きいのは、オペレーションに関するものです。オペレーション・コストの総額は約2兆7000億円となっています。これは空母を運用するために毎年必要となるコストをすべて足し合わせたものになります。さらに退役した後の解体費用や原子力空母の場合には核燃料特有のコストなどが加わり、最終的には4兆円のコストが必要になります。この金額を50年で割ると、単純計算では毎年800億円の経費がかかる計算です。

 

・この結果、原子力空母は実は1年のうち、半分程度の期間しか稼働させることができません。

 

・1年のうち、いつでも作戦行動に出られる状態にしておくためには、最低2隻の空母が必要となりますから、当然のことながらコストも2倍かかります。米軍が11隻もの空母を保有しているのはそのためです。

 

戦争が起こるか否かは、経済力が左右する

・日々の営業活動や買い物が、国家の戦争遂行能力に結びついているといわれても、あまりピンとこないかもしれません。しかし、こうした日常的な力の差が、戦争の勝敗を決定づけることになり、最終的には戦争そのものを回避する有力な手段となるというのが現実なのです。

 

<日本は常に紛争に巻き込まれるリスクを抱えている>

<「戦争は他の手段を持ってする政治の継続である」>

・戦争はないに越したことはありませんが、昔から日中韓の3国は、紛争の火種を抱えており、日本は何らかの形で国際紛争に巻き込まれるリスクを常に抱えているのです。

 

<経済的なパートナーシップは実は、戦争と深く結びついています>

☑ロシアがクリミアを制圧した背景には、原油の価格安があった。

日露戦争の戦費は、実はロンドンとニューヨークで調達されたものだった。

 

戦争と経済にはどんな関係があるのか

☑経済規模が大きくなると、軍事的にも優位に立つことができる。

☑体力を越えた戦争をすると、確実にインフレになる。

☑米国では経済成長が活発な時期、GDPに占める年間軍事費の割合は低下している。

☑日本は9・11に匹敵する大規模テロを経験した数少ない国の1つ、今後も無関係の保証はない。

 

<戦時の株価に見る現在と未来>

☑株価は経済の先行指標。経済の動きよりも先に反応する。

☑太平洋戦争時、情報は統制されても、日本の株式市場は戦争の動向を見抜いていた。

☑戦後、日本は預金封鎖、財産税の徴収、ドッジラインによって債務処理を行った。

☑日本は朝鮮戦争によって、高度成長期の中国を凌ぐ経済成長を果たした。

 

地政学を理解すれば世界の動きが見えてくる>

☑地理的条件が、国家間の潜在的な関係を決めている。

☑中国やロシアが朝鮮半島にこだわる理由は、「海洋覇権の維持」。

☑エネルギー資源豊富なハートランドを支配できた国は、歴史上、一国も存在しない。

☑EU設立の背景には、「ドイツの封じ込め」という狙いがある。

☑地理的条件は変えられなくても、テクノロジーにはそれを凌駕する力がある。

☑米国の経済・外交戦略は、常に地政学的観点から決定される。

 

戦争が起きた時、ビジネスはどうなるか

☑軍需企業の株価は、パフォーマンスは高いが、上下変動が激しい。

☑「企業は従業員のもの」という風潮は、戦時の国家総動員体制によって作られた。

☑戦時中、米国の株式市場を見れば、作戦の中身をある程度推測することができた。

☑軍需企業の指定を受けた会社は「前渡し金」を得ていたため、賄賂が横行した。

☑戦後の預金封鎖と財産税によって、高額預金者は最高で90%もの税金が課せられた。

 

これからの戦争の勝敗はITで決まる

無人機などのテクノロジーの進化により、戦う前に勝敗が決まる傾向がある。

☑IT化や3Dプリンタの導入により、部隊のオペレーションの概念は確実に変わる。

☑米国では大学院の奨学金目当てに入隊する学生が装備のハイテク化を支えてきた。

 

<パートナーシップ感覚の欠如は今の時代にも続いています>

・戦争が外交の延長であり、外交は経済の延長であるというのは、使い古された言葉ではありますが、戦争の本質をもっともよく表しているといってよいでしょう。

 経済の分野で強くなれない国は、戦争で勝つことはできませんし、経済の分野で強みを発揮するためにはビジネスが上手でなければなりません。日常的な消費活動やビジネス活動と戦争は一見すると正反対の存在に見えますが、実は地下深くで、密接につながっているわけです。

 

・もう1つ、戦略性という点で重要なのは変化への対応です。

 日露戦争は、ハイテク兵器をふんだんに使った近代的な戦争でしたが、太平洋戦争はこれと対照的に、旧態依然のシステムに頼った時代遅れの戦争となってしまい、結果として大敗北を喫してしまいました。

 日露戦争から太平洋戦争の時代にかけては、全世界的にイノベーションが進展し、あらゆる面で著しい変化が起こった時代でした。日本はその変化の波に追い付くことができなかったわけですが、当時と同じくらいのイノベーションが起きている時代が、ちょうど今なのです。

 

 

 

『プレアデスとのコンタクト』  (地球外知的生命)

 (ビリー・E.A.マイヤー)(徳間書店)  2001/8

 

 

 

<地球以外の出自を持つ人間>

・地球上には、地球人、つまり地球に起源を有する人間だけでなく、地球以外にその出自を持つ人間もいる。それらの人間の故郷は限りないほど遠い宇宙にあり、彼らは、時空をことにするリラとヴェガ星からやって来た。

 昔の宇宙飛行士の末裔で、プレアデス/プレヤール人もその直径の子孫である。またこのような早期における地球への移住者の中には、シリウス星から来た人間もいる。

  今日、地球上に住むシリウス人、マローナ人、リラ人、ヴェガ人など全てのプレアデス/プレヤール系民族の末裔は太古においてヘーノクが120億年ほど前に最初の創生を行い民族を形成したときに発生したものである。

 古代のリラ、ヴェガ人は常に彼らの戦闘能力を維持し、自分たちの起源についての知識を保ちまた大事にしたがシリウス人やマローナ人たちは、それを失ってしまった。

 

・地球人類の間で神のように振舞ったのは、リラ人、ヴェガ人だけではなかった。その中には、プレアデス/プレヤール人もいた。これらの多くの神々たちは、粗暴で残忍な暴力をもって地球人類を服従させ、自分の勢力下に治めようとした。その最もなるものは、プレアデス/プレヤールの年代記に良心のかけらもない卑劣で陰謀的と記されているギゼー知生体である。

 

それと並ぶのは宇宙人のアシュタール・シェランとその一味で、彼らは、地球人類に対し、権勢欲とイデオロギー上の惑わしで最悪の役割を演じた。

 

その後ギゼー知生体は1980年代にプレアデス/プレヤール人によって捕らえられ、悪事を働けない世界に追放され、また球状、三角形、および円盤状の彼らの宇宙船は全部破壊されてしまったので、宇宙旅行もできなくなった。また、アシュタール・シェランとその一味は、アスケットの民族を戦争による暴力で屈服させようと、数年前にダル宇宙に侵入したため、邪教や権勢欲による地球人への危険は去った。

 

・だが、アシュタール・シュランの司令宇宙船と全ての艦隊は火を噴く戦闘のさなかに彼を乗せたまま炎上し、全滅した。そのため、彼とその一味はもう我々のデルン宇宙に戻ってくることもなくなった。もし、彼らが転生を通じて生まれ変わってくるとしたら、それはダル宇宙であり、前世についての記憶は残っていない。なぜなら、霊性が生まれ変わるたびに総体的意識ブロックの人格変化も行われるからです。

 

 

 

『竜であり蛇である我々が神々』 

(闇の権力を操る爬虫類人の地球支配/管理)

(デーヴィッド・アイク) (徳間書店)  2007/8

 

 

 

ダルシー戦争

・フイル・シュナイダーは、新世界秩序のアジェンダのために131もの地下軍事基地が平均して地下1.5キロの所に建設されているのを知っていると言った。彼が関わった中に、ネバタ州のエリア51ニューメキシコ州のダルシーもある。

 

・ダルシーは、人口が約1000人の小さな町で、標高2100メートルあたりには、ヒカリヤ・アパッチ族居留地がある。ダルシーやその周辺では、UFOを見たUFOが着陸した、「エイリアン」に誘拐された、人間や動物がばらばらにされた、レプティリアン爬虫類人)を、見たといった報告が絶えず聞かれる。

 

・ダルシー基地では1979年にレプティリアンとグレイが人間の軍隊や民間人と戦った「ダルシー戦争」があったとされる場所でもある。両陣営とも多数死者が出たが、フイル・シュナイダーもこの衝突に参加していたのだそうだ。彼はレーザー兵器で撃たれたといっており、すでに公にされているとのこと、彼の胸には異様な傷跡が残っている。

 

 

 

『宇宙人による地球侵略はあるのか』

ホーキング博士「宇宙人脅威説」の真相

 大川隆法  幸福の科学出版     2011/9/27

 

 

 

<宇宙人による地球侵略はあるのか>

宇宙人が攻めてくる時期は「2037年

・世界各地での戦争が宇宙人介入の口実となる。

 

・(マイナー星人)一つはイスラエルを中心とした戦争が起きますね。もう一つは、中国が戦争を起こしますね。アメリカは両方にかかわります。それからインドも戦争をしますね。インド、パキスタンパキスタンがインドと中国に挟まれて困っているのが見える。

  アフリカにも“新しいナポレオン”が出て来ると思います。アフリカの統一を目指す人間が出てきて、戦争が起きると思いますね。

 

2037年までの間に世界で戦争がたくさん起きる。これを口実にして宇宙人が入ってくる。

 

・「宇宙人」対「地球人」の関係は「核ミサイルを持っている国」対「持っていない国」の関係と同じなのよ。

 

・霊体として地球に移住してきた宇宙人は、いきなり地球人の肉体(胎児)に宿って生まれることが難しい時に、まず「生きている人間の肉体を乗っ取り霊体として支配する」という憑依のようなスタイルをとる場合があり、これを「ウォークイン」という。

 

 <宇宙の神は「一千億年の歴史」を持っている>

・相対的二元論とは、「三次元地上界や霊界の比較的下のほうの次元においては明らかに善悪二元的であるが高次元世界に上がっていくにつれて、次第に善一元となっていく。また現時点で悪と思われることも、長い時間の流れの中では善に変わっていくこともありうる」という考え方。

 

 

 

チャイナ・リスク爆発前夜』

 黄文雄   海竜社   2011/8/16

 

 

 

中国のカタストロフィーがやってくる日

中国は国が大きく、人口も多い。だからこそ政治経済的にも社会文化的にも矛盾がうずまく。20世紀に入ってから、ロシア帝国オスマン・トルコ帝国、すべての植民地帝国、そして、ソ連社会主義帝国が崩壊したのはそのためである。

 

・人民共和国を見るかぎり、大躍進失敗後に数千万人が餓死、文革のように党、政府まで崩壊しても国家が生き残ったのは、明国や清帝国時代もそうだった。国家の破局体制崩壊はきわめて多元的な原因によって起こる。戦乱や天災、疫病などの複合的中国型カタストロフィーが連鎖的に襲来するのが、よく見られる中国崩壊の歴史法則であった。

  人民共和国が辿る歴史の宿命は崩壊である。その日は、複合的中国型カタストロフィーが襲来し、党人が民衆を管理する力が限界に達する日であろう。

 

 アメリカに対する中国の戦争恫喝>

・台湾に対する核や中性子爆弾や日本に対する核や水爆の恫喝発言は別として、核大国のアメリカに対しても核恫喝が今でも続いている。その中でも、軍長老の超震と朱成虎将軍の対米核恫喝が代表的だ。超将軍によれば、中国は7回もアメリカを消滅できる核を持っている。その半分ぐらい使用すればアメリカも目が覚める、と核による「訓戒」と「懲罰」の用意があると警告したのだ。

 

・「アメリカが台湾との紛争に軍事介入するなら、中国はアメリカに対する核攻撃の用意がある」。

 

・「アメリカは数百の都市が破壊されることを覚悟するべきだ」

 

・「アメリカに対しては我が国が備蓄する核の10分の1で充分だ。台湾、日本、インド、東南アジアは人工密集の地域であり、人口削減のための核攻撃の主要目的となる」

 

・「我々の行く先を邪魔するアメリカを殲滅することが我が国の最大目標である」

 

・「我々は非常手段を使ってアメリカを殲滅し占領する。準備を着々と実行に移していく。もう一つの中国を建設することで中華民族は安泰だ。このアメリカを倒すには飛躍的に発展したバイオ技術を使って、化学兵器よりも生物兵器による大規模殺人が効果的だ」(元国防相 遅浩田)

 

・「改革開放の勝ち組として億万長者はほとんどが、「権貴」といわれる「特権貴族」で、ことに代表的なのは「太子党」といわれる党高級幹部の子女、家族、親戚である。ことに億万長者の8割以上が軍の高級幹部ともいわれる。ではなぜ中国人民解放軍の大幹部は、権貴資本主義中国の主役になったのだろうか。

 

・「解放軍と民間企業との決闘、乱闘が続出している」

 

 

 

『失われたメシアの神殿『ピラミッド』の謎』

 飛鳥昭雄、三神たける   学研  2010/1/1

 

 

 

秘密組織フリーメーソン

預言者の組織を「フリーメーソン」という。今日、世に知られる秘密結社としてのフリーメーソンは近代フリーメーソンである。1717年にイギリスで結成されたグランドロッジから派生した組織である。

 

預言者の秘密組織としてのフリーメーソンが、実はこの地球上に存在する。主に密儀宗教の祭司の組織という形で継承されており、それをたどっていくと必ずノアに行きつく。もちろん、ノアの先もあり、エノクを経て最後はアダムに遡る。人類最古のフリーメーソンとは、「アダムメーソン」である。エノクもまたアダムメーソンだ。

 

・すなわち、ノアの3人の息子が独自のフリーメーソンを形成したのである。

 

 地底王国シャンバラ><チベット密教とカッバーラ

・シャンバラは、チベット密教において語られる世界である。一般の仏教では語られることのない思想である。仏教には表と裏がある。表が顕教であり、裏が密教である。

 

・最終経典にシャンバラが説かれているように、シャンバラの存在を最初に説いたのは仏教の開祖、釈迦なのだ。釈迦は自ら、北の果てにシャンバラへの入口があると説いた。なぜ釈迦はシャンバラの存在を知っていたのか。

 

 釈迦はセムメーソンだった!

・釈迦がカッバーリストであり、預言者であったことは間違いない。神を信じ、神とまみえ、そして、神の言葉を授かったフリーメーソンだったはずである。

  注意してほしいのは、ヤフェトメーソンではなく、セムメーソンだという点にある。バラモン教アーリア人の宗教であり、それを担ったのは、ヤフェトメーソンだが、釈迦はセムメーソンだった。

 

モンゴロイドはアーリア系ではない。有色アジア系であり、ユダヤ人やアラブ人、そしてトルコ人と同じセム系なのである。したがって、釈迦がカッバーリストならば、民族的にセムメーソンだったと考えられるのだ。

  しかも、それだけではない。釈迦はシャンバラの住民と同じ血を引いていた可能性がある。鍵となるのは、釈迦族=サカ族を生み出したスキタイにある。

 

 釈迦は失われたイスラエル10支族だった

 地球内天体アルザルとは、まさにシャンバラのことなのだ

・では、シャンバラはどういう形で存在するのか、これを現行科学で理解するには少しむずかしい。まだ、一般に認められていない現象を前提とするからだ。その未知なる現象は、プラズマ・トンネルである。

 

・プラズマ・トンネルは地球内部に通じており、そこには巨大な亜空間が形成されているのである。まさに、この亜空間の中心に、実は地球よりもひと回り小さい天体が浮かんでいるのである。

 

アメリカ軍は50年以上も前に、この地球内天体の存在に気がつき『旧約聖書』の外典にちなんで、コードネーム「アルザル」と名づけている。コードネームでわかるように、失われたイスラエル10支族が北極圏から入り込んだ世界こそ、この地球内天体アルザルなのである。

 

・日本人の中には古代イスラエルの血が流れている。そういっても、多くの人は、すぐに信じることができないであろう。

  

{暴露}これがKGBのUFO研究の実態だー『シャンバラ』は宇宙人たちの秘密基地だった!!

その宇宙人基地は神秘主義スーフィーたちの「シャンバラ」と呼ばれている!

ホボット;その基地は一部が地上で一部が岩山の中でした。それは標高4000メートルのとても行きにくい所にあります。また周辺の人々は神聖な土地とみなされているため、誰もそこへは行きません。ただし、その地方にいるスーフィーたちは、そこを「シャンバラ」と呼んでいました。彼らは、そこを神聖な場所としてそう呼んでいたのです。シャンバラとは「違う世界へのゲート」という意味ですが、実はそれはUFOの基地でした。

 

・ちなみにスーフィーは、一般にイスラム神秘主義とされているが、実際にはイスラム教徒ではありません。

 

・そこにいる宇宙人は、とても進んだ文明から来ており、それは1つの星ではなく、複数の星による連盟から来ているようです。その基地には、少なくとも7つの文明から7人の代表者がいました。その中の1つがアルクトゥルスです。

 

<長い間、謎の存在として知られてきたシャンバラが宇宙人の基地だったというのは驚きです。

イルミナティフリーメーソンはそれほど危険なグループではありません。最も危険なのは見えないグループです。

 

・影の政府はUFOコンタクティやUFOについて本当のことを書いているジャーナリストや科学者たちを殺しています。スカラーという波動を使った武器によって科学者たちを遠隔的に殺しているのです。

 

・キャトルミューテーション(動物虐殺)がそれほど大きな問題にならないのは影の政府が抑えているからなんですね。

 

最もポジティブなシナリオはフリーエネルギーの解禁

浅川;私が思うに、アメリカと中国との戦争の件で最も可能性の強いのは、まず中国経済の崩壊がきっかけとなるシナリオです。経済の崩壊は暴動を勃発する可能性が大です。北京オリンピックや上海万博で民衆を徹底的に抑圧してきており、多くの国民の間に不満がたくさんたまっているからです。

 

・そうなれば、中国共産党による独裁政権そのものが危うくなるでしょう。その結果、彼らは、大量に抱え込んだアメリカの国債を売り始め、連鎖的にアメリカ経済もダメになる。また国民の不満を外に向けようとして、アメリカだけでなく、台湾や韓国、それに我が国との間に、トラブルを計画するかもしれません。北朝鮮による韓国哨戒艦への魚雷発射事件も格好の材料として使うことになるかもしれません。――そういう背景があるので、戦争のきっかけとして考えられるのは、中国経済の崩壊ではないかと考えます。

 

2013年、アメリカと中国との間で戦争になる可能性が大きくなる。>

CIAやFBIでさえコントロールできない権力が未来のシナリオを作っています!

 

ホボット;2010年の後半には戦争が始まる可能性が高まると言うことでした。しかし、一番危険なのは2013年です。そのときアメリカと中国との間に戦争が起きる危険性があります。

 

アセンションを体験した長南年恵

ホボット;死んだ後に魂が行くのはアストラル界です。それとは別に地球のアストラル界と離れて宇宙に存在するアストラル界もあります。そこは宇宙の生命体たちが作った基地であり、私は、そこへ行くこともできます。ただし、その時には、その領域の波動に自分を調節する必要があります。

 

地球空洞論は真実ではありません。パラレル・ワールドのことなんです!

かってパラレル・ワールドへの往来は容易だった> 

 

 

 

『地球のハートチャクラにつながる』

パワースポットをめぐるヘミシンクの旅

坂本政道      アメーバブックス新社    2010/7/22

 

 

 

オリオン大戦

遥かな過去に宇宙で映画「スターウォーズ」さながらの大戦争があった。

 

・「スターウォーズ」はジョージ・ルーカスがそのときの情報を何らかの手段で得て、映画化したものと思われる。

 

・アヌンナキと呼ばれる生命体たちがこの宇宙へやってきて銀河系内のこの近傍の領域へやってくると、地球から見ること座(リラ)にある星とオリオン座のリゲルに定着し、そこに人類型の生命体を創った。その後、リゲルからオリオンの三ツ星のひとつであるミンタカにも定着した。それらにあるいくつもの惑星で人類型の生命体の文明が発展していった。

 

・こういった生命体の中には物質界の魅力に誘われて、その中に没入していくものたちも多くいた。彼らは、元々第4密度の生命体であったが、物質界に没入する間に振動数が下がり、第3密度(今の我々の世界の密度)になった生命体の文明もあった。つまり怒りやエゴ、物欲、権力欲といったネガティヴな意識にどんどん興味が移っていった文明が多くあった。そして、こと座やオリオン座に始まった文明はポジティヴなままのものとネガティヴなものとに分かれていった。

                  

・この段階で、こと座にいたポジティヴな生命体たちの一部はそこを離れてプレアデス星団へと移っていった。そこで彼らは、さらに発展し、プレアデス人となった。彼らは、主として非物質界に留まった。その理由は物質界の魔力を知っていたからだ。ネガティヴな文明は他の文明を征服、支配する野望を持つようになっていた。そのため、惑星間での征服戦争が起こった。戦争は何十万年も続き、その間にいくつもの文明や惑星が破壊された。

 リゲルとミンタカのポジティヴな文明の生命体たちは戦争から逃れるため、別の移住先を探した。そこで見つかったのが地球だった。

 

・彼らは、密かに地球へ移り、そこに自然に進化していた類人猿に遺伝子操作を施し、人類を創造した。そして、人類として輪廻することを選んだ。その利点は自分たちがどこから来たか忘れてしまうことにある。そうすれば、オリオンなどのネガティヴ・グループの探査から逃れることができるからだ。地球上ではそういう状態が数十万年続いた。これがムーの文明である。

 

 

 

『日本人が知らない『人類支配者』の正体』

 太田龍  船井幸雄  ビジネス社   2011/9/22

 

 

 

宇宙文明と地球の未来について

 デーヴィッド・アイクの「爬虫類人」とは何か?

 太田:「我々地球人は異星人(爬虫類的異星人)に支配されている」というデーヴィッド・アイクの『大いなる秘密』に出てくる、「爬虫類人」(レプティリアン)を要約すると、次のようになります。

 

 1、地球原人を操作して家畜人化した異星人は、爬虫類人レプティリアン)である。

 

 2、太古のある時代(おそらく紀元前2000年頃)、爬虫類人は、表面から姿を消し、彼らの代理人をして対人類支配管理係たらしめた。

 

 3、彼ら(爬虫類的異星人とその代理人たる秘密結社)は、地球人類の効率的な管理のために、精神的牢獄としての宗教を創作した。「一神教」はその究極の形態である。

 

 4、英国王室は、現代における爬虫類的異星人とその代理人たちの主力基地である。

 

 5、英国王室を含む秘密結社の中核維持、秘密儀式において、彼らは爬虫類的異星人に変身する、との証言がある。

 

このことを説明するためにデーヴィッド・アイクは、広範囲に資料・証拠情報を収集し、整理し分類してみせます。

 

 

 

『戻ってきたアミ』  小さな宇宙人

エンリケバリオス    徳間書店  1996/7/31

 

 

 

<地球救済計画の司令官>

・遠くの海底に葉巻のような細長い物体が水平に横たわっているのが見えてきた。目の前に泊ってきて初めて、それが海底すれすれに停泊している巨大な宇宙船だということに気がついた。

 

・想像を絶するスケール、それはまるで一つの巨大な都市のように感じた。さらに近づいた時には、そのあまりの大きさに目が眩んだ。光を発する窓が何千何万とあることから、内部は何十階にもなっていることが想像できた。

 

・「地球“救済計画”に従事しているものの中で最大、最重要の大型宇宙母船だ。たいていは宇宙空間に停泊しているけど、今はとても例外的な理由があって海底にいるんだ」

 

地震から地球を守る仕事>

・穴はとても大きくて巨大な円盤も楽々と入ってしまう。まるで、土木技師が造ったようだった。「そのとおりだよ。ベドゥリート。このトンネルは我々のエンジニアが造ったものだ。大陸プレートのぶつかり合う危険性の高い地点に向かって造られているんだ」

 

・「大陸プレートだよ。大陸っていうのはちょうど岩でできた“筏”の上に乗っかっているようなものなんだ。それを大陸プレートというんだ。それはゆっくりと、お互いに押し合うんだよ。ちょうど今、ここで起きているように、時には大陸同士がぶつかる方向に動いたりしてね。

 

・もうすぐその蓄積されたエネルギーによってプレートの一部が破壊される。それによって引き起こされる震動が地球の表面に地震となって現れるんだ。彼らは今、ここでその震度を小さくするための作業をしているんだ」すると今、ぼくたちは震源地にいるんだ。地球の奥深く何十キロも続く分厚い岩盤に囲まれた中、大地震のど真ん中にいるんだ!

 

・「プレートの衝突点に光線をあてて砕き粉にすることによって緊張を少しずつ弱めているんです。それでも地上には地震になって現われるけど震度はずっと小さくなるんです」スクリーンには地震ありさまが映し出されていた。倒れた電柱、大きく枝を揺すっている木々、家から外へ飛び出した人々・・・・。

 

・「表示盤によれば、まだまだたくさんのエネルギーがたまっている。明日、また同じ作業を繰り返さなければならない。もし自然のままに一度も全部のエネルギーが放出されたら、とんでもない大地震になりかねない。小さな地震を何カ月にもわたって繰り返すことで少しずつエネルギーを放出しているんだ。

 

・それでもすべての大地震を避けられるわけではない。大都市のような人口密集地帯では、小さな地震を起こしながら、もっとも人口が少なくなる時間帯に大地震が起きるように調整することで、少しでもその被害を小さくするようにしているんだ」

 

 

 

『鬼の風土記

  服部邦夫  青弓社   2006/8

 

 

 

酒呑童子

この鬼の面から受ける印象は、“落魄した鬼”のイメージだ。現に国分寺の鬼夫婦は、人間夫婦に姿をやつして、下男下女の存在にまで身を落さざるをえない状況に置かれていたのである大江山を根城として、一大王国を誇っていた頃の、あの華々しい鬼どもの存在ぶりから見ると、まるで嘘のようである。

 

・よろいかぶとに身を固めた頼光たちは、首尾よく酒呑童子をはじめ茨木童子、いくしま童子、とらくま童子、かね童子や門を固めていた十人余りの鬼どもをことごとく討ち果たした。

  何々童子と呼ばれているこの鬼どもは、いったい何者であったか・・・。

 

・越後の柏崎地方に弥三郎婆の伝説があることは、高木敏雄の『日本伝説集』によって広く知られているが、良寛ゆかりのこの山にも、稚児をさらう弥三郎婆の伝説と酒呑童子の伝説が残っている。

 

伊吹の弥三郎伝説が、15世紀初めに成った説話集『三国伝記』に収められていることを、佐竹昭広氏の著書によって知ったが、その『三国伝』によるとー伊富貴山に弥三郎という変化の者が栖んでいた。遠く関東や鎮西まで往還し、人家の財宝を奪ったり、さまざまの害をおよぼしたので、当国の守護である佐々木備中守源頼綱が勅命によって弥三郎退治に出かけた。頼綱は、摩利支天の秘宝や陰形の術を修得して、高時川で弥三郎を退治した。その後、弥三郎の怨霊が毒蛇に変じて水害をもたらしたので、悪霊をまつって井明神と号したという。

 

お伽草子の「伊吹童子」の中では、弥三郎は近江国の大野木殿という有徳人の娘と通じたことになっており、いわゆる蛇聟入苧環(おだまき)型の求婚譚が展開されている。そして、弥三郎は大野木殿から好物の酒の接待にあずかって酒を飲みすぎたあげく命を落とすハメとなっている。その後、三十三カ月も胎内に宿って生まれた異形の子が伊吹童子である。運命の子は、大野木殿によって伊吹の山中に捨てられる、という“山中異常出生譚”として話が進行している。

 

・佐竹氏は、右の著書の中で伊吹童子が山中の“捨て童子”だったことから「伊吹山中の捨て童子は、後の酒呑童子である。シュテン童子の前身を捨て童子だったとする“伊吹童子”は、シュテン童子なる者の原像をはからずも露呈しているかのようだ」と指摘されている。

 

 

 

『私はアセンションした惑星から来た』

(金星人オムネク・オネクのメッセージ) 

 (オムネク・オネク) (徳間書店)2008/3/1

 

 

 

 金星人、火星人、土星人、木星人の特徴

・現在、アーリア人という呼び名で多くの人々が知っている白色人種は、金星から来ました。私たちはしばしば背の高い“天使のような存在”として、あなた方の世界のUFOコンタクティたちに語られています。私たちの身長は通常2メートル15センチから2メートル40センチほどで、長いブロンドの髪と、青また緑色の瞳をしていることでよく知られています。

 

黄色人種は火星から来ました。彼らは、細身で背が低く、髪は金色または濃い茶色をしていて、肌はオリーブ色から黄色がかった感じの人たちです。目は大きく、つりあがっていて、瞳の色は灰色から濃い茶色の間で人それぞれです。火星人は秘密主義の傾向があり、SFのイラストに描かれるような、幾重にも重なった精巧な未来都市を築いていることで知られています(火星人の生命波動も地球人の物理的な密度のものではありません)。火星人は東洋や太古のスペイン民族の歴史と関係しています。

 

・地球を訪れた赤色人種は土星系の人たちでした。彼らは、最初は水星で進化を遂げていました。ところが水星の軌道が変わり、太陽により近くなってしまったために生存環境が厳しいものになり、彼らは、土星へ移住したのです。土星人の髪は赤色から茶色で、肌は赤らんでいて、瞳は黄色から緑色をしていることで知られています。体格は背が高く、がっしりとしていて、太陽系内では、筋骨たくましい人たちとして知られています。アトランティス人やネイティブアメリカンはそれぞれ土星人を祖先にもつ民族のひとつです。中でもエジプト人とアステカ族は、とりわけ土星人の影響を強く受けています。

 

・黒色人種は木星系で進化を遂げた人たちです。彼らは、背が高く、堂々たる風貌をしていて、顔のサイズは大きく、角張った顎をしています。髪の色はつややかな深い黒で、瞳は茶色から青紫です。木星人はその声の美しさと、隠し事をしない開放的な性格でも知られています。彼らの子孫はアフリカやその他の地域に分布しています。

・「伊吹弥三郎」と「伊吹童子」の伝承もいろいろと異説があるようです。「伊吹弥三郎は、創造神という顔と、魔物=鬼という顔がある」そうです。

 酒呑童子茨木童子、伊吹童子、八瀬童子、護法童子などのイメージは、人間タイプとモンスター・タイプが混ざるものが多いようです。

 

 

 

 『鬼』  

(高平鳴海、糸井賢一、大林憲司)(新紀元社)1999/8

 

 

 

 <鬼はなぜ童子とよばれるのだろうか?>

童子とは、つまり元服前の稚児を示す言葉だが、童子はいわば蔑称で、時の支配者らが用いた言い回しである。鬼は確かに人々を驚かしていたが、その力を認めたがらず、下っ端=目下の者=童子と呼んだそうです。

 

 <日本の伝承に残る鬼として>

・桃太郎の鬼(温羅)(うら)

蝦夷の鬼王(悪路王)(あくろおう)

有明山(信州富士とも呼ばれる)の鬼族(八面大王)(長野県の伝承)

・黄泉より還りし悪鬼(大嶽丸)(おおたけまる)(三重県鈴鹿山近辺の伝承)

・霊の化身(鬼八法師)(きはちほうし)九州山岳地帯の伝承

・飛騨の怪人(両面宿儺)(りょうめんすくな)

「伊吹弥三郎」と「伊吹童子」の伝承(岐阜県北部伝承、日本書紀御伽草子に登場)近江の伊吹山にいたとされる伊吹弥三郎は、創造神という顔と、魔物=鬼という顔がある。伊吹童子はその息子だという。

 

・天邪鬼(あまのじゃく)(人々に親しまれた小鬼)(和歌山県串本町の伝承)

・同胞を助けた「赤鬼」(せっき)出自は安倍晴明物語。

 

 

 

『サイバーセキュリティ』

松原実穂子   新潮社  2019/11/20

 

 

 

サイバー攻撃

・「サイバー攻撃」を行う犯罪集団や国家は、ITを使うことで、自ら国境を越えて相手の建物の中に入り込まなくても、最新技術や安全保障上の情報を盗めるようになりました。今や工場や発電所のほとんどはコンピュータ制御され、ネットワークに繋がっており、サイバー攻撃で運用や業務を止めることさえ可能となったのです。

 同じ「犯罪」といっても、サイバー犯罪が空き巣や強盗などのアナログ犯罪と大きく異なるのは、割れた窓ガラスや足跡といった肉眼で見える形跡が残りにくいところです。

 

・対照的に、最先端技術の情報や事業戦略を盗むサイバー攻撃であれば、万人にとって一見して分かりやすい被害が「攻撃」で出るとは限りません。被害が可視化されず、メディアにも報じられず、サイバー攻撃は他人事として放置され、サイバーセキュリティ対策が進まないという悪循環が続きかねないのです。

 しかも巧妙なサイバー攻撃であれば、被害に気付くまでに数カ月かかり、被害がその間にどんどん拡大します。被害に気付いても、攻撃者が誰か身元を特定できるとは限りません。身元を特定できたとしても、犯人が海外にいれば逮捕は難しくなります。彼に逮捕できた場合でも、悪化を続けるサイバー攻撃の実態に追いついた法が整備されていなければ、被害の大きさと処罰とのバランスが取れません。

 

1日に生まれる新たなコンピュータウイルスの種類は、2015年時点で平均118万弱

サイバー攻撃者の中にはスパイと情報戦のプロである海外政府の情報機関も含まれ、企業から最新技術や金を盗み、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを悪用して世論や選挙結果の操作を画策しています。ところが日本では、対抗する情報機関の規模が他国と比べて小さい上、何とスパイ活動を取り締まるスパイ防止法さえ存在していないお粗末さです。情報機関が何かも知らない人がほとんどでしょう。スパイが国家機密を盗む行為を防ぐことを目指し、1985年に自民党議員立法としてスパイ防止法案を衆議院に提出したものの、国民の知る権利や報道の自由への侵害に対する懸念が野党から指摘され、結局、廃案となりました。

 

北朝鮮サイバー攻撃

北朝鮮ではプログラミングの能力を競う子供向けの大会が開かれており、勝ち上がった最優秀の子供たちだけが大学に進めるのです。サイバー攻撃のやり方について勉強を始めるのは、大学に入ってからになります。

 攻撃者を養成しているのは、金日成軍事総合大学、金一軍事大学、金策工業総合大学や牡丹峰大学です。平壌市内で1986年に設立され、有刺鉄線に囲まれた金一軍事大学は、毎年2500人以上が受験し、入学できるのはわずか百人です。5年間教育を受け、卒業した学生は引く手あまたで121局にも入ります。

 

・優秀な学生の多くは、さらに中国やロシアのトップ校に留学し、コンピュータ科学を学びます。しかし、FBIによると、国連で勤務する北朝鮮人の中にはこっそりニューヨーク市内の大学に入り、プログラミングの授業を受講している者もいるそうです。また毎年、エリート兵士50~60人を国外に派遣しコンピュータ科学を学ばせていると見られ、相当の投資をしています。注目すべきなのは、イランと北朝鮮はミサイル技術だけでなくサイバー分野でも協力関係にあることです。ニューヨーク・タイムズ紙は「サイバー分野において、イランは北朝鮮に重要なことを教えた。敵の銀行や取引システム、石油パイプラインや水道、ダム、病院、都市がインターネットに繋がっていれば、大損害を与える機会は無限にあるのだ」と報じています。

 

北朝鮮サイバー部隊の組織編成

北朝鮮は、サイバー攻撃の最大の脅威となる国の一つと米国から見なされるだけの攻撃能力を持ち、しかも短期間で攻撃を担う要員数を伸ばしました。2013年以降、17年までに北朝鮮はサイバー部隊の人数を3千人から7千人に倍増させたと韓国政府は見積もっています。現在では、サイバー攻撃を実際に行う人数は1700人程度、研修や指示出しなどの支援を行う者は5千人以上です。

 

・こうした北朝鮮の攻撃能力の増強を受け、韓国軍もサイバー能力の急激な向上を迫られました。09年7月4日の米国の独立記念日に発生した北朝鮮からの大規模DDoS攻撃が米国政府や韓国政府、米韓の銀行やマスコミのウェブサイトを襲い、一部のウェブサイトが一時ダウンしたり、閲覧が難しくなりました。この事件が韓国軍にとって大きな転機となり、翌年にはサイバー司令部を発足させました。当初は5百人規模でしたが、15年には千人に倍増しました。

 

・2016年、それまで北朝鮮の最高指導機関だった国防委員会が廃止され、代わりに国務委員会が設立されました。国務委員会の下に、朝鮮人民軍の作戦計画を担当している朝鮮人民軍総参謀部や対外防諜・特殊工作機関の偵察総局があります。この総参謀部と偵察総局に、北朝鮮のサイバー部隊のメンバーの多くが所属していると見られます。

 

中国に潜伏している北朝鮮ハッカーAの物語

・前述の国連専門家パネルが2019年9月に出した報告書によると、北朝鮮は、ソフトウェアの開発者など数百人のIT技術者をアジアやヨーロッパ、アフリカ、中東に送り込んで働かせ、経済制裁をすり抜けて外貨稼ぎをさせています。技術者の身元と国籍を偽装するため、書類上では地元住民が経営していることになっている企業で働かせているとのことです。彼らは、違法ではない仕事もしますが、サイバー攻撃も行って仮想通貨を不正に得ています。

 

北朝鮮が国家戦略として、サイバー攻撃を担わせるべく人々を幼少期から選抜して育成し、インターネット接続環境の良い海外に展開させているのがお分かり頂けたかと思います。

 

閉鎖性を逆手にとって強くなった北朝鮮

・2006年以降、弾道ミサイル発射や核実験に対する国連の制裁が続き、外貨不足に喘ぐ北朝鮮にとって、サイバー攻撃は外貨獲得のための手段の一つです。16年以降、北朝鮮が制裁逃れをしつつサイバー攻撃も使って外貨を獲得するようになったことは、19年3月に発表された国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの報告書で指摘されています。専門家パネルが北朝鮮サイバー攻撃について言及したのは初めてであり、それだけ北朝鮮の脅威が見過ごすことのできない大きなものになっていることが窺えます。攻撃者の多くは、後述する対外工作機関「朝鮮人民軍偵察総局」の指揮下にいるとのことです。

 

・専門家パネルは半年に一度、報告書を出しており、19年9月の報告書でも、17カ国の金融機関や仮想通貨交換業者に対し約3年間で少なくとも35回のサイバー攻撃を仕掛け、最大20億ドル(2200億円)を盗み、大量破壊兵器の開発に使ったとの疑いを指摘しています、被害に遭った国は、インド、バングラディシュ、チリなどです。従来型の銀行に比べて追跡が難しく、なおかつ政府の監視や規制が緩いからこそ、北朝鮮は仮想通貨交換業者も狙いました。

 その他にも、14年のソニー・ピクチャーズの従業員の個人情報や未公開映画の情報を流出させたサイバー攻撃や、16年のバングラデシュ中央銀行から8100万ドル(89億1000万円)を盗んだサイバー攻撃にも北朝鮮が関与したとされます。

 北朝鮮がこれだけサイバー攻撃で世界の耳目を集めるだけの能力を持つに至った理由は、矛盾して聞こえるかもしれませんが、サイバー空間の閉鎖性を逆手に取ったところにあります北朝鮮国内はインターネットにほとんど繋がっていないため、外国からのサイバー攻撃を受けにくく、被害も限られる反面、北朝鮮からは外国にサイバー攻撃を仕掛けられ、大きな成果を期待できる。これが北朝鮮ならではの強みなのです。

 

・韓国政府の情報機関によると、金正恩委員長は繰り返し、「核兵器とミサイルとサイバー戦があってこそ、我が軍の情け容赦ない攻撃能力を保証する『万能の剣』となる」と宣言しています。

 

1980年代からサイバー攻撃を利用し始めたロシア

・外貨獲得という金銭目的の傾向が強い北朝鮮サイバー攻撃に対し、ロシアはスパイ活動とSNSを使った情報戦による世論操作、リアル世界の戦争とサイバー攻撃を組み合わせて敵国を妨害するなど、幅広い攻撃能力を持っているのが特徴です。

 戦争において、空爆など伝統的な軍事行動とサイバー攻撃を組み合わせる方法が初めて示されたのは、2008年でした。同年8月、黒海沿岸にある人口370万人の国ジョージアに対してロシアが空爆など軍事攻撃を行った際、ジョージアの大統領の公式ウェブサイトや外務省、国防省など政府機関のウェブサイトの大半に大量のデータを送りつけるDDoS攻撃も並行して行われ、ウェブサイトが閲覧不能に陥りました。

 

ロシアがサイバー攻撃を使って機密情報を盗んだ事例が確認されたのは、遅くともインターネット黎明期の1986年、ソビエト連邦の時代に遡ります。これは、ハッカーが諜報活動に従事したとして起訴された初めての事例となりました。

 今では存在して当たり前のインターネットサービスプロバイダーですが、営利目的のサービスが開始されたのは米国で1989年、日本で1992年でした。科学技術振興のための連邦政府機関である米国国立科学財団が持っていた86年当時のネットワーク回線速度は、僅かに56kbpsでした。100万kbpsである1Gbpsが実現されている現在より格段に制限されたIT環境しか持っておらず、ましてや一般人にとってコンピュータやインターネットは遠い存在だった時代に、ロシアは新たな手法であるサイバー攻撃を使ってスパイ活動を行っていたのです。

 

チェチェン紛争を機に見直した情報戦のあり方

・ロシアが情報というものの扱い方を見直すきっかけになったのが、1994~96年の第一次チェチェン紛争です。ロシア軍はチェチェンから完全撤退を迫られるという屈辱を味わいました。

 2000年に大統領に就任したプーチンは、自由な報道がチェチェンでの敗戦に繋がったと非難し、情報統制を訴えました。また同時に、情報を統制するだけでなく、情報発信を戦略的に活用することも思いついたのです。

 

ロシアの情報機関の役割

・ロシア政府でサイバー攻撃に従事していると見られているのは、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)とFSBです。ロシアのサイバー部隊の規模は2017年時点で千人ほどと推定されています。

 

産業スパイを巡る米中の対立

・ここで留意すべきなのは、中国政府が民間企業を狙った商業的利益のための諜報活動に軍などが関わることを是としているのに対し、米国政府はそれを認めておらず、米中間には根本的な立場の違いがあるという点です。米国政府は、安全保障のための政府や軍に対する諜報活動と商業的な利益を得ることを目的とした民間企業への諜報活動を峻別しており、米国企業に商業的利益をもたらすための産業スパイ活動はしないと明言しています。

 実際、米国には、国防に関する情報が盗まれた場合の対処法であるスパイ防止法(1917年成立)と、製造技術情報など企業秘密を盗まれた場合の対処法である経済スパイ防止法(1996年成立)の二つの別々の法律が存在しています。

 

・ちなみに、経済スパイ防止法の下で最初に有罪になったのは、米航空機電子部品メーカーのロックウェルと米航空機メーカー大手ボーイングの元エンジニアの中国系米国人でした。その男は、勤務先から不正に得た米軍輸送機、爆撃機などの航空宇宙・軍事の先端技術情報を30年間にわたって中国政府に渡していた容疑で2008年に逮捕されたのです。その男の自宅からは30万ページを超える機密文書が発見されており、ボーイングから盗まれた情報の価値は20億ドル(2200億円)と見られます。2010年、当時73歳だった男に188カ月の禁固刑が言い渡されました。

 

・米国政府は中国に対し、米国の民間企業へのサイバー攻撃による産業スパイ活動をずっと非難し続けてきました。2015年9月の米中首脳会談で、ようやくオバマ大統領と習近平国家主席が商業的な利益を得ることを目的としたサイバー攻撃の禁止で合意しました。しかし、根本的な解決には全くならず、ニュージーランド政府、日本政府もが、中国政府が民間企業へサイバー攻撃を行い、情報を盗んでいると非難する声明を出すに至ったのです。

 

中国のサイバー部隊の編制

・中国政府でサイバー攻撃に関わっていると見られているのは、中華人民解放軍戦略支援部隊(旧参謀本部)と情報機関の国家安全部・公安部です。しかし、中国サイバー部隊の規模は、ベールに包まれています。

 人民解放軍は、近年、サイバー空間を安全保障上の新たな領域としても、戦略的な強みを持つべき分野として重視しています。

 

戦略支援部隊の前身である参謀本部のサイバー部隊である第3部には13万人が所属していたと報じられていました。2015年12月、人民解放軍は軍改革の一環として組織改編を行い、宇宙戦、サイバー戦、電子戦の機能を集約化した戦略支援部隊を作りました。

 

・二つ目のサイバー部隊を抱える国家安全部は、1983年に設立され、中国国内の防諜の他、海外のインテリジェンス収集を担当しています。駐在武官、学者、国内外にいるスパイのネットワークを活用し、情報を収集します。外国人ビジネスマンに対する産業スパイ活動も含まれます。サイバースパイ活動の能力を近年強化しており、国家安全部が背後にいたと言われているサイバー攻撃には、第1章で触れた米連邦人事管理局やマリオネットホテルからの個人情報の大量摂取があります。

 

・また、2018年12月に米司法省が中国人ハッカー二人を世界中の企業や米国政府へのサイバースパイ容疑で訴追しました。このハッカー二人は、国家安全部と関係を持っているとされ、06年から米国、英国、日本など少なくとも12カ国のネットワークに侵入し、45以上のハイテク企業や政府機関などから情報を盗んでいたと見られています。

 

一方の中国政府は、サイバースパイ活動を海外から非難されるたびに容疑を否定しています

 三つ目の公安部は、警察機能と国内の治安を担っています。1983年に国家安全部が設立されると、防諜任務のほとんどが移管されました。

 しかし近年になって、公安部は、国内の諜報と防諜で大きな役割を担うようになっています。予算の伸びと共に技術的にもサイバー能力が向上しており、大量の治安関係情報のデータベースを使うことで、巨大防諜機関になりました。

 公安部は一部海外でも活動を行いますが、基本的には中国国内の反体制派や外国と繋がりを持っていると見られるグループを監視しています。その監視のために、国内外のハッカーたちに任務を与え、ハッカーたちの管理もします。

 また、公安部傘下の中国人民公安大学のネットワーク攻撃・防御ラボやネットワークセキュリティ防御大学は、警察に対し、サイバー攻撃やスパイの方法を指導していると報じられています。

 

人民解放軍と共謀し米国企業から情報を盗んだカナダ在住中国人

・スー・ビンは、ファイルを入手すると、どの情報を売れば儲かるか印を付け、一部のファイルの情報を英語から中国語に翻訳していました。こうして盗んだ情報や技術について、その価値を含めて報告書を作り、メールで人民解放軍参謀本部に送っていたのです。

 スー・ビンは、米国の司法当局と司法取引に応じ、金銭的利益のために犯罪に手を染め、サイバースパイ活動で得たデータを売却することで利益を得ようとしていたと認めています。

 

・スー・ビンは2014年7月にカナダで逮捕され、その後米国に身柄を移送され、軍事に関わる技術的なデータを盗むために共謀した罪で同年、刑事告訴されました。彼は罪を認め、16年7月、連邦刑務所での46カ月の禁錮が確定しています。

 スー・ビンが盗んでいた情報の中には、米空軍のステルス戦闘機F-35の情報も含まれていました。

 

闇社会で培われるサイバー犯罪者間の「信頼」

・ここまで国家がからむサイバー攻撃の事例を見てきましたが、サイバー攻撃は政府が行うとは限らず、犯罪者が関与している場合もあります。

 

・残念ながら私たちを守る側よりもサイバー犯罪者たちの方がはるかにうまく連携しつつ、自分たちの目的を達成しようとしていることが分かります。

 こうした犯罪者が利用するのが「ダークウェブ」です。ダークウェブとは、通常のインターネット検索では見つからない特殊なウェブサイトのことを言い、接続経路を匿名化してくれるTorなどの特別なシステムでしかアクセスできません。このシステムを使うことで、司法当局などからの追跡を困難にします。

 ダークウェブには数多くの違法なフォーラムがあり、情報や盗品など様々なものが売買されています。武器、麻薬の他、サイバー攻撃で盗まれた個人情報、サイバー攻撃を行うための研修や、コンピュータウイルスなど攻撃用のツールなどがやり取りされています。

 

・さらに、初心者用には、どのようにサイバー攻撃すれば良いのか、手取り足取り説明したビデオが用意されています。また、サイバー攻撃のやり方だけでなく、司法当局などに追跡されないよう自分の痕跡を隠す方法を丁寧に教えたチュートリアルまであるのです。至れり尽くせりのチュートリアルに感動し、お礼のコメントを残すメンバーもいるくらいです。

 

「信頼できる犯罪者」を探すには

ダークウェブ上の違法フォーラムには一つの大きな問題があります。それは、司法当局の覆面捜査官が入り込んで、匿名性を逆手に取ってサイバー犯罪の調査をしている可能性があることです。相手が「身元の確かな犯罪者」で「信頼」して商売をできる相手であるかどうか、必ずしも分からないのがネックです。

 とある違法フォーラム上にサイバー攻撃で盗まれた大量の個人情報が出回った後、設立者兼管理者がしばらく姿を消したという事件がありました。逮捕されたのでは、という噂が瞬く間にフォーラム上に広がりました。

 

・フォーラムは多層式になっており、トピックごとに細かくサブグループに分かれます。あるロシア語のダークウェブのフォーラムには、5千人のメンバーがおり、様々なサブグループに分かれています。扱われているトピックには、パスワード攻略のためのソフトウェア、それをダークウェブで売るにはどうすれば良いか、などもあります。

 

・サイバー犯罪者たちが、ダークウェブでこれだけ緊密に連携し、親切丁寧にサイバー攻撃の手法について教え合い、助け合っているのを知ると、私たち守る側も「人材育成やサイバーセキュリティ対策についての情報共有をもっとしなければ」という危機感に襲われるかと思います。

 

・以上、北朝鮮、ロシア、中国、ダークウェブで暗躍する攻撃者の実態についてご説明しました。国家ぐるみ、組織ぐるみでターゲットの弱みを突いて、情報を盗み、妨害活動を仕掛けてくるサイバー攻撃の背景と目的が把握できると、第1章の事例もまた違う目で読んで頂けるかと思います。

 これだけ手を替え品を替え攻撃を仕掛けてくる攻撃者に対抗するには、守る側も知識武装をした上で防御を固めなければなりません。

 

・「サイバー攻撃はビジネスリスク上の課題であり、事業戦略としてサイバーセキュリティに取り組む」

 

国民一人当たりのサイバーセキュリティ場市場の規模を比較すると、日本は米国の3分の1、英国の半分以下、ドイツの7割に過ぎません。攻撃者は侵入しやすいところからサイバー攻撃を仕掛けます。

 

 

 

『AI時代の新・地政学

宮家邦彦   新潮社   2018/9/13

 

 

 

AI兵器

AI時代を迎え、従来の地政学の常識は大きく書き換えられていく。戦略兵器となった「AI兵器」が核にとって代わり、熱い戦争ではなく「水面下の刺し合い」が主戦場となる可能性すらある。

 

・国際情勢分析を仕事とする身としては、現在起こりつつあるAI革命が伝統的な地政学的思考に如何なる影響を及ぼすのか、考え続けざるを得ない。

 

・伝統的地政学とは、ある民族や国家の地理的状況や歴史的経緯に着目し、当該国家・民族や関連地域への脅威およびその対処方法を考える学問だ。

 しかし、特定の国家が有する地理的・歴史的状況はそれぞれ大きく異なる。安全保障上の利害関係に関しては、全世界共通の傾向や法則などそもそも存在しない。

 

・でも恐れる必要はない。これは日本にとってピンチであると同時にチャンスでもある。世界の一流国として21世紀に生き残っていけるかもしれない。逆に、この大変革期に及んでも従来の不作為と受動的対応を繰り返せば、人口減少による二流国への転落が確実に待ち受けている。

 

AI革命で激変する地政学

・しかし、筆者が懸念するのは、日本での主たる関心事がAIのビジネスに与える影響であるのに対し、他の主要国では政治・軍事に与える影響についてもその研究に多大な人的・財政的資源が投入されていることだ。

 

第5次中東戦争はもう始まっている

・ところが、最近の情報通信処理・AI技術の飛躍的進展は、伝統的地政学が示す優位・劣位の環境を逆転させつつある。従来の強者が弱小集団に簡単に敗れる可能性が出てきたのだ。

 

・その典型例が、カタルに対するハッキングやレバノンのサイバー戦遂行能力の向上だ。例えば、昔ならレバノンからカタルに直接攻撃がなされる可能性はほぼゼロだった。が、今やレバノンのような人口の少ない貧乏国でも、サイバー空間では相当程度の攻撃力を得ている。なぜこんなことが可能になったのか。

 

・サイバー戦の世界では防衛よりも攻撃の方が遥かに安上がりである。

 

・特に、攻撃ソフトを扱う闇市場では入手コストが大幅に下落している。

 

・だから最近は、伝統的優勢国でも弱小国の攻撃を抑止できなくなっている。

 

・巷では「AI技術が経済やビジネスを変える」といった議論が盛んだが、AIには伝統的国際情勢分析の常識を破壊する力もある。

 

AIが作る芸術には創造性はあるのか

・結局、人間は進化したAIに支配されてしまうのか。そこで問題になるのは、AIが人間の能力を超える、いわゆる「シンギュラリティ」の概念だ。シンギュラリティが本当に現実となるか否かについても議論がある。

 

AI革命はダークサイトを変えるか

・ラッダイド運動から50余年後の1864年、ロンドンで第一インターナショナルが結成されたが、AI革命の結末は2つ、第1はダークサイドの拡大と過激化であり、第2はネオ社会主義の台頭の可能性だ。10年後の世界は大量の失業者の不満と怒りを誰が吸収するかにかかっている。

 

AI革命と米中の地政学

・AI技術による米中の力関係の変化は日本の安全保障に直結する重大問題だ。日本もAIの軍事応用を本気で始める必要がある。

 

AI革命と米露の地政学

・ロシアがAI分野で米国に勝つことはなさそうだが、ロシアが米国以上に、他国を実際に攻撃・占領することの政治戦略的意味を熟知していることだけは間違いない。米露競争は今後も緩むことなどあり得ない。

 

AIと日韓、日朝、日中の地政学

・問題は対中関係だ。既に触れた通り、中国のAI技術革新は目覚ましい。しかも、その多くは中国国内の社会管理や言論統制など独裁体制を維持するための活動に応用されている。個人のプライバシーを保護することなく、10億人以上ものビッグデータを活用できる中国が国内の管理統制体制を完成させれば、次のターゲットは潜在的敵性国家である日本となるだろう。

 

AI革命は戦争をどう変えるのか

・80年代にはIT革命が米ソ冷戦の終焉とソ連邦崩壊をもたらしたが、2020年代のAI革命は一体何を引き起こすのだろうか。

 

・しかし、民間主導で急速に発展しつつあるAI技術の軍事転用を条約などで規制することは、航空機や核兵器と同様、事実上不可能だろう。

 AI軍事技術のもう1つの問題点は、議論が兵器システムという戦術面の核心に集中していることだ。AI軍事技術の最大の問題は無人兵器運用の是非などではなく、それが国家軍事戦略を根本から変えてしまう可能性である。

 

AI革命で変わる国家戦略論

1.AIが国家軍事戦略を変えるということは、AIが核兵器に代わり、「戦略兵器」になり得ることを意味する。戦略兵器とは、それだけで敵の戦意を喪失させ、自らの勝利を保証する究極兵器だ。

 

2.AI兵器が敵の戦意を喪失させるとは、核兵器を使わずに、AI兵器だけで、敵国の「大量破壊」が可能になるということだろう。

 

3.現在、核兵器は「使いにくい」兵器となりつつあるが、AI兵器は従来タブーだった「大量破壊」をより容易に、かつAIだけの判断で、実行し得るようになるのだ。

 

4.これを阻止するには、敵のAI軍事能力を減殺する「対AI軍事技術」を実用化していくしかない。

 

・そんな未来を議論している米国と比べ、日本は今もAIの軍事応用はタブー、「対AI軍事技術」の議論も皆無だ。これも背筋がぞっとする話ではないか。

 

AIを悪魔にするのは人間である

・当面は「AI」対「人間」の戦いにならない

 

・AI同士の戦いで優れたAIが勝利する

 

・AIを悪魔にするのは機械ではなく人間である

 

<AI革命時代に日本がすべきこと>

・(AI時代に日本が何を考え、何を実施すべきか。論点は4つある。)

 

・AI革命の影響・効果は経済分野だけではない

 

・AI革命は短期的に社会的格差拡大を助長する

 

・AIは軍事・安全保障分野でも革命を起こす

 

・今、重点投資すべきは「対AI軍事技術」である

 

・(では日本は何をすべきか。幾つか提言しておきたい。)

 

・戦後空想的平和主義からの脱却

 

・AI技術の軍事応用に関する研究者の養成

 

・AI技術の軍事応用に対する予算配分

 

・対AI兵器技術の重点的な研究・開発

 

歴史の大局観を磨く

大局を読む直観力を養う方法

・筆者が直観力に拘わるのには理由がある。

 

 今の日本は国家としての大戦略を欠いている。大戦略を立案するには、20~30年後の世界の国際政治・軍事戦略環境についての冷徹な見通し・シナリオを持つ必要がある。

 

・歴史の大局が発生するためには、それに至る一連の流れが必ずある。その流れを左右するのが歴史の「ドライバー」という概念だ。

 

歴史の大局を左右する「ドライバー」とは

・英国の戦略思考家は、国際情勢を左右する主な要因を「ドライバー」と呼んで重視するが、森羅万象の中からこれを見付けるのは意外に難しい。

 

・「ドライバー」「エピソード」「トリビア」に分類する癖をつける

 

・歴史を学び、常に過去と照合する癖をつける

 

・知ったかぶりは厳禁、「知的正直さ」こそが武器になる

 

・では現在の筆者は一体何を「ドライバー」と見るのか。キーワードは、欧州ではロシアのクリミア侵攻、中東では米軍のイラク撤退、東アジアでは中国公船の尖閣領海侵入だ。ロシアの侵攻でポスト冷戦期は終わり、米軍の撤退でイラクとシリアが破綻国家化し、中国が東シナ海の現状を変えた。いずれも地域情勢を左右する力があると思うからだ。

 

・あるファンドマネージャーが書いたこんな記事を見付けた。「過去の値動きを現在と照合すれば、大局を見失わず冷静に判断できる」――。なるほど、市場と歴史は似ているようだが、1つ違いがある。市場の大局が読めれば大富豪だが、歴史の大局を読めても大儲けはできない。

 

「力の真空」理論と北朝鮮情勢

・「力の真空」状態では、基本的に、最強の部外者が最大の分け前を得る。

 

・最大強者が動かない場合には、弱い部外者でも分け前に与れることがある。

 

・部外者が介入しない場合には、破綻国家となるか、新たな独裁者が生まれる。

ということだろう。この仮説を北朝鮮に当てはめると何が見えるのか。北朝鮮の「終りの始まり」は「力の真空」を暗示する。中国にとって核武装する北朝鮮はもはや緩衝地帯ではなく、むしろお荷物になりつつある。

 

中国人とアラブ人の5つの共通点

・カイロ、バクダッド、北京に合計8年住んだ体験で申し上げれば、両者のメンタリティは驚くほど似通っている。典型的な共通点を5つ挙げよう。

1.世界は自分を中心に回っていると考える

 

2.自分の家族・部族以外の他人は信用しない

 

3.誇り高く、面子が潰れることを何よりも恐れる

 

アラブ人を怒らせる最も簡単な方法は公の場で相手を非難し、その面子を潰すことだが、この手法は中国でも十分通用する。但し、効果は覿面なので、あまり多用しない方が良い。

 

4.外国からの援助は「感謝すべきもの」ではなく、「させてやるもの」

 

流石に今このようなケースは少なくなったが、2000年当時の北京国際空港は日本の経済協力により建設されたものだった。当時中国政府は「日本政府の支援に感謝する」なる一文を空港内に掲げることに強く抵抗していた。恐らくアラブ諸国ではこうしたメンタリティが今も残っているのではなかろうか。

 

5.都合が悪くなると、自分はさておき、他人の「陰謀」に責任を転嫁する

 

アラブ人は米国とシオニストの「陰謀論」が大好きだが、中国も同様。何かといえば、「歴史問題」と「抗日愛国戦争勝利」を持ちだすあたりは、アラブの独裁政権とあまり変わらない。

 

<中国人と中東人はここが違う>

・まとめてしまえば、中東のアラブ人とアジアの中国人の共通点は、①自己中心、②部外者不信、③面子重視、④援助不感謝、⑤陰謀論好きとなる。だが、筆者がアラブ人気質と信じたこれらの性格は、実は中国人だけでなく、開発途上国の国民が共通して持つ「劣等感」の裏返しなのだ。

 

ユダヤ陰謀論に陥るな

・その典型例が「ワシントンやニューヨークなどにいる在米『ユダヤ人』の陰謀」論ではなかろうか。これらの陰謀論が如何に間違っているかを具体例と共に説明しておこう。

 2016年、全米ユダヤ委員会(AJC)の年次世界大会にパネリストの1人として招待された。

 AJCの活動を知る日本人は少ない。ウィキペディアの日本語版もあまり詳しくない。AJCは1906年設立の国際ユダヤ弁護団体だ。その監視対象は米国内の反ユダヤ主義に止まらず、国内及び世界での様々な差別や人権侵害行為に広がる。

 

・大会に参加して強く感じたことがある。第1は、世界の現状と将来に対する彼らの強い危機感だ。

 

・第2は、国際ユダヤ運動の多様性である。

 

・第3は、彼らの圧倒的な知的力量だ。差別というキーワードで彼らは世界各国の情勢を詳細に分析、議論している。この膨大な知的活動がAJCを支えている。これだけでも、今も巷に流布する「ユダヤ陰謀論」の空虚さが判るだろう。

 

・AJ(アメリカン・ジュー)は何よりもユダヤ人の故郷イスラエルの利益を優先する。米国市民でありながら、イスラエルに冷淡なオバマ政権には批判的だ。

 

ユダヤ・ロビーとイスラエル・ロビー

・2000年に当選した息子ブッシュ大統領はこれを一変させた。ユダヤ票の獲得が目的ではない。彼は親イスラエル傾向の強い3000万票以上とも言われる「キリスト教右派」「福音派エヴァンジェリカル)」の票が欲しかったのだ。

 この傾向はトランプ政権で一層顕著になった。トランプ氏を熱烈に支持した層は「白人、男性、ブルーカラー、低学歴」だといわれるが、そこには多くの福音派キリスト教徒が含まれる。彼らは聖書を厳密に解釈し、「神は、シオンの地をアブラハムの子孫に永久の所有として与えられた」という教義を字義通り信じている。こうしたキリスト教シオニストにとって、エルサレムイスラエルの首都であるのは教理上、当然だ。トランプ氏が内政上必要とするのは、こうした福音派キリスト教徒の支持なのである。

 

「核の脅威」の本質

・そもそも北朝鮮を如何に見るべきか。あれは国家などではなく、従業員2500万人以上の巨大な超ファミリー・ブラック企業だと考えた方が良さそうだ。

 

北朝鮮「売り家と唐様で書く三代目」

・社員たちはなぜかくも従順なのか、それがブラック企業の恐ろしさだ。オーナー一族の独裁は強大だから、抵抗すれば直ちに捨てられる。再就職は不可能だから服従するしかない。

 

・だが、この三代目の弱点は、致命的に世間知らずなことだ。思い上がった三代目、唐様ばかりが得意のようで、創業者とは月とスッポンである。

 

北朝鮮「宥和政策」は機能するのか

・歴史の教訓は無慈悲である。強硬策を決断した敵対者に宥和政策は通用しないのだ。

 

周辺の大国に翻弄される「朝鮮」外交

・朝鮮は、常に強国に朝貢することで周辺の大国間のパワーバランスを維持し、自国の独立を守ろうとした。

 

・中華は、朝貢を続ける朝鮮を保護しつつ、恭順を示さない朝鮮に対しては常に厳しい態度を取った。

 

・朝鮮への地政学的脅威は女真や日本など非漢族の異民族であり、中華は必ずしも脅威ではなかった。

 

・朝鮮内部ではエリート間権力闘争が長く続いたが、対外政策はそうした政策論争の重要な要素だった。

 

半島「力の真空」ゲームを各国は如何に戦うか

・トランプ政権以降、米中露間競争は新段階に入る。

 

北朝鮮で「終わりの始まり」「力の真空」が生じる。

 

・「真空」では最強部外者が最大の分け前を得る。

 

・最強部外者が不介入なら、次なる部外者に益する。

 

・部外者が不介入なら、破綻国家か新独裁者が生まれる。

 

ちょっと変わっているが、素晴らしい国

外務省を辞めて分かった格差の拡大

・この「官民」でまず大きく違うのはカネの出入り。当然と言われようが、官僚は国民の納税「義務」に支えられているのに対し、民間には物品の消費「義務」などないから、人々は自力で収入(売上)を確保せねばならない。

 

・長々と昔話をした理由は他でもない。10年以上前に感じたこの「官民」「民民」の格差は、今や解消するどころか、逆に一層拡大しているように思えるからだ。

 

 

  

『米中戦争 そのとき日本は』

渡部悦和  講談社  2016/11/16

 

 

 

ライバルを必ず潰してきた米国

・日米関係について言えば、1970~90年代における米国の経済面での最大のライバルは日本であった。ハーバード大学エズラ・ヴォーゲル教授が1979年に書いた『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は有名だが、多くの米国人が日本に脅威を感じていた。とくに日本経済の黄金期であった1980年代の米国人は日本を最大の経済的脅威として認識し、日本に対してさまざまな戦いを仕掛けてきた。その典型例が日米半導体戦争である。半導体分野で首位から転落した米国のなりふり構わぬ日本叩きと熾烈な巻き返しは米国の真骨頂であった。こうした米国の仕掛けが成功するとともに、日本の自滅(バブルを発生させてしまった諸政策と、バブル崩壊後の不適切な対処)も重なり、バブルを崩壊後の失われた20年を経て日本は米国のはるか後方に置いて行かれたのである。そして今や中国が米国にとって最も手強い国家となっている。

 

スコアカード・5つの提言

ランド研究所では「紛争開始時の米軍の損害を減少させ、勝利を確実にする」ための、5つの提言を行っている。

 

  • バランス・オブ・パワーの変化は米国に不利なトレンドではあるが、戦争は北京にとっても大きなリスクであることを明確に認識させるべきである。

 

  • 兵器調達の優先順位においては、基地の抗堪性(余剰と残存性)、高烈度紛争に最適なスタンドオフ・システムで残存性の高い戦闘機及び爆撃機、潜水艦戦と対潜水艦戦、強力な宇宙・対宇宙能力を優先すべきである。

 

  • 米国の太平洋軍事作戦計画策定においては、アジアの戦略的縦深(地理的な縦深性、日本などの同盟国が米国の緩衝地帯を形成することに伴う縦深性)を活用する。米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする(積極拒否戦略)を考慮すべきである。その結果、中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう。

 

  • 米国の政治・軍事関係者は、太平洋の島嶼諸国及び南東アジア南部の諸国とも連携しなければならない。これは、米国により大きな戦略的縦深と、米軍により多くの選択肢を提供することになる。

 

  • 米国は戦略的安定・エスカレーション問題において、中国に関与する努力を続けなければならない。

 

スコアカードに関する筆者の評価

日本の安全保障に与える影響

  • 本報告書には日本防衛に影響を与える記述が随所にあり、その記述を詳細に分析する必要がある。例えば、「嘉手納基地に対する比較的少数の弾道ミサイル攻撃により、紛争初期は緊要な数日間基地が閉鎖、より集中的な攻撃の場合は数週間の閉鎖になる可能性がある。米国の対抗手段により、その脅威を減少させることができる」などといった記述である。

 とくに台湾危機シナリオは日本防衛に直結する。台湾の紛争が在日米軍基地への攻撃などの形が我が国に波及すれば、日本有事になる。南西諸島の防衛をいかにすべきか、在日米軍基地を含む日本の防衛態勢をいかにすべきかを真剣に考える契機とすべきである。台湾や南シナ海の危機は日本の危機でもあるのだ。

 

  • ランドの研究グループは、作戦構想としてのエア・シー・バトルを採用しているために、「アジアの戦略的縦深を活用し、米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする「積極拒否戦略」を考慮すべきである。中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう」と提言しているが、この提言は重要だ。要するにこれは、「危機当初は米空軍・海軍が中国軍の打撃を避けるために後方に退避し、反撃を準備してから攻勢に出る」という意味である。米国の同盟国である紛争当事国は米軍の反撃が開始されるまで中国軍の攻撃に耐えなければいけない—―「積極拒否戦略」にはそのような意味が込められている。

 

  • 我が国においても、ランド研究所のシミュレーションを上回る分析が必要であり、詳細かつ妥当な分析に基づく防衛力整備、防衛諸計画策定がなされていくことを期待する。

 

キル・チェインとC4ISR能力

弾道ミサイルなど、長射程兵器の「キル・チェイン」と、それを可能とする指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察{C4ISR}の能力はきわめて重要である。キル・チェインとは、ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング(目標指示)、交戦(射撃)の効果を判定する—―という、一連のプロセスを指す。

 

東日本大震災時に軍事偵察を活発化させた中国・ロシア

・筆者が最も恐れる最悪のシナリオは、同時に生起する複合事態である。2011年に発生した東日本大震災は複数の事態が同時に生起する複合事態であった。当時の自衛隊は、地震津波原子力発電所事故に同時に対処する必要に迫られた上、周辺諸国の情報偵察活動も続けなければならなかった。多くの日本人は知らない事実だが、当時、自衛隊が大震災対処で忙殺されている間に、その自衛隊の警戒態勢を試すかのように周辺諸国(とくに中国とロシア)が軍事偵察を活性化させた。その姿勢には強い憤りを感じたものだ。しかし、それが我が国周辺の厳しい安全保障環境であると改めて実感したことを思い出す。

 筆者が恐れる「同時に生起する複合事態」の一例は2020年に開催される東京オリンピック関連である。この大会に備えてテロやサイバー攻撃への対策が議論されているが、大会直前や開催中の首都直下地震の発生及び対処は考えられているだろうか。

 筆者がさらに恐れる同時複合事態は、首都直下地震(または南海トラフ大震災)の発生に連動した日本各地でのテロ活動、もしくは、尖閣諸島など日本領土の一部占領である。

 

日中紛争シナリオ

各シナリオ共通の事態

・いかなる日中紛争シナリオにおいても、非戦闘員ないしは特殊部隊による破壊活動は必ず発生すると覚悟すべきであろう。平時から中国軍や政府機関の工作員、そのシンパで日本で生活する中国人、中国人観光客が、沖縄をはじめとする在日米軍基地や自衛隊基地の周辺に入っていると想定すべきである。

 

中国の準軍事組織による「尖閣諸島奪取作戦」

・中国は常套作戦としてPOSOW(準軍事組織による作戦)を遂行し、米国の決定的な介入を避けながら、目的を達成しようと考える。準軍事組織による作戦の特徴は、①軍事組織である中国軍の直接攻撃はないが、中国軍は準軍事組織の背後に存在し、いつでも加勢できる状態にある。②非軍事組織または準軍事組織が作戦を実行する。例えば、軍事訓練を受け、ある程度の武装をした漁民(海上民兵)と漁船、海警局 の監視船などの準軍事組織が作戦を実施するのである。この準軍事組織による作戦は、南シナ海—―ベトナム、フィリピン、インドネシアに対して多用され、確実に成果をあげている作戦である。

 

・以上の推移で明らかなように、この作戦には軍事組織である中国海軍艦艇が直接的には参加しない。日本側から判断してこの事態は有事ではなく、平時における事態(日本政府の言うところのグレーゾーン事態)であり、海上自衛隊は手出しができない。尖閣諸島に上陸した漁民を装った海上民兵を排除するためには大量の警察官などの派遣が必要となる。法的根拠なく自衛官を派遣することはできないからである。

 中国の準軍事組織による作戦は、日米に対してきわめて効果的な作戦となるだろう。なんといっても日本の法的不備をついた作戦であり、自衛隊は手出しができない。

 一方、米国にとっても準軍事組織による作戦に対して米軍が対応することはできない。つまり、こうしたケースの場合は米軍の助けを期待することができないため、これらの事態の対処は当事国の日本が単独であたらなければならない。

 

日米の機雷戦

・日本はすでに、南西諸島沿いに太平洋に出ようとする中国の水上戦闘艦及び潜水艦に脅威を与える高性能の機雷を多数保有している。日本の洗練された機雷は、狭い海峡を通り抜けようとする艦艇・潜水艦を目標として製造されている。適切に敷設された機雷原は、第1列島線を超えて東方に向かう中国艦船の行動を遮断する。機雷は大量生産が比較的簡単で、高価な艦艇よりはるかに安価である。

 対潜戦と同じく、中国海軍は対機雷戦にも弱く、この弱点を衝くべきである。

 

手足を縛りすぎる自己規制はやめにしよう

習近平首席の軍改革の目的は「戦って勝つ」軍隊の創設だった。戦う相手は日本であり、勝つ相手も日本である。戦って勝つためには手段を選ばない超限戦を実行する。超限戦では国際法も民主主義国家の倫理も無視する。こういう手強い相手が中国であることをまずは認識すべきである。

 これに対して日本の安全保障のキャッチフレーズは「専守防衛」だ。防衛白書によると、「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」。

 

中国軍の航空・ミサイル攻撃に対する強靭性を高める

・我が国の防衛の最大の課題は、中国軍の航空攻撃や大量のミサイル攻撃から生き残ることである。そのためには防空能力を高めること、築城による基地・駐屯地の抗堪化、装備品の分散・隠蔽・掩蔽、装備品の機動性の向上、被害を受けた際の迅速な復旧の措置による被害の回避が必要である。

 

・防空能力については、統合の防空能力を強化すべきである。そのためには、各自衛隊の防空装備品を統一運用するためのC41SRシステムが必要となる。さらに日米共同の防空能力の構築にも尽力すべきであろう。

 

 将来的には、電磁レールガン、高出力レーザー兵器、高出力マイクロ並兵器の開発を加速させ、中国軍のミサイルによる飽和攻撃にも対処できる態勢を構築すべきである。とくにレールガンは、中国軍の次期主要武器――高速飛翔体や各種ミサイル—―を無効化する可能性のあるゲーム・チェンジャーであり、その開発を重視すべきだ。

 

強靭なC4ISRを構築する

・ミサイルのキル・チェインを成立させるためにC4ISRが大切であることも繰り返し述べてきた。米軍も統合運用を深化させる過程で、異なる軍種のC4ISRシステムの連接に努めてきた。とくにグローバルに展開する武器を連接し、リアルタイム情報に基づいて迅速かつ効率的に火力打撃を実施するためには、強靭なC4ISRが不可欠である。

 

継戦能力を保持する

・最後に強調したいのが「継戦能力」である。予想される戦いは短くても数週間、数カ月間継続する。弾薬・ミサイル、燃料、予備部品などの備蓄は必須だ。形ばかりの防衛力整備ではなく、継戦能力の向上のために、より実際的な事業が不可欠なのだ。

 

ランド研究所の「中国との戦争(考えられないことを考え抜く)」の論文

・「米中戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争の場合、GDPの25%から35%の減少になる。一方、米国のGDPは5%から10%の減少になる。長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化して手に入れた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす」

 

・本書の目的も、米中戦争という最悪の事態を想定し、それに対処する態勢を日米が適切に構築することで、中国主導の戦争を抑止する点にある。

 

・いずれにせよ、日米中が関係する戦争(紛争)が実際に生起することを抑止しなければならない。平和を達成するためには戦争を知らなければならない。

 

 

 

『悪魔の情報戦略』  

  隠された「真実」を看破する戦略的視点

浜田和幸   ビジネス社   2004/4/1

 

 

 

中国有人飛行成功の裏に隠された情報戦略

・国民の平均年収が8万円でありながら、3000億円近い経費を投入した今回の打ち上げに対しては、内外から批判的な見方もあったが、ひとたび成功のニュースが流れるや中国人の間では「偉大な中国の科学力の勝利」といった歓迎ムードが広がった。

 

中国共産党にとってはかってない規模での政治ショーを成功させたことになる。国内では貧富の差も広がり、教育や福祉、環境、人権などさまざまな分野で国民の不満が溜まっているところだったから、今回の宇宙ショーは、その国民の気持ちを高揚させ、共産党支配の未来に希望を抱かせる上で、極めて効果的だった。

 

「2017年米中宇宙戦争勃発」のシナリオを描くアメリ

・なぜなら、中国の宇宙開発計画は将来の「宇宙戦争」を念頭に置いていることを、もっともよく理解しているのはアメリカに他ならないからである。ラムズウェルド国防長官の特別補佐官を務め、現在はノースロップ・グラマン・ミッション・システムズ副社長となっているリッチ・ハパー氏は「このままではあと20年以内にアメリカと中国は宇宙での戦争に突入する」との見通しを明らかにしているほど。実際、アメリカの国防総省では「2017年米中宇宙戦争勃発」とのシナリオに基づく模擬戦争演習を行っている。

 

ライバル視する中国、誘い込むアメリ

・一方、中国の人民解放軍の幹部も、「科学技術の粋である宇宙戦争を戦える力を持たねば、我々はアメリカによってコントロールされる」と言う。それのみならず、「宇宙大戦争計画」と称して、やはり「アメリカとの最終戦争の舞台は宇宙になる」との見方を示しているのである。

 

・曰く、「中国は陸、海、空の領土保全に加え、これからは第4の領土である宇宙に目を向け、その開発に積極的に取り組むべきである。宇宙の資源をめぐる争奪戦での最大のライバルはアメリカとなるだろう。この戦いに勝利するため、我々は、必要な宇宙兵器の開発を早めねばならない」

 

宇宙から選ばれし国家「中国」という情報操作

・中国UFO調査協会では中国の宇宙開発を支援するための教育啓蒙活動に熱心に取り組んでいる。なぜなら、今回の友人宇宙飛行にも関わった北京航空航天大学の沈士団学長がこのUFO協会の名誉会長を務めるほど、中国では「飛碟」(UFO)や「外星人」(宇宙人)研究が政治的に認知されているからである。

 

内部書類「対米全面戦争勝利戦略」の信憑性

・このところ、北朝鮮の新聞やラジオは盛んに「アメリカの攻撃に対して大規模な反撃を準備しよう」という呼びかけを続けている。北朝鮮には100万を超える陸軍兵力に加え、470万の予備役もいる。数の上では世界第4位の軍事力と言うのがご自慢で「イラクの軟弱兵士と比べ、我々には高いモラルを維持しているので、徹底的にアメリカ軍を殲滅できる」と意気盛んな限りである。

 

地震は本当に起こる?

情報に対して未熟な日本

・とてつもない大きな地震が来るかもしれない。中央防災会議では「東海地震はいつ発生してもおかしくない。東南海地震と同時発生の可能性もある。東南海、南海地震は今世紀前半の発生が懸念される」と発表している。

 

地震学的に間違いないといわれているものの、根拠なき理由から、たとえ大地震が来ても自分だけは助かるという、信じる者は救われるような情報の価値とはまったく異なる次元で人は生きているところがある。

 

脆弱な日本の情報機関

・日本でも以前には「明石機関」や「陸軍中野学校」などで知られる諜報組織や情報機関と言うものがあった。ところが占領軍によって壊滅させられたのである。

 

英米諜報機関のような大組織によって世界中に張り巡らされているネットワークから上がってくる情報に基づいて政策を策定する、そういった情報サービス機関はない。

 

・日本版のCIAといわれる内調でさえ内実は国内情報分析で60人、海外の情報分析で80人の計120人体制なのである。例えば、日本に最も影響の大きいアメリカの情報分析にも4、5人でフォローしているという状況である。

 

・そこで、どういう対応をするかというと国家予算を使ってアメリカの法律事務所やコンサルタント会社と言ったビジネスの情報機関から定期的にワシントンやニューヨーク情報を買うのである。

 

 

 

『語られざる中国の結末』

宮家邦彦  PHP  2013/10/16

 

 

 

人民解放軍の「サイバー戦」観

・ここで、中国サイバー軍の概要について簡単にまとめておこう。各種報道によれば、中国は2003年以来、秘密裏に軍人3万人、民間専門家15万人という総勢18万人のサイバー・スパイを擁する、巨大なサイバー軍を実戦運用しているといわれる。

 中国はサイバー攻撃を最も有効な対米「非対称戦」と位置付けている。最近は中国サイバー戦能力の向上が著しく、米国は中国のサイバー軍を「米国にとって唯一、最大のサイバーテロ・脅威」とみなしているようだ。

 

米国が恐れる中国版「真珠湾攻撃

・米国が恐れているのはズバリ、中国版の「真珠湾攻撃」だろう。冷戦終結後の湾岸戦争ベオグラードの中国大使館誤爆事件を契機に、中国側は現代戦争の重点が「機甲化戦」から「情報化戦」へ変わりはじめたことを、ようやく理解したからだ。

 情報化戦では、ミサイル、戦闘機など在来型兵器に代わり、敵のアクセス(接近)を拒否するため、緒戦で敵の指揮・統制を麻痺させる戦略が重視される。中国は初動段階でのサイバー・宇宙戦など、「非対称戦」の重要性を強く認識しているはずだ。

 

対日サイバー攻撃は年間1000件以上

・以上はあくまでシュミュレーションだが、実際に日本の政府機関や企業へのサイバー攻撃は、警察庁が把握している分だけでも、年間1000件以上あるという。また、情報通信研究機構NICT)の調査では、2012年の1年間だけで、この種のサイバー攻撃関連の情報通信が、78億件もあったそうだ。

 

「攻撃」を模索する米側のロジック

・パネッタ長官は、サイバー攻撃には「防衛」だけでなく、「攻撃」の選択肢も必要であり、サイバー空間での「交戦規定を包括的に変更中」であるとも述べた。その直前にオバマ大統領は、「破壊的攻撃を行なうサイバー兵器」の開発を命じている。米中サイバー戦はすでに新たな段階に突入しつつあるのだ。

 

<「サイバー攻撃能力」の研究を

・過去数年来、米国ではサイバー戦を「抑止」するための「サイバー攻撃」に関する準備が着々と進んでいる。日本でも、憲法上の制約があることを前提としつつ、サイバー戦「抑止」のための「サイバー攻撃能力」を研究する時期に来ている。

 

「第2次東アジア戦争」は短期戦?

・他方、だからといって近い将来、米中間で大規模かつ、長期にわたる軍事衝突が起こると考えてはならない。少なくとも、米国や米国の同盟国が中国を挑発する可能性はきわめて低い。米国は中国大陸に侵入して中国と戦うことなど考えてもいないだろう。

 

・先に述べたとおり、米国の関心は西太平洋地域における米国の海洋覇権が維持されることを前提とした「公海における航行の自由」の維持であり、中国大陸における領土獲得や政権交代などではないのである。

 一方で中国側、とくに中国共産党文民政治指導者にとっても、いま米軍と戦争をする利益はあまりない。そもそも、戦闘が始まった時点で中国をめぐる多くの国際貿易や経済活動は停止するか、大打撃を蒙るだろう。これは中国経済の終焉を意味する、事実上の自殺行為である。

 

・そうだとすれば、仮に、たとえば人民解放軍側になんらかの誤解や誤算が生じ、サイバー空間や宇宙空間で先制攻撃が始まり、米中間で一定の戦闘が生じたとしても、それが長期にわたる大規模な戦争に発展する可能性は低いと思われる。

 

実戦能力を高めるだけでは不十分

中国の「敗北」後に予測される7つのシナリオ

A 中国統一・独裁温存シナリオ(米国との覇権争いの決着いかんにかかわらず、共産党独裁が継続するモデル)

 

サブシナリオA1 中国が東アジア・西太平洋における米国との覇権争いに勝利。

 

サブシナリオA2 中国が統一と共産党の政治的権威をほぼ現状のまま維持。

 

サブシナリオA3 第二次「文化大革命」などによる独裁強化。

 

B 中国統一・民主化定着シナリオ(米国との覇権争いに敗北。米国主導の民主化、中国超大国化モデル)

 

C 中国統一・民主化の失敗と再独裁化シナリオ(国家分裂のないロシア・「プーチン」モデル)

 

D 中国分裂・民主化定着シナリオ(少数民族と漢族で分裂するも民主化が進む、資源のない中華共和国モデル)

 

サブシナリオD1 たとえば北京を中心に漢族中心国家の統一が維持される一方、他の少数民族民族自決する。

 

サブシナリオD2 サブシナリオD1で想定した漢族中心の統一国家がさらに分裂し、現存する中国各地の主要経済圏を基盤とする複数の漢族中心国家群が出現。

 

サブシナリオD3 分裂した中小国家群が、一部または全部で、連邦制ないし国家連合を組む。

 

E 中国分裂・民主化の失敗と再独裁化シナリオ(少数民族と漢族の分裂後、民主化が失敗するロシア・「プーチン」モデル)

 

サブシナリオE1 たとえば北京を中心に漢族中心国家の統一が維持される一方、他の少数民族民族自決する。

 

サブシナリオE2 サブシナリオE1で想定した漢族中心の統一国家がさらに分裂し、現存する中国各地の主要経済圏を基盤とする複数の漢族中心国家群が出現。

 

サブシナリオE3 分裂した中小国家群が、一部または全部で、連邦制ないし国家連合を組む。

 

F 中国分裂・一部民主化と一部独裁の並立シナリオ(少数民族と漢族の分裂後、民主と独裁が並立するモデル)

 

サブシナリオD、Eと同様、分裂の仕方については三つのサブシナリオが存在。

 

G 中国漢族・少数民族完全分裂シナリオ(大混乱モデル)

 

まとめ

 

▼米中がなんらかの戦争ないし戦闘により衝突する場合、中国人民解放軍が米軍を圧倒し、決定的な勝利を収める可能性は低い。

 

▼他方、こうした戦争ないし戦闘において米軍が優勢となるにしても、中国側は早い段階から決定的敗北を回避すべく、政治決着をめざす可能性が高く、米側の決定的勝利の可能性も低い。

 

▼されば、サブシナリオA2、すなわち仮に中国が敗北しても、内政上の悪影響を最小限に抑え、中国の統一と共産党の政治的権威をほぼ現状のまま維持する可能性が、現時点では最も高い。

 

▼その場合、中国共産党の指導体制は当面、揺るがない。しかし、米中衝突という異常事態が中国国内の政治経済環境に及ぼす悪影響は計り知れず、いずれ、国内情勢は不安定化していく。

 

▼万一、国内の政治的安定が崩れれば、中国の分裂が現実味を帯びるだろうが、その場合でも、漢民族の連帯は強く、分離していくのはチベットウイグルなどの少数民族に限られるのではないか。

 

▼可能性は最も低いものの、実現した場合の悪影響が最も大きいのが「漢族分裂」現象であり、その場合には、民主的でない複数の漢族中小国家が生まれる可能性が最も高い。

 

▼複数の漢族国家が誕生するか否かは、中国人民解放軍がどの程度、軍としての統一を維持できるかにかかっている。

 

▼その場合、各国の軍隊の大小、装備の優劣、とくに核兵器保有の有無が鍵となる。各国軍隊の力が均衡すれば分裂は長期化し、逆に一国の軍隊が突出すれば、いずれ中国は再統一に向かうだろう。

 

・現在、中国では、国民の多様化した政治的、経済的、社会的利益を「誰が代表するのかが静かに問われはじめている。中国共産党が新たな統治の正統性を見出さないかぎり、正統性の第一、第二の柱に依存しつづける。そうなれば、中国共産党の統治システムはいっそう脆弱なものとなるだろう。

 

 

 

新版『ラルース 地図で見る国際関係』  現代の地政学

イヴ・ラコスト   原書房    2016/12/22

 

 

 

地政学、それはまず戦争をするのに役立つ」

・「地政学、それはまず戦争をするのに役立つ」。これは1970年代末に発行されたイヴ・ラコストの著書のタイトルで、当時大きな反響をよんだ。

 現状に即して完全に見なおしたこの新版で、著者はこの直観を現代世界を読み解くカギとして使っている。著者(フランスの地政学の第一人者の1人)は現代の大きな争点について、独自のアプローチを提案する。それは、局地的な地図から世界地図まで、さまざまな地域の地図を重ねあわせることによって、そうした争点をたがいに関連付けるという方法である。

 

中国:いずれは世界一の経済大国か?

・統計によれば、中国は2009年から公式に世界第2位の経済大国になった。しかし国民の多く、とりわけ農民は、今でも非常に貧しい生活を送っている。にもかかわらずそうした状況が語られないのは、人々が今でも共産党の役人の支配下にあるからである。

 

始まりは大きな地政学的動き

漢民族の勢力拡大:南北2000㎞

・中国人は全員同じ言語を話すわけではないが(中国南部にはさまざまな方言が存在する)、そのほとんどが自らを漢民族だと認識しており、共通の文字である漢字を用いている。漢字はアルファベットと違って表意文字で、読み方は地域によって異なる。この文字の統一性は、インドとは大きく異なる点である。インドも10億人以上の人口をかかえるが、その90%がヒンドゥー教徒であることを除けば、言語的、文化的には非常に多様である。

 

中華帝国がまもなく世界の中心になる

中国のめざましい経済発展とその地政学的理由

・産業活動は、党の有力者とその家族が結託して中国や外国の個人投資家と取引するという、理論的に不鮮明な無秩序な方向に向かって進められた。

取引相手はとくに台湾の人間だった。

 

・そのいっぽうで地方の状況は非常に不安定なままで、国の管理下にある工場は失業者を出し、多くの場合労働者に賃金を払えずにいる。

 

国内移住と貧困

・国際的な研究によれば、中国では中流階級(西洋型消費・社会生活を送る人々)が3億人いるいっぽうで、公式な数字によれば1億人以上が貧困線以下の生活を送っている。これは年収882元以下を基準にしたものだが、貧困線の世界平均は年収3000元以下である。こうした貧困層の大半は、仕事を求めて田舎から都市に出てきた無数の国内移民(2000年代初頭には約4200万人)で、おもな出身地は、四川省湖南省河南省である。出稼ぎ先としては、広州(半数近く)と上海が多い。こうした人口の大移動は、国の政治経済を不安定にする大きな危険要素の一つである。

 

・人口密度の非常に高い東部地域となかば砂漠のような西部地域との違いは歴然としている。世界的な経済危機によって対米貿易が低下したとはいえ、中国はこの危機以前に経済成長の記録を達成している(最高年16%)。そうしたなかでも中国当局は綿密な出生管理を続けており、1970年代に決定した産児制限政策は2001年にふたたび「国家政策の基本」であると宣言された。しかも妊娠中絶という強制的な手段も棄ててはいない。中国の出生率は人口の自然出生率より低くなる見込みで、女性の数の不足が強く意識されはじめている。都市の人口は、1980年から2011年の間に、全体の19.7%から50%に変化した。

 

農地の獲得、緊張と対立の源

・1980年に中国の都市人口は全人口の20%以下であったが、現在は50%を超えたところだ。上海は2300万人を、北京は2000万人を超えている。かつて四川省に属していた内陸部の重慶市は、数字の上では3100万人を超えるが、これは特別なケースである。というのも、三峡ダムの建設後に長江流域が水没したため、「赤色盆地」(四川盆地)の多くの地域を行政上まとめたからである。

 多くの都市の拡張はほかの国と同様、都市化の問題を引き起こしたが、中国では都市の農村部への拡張が特別の問題をもたらした。農地は原則として集団の土地にしておかなければならないからである。各公社で指導者たち(選挙で選ばれる原則だが、実際は共産党に任命される)が土地を不動産開発業者に売ることを決めると、開発業者はその不動産を裕福な市民に売却する。この売買の際に、公社の指導者たちが利益のうちのかなりの部分をしばしば着服していることに、農民たちはすぐに気がついた。こうした土地詐欺に続いて複数の指導者に対する暴動が起こり、インタ―ネットで伝えられるようになった。

 党幹部(「赤いプリンス」とよばれる)の家族が私服を肥やす問題やその役職の問題、地方や国家のトップの座を争うライバル関係については、ますます論議されている。

 

中国がアメリカを「救う」

・1990年代から米中の経済関係は非常に良好で、何年も前から中国資本がアメリカの巨額な貿易・予算赤字を補填しているほどである。中国はアメリカに製品を売り、同国から国債を購入しており(推定1兆ドル以上)、アメリカの外貨と経済を支えている。

 

国内移動者が大量に存在

・今や豊かで工業化された沿岸各省と、大部分が農村の中央部、そしてあきらかに開発の遅れた西部各省の間には大きな格差が認められる。

 現代の中国の特徴は地方から都市へ向かう国内移動者が大量に存在することで(2000-05年に2億人以上)、一部の人はこれを社会を不安定にするリスクであると考えている。しかし当局は、人口100万人以上の都市に住む人の割合は世界平均よりもまだ5%以上低いと指摘する。

 香港を含む中国のGDP(国内総生産)は、2010年にはアメリカに次いで世界第2位であり、日本とドイツがこれに続いている。

 

華僑

・華僑がもっとも多いのは当然ながら東南アジアだが、中国人の存在に対して土着住民が激しい拒否の動きをみせることがある。とくにインドネシアでは、1965年にスハルト将軍のクーデターが起こったときにそれがみられた。中国人は当時共産主義と同一視され、地元の共産主義者とともに多数が虐殺されたのである。

 

どのような大国? どのような未来?

・中国では昔から、何百万人もの農民が不法に都市に出稼ぎにきて、非常に不安定な状態におかれている。国内移住を管轄する当局は、相応の許可をもたない人間が都市に居住することを禁止しているからである。現実に何千万人もの「密労働者」が必要な滞在許可なしに都市で働いているが、最低の賃金で、家族を呼びよせられずにいる。彼らはいかなる要求もできない。そんなことをしたら追い出されるか、労働所に収容され、それまでの貯金を田舎の家族に仕送りできなくなるからである。世界的な経済危機の影響で中国の経済成長も大幅に減速したため、「不法労働者」たちは田舎に押しもどされている。収入源を絶たれた彼らは、自分達よりもはるかに豊かに暮らしている地元の共産党の役人による支配に反発しはじめている。

 反発の声は、共産党員の労働者からも上がっている。党の有力者の親族が経営する民間企業は羽振りがいいのに、彼らが働くかつての国営工場は不振にあえいでいるからである。この不安定な社会情勢に直面して、指導者たちは社会保障制度をはじめとする改革を約束する。国の息のかかった組織は、国の統一を強化するために、中国が外国から脅威にさらされていると吹聴する。その言によれば、国際世論がチベット人を支持しているのがその証拠だ。

 

ナショナリズムの高まり、社会不安、農村部での反乱、都市部の混乱など、現在の中国は何が起きてもおかしくない状況である。しかも、めざましい発展を制御しつづけることができたとしても、この国はいずれは国境を越えて力を行使したくなるのではないだろうか。中国は原材料、とりわけ石油を大量に必要とし、中央アジアやアフリカに本格的な経済攻勢をしかけている。とくにアフリカには、資材と資本だけでなく数多くの労働者も送りこんで、地元民をひどく驚かせている。

 中国の大企業は、現在はグリーンランド北極海の鉱物資源に強い関心を示している。

 

北朝鮮:横目でみる地政学的争点

・以来、韓国は民主主義体制のもとで繁栄する国家となり(人口4900万人、2011年にGNP1兆1630億ドルで世界13位の経済大国)、隣国の北朝鮮は貧困と全体主義に沈んでいった(人口2400万人)。

 

・そのうえ北朝鮮原子力研究分野でパキスタンや複数のアラブ諸国を支援したことも忘れてはならない。また、特定のテロリストグループに原子力兵器を提供すると脅していることも忘れてはならない。しかしながら、国の経済が破綻しているにもかかわらず、現在誰も体制が近々崩壊するとみている様子はない。それは直接の利益を得るものがいないからかもしれない。南北統一が実現した場合、韓国は、ドイツ経済が東西再統一時にかかえた負債よりもはるかに重い負担がのしかかってくることを恐れている。中国は、南北朝鮮の再統一がアメリカに有利に働くのではないかと危惧している。そしてアメリカは、南北統一によって韓国駐留米軍の存在意義が問われることになるだろうとみている。日本はといえば、北朝鮮のミサイルの直接の脅威にさらされているのにもかかわらず、統一された朝鮮が長期的には大国となり、経済的な手ごわいライバルになることを憂慮している。さらに北朝鮮から大量の移民が流入するリスクもかかえている。近年北朝鮮政府は、新たな核実験や、太平洋上のハワイにまで達しうるロケット弾の発射を行った。

 

・韓国は、北朝鮮軍が日本に到達する能力のある射程1300㎞以上のミサイルを少なくとも1000基保有しているとみている。一部の観測筋によると、中国は深刻な危機の際に北朝鮮のカードを切るかもしれないという。とくに台湾問題をめぐって米中間に強い緊張が生じた場合に、北朝鮮のミサイルの脅威は日本に向けられるかもしれない。

 

日本:驚異的な成長も現在は停滞中

・中国と朝鮮半島の北東に位置する日本のジャパンという英語名は、中国語で「日本」をリーベンと呼んだことに由来する(ジーペンと聞こえる)。この非常に古いアジアの国は、世界的に見て二つの大きな地理的特徴をもっている。第一に、早い段階でおおよそ統一された、全体として非常に単純な形状の島国国家であるという点だ。

 

・しかも全長3000㎞以上の広さをもちながら、大きな文化的均質性を保っている点も、他の島国国家とは異なっている。二つめの大きな地理的・地政学的特徴は、19世紀の産業革命を自力でなしとげ、その結果、西ヨーロッパや北米と同様の「先進国」の特徴をすべてかねそなえた唯一の非西洋国家であるという点である。

 

日本の危機感

・1990年代半ばからは成長率が大幅に低下し、日本は新たな段階に入った。さらに2009年には世界的な経済危機の影響で、本格的な景気後退に突入した。原因は複雑だ。1つは、産業界の大企業が多くの生産拠点を海外に移したことである。海外拠点は人件費が安く、そう遠くない韓国や台湾、インドネシアだけでなく、より大きな市場をもつアメリカや西ヨーロッパにも広がった。また、人口の減少と老齢化による国内市場の景気停滞も原因の一つである。

 

現代日本地政学的課題

・かつて日本の地政学野心はとほうもないものだった。現在は国境を越えた介入は少しずつ増えてはいるものの(アフガニスタンイラクへの派兵、台湾への明確な外交支持)、日本の地政学的問題は限定的になっている。

 

・実際は、日本の地政学的な課題は、領土よりも国のイメージの問題だといえる。近隣諸国は日本に対して、かつての帝国主義のイメージを抱いているからである。韓国人は、日本の植民地時代や第2次世界大戦中に自国の男女が受けた扱いを忘れてはいないし、中国人は日本軍の行い、とりわけ1937年の「南京大虐殺」における残虐な行為をつねに思い起こしているのである。

 北朝鮮の問題と同政府が核兵器をちらつかせる戦略は、直接的には韓国に向けられているが、日本もとりわけ関係があるといえよう。北朝鮮はすでに、弾頭非搭載のミサイルを日本の頭越しに太平洋に撃ちこんで、自国の力を誇示しているのである。

 

・中国と日本の競争は、石油分野と地政学的戦略面でも表れはじめている。中国政府は今、カザフスタンと西シベリアから石油を受け取っているが、日本は西シベリアやカザフスタンから来るパイプラインがロシア連邦の沿岸地方まで、すなわち日本海側まで到達することを望んでいる。日本は広島への原爆投下の記憶がありながらも、エネルギーの安全確保のために何十年も前から原子力発電所建設の大規模計画を実現してきたが、これは福島の大惨事以後非常に問題視されている。とはいえこの原子力の民生利用計画は、日本が自力で国の安全を守らなければならなくなった場合に、簡単に軍事目的に転用できる手段でもある。

 

・1946年にアメリカに押しつけられた憲法によって、日本は公式な軍隊はもたないものの「自衛隊」を備えており、その艦隊は力を増しつづけている。2007年1月、防衛庁は省に昇格したが、これは日本における軍隊復活の兆しかもしれない。日本の地政学的課題は北朝鮮の挑発に限られているのではなく、中国国内で高まるナショナリズムの流れにも関係している。中国は西側諸国には軍事力をアピールし、日本に対しては、先の大戦で日本軍が犯した残虐行為を思い起こさせている。

 

「日本はアジアにおけるアメリカの空母」

・日本がロシア、韓国、中国と領有権を争っている対象は実際には副次的な存在で、いくつかの小さな島々にすぎない。しかし、日本の地政学的立場は安穏とはいいがたい。日本は、国力を増し続けている隣の中国と、日本の経済、政治、軍事面のすべてにおいて存在感を誇るアメリカとの間に挟まれているからである。中国は日本がつねに中国の意向を阻止しようとしていると疑っており(ロシアの石油資源をめぐる競争や、北京政府を苛立たせる日本による台湾支持)、日本はアジアにおけるアメリカの空母だと批判する。アメリカが、1945年以来日本が守りつづけてきた慎重な外交姿勢や軍事的立場を変えるように仕向けているだけになおさらである。こうした状況の中で、北朝鮮の核問題については中国も懸念している。

 

歴史と地政学

・1945年からナチズムに関する言及がいっさい禁止されたドイツと異なり、日本は半世紀もの間、ある問題に悩まされつづけている。それは第2次世界大戦中に日本軍が中国で行った残虐行為に関する歴史認識の問題だ。

 

・しかし10年後になると、この南京大虐殺や「従軍慰安婦」といったその他の非道行為を、「完全な捏造」として否定する動きが生まれた。A級戦犯が埋葬されている靖国神社小泉純一郎総理大臣が何度も参拝したことによって、この問題は再燃した。2005年には、日本の小学校で配られるいくつかの歴史教科書に事実を否定する記述がなされていることに対して、中国で大規模な抗議デモが起き、論争はさらに過熱した。

 

・中国政府はこのほかにも、この状況に乗じて、日本が主張する尖閣諸島の領有権異議を唱えた。この尖閣諸島(中国では「釣魚群島」と呼ぶ)周辺には、石油や天然ガス資源の存在が確認されている。

 

 何はともあれ、日中両国はパートナーシップを解消するわけにはいかない。2004年には中国は日本にとって第1の貿易相手国となり、2009年には世界第2の経済大国になっているからである。

 

東日本大震災

・2011年3月11日、巨大地震マグニチュード9)が太平洋にある日本最大の島、本州の東海岸近くで起きた。続いてほぼ直後に大津波が起こり、巨大な波が沿岸に近い福島の町を襲った。時間がなく警報も間に合わずに、2万人以上の人が命を落とした。

 

・日本社会にとってこの惨事の影響は計り知れないものであった。それまで日本人は、大地震の影響をほぼゼロにするために数十年前から構築されてきた地震対策を(そして地質学者や技術者を)信頼しきっていたが、以後東京が激しい地震に襲われる危険が現実化した。

 

・数年前から核エネルギーを告発していた環境保護団体は、大震災以後、かつてないほどどこであれ原子力発電所の禁止を求めるキャンペーンを行なった。ヨーロッパでは、ドイツが遅くとも2022年には原子力発電所をすべて閉鎖することを決定した。風力発電太陽光発電など再生可能エネルギーを開発するまでの間は、代わりに石炭火力発電所によって発電するという。エコロジストたちはこれまで主に化石燃料の焼却で生じる「温室効果」を批判してきたが、いまや原子力を糾弾するようになった。しかしこれは大気の温暖化を防ぐもっとも強力な方法なのである。フランスでは電気の70%が原子力エネルギーによるものだが、原子力計画は鈍り、原子力発電所の安全強化が求められている。