日本は津波による大きな被害をうけるだろう UFOアガルタのシャンバラ 

コンタクティやチャネラーの情報を集めています。森羅万象も!UFOは、人類の歴史が始まって以来、最も重要な現象といわれます。

日本は全領域戦の戦時下にあり、これに対処しなければ日本はあらゆる領域において侵略されるだろう。(1)

 

 

 

(2023/2/4)

 

 

『日本はすでに戦時下にある』

すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル

渡部悦和  ワニ・プラス  2022/1/26

 

 

 

<まえがき>

平和なときにおいても「目にみえない戦い」は進行している

我が国周辺の安全保障関係は世界でもっとも厳しい状況にあると言っても過言ではない

 

・また、北朝鮮は核ミサイルの開発を継続し、その能力は目を見張る進歩を遂げ、やはり日本の脅威になっている。さらにロシアは、ウラジーミル・プーチン大統領が唱える「ロシアの復活」に基づき、米国を中心とした民主主義陣営を敵視する政策を展開している北方領土問題を抱える日本にとってロシアは警戒すべき国家である。

 

つまり、日本周辺には中国、ロシア、北朝鮮という民主主義陣営と対立する世界的にも有名な独裁国家が存在していることになる。

 

・マイケル・ピルズベリーは、現在進行中の中国が仕掛ける戦いについて、「我々はゲームに負けているのかどうかわかっていない。実際、我々はゲームが始まっていることさえ知らないのだ」と表現している。

 ピルズベリーが言っているゲームとは、中国が100年間の屈辱の歴史を晴らし、世界一の覇権国を目指して実施している「100年マラソン」のことで、習近平国家主席が主張する2049年を目標とする、「中華民族の偉大なる復興」の実現と符合する。

 

あらゆる領域が侵略される「全領域戦」の時代

・米国は、現在の国際情勢を称して「大国間の競争の時代」と呼んでいるが、大国とは米国、中国、ロシアのことだ。とくに中国は米国と覇権争いを展開している。米中覇権争いがおこなわれている現在を、ある者は「新冷戦の時代」「第3次世界大戦の時代」「ハイブリッド戦の時代」「超限戦の時代」などと表現している私は現代を「全領域戦の時代」と表現したいと思う。

 

・官庁や民間企業では、システムが不正アクセスされて秘密情報を盗まれ、システム全体を凍結され、その解除のための身代金を要求される事件(ランサムウェア攻撃)が日々報道されている。

 そのような不法なサイバー攻撃には個人や民間組織のみならず、国家レベルの軍事組織が関与しているケースが多い。例えば、中国人民解放軍やロシア軍、とくにロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)は、自らサイバー攻撃をおこなうのみならず、民間のサイバーグループを組織化してサイバー攻撃をさせるケースが増えている。

 

オーストラリアにおける中国の統一戦線工作

中国との戦いがすでに始まっていることを知らない人は多い中国共産党の中央統一戦線工作部(以下、中央統戦部)の工作(統一戦線工作)のことを知っている日本人は少ないと思う。中央統戦部についてはいままで語られることが少なかったからだ。私は中央統戦部と統一戦線工作を多くの人に知ってもらわなければいけないという使命感をもって本書を書いた。

 

・とくに大きかったのは新型コロナの蔓延である。オーストラリア人が

新型コロナを機に中国が仕掛ける「静かな侵略」の脅威に覚醒したのだ。この静かな侵略に対して堂々と戦っているオーストラリアは日本のいいお手本になる。

 

日本におけるトロイの木馬

・日本も統一戦線工作のターゲットになっていることを強調したい。この工作は、日本の政界、経済界、メディア、アカデミア(学会)、中央省庁、芸能界、宗教界、自衛隊、警察などあらゆる分野に浸透している。

 外国資本が自衛隊海上保安庁の基地周辺の不動産や北海道などの広大な土地を買いあさり、日本の団地に中国人が大勢住むようになり、その団地が彼らに占領されかねない状況になっていることなど、工作の例は枚挙にいとまがない。

 

<我々は賢くて強くなければいけない

・以上記述してきたように、我々がいまは平和なときだと思っていても、中国などが仕掛ける「目にみえない戦い」は進行している。このままでは「目にみえない戦い」に気づかないまま敗北してしまう可能性がある。

 中国は、統一戦線工作の国家であり、「超限思考」の国家でもある。

 

・『超限戦』の本質は「目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する」ことを徹底的に主張していることだ。民主主義諸国の基本的な価値観の制限を超え、あらゆる境界を超越する戦いを公然と主張している。

 

・超限思想を信じる国家にとって、日本は鴨がネギを背負った状態の“鴨ネギ”国家だと思う。目的のためには手段を選ばない手強い国に対して、日本はあまりにも無防備だ。

 愚かなことに我が国は非常に多くの安全保障上の制約やタブーを、自ら設けている。日本人はもっと危機感をもたなければいけない。そして、鴨ネギ状態から脱却しなければいけない。

 脅威には目にみえるものと目にみえないものがある。日本人は賢くなければいけないし、強くなければいけない。

 

あらゆる領域が戦いの場となる「全領域戦」の時代

・米国のジョー・バイデン大統領は2021年3月の記者会見で、米中のせめぎ合いは「21世紀における民主主義と専制主義との戦いだ」と表現した。「民主主義」対「専制主義」という構図は、2021年3月18日にアラスカでおこなわれた米中の外交トップ会談でも明確であった。

 

中国があらゆる手段で米国を中心とする民主主義陣営に対抗しようとする際に、米国の同盟国である日本も攻撃の主たるターゲットになっている。だからこそ、「日本は戦時中である」という認識になるのだ

 

・筆者は、『現代戦争論―超「超限戦」』で、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIの軍事利用を中心に現代戦の一端を紹介した。これらの戦いが中国要人の発言にある「あらゆる手段」になるのだ。

 

・全領域戦の特徴は、①あらゆる領域を使用すること、②軍事的手段や非軍事的手段などあらゆる手段を活用すること、③軍事作戦が主として戦時におこなわれるのに対して、全領域戦は平時と戦時を問わずおこなわれること、④いままで平時とおもわれていたときをとくに重視しておこなわれることである。

 

「平時と戦時」の概念の変化

・米陸軍はその作戦構想「多領域作戦」において、期間を競争と紛争のふたつに分けている。つまり、昔でいうところの平時は文字通りの平和なときではなく、競争相手国と競争している期間だと解釈したのだ。この解釈は適切で、中国やロシアはこの競争の期間を重視して情報戦、宇宙戦、サイバー戦などを仕掛けてくる。

 

米海軍はその作戦構想「統合全領域海軍力」において、日々の競争から危機を経て紛争になると考えている。

 

・米空軍はその作戦構想「全領域作戦」において、協力から競争を経て武力紛争になると考えている。

 

・筆者の造語である「全領域戦」は、米国防省や米軍が最近主張している全領域作戦からヒントを得ている。米軍の作戦構想に関しては、前述のように米陸軍が主導する多領域作戦がある。米国防省や米軍は最近、多領域作戦を一歩進めた全領域作戦を提唱しており、その具体化を進めている。

 軍事作戦としての全領域作戦は、米軍を中心とした作戦構想を知るためには米軍の作戦を研究して、その考え方を模倣している。つまり、解放軍の作戦構想を知るためには米軍の作戦構想を知ることが近道になる。

 そして、全領域作戦は軍隊がおこなう軍事作戦であるが、筆者が提案する全領域戦は政府を中心として多くの組織が参加し、あらゆる手段とあらゆる領域を利用しておこなう戦いである。

 

中国が考える現代戦――「超限戦」と中国の現代戦

・習は、中国の夢を実現するために、海洋強国の夢、航空強国の夢、宇宙強国の夢、技術大国の夢、サイバー強国の夢、AI強国の夢など多くの夢を実現すると主張している。つまり、列挙したそれぞれの分野で世界一になるということだ。これらすべての領域で世界一になるという夢は、全領域戦に勝利する決意の表れである。

 

領域(ドメイン)と全領域戦

・中国が一番重視しているのが情報戦だ。通常の民主主義国家の情報戦は、主として軍事作戦に必要な情報活動を意味する。しかし、中国は情報戦を広い概念でとらえていて、解放軍の軍事作戦に寄与する情報活動のみならず、2016年の米国大統領選挙以来有名になった政治戦、影響工作、心理戦、謀略戦、大外宣戦(大対外宣伝戦)などをすべて含むものだと理解すべきであろう。

 解放軍にとっては情報戦が現代戦のもっとも基本となる戦いになる。情報戦を基本として、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などがある。

 

中国の政治戦:統一線工作による「静かな侵略」>

・中国において、その長い歴史のなかで繰り広げられてきた政治戦は、伝統的な戦いである。現代の政治戦は、中国共産党一党独裁体制を維持するために、中共中央統一戦線工作部の工作として実施されているが、最近は習近平主席の意向もあり、国外における工作も重視されている。

 

中国の統一戦線工作

・このなかで中央統戦部は、「秘密主義」「曖昧」「目立たない」と表現されている組織であり、日本人には馴染みの薄い組織だと思われるが、我が国の平和と安定を維持するためにはさけて通れない組織だ。中央統戦部は、中共に対する中国本土の国民、海外の中国人、世界中の広範な華僑コミュニティの忠誠を確保しようとする、中共中央委員会直轄の組織だ。

 

日本における統一戦線工作

日本における工作組織

 ・日本での中央統戦部の活動についてはあまり公表されてこなかったが、その存在自体は日本の公安警察や米国の国防情報局などでもかなり把握されている。

 

日本で懸念される「移民戦」の脅威

・「移民戦」という言葉を知っているだろうかベラルーシアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が移民を利用して、ポートランドなどの隣接国の政情や治安を意図的に不安定にすることを狙っているが、このような戦いのことを「移民戦」という。

 

外国人参政権・外国人住民投票の問題

・在日外国人が増加してくると、次なる問題は外国人参政権投票権の問題だ。

 

突然襲ってくるウイルスと化学兵器との戦い

新型コロナウイルスが2020年以降2年にわたり、世界中で猛威を振るっている。これを「ウイルス兵器を使用したウイルス戦だ」と主張する人もいるが、否定する専門家は多い。いずれにしても、新型コロナのパンデミックは、私が現役の自衛官のときに恐れていた事態であることは確かだ。

 軍事の世界では大量破壊兵器またはNBC兵器という専門用語があるが、これは核兵器生物兵器化学兵器のことだ。

 

新型コロナウイルスをめぐる中国の大問題

武漢で発生した新型コロナについて謝罪もなく情報隠しをする中国

・新型コロナが2019年12月に中国・武漢市で発生してから2年が経過した。この間、世界における新型コロナの感染者数は約2.8億人、死亡者数は538万人(2021年12月23日現在)という未曽有の状況になっている。各国は新型コロナに対して悪戦苦闘しているが、発生源である中国からの謝罪は一切ない。

 新型コロナへの対処は国家の危機管理あるいは国家防衛そのものであり、新型コロナとの戦いはまさにウイルス戦の様相を呈している。

 新型コロナのパンデミックは明らかに武漢市から始まったが、その発生源に関しては明確な答えが出ていない。感染拡大の早い段階から、多くの人や組織が「武漢ウイルス研究所からの流出説」を主張している。

 

新型コロナをめぐる論戦の結論

・新型コロナの起源に関する論戦の最終的な結論は、中国当局武漢での感染発生当初の情報を開示しない限り出てこない。敢えて現時点における私の結論を出すとすれば以下の通りだ。

 

  • 新型コロナは解放軍が関与したウイルス兵器として開発されたものか?

新型コロナは、ウイルス兵器として開発されたものではない可能性が高い

  • 新型コロナは自然由来のものではなく、人工的に作られたものなのか?

新型コロナは、おそらく自然由来(コウモリなどが起源)のもので、人工的に遺伝子操作されたものではない可能性が高い。

 

  • 武漢ウイルス研究所(WIV)から流出したものではないのか?

WIVから流出した可能性を完全に否定することはできない。しかし、WIVから流出したものではなく、コロナウイルスがコウモリから他の動物へと伝染したあと、遺伝子の構成に重大な変化が生じ、ヒトに感染した可能性もある。つまり、「WIVから流出した」と断定することはできない。

 

私の結論は、米国の国家情報長官と国家情報会議が共同でまとめた報告書、ウイルスの専門家の意見を重視している。とくに国家情報長官は米国の16ある情報機関を統括する立場にあり、その結論は重視すべきだと思う。

新型コロナの起源をめぐる議論は、客観的事実が明確でない状況ではポジショントークになりがちである。ポジショントークとは、自分の立ち位置に由来する発言をおこなうことで、自分に有利な状況になることを目的とした発言のことだ。

とくに米中覇権争いにおいて、中国を徹底的に批判したい者は米国のみならず世界中にいるが、それに対して米国の情報機関の冷静さは注目に値する。この点が、中国やロシアなどの権威主義諸国の嘘に満ちた情報機関の主張と大きく違う点だ。

新型コロナのパンデミックを、将来的にウイルス戦として積極的に利用する国家や非国家主体が出現しても私は驚かない。まさかそんなことは起こらないだろうという考えはやめたほうがよい。つねに最悪の事態を想定し、それに備えなければいけない。

 

サイバー戦:サイバー空間を利用した仁義なき戦い

サイバー戦とは

・サイバー戦の明確な定義はないが、本書においては「サイバー戦とは、ある目的達成のために国家や非国家主体が実施するサイバー空間での戦い」と定義する。

 サイバー空間は、インタ―ネット、インタ―ネットに接続されているネットワーク、これらのネットワークに接続されている電子機器が作り出す人工の空間だ。人体で譬えるなら、脳とその他の器官をつなぐ「脳神経系統」と言えるだろう。

 このサイバー空間は、情報通信分野に目を見張る発展をもたらし、インタ―ネットを利用した様々なビジネスを生み出した。それにより経済を発展させ、民間でも軍事においても不可欠な空間になっている。

 一方で、悪意ある者がサイバー空間を悪用し、サイバー犯罪、サイバースパイ活動、重要インフラに対するサイバー攻撃が発生し、世界の安定を脅かす大きなリスクになっている。そしていまやサイバー空間は、陸・海・空・宇宙に次ぐ第五の戦場と呼ばれ、安全保障における重要な空間である。

 

防衛省を例にとると、一日に膨大な数の不正アクセスを受けている。日本に対するサイバー戦でとくに注意しなければいけない国々は中国、北朝鮮、ロシアだ。

 

サイバー戦の三つの要素

・サイバー戦を区分すると、サイバー情報活動、攻撃的なサイバー戦、防御的サイバー戦に分かれる。

 サイバー情報活動には、ふたつの目的がある。第一の目的は、相手のシステムやネットワークに存在する情報を収集し、分析すること、即ち作戦遂行に直接必要な情報を収集・分析することである。

 第二の目的は、相手のシステムそれ自体に関する技術的な情報を収集・分析することだ。

 

・一方、人間がおこなうハッキングは、相手のシステムへの侵入や偵察、プログラムの書き換えやすり替え、情報の窃取、システムダウンやシステムの物理的破壊などの工作をおこなう。

 例えば、敵政府組織や軍のシステムの破壊や混乱、電力や通信、金融、交通などのインフラを機能不全に陥れることができれば、戦う前から圧倒的に有利な状況を作ることができる。

 サイバー空間における防御にはふたつの備えが必要になる

 ひとつ目は、DDos攻撃――攻撃目標に対し、大量のデータや不正なデータを送り付けることで、正常に稼働できない状態に追いこむこと――のようにシステム内部に侵入することなく、直接システムに負荷をかける攻撃への備えだ。

 ふたつ目は、敵が我々のシステムに侵入し、プログラムを書き換え、情報の窃取やシステムダウンをおこなう攻撃への備えだ。

 

最近のランサムウェア攻撃

・世界中でランサムウェア身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃が相次いでいる。

 ランサムウェア攻撃とは、標的型メールなどを利用して端末に侵入し、コンピュータ内のファイルを不正に暗号化したうえで、暗号を解除するための身代金を要求するというものだ。

 サイバーセキュリティの専門家は、事態を悪化の一途をたどっていると警鐘を鳴らしている。

 

ランサムウェア攻撃を回避または被害を局限するための心構え

ランサムウェア攻撃は企業のみならず個人もターゲットになる可能性がある。とくに個人がランサムウェア攻撃をいかにして回避または被害を極力減らせるか、専門家に質問すると異口同音に返ってくる答えが、以下のようなサイバーセキュリティの基本を事前の予防措置として、日ごろから徹底することだという。

⓵データ等のバックアップをこまめに取る。

②OSやソフトウエアの更新を徹底し、セキュリティソフトを導入する。

  • パスワード保護を確実におこなう。
  • 不審なメールを開封しない。
  • 安全なネットワークのみを使用する。

 

ランサムウェア攻撃を受けてしまったら

・不幸にしてランサムウェア攻撃を受けた場合、以下の対処が推奨される。

⓵すぐに切断する

②身代金を支払わない

 

日本における軍事面でのサイバー攻撃の実例

・サイバー空間に「平時」はない。文字通りの「常在戦場」であり、つねにアップデートされた最新技術を駆使した攻撃が続けられている。その目的はただひとつ、政治、経済、軍事などあらゆる面で、対象国より自国の優位を実現することにある。

 

ロシアによる攻撃

・ロシアの場合、実際にサイバー戦の重要性を証明した例がある。2014年にロシアとウクライナクリミア半島の領有権を争った「ウクライナ危機」だ。この紛争は「新時代における戦争の作法」として、各国の軍関係者から注目を集めた。

 クリミア半島の併合を目論むロシアの計画は周到だった。まず、軍事侵攻の7年前にウクライナへのサイバー攻撃を仕掛けた。

 

・当初、彼らはウクライナ国内の官民組織のネットワークのハッキングに着手。至るところにその後の工作・破壊活動を有利にする「バックドアコンピュータへ不正に侵入するための入り口)」を設置し、以降は政府組織や主要メディアのサイトの改竄や変更をくりかえした。

 同時に「Redoctober」「MiniDuke」などのコンピュータウイルスを活用した「アルマゲドン作戦」に着手。これはウクライナ政府や軍の情報を搾取するほか、以降のロシア軍部隊の動きを支援する情報操作や撹乱を企図したものだ。

 いよいよ侵攻を翌年に控えた2013年には、複数のテレビ局や新聞などのメディアとその関係者、反ロシア、親EUの立場の政治家やその支援者のサイトをダウンさせた。

 

かくして2014年2月に侵攻作戦が始まった。親ロシア派武装勢力を装ったロシア特殊作戦軍や、ロシア軍が支給する武器や装備品をもたないことから「国籍不明」と判断され、「リトル・グリーンメン」と呼ばれた覆面兵士の集団――実際にはロシア軍特殊部隊の「スペツナズ」だった――が、半島中央に位置するシンフェローポリ国際空港や地方議会、政府庁舎、複数の軍事基地などの重要拠点を占拠した。

 作戦がスムーズに進んだ最大の理由は、ウクライナ国内のインタ―ネット・エクスチェンジ・ポイントや通信施設はほとんどが無力化されていたからだ。都市機能のマヒだけでなく、ウクライナ軍の通信網も大混乱に陥っていたのである。

 

我が国の「サイバーセキュリティ」に対する甘い認識

・しかし、本書においては「サイバー戦」という用語を重視して使用する。なぜなら、我が国では中国、ロシア、北朝鮮などのサイバー攻撃の脅威を甘くみすぎているからだ。

 

日本のサイバー安全保障の体制

・現実世界の戦いと同様に、サイバー空間でも敵を排除して攻撃を防ぐには、反撃の意志と能力をもつことが不可欠だ。しかし、自衛隊は「防衛出動」や「治安出動」が命じられない限り動けない。ここでも憲法に規定された「専守防衛」が足枷になっているからだ。

 

世界各国のサイバー戦能力比較

・ロシアの大手セキュリティベンダー「ゼクリオン・アナリティックス」によると、各国のサイバー軍の総合力は、1位・米国、2位・中国、3位・英国、4位・ロシア、5位・ドイツ、6位・北朝鮮、7位・フランス、8位・韓国、9位・イスラエル、10位・ポートランドである。日本は北朝鮮より下の11位。

 

・パイプラインへの攻撃が示す通り、一等国の米国でさえサイバー攻撃を完全に防ぐことは難しい。その米国と比べてはるかに劣る、日本の課題はあまりに多い。

 

サイバー空間における将来のリスク

・元NATO軍最高司令官ジェームズ・スタヴリディス大将の著書『2034』(翻訳は『2034米中戦争』二見文庫)は、米中核戦争を扱った小説であり、米国では10万部以上のベストセラーになっている。

『2034』では、米海軍の艦艇37隻が中国海軍に撃沈され、米本土の重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃を受ける。米国はその報復として、中国の湛江(たんこう)市に戦術核攻撃をおこなうというストーリーだが、重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃というシナリオは現実離れしている。さらに『2034』は、サイバー攻撃を過剰に評価している。

 

情報戦、とくに影響工作の主戦場としてのSNS

・SNS時代においては、ソーシャルメディアが世論の形成にますます大きな影響を与える存在になることを認識しなければいけない。私はSNSを多用しているが、SNSは影響工作の主戦場になっているという実感がある。

 

我々はフェイクの時代を生きている

SNSを使った影響工作

・インタ―ネットとSNSの普及により、真実や事実のみならず、偽情報や誤情報も流布され、私たちがそれらに踊らされる事例が数多く発生するようになった。

 

中ロの影響工作とデュープス

・SNSを使っていると、米国の大統領選挙や新型コロナのワクチンをめぐりSNS上で流布されている偽情報を簡単に信用し、その偽情報を自らも拡散する人たちの多さに驚かされる。私はこれらの人たちは、中国やロシアのデュープスではないかと思っている。ここでいうデュープスとは、「明確な意思をもって中国やロシアのために活動しているわけではないが、知らず知らずのうちに中国やロシアに利用されている人々」のことだ。中国やロシアが流す偽情報を信用して、その情報をSNS経由で拡散する人たちがなんと多いことか。

 

米国大統領選挙における影響工作

2016年の米国大統領選挙における影響工作

・影響工作が世界的に有名になったのは、2016年の米国大統領選におけるロシアの影響工作で、「ロシアゲート事件」とか「プロジェクト・ラクタ」と呼ばれている。ロシア参謀本部情報総局(GRU)は、ヒラリー・クリントン候補を落選させる目的で、彼女の選挙戦を不利にする偽情報などをSNSやウィキリークスなどに大量に流布した。

 

2020年の米国大統領選挙における影響工作

・2020年の米大統領選挙に際しても、諸外国による大量のメール送信やSNSなどに偽情報を流すなどの情報工作がなされた。

 

Qアノン信奉者やトランプ支持者による偽情報の流布

・典型的な偽情報のひとつに、「米大統領選挙で大規模な不正があり、じつはトランプが勝利していた」という主張がある。

 このトランプ支持者がらみの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ前大統領自身が「米大統領選で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という虚偽の主張を執拗にくりかえしたからだ。

 

<●Qアノンとは

・中国やロシア以外にも複数の団体や個人が、2020年米大統領選挙に関連してSNSなどを通じて、偽情報を流布し、社会を混乱させた。これらの行為は、団体や個人による影響工作といえるだろう。彼らの代表がQアノンである。Qアノンとは、2017年10月に匿名掲示板「4chan」に政府関係者「Q」を名乗る人物が登場し、米政府の機密だと主張する内容の投稿を始めたことに由来する。アノンは、匿名を意味する「アノニマス」に由来している。「Q」はトランプ政権内にいた者だと私は思っている。

 Qアノンの主張を熱狂的に信じる支持者(熱心な層だけで米国に数十万人)はトランプ支持者と重なる。彼らは「米国や世界はディープ・ステート(DS:世界を操る影の政府)に支配されていて、DSと戦う救世主がトランプだ」という陰謀論を信じている。

 

・このQアノンやトランプ支持者らの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ氏自身が「米大統領選挙で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という根拠に乏しい主張を執拗にくりかえしたからだ。

 

<●QアノンやJアノンが信じた偽情報

・日本にもQアノンの支持者が流布する偽情報を信じ、SNSで活発に偽情報を流す者が多数いるが、彼らはJアノンと呼ばれている。

 

新型コロナをめぐる影響工作

・新型コロナのパンデミックにともない、中国やロシアの「意図的な偽情報の拡散」が世界的な問題になっている。

 さらに問題なのは、中国やロシアの偽情報とまったく同じワクチン陰謀論などをSNS上で拡散する日本人も相当数存在することだ。彼らは、知らず知らずのうちに中国やロシアの偽情報を拡散するデュープスの役割を果たしている。

 

SNSの問題:偽情報や誤情報の流布をいかに防ぐか

・現代は「フェイクの時代」だと私は思っている。2016年の米大統領選挙以降に顕著になった誤情報や偽情報などの有害情報やヘイトスピーチなどのSNS上での氾濫は「ポスト真実」の時代のひとつの表れだ。

 

<●事実は虚偽に負ける ⁉

・情報を受け取る者にも問題がある。人はみたいものをみて、聞きたいものを聞き、読みたいものを読む傾向がある。人々はSNSを通じて事実か否かよりも面白さを重視して情報収集し、それを好んで拡散する。また、すでにもっている先入観に合致する情報を選択的に収集し、拡散する傾向がある。SNSで同じような考えの人とつながることを好み、自分が信じたい情報を好み、好みの情報を流布することにより、フェイクニュースが急速に拡散されていく。

 

<●アテンション・エコノミー(注目経済圏)

・偽情報や誤情報はいかなるメカニズムによって、広がり浸透するのか。それについては「アテンション・エコノミー」の効果が注目されている。フェイスブックやユーチューブなどのビジネスモデルのベースは、人々が閲覧し、クリックすることでコンテンツ提供者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。この構造全体は「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。

 

<●訴訟による賠償請求など

・最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきた。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もある。また、偽情報や誤情報を安易に垂れ流すソーシャルメディアに対する集団訴訟の可能性もあるだろう。

 偽情報の垂れ流しに対する訴訟は、安易な偽情報や誤情報の流布に対する一定の抑止手段になる可能性はある。

 

情報戦に際して個人で対応できること

・SNSには偽情報や誤情報が満ち満ちている。出所の怪しい情報をファクトチェックすることなく簡単に信じている人たちがなんと多いことか。怪しい情報を鵜呑みにする人が、米大統領選挙の陰謀論者になり、同時にワクチンの陰謀論者になっている。

 陰謀論の氾濫は、「誰もが自由に情報発信できること」が招いた危機である。

 

宇宙戦:宇宙平和利用は甘い、宇宙での戦い

「宇宙の平和利用」が通用しない「宇宙は戦場」という現実

米国の宇宙政策

ドナルド・トランプ政権の国家宇宙戦略

・トランプ前大統領が2018年3月に発表した、国家宇宙戦略は、米国が宇宙における覇権を死守することを宣言したものであり、その要点を紹介する。

 

宇宙に関しては、米国の利益を最優先し、米国を強く、競争力があり、偉大な国家にする

・米国の宇宙をめぐる足枷を取り除き、米国が宇宙サービスと技術において世界的なリーダーであり続けるための規制改革を優先する。

宇宙における科学・ビジネス・国家安全保障上の利益を確保することが政権の最優先事項だ。

・米国の繁栄と安全にとって不可欠な宇宙システムの創造と維持において引き続き主導的役割を果たす。宇宙における米国のリーダーシップと成功を確保する。

宇宙分野における「力による平和」を追求する。宇宙への自由なアクセスと宇宙での活動の自由を確保し、米国の安全保障、経済的繁栄、化学的知識を増進する。

・米国のライバルや敵が宇宙を戦闘領域に変えてしまった。宇宙領域に紛争がないことを望むが、それに対応する準備をする。米国と同盟国の国益に反する宇宙空間の脅威を抑止し、対処し、撃退する。

 

 以上で明らかなように、トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」は宇宙にも適用される。明らかに宇宙における覇権を追及しているからだ。

 

電磁波戦:みえない領域での危険な戦い

電磁波について

電磁波の軍事利用

ハバナ症候群

中國人民解放軍の「マイクロ波兵器」

マイクロ波を利用した対人兵器システムは、もともと米国企業が暴動鎮圧用に「非致死性兵器」として開発したもので、米軍はアフガンとの対立で短期間戦地へもちこんだが、使用しなかったとも言われている

 マイクロ波は、電子レンジや携帯電話に利用されることで知られているが、専門家によれば、95ギガヘルツのマイクロ波を照射されると、一瞬で皮膚表層が熱くなり、やけどこそしないものの、皮膚細胞の水分が体内に到達して脳や内臓にダメージを与え、頭脳、吐き気、記憶障害、激しい倦怠感などを引き起こすという。微弱なため、当初は自覚症状がなく、外傷も残さないのが特徴だ。兵器化にあたっては、その出力と条件を研究することが課題だともされる

 指向性エネルギー兵器とは、レーザー、メーザー波、マイクロ波素粒子エネルギー、電子ビーム、音響など、多種にわたるエネルギーを使用して、目標物や人間に対して直接照射し、破壊したり機能を停止させたりする兵器だ。現在も研究開発の段階にあるとはいうものの、技術の進歩と投資の増加により、2027年までに、世界の指向性エネルギー兵器市場は大幅な拡大がみこまれている。

 

電磁パルス(EMP)攻撃

EMP攻撃とは

EMP攻撃とは、核爆発などにより強力な電磁波(ガンマ線など)を発生させることで、電子機器に過負荷をかけ、誤作動を発生させ、破壊することを目的とした攻撃である。EMP攻撃は、パソコン、電車、飛行機、自動車、インフラなど、対象地域の全ての電子機器に致命的な打撃をもたらす。

 核EMP攻撃は、高高度で核爆発をおこなうことにより、地上で人体に有害な影響――爆風、熱、降下物による被害――は発生しないが、電子機器に致命的な被害を引き起こすため、敵の防衛力を低下させる比較的簡単な手段であるとみなされている。このため、中国、ロシアなどは、核EMP攻撃は核攻撃ではないと主張している点が厄介である。

 

西側は北朝鮮の核ミサイルの実験やEMPの脅威を軽視してきた

EMP攻撃シナリオ

プライ博士は、2020年6月18日の論考のなかで、「(世界は武漢ウイルスで右往左往している場合ではない。というのも、)中国は長年、EMP攻撃を計画してきた。中国のEMP攻撃こそ脅威なのだ」と主張している。

 

北朝鮮による日本と韓国に対するEMP攻撃シナリオ

北朝鮮は自らが世界の大国であることを証明するために、国際法を無視して核ミサイルをテストし、配備している。北朝鮮の戦略は、核戦争の恐怖を高め、米国とその同盟国を従属させるために、「核による恫喝」を通じて韓国と日本に対する米国の安全保障協力関係を断つことだ。

  • 東京上空で核爆発を引き起こす
  • EMP影響圏は北朝鮮には及ばない
  • 中国は米国の空母打撃群に対しEMP攻撃をおこなう

 

日本よ、賢くて強靭な国家を目指せ

強靭な国家・日本を目指せ

・「超限戦」の主張は、突き詰めれば、国家もマフィアやテロリストたちと同じ論理で行動しなさいということだ。しかし、国家が「超限戦」の教えを実践することにはリスクが大きすぎ、実行すべきではない。一方、中国には民主主義国家のような倫理や法の限界などない。超限戦は日本人をはじめとする民主主義国家がしてはいけない戦いなのだ。

 

日本における機微技術管理を強化せよ

中国などの各種工作に有効に対処するのは難しい状況だ。「スパイ天国日本」の汚名を返上すべきだ。

 そのためには、憲法第9条の改正とスパイ防止法の制定は急務であり、日本の膨張組織の充実、サイバー安全保障体制の確立も急務である。さらに、米国の輸出管理や投資管理を参考にした法令の整備も急務になっている。

 

スパイ防止法の制定と諜報機関の充実を急げ

・我が国はスパイ天国だと言われている。我が国にはスパイを取り締まる法律「スパイ防止法」がないからだ。スパイ防止法がないということはスパイ罪の規定がないということである。

 我が国では、国家の重要な情報や企業等の情報が不法に盗まれたとしても、その行為をスパイ罪で罰することができない。スパイ行為をスパイ罪で罰することができない稀有な国が日本なのだ。

 

・日本以外の国では死刑や無期懲役に処せられるほどの重大犯罪であるスパイ活動を、日本では出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法などの違反、窃盗罪、建造物侵入などの刑の軽い特別法や一般刑法でしか取り締まれず、事実上、野放し状態なのだ。

 

日本の諜報機関の充実を

・世界各国では、国外でも諜報活動を実施する米国のCIA、中国のMSS、英国のSIS、ロシアのFSB、ドイツのBND、イスラエルモサドなどの有名な対外諜報機関が存在するが、日本には国外で諜報活動を実施する機関は存在しない。

 

日本政治の抜本的な改革が必要だ

・かつては「日本の経済は一流、政治は三流」と言われてきたが、一流と言われた経済も三流の政治の影響で二流の経済になる可能性がある。かつては政治が三流であっても、一流の日本企業が頑張って一流の経済を実現していた。しかし、失われた30年を経て、一流の企業が諸外国の企業に敗北するケースがだんだん増えてきている。電機産業や半導体産業が典型的である。

 米国や中国をはじめとして主要国のなかで成長力が最低なのが日本である。ひとりあたりの国民実質所得が低下しているのも日本だけだ。失われた30年の責任の相当の部分は三流の政治にある

 

・「多くの日本の政治家は本来の意味の政治家ではなく“政治屋”だ」と言う人がいる。私は「政治屋は次の選挙のみを考えるが、真の政治家は日本の将来を考える」と思っているが、日本の将来よりも自らの生活を優先する政治屋がなんと多いことか。そういう政治屋が中国のハニートラップやマネートラップに引っかかり、中国の代弁者になるのだ

 とくに政権与党の議員は奮起しなければいけない。議員一人ひとりが、厳しい国際環境のなかで日本が存在感のある国家として生き残るために何をしなければいけないかに集中すべきである。

 

親中の政権与党・公明党の問題

中国共産党の機関紙である『人民日報』には、いかに公明党が親中であるか、いかに日本政府を親中に導いているかを記述した論考が掲載されている。

 

統一戦工作や影響工作の実態を知り効果的に対処せよ

・北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている。

 

中国の超限戦に対して全領域戦で勝利せよ

「超限戦の中国」に「専守防衛の日本」は勝てるか

・国際政治において、大国関係は基本的にゼロサムゲームである。一方が勝てば、他方が負けるという厳しい現実がある。日本人独特のガラパゴス的な発想を捨て、軍事や安全保障の要素をつねに取り入れた国際標準の発想をしないと、憲法前文に記述されている<国際社会における名誉ある地位>は確保できない。

 

日本は現代戦のすべての分野で米中に比し出遅れている

・米中ロは力を信奉する国々だ。この三国と比較すると、日本の現代戦への取り組みは遅れている。とくに米中に対しては、すべての分野において、出遅れていると言わざるを得ない。

 

ここで強調したいのは、現代戦における日本の出遅れの原因は多岐にわたるが、最大の原因は憲法第9条にあるということだ。

 

これらのドメインにおける戦いでは「先手必勝」の原則が成立する。なぜなら、攻撃する者は、いつどこを攻撃するかについて、主導権を持っているからだ。さらに、衛星が破壊される例が典型だが、攻撃による損害の早期回復が困難で、負けっぱなしになってしまう。だから、「先手必勝」なのだ。

 また、防御のみの戦いでは勝てないし、防御的な手段には膨大な費用とマンパワーが必要だ。なぜなら、受動的な立場にある防御側は、すべての攻撃に備えなければいけないからだ

 現代戦における日本の出遅れを取り戻し、中国の超限戦に対抗するためには、まず第9条を改正するか、少なくとも専守防衛などの過度に抑制的な政策を見直すべきだ。

 なぜ憲法改正が必要か。憲法が国家の根幹をなすものだからである。その影響は多分野にわたるからだ。

 

最先端技術開発のために人材および予算を確保せよ

・予算なくしてまっとうなAIの軍事適用などできない。思い切った予算の増額が必要だ。現在の防衛費はGDPの約1%枠内だが、中国や北朝鮮の脅威を勘案すると、AIのみならず防衛省の事業のほとんどの分野で予算不足が指摘されている。

 防衛費の目標については、自民党の安全保障調査会が2018年5月に提言したGDP2%(NATOの目標値でもある)が基準になる。

 

新たな「国家安全保障戦略」への提言

・だからといって、全領域戦を無視するわけにはいかない。中国やロシアは全領域戦を日本に対して仕掛けてくるからだ。

 日本は全領域戦の戦時下にあり、これに対処しなければ日本はあらゆる領域において侵略されるだろう。これが本書でもっとも言いたかったことだ。

 

あとがき

全領域戦の視点が重要

・くりかえしになるが、全領域戦であるという観点で世の中の動きを観察することが有益だと思う。

 最近、我が国において中国の統一戦線工作に関連した書籍が出版されるようになったことは喜ばしい。それらを読むことによって日本への工作の一部を理解することができると思う。

 

全領域戦を仕掛けられている日本は危機的な状況にある。中国の全領域戦に対処できていないのだ

 

日本はオーストラリアと台湾を参考にすべきだ

・中国の日本への工作にいかに対処するかを考える際に非常に参考になる国がオーストラリアと台湾だ。両国は中国から激しい工作を受けているが、その工作に耐えている典型的な国家である。

 

・中国が核心的利益と主張する台湾に対しても中国の全領域戦がおこなわれている。習近平主席は2019年1月の演説で、①解放軍による軍事的圧力、②対外的な台湾の離脱、③浸透工作と政治体制の転覆、④中央統一戦線工作部との連携、⑤サイバー活動と偽情報の拡大、という五つの対台湾工作を重視するとした。

 

日本としては、台湾の状況を注視しながら、そこから多くの教訓を得て、中国の対日工作を撃退する資とすべきであろう

 

真珠湾攻撃から80年:日本は相変わらず国家戦略なき国家

・この日中の違いは何なのか。私は国家として戦略をもっているか否かの違いだと思っている。

 中国の超限戦は邪道ではあるが、厳しい国際社会を生き延びていくひとつの戦略だと思う。しかし、日本には超限戦に匹敵するようなしたたかな国家戦略がない。

 

・本文でもふれた書籍『超限戦』では、<21世紀の戦争は、すべての境界と限度を超えた戦争で、これを超限戦と呼ぶ。この様な戦争であらゆる領域が戦場となりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人という境界がなくなる。>との主張がなされている。 

 これは私が主張する全領域戦の考えと合致する。

 

・日本人は、「平和がノーマルで戦争がアブノーマルだ」と思っているが、世界的には「平和がアブノーマルで戦争がノーマルだ」と思っている人たちが決して少なくない。

 

・しかし、「超限戦」では、<敵国に全く気づかれない状況下で、相手の金融市場を奇襲して、金融危機を起こした後、相手のコンピューターシステムに事前に潜ませておいたウイルスやハッカー分隊が同時に敵のネットワークに攻撃を仕掛け、民間の電力網や交通管制網、金融取引ネット、電気通信網、マスメディア・ネットワークを全面的な麻痺状態に陥れ、社会の恐怖、街頭の騒乱、政府の危機を誘発させる、そして最後に大軍が国境を乗り越え、軍事手段の運用を逐次エスカレートさせて、敵に城下の盟の調印を迫る。>と主張しているのだ。

 まずは、この日本と中国のギャップを認識し、全領域戦で戦いを仕かける相手に対していかに対処するかを真剣に検討すべきだ。

 

 

 

 

(2022/5/26)

 

 

『戦争の常識・非常識』

戦争をしたがる文民、したくない軍人

田母神俊雄  ビジネス社  2015/8/22

 

 

 

文民統制のほんとうの意味はご存知だろうか?

日本人が知らない軍事の常識・非常識35

「中国脅威論」も9割引して考えるのが正解!

 

日本の危機管理体制

・日本人には、とにかく軍隊の行動に制約をかけよう、軍が動かなければ戦争にならないし国民が不幸にならない、だから軍事について考えたり、論じたりすることも避けようという思い込みがあります

 しかし、こうした思い込みは国民を不幸から遠ざけるどころか、タブーを増やし、軍事について考える機会を減らし、誤った軍事知識の横行を許し、結局は日本人を危険に晒しているのが現実なのです。

 

戦争のできない軍事力は抑止力とならない

戦争ができる国は、戦争に巻き込まれない。戦争に巻き込まれるのは、戦争ができない国である。

 

同様に、「核武装するよりは核武装しないほうがより国は安全である」というのも、日本以外の国では絶対に通らない非常識です。

 軍事力が強ければ、他国は戦争を挑んできません。プロレスラーに殴りかかろうとは思わないのと同じことです。だから、軍事力が強いほうが国は安全である。したがって、核兵器はもっているほうが安全に決まっているだろう、というのがごく普通の考え方です。

 

<【常識①】軍事的に強い国は、戦争に巻き込まれない。これを「抑止力」という。>

 

核武装国同士は戦争ができない

核兵器についていえば、もうひとつ日本では非常識がまかり通っています。それは、核兵器が「攻撃兵器」だという見方です。

 

核兵器はあまりにも破壊力が強大です。たとえ1発でも食らえば、その被害に耐えられる国家はどこにもありません

 つまり、核兵器を使った戦争には勝者はいない。だから核武装国同士はけっして戦争ができないわけです。撃てば必ず相手も撃ち返してきて、両者が負けることになるからです。こんな愚かな戦争を仕掛ける指導者はいません。

撃てるものなら撃ってみろ。必ず撃ち返すぞ」とお互いに牽制しあって戦争を抑止する。その意味で、核兵器は徹底して防御用の兵器なのです。

 

<【常識②】核兵器は徹底的に防御用の兵器である。>

 

総力戦がなくなった時代

核戦争にかぎらず、国を挙げて戦争すること、つまり総力戦を国家同士が戦うことは、これからの時代にはまずありえません。先進国は世論の反発を恐れて国民が死ぬことを非常に嫌いますし、総力戦の犠牲はあまりにも大きすぎるからです。

 また、軍事力を強化するとすぐに「徴兵制が復活して若者が死ぬことになる」と警戒する人がいますが、これも時代錯誤としか言いようのない主張です。

 世界の軍隊は、徴兵制から志願制へ、という流れが圧倒的になっています。

 

・ところが、中国では一人っ子政策を長く続けてきましたし、年金制度も生活保護制度もないので親は子供の世話になるしかない。すると、まともな子供は絶対に軍にとられたくない、と親は考えます。結局、あまり期待されていない若者が「お前、行ってこい」ということで選ばれる。だから中国の兵隊は3分の1ぐらいは使いものにならないのが実態です。

 

<【常識③】徴兵制の軍隊は弱く、志願制の軍隊は強い。>

 

文民統制の本当の意味は?

・というのも、文民統制シビリアンコントロールとは結局「戦争をやるかやらないかの判断を誰がするか」というだけのことだからです。

 戦争を始める決断は軍がやるのではなく、政治がする。そして、戦争をやめるときにも、「もうやめろ」と命じるのはやっぱり政治であって、軍ではない。軍は戦争をやれと言われれば一生懸命に戦い、やめろと言われれば即座にやめる。これがシビリアン・コントロールで、当たり前の話でしかありません。

 

・これは、日本の戦後教育のなかで、「軍部の独走によって戦争になった」といった教育がなされているせいもあるのでしょう。しかし、大東亜戦争でも、宣戦布告を行って戦争を始めたのは日本の政府です。シビリアンコントロールは旧軍にも働いていたのです。

 

・実際に歴史を見るならば、戦争をやりたがるのは軍人ではなく、文民であることのほうが圧倒的に多いことがわかります。

 戦前、日本が支那事変の泥沼にはまっていったのは近衛文麿首相の判断のせいです。1937年に南京が陥落した時点で、当時の陸海軍のトップ、陸軍参謀総長と海軍軍令部長両方とも宮様だったので、実際には軍人であるナンバー2)は「戦争をやめてくれ」と近衛首相に哀願をしています。北からソ連の脅威が迫っているのに、中国と関わり合っている暇はないという合理的な判断です。

 けれども、近衛首相は「それでは中国になめられる」という論理で対中戦争を強行したのです。

 

・少し考えればわかることですが、軍人は戦争をやりたがりません。当たり前です。戦争になれば自分が死ぬかもしれない。自分の大事な部下が死ぬかもしれない。そんなことを好き好んでやりたがるわけがないのです。

 軍人はもっとも戦争をしたがらない人びとであり、安全なところにいる文民が軍人を使って戦争をしたがる。

 

先ほど日本の戦後教育が軍人を悪者にした、と言いました。これは、さらにさかのぼってみると、大東亜戦争後の東京裁判で、アメリカが日本を分断する政策として「指導者のあの軍人たちが悪かった」というプロパガンダを広めたことが原因でしょう。

 

<【常識④】戦争をしたがらないのが軍人、したがるのが文民である。

 

軍隊の行動はポジティブリストからネガティブリストへ

・これがなにを意味するかというと、自衛隊は国内法上根拠法令がなければなにもできないということ。なにもしてはいけない、というのが原則で、「こういうことをしてよい」という根拠規定(ポジティブリスト)が定められた場合だけ、例外的に自衛のための行動ができるだけ、ということです。

 

・有事の際、相手国はネガティブリストで動く。すなわち、条約と慣習法の集合体であるところの国際法が禁止していること以外はあらゆる手段を用いてくる。

 

<【常識⑤】根拠規定(ポジティブリスト)で動く軍隊は役に立たない。

 

日本を軍事的に自立させずに経済支配をするアメリカの戦略

・日本が防衛出動発令までは集団的自衛権はおろか個別的自衛権さえ行使できない現状では、なにか事が起きないように日米安保アメリカの抑止力に期待するしかありません。すなわちアメリカに守ってもらっている状況なのです。

 

<【常識⑥】武器輸出解禁は、日本が自立するために必要な政策である。

 

核の傘」はどこまであてになるのか?>

国際社会というものは、本当に腹黒で、ダブルスタンダードがまかり通っている熾烈な社会です。どの国も自分の国が儲かればいいと考えていて、その点はアメリカでもロシアでも中国でもみな一緒です。

 

・前にも述べたように、核兵器はあくまでも防御のための武器であり、抑止力でしかありません。

 

・「核の傘」も日米安保条約も、あくまで抑止力でしかないのです。だから日本は、一歩ずつ「自分の国は自分で守る」という体制に近づいていくしかない。そのことを日本人は自覚しなければいけないのです。

 

【常識⑦】「腹黒」な国際社会で生き残るには、軍事的自立は不可欠である。

 

日本をめぐる国際関係の常識

ウクライナで見えてきたもの

2014年3月の、ロシアによるクリミアの併合は、一度は終わったかに見えた東西冷戦の新たな始まりを画すものでした。

 日本ではあまり報道されませんでしたが、現在のウクライナ暫定政権は、2010年に選挙で選ばれたヤヌコビッチ大統領をクーデターで倒して権力を掌握したものです。つまり、民主的な手続きをふんでつくられたものではなく、なんら正当性をもっていません。

 その暫定政権が、ウクライナ憲法上の手続きを無視してクリミアの編入を決めたロシアを非難している構図ですが、果たしてそんな資格があるのでしょうか。どっちもどっちだと言わざるをえません。

 

・そのアメリカも、併合から1年が経ってもロシアに対する効果的な「制裁」はできていません。できるわけがないのです。ロシア自身が常任理事国である国連安保理では制裁を決議できないのはもちろん、実力的に見ても核武装国に対する軍事攻撃はありえないのは第1章で見た通りです。あらためて、核兵器は究極の戦争抑止兵器であることがよくわかるでしょう。

 一方では、今回のロシアの動きを見て、「帝国主義が復活する」などと言っている人も見受けられますが、そこまでいくとは私は考えません。

 国際社会がここまで緊密につながるようになり、情報が瞬時に世界を駆け巡る時代において、かつてのような大規模な侵略はほぼ不可能です

大きな動きをしようとすれば、それだけ露見しやすくなる。昼に動けば夕方までにはすべてが世界に報じられてしまう時代です。

 新たな冷戦がどのようなものかは、こうした前提のもとで見ていかなくてはなりません。

 

<【常識⑧】グローバル化、情報化時代にかつてのような「侵略戦争」「帝国主義」は存在しえない。>

 

中国の軍事力はアメリカに迫りつつある?

・現在の世界情勢について、しばしば言われるのが「米中2軍事超大国」ということです。20年以上にわたって軍拡を続けた中国は、いまやアメリカに匹敵する実力を身につけつつある、というわけです。これはまったくの誤りです。軍事を知らない素人の誤解にすぎません。アメリカを10とすれば中国は1にも満たないでしょう。それくらい、アメリカの軍事力は圧倒的なのです。

 

<【常識⑨】「中国脅威論」は9割引きしてみればちょうどいい。>

 

アメリカが本当に恐れていることは

・では、アメリカが本当に警戒しているのはなにかと言えば、もちろんロシアです。軍事力で言えば、ロシアは中国とは比較にならないほどの脅威であることは言うまでもありません。

 

・このことに限らず、軍事においては「常に本当のことを言う」という正直な情報発信の仕方は得策ではありません。

 ですから、中国の「脅威」を言い立てるアメリカのように、自分たちに有利な情報を流す、そのためにウソもつくのは常識なわけです。

 それに加えて、もし本当のことしか言わなければ、相手方に情報収集能力を推測されてしまいます。自軍の情報収集能力を隠すためにも、時にはわかっていてもわからないふりをしなければいけない。また、わかってないこともわかっているような顔をしなければならないのです。

 

<【常識⑩】わざわざ「脅威」を否定する軍人はいない。予算を削られるからである。

 

「敵」と共同演習をする意味

・2014年のリムパックに中国を招待したアメリカの目的はいろいろあるでしょうが、最大の狙いは中国の情報を取ることです。

 

<【常識⑪】情報を取るためには、ある程度情報を取られることもやむをえない。>

 

韓国の実力と北朝鮮の存在価値

・おそらく韓国軍は、北朝鮮軍との戦いには問題なく勝てるはずです。

 

・ただ、北朝鮮が駄々っ子のように振る舞い、時々ミサイルを発射することで、日本は防衛力の整備をやりやすくなります。

 

<【常識⑫】現代戦を左右するのは兵器の能力。特に、空と海では決定的。

 

自衛隊はどこまで闘えるか

「実力」は安易に語れない

・情報システムや戦闘機の性能を見れば、中国軍は「脅威」とはほど遠いのです。では、航空自衛隊と中国空軍の「どちらが強いか」という問いに答えるならば、くわしく前提条件を設定しなければいけません。実際の戦闘は、特定の条件下で起こるものだからです。

 

・はっきり言えば、防衛の現場にいる人間でなくては、本当のところはわからない。

 

<【常識⑬】軍事の「専門家」の多くは、現実の戦闘を知らない。>

 

スクランブルで鍛えられた空自の防衛力

・結論から言うと、敵の侵入に対して即応する、という守りの実力についていえば、航空自衛隊は世界一の水準です。

 

<【常識⑭】領空を守ることに関しては、航空自衛隊の実力は世界でトップレベルである。>

 

中国軍に「勝てない」と思わせる自衛隊の実力

・こうした実力の差は、中国の軍人たちは当然わかっています。実際に海上自衛隊と総力戦で戦えばまず負けると中国海軍の軍人たちは把握しているのです。だから、本気で戦争を仕掛けるつもりはない。

 

<【常識⑮】軍人こそが、自軍と相手の実力をもっとも正確に分析している。だから軍人は暴走しない。暴走するのは常に文官。

 

自衛隊の「強さ」はアメリカ次第

自衛隊は、米軍の友軍として行動するときは相当強い。しかし、仮に米軍と敵対することになると、これまで述べてきたような優れた能力はほとんど発揮できなくなってしまいます。

 

このように、ソフトウェアの暗号をつくっているのはアメリカなのですから、基本的にはアメリカにしか中身はわからない

 

・日本の自衛隊が使っているGPS端末は、言うまでもなくアメリカのシステムに依存しています。もしもアメリカがGPSのコードを変えれば、その瞬間から使い物にならなくなるわけです。

 

・長い間、「武器輸出三原則」によって、「輸入する分にはいくらでもしていいが、武器を売るのはだめだ」という方針をとってきた日本は、自ら首を絞めているようなものでした。

 

<【常識⑯】アメリカはいつでも自衛隊を無力化できる。解決策は武器輸出の解禁しかない。>

 

中国はなにを狙っているのか――シミュレーション・尖閣

中国の「戦争準備」の真意とは

つまり、日本と貿易をやめた途端に中国経済はやっていけなくなってしまう。だから、戦争になっては困るわけです。その意味では、日本は中国の首根っこを押さえているようなものです。

 このように、軍事的に考えても、経済的に考えても、中国が日本と戦争をすることはできないわけです。

 

<【常識⑰】「戦争の準備」を宣言することは、戦う気がない証拠である。>

 

中国軍に尖閣を攻める能力があるのか

・中国はいまのところ、日本と戦争をする気はまったくない。その準備も進めていない。

 

・つまり、中国空軍機は、たとえ撃墜されなかったとしても、燃料切れで東シナ海に落ちてしまうのです。

 

・ただでさえ、中国空軍はまだ組織だった行動をとる訓練ができていません。

 

<【常識⑱】現状の中国空軍には、尖閣で制空権を取る能力はない。>

 

ロシアで見たスホイ27の実力

・また、中国空軍の最新戦闘機であるスホイ27の実力にも疑問符がつきます。

 

・そこで、なにも映っていないスコープを見るしかなかったのですが、そのときに感じたのはスコープの小ささです。それは、航空自衛隊のF15のスコープと比べても明らかに小さかった。率直に言って、必要なデジタルデータを全部表示するのは難しいのではないかと感じたのです。

 

これが現在の空中戦なのですが、いまだに無線で「右行け」「左行け」「高度を上げろ」「下げろ」と指示するような訓練をしているのが中国空軍ですこちらから無線の電波に妨害をかければ、一発で無力化します。この点でも、中国の実力はまだまだ、ということがわかります。

 

<【常識⑲】現代の兵器は「情報端末」でもある。この視点から見れば、実力は見破れる。>

 

自衛隊がどうやって軍事的なプレゼンスを出すか?

・このように、尖閣を中国は攻撃できるのか、と考えると、まず最初の航空優勢を取ることが中国空軍にとっては不可能だということがわかります。

 

<【常識⑳】軍事的プレゼンスをしっかりと見せることが、戦争を防ぐ。

 

竹島はなぜ、どうやって韓国が占有したのか?

戦って国を守る、という軍事的プレゼンスを明確に打ち出す。これを怠ったために、最悪の結果となってしまった前例があります。韓国に実効支配されている竹島です。

 

<【常識㉑】「不測の事態」を恐れる思考こそが、戦争を引き起こす。>

 

中国が仕掛ける「情報戦」

・そして、それを真に受けて「中国脅威論」を唱える、あるいは大人の対応、冷静な対応を唱える日本の評論家や政治家は、残念ですが中国との情報戦にすでに敗北しているのです。

 

<【常識㉒】平時でも情報戦は行われている。情報戦で遅れをとれば、戦わずして負けることもありうる。

 

情報戦としての「防空識別圏

・2013年11月に「東シナ海上空に防空識別圏を設定した」と発表したのも、こうした情報攻勢の典型例でした。

 

そもそも、防空識別圏とは自国の空軍に向けた規定です。領空侵犯されないためにはこの辺から識別しなければいけない、ということで自国の空軍に向けて言っているだけの話なのです。言ってみれば「国内法」で、それを決めたからといって外国に対し影響を与えることはできません。これが現在の国際法なのです。

 

<【常識㉓】防空識別圏は、どこに設定しようと、その国の勝手である。

 

まがいものの軍事知識に騙されるな

自衛隊だけが知る真実の軍事情報

・現代の戦争は高度な技術の戦いであり、防衛の現場では大量の情報が取り扱われています。しかも、それは普通に集められるような情報ではなく、特別な技術と体制があってはじめて収集・分析できる情報です。

したがって、正しい軍事情報を得られるのは、我が国では自衛隊だけであると言ってよいでしょう。

 

<Q① 旧ソ連を仮想敵国とした日本の防衛は時代遅れ」は本当か?

・だから、日本の防衛が、いまでもロシアを仮想敵としていることはなにも間違っていないのです。ロシアに対して備えることで、中国にも充分対応できるのです。

 

<【常識㉔】真に警戒すべき仮想敵は、騒いでいる国ではない。力をもった国である。>

 

<Q② 「米軍あっての自衛隊。単独ではなにもできない」は本当か?

・結論から言うと、嘆かわしいことですが、その通りなのです。

 

現代戦の帰趨を決するのはソフトウェアで、そのコードはすべてアメリカが握っているわけですから

 

・2014年には、CIAがドイツのメルケル首相を盗聴していたことが問題になりました。このことからもよくわかるのは、アメリカはたとえ同盟国であろうと、徹底的な情報収集をする国です。つまり、根本的には同盟国を信用していない。このことは絶対に忘れてはいけません。

 

<【常識㉕】アメリカは、同盟国を信用していない。>

 

<Q③ 「日本は独力で尖閣諸島を守れない」のか?

・日本は独力で尖閣諸島を守るだけの実力をもっている。このことはすでに明らかでしょう。

 

<【常識㉖】防衛力=能力×国を守る意思

 

<Q④ 自衛隊は「継戦能力」が弱点なのか?

・継戦能力が勝敗を決するほどの意味をもつのは、国同士が総力を挙げて、相手の国を徹底的に破壊するまで戦うような「総力戦」においてです。

 

<【常識㉗】現代の戦争において、「継戦能力」の優先順位はさほど高くない。

 

<Q⑤ 「軍事力ランキング」はどこまで信用できる?

・しかし、こうしたスタティックな軍事力を比較したところで、強さの比較にはなりえないことはもうおわかりでしょう。

 

<【常識㉘】「軍事力ランキング」はお遊びか情報操作の一環である。>

 

<Q➅ 正しい軍事知識の学び方とは?

そのためには、自衛隊の高官を務め、退職後10年以内ぐらいの人の話を聞くことが有効であると思います。

 

<【常識㉙】軍事のことは軍人に聞くべし。>

 

戦後レジーム」の正体

日本の地政学的現実

・経済の相互依存関係が強まり、情報が一瞬にして世界を駆け巡る現代においては、あからさまに武力に訴えるという手段は使いづらい。

 

<【常識㉚】世界地図をひっくり返して見れば、日本の置かれている現実がわかる。

 

アメリカは中国になにもできない

・現在では、アメリカは中国の脅威をしきりに煽っていますが、アメリカと中国の現実の軍事力の差となると、すでに述べたように10対1ぐらいの大差がつきます。勝負にならないと言っていいでしょう。しかもこれは、中国が20年以上2桁のパーセント以上の軍拡を続けたにもかかわらずです。

 それでもアメリカが中国の脅威をしきりに訴えるのは、これ以上軍事費を減らすわけにはいかない事情があるからです。

 アメリカの軍人たちは、実は中国の脅威などまったく感じていないはずですが、彼らは財政状況の悪化による軍事費の削減に脅かされています。

 

ウクライナの件でも、結局、アメリカは動けませんでした。ロシアは核武装国であり、アメリカとしてもまさか戦争をするわけにはいかないからです。

 

・幸いにして、いまはまだ中国の能力が不充分なのですから、日本はいまのうちに軍事力を整備しなくてはいけません。

 それは当然のこととして、もうひとつ、ぜひ考えなければいけないのは核武装です。核兵器は徹底的に防御用の兵器です。核の一撃を受けて大丈夫な国などありませんし、核攻撃をすれば必ず核による反撃を受けることになるわけですから、核戦争に勝者はいないのです。だから核戦争は誰もしようとはしません。

 けれども、核武装をしたがる国が多いのはなぜなのか。言うまでもなく、核武装している国が国際政治を動かしているという現実があるからです。

 

<【常識㉛】国際社会のルールを決めているのは核武装国。一流国とは核武装国のこと。これが現実である。>

 

「改革」という名の第二の敗戦

・それは、具体的にはアメリカからつきつけられる「改革」の要求として表れました。1989~1990年の日米構造協議、その後1994年から2008年まで毎年行われた「年次改革要望書」の交換などがその典型例です。

 

小泉内閣時代の郵政民営化をはじめとする「改革」は、そのひとつの頂点だったと言えるでしょう。

 しかし、これらの「改革」のおかげで、少しでも日本は良くなったのでしょうか。構造改革をして日本はいいほうに変わった」と言えるものがひとつぐらいあるのでしょうか。なにもありません。結局は悪くなっているだけです

 

要するに、これらの「改革」なるものは、「改革」という名の日本ぶち壊しでしかなかった。日本政府はアメリカの要求に基づいて、国の弱体化をしてきたというのがこの二十数年なのですみずから弱体化して、世界の経済競争に勝てるわけがありません。

 

<【常識㉜】「失われた20年」とは、アメリカによる日本弱体化計画にほかならない。>

 

アメリカの基本方針はdivide and conquer

アメリカ外交の基本方針は分割統治divide and conquerです。

 

・お人よしな日本人の感覚からするとずいぶんと腹黒い策略のように見えるかもしれませんが、本来、外交戦略で自国、相手国とは別の国をカウンターパワーとして使うのは当たり前です。

 

<【常識㉝】外交交渉では自国、相手国のほかに、カウンターパワーとなる第三国をうまく使うべし。>

 

安倍政権の右にしっかりした柱が必要

・日本の政治家は、大きく2つに分けることができます。親中派の政治家と、これに対する保守派といわれる政治家です。

 しかしこの、保守派といわれる政治家の大半は、実はアメリカ従属派にほかなりません。嘆かわしいことに、日本には、日本のことを心底考える「日本派」の政治家がほとんどいないわけです。

 この状況を変えるには、「日本派」の政治家が集まって政党ができ、一定の議席を占めるようにならなくてはいけないでしょう。

 

<【常識㉞】保守政治家はいても、「日本派」の政治家はいない。>

 

本気で「戦後レジームからの脱却」を目指すために

・安倍首相といえば、その就任以前から、「戦後レジームからの脱却」を旗印に掲げています。

 

・結局、日本がここまで弱体化してしまったのは、国のあり方を自分で決められなくなってしまったのは、要するにいままでのリーダーがダメだったからです。

 どうダメかと言えば、自分がトラブルに巻き込まれないことを最優先していたということです。

 

・戦争で勝敗が決着すると、戦後秩序をつくるのは当然ながら戦勝国です。

 

<【常識㉟】自分を守ることを第一に考えるリーダーでは、国を守ることはできない。

 

日本は侵略国家であったのか

アメリカ合衆国軍隊は日米安全保障条約により日本国内に駐留している。これをアメリカによる日本侵略とは言わない。2国間で合意された条約に基づいているからである。我が国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したと言われるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留も条約に基づいたものであることは意外に知られていない。日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。

 

自分の国は自分で守らないと長期的に損をするのです。>

・しかもいざとなったらアメリカが日本を命懸けで守ってくれるかといえば、それは極めて確率が低いのです。日米安保は日本に対する侵略を抑止するためのものではあるが、万が一抑止が破綻した場合に機能する確率は極めてゼロに近いと私は思っています。

 

・国際社会とは徹底して腹黒なものだということがわかります。アメリカが日本を守ってくれるというのは幻想にすぎません。

 とはいえ、正面から日本の独立を唱え、アメリカとぶつかると日本の政治家は必ず潰されるというのは歴史が証明しているところです。だから反米になることはできない。安倍首相が本音を語ったら、アメリカに潰されるでしょう。

 

 

 

 

『21世紀の戦争と平和

徴兵制はなぜ再び必要とされているのか

 三浦瑠麗    新潮社  2019/1/25

 

 

 

いかに平和を創出するか

・したがって、本書では平和について規範的な議論を行うものの、あくまでもそれが人びとの利害構造や自然な感情を土台として展開するように留意している。「間違った戦争をしてはならない」という規範を述べるにとどまらず、人びとが政治的感情をもつときに当然に介在するナショナリズム、同胞意識といった強い感情を受け容れる。その上で、ナショナリズムや同胞意識が、戦争を思いとどまるにあたってある働きをしていることを積極的に評価する。この点は、本書の重要な特色の一つだろう。ナショナリズムを活かした平和主義というと、かつてイギリスの知識人が、ナポレオンのフランスや軍国主義プロイセンを見て、自らの国が優れた平和性を持つと主張したようなことを想起する人もいるかもしれないが、本書の主張はそれらと同列のものではない。むしろ自国を含めて国や社会のあり方を批判的に見つつ、ナショナリズムと同胞意識を平和に活かすという発想である。そこにおいては、「血のコスト」と、「負担共有」という発想がカギとなる。

 

・平和を求めない人は少ない。しかし、平和のイメージはそれぞれの国で異なるだろうし、国内でも平和を実現する手段をめぐって激論が戦わされる。そうした中で、ひとまず生存を確保した国家が熟慮すべきは、国家が軍という実力組織を有していることの意味と、その自己抑制の方法であろう。リアリズムの神髄は熟慮であり、それが欠けている社会に平和は訪れないからだ。

 

変動期世界の秩序構想

変動期に入った世界

ポスト「冷戦後」はカオスか

・冷戦が終結して四半世紀の時が流れ、世界は二極でも単極でもない、多極の時代になだれ込んだ。領土紛争や軍事的緊張が残存する地域では、国家間での古典的な勢力争いがエスカレートする危険をはらんでいる。長い雌伏の時期を経て台頭した中国や軍事大国ロシアの「失地回復」の動きも活発化している。他方で、2010年代初頭の「アラブの春」に存在した中東の民主化への期待は空しくしぼみ、破綻国家や自国民の生活を破壊する政府が作り出されてしまった。

 

・全てをカオスと見るか、それとも不確実性の中で世界が秩序や平和を取り戻そうとする調整の過程と見るのかによって、現在の一つ一つの出来事の解釈が違ってこよう。私たちは、最近、国家の方針転換や変化をいくつか目撃しているが、その解釈は定まっていない。例えば次のようなニュースである。

◎2016年3月29日、日本の安倍晋三政権下において集団的自衛権を容認する安保法制が施行された。

◎2017年5月7日、徴兵制復活を公約とするエマニュエル・マクロンがフランス大統領選に勝利した。

◎2018年1月1日、スウェーデンが2010年に廃止されていた平時における徴兵制を復活させた。

 

結論を先取りすれば、これらの試みは、戦争を抑止し、平和をもたらす新たな構造を作り出そうとする国家の自助努力であると私は考えている。1945年以降の秩序に寄りかかっているだけでは、国家も平和も維持できない時代が到来したからだ。むろん、安全を確保しようとする試みはときに軍拡競争を生んでしまうという有名なジレンマがある。「合理的な行動」が不合理な結果を生んでしまう構造として、幾度となく指摘されてきただから国家の本能に任せていてはいけないのだという意見は正しい。けれども、いま私たちが直面しているのが単にそのようなジレンマを生んでしまう構造なのか、それとも先ほど提起したような、ポスト「冷戦後」へ向けた新たな対応という大きな文脈のなかで理解すべきことなのかは、検討してみなければわからないだろう。

 

アメリカの内面化が与えたダメージ

・これまで、西側の平和はアメリカが提供する圧倒的な公共財と投資、開かれた市場、それらを支える軍事力によって成り立ってきた。冷戦後には、東側陣営が西側の経済圏に組み込まれることでグローバル化が急速に進展し、公共財を提供してきたアメリカの力が持続することによって、世界はさらなる平和と繁栄を享受できるかに思われた。

 

十年スパンの因果関係で考えてみる。すると、混乱の原因はアメリカのイラク戦争アフガニスタン戦争に求めることができよう。これらの戦争で挫折し、国力を費消したアメリカが結果として内向きになったことで、世界は大きな転換点を迎えることになったからだ。

 

・およそ四半世紀続いた「冷戦後」という時代は、BREXITの国民投票トランプ大統領当選があった2016年には明白に終わりを告げた、と私は考える。後世の歴史家は、時代の終焉の地点を私たちより明確に指定することができるだろう。

 

民主的平和論はなぜ下火になったか

・ここでいう方法論とは、「民主化こそが問題を解決する」という認識を指す。つまり、冷戦後の失敗の経験によって、人びとは「民主化がすなわち平和を意味しない」ということを痛いほどわかってしまったのである。急激な民主化は内戦を呼ぶ場合もあったし、民主化した後の世論が平和的だとは限らないことも分かってきた。

 

・民主主義であることに疑いがない国々の行動も、平和とは程遠いものがある。アメリカをはじめとする西側先進国が行った戦争も、決してなくなったわけではないからだ。イラク戦争アフガニスタン戦争、レバノン戦争など、不毛な戦争がたびたび戦われてきた。これらの戦争は、民意によって後押しされた戦争であった。

 

過去の安定に引きずられる危険

・そこで、アメリカの存在感が低下していく将来の見通しを踏まえ、1945年以降の常識を前提としない現代的な平和のための処方箋を考えていく必要がある。そのためには、国際的な構造全体として戦争を抑止し、平和を実現する構想が必要であるが、その過程では一国の政策、つまり内政が支配する領域にも踏み込まざるを得ない。

 

民主主義を前提とした同盟管理

・「民主主義は最悪な政体である。これまで実在したほかのいかなる政体を除いては」と言われる。これは、民主主義の決定が合理的であるとは限らないが、だからと言って民主主義を否定するのではなく、他の要素を取り込んで民主主義を補強していくべきだとする考え方だと言い換えることができる。

 

・まとめれば、安保法制の位置づけは、東アジアにおける安全保障環境の悪化とアメリカの内向き化のなかで、日米同盟の信頼性を強化することで、軍拡競争に一国で立ち向かうことを避けようとするものだった。しかし、将来にわたって日本の民主主義が軍事行動に対して抑制的であり続けられるかどうかは、まだわからない。

 

「シビリアンの戦争」の時代

・民主主義を前提としたうえで、平和を実現するために調整を行わなければならない最大の理由は、民主主義が戦争を選んでしまう可能性があるからである。

 経済的に豊かな先進国では、実際に戦場に赴き血を流すリスクを負う兵士たち、つまり「血のコスト」を負担する人びとは、往々にして一部の層に偏りがちであるそれゆえ、こと総動員ではない限定的な戦争においては、「血のコスト」を負担しない統治者や市民層が、不必要で安易な開戦判断に傾く危険がある。

 たとえば、2003年のイラク戦争のように、専門家である軍からすると必然性が低く、またリスクが高いと思われる戦争であっても、アメリカのような安定したデモクラシー国家では政治や民意の力が強いゆえに、軍の反対を押し切る形でよく考え抜かれていない攻撃的な戦争が起きてしまうことがある私はこのような戦争を「シビリアン(文民)の戦争」と名付け、警鐘を鳴らしてきた。

 

・シビリアンの戦争は、総動員がかかるような大戦争ではないところに重要な特徴がある。限定的な戦争である限り、シビリアンが負う戦争のコストは相対的に低いし、「血のコスト」の負担は一部の階層に集中するので、現実の犠牲が国民全体に強く感じられることはない。現代の豊かな民主国家では、軍は厳正なシビリアン・コントロールの下にあるが、見方を変えれば、それは自らが戦争に行くとは考えない国民が兵士の派遣を判断していることを意味する。歴史を繙けば、実に多くの民主国家が、民主的正当性のもとに安易な戦争を繰り返してきたことがわかる。

 

・そこで前著では、「シビリアンの戦争」を避けるためには、国民が血のコストの認識を共有できるような仕組みを導入すること、つまり国民一般を対象とした平等な徴兵制を導入することを解として示した

 

「徴兵制」復活は何のためか

・フランスのマクロン大統領による徴兵制復活の公約や、スウェーデンでの徴兵制復活の試みを、どのように理解することができるかを考えてみよう。

 まずロシアの脅威が再び欧州を脅かしつつあることが背景にあるのは確かだろうスウェーデン政府は、かつては軍隊の花形であった、対露

防衛の拠点であるゴットランド島への配属志願者が不足していることに危機感を持っている。フランスはロシアと共存しつつも、その勢力浸透に警戒心を抱いている状況だ。

 しかし、兵器の高度化が進んだ現代戦においては、もはや徴兵制は軍事的には役に立たない。それどころか、軍隊が面倒を見なければならない素人が増えるだけで、むしろお荷物であるという評価の方が根強い。徴兵制の訓練には多額の予算が必要となり、ただでさえ苦しい軍事予算を圧迫する可能性があるからだ。現に、フランス軍は徴兵制の復活に否定的であった。

 

・反対に、スウェーデンでは、軍が徴兵制の復活を望んでいた。それは、端的に言えば人員が欠乏していたからであり、引き続き有能な軍隊を維持しようと思えば、志願兵だけでは定員を賄いきれなかったからである。

 

変革期世界の秩序構想>

平和を創るための5つの次元

・1次元;大戦争の抑止、2次元:国際的取り決めと制度化、3次元:政府の意思決定における自制、4次元:紛争抑止と平和構築、5次元:人びとの敵意の逓減

 

つまり、誰かが政府のように強制力をもって粛々と法執行してくれることが期待できない国際社会では、やはり核戦争に発展する恐れのない戦争は起きてしまう

 

国家の意思決定を拘束するもの

・では、そのようなシビリアン・コントロールの下で、自衛や懲罰の目的で頻繁に起こる戦争を、この第3の次元である「政府の意思決定における自制」の段階で食い止めるにはどうすればよいだろうか。

「シビリアンの戦争」の経験に学べば、一つの考え方として、血のコストの担い手である軍のプロフェッショナリズムからなされる提言を、政治が重く受け止め、受け容れることがあげられよう。これは、民主主義が健全な判断をしにくいときに、非民主的な要素を持ってバランスするという考え方に基づくものである。

 もう一つは、戦争における国民の負担共有を明示しておくことで、開戦決定の際に国民がそのコストを自覚した上で判断できるようにするやり方もあるだろう。特に血のコストの平等負担を課すことにより、国民の多数がより慎重で抑制的な態度を示すことを期待するというシナリオである。

 

内戦を防ぐ次元の努力

・第4の次元は、戦争抑止と平和構想、いわば内戦を防ぐための取り組みである。全世界が内戦のない統治の安定した国々であれば、そもそも第1から第3までの次元ではほとんどの戦争は防げる。しかし、実際にはそうではない。戦争がない状態というのは、何も対外戦争がないことだけを意味するのではない。近年、武力紛争の多くを占めているのは、むしろ内戦だからである。

 

望まれたグローバリゼーションの次元

・もちろん、国家や武装勢力が互いに敵意を抱えながら、第1から第4の次元によって戦争を思い止まることが平和の最終形態ではない。最終的には、互いに敵意を逓減していくことが求められる。

 

・そこで、第5の次元には、時代の底流にあるグローバリゼーションの力学をおく。というのも、それこそが国家間の相互依存関係を促進する要因となっており、それによって平和が確立していくことが想定されるからだ。すなわち、貿易や投資などの経済活動を通じた相互利益、相互依存の増進や、人びとの移動や交流に基づく相互理解を通じて、全般的な敵意の低下がもたらされるという仮説である。

 

現時点での平和への課題を確認する

・こうしてみると、いま、世界が平和へ向かう道のどの段階に私たちが位置しているかが明らかになる。グローバリゼーションの深化による長期的な敵意の逓減という第5の次元に手をかけつつも、第3と第4の次元のところで苦悩している。とくに第3の次元において、まだ国家や

人びとは血のコスト負担に充分に思いを巡らし、戦争を思いとどまる段階には到達していない。

 20世紀後半以降の世界における「進歩」は、大戦争を防ぐことができたという点だろう。

 

カント再訪

<「永遠平和のために」

・本書が示した、現代的な平和創出のための5次元論は、冷戦構造やアメリカの覇権を前提としていないので新奇に映るかもしれないが、けっして無から紡ぎ出されたものではない。世界政府というものが存在しない、無政府状態を前提とする以上、規範や動機付けで国家意思を縛り、民主的な意思を平和に導き、そして長期的に敵意を逓減していくという5次元論は特に変わった建付けではなく、これまでも度々論じられてきたものだ。

 

・民主国家を前提とした戦争抑止のための包括的な構想のなかで、古典となっているのは、やはり18世紀の哲学者イマヌエル・カントの晩年の著作『永遠平和のために』である。随分と昔の書物を持ち出すと思われる方がいるかもしれない。

 

・カントは、当該書で「常備軍の廃止」、「共和政の実現」、「国際法の確立」などを訴えた。

 

平和と共和政という二つの目標

・さて、『永遠平和のために』の議論が優れているのは、その目指す目的において、国際的な平和と国内正義のどちらにも偏ることがなく、両者の実現を目指している点である。

 

三つの確定条項

・彼の提言を見てみよう。『永遠平和のために』は、文字通り世界が永遠に平和になるにはどうしたらよいかを正面から論じている。

 

そのことを端的に表しているのが、カントが設けた確定条項と予備条項という二種類のハードルである。

 まずは、より本質的な条件であるところの、確定条項について見ていきたい。

 カントは、永遠平和を達成するための本質的な方策として、

(Ⅰ)国家を法の支配に服する自由で平等な市民による共和制とし

(Ⅱ)その国家の連合制度としての国際法を重視したうえで

(Ⅲ)世界市民法により外国人にも安全と入国の自由など最低限の権利を認めること

 

厳しい予備条項

・カントの定義した永遠平和のための前提条件は、第6条まである。より簡素な表現でまとめると、

(1) 休戦に過ぎない協定は平和条約と見なさない

(2) 独立国家の継承・交換・買収・贈与を禁止する

(3) 常備軍を時とともに全廃する

(4) 対外紛争に関わる国債発行を禁止する

(5) 暴力による内政干渉を禁止する

(6) 戦時における各種の秘密工作や条約違反を禁止する

 

カントの国民への懐疑

・カントは、常備軍の廃止を求める項で、次のように述べている。

人を殺したり人に殺されたりするために雇われることは、人間がたんなる機械や道具としてほかのものの(国家の)手で使用されることを含んでいると思われるが、こうした使用は、われわれ自身の人格における人間性の権利とおよそ調和しないであろう」。

 常備軍の廃止の提言には、強い軍備そのものが軍拡競争を誘発することへの懸念に加えて、権力者個人が軍隊を保持することや、国民を戦争の道具として強制的に動員することへの強い忌避があった。

 

兵士を国民化する試みへの応答

・なぜ、カントはそのように考えるに至ったのか。それを探るカギは17世紀後半から18世紀にかけての西欧世界の進歩にある。1648年に宗教戦争である30年戦争が終結し、ウェストファリア条約が結ばれ、主権国家の存在感が増し、帝国と教会の支配や権威が減退していった

 

郷土防衛軍とは何か

では、カントが想定した常備軍の代わりの軍隊、郷土防衛軍とはどのようなものだろうか。基本的には定期的訓練以外は普通の生活を送り、外に攻めていくことを目的としない、専守防衛の一般市民からなる軍隊である。有事のみに編成される軍隊だが、カントの生きた時代はまだ兵器が高度化されておらず、歩兵の威力が強くなってきた時代であったので、日頃から市民の防衛の士気を高め、軍事演習さえ積み重ねておけば国防は達成できると考えられたのだろう。

 

この郷土防衛軍の構想は、現代に置き換えれば、いわば民主国家が、国土防衛のための訓練のみを課す「徴兵制」を、全国民に平等に導入することと同義と言えるカントの郷土防衛軍のイメージに現代で一番近いものは、国民皆兵のスイスになるだろう。もっとも、スイスにそのような防衛体制が可能なのは、自然の要衝としての地の利に加え、ヨーロッパ内の緩衝地帯としての地位を確立しており、さらに地方分権のカントン制(地方行政区分)を有しているからであって、すべての国がスイスのように永世中立国家になれるわけではない。

 

国家観と人民観の共存

・そのひとつが、外国人の移動を許容すべきだという確定条項の第3項である。カントは永遠平和のためには、国家間の平和構想だけでなく、個人のレベルでも国境や民族を超えた信頼醸成が必要だと考えており、これも時代を先取りしたものだった。カントの時代には、庶民が国境を越えて行き交うことはまれであり、ここでカントが念頭に置いていたのはエリート層、すなわち外交官であり、あるいは他の宮廷や領主のお抱えとなる文人や芸術家、そして貿易網をもつ商人といった人びとだった。

 

19世紀以降の展開

・ところが、歴史の展開はカントの敷いたレールとは異なっていた。フランス革命の直後に『永遠平和のために』を出版し、共和政の広がる世界を夢見たカントは、19世紀を通じて裏切られ続けることになる。まずはフランス革命自体が暴政化してナポレオンの独裁に転じてしまい、平等な徴兵制からなるフランスの国民軍がヨーロッパ全土に攻めこんでいくことで平和が壊れるという事態が出現した。

 

カント2.0

・では、カントを現代に応用するとすれば、どのように再解釈できるのか。そして、その場合に国家の多層的な平和のための努力はどこまで進んでおり、課題は何か、という具体的な問いについて考えてみたい。カントの確定条項と予備条項をもう一度振り返ろう。

 

確定条項

(Ⅰ)国家を法の支配に服する自由で平等な市民による共和制とし

(Ⅱ)その国家の連合制度としての国際法を重視したうえで

(Ⅲ)世界市民法により外国人にも安全と入国の自由など最低限の権利を認めること

 

予備条項

(1) 休戦に過ぎない協定は平和条約と見なさない

(2) 独立国家の継承・交換・買収・贈与を禁止する

(3) 常備軍を時とともに全廃する

(4) 対外紛争に関わる国債発行を禁止する

(5) 暴力による内政干渉を禁止する

(6) 戦時における各種の秘密工作や条約違反を禁止する

 

・前述の平和のための5次元論で洗い出した課題に、「カント2.0」をふたたび照らし合わせると、次のように三つの現代的な課題が見つかる。

(1)民主主義の判断を健全にし、国民が武力行使を自制するようなコスト負担共有のメカニズムがあるか(第3次元の課題

(2)国際法を遵守しつつも平和構築活動を行うため、「正しい戦争」の概念を、現代的かつ抑制的に定義できているか(第2次元~第4次元にかかわる課題

(3)グローバル化を引き続き進めていくうえで、国内の反発に対応しなければならない国民国家の求心力が減退していないか(第5次元の課題)。

 

したがって、「カント2.0」の命題に則り、かつ先に示した5次元論に沿って民主主義を平和に導くための喫緊の課題というものが特定できる。ごくシンプルに表現すれば、正しい戦争を再定義し、民主国家における負担共有を実現して、国民国家を強化するということになろう。

 

カント2.0のための予備条項

・つづいて、予備条項の再定義に戻ろう。予備条項の中で明確に満たされていないのが、先に述べた通り、戦時国債の禁止と常備軍の段階的廃止である。とはいえ、主権国家から国債の発行権を奪うことはできないから、こちらを禁ずることは無理だろう。ただし、民主主義国家が自らの体力以上の戦争を始めないようにするため、戦争のコストを「見える化」することには大きな効果がある。

 

誰が「血のコスト」を負担するのか

戦争のコストには大別して「経済的コスト」と「血のコスト」の二つがある。経済的コストは、ときに政権の甘い見積もりや情報隠しなどによって見えにくくなることがあるものの、比較的話題に上りやすいコストといえる。それに比べると、負担の実感が出にくいのが血のコストである。本書では、歴史から兵士の実情を採ることで、血のコスト負担が偏在してきたことを明らかにして、議論の土台としたい。

 

歴史的な政軍民関係
見えにくい兵士
・戦争で血を流すのは誰か。巻き添えとなる一般市民の被害者ではなく、兵士に着目して、彼らにシンパシーを抱きつつ、この問いを探ろうとする試みは少ない。

 軍事研究の先端は勝利をめぐる戦略や戦術であって、必ずしも兵士の物語ではない。逆に、平和研究の観点からすれば、国家が国民を駆り出すこと自体が非難されるべきことであり、その先にある兵士が蒙る被害に着目する視点は乏しい。さらにどのような戦争でも間違っているという立場をとる平和主義者にとっては、良い兵士とはすなわち悔い改めて反戦に転じた兵士だけだ、としたら言い過ぎだろうか。

 

つまり、軍事研究の立場を取れば、兵士は守るべき国民ではなく戦争の道具であり、平和研究の立場からすれば自ら志願する兵士は理解しがたい異質な存在なのである

 

・要するに、血のコストが見えにくいのは、国民から兵士の存在が見えにくいからなのである。

 

守護者としての政治家と軍人

・私たちが政府と軍と国民の関係性を考えるとき、つい、現代の先進国における実状を投影してしまいがちだ。しかし、今の政軍民の三角関係は、歴史上のさまざまな変化を経て、ここに落ち着いたものである。

 

羊と羊飼いと犬と狼と

ソクラテスプラトンは、国の「守護者」集団を、知識を有する統治者とその補助者としての軍人とに分け、統治者(羊飼い)が市民(羊)を治め、軍人(犬)が内外の敵(狼)から市民を守ることを理想とした。

 

都市共同体から帝国、軍の辺境化へ
・時は移り、地中海世界を支配するようになったのはローマだった。ローマというのは面白い素材で、その栄枯盛衰を見ることで、さまざまなことを学べる人類にとっての遺産である。政軍関係についても例外ではない。

 ローマでは、統治者と軍、市民の関係がギリシャ都市国家よりも大規模に展開した。

 

スイス

中立を可能にする条件
・スイスは最もよく知られた永世中立国だろう。この国もスウェーデンと同じく非同盟と徴兵を用いた重武装に立脚して自律性を守ってきた。スウェーデンは志願兵と選抜徴兵からなる常備軍のほかにおよそ2万1千人の国土防衛の民兵を擁しているが、スイスはさらに極端な政策をとっている。文字通り男子国民皆兵の制度を維持しているのだ。18歳に到達すると、男子は11週間の軍事教練を課され、以後34歳まで、1年に1回の短期訓練に戻る

 

・現存する徴兵制の中では、スイスの国民皆兵制度が、辞書的な意味での「民兵」――常備兵に対して、平時は一般の職業に従事しながら定期的に軍事訓練を受け、有事の際に部隊を形成する兵のこと――に最も近い制度といえるかもしれない。そのような極端なまでに国民の間に国防意識を高める一方で、政治はあくまでも地方分権であり、現在は26のカントン(地方行政区)ごとに高度な自治を行っている連邦政府は、2018年時点でコンパクトな約2万1千人規模のプロの現役将兵からなる陸空軍を保有し、司令、防空と国境の防衛に努めている。国民皆兵制の下で軍に組み込まれた約14万4千人の予備役と、7万4千人ほどの民間防衛部隊がその軍を支える。中立国とはいえ、もしも敵に防空網が破られ国境内に侵入されたならば、スイス国民は全土でその敵に応戦するものとされる。第2次世界大戦中に、スイスは中立を保ったが、国境警戒のため85万人の国民が軍に組みこまれた。

 

・もちろん、どの国でもスイスのようになれるわけではない。スウェーデンが北欧の厳しい自然条件に守られているように、スイスも自然の要塞に囲まれ、地理的特徴が永世中立を保つことに味方している。また、もっと赤裸々な現実もある。つまり第2次世界大戦中にスイスが中立国としての地位を維持できたのは、双方の陣営にとって便利な、とくにナチスドイツにとっては最も価値のある、都合の良い商売相手だったからに他ならない。

 

戦わない徴兵制

・これまで、スイスでは徴兵制の存続の是非をめぐる国民投票が三度行われている。毎回、圧倒的多数で存続が支持されており、国民からの強い支持が窺える。

 

・そのようにして、1996年、ついにスイスはNATOとのパートナーシップ協定に加入する。スイスは、ヨーロッパや世界に冷戦期のような敵対関係が生じていなければ、NATO多国籍軍に参加しても中立を損なうことにはならないと考えたのである。

 

移民を統合しない国家

・さて、イスラエルスウェーデンの例で見てきたように、先進民主国家において共和国性を損ないかねない重大な論点は、一つは軍務負担の共有のあり方であり、もう一つは移民の受け入れとその扱いであった。

 スイスは、およそ840万人の人口を擁し、約218万人の外国人を受け入れている。

 

スイスは移民に恩恵をあまり与えず、国民と移民の峻別を堅牢なものとする一方で、先進国では稀にみる厳格な国民皆兵制度を維持し、国民の統合を強化している。そして自国との利害関係の薄い域外紛争には無関心を貫き、最小限のリスクとコストしか負担しようとしない「自国民第一」の国家のあり方を続けている。それは孤立主義に流れがちな多くの日本人にとって、親和性の高いモデルかもしれない。しかし、スイスの人口は日本の15分の1以下である。

 

各国の経験に何を学ぶのか

戦う徴兵制の経験

イスラエルは、韓国と同様、先進国でありながら高い安全保障上の脅威に直面し続ける国家である。韓国と異なるのは、初めから民主制が敷かれ、上からの強制的な動員ではなく、自警団を基礎に持つプロフェッショナルな革命軍を組織していたことだ。ジェノサイドの生き残りを受け入れ、貧しさの中で国家建設をスタートしたイスラエルにおいては、国民の負担共有が初めから当然に想定されている。

 

最近では、イスラエルでもっとも意欲的に徴兵に応じる層が、主流派のアシュケナージムから宗教右派へと変わりつつある宗教右派は、植民地戦争とも受け取られかねないような、占領地の拡大とその防衛を主張する。それに対するまっとうな反対意見は存在するが、それが軍全体の声として強く押し出されるためには、プロの軍人よりも社会と多様な接点を持ち、広い視野から柔軟な思考ができる予備役将校のプレゼンスが確保されていなければならない。

 

象徴的な負担共有と理想

・そして、安全保障上の高い脅威には晒されていないが、PKOなどの軍事的な国際貢献を行うヨーロッパの国々の経験も見てきた。徴兵制度は(よほど人口が足りないのでない限り)ほとんどの場合、軍事上の必要性はない。実際、第3次世界大戦に備えざるを得なかった冷戦時代が終結すると、もともと空洞化しつつあった徴兵制度はヨーロッパの多くの国で縮小や廃止の方向に向かう。

 

・スイスの徴兵制は、天然の要塞のような地形や独特な金融戦略上の位置づけに下支えされている。スイスは移民を多く受け入れながらも、決して彼らを「国民」として包摂しようとしない。スイスでは、スイス国民か外国人かの違いは明確であり、徴兵制が義務付けられているのは現在でもスイス人男子だけである果たして、このような「自国民第一」主義を、この先、日本のロールモデルにすべきなのか、あるいは反面教師とすべきなのか、私たちはよく考えなければならない。

 

ノルウェーの徴兵制は、少ない人口と油田のもたらす圧倒的な富に下支えされ、また同国伝統の男女平等運動のエネルギーを推進力としたものである。

 

・いずれにせよ、世界が今、実効的な安全保障、健全な民主主義、すべての階層に望まれるグローバリゼーションの三つを同時に成り立たせるための新たな解を必要としていることは確かである。私たちは思考停止してはならない。

 

国民国家を土台として

・平和の実現という課題を突き詰めて考えていくと、その最たる問題は、国家に、国際政治構造上にも国内政治構造上も戦争をする権限があるという一点に行き着く。このことは、「人間団体に、正当な暴力行使という特殊な手段が握られているという事実、これが政治に関するすべての倫理問題をまさに特殊なものたらしめた条件なのである」とし、政治における特殊な倫理の問題を直言したマックス・ヴェ―バーの指摘と呼応している。

 

変化に対応する変革の時代には、常に「保守的な変革者」と「革新的な変革者」がいる。本書で言えば、常備軍の処遇改善を選ぶのが前者であり、徴兵制による血のコストの負担共有を選ぶのは、後者の中でも最も革新的な部類ということになる。

 

・本書を国際政治学者の「机上の空論」として切って捨てることは簡単だろう。理論とはそもそもそのような性格を持っているものだ。

 

 

 

『矛盾だらけの日本の安全保障』

専守防衛」で日本は守れない

冨澤暉・田原総一朗   海竜社   2016/8/7

 

 

 

「二世帯住宅のたとえ」から見えてくる日本の安全保障の現状

・(冨澤)弟の私(日本)は二階に住んでいて、一階には頼りになる兄貴(アメリカ)が住んでいる。財力もあり、めっぽう腕っ節の強い兄貴と比べると、弟のほうは腕力に自信がない。

 

町内の平和のための「夜回り」に参加できない日本

・(冨澤)ただ、このままでは兄貴としても面白くないし、弟なのに何もやらないというのでは問題だから、兄貴の家に強盗が入ったときは、やはり助けに行って少しぐらいは兄貴の手伝いをしたほうがいい。夜回りについても、お金やお弁当を出して終わりにしないで、みんなと一緒にパトロールに出る、「カチカチ火の用心」をみんなと一緒になってやる。そういうことが必要ではないかというのが私の基本的な考え方です。

 

戦後日本は一国平和主義にどっぷりと浸かっていた

・(冨澤)もちろん兄貴に対しては、日本に普通は置かせないようなアメリカ軍の基地を置かせているので、それなりの代償は払っています。

 

日本にとって実に都合のいい日米安保条約

(冨澤) 一言で言えば、アメリカは世界の秩序を守るためにリーダーとして関わっていきたい。そのための米軍基地だというのです。

 

(田原) 日米安保条約岸信介総理の手で改定されたときは東西冷戦のさなかでした。アメリカを中心にした西側とソ連を中心にした東側が鋭く対立して、もしも核兵器がなかったら戦争になっていたかもしれません。そういう厳しい対立状況があったとなると、日本を守るという形はとっていても、実際は日本を守るのではなくて、西側陣営の東アジアを守るのがアメリカの狙いだった。

 

・(冨澤)その代わり、核戦争という破滅的な戦争は起きないけれども、ブロック同士での小競り合いは起こる。そういう局地的な紛争が起こったとき、それに対処するための基地として日本、ドイツ、イタリア、もちろん戦勝国のイギリスにもありますが、世界のいろいろなところに基地を置いたのです。そういった事情があるので、日本人が「日本を守ってくれるために在日米軍基地がある」と考えたのは、大いなる誤解です。

 

専守防衛」は国際的にも軍事的にも通用しない

・(田原)ところで、冨澤さんは専守防衛という政策を批判していますね。僕らも含めて、日本人の多くが「専守防衛」を日本の安全保障の基本的概念だと思っているなかで、こんな言葉は世界に通用しないとおっしゃっている。改めて詳しく聞かせていただけますか。

(冨澤)専守防衛というのは、こちらから攻撃しないで守りに徹することです。だけで、私ども軍事を勉強してきた者にとって、そういうのはあり得ないのです。

 

・(冨澤)あらゆるところから飛んでくるミサイルを全て叩き落とすのは不可能です。3万キロの正面を守ることはとてもできない。そういう技術はまだないし、仮に技術ができたとしても、3万キロの正面全部でそれをやるには、それこそ天文学的なお金がかかります。

 そんなことは、日本はもちろん中国だってアメリカだってできません。どんな国でもできない。そういうことを「専守防衛」と称して、これが日本の防衛政策だと宣言してしまったのです。

 

・(冨澤)戦略守勢とは攻勢に対する守勢です。ところが、中曽根さんは張り切って日本で最初の『防衛白書』(昭和45年版)を刊行するのですが、その時に、これは中曽根さんが発想したわけではなく航空自衛隊の1佐と聞いています。具体的に誰とは知りませんが、その自衛官が「戦略守勢といっても、ちょっと言葉が難しい。専守防衛と言ったらみんなにわかるだろう」と言って、専ら守る防衛だ、それでいいだろうということで専守防衛になったそうです。それを日本の防衛政策として定めたのです。

 

・(冨澤)日本の防衛政策としては、当時はもう「国防の基本方針」ができていました。これは1957年に岸内閣がつくったものですが、専守防衛はその基本方針とは別なのです。

「国防の基本方針」には専守防衛という言葉も概念も出てきません。それなのに、後になって非核三原則などと一緒に日本の防衛政策として定めてしまった。それがいまだに生きています。

 

憲法上、専守防衛にせざるを得ない日本

(冨澤)守るだけで攻めなかったら相手にダメージを与えられない。それと同じで、専守防衛というのは、自衛官や軍人から見ると成り立たないものなのです。

 

・(田原) それと、専守防衛でいくと、いきなり本土決戦ということになりませんか。

 

日本は敵基地攻撃能力を持つべきか

・(冨澤)ボクシングをやってもわかるように、一方で守って一方で殴る。両方なければ戦えませんよ。それを「守りに徹しなさい」と言うこと自体、極めて不合理だという感じを我々は持っています。

 

自衛隊は軍隊なのか、警察の延長なのか

・(冨澤)前身の警察予備隊は警察の延長でしたが、自衛隊になったとき、個別的自衛は明確に認めたわけです。憲法学者のなかには、いまだに認めていないと言う人もいますが、自衛隊は個別的自衛で武力行使ができる。この点が警察と決定的に違うところです。

 

武器を使ってもいいが、人に危害を与えてはならない ⁉

・(冨澤)面白いのは、主語が自衛官になっていることです。「自衛官は………武器を使用することができる」と書いてあります。主語が自衛隊という組織ではないのです。

 それから同条には、次に正当防衛・緊急避難という要件が出てきて、その要件に該当する場合を除いて「人に危害を与えてはならない」と明確に書いてあります。つまり、武器等を守る任務を与えられた自衛官が敵に遭遇したとして、敵が武器に弾薬を奪いにきたら任務遂行のために射撃をしてもいいのですが、相手に危害を与えてはいけない。自分が撃たれたときは打ち返してもいい。

 

自衛隊は奇襲攻撃を撃退できるか

・(冨澤)ならば指揮官の責任かというと、これは非常に難しい。日本の場合、判断基準は国際法ではないからです。あくまで国内刑法によって裁くので、個人の責任が問われる可能性があります。安倍内閣の安全保障法制は、その点が曖昧なまま残されているところに一つの問題があると私は思っています。だけど、そんなことを兵隊さんの責任にはさせないと信じたいですね。たぶんさせないでしょう。

 

海上保安庁が襲われても自衛隊は助けられない

・(冨澤)ただし、これ(外国の軍隊を守ること)は集団的自衛権とは関係はありません。集団的自衛権とはまた別の話なのですが、とにかく自衛隊は今まで非常に不思議な軍隊だったのです。

 

同じ自衛隊ですら指揮系統が違えば守れなかった

・(冨澤)防衛出動が命令されていれば別ですよ。防衛出動命令が出た後ならできますが、そうでない場合はグレーゾーンの問題です。グレーゾーンの状態では武器等防護で武器を使用することはできます。ただし、指揮系列が違えば、もう守れない。

 

「平和安全法制」でアメリカの艦船も守れるようになる

・(冨澤)アメリカにいろいろ聞いたところ、一緒に訓練している場合は一つのユニットと考えるそうです。彼らは「ユニット・セルフ・ディフェンス」と呼んでいて、共同訓練をしている場合、どこかの艦が撃たれたら、指揮系列の違う別の艦が撃ち返すというようなことは普通にやっているそうです。それで今回、そのやり方を取り入れて、日本でもできるようにしました。つまり、武器等防護の対象を拡大したわけです。自衛隊の艦船がアメリカ海軍の艦船と一緒に行動しているのであれば、アメリカ海軍の艦船も守れるようにしました。

 

「基盤的防衛力構想」とは、防衛力の存在を示すこと

・(冨澤)ただ、仮想敵国をつくらないと言っても、あの当時、つまり1970年代に日本に攻めてくるだけの能力を持っているのはソ連しかなかったのです。

 

仮想敵国がない状態で防衛力を整備するのは難しいか

・(冨澤)つまり、防衛力整備には時間がかかるわけです。一朝一夕にできるものではない。装備品を開発するのにも時間がかかるし、特にいちばん大変なのは人間をつくることです。

 

米ソの戦争は起きないが、小規模限定武力侵攻はあり得る

・(冨澤)基盤的防衛力ではあるけれども、具体的な想定が何もなければ演習一つまともにできないので、小規模限定武力侵攻に耐えるようなものであって、将来、大きな戦いになったときにはエクスパンドできる、拡張できるものにする。妥協の結果、そういう考え方に落ち着きました。

 

福田赳夫首相の後押しで始まった有事の作戦研究

・(冨澤)ところが1978年に来栖さんの事件が起きて、現に在日米軍がいて日米安保体制があるのだから、日米で共同訓練をして共同作戦計画をつくろうじゃないか、という話になった。どういう敵を設定し、その敵が侵攻してきたときに米軍が何をして日本軍が何をするか。日本軍の中で陸・海・空三自衛隊はどういう役割分担をするか。そういったことをこのとき、さんざん議論しました。随分と揉めましたけどね。それは福田赳夫総理が大事だと言ってくれたからできたのです。

 

ソ連潜水艦を日本海に封じ込めよ――ノルディック・アナロジー

・(田原) 中曽根さんが言った三海峡封鎖だ。

(冨澤) まさにそこが大事なところで、バルト海の場合と同様、海峡を押さえてやればソ連アメリカと戦争できません。米ソが戦争しなければ、日本も戦争をしないで済む。ごく簡単に言えば、そういう考え方です。

 

アメリカ1人勝ちで問題になった「同盟のジレンマ」

・(冨澤) その問題が起きたとき、私は言ったのです。「配当というのは資本金を出した人がもらうものであって、日本は基盤的防衛力でやってきた。特定のことのために資本金を出していないのだから、平和の配当の予知はない」と。

 

冷戦後初の「大綱」にアメリカからクレームがつく

・(冨澤) アメリカのクレームというのは国防省あたりからきたのです。私はそんなに中枢にはいませんでしたから詳しいことはわかりませんが、当時の防衛事務次官、畠山蕃さんが私に「冨澤さん、アメリカからクレームがついちゃって。今度の大綱にはアメリカのことがあまり書いていない、おかしいじゃないかと。我々としてはアメリカに頼るのは当然なのですが、何か誤解しているようですね」と言ってきた。

(田原)国連、国連と言い過ぎている。

 

弾道ミサイル防衛に力を入れた石破防衛庁長官

・(冨澤)2003年12月に石破さんがリードして弾道ミサイル防衛の導入を閣議決定します。しかし、防衛力整備のあり方をめぐって相当大きな議論になりました。ミサイルを入れるのはいいけれども、値段がものすごく高い。PAC-3の有効射程はたった25キロしかないし、必ず当たるというわけでもない。そんなものをたくさん買ってどうするんだという反論もかなりあったのを、石破さんが抑え込みました。

 

菅直人内閣の「二二大綱」は「基盤的防衛力は全部消せ!」

・(冨澤) ええ。減らされました。私は、それは理屈に合わないと言ったのです。減らされたのはお金がないからです。ミサイル防衛をやるためには財源が必要ですね。防衛費の総額は毎年、だいたい決まっているので増やすとしてもそんなには増やせない。

 

湾岸戦争時、国連の集団安全保障に参加できなかった日本

湾岸戦争自衛隊を派遣せず、130億ドルでごまかした日本

感謝どころか馬鹿にされた日本

・(冨澤)その愛知さんが、「あれだけのお金を、多国籍軍が平等に使うのならいいんだけど、ほとんどアメリカだけで使ってしまった」と言って不満げでした。そういうところは問題だと思いますが、アメリカのあの行動そのものはまさに集団安全保障で見事だったと思います。日本はその本質を見抜けずにお金でごまかしてしまった。

(田原) クウェートアメリカの新聞に感謝広告を出しました。ところが名前の挙がった世界30カ国のなかに日本は入っていなかった。

(冨澤) そうなんです。入っていなかった。

(田原) 日本は馬鹿にされた。これがトラウマになって……。

(冨澤)トラウマですよ。当時の為替レートで1兆7000億円ですから。

 

いちはやく「イラク戦争支持」を表明した小泉首相

イラク戦争集団的自衛権とは無関係

シンセキ、パウエルの進言を無視して失敗したイラク戦争

・(冨澤) そういう意見もあったということです。ネオコンの考え方も、今はおかしいということになっていますが、当時は力を持っていました。ブッシュ自身、「日本を占領したら日本は立派な国になった。フセインを倒せばイラクも立派な民主主義国になる」などと言っていました。日本とイラクでは歴史的な背景が全然違うのですから、「そんなの、なりっこないじゃないか」と私は今でも思うし、あの当時も思いましたけど、そういう理論がネオコンのなかにあったのでしょうね。

 

湾岸戦争のような戦争には参加しない」(安倍首相)でいいのか?

・(田原) 集団的自衛権の行使は条件付きでOKだけど、武力行使を伴う集団安全保障には参加してはいけない。

(冨澤) 私個人は、それはおかしいと思っています。集団的自衛権と集団安全保障では、武力行使の意味が全然違うのです。

 

国連の集団安全保障は権利ではなく義務である

・(冨澤)集団的自衛権というのは、その名が示す通り、国家の自衛権、つまり権利です。一方、集団安全保障は国連加盟国にとっての義務だと考えられます。

 

集団安全保障が国連加盟国の義務だとすると、日本は国連に加盟したわけですから、田原さんがおっしゃるように、加盟国の義務を果たさないのはおかしなことですね。憲法上、武力行使ができないというのも理屈に合いません。それならなぜ国連に加盟したんだという話になる。もともと国連ができたとき、これからがすべて集団安全保障でやろうという理想がありました。それぞれの国が独自の判断で武力行使をするのはもうやめようということです。

 

国連の制裁が間に合わないときは、自衛権は行使してよい

・(冨澤)NATOというのは、国連憲章に言う地域的取り決めなのです。地域的取り決めとは、先ほど申し上げたように、当初は武力行使を認められていなかった。あくまで話し合いとか経済制裁ぐらいにとどめて、それで解決しない場合に最後の手段として国連安保理が武力制裁を決議し、加盟国が一致結束してその制裁を実行する。そうなっていたのが、「間に合わないときはどうするのか」という不安の声が出て、そこで初めて集団的自衛権国連憲章に入ったのです。

 

・日本では集団的自衛権にばかり焦点が当たっていますが、それでは物事の一面しか見ていないことになります。私に言わせれば、集団的自衛権よりも、集団安全保障のほうがはるかに重要性が高いのです。

 

 

集団的自衛権の解釈変更に大騒ぎする愚

集団的自衛権はイギリスの「妻子等の自衛」に由来する

・(冨澤)では、集団的自衛権とは何かというと、これが非常に面白くて、大本はイギリスの「妻子等の自衛」という慣習法なのです。

 

・「妻子等」の「等」には、執事(バトラー)など近しい関係の人も含めるそうですが、イギリスでは、自分以外の人間をこの「妻子等」と「見知らぬ他人」に二分するのです。そして、たとえば電車に乗っているときに私と一緒にいる「妻子等」が襲われたら、「妻子等」は私と一心同体であるとみなして、私がやり返してもいいことになっています。

 

・また、電車の中で見知らぬ他人が誰かに襲われたときは、同じ電車に乗っている人たちがみんなで立ち上がってその暴漢を懲らしめなければいけないということになっています。こちらは「犯罪の防止」と呼ばれています。

 どちらもイギリスで長い時間をかけて出来上がった慣習的なルールです。

 このうち、前者の「妻子等の自衛」は変じて集団的自衛権になり、後者の「犯罪の防止」が集団安全保障になったといわれています。国連憲章英米法で書かれていますから、イギリスの慣習に由来するルールが国連憲章に反映されるのはごく自然なことですね。

 

国連憲章では、武力行使は国連軍がすることになっています。国連軍はいろいろな国の軍隊を一つに束ねてつくるわけですが、仮にそういうものができたとして、その国連軍はヨーロッパに置かれるだろうというのが当時のイメージでした。戦前、国際連盟の本部があったのはスイスのジュネーブです。

 

・この51条が入ったことで、地域的取り決めにおいて、国と国とがお互いに集団的自衛権を行使し合うという形で同盟を結ぶことができるようになりました。その代表的な例がNATOです。

 

ところが、面白いというか不思議なことに、NATOではこの集団的自衛権の行使によって行われる行動を「自衛」とは呼ばないのです。なぜか「共同防衛」と呼んで、自衛という言葉を外しています。第5条も、見出しは「武力攻撃に対する共同防衛」となっています。

 

朝鮮半島有事の際、自衛隊は韓国に出て行けるのか

・(冨澤)集団的自衛権を考える上でもう一つのポイントは、要請があるかどうかです。

(田原)攻撃されたら国が助けを求める?

(冨澤)ええ。武力攻撃された国が要請した場合に限り、要請を受けた国は権利を行使できます。要請がないのに助けに行っても、それは集団的自衛権の行使とは認められない。

 

 

 

自衛隊の弱点: 9条を変えても、この国は守れない』

飯柴智亮    集英社インターナショナル 2018/8/24

 

日報管理すらできない「軍隊」に、核を持つ資格はない。

「冷戦期の遺物」、陸自は解散せよ。

「国家指針は米国任せ」という思考停止。

軍法会議がない軍隊ほど危険なものはない。

日米安保は即時解消せよ。NATOと「第2の日英同盟」を結ぶべし。

動乱アジア――日本は生き残れるか。

 

 

 

一生を決めた映画

――ここからはしばらく飯柴大尉がどうして米軍に入られたのかをお聞きしたいと思っていますが、大尉のお父上はかなり偉い方で、相当に厳しかったとお聞きしています。

(飯柴)親父は、東大在学時に国家上級職公務員試験と司法試験を同時に受験し、両方とも合格して、警察庁に入った人です。エリート幹部として出世コースを驀進して、暴力団対策のトップとして、活躍していました。

――超インテリで、しかもマル暴の総元締めだ。そりゃおっかいないですね。

(飯柴)当然、家ではスパルタ教育です。私も小さい頃から、警察剣道をやらされてましたね。で、剣道大会に出場すると表彰状を渡すのがうちの親父で………(笑)。

――嬉しいものなんですか、それは?

(飯柴)なんか微妙な感じなんですね。そのときの記念写真があるんですが、自分、ちっとも嬉しそうな顔をしていないんですよ。

 

――そのきっかけになったのが小学生のときに観た映画『ランボー』(1作目)だった。

(飯柴)親父とは一度も一緒に映画に行ったことはないです。そういう人じゃないんで。たまたま、親戚のお兄ちゃんと観たのが『ランボー』で、そこで人生の進路が決まってしまいました。今の自分の原点は間違いなく『ランボー』ですね。

 

<同級生は将校殿>

――大学を卒業して、すぐに将校に任官ですか?

(飯柴)いいえ、グリーンカード(永住許可証)だけは取得できましたが、その後、民間人は5年、軍人は3年経過しないと、市民権(国籍)の申請ができませんでした(当時の法律、現在では法律が変わり、永住権保持者は入隊した瞬間に、国籍の申請が可能)。市民権がなければ将官になることはできません。

 だから、同級生は皆、すぐに将校になりましたが、自分は、2等兵からです。

 

――空挺部隊といえば、日本の自衛隊でも最精鋭部隊とされています。

(飯柴)米軍でも同じです。しかも、フォートブラッグは「空挺部隊の故郷」とも呼ばれるくらいで、米軍の空挺部隊の中でも最も精強とされています。基地内で空挺資格を持ってないやつはほとんどいませんでした。また、世界各国の軍隊で、精鋭部隊とは空挺部隊であり、空挺部隊とは精鋭部隊です。米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)も海軍のシール(SEAL)チームも、その他すべての特殊部隊と呼ばれる部隊は、すべてが空挺部隊です。その証拠に部隊記号にかならず「AIRBORNE」(空挺降下可能)と入っています。

 

――エリート中のエリートですね。

(飯柴)空挺部隊に入るためには空挺降下資格が必要です。アメリカで唯一、空挺資格が取れるのはフォートべニングにある空挺学校です。ここでのトレーニングをこなして落下傘徽章をもらわないと空挺部隊には入れないんです。

 82空挺では第505空挺歩兵連隊に配属になりました。第2次世界大戦中の「マーケット・ガーデン作戦」などでも戦闘降下した米陸軍内でも伝統と名誉のある部隊です。

 

アフガニスタンへ>

――体温が下がった、つまり死んだということですね。

(飯柴)お断りをしておくと、50口径の重機関銃はあまりにも強力なので国際法上、人間への射撃は禁止されています。あくまでも「アンチマテリアル」、つまり対物射撃にしか使ってはいけません。

――人を撃っちゃダメではないですか。

(飯柴)いや、アメリカ軍の公式見解ではこれは国際法をクリアしているんです。というのも、私が狙ったのは敵が着ている装備品(衣服やブーツ)なので、アンチマテリアルなんです。

――はっきり言って屁理屈ですね。

(飯柴)私もそう思いますが、屁理屈でも理屈が通っている以上、これは合法なんです。

――平和ボケした日本人にも想像をつかない戦場の現実ですね。近接戦闘はありましたか?

(飯柴)村のパトロール中に現地の住民から通報を受けて、敵が潜伏していると思われる家屋に突撃したことがあります。

 すると家の中で髭面のアフガン戦士がRPG-7を構えて、自分を狙っていましたね。こちらから敵兵の懐に飛び込んで、M4カービンの銃身の先で、鳩尾(みぞおち)を突いて、左手で相手の身体を掴んで、地面に転がしました。対戦車ロケット砲を奪って、身体検査したらAK-47に装着する銃剣、ナイフを隠し持っていましたね。

 

<ようやく将校に>

――アフガニスタンからいつ、帰還されたんですか?

(飯柴)2003年の6月に帰ってきました。半年で帰還することになったのは、911の前に提出していた士官訓練の申請がようやく受理されたからです。

 

<「山桜」で見た自衛隊の素顔>

――第1軍団は太平洋地域が担当だから、当然、日米共同演習、米韓合同軍事演習などにも参加するわけですね。自衛隊を米軍将校から見て、どうだったんですか?

(飯柴)一言で言うと、かわいそうだなと思いました。これは後で詳しく話しますが、我々の目から見ると、自衛隊は冷戦時代から少しも変化していない。米軍に追いつこうという意思はあっても、国家指針がないのでどれも行き当たりばったり、あっち行ってフラフラ、こっち行ってフラフラ、でしかない。だから見ていると、とんちんかんなことばかりなんですよ。

――その自衛隊の「とんちんかんぶり」をぜひお聞きしたいというのが、この本の主題であるわけですが、その前に、今、「進化」という言葉が出ました。日本の自衛隊は少しも進化していないと。ということは、アメリカ軍はつねに進化し続けているわけですね。

(飯柴)ことに911以後のアメリカ軍の進化はすごいです。アフガニスタンイラクと実戦体験を積んだことで、これまで以上にアメリカ軍は強くなっています。

 

<変化、進化する米軍>

――日本の自衛隊も外地にPKO任務に出ていますが、それを教訓にしているんでしょうか。

(飯柴)それはまったく期待できないですね。そもそも日本政府はPKOでは戦闘なんか起きない、遭遇しないと言っているわけでしょう?何も経験していないというのだったら、変化が起きるはずもないでしょう。とにかく、意味のない伝統にこだわる日本と、質と量の両面で高速の進化を遂げる米軍との差に驚かされました。

 

リーダー不在の「軍隊」は敗れる

<総理大臣こそ自衛隊の弱点>

――では、本論に戻って、自衛隊の弱点についてお話し願います。どこから手を付けていきますか?

(飯柴)国家指針のない日本政府のトップ、内閣総理大臣の問題からいきましょう。

――総理大臣の存在が「自衛隊の弱点」なんですか?

(飯柴)残念ながらそうです。それが最もよく現れたのは311、東日本大震災のときでした。小峯さん、あのときに菅直人首相はどうしていましたか?

――それについては自分は言いたいことがたくさんあります。そもそも震災翌日の朝、菅首相陸自のヘリコプターで福島第一原発、そして三陸沿岸部の被災地を視察しました。それを褒める人がいるかもしれませんが、軍オタの自分から見れば「最高指揮官が何をやっているんだ?」という印象しかなかったです。

(飯柴)まったく小峯さんと同感ですね。あれはパフォーマンスでしかない。あの大震災直後の現場ですから、すべては一刻を争う。現地では首相への対応なんかしている暇なんかありません。むしろ迷惑です。

――自衛隊の弱点その1」は、上官がダメということですね。しかも総司令官の日本国首相までがダメなんだ。

(飯柴)いくら立派な装備があって、兵士を訓練しても、上官がダメならば部下はついてきませんよ。

 

<猿真似ばかりの日本>

<だいたい外敵を日本に上陸させた時点で日本の防衛は終わっていますよ>

(飯柴)高い調達価格ということでいうと、空自のグローバルホークアメリカの言いなり、ぼったくりで買わされていますね。

――大型の無人偵察機グローバルホークは、最初に導入が決まったときには3機で510億円という見積もりでした。ところが後になってアメリカは「日本向けの製造に追加費用がかかる」と言いだして、510億円が630億円になりました。搭載レーダーの在庫がないので代替品を作るからカネがかかるんだそうです。

(飯柴)ふざけた言い分ですよね。そもそも在庫がないのは契約の時点で分かっているはずでしょう。

――しかも、これとは別にメンテナンスの費用として毎年100億円を支払うことになっているらしいです。そこにはグローバルホークが配備される三沢基地に駐在するアメリカ人技術者40人の生活費として30億円が含まれているという報道があります。

(飯柴)ひとりあたりの生活費が1年間で7500万円!いったい何に使うんですか。馬鹿げた話ですよ。

――さすがにこれは導入中止を検討しているともいわていれます。

 

・(飯柴)敵が数十キロ圏内にいないと役に立たないわけですよね。敵国が日本の沿岸数十キロ以内に迫っているとしたら、それはもはや制空権と制海権を奪われた状態だと考えるのが常識です。MLRSは発射する前に潰されてしまうでしょう。しかもMLRSは陸上の標的に向けて撃つもので、海上の標的に撃つものではありません。国土防衛という観点で考えたらまったくの無用の長物です。

 

<住民はどこに消えた?>

(飯柴)ところで、さっきの図に重要な要素が欠けていることに気付きましたか?

――うーん、分かりません。

(飯柴)それは住民です。この国のどこにも住民の存在が書かれていませんよね。

――敵に皆殺しになっているということですか?

(飯柴)まさか! これは山桜でもそうですが、そもそも住民がいるということを考えてはいけないんです。

――狭い日本だから敵がどこに上陸しようとも、かならず住民がいます。その人たちは想定される戦場からできるかぎり離れようと家財を積んで逃げるはずだから、国道や高速道は渋滞になっちゃいますよね。そのあたりは、演習で検討しないんですか?

(飯柴)私の記憶するかぎり、そうした要素は演習から省かれていましたね?

――作家の司馬遼太郎先生は戦争末期、戦車隊の小隊長として栃木県佐野市におられたそうです。そのとき、アメリカ軍が上陸したら佐野から東京に出撃すると聞いた司馬さんは若い将校に「そうなれば市民は大混乱になりますが、どうすればいいですか」と聞いたところ、一言「ひき殺していく」と答えたそうです。このときに感じた、「日本人はどうしてこんな馬鹿になったのだろう」という疑問が後の創作活動の原点になったそうですが、そのときと変わっていませんね。

 

<本土決戦は愚の骨頂>

――話を戻しましょう。山桜演習で行なわれている本土防衛プランというのは、まったくの机上の空論だというのは分かりました。そもそも本土に敵が上陸した時点でゲームオーバーだというのが飯柴大尉のご指摘でした。

(飯柴)極論に聞こえるかもしれませんが、自分は陸上自衛隊不要論で考えています。陸自の大前提は本土防衛ですが、その本土防衛という目的を達成するには戦車をどれだけ持つかよりも、空自や海自に制空権、制海権を守ってもらいことが必須です。制空権、制海権が奪われて、上陸作戦を行なわれたら結果は火を見るより明らかですよ。

 

<離島奪回には揚陸作戦は不要>

(飯柴)そもそも海兵隊というのは外征専門部隊です。ご承知のとおり、海兵隊が創立されたのは敵国の海岸に上陸強襲するためです。今では航空機で敵地の奥深くに入るということのほうが多いわけですが、外征部隊である基本は変わりません。現状では憲法9条という縛りがある以上に、外征などありえない自衛隊がどうして日本版海兵隊をつくるのか、理解に苦しみます。

 

・(飯柴)自衛隊を活躍させたいんだったら、まず敵機や敵の艦艇、潜水艦が離島に近づいてきた段階ですみやかに撃退させればいいだけのことです。仮にそこで撃退できなくて上陸を許したとすれば、これは離島防衛作戦の失敗を意味します。そうじゃないですか?

 

<ミサイル撃墜よりも先制攻撃>

(飯柴)とりあえず、対ロシア、対北朝鮮、対中国――この3つの仮想敵に対応する。

 

陸自不要論>

・(飯柴)8割は不要と言いましたが、それは「防衛力として」という意味で、台風や地震などの災害対応部隊は必要です。日本版FEMA(連邦緊急事態管理庁)を創設します。また、PKOなどの国際貢献部隊も必須ですから、それは別途組織を作って残します。

 

自衛隊はなぜ「ダメな軍隊」になったのか>

地位協定の前提は「日本全土戦場化」>

――つまり、これは共産主義からの侵略があった場合、日本全土を戦場にするぞという意味なんです。

(飯柴)なるほど、そこが日本の出発点なんですね。だったら日本の陸自があんなにたくさんの戦車を持っているかが理解できます。要するに日本の自衛隊は日本を守るためでなく、アメリカの尖兵になる。だったら、日本で敵を上陸させて、そこで迎え撃つというシナリオは合理性がある。でも、それって「自衛」隊ではないですよね。日本が焦土と化してもかまわないという話です。

 

・(飯柴)なるほど、だからすでに敵が上陸しているという前提で演習を行なっても別にかまわない――いや、かまわないことはないでしょう。自分の国なんですよ ⁉ 自国が捨て石になって、焦土となってもかまわないなんて「戦略」、ありえませんよ。

 

軍法会議なき日本

・(飯柴)最も強調したいのが「日本にはセキュリティ・クリアランスがない」ということです。つまり、秘密保持の対策がまったくできていない。いくら強い軍隊をつくろうとして高い武器を買っても、情報管理ができていなければ意味がありません。日報問題にせよ何にせよ、多くの問題の根源にはこの「クリアランスの欠如」があります。

 

・(飯柴)でも、流出元とされて逮捕された3等海佐は当然、終身刑ですよね。

――懲役2年6ヵ月、執行猶予4年で判決が確定しました。

(飯柴)米国ではありえない判決です。スパイ行為は基本、仮釈放なしの終身刑です。

(飯柴)おまけに自衛隊には軍法会議がない。これはありえないですよ。

 

・(飯柴)何でも米軍の真似をする自衛隊が、まったく真似していないのが、セキュリティ・クリアランスです。つまり機密情報を取り扱う資格があるかどうかをチェックする制度です。これは自衛隊だけでなく、国会議員、警察などの司法関係、さらには民間の防衛産業の関係者もクリアランスを受けないといけません。ちなみに米国の場合はこのクリアランス制度はどの連邦職員も共通のもので、各省庁で異なるということはありません。

 

なぜ日本の自衛官には機密情報を見せてないのか

・(飯柴)でも、その自衛隊の1佐は米軍のクリアランスを受けているわけではないので、この1佐にかぎらず、クリアランスを保持していない人物がSCIF(機密情報施設。スキフと発音)に入る場合は、コンピューターの画面はすべてシャットダウンし、プリントアウトした機密書類も鍵が付いた金庫に収納したうえで入室してもらいます。その後に続くブリーフィングもグリーン色のファイルで行ないました。

 

・(飯柴)ひと口に機密といって、情報の機密性には何段階もの区分があります。機密性の低いものから順番に紹介していくと、

  1. 区分外(Unclassified)――機密でも何でもないもの。
  2. FOUO 公式使用のみ。外に持ち出してはいけない。
  3. SBU 区分外だけで、他言無用。「取扱注意」
  4. マル秘(コンフィデンシャル) これ以上の段階になるとシークレット・クリアランスの資格が必要になります。
  5. 極秘(シークレット)
  6. 最高機密(トップ・シークレット) シークレット・クリアランスのさらに上のトップシークレット・クリアランスを持っていないと見られません。

4-1 TS/SCI 日本語に直すと「最高機密防護所要区分情報」

 

これ以外にもTS/SAR(特に許可を得た者のみ閲覧可能な最高機密)というのもありますし、さらに詳細な振り分けがありますが、話が長くなるので省略します。

 

・(飯柴)米軍は日本のセキュリティ・クリアランスを信頼していません。それは日本国の首相相手でも同じで、開示している情報はすべて機密指定外のものばかりです。

 

――アメリカ大統領をファーストネームで呼び合える仲になっても関係ない。

(飯柴)もちろんです!もし、セキュリティ・クリアランスを受けていない人間に国家の秘密を漏らしたら、大統領であろうと国家反逆罪です。

――トランプ大統領プーチン大統領に情報を流したのではないかと大問題になっていますが、それもこれなんですね。

(飯柴)トランプ大統領は今のアメリカの最高権力者ですが、しかし、どんなに権力があっても勝手に機密指定を破ることは許されません。それをやったら無条件でアウトで、大統領は職を追われることにつながります。それほどの犯罪行為です。だからそういった報道がデタラメだというのは、クリアランスに関わった人間だったらすぐに分かることです。

 

セキュリティ・クリアランスとは

・(飯柴)アメリカでも同じで、民間の信用調査会社に問い合わせて調べます。

このファイナンスチェックは犯罪歴やメディカルチェックとは違って、100パーセントごまかせませんアメリカに居住している人間は皆9桁の社会保障番号、ソ-シャルセキュリティナンバー(日本のマイナンバーに当たる)を持っていて、この番号で経済活動が紐付けられています。番号が分かれば、借金があるかないかなど、その人の経済状態が一発で分かるんです。そして、その人の経済状態はスコアで表示されます。

 

・(飯柴)自衛隊員を含む公務員は言うまでもないですが、国会議員も当然、クリアランスを受けてもらいます。国会議員の下で働く秘書も同様です。さらに、三菱重工富士重工など、政府と契約している民間企業の人間もクリアランスを受けてもらわないといけません。政府の情報を知りうるわけですから。

 

・(飯柴)だから国家安全保障というのは、カネと時間と手間のかかる作業なんです。悠長なことは言っていられません。すぐに始めないと。現に中国やロシアは日本の情報を虎視眈々と狙っています。

 

・(飯柴)今のようにセキュリティ・クリアランスが充分になされていないのでは日米間の本当の情報共有などできるわけもない。

 

・(飯柴)アメリカが日本の核武装に反対するのも、根本はそれが理由だと思います。今のままの状態で日本が核を扱うようになれば、核兵器に関する情報はもとより、核兵器そのものが流出しかねませんからね。

 

なぜ日報問題は深刻なのか

・(飯柴)すでに述べたことと重なりますが、日報問題はまさに自衛隊の情報管理の緩さが現れたものですよ。

 

・(飯柴)これは「普通の軍隊」ならば軍法会議ものですよ。

――戦後の日本には軍法会議がありません。つくろうと思っても、憲法の規定でそれが禁止されています(第76条2項 特別裁判所は、これを設置することができない。)

(飯柴)そこも日本の自衛隊の大きな欠点ですね。

 なぜ軍隊にかぎって、特別な法(軍法)と特別な裁判所(軍法会議)が必要かというと、たとえば情報を外部に流出することは国家の危機に直結しかねないからです。

 

日本の平和ボケという病は重症なんですよ

・――セキュリティ・クリアランスを徹底しようとしたら、軍法会議までつくらないといけないわけですね。日本の自衛隊が「普通の軍隊」になるにはやらなきゃいけないことが多すぎますね。とても憲法を改正するくらいでは追いつかない。

 

(飯柴)そして鋭い方はもう気がついたかもしれませんが、セキュリティ・クリアランスのシステムを確立するには莫大なお金がかかります。OPM(人事管理局)の組織構築と人件費、各人のレコード・チェックにかかる捜査費用、秘匿回線ネットの構築、そしてその管理、情報の振り分け作業など、考えただけでもいくらかかるのか予想がつかないくらいです。額だけでなく、時間と手間もかかる作業です。

 

<ロシアと韓国の動きも重要>

(飯柴)それはこれまで何度も言ったとおりですよ。アメリカはアメリカの国益しか考えません。「日本を守る」ということはそこには含まれていません。それに米中の軍事衝突が起きる可能性はゼロではなく、その場合、日本が巻き込まれる確率はほぼ100パーセントと言っていいでしょう。その覚悟はすべきです。

 

911は「超限戦」の一環だった?

・(飯柴)アルカイダに対して中国が、なんらかの形で関わっていることは明白です。アルカイダから捕獲された武器やIED(即席爆発装置)、対戦車地雷などの多くは中国製ですからね。中国はアルカイダの動きについてなんらかの情報を得ていたのは間違いありません。

 それにその後の展開を見れば、911が中国の軍部にとって有利に働いたのも否定しがたい事実です。

 

<はたして日本は核武装すべきか?>

・(飯柴)彼ら(北朝鮮)が核兵器開発にぶち込んでいるのは、わずか2000億円弱と言われています。

――日本は年間5兆円、過去70年間、防衛予算をつぎ込んでいながら、アメリカ様の言いなりです。

・(飯柴)日本はアメリカ、ロシア、中国、北朝鮮核兵器を持った国々によって囲まれています。そうした国際環境にあって、日本だけが持っていない。「普通の国」ならば、自分も核兵器を持とうと考えます。また、それを当然とするのが現代の国際社会です。

――核兵器製造可能なレベルの濃縮プルトニウムが日本には核爆弾数千発分あると言われています。

 

核兵器の前にセキュリティ・クリアランスの構築を>

・(飯柴)でも、今の日本では材料があっても核兵器はつくれません。そもそもまともなセキュリティ・クリアランスさえできていないわけですから、そこから始めないとダメです。

 

・(飯柴)ですから国内にいる中国人はふるいにかけ、不法滞在者や犯罪を犯した者はバンバン強制送還し、送還前に指紋やDNAを採取しておいて再入国が不可能なようにするべきでしょう。これをやらないと日本が中から腐ってしまいます。

 

<第二の敗戦を避けるには>

・(飯柴)もちろん国防予算には限りがありますし、日本は莫大な国家債務を抱えています。カネに糸目をつけない軍拡なんてできるはずもないのですから、日本の採るべきCOA(統合作戦計画立案実行システム、任務遂行計画)は何かを徹底的に検討して、国家の体力に見合った形での改革をするしかない。その努力を怠っているのがいちばんの問題点です。

――冷戦時代の発想のまま、無駄なカネをダラダラと毎年使っている。「緩慢なる自殺」をしているのは今の日本ということですね。

 

飯柴智亮

軍事コンサルタント/元アメリカ陸軍大尉。1973年東京都生まれ。16歳で渡豪。米軍に入隊するため19歳で渡米。北ミシガン州立大学に入学し、士官候補生コースの訓練を修了。99年に永住権を得て米陸軍入隊。

・11年アラバマ州トロイ大学より国際政治学・国家安全保障分野の修士号を取得。著書に『第82空挺師団の日本人少尉』(並木書房)等。

 

 

 

『軍事のリアル』

 冨澤暉    新潮社   2017/11/16

 

 

 

米国安全保障戦略の揺らぎ

・米戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーのエドワード・ルトワックは、(1)財務省ウォール街は「親中」である、(2)国務省は「親中」と「反中」の間をゆれる、(3)国防総省は「反中」である、と言っている。

 彼は、財務省が「金融」にしか関心を持たず、そのため米製造業が凋落したと非難しつつも「財務省ウォール街と中国は利害共同体になっている」と述べたうえで国務長官ヒラリー・クリントンはやや「反中」だったが続くケリー長官は「より親中」で、その意味で国務省は「反中」と「親中」を右往左往している、としている。しかし、米海・空軍にとって、中国は少なくとも計画・調達の目的の上では、明らかに将来の「主敵」になっている、と述べている。

 

・では、米国の軍事戦略とは何なのか。考え方はいろいろある。主要なものを以下に列挙してみよう。

  1. 「(1)北朝鮮が残存性のある核能力を持つ可能性を踏まえ抑止力と即応体制を構築すべきである、(2)同盟国・友好国の軍事能力向上を推進すべきである、(3)中国との摩擦低減に努力すべきである」との3つの提言をしている。つまり「米国のアジア・リバランスは北朝鮮対応が主目的であり、全体としては米軍自身ではなく同盟国、友好国に期待し、しかも中国とは敵対しないように」と言っている訳である。
  2. 2010年の米国のQDR(4年毎の戦略見直し)にエア・シー・バトル(ASB)という言葉が現出して以来、日本では「これが米国の新戦略だ」と誤解する人々が増えた。彼らは、その直後にクリントン国務長官が「アジア・リバランス」という言葉を用いたこともあり「これからの米国戦略は対中戦略が全てであり、それが海・空戦略である」と早合点してしまったようである。

 

・あれだけの陸軍軍拡をし、海空軍軍縮をすれば、海空軍の不満が高じるのは当然である。そこで「海空軍には将来に備えて欲しい」と予算のつかない約束として提示されたのが「エア・シー・バトル」だったのである。

 

  1. 中国が接近阻止・領域拒否(A2AD)をやっているのだから、それに対し日本も中国に対しA2ADをやれば良い、そうすれば日本を隘路の門番にして中国軍を分散させ、米軍はもっと効率的・攻撃的な作戦に集中できる」といい、これを受けて日本でも、南西諸島周辺に自衛隊を配備してそのA2ADを準備しよう、という動きが盛り上がり、既にその一部の準備が進められている。

 

  1. 「オフショア・コントロール戦略」は「同盟国と協力しつつ中国による第1列島線以東、以南の海洋使用を拒否して島嶼を防衛し、その領域を支配しつつ遠くから中国のシーレーンを封鎖して経済消耗戦にもち込む」というものであり、当初から日米韓など南シナ海経由シーレーンを放棄したものであった。

 

  1. ザック・クーパー研究員は、もっと積極的に日米海軍(自衛隊)が共同して南シナ海での警戒活動をすべきだと提案した。

 

  1. 2つの面白い情報が入ってきた。1つは米国の国家安全保障会議国防総省に対して「大国間の競争」や「中国との競争」という言葉を使用しないようにという指示を出したというものであり、2つ目は米海軍トップの海軍作戦部長が「今後米海軍においてA2ADという用語を使用しないと発表した」というものである。

 

・主なものでも、米軍事戦略にはこれほどのバリエーションがある。何れにせよ、生煮えの米戦略案を追いかけ、それに合った日本の戦略を論ずることは禁物である。

 

オフショア・バランシング戦略とトランプ大統領

・数年前に、米国に潜在する幾つかの軍事戦略案を少し勉強していた。その中に、これまでに述べてきたものとは趣を異にする「オフショア・バランシング」という戦略があった。それは、

  1. 米国経済発展のため、米国は中国との軍事対立を避け良好な関係を保つ、
  2. しかし、中国軍事力が米国以上のものになるのも困る、
  3. このため、中国に対しては、北のロシア、西のインド、東の日本から、軍事的に牽制させる、
  4. そのため日本にも核兵器を持たせる
  5. オフ・ショア(沖合)に退いてはいるが所要に応じて戦力投射できる準備はしておく、

 というものであった。

 

それから数カ月を経て、トランプという米大統領候補が、彼らと概ね同様のことを言っていることを知った。今度は、このネオリアリストたちがトランプ大統領のスタッフたちに、どういう影響を与えるのかを見守って行きたい。

 

戦後70年の世界は、国際協調(グローバル化)という不可逆な流れの中にあると考えられてきたが、実は今、100年周期の「世界分裂」という、より大きいうねりを迎えられたのかもしれない。

 この状況の中から如何に新しい国際協調を生み出すのか、それとも本当にまたブロック化の時代が来るのならどのブロックに属して生きのびていくのか。国民1人1人が真剣に考えるべき秋(とき)を迎えたようである。

 

ミサイル防衛の限界と民間防衛

北朝鮮による核弾頭ミサイル攻撃に対して、日本のミサイル防衛システムでは対応できないことは、第5章で述べたとおりである。

 そこで日本も、艦艇搭載の非核巡航ミサイルなどにより敵基地を攻撃できるようにしては、という意見が20年も前からある。

 

ということになれば、本当に核攻撃から身を守るのであれば、日本でも「核シェルター」を準備して国民を守るしかない。「核シェルター」は1次放射線や爆風を避けるだけでなく「核の灰(フォールアウト)」やそこから発せられる2次放射線による被曝を避けるものとして有効である。スイス、イスラエルノルウェーアメリカ、ロシア、イギリス、シンガポールなどでは、50~100%の高率でシェルターが準備されていると聞く。日本では0.02%である。「日本は核兵器を認めていないからシェルターも認めていないのだ」という言い訳は、全く理屈になっていない。

 

せめて、各都市にある地下街に空気清浄機(濾過器)を設置し、そこに避難した人々が2週間程度暮らせる備蓄食料と上下水道を完備することぐらいは実行して貰いたいのだが、この「民防」を進んで担当する役所は、いまのところ国にも地方自治体にもない。無論、警察も防衛省もそれを担当する余力を持っていない。こうした準備は国民1人1人の意志とその要求によって初めて実現するものである。

 

専守防衛」は軍事的に成り立たない

理念は良いけど、対策は?

・何よりもまず、この戦略の基本理念を「国際協調主義に基づく積極的平和主義」としているところを筆者は高く評価している。

 

・本来、テロ・ゲリラ対策には人手を必要とする。1996年に韓国の江陵というところに北朝鮮特殊部隊員26人が上陸した時、49日間延べ150万人を投入して漸くこれを駆逐したという記録がある。そんなゲリラが日本国内で数チームも出現したら、街のお巡りさんを含む全国29万の警察と14万の陸上自衛隊では如何ともしがたい。特に、全国50数カ所にある原子力発電所の幾つかが同時にゲリラ部隊に襲われたらどうするのか。現職自衛隊員たちは「それは警察の任務で我々のものではありません」と言うしかないが、警察は「十分に対応できます」と言えるのだろうか。

 中国は220万の軍隊の他に150万の武装警察と800万の民兵を持っている。日本のスケールが中国の10分の1だとすれば、15万の武装警察と80万の民兵が要ることになる。しかし、そんな話をする人はどこにもいない。

 つまり、国家安全保障戦略は、看板はよく出来ているが中身は看板に相応しくないものだ、と言わざるを得ないのだ。

 

そもそも専守防衛は成り立つのか

そもそも「専守防衛」というものは軍事的に成り立たないものである。如何にガードとジャブが上手くても、相手を倒すストレートかフックのパンチを持たないボクサーが勝てないのと同じことである。或いは、一定時間を稼いで全体に寄与する城や要塞はあり得ても、日本のように広正面の国をハリネズミのように守る技術はなく、あったとしても天文学的な金額がかかるのでそれは不可能だということでもある。

 日本が「専守防衛」で何とかやれるのは「自衛隊は盾の役割を担当し、米軍が矛(槍)の役割を果たす」という「日米ガイドライン」による約束があるからである。米国がその約束をとり消した場合には、自衛隊の予算をいくら増やしたところで「専守防衛」の国防はなりたたない、ということを、国民は良く承知しなければならない。

 

世界秩序を支える核兵器

20世紀前半(1945年まで)には第1次世界大戦と第2次世界大戦という戦争があり、その戦争で5000万~6000万の人が亡くなった。それ以降、ソ連が崩壊する91年までの約45年間は冷戦時代で、米ソ間の国家観決戦はなかったが、朝鮮・ベトナム戦争に代表される代理・局地・制限戦が行われ、結局2000万人強の戦死者を出した(中国文化大革命での犠牲者数は除く)。

 20世紀前半の世界人口は約25億人で後半の人口は約50億人だから、戦死者の比率は前半に比べ後半は約5分の1に減少したといえる。ということは、前半より後半の方がはるかに平和になったということである。

 

・91年以降の約25年間にも各種民族紛争が続いたが、人口の多い国同士の国家間決戦は殆どなく、戦死者総数は前2期に比べ明かに減っている。たとえば戦死者数について、朝鮮戦争での米軍3万4000、中国義勇軍90万、北朝鮮52万、ベトナム戦争での米軍4万6000、韓国5000、ベトナム・ベトコン90万、イラク戦争での米軍など4800、イラク(民間人を含み)15万~65万(65万は誇張と言われているが)という概略数が報告されている。

 

恐ろしい兵器だからこそ平和に資する

・日本では特に「核廃絶」を主張する人々が多いが、本当に世界から核がなくなっても世界に平和は訪れないであろう。なぜなら在来型(通常型)兵器が残るからである。

 在来型兵器はその使用者に「相手を絶滅させても、自分は生き残れる」という可能性を与える。核兵器に比べ在来兵器には「軍事的相互脆弱性」がない

 

NPTは不平等な秩序ではあるけれど

・インドとパキスタンの核は、両国間の戦争抑止を目的とし、それなりに成果を上げてはいるが、世界秩序(平和)の維持にはそれほど関係がないともいえる。

 北朝鮮の核弾頭の数は定かではないが、金正恩朝鮮労働党委員長が「ミサイルの目標は在日米軍基地だ」と明言したことにより、日本・世界の秩序(平和)破壊に関わるものとなった。

 

日本は核武装すべきではないけれど

・NPT加盟国たる日本が核武装することは、できないしすべきではない、というのが筆者の考えである。軍事は外交の背景として存在するものだから、日本が孤立化し、その外交が成り立たなくなるような軍事措置をとってはいけない。

 しかし、外交が核武装を求める事態になった場合は別である。最大の同盟国たる米国自身が日本核武装を求める事態になった場合は別である。最大の同盟国たる米国自身が日本核武装を公式に要求してきたような時には、国際情勢を良く分析し、国家戦略を再構築し、それに沿った軍事措置をとらねばならない。例えば韓国が核武装した場合などには、諸外国の態度も変わり、国民感情も変わるかもしれない。その時のことは考えておかなければならない。

 

最大の難問は国民の反対が多く残る中で、核兵器装備化へのロードマップを描ける政治家・学者・官僚が全くいないことだ。仮に米国が豹変し、日本核武装を押し付けようと各種の米国人たちがやってきたとしても、これに協力できる有力な日本人はどこにもいないだろう。

 そうなると核兵器の借用、すなわち「ニュークリアー・シェアリング」はどうか、という話が出てくる。しかし、これはかつてソ連の大戦車軍団が欧州を襲う時、核兵器で止めるしかなく、その場合、投射手段が不足し猫の手も借りたい米軍が欧州各国の航空機などに核弾頭を載せてもらおうという趣旨のものであり、弾薬庫の鍵を米軍が持つこともあり、各国の自主的な核兵器とはいえない。大戦車軍団の侵攻は現在では考えられず、欧州における「ニュークリアー・シェアリング」は今や形骸化していると聞く。同様の施策を日本が取ったとして何の意味があるのか、と議論する必要がある。

 

それでも大事なのは「本腰」

トランプ米大統領は日本に対し、NATO北大西洋条約機構)並みのGDP2%の軍事支出を求めている。その当否はおくも、それが実現した場合には米国製対空ミサイルを買うことより、陸上自衛隊の足腰を強化することの方がより大切であると筆者は考えている。

 

「徴兵制」と「志願制」

・現在、G7の中に徴兵制をとっている国は1カ国もない。このG7にロシアとEU、更に新興経済国11カ国を加えてG20と称するが、これらの中でなお徴兵制をとっている国は、ロシア、中国、韓国、トルコ、ブラジル、メキシコの6カ国だけである。

 

・ロシアは10年以上も前から志願制に変更したいと言っているが、領土が広いのでなお100万人の軍人定数を維持している。

 

・中国は選抜徴兵制をとっている。13億の人口に対して220万の軍隊だから、1億3000万弱の人口で24万の自衛官を持つ日本と、軍人/人口比はほぼ同じである。中国人は、日本人以上に兵隊になることを嫌っている。「好鉄不打釘、好人不当兵(良い鉄は釘にならない、良い人は兵にならない)」という古い言葉があり、今でも多くの人たちがそう言っているらしい。

 

・「それじゃ、兵隊が集まらなくて困るね」というと、「大丈夫です。貧乏な農村地帯の青年たちが軍隊に入りたがってますから、兵隊が足りなくなることはありません。兵隊は共産党員になる近道で、党員になれれば田舎に帰って郷長(村長)にもなれるから人気があるんです」という、どこまで本当かは分からないが、如何にもありそうな話であった。別の人に聞いたら志願兵を希望するものが多く、その志願兵に合格できなかった者が徴兵枠で採用されるというシステムになっているとのことであった。

 

韓国は北朝鮮と休戦状態を続けているため、徴兵制を止められずにいる。しかし、大学進学率の向上など若者世代の変化があり、良心的兵役拒否が認められないといった特殊事情も加わって、徴兵上の様々な問題が生起している。

 

・スイスは1648年のウェストファリア条約で独立した小国(現人口842万人)であるが、独立以来永世中立国であり、その中立政策を守るため370年間、徴兵制を続けている。

 

・西ドイツは1955年に志願制のドイツ連邦軍を編成したが、募集に応じる者が少なかったので、やむを得ず1956年に徴兵制を復活させた。

 

・2002年から、ドイツ連邦軍兵士の兵役期間は10カ月から9カ月へと更に短縮された。兵役拒否者の奉仕期間は兵役より長いことが原則だったが、2004年からは兵役期間と同じ9カ月になった。そして2011年6月末をもって、ドイツの徴兵制は終った。

 

イタリア軍1860年代から徴兵制度を続けてきたが、2000年に徴兵制廃止を決定、2005年から完全志願制の軍隊となった

 

・徴兵制は廃止されたが「国家の防衛は共和国市民の神聖な義務である」とする憲法条項は、そのまま残されている。

 

自衛隊は「苦役」なのか

・「日本の徴兵制復活は?」という質問に対し、歴代政府はいつも憲法第18条の「何人も、(中略)犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」を理由に、「憲法違反の徴兵制復活はありえない」と説明する。「苦役」の意味を、囚人たちでも理解しないというこの時代に、何たる言葉を使うのであろうか。自衛官をして「苦役を自ら志願する変わり者」とするこの表現は差別であり許せない。「日本の防衛政策は、徴兵制よりも志願制を求めている」と理路整然と説明するのが政府の責務である。

 

勿論、「国家間決戦なき時代」が永遠に続くとは言い切れないから、徴兵・志願という政策は固定化すべきものではない。それよりも憲法に固定化すべきは、イタリアのように「国家の防衛は国民の義務である」ということではないか。日本は国民主権の民主主義国家なのだから。

 

 

 

<●●インターネット情報から●●>

「新潮社サイト」から引用

<軍人と文人

 『軍事のリアル』の著者、冨澤暉さんは、陸上自衛隊トップの陸上幕僚長までおつとめになった方ですが、不思議と文人と縁があります。

  実は、冨澤さんのお父さんは、戦前に芥川賞を受賞した冨澤有為男という作家で、代表作は新潮社から出版しています。お住まいも新潮社のすぐそばだったそうです。

  その後、戦中に福島に疎開し、家族は戦後も福島に住み続けますが、冨澤さんは東京に戻り日比谷高校に通いました。ここでは庄司薫古井由吉という、二人の将来の芥川賞作家が同級生になりました。在学中は特に交流はなかったそうですが、同級生には塩野七生さんもいました。ついでに言えば、東京で下宿していた先は、お父さんに私淑していた作家志望のお坊さんが住職を務めるお寺で、そのお坊さんも後に直木賞作家になっています(筆名・寺内大吉)。

  ちなみに岳父は戦中に東南アジアで情報活動をしていた陸軍軍人の藤原岩市で、その著書『F機関』は、情報関係者にとっては必読の古典となっています。

 

 

<●●インターネット情報から●●>

ウィキペディアWikipediaより引用

 

デイビー・クロケット (戦術核兵器)

M-388 デイビー・クロケットは、アメリカ合衆国が開発した戦術核兵器の一つ。名称は、アラモの戦いで玉砕した英雄デイヴィッド・クロケットの名に因む。

M-388は、無反動砲にW54核弾頭を外装式に装填し運用する外装式砲弾システムである。無反動砲は口径4インチ(102mm)のM-28と6インチ(152mm)のM-29の2種類があった。M-28の最大射程は約2km、M-29は約4km。W54核弾頭の核出力は0.02kt(TNT火薬20トン相当)であった。

 

弾頭の威力は、主に強烈な放射線の効果によるものである。低出力の設定でも、M-388核弾頭は150メートル以内の目標に対し即座に死亡する強さの放射線(10,000レム(100シーベルト)を超える)を浴びせる。400メートル離れていてもほぼ死亡するレベル(およそ600レム(6シーベルト)に達する。

M-28およびM-29は車載もしくは地面に三脚で設置して発射する。

 

 

ウィキペディアWikipediaより引用

 

「W54(核弾頭)」

W54は、アメリカ合衆国が開発した核弾頭。超小型の核弾頭であり、重量は50ポンド(約23kg)ほどである。開発はロスアラモス国立研究所で行われ、1961年-1962年にかけて400発が生産された。1971年頃まで部隊配備されていた。

 

概要

これは、戦術目的で用いる核兵器であり、小型で可搬性が高く、発射部隊や味方を爆発被害に巻き込まないように、爆発威力を低く抑えることを目的として開発された。1957年頃から低核出力の核実験が繰り返されたが、威力が100ktオーダーになるなど、低く抑えることは難しかった。実験を繰り返し1961年までには核爆発を低威力に抑えることに成功した。W54自身は1962年に2回の核実験が行われ、22tと18tの核出力を記録している。

 

W54は、プルトニウムを用いたインプロージョン方式の核分裂弾頭であり、サイズは直径27cm、長さ40cm。核出力は10-250t。後のW72核弾頭は、W54を再使用・再設計したものである

 

バリエーション

Mk.54デイビー・クロケット用。歩兵が運用する無反動砲砲弾であり、アメリカ陸軍で運用された。核出力10tまたは20t、時限信管。

Mk.54特殊核爆破資材(SADM)用。アメリカ海軍およびアメリ海兵隊特殊部隊向けの装備であり、人力で運搬可能で、爆破地点に設置する資材である。核出力10t-1kt、時限信管。

W54 AIM-26A ファルコン核空対空ミサイル用。核出力250t、触発および近接信管。アメリカ空軍で運用。

 

 

 

『逆説の軍事論』   平和を支える論理

陸上幕僚長  冨澤暉   バジリコ  2015/6/19

    

 

 

<敵地攻撃の難しさ>

敵地を攻撃するといっても、軍事的な観点から考えると、これは至難の業ですアメリカですら、目標情報が掴めないと嘆いている現状で、日本がどのように独自に目標情報を得るのか。北朝鮮を24時間監視するためには、どれだけの偵察衛星が必要なのか。

 

さらに攻撃兵器の問題もあります。日本が核兵器保有していれば、敵ミサイル陣地にでも、あるいは平壌のような都市でも効果的な攻撃ができるでしょうが、核はないのだから、攻撃のためには空爆であろうとトマホークのような巡航ミサイルであろうと天文学的な弾量を整備する必要があります。そのための予算をどこまで投入するのでしょうか。しかも、その効果は未知数です。

 

・ここで、従来型の「個別的安全保障」ではなく、「集団(的)安全保障」の枠組みの中で対応を考えることが重要になってくるのです。複雑な民族感情を越えて協力していくためにも、国連軍または多国籍軍という枠組みを活用することが重要になるわけです。

 

<日本の核武装

政治家の中には、北朝鮮の核実験に対抗して、日本も核武装の議論をすべきだという人がいます。

 

・重要なのは、ただ核兵器の議論をすることではなく、関連するすべての政治・軍事問題を広く、かつ、もれなく検討し、核を持った場合、あるいは持たない場合の外交の在り方や在来兵器による防衛力整備の在り方を議論することなのです。

 

政治的にいえば、核武装論の裏側には、「中国の軍備増強への対応」や「アメリカに対する日本の自主性確立」という問題が潜んでいます。

 

・一連のシナリオを想定し、それぞれについてシュミュレーションし、備えておく必要があります。

 

<戦車の再評価>

・日本でも、このテロ・ゲリラ対策のため歩兵を増やす必要があるのですが、人件費が高く隊員募集に苦しむ陸上自衛隊の兵員数を増やすことは困難だといわれています。だとすれば、各地方に防災・消防を兼ね情報・警備を担当するかつての「消防団」のような「郷土防衛隊」が必要となりますが、これを組織するのは防衛省自衛隊の仕事ではなく、総務省と各自治体の役割でしょう。

 ともあれ、防衛省自衛隊としては歩兵の戦いを少しでも効率的にするための砲兵・戦車の数を確保する必要があろうかと思われます。

 

・現在、日本へのテロ・ゲリラ攻撃はありません。しかし、仮に朝鮮半島で動乱が起きた場合、日本全国でテロ・ゲリラ攻撃が多発する恐れは十分に考えられます。

 

<その破壊が直接国民生活を脅かす無数の脆弱施設が全国に存在>

難民を担当するのは入国管理局でしょうが、何万、何十万になるかもしれない難民を日本はどう受け入れるつもりなのでしょうか。まさか、戦時の朝鮮半島に送り返すわけにはいかないでしょう。この人々への対応が悪ければ、混乱も起きるでしょう。収容施設、給食など生活環境の支援、さらには治安維持のために警察、自衛隊は何ができるのか。そうした有事への準備が既にできているとは寡聞にして聞きません。

 

・さらにいえば、こうした事態は全国で分散同時発生するので、とても現在の陸上自衛隊の歩兵では数が足りません。実は、そのわずかな歩兵を支援する兵器として戦車ほど有効な兵器はないのです。

 

軍事というパラドックス

・さて、軍事とは人間社会固有の概念です。したがって、軍事について考える際には、私たち人間の本質をまずは押さえておかなければなりません。すなわち、「闘争本能」と「闘争回避本能」という人間固有の矛盾した特性です。

 

一部の例外を除き、人は誰しも死にたくない、殺したくないと思っているはずです。にも関わらず、有史以来人間は日々、せっせと殺し合いをしてきたという現実があります。

 19世紀ロシアの文豪トルストイの代表作に『戦争と平和』という大長編小説がありますが、人類の歴史はまさしく戦争と平和の繰り返しだったといえましょう。どうした天の配剤か、人間はほとんど本能のように闘争を繰り返す一方で、争いを回避し平和な生活を維持するための方法を模索してもきました。

 人は一般に他者からの支配、干渉を好まず、誰しも独立(自立)して自由に生きたいと考えているはずですが、自由とは欲望(利害)と切り離せない概念でもあります。

 そして、そうした人間同士が集まり集団(社会)を形成すると必ず争いが起こり、往々にして生命のやりとりにまで至ることになります。それは、民族や国家といった特定の集団内でもそうだし、集団と集団の間においてもしかりです。

 ただ、人間は他の動物と峻別される高度な知恵を有しています。そして、その地位を使い、自分たちが構成する社会の中に法律、ルール、道徳などによって一定の秩序を設計し、争いを回避する工夫をしてきました。

 

・要するに、21世紀の現在においても、「世界の秩序」と「個々の国家の自由・独立」の関係は、「国家」と「個人」の関係よりはるかに未成熟であり、極めて不安定な状態にあるという他ありません。

 軍事について考えるとき、私たちは好むと好まざるとに関わらず、こうした世界に生きているということを認識することから始めるべきでしょう。

 

ところで、国内の秩序を維持するための「力」を付与されている組織は一般に警察ですが、国際秩序を維持するための「力」とは100年前までほぼ軍事力のことでした

 現代世界では、経済力、文化力、あるいはそれらを含めた「渉外機能としての外交力」の比重が高まり、脚光も浴びています。しかし、だからといって軍事力の重要性が低下したわけではありません。

 軍事の在り方は戦前と戦後では異なるし、戦後も米ソ冷戦時代とソ連崩壊後、アメリカにおける9・11同時多発テロ後ではかなり変化しています。ある意味で、世界秩序における軍事の重要度は、以前よりもむしろ高まっているといえます。

 

「世界中から軍事力を排除すれば平和になるのだ」という単純な論理

・ひとつ、例をあげてみましょう。つい20年ほど前、ルワンダで10万人以上の人々が鉈や棍棒で殺戮されるという悲惨な民族紛争が起きました。私たちは、この事実をどう理解すればよいのでしょうか。

 

・現実には軍事力こそ戦争の抑止に大きな役割を果たしているというのが私たち人間の世界の実相です。

 

・周知の通り、20世紀は「戦争の世紀」といわれています。世界の人口が25億~30億人であった20世紀前半、2度の世界大戦における死者数は5000万人~6000万人にのぼりました。一方、20世紀後半の戦争、すなわち朝鮮戦争ベトナム戦争をはじめとする「代理・限定・局地戦」と呼ばれる戦争での死者数は3000万人以下とされています。また、その間に世界の人口が60億~70億人に増加したことを考え合わせると、20世紀の前半より後半の方が、はるかに平和になった、ともいえます。

 

・米ソ2極時代、互いが消滅するような核戦争を起こすことは、現実には不可能でした。また、核兵器保有しない国同士による戦争が世界戦争に発展しないよう、米ソ2大軍事大国が、通常兵器の威力をもって抑え込んだことも一定の抑止となりました。

 まことに皮肉なことながら、大量破壊兵器である核兵器の存在が20世紀後半の世界に相対的平和をもたらした要因であることは事実なのです。

 

いずれにせよ、歴史が教える通り、最も危険なことは無知であることなのです

・その間、日本政府が宣言した非核三原則にも関わらず、核兵器が持ち込まれていたことも、アメリカの外交文書が公開されたことから明らかになっています。

 以上のような事実から導かれるのは「憲法第9条により軍隊を保有しなかったために日本は平和を享受できた」という説がフィクションだということです。

 

・以上述べてきたことからわかるように、人間の世界において軍事とは平和と不即不離の壮大なパラドックスということができるのではないでしょうか。

 

軍隊とは、武力の行使と準備により、任務を達成する国家の組織である

・現実に武力を行使するかどうかではなく、悲惨な歴史的教訓がその背景にあるわけです。現実に武力を行使するかどうかではなく、武力を行使する準備があると相手に理解させることが大切だと考えているのです。

 

安全保障を成立させる4つの方法

・脅威に対して価値を守る手段として次にあげるような4つの方法があるように思えます。

① 失って困るような価値は最初から持たない

② 脅威(敵)をなくす。または敵の力、意志を弱める

③ 被害を被っても、その被害を最小限に食い止め、回復するための準備をしておく

④ 脅威(敵)をつくらない。あるいは敵を味方にする

 

・以上、4つの手段を紹介しましたが、これらを見ても、安全保障の設計には外交と軍事両面が重要だとおわかりいただけるはずです。軍事なくして安全保障は成立しませんし、軍事だけでも安全は確保できません。安全保障においては、軍事と外交が両輪となって機能していくということをここでは理解してください。

 

情報

なぜいま「情報」なのか

大東亜戦争時の帝国陸海軍は「情報」を軽視しそれ故に敗れた、ということがよくいわれます。私もその意見に同意します。確かに、作戦畑しか経験しなかった元帝国陸軍将校の一部に、自衛隊員になってからも「あの情報屋たちの書く情報見積もりなど、30分もあれば俺がひとりで書いてみせる」と言う勇ましい人がいたことは事実です。ですが、このような情報軽視の根本的原因は、このような作戦将校たちにあったのではなく、情報将校をも含む陸海軍全体に、さらにはその背景をなす日本国民全体の中にこそあった、と知らなければなりません。

 

・民主主義世界ではすべての情報を互いに公開すべきだという意見がありますが、「闘いの世界」では秘密保全は極めて重要なことです。それは民主主義世界においても皆さんの個人情報が保全される必要があるということと実は同義なのです。

 正しく説得力のある情報は、作戦担当者の決断を促し、時にはその決断を強要するものでなければなりません。情報は学問の世界における「知識ならぬ知(智)」です。日本では「水と情報は無料」だという誤解がありますが、これらは本来極めて価値ある(高価な)ものであると認識する必要があります。自衛隊が、そして国中が情報の価値を認識した時、情報軽視(蔑視)という悪弊は消え去り、国民もより強靭になることでしょう。

 

機械的情報と人間情報

・そして、最も上質の人間情報とは、相手の意図を戦わずして我が意図に同化させることなのです。その意味では今、政治的にも「首脳外交」が、そして軍事的には「防衛交流」が、ますます重要になってきているといえるでしょう。

 

「三戦」時代の情報

・既に述べたことですが、中国は「今や三戦(心理戦、広報宣伝戦、法律戦)の時代である」と自ら宣言してその「戦い」を推進しています。彼らは、その三戦の背景を為すものとして軍事力を極めて有効に使用します。

 我が国の安全保障分野に従事する者は、その中国の三戦の背景にある軍事力がどのようなものであるかを見抜く情報能力を持たなければなりません。

 

・逆に、自衛隊の軍事力が日本の三戦の背景の一部としてどれだけ効果的なものであるか、それを増強するにはどうすべきか、について国家安全保障局、外務省、財務省に進言しなければなりません。

 すなわち、現代の軍事情報そのものが三戦(心理戦、広報宣伝戦、法律戦)を含んだ戦略分野に移行しつつあるということなのです。

 

<作戦>

戦略と戦術

・軍事における作戦は、将校(幹部自衛官)の本業(主特技)だといわれています。しかし、情報を軽視した作戦はあり得ないし、後述する教育・訓練や兵站を無視した作戦もあり得ません。

 

アメリカの存在感の相対的低下、中国の経済力・軍事力の爆発的拡大と覇権的野望、北朝鮮の核保有、韓国の国家レベルでの反日キャンペーン。冷戦後、ほぼ同時期に起こったこうした変化は、当然のことながら日本の安全保障に大きな影響を及ぼさざるを得ません。

 加えて、戦後長らく続いた日本の経済中心戦略は綻びを顕にします。バブル崩はじめとする壊を経て、肝心の経済力の凋落は覆うべくもありません。経済紙誌をはじめとするメディアが日本の状況を「第二の敗戦」と表現してから久しく時が流れました。

 

いずれにせよ、戦略とは自衛官(軍人)の問題ではなく、政治家、そしてその政治家を選ぶ国民1人ひとりの問題であるということをここでは指摘しておきます。

 

戦術における基本原則

・「専守防衛」という言葉は、かつての自衛隊では「戦略守勢」といっていたのですが、1970年頃に中曽根防衛庁長官がつくった『日本の防衛』において「専守防衛」に換えられました。もっとも、この「専守防衛」という言葉をはじめに発明した人は中曽根長官ではなく、意外にも航空自衛隊幹部(一空佐)であったという話です。

 国策を変えるということは戦略を変えるということなので、現職自衛官からは言い出しにくい問題です。しかし、私ども自衛官OBは、「攻撃は一切しない」と誤解されやすく、自衛官という専門家の手足を必要以上に縛りかねないこの「専守防衛」を「専守守勢」という本来の言葉に戻してほしい、と考えています。

 

日本の戦略

・日本の戦略は、外交・経済・文化・軍事等の専門家の意見を聞いて、国民の代表たる政治家が決定すべきものです。その意味で、2013年の秋に新組織・国家安全保障会議によって、日本初の「国家安全保障戦略」ができたことは、評価されてもよいと私は考えています。

 

・確かに、現代の日本の脅威は「大量破壊兵器の拡大」と「国際テロ・ゲリラ」なのです。

 

PKO等海外勤務の増加

・「後方部隊は後方にいるので安全である」というのは正に神話です。後方兵站部隊は防御力が弱いので、敵方からすれば格好の攻撃目標となります。また後方兵站部隊が叩かれれば戦闘部隊の士気は下がり、戦闘力も確実に落ちます。

 

装備

オールラウンドな装備体系を

・これらの兵器(装備)は、互いにそれを使わないようにするために存在するのですが、どんな兵器がどこで、いつどのようにつかわれるかは不明です。数量の問題については別途検討する必要がありますが、装備の質はオールラウンド、すべて整えておくというのが正道なのです。

 なお、核兵器による抑止という面についていえば、現実に保有しなくても保有できる能力を持ち続けるということで日本は対応すべきだと私は考えます。

 

これからの自衛隊

変化する自衛隊の役割

・世界情勢の変化に対応して、自衛隊に求められる役割も大きく変化してきています。

繰り返しになりますが、現在の自衛隊が求められている任務は次の3点です。

① アメリカ主導の一極秩序を維持するためのバランスウェイト(重石)、あるいはバランサー(釣り合いを取る機能)となること

② 各国との共同による世界秩序を崩す勢力の排除

③ 世界秩序が崩壊した時への準備

 

しかし、いつの日か最悪の状況下で個別的自衛だけで生き延びなければならなくなった時、最期の頼りとなるのは自衛隊です。そう考えると、何よりも人材の育成と技術開発が重要になります。具体的な兵器を揃えるとか、部隊の編成をどうするかという話よりも、どのような状況にも対応できる人と技術を備えておくことが、防衛力の基礎となるのです。

 日本の防衛力整備を考えると、現在はハードよりもソフトが重要になっています。人材や情報ももちろんそうですが、自衛隊が行動する上での法律や運用規則の整備も必要です。

 

「自衛」を越えて

憲法改正をめぐる議論の中で、自衛隊の名称を変更すべきだとする話があります。自民党憲法改正案では「国防軍」となっています。長い間務めた組織ですから、自衛隊の名前には愛着がありますが、私も改称する時期に来ていると思います。

 

陸上自衛隊への期待

・そして外国からの援助が期待できなくなった時、最も頼りになるのは国産装備です。すべての装備というわけにはいきませんが、本当に基幹となる装備だけは、自前で生産とメンテナンスができる体制をつくっておかなければなりません。こればかりは事態が迫ってから準備を始めても間に合わないので、30年後、50年後を見据え、今から基礎を打っておくことが必要です。

 最後に、すべてを通じて最も重要な事は、第一も第二も第三の役割も、どれをとっても自衛隊だけでは果たし得ないということです。国民・地元民・友軍・ボランティア団体等の絶大な信頼と支援がなければ、自衛隊は何をすることもできないのです。

 

自衛隊は強いのか

・そこで、「艦艇の総トン数にして海上自衛隊は世界5~7位の海軍、作戦機の機数でいうと航空自衛隊は世界で20位ぐらいの空軍、兵員の総数からし陸上自衛隊は世界で30位前後の陸軍、というのが静的・客観的な評価基準です。真の実力はその基準よりも上とも下ともいえるわけで、想定する戦いの場によって変わってきます」と答えることにしています。

 

・現実に、隊員たちは極めて厳しい訓練に参加しており、安全管理に徹しつつも、残念ながら自衛隊発足時から60年間に1500人(年平均25人)を超える訓練死者(殉職者)を出しています。殉職した隊員たちは、この訓練は危険な厳しい訓練だと承知した上でこれに臨み、亡くなった方々です。

 

・「自衛隊は強いのか」という質問は、実は「国民は強いのか」と言い換えて、国民1人ひとりが自問自答すべきものなのではないか、私はそう考えています。その意味で徴兵制の有無に関わらず、「国民の国防義務」を明記した多くの諸外国憲法は参考になると思います。

 

 

 

自衛隊の情報戦』  陸幕第二部長の回想

塚本勝一  草思社  2008/9

 

 

 

情報担当

陸上幕僚監部(陸幕)の第二部(情報担当)長をつとめ、朝鮮半島の問題のエキスパートとして知られる元高級幹部が、ベールに覆われていた活動の実相を初めて明らかにする。

 

・「よど号」ハイジャック事件と「金大中拉致事件」が多くのスぺ―スを占めているが、これは前者は、私が直接体験した事件であり、これを刻銘に追って記録としてとどめ、後者はなんの根拠もなく陸幕第二部が中傷されたことがあり、これまで適切な反論がなかったのでやや詳細に事実を記述した。

 

これからの防衛省に何が必要か

国防力の狙いは「抑止力」

・国防力の最大の狙いは「抑止力」なのである。だから防衛省などと言わずに「国防省」とし、日本の強い意志を内外に示したほうがよかったであろう。強い意志を示すことが一つの抑止なのである。この自主国防への意識の改革が、まず重要な課題である。

 

イラク派遣の無形の収穫

・一方でイラクへの自衛隊派遣は、自衛隊自身にとって大きな収穫があった。それは、自衛官一人ひとりが統率の緊要性に目覚めたことであった。平和な状態に馴れた自衛隊は、物質万能の世相を受けて、ややもすれば物品を管理する曹(下士官)が幹部(将校)より力を持つことになった。イラクへの派遣は、この傾向を霧散させた。指揮系統の重要性を体得して、軍(部隊)の統率の本来あるべき姿に帰ったのである。この無形の収穫は、はかり知れないほど大きい。

 

武装集団にとって、士気は重要な要素である

・私の体験からも、自衛隊は永年にわたって下積みの苦労を味わってきた。当初は「税金泥棒」とすら言われ、その後も日陰の扱いが続いた。それに耐えて黙々と訓練にはげみ、災害派遣では最も厳しい場で任務を果たしてきた。

 

老兵からのメッセージ

・当時の日本軍は、第1次世界大戦か日露戦争の頃とあまり変わらない歩兵が主体の軍隊であった。いわゆる「75センチ、114歩」、すなわち歩幅は75センチ、1分間に114歩で行動するしかないということだ。戦後になって米軍がジープという小型の全輪駆動車を、ごく普通に使っているのを見て驚いたものである。

 

・その後、内地の陸軍通信学校に入校し、すでに米英軍ではレーダーが実用化されていることを知った。科学技術の遅れを痛感させられたが、われわれ軍人だけではどうしようもなかった。また陸軍大学校の最後の卒業生の一人として、ほんの少しだけにしろ、終戦当時の大本営の緊迫した空気にも接した。戦後、旧軍人に対する公職追放の解除とともに、警察予備隊に入隊し、創隊当初の苦労も味わった。

 警察予備隊では米軍人が顧問で、最初は旧軍人を完全に排除していたため、米軍のマニュアル(教範)を日系二世が翻訳して訓練していたから、珍談にはこと欠かない。

 

・自分で経験し、または見聞したことを、断片的ながら取り上げ、なんらかの参考になればと記述したものが本書である。「針の穴から天井をのぞく」「九牛の一毛」の謗りは免れないが、あえて世に問うものである。

 

リーダーシップ。長幼の序、軍紀、科学技術

終戦間近の陸軍大学校でも科学教育はなされており、われわれは仁科研究所の所員から核兵器の講話を聞いたことがある。原子爆弾についての机上の研究は終わり、製造の予算を請求したが却下されたとのことであった。この戦局ではそんな予算がないし、間に合わないであろうという理由だったそうである。

 そこで仁科研究所は原子爆弾の開発を中止し、殺人光線の研究に切り替えたと語っていた。今に言うレーザー光線のことであろうが、大きな設備で至近距離の小動物を殺傷するのが限界だったようである。またこの研究所には、優秀な朝鮮系の研究者がおり、そのうちの3人が戦後に北朝鮮に渡り、北朝鮮核兵器開発の中堅となったことは、時世の運命としか言いようがない。

 

「ときすでに遅し」の陸軍中野学校

明治維新における西郷隆盛も、謀略を駆使して無益な戦闘を避けつつ、徳川幕府を倒した。また日露戦争中における明石元二郎大佐(のち大将)の対露工作も著名であった。明石大佐はストックホルムを拠点とし、ロシアの反政府組織を支援し、日露戦争を側面から支えた。この工作資金として百万円支給されたと言われるが、当時の陸軍予算が四千二百万円であったことを思えば、その巨額さには驚かされる。

 

山本五十六連合艦隊司令長官は、開戦に先立ち「1年は暴れて見せる」との言葉を残したが、その後については、「2年、3年となれば、まったく確信が持てない」と率直に述べている。

 

・人の発言の裏を読むことを訓練されている情報屋が山本五十六の発言を耳にすれば、2年目からは自信がない、戦争終結の方策を考えよと言っていることに気がつく。それが情報担当者の習性であり、かつ責務である。ところが当時の情報屋の発言力は弱く、そこまで読んだ人が表に出られなかった。そして、純粋培養された中堅の幕僚のほとんどは、当面の作戦のほかに考えが及ばなかった。これが国を大きく誤らせたと言える。

 

南京事件」と宣伝戦の巧拙

2年後の南京に「戦場のにおい」なし

間違えてはならない住民対策

・この沖縄戦の例は、軍と国民のあいだに密接な協力関係があっても、なお国内戦では住民対策がむずかしいことを示している。わが国では地上戦がきわめて困難であり、ほとんど不可能であることを実証している。

 専守防衛を攻略するわが国では地上戦ができないとなると、防衛の策はただ一つ、強力な海、空戦力とミサイルによる抑止力に頼らざるを得ないことになる。洋上や領海で侵攻してくる敵をことごとく撃滅する力を誇示するほかはないのである。

 

つくり出された従軍慰安婦問題

旧日本軍に「従軍慰安婦」はない

<部隊と慰安所の本当の関係>

<広報・宣伝に6割、戦闘に4割>

以上述べた「南京事件」と慰安婦問題から得られる教訓は、広報の重要性と、もう一つ、軽々しく謝罪してはいけないということであろう。

 

・紛争を引き起こす勢力は、戦闘で勝とうとは思っていない。正面から正規軍とぶつかって勝てるような力を持っていないことが多い。世間を騒がせたり、民衆に恐怖心を抱かせたりするのが目的であり、あるいは相手国のイメージダウンを図ったり、内部で暴動を起こさせたりする。目的を達したり、追えば手を引き、隠れてしまう。

 このような敵に勝つためには、個々の戦闘に対処するだけでなく、広報や宣伝で圧倒してしまうことが重要となる。われに同調する国、民衆を多くして、厄介な敵を孤立させるのである。そのために広報は重要な戦力なのである。

 

非難を覚悟で「河野談話」の取り消しを

広報・宣伝とともに留意しなければならないのは、国際関係では絶対に謝ってはならないことである。謝るにしても、最大は「遺憾に思う」が限度である。

 

・まさか慰安婦問題で、国交断絶までする国はないであろう。しかし、ODA(政府開発援助)を取られ、日本の安保理常任理事国入りをさえぎられた。日本のような人権無視の国に常任理事国の資格はないと言う。これは「河野談話」など出して、こちらが最初に謝ったのが間違いだったのである。

 国際関係では、曖昧な表現がなされれば自分の有利なように解釈する。陳謝すれば、そこで終わりとなり、あらゆる不利な話を押しつけられる。「河野談話」を取り消さないかぎり、日本にとって不利なことばかりが続く。取り消すとなれば、これまた大きな非難を覚悟しなければならないであろう。

 

専守防衛」の政略に縛られる

・現在の自衛隊には、中野学校のような教育機関はないし、謀略、諜報の機能をもつ組織もない。自衛隊は、憲法に基礎がある「専守防衛」との政治戦略の拘束を受けるので、謀略、諜報にはなじまないところがある。

 

あるべき防衛省の“情報”

「人事と予算」二つのネック

・情報重視と叫ばれて久しい。専守防衛の国だから、ウサギのような大きな耳を持つべきであると語られてきた。ところが、あまり実効はあがっていない。私の経験からすれば、人事と予算という大きなネックがある。

 

東アジアの情報に弱いアメリ

CIAも万能な情報機関ではなく、弱点もある

・CIAは、ブリック・システムをとっている。煉瓦の積み上げ方式と言われるもので、個々の要因は多数の煉瓦の一つで、それを積み立てて情報組織を構成している。私が陸幕第二部長であった1970年代初期におけるCIAの活動の重点は、当然ながらソ連と中東であった。そのためのアジア正面での煉瓦の壁は薄かった。薄い壁だから、一ヵ所が崩れれば、全体が瓦解する。それが弱点であった。

 情報面での自衛隊のカウンターパートは、米国防総省のDIA(国防情報局)であり、これはピラミッド状の部隊組織をとっている。これも強力な情報機関であり、主として軍事情報を扱っている。CIAは政治や経済が主な対象であるから、そこに自ずから努力の指向が異なってくる。また東アジアに強いのはDIAで、CIAは弱い。極東正面では、DIAがCIAを補完するという関係があったように見受けられた。

 

<「非核三原則」を見直すべきときが来た

北朝鮮は国際世論や取り決めなど、まったく眼中になく実験を強行したのだから、いったん核兵器を手中にすれば、なんの躊躇もなくこれを使うと見なければなるまい北朝鮮は、十分日本に届く弾道ミサイルの実験をして、すでに配備を終えている。この核実験は日本にとって衝撃的な出来事であった。

 そこで日本国内に核兵器対抗論が沛然として起こるかと思ったが、「持たず、作らず、持ち込ませず」の「非核三原則」にすっかり溺れているのか、世論はほとんど反応しなかったように見受けられた。有力な閣僚が核政策について議論すべきときが来ていると至極当然の発言をしたことに対して、野党の幹部をはじめマスコミ、媚中媚朝派の学識者らが反発して、議論の芽を完全に閉じ込めてしまった。

 

もし広島型核兵器が東京を直撃したならば、死者50万人、負傷者3百~5百万人という慄然とする予測を、これらの人たちはどう考えているのだろうか。おそらく、「そのような問題はわれわれの世代には起こらない」「後世の者が考えて苦労すればよい」といった程度に思っているのだろう。西郷隆盛座右の銘の一つにしていた「先憂後楽」とは

ほど遠い。

 核兵器をめぐる事態は、より早く進んでいる。今すぐ対処の方法をたてなくてはならないほど切迫しているのである。

 

核兵器に関しては、日本はアメリカの核の傘に頼らざるを得ないのである。アメリカも核の傘を日本に提供すると言明している。ところが、日本は非核三原則を政策の重要な柱と位置づけている。

 核兵器は「抑止の兵器」だから、平時には非核三原則も有効と考えてもよいであろう。ところが、日本が核攻撃を受けるのではないかというほどの事態が緊迫すれば、アメリカの核政策と非核三原則と矛盾する点が浮上してくる。日本はアメリカの核政策を享受しながら、それに制限を加えている。非核三原則の第三、「持ち込ませず」である。アメリカの立場から見れば、「(アメリカは)日本を核兵器で守れ、しかしそれは持ち込むな」ということになり、これでは身勝手すぎる。

 そこで、日本に核兵器の危機が迫るような情勢になれば、アメリカと調整して、「持ち込ませず」の原則の撤廃を宣言することが緊要である。この宣言をするだけでも大きな抑止力となる。抑止力とは、形而上の問題である。だから、あらゆる手段を最大限に活用しなければならない。いたずらにきれいごとにこだわり、いつまでも非核三原則にしがみついていれば、核兵器の抑止力は破れ傘となる。

 

「持ち込ませず」の原則を撤廃するとともに、領空や領海を含む日本の国内に配備されたアメリカの核兵器使用権限の半分を日本が持てるように協定することも考慮すべきであろう。

そうすれば、核抑止力の信頼性はより確実なものになる。繰り返しになるが、核抑止も結局は形而上の問題であるから、抑止効果のある施設を研究して、積極的に採り入れることが重要である。

 

・現在の迎撃方式が完璧でないとなれば、弾道ミサイル防衛と並行して、相手のミサイル基地を叩くミサイル報復攻撃の整備も必要になってくる。日本は専守防衛の政略によって拘束されているので、反撃のためのプラットホームは国内か領空内に限られる。軍事的合理性を追求できないことになるが、それでも核攻撃を受ければ、その発射基地、発進基地を徹底的に叩く報復攻撃の準備は必須である。

 

前防衛事務次官汚職による逮捕

・日本防衛の最高責任者は首相であり、次いで防衛大臣であることは周知のことだが、実質平常業務の最高責任者は事務次官であると聞けば多くの人は驚くだろう。

 だが、そうなっている。事務次官はほかの9人の参事官(内局の局長等)の補佐を得て、大臣の指揮下にある統合幕僚長、陸海空幕僚長、情報本部長等を束ねて防衛省の意思を決定し大臣に報告する。補佐官のない大臣は「よかろう」と言って防衛省の行動方針を決める。つまり、平常の業務はシビリアンコントロール(政治統制)ではなく、官僚統制となっているのである。

 平時と有事との限界ははっきりしないから、官僚統制の状態はずるずると有事にまで及ぶ危険性がある。本書はシビリアンコントロールの実を発揮するため、まず軍政と軍令を分離し、軍令は統合幕僚長が、軍政は事務次官が、同等の立場で大臣を補佐することを提唱した。それが本当のシビリアンコントロールなのだが、その方向に進むことを期待している。もしそうなれば、前事務次官の逮捕という災いが転じて福をなすことにもなると思う。

 

 

 

自衛隊秘密諜報機関』 

  青桐(あおぎり)の戦士と呼ばれて

阿尾博政  講談社    2009/6/5

 

 

 

胸に刻まれた諜報任務の重み

・数週間の教育が終わり、やがて、私が兄貴と呼ぶことになる内島洋班長のもとで仕事をすることになった。内島班は、内島班長、班員の根本、伊藤の3名で構成されていて、当時は、新宿区大久保の住宅地にあった2Kのアパートの一室を事務所としていた。

 こうした諜報の拠点は、存在を隠すために、約2、3年ごとに転出をくり返すのだが、ここに私が新米諜報員として加わったのだ。

 最初の担当地域は極東ロシアであった。このため、ロシア語を勉強しなければならず、夜間は御茶ノ水にあったニコライ学院に通った。

 また、調査の縄張りに新宿区が入っていたことから、暇を見つけては、当時、四谷にあった伊藤忠の子会社であるロシア貿易専門商社「進展貿易」にもよく通ったものだった。

 

伊藤忠は、元関東軍参謀の瀬島隆三が戦後に勤務した会社で、この瀬島とソ連(現・ロシア)との関係に疑問符がつけられていたことから、私も内偵をしたことがあるのだが、結局、これといった確証は得られなかった。

 

秘密諜報員という任務の厳しさを思い知らされたのも、この時期である。

 極東ロシアの軍事拠点であるナホトカとハバロフスク白地図を、詳細な地図に作り直す仕事を私が担当することになった。今ならスパイ衛星などのハイテク機器を使うのだろうが、そんな代物などなかった時代だ。地道に見たこと、聞いたことを地図に書き込み、国防に役立てるしかなかったのだ。

 

・私は、まずナホトカの地図作りから取り掛かった。ナホトカと日本を行き来する木材積み取り船があったので、私は搭乗していた通訳を買収した。そして、通訳が現地へ行こうとするたびにカネを渡し、知りたい情報を仕入れてきてもらった。こうしてナホトカの地図は、ほぼ完璧に仕上がった。

 

秘密諜報機関の誕生

・諜報活動はいわば放任主義で、工作資金についても自由裁量でいくらでも使うことができた。私も湯水のごとく工作資金を使ったが、班長も先輩たちも一言の文句もいわなければ、何の注文をつけずに、ただ部下の行動を静かに見守るといった態度だった。

 そこで昔のコネを思い出して、経団連副会長だった植村甲午郎実弟である植村泰二が所長をつとめる「植村経済研究所」の人間として活動を開始した。だが、諜報員として成果を挙げて、先輩に負けてなるものかと努力すればするほど、ある疑問が心のなかで大きく育っていった。それはムサシ機関が得た成果を、米国側がすぐに知るという点だった。

 

怪傑ハリマオのモデルと藤原岩市

この藤原岩市と山本舜勝は、ともに戦前の陸軍中野学校で教官をつとめ、藤原のほうは太平洋戦争の初期にF機関の機関長として、マレー半島で大活躍をした。戦後、テレビで大人気だった『怪傑ハリマオ』のモデルであり、マレーの虎「ハリマオ」と呼ばれた谷豊を諜報員として育成したのが、この藤原岩市である。

 

・また、後に調査学校の副校長に就任する山本舜勝のほうだが、彼は私の調査学校時代の教官で、青桐会の先輩と後輩として、友情は長く続い

た。山本は藤原とは対照的な、行動派だった。三島由紀夫と山本舜勝とのことは、『自衛隊「影の部隊」三島由紀夫を殺した真実の告白』(山本舜勝著 講談社)に詳しいので、興味のある方は一読してみるといいだろう。

 藤原と山本は、私にとって人生の恩師といえる存在だった。

 

秘密諜報員の日常

・諜報は国防や国益に関わる重要な仕事だが、その内容は案外地味なものだ。上層部から「これをやれ」と命じられたら、「分かりました」と返事をし、任務遂行のため黙々と課題をクリアしていくだけである。ときには命に関わる危険な仕事もあるが、「007」のジェームズ・ボンドのように、さっと銃を抜いて敵を撃ち、危機を脱するようなことなどないのだ。

 そして任務が完了したら、せっせと報告書を仕上げ、上司に提出する。ときには、部下数名と徹夜で報告書を書き上げたこともある。基本は、普通のサラリーマンと何ら変わらないのだ。

 

国家の秘密は書にあり

何もジョームズ・ボンドの真似をしなくても、その国の正規の出版物をよく整理し、比較研究すれば、国の動きは読み取れるのだ。

 とくに軍の機関紙である『解放軍報』には、表面的には隠していても、やはり書き手も軍の人間だから、軍人としてのプライドや思いといったものが滲み出た表現の文章がある。その裏を読んでいけば、かなり正確な情報がつかめるものなのだ。

 

 

 

『日米秘密情報機関』

影の軍隊」ムサシ機関長の告白

平城弘通   講談社   2010/9/17

 

 

 

日米秘密情報機関は生きている

「ムサシ機関」とは、陸幕第二部別班、通称「別班」のことを指す。昭和47~48年ごろ、共産党の機関紙「赤旗」によって、秘密謀略組織「影の軍隊」であると大きく宣伝をされ、国会でも追及を受けた組織だ。昭和48年(1973年)に金大中拉致事件が起きたときには、これも「別班」の仕事ではないかということで、また騒がれた。

 

・私は陸軍士官学校出身の職業軍人として中国大陸で転戦し、昭和26年(1951年)、警察予備隊自衛隊の前身)に入隊した。22年間の自衛官生活のうち、中隊長(第8連隊第3大隊の第12中隊長)、大隊長(第7師団第7戦車大隊長)、連隊長(第7師団第23普通科連隊長)を務めた一時期以外は、大部分を情報将校として仕事にあたってきた。

 

そのころは、米ソ冷戦時代で、両陣営の衝突は日本国内に甚大な影響をもたらすことは火を見るより明らかだった自衛隊で早くからソ連情報を担当した私は、共産主義とは何か、その歴史的事実等に興味を持ち、研究を進めるうち、その非人道的な残酷な史実を突きつけられ、反共の思想を持つに至った。

 

・今日、非常の事態、たとえば大規模・同時多発テロ北朝鮮の核攻撃、中国軍の南西諸島侵略など、現実の脅威に備えるため、政治家や国民が真剣に考えているのかどうか、誠に心許ない。しかし、情報機関は存在そのものが「秘」であり、いわんや活動の実態については極秘でなければならぬと信じている。

 

・さらに、三島由紀夫に影響を与えたとされている山本舜勝元陸将補(元自衛隊調査学校副校長)は、平成13年に出版した『自衛隊「影の部隊」 三島由紀夫を殺した真実の告白』で、自衛隊の諜報活動の存在を明らかにしている。

 加えて近年、「自衛隊 影の部隊」に関する本が、塚本勝一元陸幕ニ部長(『自衛隊の情報戦陸幕第二部長の回想』)や松本重夫調査隊第一科長(『自衛隊「影の部隊」情報戦 秘録』)らによって相次いで出版され、さらに先述の阿尾が『自衛隊秘密諜報機関』を出して、そのなかで本人が別班に所属していたことを公表した。そして、「ムサシ機関」という秘密機関は実在し、機関長は平城一佐だったと暴露してしまったのだ…………。そのため私は、多くのマスコミから電話や手紙による取材攻勢を受け、その対応に苦慮した。

 

・とくに、その是非は別として、現在は専守防衛を国是とする日本では、情報こそが国家の浮沈を握る。その中心部分を担う「日米秘密情報機関」、いってみれば「自衛隊最強の部隊」が、その後、消滅したとは思えない。私は、現在でも、この「影の軍隊」が日本のどこかに存在し、日々、情報の収集に当たっていると確信している。

 

明石元二郎大佐は日露戦争全般を通して、ロシア国内の政情不安を画策、日本の勝利に貢献した。そのため、彼の働きを見たドイツ皇帝ヴィルヘルム二世は、「明石元二郎一人で、満州の日本軍20万人に匹敵する戦果をあげた」と賞讃した。また、陸軍参謀本部参謀次長の長岡外史は、「明石の活躍は陸軍10個師団にも相当する」と評している。

 明石のDNAを、自衛隊は、いや日本人は受け継いでいるのだ—―。

 

東方二部特別調査班の活躍

・私が力を入れた東方二部特別調査班(調査隊所属)は、昭和44年3月、編制を完了し、大阪釜ヶ崎を経て山谷に入り訓練を重ね、同年6月から本格的行動に移った。一部を横浜方面に派遣し、主力は山谷を拠点として、さまざまな集会、とくに過激派の集会には必ず潜入させ、各種の貴重な情報を入手させた。ただ、攪乱工作をやるような力はなく、もっぱら情報収集を秘密裡に行う活動だった。

 私は武装闘争をいちばん警戒していたから、武器を持っているか、どのくらいの勢力か、リーダーは何をいっているのか、そのようなところに重点を置いて情報を収集した。

 

三島由紀夫との出会い

三島事件は、自衛隊史上、最大の汚辱事件

・私の二部長時代には、文壇では既にノーベル文学賞作家に擬せられる大家であったが、文人としては珍しく防衛に関心のある人物として、三島に好意を持っていた。

 

・その後、事件の詳細を知るにつけ、私が痛感したことがある。それは、三島の憂国の至情はわかるとしても、あのような内外情勢、とくに警察力で完全に左翼過激勢力を制圧している状況下で、自衛隊が治安出動する大義がない、ということだ。それを、事もあろうに、いままで恩義を受けた自衛隊のなかで総監を監禁し、隊員にクーデターを煽動するとは……。

 

二将軍は果たして裏切ったのか

・だが私は、三島がそれにあきたらず、自ら立案したクーデター計画の実行にのめり込んでいく様子に気づいていた。(中略)武士道、自己犠牲、潔い死という、彼の美学に結びついた理念、概念に正面切って立ち向かうことが私にはできなかった。(中略)

 三島のクーデター計画が結局闇に葬られることになったのは、初夏に入ったころだった。私はその経緯を詳しくは知らない。(中略)

 いずれにせよ二人のジェネラルは、自らの立場を危うくされることを恐れ、一度は認めた構想を握りつぶしてしまったのであろう。(『自衛隊「影の部隊」三島由紀夫を殺した真実の告白』山本舜勝、講談社

 

三島には大局観を教えなかったがために

・以上のような山本舜勝氏の回想記を読んだ私の所感は次のようなものだった。

 まず、山本一佐の教育は兵隊ごっこといわれても文句のいえないもの。情報活動の実務、技術は教えているが、情勢判断、大局観を教えていない。とくに、三島の檄文を除いて、この著書のどこにも警察力のことが書かれていない。三島のクーデター計画でも、警察力には触れず、いきなり自衛隊の治安出動を考えているが、自衛隊の出動事態に対する

研究がまったく不足している。

 

 

 

自衛隊「影の部隊」情報戦 秘録』

松本重夫  アスペクト     2008/11

 

 

 

<影の部隊>

・かつてマスコミや革新政党から「影の部隊」あるいは「影の軍隊」と呼ばれ、警戒された組織があった。自衛隊にあって情報収集と分析を専門に行う「調査隊」だ。私は調査隊の編成からかかわった、生みの親の一人である。

 

・私は陸軍の兵団参謀の一人として、終戦を迎えた。戦後たまたま米国陸軍情報部(CIC)と接点を持ったことから、彼らの「情報理論」の一端に触れることになった。

 

 それはかつて陸軍士官学校の教育にも存在していなかった、優れて緻密な理論体系だった。それを研究すればするほど、私は日本の敗戦の理由の1つは、陸軍のみならず日本の国家すべてが「情報理論」の重要さを軽視したことにあると確信した。残念ながら戦後半世紀以上たった現在も、その状況は変わっていない。

 

葉隠」の真意

・1945(昭和20)年8月5日、私は宮中に参内して天皇陛下に拝謁を賜り、茶菓と煙草を戴いて、翌6日、陸軍大学の卒業式を迎えた。卒業式終了後、記念写真を撮り昼食の会食となる。そのころに、学生の仲間内で広島に大型爆弾の投下があったという噂を聞いた。その大きさは6トンまたは10トン爆弾かというような情報が流れ、「原爆」という表現は伝わらなかったが、しばらくして、「原子爆弾」という情報が不確定的ながら耳に入り、大変なものが投下されたなと思いつつも、各自、それぞれの任地に向かった。

 

三島由紀夫事件の隠れた責任者

・1970(昭和45)年11月25日、作家の三島由紀夫が「盾の会」会員とともに市ヶ谷自衛隊駐屯地、東部方面総監室に立てこもり、割腹自殺を遂げた。私は当時、既に自衛隊を退職し、情報理論と独自の情報人脈を駆使して、民間人の立場で「影の戦争」を闘っていた。

 

三島事件の陰には調査隊および調査学校関係者がかかわっていたことは、山本舜勝元陸将補が『自衛隊「影の部隊」・三島由紀夫を殺した真実の告白』(講談社刊)という著書で明らかにしている。

  私は、山本氏が三島由紀夫を訓練しているということは、それとなく聞いていた。

そのとき私は、「ビール瓶を切るのに、ダイヤの指輪を使うようなことはやめた方がいい」と話した覚えがある。私は、山本氏らの動きは、三島のような芸術家に対してその使いどころを間違えていると思っていた。

 

・山本氏は、私が幹部学校の研究員(国土戦・戦略情報研究主任)だったときに、調査学校長だった藤原岩市に呼ばれて、調査学校に研究部員として着任してきた。研究テーマは私と同じ、専守防衛を前提としての国土戦つまり遊撃戦(ゲリラ戦)であった。私はその当時、韓国の予備役軍人や一般国民で組織される「郷土予備軍設置法」なども参考にしながら「国土戦論」を練り上げていた。

 

・山本氏らが調査学校の教官となり、「対心理過程」などの特殊部隊の養成を担当することになった。それが前述したように当初の私の構想とは異なった方向に進んでいたことは気づいていた。結局そのズレが「青桐事件」となり、三島由紀夫に「スパイごっこ」をさせてしまうような事態を招いてしまうことになったのだといわざるを得ない。

 

・山本氏に三島を紹介したのは藤原岩市である。山本氏によって通常では一般人が触れることのできない「情報部隊の教育」を受けさせ、三島の意識を高揚させることに成功するが、三島がコントロールできなくなると、藤原らは一斉に手を引き、山本氏と三島を孤立させていく。そのあたりの経緯を山本氏の著書から引用してみよう。

 

 文学界の頂点に立つ人気作家三島由紀夫の存在は、自衛隊にとって願ってもない知的な広告塔であり、利用価値は十分あった

《しかし三島は、彼らの言いなりになる手駒ではなかった。藤原らジュネラルたちは、『三島が自衛隊の地位を引き上げるために、何も言わずにおとなしく死んでくれる』というだけではすまなくなりそうだということに気づき始めた》

 

藤原は三島の構想に耳を傾けながら、参議院選挙立候補の準備を進めていた。今にして考えてみれば、参議院議員をめざすということは、部隊を動かす立場を自ら外れることになる。仮にクーデター計画が実行されたとしても、その責を免れる立場に逃げ込んだとも言えるのではないか》

  この山本氏の遺作は、三島由紀夫の死に対して自らのかかわりと責任の所在を明らかにすると同時に、三島を利用しようとした藤原岩市らかつての上官たちの責任を示し、歴史に記録しておきたいという意志が感じられる。

 

田中軍団の情報員

・かつてマスコミが竹下派七奉行として、金丸信元副総理を中心に自民党内で権勢を振るった人物を挙げていた。梶山静六小渕恵三橋本龍太郎羽田孜渡部恒三小沢一郎奥田敬和。この格付けには異論がある。

 

・この「七奉行」の表現から抜けていて、忘れられている人物に亀岡高夫がいる。彼は金丸のように目立って権力を行使しなかったが、「創政会…経世会」の設立時に、田中角栄の密命を受けて竹下を総裁・総理にする工作を、築地の料亭「桂」において計画推進した主導者の一人である。

 

この亀岡高夫と私が陸士53期の同期生でしかも「寝台戦友」であることは既に述べた。しかもGHQCICと協力して活動した「山賊会」のメンバーであり、自衛隊時代そして除隊してから、彼が昭和天皇の葬儀のときに倒れて亡くなるまで、私の戦後の「情報活動」は亀岡とともにあった。

 

・私は亀岡と顔を見合わせた。「福田は来ていないな……」

 福田は都議までしか挨拶に行っていない。下を固めろ。本部に戻ってその情報をもとに、方針を決めた。

 区議会議員と村長、市町村、これを全部やれ。県議は相手にするな

 電話で全国の田中軍団に指令を出した。県議も区議、村長も同じ1票。福田派は県議のところに行って、その下の国民に一番密着している人のところに行っていなかった。県議に行けば下は押さえることができるという、古い考え方だった。それを田中軍団が、ごっそりとさらっていった。

  そのように密かに票固めを行っている最中に、福田の方から、国会での本選挙はやめようという申し出があった。田中は「しめた!」とばかりにその申し出を受け、劇的な勝利につながっていった。

  この総裁選がいわゆる「田中軍団」のローラー型選挙の嚆矢といわれている。そのきっかけは私と亀岡の地道な調査活動にあったことはあまり知られていない。

 

中国情報部の対日情報活動

・やや古いが、その当時私が入手していた、中国の情報機関に関する情報をもとにこの問題を整理すると、次のような背景がわかった。

 1974年当時、中国では国家安全省は誕生してなく、北京市公安局が国内外の情報を収集する機関としては中国最大の組織であり、約1万人ほどいたといわれる。当時の北京市公安局は13の部門に分かれていた。

 

・それぞれの科の中には、さらに最高レベルの秘密扱いにされていた外国大使館担当班が存在していた。第3処 尾行・視察調査 第4処 海外から送られてくる手紙などの開封作業を担当 (略) 第7処 不穏分子や海外からのスパイ容疑者の尋問  

こうした北京市・公安局の活動に対して、日本大使館の防諜意識は信じがたいほど低かったとの情報もある

 29名いたとされる日本大使館に対する盗聴チームのもとには、常に新鮮なデータが集まっていたという(例:ある大使館幹部と、大使館員の妻とのダブル不倫関係まで把握していたほどであるという)。

 

O-157サリン事件の背景で

・「対情報」の研究というのは今風にいえば対テロリズムの研究もそこに含まれる。そこではかつての大戦中の各国が行った生物・化学兵器の使用データの分析も行っている。

 

・資料が特ダネ式に入手されたとすれば、警視庁内の秘密保全のルーズさを示す“恥”となろう。しかし、これはどちらかといえば公安関係者からの意図的なリークに等しい。公安委員長(国務大臣)の責任・罷免に発展してもおかしくないのだが、ほとんどの国民は、この問題に関心を示すことはなかった。現実にはこの国では、こうした問題は機密漏洩対策の向上に役立てられることもなく、いわば政争の道具に利用されただけだ。「スパイ天国日本」という世界の防諜関係者からの汚名の返上は当分できそうにないようだ。

 

 <●●インターネット情報から●●>

(CNN)( 2014/10/16)米紙ニューヨーク・タイムズは16日までに、イラクに駐留している米軍が化学兵器を発見し、一部の米兵がそれにより負傷していたにもかかわらず、米政府が情報を隠ぺいしていたと報じた。

 

記事によれば2003年以降、マスタードガスや神経ガスとの接触により、米兵17人とイラク人警官7人が負傷。彼らは適切な治療を受けられなかったばかりか、化学兵器で負傷したことを口外しないよう命じられたという。

 

「2004~11年に、米軍や米軍による訓練を受けたイラク軍部隊は、フセイン政権時代から残る化学兵器に何度も遭遇し、少なくとも6回、負傷者が出た」と同紙は伝えている。

 

同紙によれば、米軍が発見した化学兵器の数は合わせて5000個ほどに上るという。

 

「米国は、イラクには大量破壊兵器計画があるに違いないとして戦争を始めた。だが米軍が徐々に見つけ、最終的に被害を受けたものは、欧米との緊密な協力によって築き上げられ、ずっと昔に放棄された大量破壊兵器計画の遺物だった」と同紙は伝えている。

 

国防総省のカービー報道官は、この報道に関連し、詳細は把握していないと述べる一方で、2000年代半ばから10年もしくは11年までの間に、化学兵器を浴びた米兵は約20人に上ることを認めた。

 

ニューヨーク・タイムズは政府が情報を隠ぺいしようとした理由について、事故を起こした化学兵器の設計・製造に欧米企業が関与している可能性があったことや、製造時期が1991年以前と古く、フセイン政権末期に大量破壊兵器計画があったとする米政府の説を裏付けるものではなかったからではないかとみている。

 

 

<●●インターネット情報から●●>

イラク化学兵器あった~NYタイムズ紙

 

< 2014年10月16日 6:48 >

 15日付のアメリカ・ニューヨークタイムズ紙は、イラクフセイン政権時代の化学兵器が見つかっていたと報じた。

 それによると、イラク戦争後の2004年から11年にかけて、首都・バグダッド周辺でフセイン政権時代のマスタードガスやサリンなど化学兵器の弾頭5000発以上が見つかったという。弾頭は腐食していたものの、有毒ガスにさらされたアメリカ兵などがケガをしたとしている。アメリカ政府はこれまで、イラク戦争開戦の根拠とした化学兵器を含む大量破壊兵器は見つからなかったとしている。発見を公表しなかった理由について、ニューヨークタイムズは、化学兵器が欧米製だとみられたことなどを挙げている。

 これについて国防総省は15日、イラク化学兵器が発見されアメリカ兵約20人が有毒ガスにさらされたことは認めたが、公表しなかった理由については明らかにしなかった。

 

 

 

『メディアと知識人』  清水幾太郎の覇権と忘却

竹内洋  中央公論新社  2012/7/9

 

 

 

東京が滅茶苦茶になる

・そのような状況のなか、1970(昭和45)年を迎えることになった。清水は、満を持し、狙いをすましたように「見落とされた変数―1970年代について」を『中央公論』(1970年3月号)に発表する。

 

・世は未来学が流行っていたが、未来論はインダストリアリズムの反復と延長で、芸がなさすぎる。明るい未来学の潮流に反する問題提起こそ警世の言論となる。未来論に反する問題提起といえば、公害も社会問題となっていたが、これは猫も杓子もいっている。60年安保を闘った者がいまや公害問題に乗り換えている。目新しさはないし、そんな仲間と同じ船にまた乗っても仕方がない。そこで飛びついたのが地震である。アラーミスト(騒々しく警鐘を乱打する人)としての清水がはじまった。意地悪くいってしまえば、そういう見方もできるかもしれない。

 

 地震こそ清水の十八番である。清水は、16歳のとき関東大震災(1923年9月1日)で被災する。死者・行方不明者10万人余。2学期の始業式を終えて、自宅で昼食をとっているときである。激しい振動で二階がつぶれた。落ちた天井を夢中で壊して這いあがった。

 

・技術革新や経済成長によって自然の馴致がすすんだが、他方で自然の反逆がはじまったことを公害と地震を題材に論じている。清水は「私たち日本人は、遠い昔から今日までー恐らく、遠い未来に至るまでー大地震によって脅かされる民族なのであります」とし、論文の最後に、私たちにできることをつぎのように言っている。

 

それは、東京を中心とする関東地方において、道路、河川、工場、交通、住宅、と諸方面に及ぶ公害の除去および防止に必要な根本的諸政策を即時徹底的に実施するということです。(中略)それは、或る意味において一つの革命であります。この革命が達成されなければ、1970年代に、東京は何も彼も滅茶苦茶になり、元も子も失ってしまうでしょう。

 

「文春に書くわけがないだろうが!」

「見落とされた変数」は、来るべき大地震という警世論の頭出しだったが、翌年、『諸君!』1971(昭和46)年1月号には、「関東大震災がやってくる」というそのものずばりの題名の文章を書く。

 

<「関東大震災がやってくる」>

清水は、地震学者河角広(元東大地震研究所長)の関東南部大地震の69年周期説――69±13年――をもとにこういう関東大震災から69年は1991年である。13年の幅を考えると、1978(昭和53)年もその範囲内ということになる。とすれば、1970年代は関東大震災並の大地震が東京に起こりうるということになる。たしかに、東京都はいろいろな対策を考えているようだが、構想の段階で手をつけていない。そんなことで間に合うか、というものである。しかし、この論文には何の反響もなかった。「関東大震災がやってくる」を書いて2年8ヶ月のちの新しい論文では、これまで地震の危険を指摘した論文を書いたが、反響がなかったことを問題にし、こういう。

 

 ・・・私は、右肩上がりでの文章(「関東大震災がやってくる」論文――引用者)のゼロックス・コピーを作り、多くの国会議員に読んで貰おうとしました。けれども、私が会った国会議員たちの態度は、多くの編集者の態度より、もっと冷たいものでした。「地震は票になりませんよ。」

 

・1975(昭和50)年には、関東大震災の被災者の手記を集めた『手記 関東大震災』(新評論)の監修もおこなっている。清水の東京大震災の予言ははずれたが、関東大震災がやってくる」から24年後、阪神淡路大震災が起きる。さらにその16年後の東日本大震災清水は、地震は「遠い昔から今日まで――恐らく、遠い未来に至るまで」の日本の運命と言い添えていた。日本のような豊かな国が大地震のための「革命的」方策をとらないで大地震の到来を黙って待っているのか、といまから40年も前に警鐘を鳴らしていたのだ。

 

 論壇への愛想づかしと「核の選択」

・「核の選択――日本よ 国家たれ」の内容はつぎのようなものである。第一部「日本よ 国家たれ」では、こういう。日本国憲法第九条で軍隊を放棄したことは日本が国家でないことを宣言したに等しい。しかし、国際社会は法律や道徳がない状態で、軍事力がなければ立ちゆかない。共産主義イデオロギーを掲げ、核兵器によって脅威をあたえるソ連膨張主義がいちじるしくなった反面アメリカの軍事力が相対的に低下している。したがって、いまこそ日本が軍事力によって海上輸送路の安全をはからなければ、日本の存続は危うくなる。最初の被爆国日本こそ「真先に核兵器を製造し所有する特権を有している」と主張し、核兵器保有を日本の経済力にみあう軍事力として採用することが強調されている。

 

・第二部「日本が持つべき防衛力」は、軍事科学研究会の名で、日本は独自に核戦略を立てるべきだとして、日本が攻撃される場合のいくつかのシナリオが提起され、空母部隊の新設など具体的な提言がなされている。最後に国防費をGNP(国民総生産)の0.9%(1980年)から3%にする(世界各国の平均は6%)ことなどが提言されている。この論文は、主題と副題を入れ替え、1980年9月に『日本よ国家たれ――核の選択』(文藝春秋)として出版される。

 

 論文が掲載されると、『諸君!』編集部に寄せ有られて賛否両論の投書数は記録破りになり、翌月号に投書特集が組まれるほどだった。