(2024/8/26)
マスコミが書けない日米論
<――いま明かされる、マスコミに黙殺された「内政干渉」の全貌!>
・関岡英之のベストセラー『拒否できない日本』で白日の下に晒された、アメリカの「年次改革要望書」。その影響で、日本社会はどう変質していったのか?論客たちの熱気ある発言を読んでいただいた後に、そのアウトラインを、あらためておさらいしておきたい。
<なぜ、石原慎太郎氏は「郵政反対派」に賛同しなかったか>
・「アメリカ政府の『年次改革要望書』に盛り込まれていた郵政民営化は、参議院でいったん否決されたものの、その直後の解散・総選挙で小泉自民党が圧勝し、実現することになった。こんな姿を思い浮かべるといい。アメリカ人がコーヒーを飲みながら、日本をどう国家改造をすればアメリカにプラスになるかを考えている。これがアメリカの属国と化した日本の実情と捉えてまず間違いない」
・郵政民営化で一気に注目された「年次改革要望書」は、日本の政治を読み解くための必読文書と言える。2005年最大の政治イベントだった「郵政選挙」も、この要望書を通して眺め直すと、まったく違った様相が目の前に広がってくる。
ここで石原知事は、関岡英之著『拒否できない日本』を読んで愕然とさせられたとして、《この日本に毎年アメリカから「年次改革要望書」なるものが送られてき、日本はそれを極めて忠実に履行してきている》と本の核心部分を紹介、米国による「内政干渉」とも指摘していた。
《靖国に関する中国や韓国からの非難も日本国の芯部に関する内政干渉だが、アメリカのこうした執拗な一方的改革要望も内政干渉以外の何ものでもあるまい。せめて国会はこの事実について国益を踏まえての議論を持つべきに違いない》
・「年次改革要望書」には総選挙の争点となった郵政民営化が盛り込まれており、当然、2005年の通常国会でも「国益を踏まえての議論」が白熱していた。
たとえば、解散の6日前の2005年8月2日、参院郵政民営化特別委員会で桜井充参院議員は、「年次改革要望書」を紹介したうえで、「民営化というのは、アメリカの意向を受けた改正なのかわからなくなってくる」と小泉純一郎総理と竹中平蔵郵政担当大臣に迫った。
・「去年(2004年)の日米首脳会談でブッシュ大統領から郵政民営化の要請があり、その翌年(2005年)に会談内容に沿う形で郵政民営化法案が出てきた。アメリカが350兆円の郵貯簡保資金を狙っているのは明らかだ」
要するに小泉総理は「郵政民営化はイエスかノーか」を最大の争点にしたが、反対派(国益擁護派)は「米国迎合(内政干渉)イエスかノーか」という、まったく違う捉え方を示していたのだ。
<隠蔽された郵政民営化の“真の争点”>
・郵政反対派の期待を裏切ってしまった石原知事だが、同情の余地はある。日本のマスコミは、この「年次改革要望書」についてほとんど報道していなかったからだ。
たとえば、先の桜井議員の質問を報道したのは、五大新聞の中では産経新聞だけだった。
・こうして郵政民営化を進める小泉総理は“改革派”、法案に反対した国会議員は(本当は「国益擁護派」と言える)は小泉改革に抵抗する非国民のようなレッテルを貼られてしまったのだ。
<かくして国民は小泉総理に騙された>
・国益擁護派を非国民扱いにするレッテル貼り(イメージづくり)に大きく貢献し、若年層の自民党支持拡大の牽引車になったのが、広島6区から立候補した堀江ライブドア社長だ。
・この目論見は見事に当たった。小泉総理の脚本通りにマスコミが“刺客報道”に走った結果、すさまじいまでの小泉旋風が吹いた。
<国民の目を真実から逸らさせた「大政翼賛報道」>
・「郵政民営化が小泉人気を煽ったのではなくて、造反した国会議員を自民党から追放したことが圧倒的な小泉人気になった」
・小泉マジックに感心している暇があったら、毎日新聞は、本当に反対派が「古い、薄汚れた政治家」なのかを検証する記事を出すべきではなかったのか。「アメリカの「年次改革要望書」に盛り込まれている郵政民営化法案は、日本の国益を損ねる恐れがある」「アメリカの内政干渉は、日本の国益を損ねる恐れがある」「アメリカの内政干渉を受け入れる小泉政権は売国奴のようなもの」といった反対派の言い分を公平に紹介し、小泉総理の主張とどちらかが正しいかを有権者に多角的に示すべきではなかったのか。
小泉総理の演出(国民騙しのテクニック)を暴露しないのでは、毎日新聞は報道機関の使命を放棄したとしか思えないが、これが日本のマスコミの平均的レベルだった。
・大政翼賛会的な偏向報道に走ったマスコミこそ、国益擁護派の議員の約半数を落選させ、米国追随の小泉自民党の歴史的勝利の立役者と言っていいのだ。
<そのとき、「愛国派」の産経新聞は何を伝えたか?>
・なかでも情けないのが、日ごろ愛国心を強調する産経新聞だ。靖国参拝や歴史教科書問題で中国や韓国を「内政干渉」と強く批判してきた産経だが、米国の内政干渉まがいの郵政民営化については反対キャンペーンを展開しなかった。中国や韓国は批判してもアメリカには迎合するのでは、二重基準もいいところである。
・「産経新聞は政策選挙ですらないムード選挙の先頭を走ったと言えます。郵政民営化の最大の問題は、日本の庶民が蓄えてきた350兆円の郵貯簡保マネーがアメリカの金融マーケットに流れていくことだ。90年代半ばから始まった構造改革路線の総仕上げが郵政民営化なのです。つまり、日本がアメリカの51番目の州になることに産経は肩入れをしたと言える。この属国化路線と、『よき日本を守れ』という産経の立場は矛盾します。アメリカの51番目の州になって日本の伝統文化を守る――。産経は矛盾多き自己否定の道に踏み込んでしまったと思います」
<「年次改革要望書」とは何か?>
・日本のマスコミがタブー視する「年次改革要望書」は、簡単に言えば、日本をアメリカに都合がいいように改造するための外交文書である。
・なお、「年次改革要望書」は、アメリカの要求を伝える一つの形式の文書にすぎず、ほかにも「規制改革および競争政策イニシアティブ」や「日米規制緩和対話」などの形を取ることもある。
建前上は、日本からもアメリカに要望する双方向になっているが、日本の要求は些細なものが多く、実質的にはアメリカの恩恵のほうがはるかに多い、“不平等条約”のようなものと言っていい。
「年次改革要望書」にある対象分野は多岐にわたる。通信、IT、金融、エネルギーや医療・医薬などの個別産業分野に加え、競争政策、民営化、法務制度改革や商法などの司法や行政全般のテーマも含まれる。ただし、目標の法制化を勝ち取るためのプロセスはパターン化している。以下のような三段階のステップを踏む共通点があるのだ。
- まず、「年次改革要望書」を日本側に突きつける
- 次に、その進捗状況を逐一チェックしていき、場合によっては政府首脳が直に確かめる場合もある
- そして、最終的に実現した成果は「貿易障壁報告書」にまとめて、アメリカ連邦議会に報告する。
・日本の社会や経済に少なからぬ影響を与えたものをいくつか取り上げてみることにしよう。
<【例1】人材派遣の自由化>
・1996年、アメリカは人材派遣の自由化を求めた。すると3年後の1999年、日本政府は労働者派遣事業法を改正し、派遣労働を原則自由化した。
これまでは非正社員が急増しないように派遣を認める業務を限定していたが、この改正によって、派遣を禁止する業務を、製造業・建設・医療などの一部に限定する方式に転換した。
さらに2004年には、製造業への派遣労働も解禁された。アメリカの要望に沿って、派遣社員やパートなど非正社員の急増を招いた法改正を行ったのだ。小泉政権の負の遺産である「格差拡大」も、アメリカの内政干渉の産物といえるのだ。
<【例2】大規模小売店舗法の廃止>
・大規模小売店舗法は、大型店の新規出店・店舗などを地域の実情を考慮して調整するための法律だった。大型店に比べて経済力の弱い小売店を守る“防波堤”の役割を果たしてきた。
しかし、「自由な小売活動を規制している」と主張するアメリカは、1997年に大店法の廃止を要求。これを受けて日本政府は、3年後の2000年に大店法を廃止し、代わりに大店立地法(大規模小売店舗立地法)を制定した。
その結果、大型店の無秩序な出店が加速し、小売店が営業を停止した“シャッター通り”が増えることになった。都市と地方の格差拡大も小泉政権の弊害の一つと指摘されるが、地方経済の疲弊にもアメリカの要望が関係していたのである。
<【例3】郵政民営化>
・郵政民営化も、お決まりのパターンで法制化された。まず2003年の「年次改革要望書」で、「郵便金融機関と民間競合会社側の公正な競争原理」を名目に郵政民営化が提言された。また翌2004年の「年次改革要望書」でも民営化が盛り込まれた。
一方、2004年9月1日の日米首脳会談で、ブッシュ大統領は、小泉総理に「郵政民営化の進展はどうなっていますか」と進捗状況を直に訊ねた。
この期待に、「ブッシュのポチ」こと小泉総理は忠実に応えた。郵政民営化法案は、翌2005年の通常国会に提出され、参院で自民党反対派の“造反”で否決されたが、すぐに小泉総理は解散・総選挙に打って出た。そして自民党が圧勝した翌10月に開かれた臨時国会で郵政民営化法案は成立した。
多少の紆余曲折はあったものの、結局、アメリカの思惑通りに事は運んだのだ。
<【例4】建築基準法の改正>
・2005年10月に発覚し、翌年の通常国会の大きなテーマとなった「耐震偽装マンション問題」も、「年次改革要望書」と密接な関係がある。
1997年、「年次改革要望書」に「仕様重視から性能重視への建築基準改正」が盛り込まれた。当時の建築基準は日本在来の工法や建材が前提で、輸入建材の利用が制限されていた。そこでアメリカは、一定の性能を満たせば工法や建材などは自由でいい基準への変更を求めたのだ。これによってアメリカの業者が日本に参入しやすくなるのはいうまでもない。
翌1998年、アメリカの要望を受けて日本政府は建築基準法を改正した。「仕様規定」から「性能規定」に変更すると同時に、これまで自治体だけができた「建築確認業務」を民間開放したのである。
アメリカはこの法改正を高く評価した。米通商代表部の2000年度版『外国貿易障壁報告』には、「改正案策定と実施で、アメリカの建築資材供給業者が市場に参加しやすくなる」と法改正のメリットを認め、検査業務の民間開放についても「建築確認の効率化」と歓迎した。
歴代自民党政権はアメリカの要望を「構造改革」と名づけ、日本の国益にプラスであるかのように説明してきた。しかし、実際には、アメリカの利益になる要求を受け入れたとしか見えないのだ。偽装マンション問題と同じように、小泉政権の属国化路線のツケが出てくるのはこれからだ。
<2005年の「年次改革要望書」の中身>
・2005年の「年次改革要望書」の内容は次の通りである。これは一部にすぎないが、アメリカは自分の都合がいい法改正を評価しつつ、さらなる要望を日本政府に突きつけていることがよくわかる。
- 電気通信>
・アメリカは、日本が新たに周波数を割り当てて3社に携帯電話市場への参入を認め、競争を促進したことを評価。
- 医療機器・医薬品>
・アメリカ企業に血液製剤の販売や製造の公平な機会を与える。また、栄養補助食品、化粧品や医薬部外品の販売規制を緩和することも要望している。
- 競争政策>
・2005年の独禁法改正に象徴される日本の競争政策の改善をアメリカは歓迎し、独禁法違反摘発する公取委にエールを送ってもいた、公取に新たな権限を与えたり、議員と予算を十分に確保したりするよう求めていたのだ。
- 透明性およびその他の政府慣行>
・アメリカは、その地域だけ特別に規制が撤廃される「構造改革特別区域」が全国に拡大することを求めている。
- 法制度改革>
・アメリカは、外国法務弁護士が日本に参入しやすくするための措置も要望している。
- 商法>
・アメリカは近代的合併手法の導入や重要な企業再編成を容認する条項を含む2005年の会社法改正を評価。日本の株式会社との三角合併取引における制限の撤廃も求めている。
・なお、「年次改革要望書」は、マスコミではタブー視されているものの、在日アメリカ大使館のホームページで誰でも見ることができる。ぜひ、本書と併せてご覧いただきたい。
『闇の権力とUFOと2012年』
中丸薫 矢追純一 文芸社 2011/2/28
<アメリカからの「年次改革要望書」によって改革されてきた日本>
・ご存知でしょうか。日本は、アメリカ政府から毎年「年次改革要望書」というものを突き付けられているんです。それがどういうものなのか、マスコミはそこで取り上げられていることを一切報道しません。以下は、要望書でどんな案件が取り上げられ、日本がいかに改造されていったのかを記したものです。
・アメリカの要望書通りに日本が変えられてきているということは、アメリカに経済戦争を仕掛けられ、そのままジリジリと攻め込まれているのと同じです。
1997年 独占禁止法改正→持ち株会社の解禁
1998年 大規模小売店舗法廃止→大規模小売店舗立地法成立、建築基準法改正
1999年 労働者派遣法の改正→人材派遣の自由化
2002年 健康保険において本人3割負担を導入
2003年 郵政事業庁廃止→日本郵政公社成立
2004年 法科大学院の設置→司法試験制度変更
2005年 日本道路公団解散→分割民営化、新会社法成立
2007年 新会社法の中の三角合併制度が施行
・アメリカにとって都合のいい制度がこうやってどんどん取り入れられ、日本は法改正を次々進めてきました。
・中でも小泉政権時代に推し進められた郵政民営化は、特にひどいものでした。
・アメリカが欲しかったのは、郵政が保有している約340兆円(当時)の資産に他なりません。
<日本が緊急になすべきこと>
・まず小泉改革の過ちを正すこと
・政府紙幣の発行による財源の確保
・食糧危機に備えて食糧の備蓄を増やす
・危機管理に万全を尽くす
・北朝鮮問題を対話によって平和的に解消していく
・アメリカ隷従をやめ、パックス・ワールドを志向する
属国以下から抜け出すための新日本論
日米問題研究会 現代書林 2005/8/23
<言語;英語が公用語になって日本語は使えなくなってしまうのか?>
・日本がアメリカの一員になると、英語が公用語になるのではないかと心配する人がいるだろう。しかし、州化されても必ずしも英語を使う生活が始まるわけではなさそうだ。
・意外に思われるかもしれないが、今のアメリカ50州を見てみると、何らかの形(制定法、州憲法修正、拘束力のない決議など)で25州が英語を公用語と宣言しているが、反対に英語を公用語としないことを決議した州や公用語化を違憲であると判決した州もある。そういった面でも各州の独自性がはっきりと表れている。
・ハワイ州などでは、事情が少し異なる。ハワイ州では州憲法第15章第4条で「英語とハワイ語がハワイ州の公用語である。ただし、ハワイ語は法の定めがある場合のみ、一般法律および取引行為に適用される」とし、英語と並んでハワイ語を州公用語として認めている。
・ニッポン州で英語を公用語にすると間違いなく大混乱をきたすから当面のところ英語は公用語にならない。
・オンリー派は日本語だけをやればいいというグループで、プラス派は、日本語を中心に、生活での英語の使用範囲をもう少し広げようとするグループだ。現在の日本でも英語学習がかなり浸透しているし、ビジネスなどでは英語が必須になっている点から考えると、プラス派が優勢になるだろう。
・ごく一般の生活をしている限り、英語が理解できなくても特別の不都合はない。しかし、州政府レベル以上になると話は違ってくる。州知事を始めとするニッポン州政府の主だった立場の人間は、英語での意思の疎通が条件になる。英語が話せないと、連邦政府との関係上、政治や行政、裁判を進めていくうえでも支障が出てしまうからだ。ここで新たな階級社会が始まるとも言える。つまり英語で情報を得られる層と、得られない層で情報階級社会が促進する。
(2021/2/7)
『アフターバブル』
近代資本主義は延命できるか
<世界恐慌か、新しい中世か>
- すでに膨らみ始めたコロナショックバブル
- ゼロリスク志向が財政危機を加速させる
- 日銀は「新次元の金融政策」に踏み切るべき
- 新たなバブルをつくり出せない「本当の危機」
- 不要不急の消費による「成長モデル」の終焉
<バブルがつくった経済成長、壊した経済成長>
<バブル・アフターバブル>
・バブルとは常にバブル・アフターバブルである。
これこそがバブルの基本構造であり、バブルの本質である。
バブルにおいては、バブルの次にバブルが来て、バブルが崩壊すると、それを救済するためにバブルがつくられる。そして、またバブルは崩壊し、そこから立ち直るためには再びバブルが必要となるのである。これを繰り返しているのである。
・バブルとは何か。
それは、先に何気なく触れた「外部の力で膨らませたもの」である。
これは私独自のバブルの定義だが、バブルの本質だ。
バブルはいつ始まったのか。
貨幣が社会に登場したと同時に資本主義が始まったと考えるのが、岩井克人氏などであるが、貨幣を通じた交換により富が蓄積し始め、生産が起きなくても、資本主義は存在しうるという主張だ。交換が資本主義の基礎であるという考え方である。
ここではその議論に深入りはしないが、私の考えは、「資本主義とはバブルそのものであり、バブルの一形態が資本主義である」とバブルのほうを資本主義よりも広く捉えている。
<近代資本主義とはバブル>
・バブルとは「外部の力で膨らませたもの」と述べたが、では、バブル経済とは何か。
自給自足から外れた経済状態、すなわち、同一の規模で経済の営みの循環を繰り返す安定的な状態から外れた状態、と定義する。
そもそも、経済は通常は定常状態にある。毎日同じ営みの繰り返しである。生物はみな同じで、人間社会ももともとは同じはずだ。ここに生産力の上昇が、たとえば技術革新で生まれたとしよう。農業の発明でもいいし、道具の使用でもいいし、言語の発明でもよい。そうすると何が 起こるか。人口増加である。生物は種を繁殖させるために存在するから、余力が生まれれば、それは個体の増加となる。
これは、マルサスの人口論であり、マルサス的な経済成長である。定常状態における経済成長と言ってもいいかもしれない。
<バブルの3つの循環>
・そして、定常的な循環を外れバブルが始まると、経済は、今度はバブルの循環に支配されることになる。
欧州経済(20世紀以降は欧米経済と言うべきだが)に関していえば、現在は、1492年に始まったバブル拡大期のことを指しているに過ぎない。
・最後に、短期のバブル循環が存在するが、これが我々が普段バブルと呼んでいるものである。冷戦終了後、移行経済バブルがあり、それが崩壊し、ITバブル(テックバブル)があり、テロやエンロンで崩壊し、そこから世界金融バブルが世界的な金融緩和により生まれたのである。このときはEUバブルも同時に始まっていた。そして、リーマンショックで終わり、リーマンショックからの回復で量的緩和バブルが生まれた。短期のバブル、その崩壊、そこからの回復のための政策によるバブル生成、これが短期循環では繰り返されるのであり、「バブル・アフターバブル」と呼べるのである。
<経済成長とはバブルの拡大>
・このように考えると、近代以降の経済成長とは、バブルの拡大のことであった。バブルが拡大することこそが、経済規模の拡大であり、一人当たりGDPの上昇であった。GDPの拡大による生活水準の上昇とは、ぜいたく品の消費拡大であり、都市における大量消費社会の拡大のことであった。それは、実質的な生活水準の上昇を含むこともあったが、本質的には無関係であった。
<コロナショックとバブルの最終局面>
・今、起きていることは何か。
感染症に右往左往している社会である。高度に発達した技術を持ち、20世紀初頭に比べれば想像を絶するほどの経済成長を実現したはずの社会が、20世紀初頭の感染症対策と同じステイホーム、移動制限、マスク着用という手段しかとれず、しかも、それを実行することですら社会を挙げて大論争を行い、その間に60万人以上が死んでいる社会である。
我々の経済社会は、この数百年で、バブルとバブル的な消費以外の何を生み出してきたのだろうか。
<バブル・アフターバブルの30年――史上最悪の株価暴落はなぜ起こったか>
<コロナ危機と株価の大暴落は無関係>
・2020年2月24日、米国株式市場は、理由もなく突然暴落した。それはまるで、1987年のブラックマンデーの再来かと思われた。
理由がない? バカな。明らかな理由があるじゃないか。コロナウイルス危機じゃないか。コロナショック暴落だろう? すべての人がそう言うに違いない。
確かにコロナ危機は起きている。しかし、株価の暴落とは無関係だ。丁寧に言えば、暴落の最期の引き金、きっかけはコロナショックだったが、それは原因ではない。
<リーマンショック後になぜまたバブル?>
・では、そもそもバブルになっていたのか。
直接的な理由は金融緩和、それも世界的なかつ異常な規模の金融緩和である。世界にマネーが溢れ、それが株式市場になだれ込んできたためにバブルになっていたのである。
大規模緩和と言えば日本銀行だが、日本の場合は、2000年のゼロ金利開始、2001年の量的緩和の「発明」からずっと続いているので、日本関係者には当然のようになってしまっているが、この日本銀行が発明した量的緩和は、日本銀行自身の中で進化を遂げただけでなく、世界に感染していった。
<あらゆる市場でバブルが発生>
・しかし、これはまさにデジャブ、既視感のあるものだった。既視感とは、リーマンショック前の不動産バブル、そしてすべてのリスク資産がバブルになったリスクテイクバブルとまったく同じ状況、経緯であったのだ。
リーマンショック前に不動産バブルになったのは、世界で資金が余り、投資先を求めて資本がさまよっていたからであった。
<冷戦終了と30年バブル>
・これが、繰り返されるバブルの始まりだったか?
違う。これよりも先にバブルが生まれていたのである。
2001年に超低金利をつくったグリーンスパンは、1996年に米国議会に呼ばれたときの証言で、株価について「根拠なき熱狂」と言ったのだった。
・この異常な株価が、いわゆるテックバブル(日本ではITバブルと呼ばれている)を生み出し、2000年前後のテクノロジー株に関するバブルは、テクノロジーベンチャー企業たちの株価を狂気としか思えないような水準に膨張させていた。
<市場資本主義とは流動化による収奪>
・経済の拡大から金融バブルになるのが、大きな波のバブルの特徴だ。金融市場だけでは大きなうねりにはならない。金融市場の拡大を持続的に支える実体経済の需要の拡大が必要だ。ただし、これは必ずしも経済が真の意味で良くなっていることを意味しない。
<バブルに次ぐバブル>
・旧ソ連、東欧の移行経済バブルが90年代前半に起こり、90年代半ばは東アジアの奇蹟からバブルとなった。90年代後半は米国がバブルになり、インターネット革命と相まって、テックバブルとなった。
しかし、これらのバブルはすべて崩壊する。
<コロナショックバブル>
・リーマンショックによるバブル崩壊の痛み、処理から逃げ続けるための、世界的な大規模金融緩和、金融緩和によって生じた世界金融バブルの崩壊に対して、さらなる金融緩和で、バブルの最終的な完全崩壊を先送りしたというのが、2009年以降の10年間に世界で起きていることである。
・欧州も新型コロナの感染による死者が集中した地域であり、ECBもイングランド銀行も最大限の緩和を行った。日本は米国、欧州に比べれば無傷に近い新型コロナ感染症による死者数であったが、それでも政府や都道府県知事がメディアやSNSに押されて、大規模な休業要請をしてしまったために、経済活動が急激に縮小した。これに対応して、日銀も緩和を拡大する姿勢を示さなければならず、すでに国債買入は限界を超えていたため、上場株式ETFの購入額を倍増させ、株式バブルを直接つくった。
バブル崩壊からの金融システム破綻を防ぐために、世界の中央銀行は、大規模金融緩和で、まさに再度バブルをつくったのである。これにより世界の株価は大きく上昇し、コロナショック前の水準をあっさり回復し、米国ダウやナスダックは、史上最高値を更新した。
・コロナショックに対応するバブル生成政策は、金融政策にとどまらない。コロナショックの社会経済に与える影響が国民生活に直接及ぶことから、財政出動を余儀なくされたからである。しかも、金融以上に財政出動は、前代未聞、人類史上最大の財政出動であった。
<コロナショックは史上最大級の危機か――「社会が一変する」はあり得ない>
<アフターコロナは存在しない>
・中国、韓国など多くのアジア諸国は、政府が強権を発動して、人々の行動に制限を課したのみならず、スマートフォンのアプリケーションなどを駆使して、プライバシーをほとんど無視してと言っていいくらい個人の行動を把握し、それを新型コロナ感染防止のデータとして最大限活用し、そして感染拡大防止に成功した。
・世界の知性と呼ばれる人々は、自分の議論したいことに現実の現象を引き寄せているだけであり、自分の商売のネタにしているだけだ。彼らは自分の見たい現象だけを見ているにすぎない。
現実はどうなるか。コロナショックで世の中は何も変わらない。
コロナとは、自由主義、管理社会の問題ではない。感染症の問題、それに尽きる。それだけだ。ビフォーコロナ、アフターコロナなど意味はない。コロナでは何も変わらない。
・私の個人的な結論を先に言っておくと、良い政府もあれば悪い政府もある。政府が良いことをすることもあれば、悪いことをすることもある。それだけのことだ。良い政府を選び、政府が良いことをするように仕向ける。データも同じだ。政府が良いことしか使えないようにする。そうでなければ反対する。それだけのことだ。
<大恐慌ではなく最後のバブルがやってくる>
・さて、コロナショックで社会も変わらないが、経済も変わらない。
経済は大不況、いや大恐慌になる。リーマンショックをはるかに超える危機だ。いやそれどころではない。1930年代の大恐慌よりも酷い。前代未聞だ。
そのような声が大きいが、間違いだ。
コロナショックがあっても、経済は一時的に不況になるだけのことだ。それは瞬間風速は史上最強だが、トータルの影響はそれほど大きくない。すぐに回復に向かうだろう。もちろん、その回復がどの程度かという点に関しては、議論が分かれる。しかし、逆に言えば、その程度だ。回復するスピード、戻ったときの経済の水準の高さという相対的な程度の話として議論する水準の危機、不況なのだ。普通の不況にすぎない。
一方、人々が気づいていない重要な点があり、コロナショックの次に来るものがある。それは何か。
バブルである。コロナショックバブルが起きる。
これからバブルになる。そして、それはおそらく最後のバブルになる。
・最後のバブルとはどういう意味か? 私の考えでは、バブルにはいくつかの循環がある。短期の循環、中期の循環、長期の循環がある。ここでは、中期の循環が終わる可能性があると考える。
短期のバブル循環としては、たとえばリーマンショック後のバブルがある。
・バブルが膨らめば、その後は崩壊する。この繰り返しだ。
中央銀行バブルも同じことだ。この流動性バブルは、2019年には、すでに崩壊寸前で、いつ破裂してもおかしくなかった。そして、その気配は何度かあったのだが、なかなか決定的なきっかけがなく、株価の上昇は10年も続いてきたが、そこへコロナショックが起こり、決定的に崩壊した。
・そして、これから再びバブルが起きる。次は、コロナショックへの経済対策と称する大規模な財政出動によるバブルだ。
コロナバブルと呼んでよいし、世界財政出動バブルと呼んでもよい。これが次のバブルだ。
そして、この短期バブルが最後となり、短期バブルを繰り返した中期のバブル循環が終焉を迎える。この中期循環は、オイルショック後に始まったもので、冷戦終了によりバブル拡大局面を迎え、それがかなりの期間にわたって継続し、大規模に膨らんだ中期バブルの循環となった。それが、コロナショックによる世界財政出動バブルで終わるのである。
・それ以上にバブルになったのが、ジャンク債市場であり、規模が大幅に拡大した。スタートアップおよびユニコーンと呼ばれる上場前の新興企業市場は、価格付けが異常な水準になった。ベンチャーキャピタル市場バブルとなった。
これらのバブルがコロナショックで崩壊した。10年間の短期のバブル循環が終わった。そして、これからアフターコロナバブルが始まるのである。
今後、救済という名の下に大規模で混乱した、議論や理屈抜きの、節操のない世界大規模財政出動が行われる。いやすでに行われている。この結果、財政破綻が起きる。
その結果、バブル崩壊を救うためのバブルをつくる手段がついに尽き果て、1990年の冷戦終了からの中期バブル循環が終焉を迎えるのである。
<「普通の」不況に過ぎない>
・コロナショック後、実体経済はどうなるのか。
巷では、リーマンショックはもちろん、1929年からの大恐慌を超える、人類史上最大の恐慌が来ていると言っている人もいる。いやほとんどの人がそう言っていて、人々はそれでコロナ以上に恐怖を感じている。
これは嘘だ。
しかし、多くのまともなエコノミスト、学者、IMFなどの国際機関までもが、少なくともリーマンショックは確実に超える危機だと言っている。なぜ、そんな良識も見識もあるはずの人たちが嘘を言っているのか。
厳密に言うと嘘でもないからである。
どっちなんだ、と言われるであろうが、ある意味ではどちらも正しい。史上最大の危機と言えなくもないが、トータルで見れば、リーマンショックよりは小さな危機である。
・したがって、トータルで見ると大恐慌どころかリーマンショックにも及ばない「普通の」経済的な落ち込みなのである。
<ストックショックではなくフローショック>
・これは理屈で考えても明らかだ。
理由は、第1に、ストックのショックではなく、フローのショックにとどまっていること。第2に、金融セクターが直接傷んでいないこと。これらにより、コロナさえ収束すれば、経済は、構造的にはすぐに元に戻る可能性が高い。
リーマンショックでは何が起きたか。多くの金融機関、投資家の資産が紙くずになった。サブプライムローンという質の悪いローン債権にAAAというリスクが低い資産の価格が付いてバブルになっていたものに投資していた。バブルで資産を失ったから、それは取り戻せない。膨大な金融資産が失われた。
・金融ストック、ビジネスストックが失われたのである。
さらに、金融危機においては、銀行の資本が激しく棄損し、金融システムが機能低下、機能不全に陥る。この結果、バブルや当初の危機と直接関係のなかったところにまでバブル崩壊の影響が広く及ぶ。
・一方、今回のコロナショックでは、とりあえず金融機関は直接は傷んでいない。傷むとすればこれからだ。中小企業への支援融資を公的金融機関も民間金融機関も全力で行っている。これは政府がリスクをほぼすべて請け負ってくれるから民間金融機関は傷まない。ただし、少し大きな企業、民間金融機関自身がリスクを負って支援するところ、それらが次々に行き詰まり、破綻したりすると、このコロナショックは金融危機に近づく。
さらに大きな企業、百貨店やアパレルが破綻すると、金融危機の瀬戸際になり、さらに航空関連企業などが破綻してしまうと、日本全体の金融危機になってしまう。そうなると危機は深刻化し、リーマンショックを超える危機になる。
しかし、そうはならないだろう。コロナによる自粛や経済封鎖が2021年になっても続いているようなら、そのシナリオは現実味を帯びるが、そうはならないはずだ。
つまり、金融セクターが直接激しく傷んでいないという点で、リーマンショックよりもコロナショックによる経済危機はトータルでのインパクトは必ず小さくなる。
<供給ショックは存在しない>
・ストックのショックという意味では、日本では東日本大震災がある。これは物理的にインフラが破壊され、交通手段などの公共資本、農地、港湾などの産業資本、住宅などの生活資本、すべての面でのインフラ、資本が長期にわたって利用できなくなってしまった。
これでは、回復にカネも時間も手間もエネルギーもかかり、絶望的になる。
一方、コロナショックは、一旦収束すれば、すべてのインフラは物理的にもビジネス的にもすぐに元通り使える。
・詳しく述べる必要もなく、強烈な需要ショックなのである。需要の瞬間的な蒸発なのである。そして、それに尽きる。瞬間的だから、戻ってくるときもすぐに戻ってくる。一方、生産体制は大企業を中心に着々と再開へ向けて対策も取られており、一旦需要が回復すれば、何も心配することはない。あくまで需要がすべてだ。
<マスク問題は日本だけ>
・なぜ、マスクの供給が増えなかったのか。増えるのが遅れたか。それは、実は、日本国内特有の問題なのである。一般用のマスクが足りなかったのは日本国内だけだったのである。なぜか。
もちろん、第1に、世界中の需要が突然高まったことがある。
・話がややそれたが、要は供給ショックはまったく起きなかった。コロナショックはあくまで需要だけのショックなのだ。マスクの話も需要サイドが混乱したことによる生産ストップであるから、あくまで需要ショックなのだ。
<ジャンク債バブルと金融危機>
・ジャンク債市場はバブルになっていた。リーマンショック後のFEDおよび世界の中央銀行の過剰な金融緩和、いわゆる量的緩和により、マネーが溢れ、債券利回りは急低下し、利回りを求める資金が国債から逃げ出し、少しでも利回りのある商品を求めた。欧州ではマイナス金利が常態化し、ドイツ国債などは10年物の利回りがマイナス0.6%といった、前代未聞どころか、理屈でそう考えても説明できない水準で定着してしまった。
<バブルが“また”“再び”やって来た>
・しかし、このバブル崩壊の危機は、新型コロナの「おかげ」で、なくなってしまった。
なぜなら、新型コロナショックからの企業倒産危機を回避するという理由から、米国中央銀行FEDが社債を大量買い入れすることを決定したからであった。
<「アフターコロナ」の資本主義――原点回帰の「経済モデル」へ>
<米国は覇権放棄>
・まず、世界の地政学的な動きとしては、米国の覇権喪失、いや覇権放棄と言ったほうがよい。世界の覇権国であることを、名実とも降りた。トランプ大統領になって、それが誰の目にも明らかになったたが、これはトランプでもなくとも同じことで、世界の警察であることはとっくにやめており、さらに、国際秩序の維持に対してすら、無関心になったということだ。
<アジア、アフリカの伸張>
・アジア各国は、高度成長を達成し、新興国から成熟国へのギアチェンジをどううまく乗り切るかというステージにいたが、このような状況の下、アジア域内志向が加速する。理由は、ほかの選択肢がなくなったからだ。
<世界経済もすぐに回復する>
・株価はコロナ前の水準にほぼ戻っている。
なぜか、理由は3つ。
第1に、資産市場は世界中の中央銀行の大規模金融機関により、単純に再びバブルになった。
第2に、コロナショックは短期的であり、長期的に見ると大したショックではない。
第3に、それにもかかわらず、前代未聞の財政・金融政策が採られた。だから、実体経済においても資本市場と同様に、再び、財政金融政策によるコロナバブルが始まった。
では、今後はどうなるか。
実体経済は、もちろん回復する。ただし、強弱入り交じった回復にはなるだろう。前述の通り、ショックは短期的であり、長期的には普通に戻る。資産は、金融資本も実物資本も傷んでいないから、回復し出せば早いはずだ。
戻らない分野は2つ。人々の心理と国際的な移動だ。
<航空需要は激減>
・まずは、国際旅客サービス、すなわちエアライン産業だ。クルーズ産業もそうだが、産業の規模としてもっとも大きいのはエアライン産業だ。
物流は減らないが、人の流れは確実に減る。それは個人の旅行客もそうだが、ビジネス客も大きく減少するだろう。
<観光は戻らない>
・一方、滞在型の旅行は増える。毎年訪れるリピーターの多い宿も生き残る。シェアリゾート、別荘などはむしろ人気が上がるだろう。
しかし、このような滞在型、毎年同じ客が同じ時期に訪れる必須の滞在に耐えうる観光地、宿泊施設は、100分の1にも満たないだろう。選別がはかられる。そして、旅行客の総数は減ることになる。海外はもちろん激減だが、国内旅行も減少する。これが現実である。
<消費はほとんど不要不急>
・実は、これは観光業にとどまらない。
経済全体が同じ状況に陥っているのだ。
現在、我々が消費しているものは、ほとんどが不要不急のものだ。なしで過ごせ、と言われれば、いくらでも過ごせる。楽しくないかもしれない。
<現在の経済システムは謎>
・現在の経済システムは謎だ。
アダムスミス以来、経済学が300年にわたって、効率的だと言ってきた市場経済は、危機に対して即応できないのだ。
まず、資源配分を適切にできない。マスク、防護服の例で明らかだ。それさえあれば、医療機関、介護施設での死亡者数は半減しただろう。フランスでの死者の4割が介護施設およびそれに類する施設だった。
これは需要の読み誤りからきている。市場経済は需要をきちんと予測できないのだ。
<人間モデルの設定の失敗>
・では、根本的な欠陥とは何か。
第1に、人間は、論理的ではなく衝動的であり、長期よりも短期を優先する、という経済主体であるにもかかわらず、まったく逆の想定で経済理論をつくってしまったことだ。ただ、それだけならば、理論の欠陥、間違った学問ですんだのだが、それに基づき、市場経済をつくり、さらには社会もつくってしまったのが最大の罪だ。
<経済成長はどこから来るのか>
・経済学の致命的な誤りの第2は、経済成長の考え方そのものが誤っていることだ。経済成長はどこから来るのか。この問いに現在の経済学はきちんと答えていない。かつてシュンペーターは、経済発展は創造的破壊と新結合により生まれると言ったが、これは全体として正しくはないが、一面としては意味がある。しかし、その一面ですら、その後の経済学は受け継がなかった。
<自給自足に回帰せよ>
・今、われわれが目指すべきものは、自給自足、それの効率化、少しずつの拡大ではないのか。そして娯楽などを含むプラスアルファ、自給自足プラスアルファが、われわれが本当に欲しいものであり、暮らしたい社会ではないのか。
<コロナは収束する>
・これからどうなるのか。
コロナは収束する。
そして、バブルになる。金融、財政出動によるバブルになる。
株式市場はすでに、最後の短期バブルが始まっている。コロナショックで崩壊したバブルを救済するためのバブルだ。救済のための金融緩和は、中央銀行の能力を超えており、これで最後のバブルになる。
実体経済も大幅財政出動により、バブルとなる。この10年のバブルの崩壊処理を先送りする世界的大規模財政出動により、バブルになる。
そして、金融市場も実体経済もバブルは崩壊する。
財政破綻により、維持不可能になり、崩壊する。
・感染症ではない危機でも同じで、人々が財政出動を要求し、そして破綻するだろう。
この後が重要である。
第1に、短期バブルは崩壊する。
第2に、辻褄合わせの、バブル崩壊の後始末を先送りするためにつくられたバブルの生成、崩壊の連鎖は、ここで終わる。アフターバブルのバブルはつくれない。なぜなら、金融政策も財政政策も原資が枯渇するからである。
第3に、アフターバブルのバブルがつくれないということは、中期循環のバブルも終わる。1990年の冷戦終了からの中期の実体経済のバブルが終わり、混乱を経て、停滞期そして安定期に入る。30年のバブル拡大局面が終わる。その前の停滞期はオイルショック前からだったから20年程度で、今回の停滞も10年単位で数十年に及ぶものになる可能性がある。
・したがって、中期の実体経済バブルの3要素がすべて失われており、中期バブルも終わる。リーマンショック後に終了していたのだが、世界的な大規模金融緩和、量的緩和という歴史的にも異常な政策により、無理やり延命に成功し、中期バブルの終了も遅れたが、ついに終わる。
第4に、長期のバブルが終わるかどうか、ひとつの分岐点にいる。短期バブルと中期バブルの崩壊の痛みに耐えられず、短期バブルをつくり、それを通じて、中期バブルを延命しようとする可能性はある。つまり、完全な外部はもはや存在しないが、中国の部分的に外部として残っている部分を市場資本主義社会に完全に取り込むことによって、延命する可能性である。
・短期バブルは、世界中で財政破綻が起き、崩壊しかかっているところを、中国の財政、金融出動により、再度作成させることができるかもしれない。これは市場の投資家たちがその流れに乗り、それを拡大し、バブルをつくって逃げ切ろうとすればできる。一方、実体経済も中国経済に依存して延命を図る可能性はある。中国を市場経済に取り込んでいるように欧米社会は振る舞うだろうが、それは、取り込んだはずの中国に乗っ取られるか、あるいは、中国の経済市場システムに参加して、中国経済圏に一人ずつ取り込まれていき、彼らが多数派になるか、どちらかのプロセスで実現するだろう。
・そのときの経済社会は、どのような世界になっているか。
バブルは終わっている。
ただの量的な経済の拡大を経済成長と呼んだ時代も終わっている。
質的な充実を図る経済が静かに営まれている。
すなわち、自給自足、安定的な日々の営みを循環的に毎年繰り返す、安定した自給自足循環経済となっている。
新しいぜいたく品を次々と人々に消費させて、経済の規模の拡大を図った経済、マーケットエコノミー、市場資本主義経済、別名バブル経済、これは終わっている。
ぜいたく品の消費はなくなる。必需品が経済の中心、ほぼすべてとなる。現在、われわれが消費しているものの多くが選別されて、廃れていくだろう。
・さて、このような大きな変化が起こり得るときに、日本はどのような準備をするべきであろうか。
心配なことは2つある。
第1は、財政破綻である。日本は間違いなく財政破綻する。どの国よりも、財政出動が寛容で、大盤振る舞い、サービス満点だからである。そして八方美人だ。右も左も、格差も関係もない。みんないい顔をする政治、政府、人々、社会である。だから、愛想をばら撒き、カネをばら撒き、財政破綻する。
問題は、財政破綻後、どのように復活するか。その準備が足りないことである。
破綻シナリオを検討し、破綻後、何をするか決めておく必要がある。
・破綻してから決めるのでは、時間がない。破綻すれば、1日ごとに日本は、株も為替も暴落し、企業も個人も資産を流出し、経済の立て直しが難しくなる。したがって、破綻したらすぐにどういう措置をとるか、アクションプランを検討しておく必要がある。
・現実的には、増税半分、支出削減半分ということになろう。世界の様々な国の過去の財政破綻事例からいってもそうだ。
ここでは詳細には検討できないから、支出削減について考え方を提起しておく。
財政破綻後の世界は、世界経済も変わっていて、バブルの時代は終わっている。世界経済が、自給自足、安定循環経済、ぜいたく品から必需品へ、という流れになるというのと同様に、日本の政府支出もぜいたく品はすべて削除し、必需品に絞って供給することになろう。
・もう一つの心配は、日本社会の思考停止である。財政支出の優先順位というようなもっとも必要な議論を日頃から回避し、そして議論がもっとも必要な危機に直面した時ですら、議論を拒否するのではないか。思考停止が社会を停止させてしまうのではないか。
・日本は、金融市場でもバブルをつくるのが好きだが、社会も世論もバブルが大好きだ。勝手に情緒的に、衝動的な流れ、世論をつくり上げ、それに同調しない人々、言論を受け入れない。それどころか、パニッシュ、懲罰する。世論バブルで、流されやすい、判断ができない多くの人を思考停止に追い込み、議論を挑み、正論を戦わそうとする人々を抑圧し、抹殺する。
日本は言論バブル社会である。
バブルは、金融市場も経済も社会も破壊する。日本は議論も社会の安定性を破壊する、世論バブル社会になってしまっている。
これが、危機に直面した場合に、もっとも危惧することで、財政危機に直面して、議論ができないばかりか、財政危機を加速し、まさに止めを刺すように、半ばやけくそ、思考停止のばら撒きで、財政破綻が起きてしまうのではないか。
『ポストコロナの経済学』
8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?
熊谷享丸 日経BP 2020/7/2
<テレワークが当たり前になり通勤ラッシュ「教科書に載る日」が来る>
・人類の感染症との闘いは長期化することに加えて、ポストコロナの時代は、それ以前と全く異なる世の中に変わる。人間の既成概念とは、案外もろいものだ。1968年のメキシコオリンピックで、米国のディック・フォスベリー選手が最初に背面跳びを行った際、観客はその奇妙で非常識なフォームに驚いた、と伝えられている。筆者は、近い将来、テレワークや遠隔診療などが当たり前となり、かつて多くの会社員が、満員電車に揺られて職場に通勤していたことが、昭和・平成の日常の一コマとして教科書に載る日が来ると確信している。
<「ポストコロナの時代は、どんな世の中になっているのだろうか?」>
・「もう少し我慢して、新型コロナウイルス感染症が収束すれば、元の世界が戻ってくる」と、政治家は国民に呼びかける。だが、それは完全な幻想である。
人類が撲滅できた感染症は天然痘だけだと言われている。歴史的にみると、感染症の拡大とグローバリゼーションはセットであり、近年の地球環境破壊の深刻さなどを勘案すると、今後も人類は様々な感染症に悩まされ続けることになるだろう。
筆者は、人類の感染症との闘いは長期化することに加えて、ポストコロナの時代は、それ以前と全く異なる世の中に変わると考えている。それは、本書で提示する「8つのグローバルな構造変化」が現実化した「新常態(ニューノーマル)と呼ばれる新しい世界である。
・実際、わが国では失業率と自殺者数との間に一定の相関が存在する。景気が極端に悪くなると、大変不幸なことに自殺される方が増えるという傾向がある。
したがって、われわれは基本的な考え方として、感染症の拡大抑制と、社会活動・経済活動の持続可能性(サスティナビリティ)とのバランスの回復を目指す必要がある。
・最終的な目標として、われわれは感染症に対するレジリエンスがある(耐性の高い)社会を構築することを目指すべきだ。いわば、感染症を「制圧」するのではなく、感染症と「共存」するという発想だ。
・各章の概要は、以下の通りである。
「第1章 新型コロナウイルスにどう立ち向かうか?」では、今回の新型コロナショックは、2008年前後に起きたリーマン・ショックと比べてはるかに悪性の不況であり、日本経済・世界経済に第ニ次世界大戦後で最悪の打撃を与えると見られることを指摘する。その上で、主として感染症が収束するまでの政策対応に重点を置いて、新型コロナショックに対する政策対応のポイントを考察する。
・「第2章、ポストコロナ時代の8つのグローバルな構造変化」では、ポストコロナ時代に予想される8つのグローバルな構造変化について検証する。
ポストコロナの時代には、次の8つのグローバルな構造変化が起きると予想される。すなわち、「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる全く新しい世界が始まるのだ。
第一に、資本主義の全体像という視点では、2000年代に入り加速した、株主の近視眼的な利益だけを過度に重視する「新自由主義・グローバル資本主義」は大きな転換点を迎え、より中長期的に持続可能性が高い、従業員や顧客、取引先、地域社会、地球環境、将来世代など様々な側面にバランスよく目配りをした「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」が主流になるとみられる。そのなかで、SDGs(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ=国連が掲げる持続可能な開発目標)の重要性が増していく。
・第二に、感染症にかかった場合、高所得者層は高度医療の恩恵を受けて生命をとりとめるケースが多い一方で、貧困層の生命は容赦なく奪われかねない。こうした「パンデミックの逆進性」などを背景に、社会の分断・不安定化が加速する。この結果、1929年の世界大恐慌の後に起きたような、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムの台頭が危惧される。
・第三に、米国と中国の対立は激しさを増す。これは、資本主義と共産主義との覇権争いであり、世界が2つの陣営に分断されるブロック経済化の進展が懸念される。政治面では、世界的に地政学リスクが増大する。
第四に、グローバル・サプライチェーンの再構築が進む。ポストコロナの時代には、危機管理体制の強化やリスク分散の推進が求められるからだ。
第五に、不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下するリスクが高まる。現状、世界的に民間企業は借金漬けの状態であり、今後グローバルな過剰債務、過剰設備の調整が起きる可能性がある。最終的に金融機関に不良債権が積み上がり、リーマン・ショックのような金融システム危機が起きることが懸念される。
・第六に、「大きな政府」が指向され、財政赤字問題が軒並み深刻化する。景気悪化で税収が低迷する一方で、感染症への対応で歳出が増えるからである。この結果、世界的にマクロ経済政策は手詰まりの状態に陥る。そして、財政政策と金融政策の役割分担が希薄化し、選挙という民主的な手段で選ばれたわけではない。中央銀行が司る金融政策が、民間の資源配分にまで乗り出す異例な事態となるだろう。
第七に、感染症を避けるために、リモート社会(非接触社会)が指向されるなど、産業構造の激変が起きる。「ソサエティ5.0」と言われるテクノロジーを中心とする社会をつくり上げるべく、テレワーク、オンライン診療、オンライン授業、インターネット投票などの実現・拡充を期待する声が高まる。とりわけわが国では、岩盤規制などと言われる、医療や教育などの分野での規制緩和を断行することが喫緊の課題である。
・第八に、長年人類が目指してきた、中央集権型の仕組みは、分散型ネットワークへと移行する。都市型の不動産価格は大きく下落し、わが国では地方創生の千載一遇のチャンスが生じるだろう。
・具体的に、本書では、日本政府、企業、個人が実行するべき、いわばトゥー・ドゥ・リストとして、①多様性や選択の自由を最大限尊重しつつも、有事の緊急事態法制の整備を急ぐ、②労働市場の機能不全を解消、労働生産性を向上、③「SDGs大国宣言」を行い、国際社会における立ち位置を明確化、④感染症へのレジリエンスのある社会を構築、⑤財政政策と金融政策の融合が進むなかで、財政規律を維持、⑥分散型ネットワークを構築し、地方創生に舵を切る、⑦企業は自らの存在意義を問い、抜本的な経営変革を行う、⑧個人はリベラルアーツや経済・金融を学ぶ、という8点を指摘している。
<新型コロナショックにどう立ち向かうか?>
・今回の新型コロナショックは、2008年前後に起きたリーマン・ショックと比べてはるかに悪性の不況であり、日本経済・世界経済に第ニ次世界大戦後で最悪の打撃を与えるとみられることを指摘する。
<新型コロナショックは世界大恐慌以来の戦後最悪の不況>
・新型コロナウイルス感染症の拡大は、日本経済にリーマン・ショック以上の打撃を与えるとみられる。
・この結果、大和総研では、2020年度のわが国の実質GDP成長率は、「短期収束シナリオ」で▲5.1%、「長期化シナリオ」では▲9.4%と予想している。
・IMFによれば、2020~2021年の2年間で失われるGDPは9兆ドル(990兆円)に達するという。これは、驚くべきことに、日本とドイツの1年分のGDPに匹敵する金額である。
<新型コロナショックとリーマン・ショックの比較>
・筆者は、新型コロナショックとリーマン・ショックを比較すると、今回のほうが質的にはるかに悪性の不況だと捉えている。
まず、極めて単純化すると、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」という経済の3要素のなかで、リーマン・ショックでは「カネ」が新型コロナショックでは「ヒト」と「モノ」が止まった。
リーマン・ショックの際には世界中の金融機関が打撃を受け、海外の景気が悪化し、その影響が日本に遅れて来たため、わが国の中小企業や国民の所得に悪影響が及ぶまでにある程度の時間がかかった。一方、今回の新型コロナショックは非常にスピードが速く、とりわけ観光、運輸、外食、イベント、レジャーなど特定の業種が壊滅的な打撃を受けている。
・しかしながら、新型コロナショックのほうが、リーマン・ショックよりも悪い点が4つある。
第一に、今回のほうが政策対応余地は小さい点が挙げられる。
・第二に、サプライチェーンへの打撃から、局所的な「スタグフレーション(不況下の物価高)」のリスクが存在する。
・第三に、グローバルな企業の過剰債務問題が深刻である。
・第四に、言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症の拡大にいつ歯止めがかかるかは、生命科学の領域に属する話なので、正確に予測することが困難である。
結論として、新型コロナショックは、リーマン・ショックと比べて、質的にはるかに悪性の不況であり、日本経済に戦後最悪の打撃を与える可能性があるだろう。
<ポストコロナ時代の8つのグローバルな構造変化>
・新型コロナウイルス感染症が収束すれば、元の世界が戻ってくるというのは、完全な幻想である。
人類が撲滅できた感染症は天然痘だけ、とも言われている。歴史的にみると、感染症の拡大とグローバリゼーションはセットであり、近年の地球環境破壊の深刻さなどを勘案すると、今後も人類は様々な感染症に悩まされ続けることになるだろう。
・人類と感染症との闘いの歴史は古く、紀元前のエジプトのミイラにも天然痘の痕跡が見られる。5世紀から8世紀にはシルクロードを通じて、天然痘がインドから広がった。わが国にも、仏教と同時期に天然痘が伝わり、735年頃に大流行し、聖武天皇が東大寺の大仏を建立した。
ペストはモンゴル帝国が東西貿易を拡大したことで、14世紀頃、中央アジアからクリミア、イタリアなどを経て欧州全土に広まった。当時の欧州の総人口の約3分の1に相当する2500万人以上が死亡した結果、農奴開放が起きて封建制は終了する。また、ペストに対して無力だった教会の権威が失墜し、そこから主権国家を中心とする近代が成立し、ルネサンスへとつながっていく。
・19世紀から20世紀にかけては、東インド会社を介して、コレラがインドから世界各地に拡散した。わが国でも「ころり」と称され、江戸時代末期の人々に甚大な打撃を与えた。歴史研究者の間では、西洋から入ってきた「ころり」により多くの日本人が亡くなったことへの反発が、「尊王攘夷」思想と結びつき、倒幕につながったという見方もある。
また、スペイン風邪は、第一次世界大戦の時期に、米国から欧州へと広がった。この病気により約4000万~5000万人が亡くなったと伝えられるが、第一次世界大戦の戦死者が約900万人だから驚くべき数字だ。
以上のように、感染症の拡大とグローバリゼーションの流行はセットであり、また、感染症の流行は多くの国々において歴史の大きな転換点となってきたのである。
・筆者は、人類の感染症との闘いは長期化することに加えて、ポストコロナの時代は、それ以前とは全く異なる世の中に変わると考えている。
① 「グローバル資本主義」からSDGsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」への転換
② 格差拡大を受けた、反グローバリズム・ナショナリズム台頭のリスク
③ 米中対立が激化し、「資本主義vs.共産主義」の最終戦争へ
④ グローバル・サプライチェーンの再構築
⑤ 不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下
⑥ 財政収支が軒並み悪化し、財政政策と金融政策が融合に向かう
⑦ リモート社会(非接触型社会)が到来し、企業の「新陳代謝」が重要となる
⑧ 中央集権型から分散型ネットワークへの転換
という8つのグローバルな構造変化が起きると予想している。すなわち、「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる全く新しい世界が始まるのだ。
・筆者は、近い将来、テレワークや遠隔医療などが当たり前となり、かつて多くの会社員が満員電車に揺られて職場に通勤していたことが、昭和・平成の日常の一コマとして日本史の教科書に載る日が来ると確信している。
<変化❶ 利益至上主義からSDGsを中心に据えた資本主義へ転換>
・ポストコロナの時代に予想される第一のグローバルな構造変化として、資本主義の全体像という視点から、「利益至上主義からSDGsを中心に据えた資本主義へ転換」を挙げる。2000年代に入り加速した、株主の近視眼的な利益だけを過度に重視する「新自由主義・グローバル資本主義」は大きな転換点を迎え、より中長期に持続可能性が高い、従業員や顧客、取引先、地域社会、地球環境、将来世代など様々な側面にバランスよく目配りをした「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」が主流になるとみられる。
<「グローバル資本主義」から「ステークホルダー資本主義」へ>
・かつて、資本主義には、米国に代表される「アングロサクソン型」、ドイツに代表される「ライン型」、「日本型」といった様々なタイプが存在した。しかし、ポストコロナの時代には、こうした資本主義の様々なタイプが、ひとつの方向に収斂する動きが予想される。
<お金とヒトは、どちらが大切なのか?>
・しかしながら、ポストコロナの時代を展望すると、資本主義は第四ステージ(「資本主義4.0」)に入ると予想される。それは、「資本(お金)」ではなく、「労働者(ヒト)」こそが付加価値の源泉となる新たな時代だ。
・「資本主義4.0」に向けた始動は着実に生じている。
第一に、最近のマイナス金利は世界中でお金が余っていることを意味している。つまり、従来と比べて、「資本(お金)」の価値が大幅に低下しているのである。
第二に、人工知能(AI)の発達も、資本主義に大きな変化をもたらすことになるだろう。
<経済学は「分配」や「格差」に関する分析を怠ってきた>
・現在、資本主義が抱えている最大の問題は、所得分配の不平等や格差拡大である。
・以上を総括すると、伝統的な経済学は「成長」や「効率性」の追求に重点を置き、「分配」や「格差」などの問題に正面から取り組んでこなかったことが最大の問題である。そもそも、ケインズは、効率性ばかりを追求するのではなく、経済的な効率性と、個人の自由や社会的公正のバランスを取ることを主張していた。ポストコロナ時代の経済学には、こうしたケインズ本来の考え方などを踏まえて、格差や社会的公正などの問題に正面から取り組むことが求められる。
<変化❷ 格差拡大で、反グローバリズム・ナショナリズムが台頭>
・ポストコロナの時代に想定される第二のグローバルな構造変化は、格差拡大を受けて、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズム台頭のリスクが高まる点だ。
感染症にかかった場合、高所得者層は高度医療の恩恵を受けて生命をとりとめるケースが多い一方で、貧困層の生命は容赦なく奪われかねない。
<ポピュリズムが横行し、政治の不安定性が増大>
・今後、懸念されるのは、1929年の世界大恐慌の後に起きたような、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムの台頭である。
欧州では既にこうした予兆が生じている。
・歴史を紐解くと、大きな経済危機が起きると、その後、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムが台頭する傾向が見受けられる。
・ポストコロナの時代には、中国やロシアなどの権威主義国・国家資本主義国の台頭も懸念される。歴史の教訓を踏まえて、国際社会が連帯して、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムに立ち向かうことが肝要だ。
<資本主義と民主主義の離婚>
・こうした厳しい現実を受けて、「資本主義と民主主義の離婚」が進行している。民主的に選ばれた政府が、格差を一向に解消してくれないことに対する貧困層の不満は、もはや制御不能なレベルにまで達している。
・筆者は、この「資本主義と民主主義の離婚」という問題を解くカギは、2つあると考えている。
第一に、資本主義サイドからは、繰り返し指摘してきた通り、SDCsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」へと転換することが最大のポイントである。
・第二に、民主主義サイドからは、各国が社会保障制度の充実などを通じて、所得再分配を強化することが肝要である。また、健全な民主主義の担い手となり得る「主権者教育」を強化すると同時に、世論の分断を助長するSNSへの規制なども検討すべきだろう。
<「設計主義」への懐疑>
・2つ目の構造問題として、「設計主義」に対する懐疑的な見方が強まっている点が挙げられる。ここで言う「設計主義」は、多くの場合、エリート主義と言い換えてもよいだろう。
・現状は、英国のみならず世界中の各地で、反エリート主義やオートノミー、つまり「自己決定権」を求める動きが加速している。いわば「自分のことは自分で決めたい」という考え方である。
・いずれにしても、ここまで指摘してきた、①資本主義と民主主義の離婚、②「設計主義」への懐疑、という2つの構造問題に、「パンデミックの逆進性」という新たな問題が加わり、ポストコロナの時代は、ポピュリズムが横行し、社会の分断・不安定化が加速することになるだろう。まさしく、われわれは人類の叡智が問われる時代に生きているのである。
<変化❸ 米中対立が激化し、「資本主義vs.共産主義」の最終戦争へ>
・ポストコロナの時代に想定される第三のグローバルな構造変化として、米中対立が激化し、「資本主義vs.共産主義」の最終戦争が行われる可能性が高い。
<米中対立に端を発したブロック経済化の懸念>
・キーワードは「デジタル専制主義」である。「デジタル専制主義」とは、2018年1月のダボス会議で注目された言葉で、「経歴、嗜好、個人の行動など、あらゆる情報が国家の管理下にあり、データを掌握する者が世界の将来を左右する」状況を意味する。中国が「デジタル専制主義」に向かう中、民主主義は意思決定のコストやスピードなどの面で不利なので、中国が覇権を握るとの懸念が強まっている。
<英国のブレア元首相が「ヒストリー・イズ・バック」と発言した理由>
・すなわち、①「モラル・ハザード」が起きて人々が怠けたこと、②共産主義エリートの能力が市場よりも劣っていたこと、という2つの致命的欠陥から、共産主義は一敗地にまみえ、歴史はいったん終わったかのように見えたのである。
<なぜ、共産主義が息を吹き返したのか?>
・それではなぜ、一度崩壊した共産主義が息を吹き返したのだろうか?
第一に、「『モラル・ハザード』が起きて人々が怠けた」という問題点は、AI(人工知能)の発達などによって克服された。
・「共産主義エリートの能力が市場よりも劣っていた」ことによる、需要の読み違いという第二の問題点は、ビッグデータの活用などによって克服された。
・データは「21世紀の石油」とも言われており、ポストコロナ時代の経済活動のなかで、中核的な役割を果たす。
<米中間の覇権争いはこれから10~20年続く>
・グローバリゼーションの最大の受益者と言っても過言ではないわが国にとって、米中対立に伴うブロック経済化の進展は、まさしく死活問題となる。
・したがって、もし米中対立が深刻化し、完全なブロック経済化が進むような事態になると、前記の需要がすべて消失し、日本経済には少なくとも20兆円規模のダメージがあることを覚悟する必要があろう。
<米中対立のワーストシナリオ>
・最悪のシナリオは、米中両国が軍事衝突に至るケースである。
・筆者は、わが国の外交政策の基軸は間違いなく「日米同盟」であるが、米中両国の対立激化やブロック経済化などの回避に向けて、米中両国の仲介役を果たす必要があると考えている。
<中国の「バブル」崩壊を警戒せよ>
・筆者の中国経済に対する見方を一言で述べれば、「短期=楽観。中長期=悲観」である。中国は「社会主義」の国なので、公共投資を中心とするカンフル剤を打てば、問題を2~3年程度先送りできる。しかし、向こう5~10年程度の中長期的な時間軸で見れば、中国では「バブル」崩壊のリスクが高まるとみている。
第一の過剰は金融面での過剰融資である。中国における過剰融資の総額は1000兆円以上と推定される。将来的に、このうち何割かが焦げ付く場合、数百兆円規模の不良債権の発生が懸念される。わが国の「バブル」崩壊に伴う不良債権額が100兆円規模であったことを勘案すると、文字通り「人類史上最大のバブル」といっても過言ではない。
第二の過剰は、工場や機械といった、いわゆる「資本ストック」の過剰である。その総額は700兆円以上とみられる。
・国有企業の債務は最終的には公的部門の債務となる可能性が高いので、その部分を含めて考えると、現在の中国では実質的な公的債務が名目GDPの1.7倍以上に達しているとみる向きもある。「借金漬け」とも称されるわが国で、この比率が2.4倍弱であることを考えると、もはや中国には、大きな財政出動余地は残っていないと考えるべきだろう。
もう一度、繰り返そう。中国経済は間違いなく「バブル」である。
・筆者の中長期的な中国に対する見方は、依然として慎重である。それは、国民の不満が蓄積する本質的な原因は、「社会主義・市場経済」と言われる中国の矛盾した体制にあるからだ。
<変化❹ グローバル・サプライチェーンの再構築が不可避>
・ポストコロナの時代に想定される第四のグローバルな構造変化は、サプライチェーンの再構築が進むとみられる点である。ポストコロナの時代には、危機管理体制の強化やリスク分散の推進が求められるからだ。
最初に危機管理という側面では、今回の新型コロナショックに対して、わが国は無防備であったと言わざるを得ない。
2018年の時点で、米国のジョンズ・ホプキンス大学が新型コロナウイルスの出現を予見し、警鐘を鳴らしていたことが広く知られている。脅威となるウイルスに備えて調査・監視に資金を投じること、科学的根拠に基づく治療法を官民医の連携で模索することなど、8つの勧告を含むこの報告書は、残念ながら全く活かされなかった。
わが国では、国立感染症研究所の予算が、過去10年間で20億円程度、すなわち3分の1程度、カットされてきた。感染症の拡大とグローバリゼーションがセットで拡大してきた過去数千年の歴史を踏まえれば、日本政府が事態を俯瞰できていなかったことは間違いない。
<グローバル・サプライチェーンの再編が進む>
・ポストコロナの時代には、グローバル・サプライチェーンの大規模な再編が起きるとみられる。
・筆者が最も強調したいのは、ポストコロナ時代のサプライチェーンが、従来とは全く異なる次元で再構築されることになる点である。
<卵をひとつのカゴに盛ってはいけない>
・ポストコロナの時代には、中国の「カントリー・リスク」の大きさを考慮すると「チャイナ・プラス・ワン」の動きがより一層加速するとみられる。
<虎穴に入らずんば虎児を得ず>
・中国は「社会主義」の国なので、少なくとも向こう2~3年程度、うまくマネージすれば4~5年程度、「バブル」崩壊を先送りすることは十分可能だ。したがって、今後、日本企業は、将来的なリスクを覚悟で、最大で向こう5年程度の中国市場拡大の利益を取りにいくか否かという、極めて悩ましい経営判断を迫られるだろう。
<「ボリューム・ゾーン」の攻略がカギ>
・ポストコロナの時代に、日本企業が「チャイナ・プラス・ワン」の市場で成功を収めるには、アジアにおける中間所得層の消費市場(いわゆる「ボリューム・ゾーン」)の攻略に真剣に取り組む必要がある。
<変化❺ 不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下>
・ポストコロナの時代に予想される第五のグローバルな構造変化は、不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下するリスクが生じることだ。
<グローバルな金融危機は再来するか?>
・筆者は、行きすぎた金融緩和が長期化すると、仮に物価が安定していたとしても、過度な債務拡大などの金融の不均衡がじわじわと蓄積し、臨界点を超えると、「バブル」が崩壊して金融危機が起きかねないとみている。
・グローバルな視点でみると、今後の経済・金融危機の震源地として最も警戒すべきなのは新興国である。
新型コロナウイルスの感染者数をみると、2020年5月上旬の時点で、新興国が先進国を上回った。
・新型コロナショックの影響が拡大するなか、新興国の債務不履行リスクが急速に高まっている。
・こうした新興国の脆弱性などを背景に、新型コロナウイルスショックが発生してから、新興国からの資金流出が加速した。とりわけ韓国、台湾、インド、タイなどのアジア諸国・地域や、ブラジルなどからの資金流出が顕著だった。
<変化❻ 財政収支が軒並み悪化し、財政政策と金融政策は融合へ>
・ポストコロナの時代に予想される第六のグローバルな構造変化は、「大きな政府」が指向され、財政赤字問題が軒並み深刻化する点である。その理由は、言うまでもなく、景気悪化で税収が低迷する一方で、感染症への対応で歳出が増えるからだ。
<財政政策と金融政策の境界が曖昧に>
・ここまで指摘してきた通り、ポストコロナの時代には、各国の財政収支は軒並み悪化するとみられる。
そこで懸念されるのは、財政政策と金融政策の境目が曖昧になり、両者の癒合が進むことだ。
<変化❼ リモート社会(非接触型社会)到来で、企業経営に激震>
・ポストコロナの時代に予想される第七のグローバルな構造変化は、感染症を避けるために、リモート社会(非接触型社会)が指向されるなど、産業構造の激変が起きる点である。
「ソサイエティ5.0」と言われるテクノロジーを中心とした社会をつくり上げるべく、テレワーク、オンライン診療、オンライン授業、インターネット投票などの実現・拡充を期待する声が高まっている。とりわけテレワークを積極的に推進すれば、無駄な仕事がなくなり労働生産性が上がるだけではなく、世界中から優秀な人材を採用できるというメリットも生じると考えられる。
<変化➑ 中央集権型から分散型ネットワークの時代へ。地方に脚光>
・ポストコロナの時代に予想される第八のグローバルな構造変化は、長年人類が目指してきた中央集権型の仕組みが、分散型ネットワークへと移行する点である。この結果、都市部の不動産価格は大きく下落し、わが国では地方創生の千載一遇のチャンスが生じるだろう。
<日本の強みと弱みを検証する>
<強み❶ 社会が安定し「サスティナビリティ」が高い>
・第一に、日本最大の強みは、「共存共栄」の思想、自然との共生、遵法意識の高さなどに裏づけられた、安定的な社会が存在することである。そして、この「社会の安定」は、「サスティナビリティ(持続可能性)」の高さという面での、わが国の優位性につながっている。
<強み❷ 勤勉さ、繊細さが、世界一の技術とサービスを生む>
・第二に、日本人は勤勉、繊細である点も、大きな強みになっている。
勤勉で繊細な国民性を背景に、日本の「ものつくり」は高い技術レベルに支えられており、わが国の「サービス」は間違いなく世界一の水準である。
<弱み❶ 強烈なリーダーシップを嫌い、嫉妬深い国民性>
・第一に、日本人には、強烈なリーダーシップを嫌って平等を好み、かつ嫉妬深い国民性がある。日本の社会には、悪しき平等主義が蔓延しており、成功者を羨む傾向が強い。
<弱み❷ 付和雷同的で「熱しやすく、冷めやすい」>
・第二に、日本人には、付和雷同で周りの空気に流されやすい性癖がある。要するに、日本は「ムラ」社会なのである。
<弱み❸ 論理的な思考力が弱く、情緒的>
・第三に、日本人は論理的な思考力が弱く、情緒的な傾向がある。こうした日本人の特質は、近年大きな試練に直面している。国際社会では、日本人の特質は、近年大きな試練に直面している。国際社会では、日本人の得意な「あうんの呼吸」はなかなか通用しない。
<弱み❹ スピード感の欠如>
・第四に、日本人はスピード感が決定的に欠如している。
<弱み❺ 「多様性(ダイバーシティ)」の欠如>
・第五に、今後の日本にとって最も重要なキーワードは「多様性(ダイバーシティ)」の推進である。
<100年以上前の「20世紀の予言」は的中したか?>
・今から約120年前の1901年の1月2日・3日の報知新聞に「二十世紀の予言」という特集記事が掲載された。当時、100年近く先の西暦2000年に実現が期待される、夢のような話についての特集である。
「二十世紀の予言」のなかで、現実にいくつの項目が実現したのだろうか?
実は、23項目のなかで、実現しなかったものが6項目ある。
・例えば、「7日間世界一周」という項目がある。当時、80日間かかった世界一周がたった7日で実現できれば夢のような話だったが、現在は7日もかからない。
そのほかにも、「人声十里に達す」「写真電話」「買物便法」「厚寒知らず」という耳慣れない項目が軒並み実現した。これらは一体何のことだろうか?
「人声十里に達す」とは拡声器や電話のことで、「写真電話」はテレビ電話、「買物便法」はネットショッピングのことだ。「厚寒知らず」とは読んで字の通り、エアコンのことである。
つまり、夢のような話であっても、100年たってみれば当然のことのように実現している。人類の科学技術の進歩に限界はないということだろう。
<「日本の勝機」のヒントが本郷バレーにあった>
・最後に、ポストコロナの時代のグローバル市場における「日本の勝機」を探るヒントは、本郷バレーにあることを強調したい。
<「リアル」と「バーチャル」の融合で勝負せよ>
・本郷バレーで筆者が感じた日本の勝機をずばり一言で言えば、「ハード」と「ソフト」、「リアル」と「バーチャル」が融合した分野にある。言葉を換えれば、製造業や建設業といった現業と、AIなどのハイテクを融合させることがカギとなる。
<ポストコロナ時代にわれわれはどう生きるのか>
<指針❶ 多様性や選択の自由を尊重しつつ、有事の緊急事態法制整備を>
<指針❸ 「SDGs大国宣言」を行い、国際社会での立ち位置を明確化>
<指針❺ 財政政策と金融政策の融合が進むなか、財政規律を維持する>
<指針❻ 分散型ネットワークを構築し、地方創生に舵を切る>
<指針❼ 企業は自らの存在意義を問い、抜本的な経営変革を>
<指針➑ 個人はリベラルアーツや経済・金融を学べ>
・本書の締めくくりとして、ポストコロナ時代に個人がどう生きるべきか、という点を論じたい。ここでは、特にリベラルアーツを学ぶことと、不透明な時代のなかで、経済や金融について知見を深めることの重要性を強調したい。
近年、わが国では大学のリベラルアーツ(教養教育)をめぐる議論が迷走しており、「リベラルアーツ教育を縮小し、実践教育を重視するべきだ」との主張が勢いを増している。
<異分野の知見にイノベーションの種がある>
・今やハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディの定番とも言える、トヨタ自動車の「かんばん方式」が、米国のスーパーマーケットの在庫管理方式からヒントを得たというのは有名な話だ。流通業という異分野からヒントを得ることで、世界に冠たる「かんばん方式」が誕生したのである。
筆者は、こうした視点から、日本人は積極的に「副業」を持つべきだと考えている。異分野の知見のなかにこそ、新しいイノベーションの種が山ほど埋まっているからだ。
<「金融リテラシー」を向上させる勉強法>
・次に、ポストコロナの不透明な時代のなかで、経済や金融を学ぶことが重要である点を強調しておきたい。
<AIに負けない人間になるための5つの能力>
・われわれはAIに代替されない人間になるには、次の5つの能力に磨きをかけることが重要だと筆者は考えている。
・第一は「対人関係能力」。第二は、「創造性」。第三は、「物事を抽象化する能力」。第四は、「分野横断的な総合知」。第五は、「哲学や価値判断を行う能力」。
<日本の未来は明るい、元気を出そう!>
・「よくぞ日本に生まれけり」。日本は本当に素晴らしい国だ。
英国の歴史家・トインビーの分類によれば、世界は7つの文明圏に分けられる。「西欧キリスト教文明」「ロシア正教文明」「イスラム文明」「ヒンズー文明」「シナ(中華)文明」「中南米・ラテン米国文明」、そして「日本文明」である。
つまり、日本は一国でひとつの文明圏を形成する、世界で例を見ない国なのだ。
・筆者は、われわれ日本人が「わが国が守り抜くべき美点」と「変革するべき点」を正しく峻別し、国民一丸となって努力すれば、ポストコロナの時代に日本経済は必ずや「不死鳥」のごとく復活すると確信している。
・結局、われわれにできるのは、自分たちに可能な範囲で、最善を尽くす――「人事を尽くして、天命を待つ」ことに尽きるのではないだろうか。
・138憶年にわたる宇宙の悠久の歴史から見れば、われわれの一生など儚(はかな)いものである。1粒のコゴミのようなものだ。しかし、儚いからこそ、与えられたわずかな期間ではあるが、「生」を全うすることが大切なのである。
『フェルドマン教授の未来型日本経済最新講義』
ロバート・フェルドマン 文藝春秋 2020/8/27
<フェルドマン式未来型経済のポイント>
◉生産性の高いIT人材を育成する
◉技術革新が経済復興のカギ
◉国のお金は公共投資、研究開発費、教育費へ
◉大学生の海外留学を必須に
◉社会人にこそリカレント教育を
◉76歳を退職年齢に
◉東京一極集中をやめて地方再生へ
<新型コロナウイルスという未知のウイルス>
・怪物というのは、災害や戦争や社会問題の比喩でしょう。21世紀のいまなら、地球温暖化であり、エネルギーや食糧、人口増加の問題。そして2020年は、新型コロナウイルスという未知の怪物が世界の隅々まで襲い、甚大な被害をもたらしました。
これらの怪物から人類を救うために日本は何をすべきか、というのがこの本のテーマです。答えは、技術革新を経済により迅速に、より密接に、より広く普及させることです。新しい技術が現れると、経済をどう変えるのか。変えるためには、どのような政策が必要なのか。技術革新を中心に、日本経済の展望を語ります。
・その本のまえがきで、経済学とは「希少資源の最適な利用の学問」であり、その目的は「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」にあると書きました。誰もが食べ物に困らず、お金持ちになれれば、世の中から戦争や争い事はなくなるでしょうという意味です。
・エネルギーに関しては新しい技術が進歩して、各々の技術のコストが完全に変わりました。石油と石炭の発電所は減り、本格的な再生可能エネルギーの時代に入りました。
労働市場に流動性がないことは、まだまだ大きな課題です。しかし5年前に比べ、リカレント教育の意味が大きくなっています。歳を取っても高い生産性を誇る労働者がたくさんいることは、日本にとって大きなビジネスチャンスになるはずです。
・社会保障を巡る状況は、進歩がありません。しかし、私の処方箋が変わりました。簡単に言えば、退職年齢を上げるべきだという主張です。少子高齢化社会にあって年金制度を維持するには、長く働くしかありません。
地方再生については、視点を変えました。前の本では「政治がおかしいから、地方が疲弊している」という話をしましたが、今回は物流構造と東京一極集中によって地方の価値が下がっていることの弊害を論じました。
前の本に全くなかったテーマは、AIです。AIが進歩するスピードはすさまじく、今後あらゆる経済分野に影響を与えます。
・御歌の意味は「なまけて磨くことを怠ったならば、立派な光を持つ宝石も、瓦や石ころと同じで、何の役にも立たなくなります」。
<Q1 地球温暖化はどこまで進んでいるのか>
・世界に山積する課題の中で、最も高くそびえ立つ難問が地球環境の悪化です。中でも温暖化は、今世紀の半ばまでに食い止めなければ、豪雨、干ばつ、害虫繁殖、新型コロナウイルスのような疫病の発生とさらなる蔓延の原因になることが避けられません。その結果、世界は慢性的な食料危機に陥り、難民は激増し、人間もほかの生物も生き残れなくなります。
・海水温も次第に上昇しています。ここ数年、猛烈な台風や熱帯のような豪雨に当たり前のように襲われることがその証です。当然、全世界で同じ現象が起こっています。
・GDPは人口と生活水準で決まりますが、ここではGDPだけ考慮に入れれば十分でしょう。GDPが上がれば、利用するエネルギーが増えます。1980年から2016年の間に、世界の実質GDPは年率で4.1%伸び、CO2は年率1.7%ずつ増えていきます。
<Q2 気候変動が続くと人々の暮らしはどう変わる?>
・海水が蒸発して大気に含まれる水分が増えるので、豪雨が多くなります。南極の氷山が融解するので、海面が上昇し、水没する国や都市が出てきます。海水温が高くなるので、海流や気流が変わり、干ばつが起こりやすくなります。山火事も増えます。河川の流量が減り、水力発電がうまくいかなくなります。
洪水、熱波、害虫の発生で、耕地は減少し、農作物の収穫量が減ります。
<Q3 化石燃料を減らすには?>
・このような将来を避けるためには、CO2などの温暖化ガスの排出を抑えること。一番効果的なのは石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の使用量を減らすこと。さらにそのためには、化石燃料より安くて使いやすいエネルギーを作ることが必要です。
<Q4 日本にはどんなビジネスチャンスがあるのか>
・これだけ急激に変わる世界のエネルギー事情の中で、日本はどう動けばいいでしょうか。私は、前述した世界全体のシナリオで、CO2の排出総量58%減を目標に掲げました。しかし技術先進国の日本は、90%カットを目標にすべきだと考えています。すなわち、2016年の1.2ギガトンを、2050年には0.12ギガトンまで減らすのです。そのためには、化石燃料の使用割合を12%まで下げなければなりません。
・日本は、エネルギーのほとんどを化石燃料の輸入に頼っています。エネルギーが安くなっていても、毎年海外から約17兆円(2019年)をかけてエネルギーを買っています。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)のデータを基に計算した右の年間3兆円を国内の再生エネルギー事業に投資すれば、20年以内に、この17兆円の節約も達成できるかもしれません。
<AIの定義と働き>
・未来図の話に入る前に、AIとは何なのか、まず定義付けをしておきましょう。いろいろな定義がありますけれども、私は「人間の能力をはるかに超えたパターンの認識を行うのがAI」というのが、一番わかりやすいと思っています。
<Q1 生産性の高いIT人材の育て方>
・1543年、火縄銃が日本に伝来しました。鹿児島の種子島に漂着したポルトガルの船に積まれていたことから、種子島と呼ばれるようになります。
刀や弓矢で戦っていた当時の武士には、驚愕の新技術だったことでしょう。現代の我々にとってのAI以上に、強いインパクトを受けたに違いありません。
・ここで、マルクス経済学と現代経済学の興味深い違いが出てきます。マルクス経済学では、資本と労働は敵対的です。資本家が利益を上げたければ、労働者から搾取するという関係だからです。
現代の経済学では違います。資本を投じて新しい機械を作っても、その機械を使える人がいなければ、意味がありません。機械を作る資本とスキルをもつ労働力とは、むしろ補完関係になります。
すると、社会の形が変わってきます。これがAIのもたらす新しい意味です。資本家は、スキルを持つ人たちをどうしても雇いたい。すなわち、人間がAIに仕事を奪われないようにするのは、新しい技術を使いこなすスキルを身につけることがポイントになります。
見たこともない新しい技術が登場したら、訓練をして、使えるようにならなければいけません。そうすれば、生産性が高くなり、賃金も上がります。かつて火縄銃を使いこなし、米百俵の知恵ももつ日本人は、それに対応できる素質を備えているのです。
<Q2 AI技術の進化で、日本の産業はどう変化するのか>
・AIが発達すると、現在の仕事が奪われてしまうのではないかと心配する人が、たくさんいます、実は私も、その一人です。エキスパートシステムによって、経済学者は不要になる可能性があるといわれているからです。とても怖いことです。
では、どんな仕事がAIに取って代わられ、どんな仕事が人間のもとに残るのでしょうか。この問題に関しては、すでにOECDなどがさまざまな研究を行っています。
・不動産も同様でしょう。「私はこういう家が欲しいです」と希望の条件を出すと、「ピッタリの物件がここにありますよ」と、たくさんのデータの中から即座に選んでくれるシステムが、すでに普及しています。
・農業も似ていると思います。この土地にはどういう作物が適しているか、気象条件や土壌の分析結果から、AIが考えてくれるでしょう。
小売業は、基本的にビスポーク(手でやる特注)です。お客さんが何を買いたいかによって、仕事の中身が変わります。だからamazonや楽天は、どんなニーズにも応えられるように、サイトの検索機能の向上に努めているわけです。
飲食業にも、似たような部分はあります。注文した食べ物をウェイターさんがうやうやしく運んできてくれるのは、気持ちがいいものです。しかしその人件費が、料理の値段に上乗せされます。一方、回転寿司はルーティンワークをIT化と機械化の徹底によって人件費を節約することで、大幅なコストダウンに成功しました。
このように、マニュアルとビスポーク、マニュアルとルーティン(手でやる定型的)をどうやってうまくIT化、機械化していくのかが、これからあらゆる産業で課題になります。
・金融は、すでにAIの利用が進んでいる業種です。たとえば、クオンツという仕事があります。「Quantitative=数量的」から派生した言葉です。従来のファンドマネージャーは、経験則から売る株と買う株を決めていましたが、高度な数学を駆使して市場の動向や企業業績を分析・予測し、金融商品を開発したり投資戦略を組み立てることです。機械化した商品、あるいはロボット運用と言い換えることもできます。
・もう一つは、市場の情報です。どういう商品がどんな値段で売られているかという情報が、一般の人にもどんどん取りやすくなっています。たとえば、不動産の価格です。これまでは、どんな土地がいくらで売り買いされているかという情報は、普通の人には全く取れませんでした。専門家だとわかっていて、その専門知識を生かして利益を出していたわけです。けれどもAIがビッグデータを収集・分析することで、誰にでも使えるようになってきています。
・法曹界はどうでしょうか。弁護士は、裁判記録など膨大な資料を読まなければいけません。人間ですから、忘れたり眠くなって理解が浅くなったりします。そこでいまは、機械で検索し、機械で読み取り、機械で要約までできるようになっています。
製造業では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで、工場での作業を非常に効率化できます。人間の数を減らすことによって、製造コストが格段に下がります。たくさんの情報を集めることで、たとえばどの自動車がどこで売れているのか、その理由は何かがすぐにわかるので、生産計画などに効果的に応用できます。
・技術革新には、プロセス・イノベーションと、プロダクト(商品)イノベーションがあります。プロセス・イノベーションとは、新しい技術を利用して、従来の商品を安く作れるようにすること。プロダクト・イノベーションは、新しい技術を使って、全く違う商品を作ることです。たとえばスマートフォンは、それまでに存在した携帯電話とは全然違います。これまでなかった商品の製造を可能にする技術の下では、雇用が増えます。
プロセス・イノベーションは逆に、合理化によって雇用を減らすと言えます。
・我々が今後どうやってAIを使うのかと考えれば、新しい仕事が生まれて増えた雇用に対して、これまでと同じ仕事の仕方では対応できないということです。すなわち、新しい技術の恩恵を受けるには、学び直しと働き方改革が必要です。
<Q3 ナビゲーションシステムと深層学習(ディープラーニング)の活用>
・ナビゲーションシステムの良いところは、得られる情報量が増え、情報の非対称性が減少する点です。情報を持っている人と持っていない人がいるとき、持っている人たちはそれを利用することで市場力を持ち、儲けることができました。ナビゲーションシステムの登場によって、そうした優位性はなくなりました。
<日本人の働き方を未来型に>
<Q1 長時間労働はなぜ改善されないのか>
・日本は、1991年には年間2000時間でした。誇るべきではないトップです。それが次第に減ってきて、2000年には各国の平均と同じ1800時間程度になります。その後も減り続けて、2018年には1700時間を下回りました。
OECDの平均も、1750時間くらいまで減っています。アメリカも減ってはいますが、日本より長い1800時間弱程度です。
日本は長時間労働の国だと思っていたのに、このデータを見る限り、そうとは言えません。解釈には、いくつかの仮説が成り立ちます。
① 残業代の制度と必要性が変わった。
② 社会の構造が変わった。
③ 資本装備率が上がって、長く働かなくてすむようになった。
④ パートタイム労働者が増えたために、正規労働者を含む全体の平均が下った。
・つまり、正解は④です。日本の平均労働時間が短くなったのは、「パートタイム労働者が多くなったため、全体として平均が下ったにすぎない」というのが正しい説明です。一般的なサラリーマンの労働時間は減っていないし、OECD加盟国の中でトップレベルを維持し続けているのです。
・なぜ減らないのかという質問に対する答えを考えましょう。雇い主からみて、労働者にかかるコストは2種類あります。ひとつは給料です。1時間当たりいくらの給料を払うか。もうひとつは固定コストです。採用にかかるコスト、オフィスの机や椅子などの設備費用、退職金などです。
固定コストが高いほど、採用できる人数は少なくなります。おのずと、採用した労働者を長く働かせたほうが安上がりになります。日本の労働市場では、採用コストと退職コストが高いために、なるべく長く働かせたほうがいいのです。多くの人を雇って給料を払うよりも、少ない人数を長く働かせたほうが企業にとって経済的だという現実が、長時間労働の減らない原因の一つです。そして大企業ほど、採用コストと退職コストは高くなります。
・労働市場が柔軟になれば固定コストが下がり、より多くの人をより短い時間で働かせることが可能になります。高い時給を払うことも可能になります。働き方改革がなぜ失敗したかというと、固定コストを上げたためです。結果として平均の時給が下るので、労働時間の短縮にはつながりません。
<Q2 雇用システムや環境はなぜよくならないのか>
・新卒一括採用は、日本固有のシステムです。この制度は、労働者の交渉力を弱め、交渉力の弱い若者には、さらに損をさせる結果をもたらします。
・次に、一括採用の弊害を考えてみます。
② 若者の好奇心を薄れさせる
③ 転職が難しくなるため、スキルを取得する動機が薄れてしまう
④ 壁のない刑務所に閉じ込められてしまう
・もう一つ大きな弊害は、一括採用の網からこぼれると、アウトサイダーの市場に入ってしまう人が多くなることです。新卒の年に就職が上手くいかないと、非正規の労働者になりがちです。そうなると、正規労働者になることが難しい。これは個人の能力に関係しない問題で、社会全体の問題であり損害でもあります。
・この状態が変わらないのは、経団連に所属するような大企業と厚労省の人たちが、自分たちの経験とインセンティブを背景に作っているルールだからです。労働行政は交渉する人の考える「正義」「公正」だけではなく、制度全体のインセンティブと成長効果を踏まえて、ゼロベースから制度を作り直すべきです。
<Q3 なぜ女性管理職は生まれにくいのか>
・性差別は、日本だけの問題ではありません。社会で実績を上げる女性が増える前は、「女性エコノミスト」とか「女医」と言っていました。しかし私は、「男性エコノミストです」と名乗ったことは一度もありません。エコノミストの仕事に、男女の違いはないはずです。
アメリカでも、男女平等の実現は簡単なことではありません。
・当時はそれくらい、国務省にも極めてはっきりした男女差別が存在したのです。
1976年になっても、昇格やポストが不平等だとして、国務省の女性職員が訴訟を起こしています。今後はなくしますという約束で、ようやく和解が成立したのは、1990年のことでした。
<Q4 外国人は日本で働いて幸せなの?>
・外国人が日本に住みたいと思う理由は、観光客が日本に魅力を感じるのと同じ理由です。ひと言でいえば、日本人の意識の高さです。治安がいい。街がきれい。いろいろな点で便利。たとえば日本とニューヨークの地下鉄を比較すると、雲泥の差です。
・外国人が日本に住むことによって日本が得する点は2つあります。ひとつは労働力不足の解消です。介護や清掃、建設現場やコンビニなど、労働集約的で人手が足りない仕事をすることです。
役割のもうひとつは、多様性をもたらすことです。
・なぜ私みたいな外国人が、内閣や中央官庁の方々に意見を聞かれるかというと、外の目から見て、村社会の解毒剤という役割を果たすからです。これは、日本社会の知恵だと思います。
アメリカでは、外国からどう見られているか気にする人は少数です。
・外国人に働いてほしいけれども、住みつかれるのは困る、というのが現状です。いっそのこと期間限定の外国人労働者という位置づけはやめて、移民という資格を作るべきです。
・次の障壁は、所得と給料です。現状では、特に高いスキルを持つ外国人ほど、海外に比べて給料が低すぎるのです。たとえばAIの専門家です。
・給料の次は、税金の問題です。まず、日本の所得税は非常に高いのです。
・さらに日本の税制では、外国人が母国に帰っても10年間は相続税の支払い義務があります。日本で5年以上働いてから帰国して、10年以内に死んだ場合、その人の家族が日本に相続税を納めないといけないのです。
・もうひとつ、大きな障壁が人権問題です。特に外国人の技能実習生は、パスポートを取り上げられ、安い給料で長時間働かされるなど、人権の阻害が指摘されてきました。アメリカにも、不法移民などに関して問題があります。
<Q5 移民をどう受け入れたら明るい未来になるのか>
・アメリカのワシントンにある「CGDEV.ORG(世界開発センター)」という民間シンクタンクが、各国の移民制度を評価しています。評価の基準は3つあります。まず、受け入れの積極性。「来てください」とアピールしているかどうかです。次に、移民の同化。うまく溶け込める体制を整えているかどうか。3つ目は、さまざまな国際協定や条約や規定に、国として参加しているかどうかです。
この基準で各国の移民制度を比較評価すると、日本はかなり低いほうです。
・日本は、受け入れの積極性については問題ないと思います。永住権を取得する手続きは結構簡単です。ただし最近は、申請後9カ月から1年ほど時間がかかるようです。申請件数と審査体制のバランスが取れていないことが理由です。それでも世界の基準からすると取得しやすいので、来てほしいという姿勢には問題ないと思います。
社会に溶け込ませる体制は、前述したようにまだまだです。
・今後、移民や難民はますます増えると予想されます。環境と移民の関係を調査した結果、2050年までに世界で2億人が、新しく住む場所を探して移動すると言っています。これまでの倍の人数です。
<Q6 移民政策によってどんな社会になるのか>
・日本人労働者は減り続け、2030年までに約10%減少します。外国人労働者のシェアは増え続け、現在の約2%から約5%まで上昇します。しかし、労働者の総数が減少するのをカバーするには至りません。したがって、10年たっても労働力不足は解消されない、というのが結論です。
では、現在の日本人の職は、彼らに奪われてしまうのか。これも答えはノーです。奪われません。
・つまり、移民を排除さえすれば、自分がいい仕事に就けたり高い給料がもらえると考えるのは間違い。移民が入ってくるのは怖いと怯えるのも大きな間違いです。職を失わないためには、自分自身のスキル獲得以外に手段はないのです。
・では、社会政策として機能する雇用政策は何か。繰り返しになりますが、次の3点が有効だと考えます。
① 再教育とリカレント教育。新しい技術が使えるスキルを育てること。
② 労働市場の流動性を阻む法律習慣、慣行を外すこと。終身雇用や新卒一括採用のことです。
③ 福祉の罠に陥ることがないように、福祉の制度と税制を一緒に改革すること。
・政府が全国民に対して、最低限の生活を送るのに必要な現金を支給する「ユニバーサルベーシックインカム(最低所得保障)」について、いろいろと議論があります。私は賛成ですが、手厚い福祉に流れすぎると労働のインセンティブが失われ、社会によい結果をもたらしません。福祉を向上させるときは、同時に税制もゼロベースから再設計すべきだと思います。税制と社会保障がバッティングしないことがポイントです。
<Q7 移民政策と治安の問題>
・外国人が増えると治安が悪くなるという声を聞きますが、事実でしょうか。刑法犯と特別法犯(道路交通法、覚せい剤取締法、売春防止法などの違反者)を合わせた来日外国人犯罪の検挙件数は、2005年の4万7865件をピークに下がり続け、2012年以降は1万4000件~1万7000件で横ばいです。検挙人数も、2004年の2万1842人から減り続け、ここ数年は1万人前後で推移しています。
日本で起きている犯罪の97.5%は、日本人によるものです。
・もちろん犯罪の問題は軽視できませんし、治安のよさは日本の大きな長所です。しかし、犯罪が増えるから移民は認めませんという意見は、短絡的すぎると言えるでしょう。
<未来を豊かにする社会保障改革>
<Q1 国の財政再建のために必要なこととは?>
・14兆円にせよ36兆円にせよ、目を瞠るような経済成長がない限り、捻出するには選択肢は2つしかありません。歳出削減か、増税です。日本の法人税と所得税は他国に比べてかなり高いので、増税するなら消費税しかないでしょう。
・年金の支給と、医療費の自己負担が軽減される社会保険制度を、20年後まで維持し続けるには、財政を持続させることが肝心です。そのためには、研究開発費や教育費に国のお金をもっと使い、経済の生産性を上げなければなりません。さらにそのためには、借金を返し、PB(プライマリーバランス)を正す必要があるわけです。選択肢は、歳出削減か、消費税アップか。
どういうやり方がフェアか、最後に決めるのは国民です。税金を払いながら選挙権がない私の意見としては、大半は歳出削減がいいと思っています。
<Q2 年金がもらえるのか不安で仕方がない>
・したがって私の提案は、2041年までに基準退職年齢を76歳にすることです。3年ごとに2歳ずつ、段階的に引き上げていけば年金勘定が合います。
・しかも、日本の年金は決して贅沢なものではありません。年金歳出額の対GDP比を見ると、日本は高齢化が進んでいるかわりに、他国より実は低いです。打つ手はあるでしょうか。
<Q3 歳を取っても働かななければいけないのか>
・問題は、制度の改革です。どのくらいのペースで定年年齢を引き上げるべきか、ということです。2025年から、基準退職年齢が65歳になります。2031年に76歳にしましょうということなら、2020年から毎年1.83歳ずつ上げなければいけません。無理です。3年で1歳ずつだと、76歳になるのは2057年です。遅すぎます。3年で2歳ずつ上げれば2041年に76歳になるので、このペースがベストというのが私の結論です。
労働市場は、高齢者がいっそう働きやすいようにしなければいけません。年齢ではなく、成果と脳力で評価される市場を作らないといけないのです。
<Q4 医療制度はどうあるべきか>
・社会保障に関する私の提案をまとめると、次の通りです。
財政再建については、まず決断です。何割を増税で補い、何割を歳出カットで捻出するのか。
年金改革は、冷静、公正、持続性をもって行うこと。2040年までに退職年齢を76歳まで段階的に引き上げ、年金の支出額を抑えることです。
医療改革では4つあります。
第1に技術の選択です。安全性、有効性、経済性の基準で決めること
第2に公的医療歳出の対GDP比率の上限を設定すること。
第3には、健康保険制度の歪みを正すこと。IT、AIを活用して、現在の組織保険組合からマイ保険口座への移行を進めます。
第4は、医療審議会などいろいろな審議会を小さくし、多様化して、さらに情報開示を徹底すべきです。
<2030年の地方再生>
・国の将来に少子化が避けられない以上、都市への一極集中は地方の人口がさらに減っていくことを意味します。地方の再生は、人口を減らさず、産業を衰退させないためにも必須です。
<地方の農業を活性化するため>
・しかも、日本の農産品には充分競争力があります。なのに、チャンスを掴めずにいます。それは、6つの大きな理由があるからです。
チャンスを逃している理由①農地法が時代遅れ
チャンスを逃している理由②農業人口の減少と高齢化
チャンスを逃している理由③技術の普及が遅い
チャンスを逃している理由④農業資本が劣化している
チャンスを逃している理由⑤流通における農協の独占力
チャンスを逃している理由⑥農業と金融がごちゃ混ぜ
<ポスト・コロナの日本経済>
<コロナ後の日本経済はどうなる?>
・では回復の速さは、どれぐらいでしょうか。モルガン・スタンレーの正式予測(7月4日現在)では、日本のGDPがコロナ危機以前の水準に戻るのは2021年末です。
<世界経済が向かう先は?>
・世界経済の展望を正確に明らかにする要因は、新しい治療法や新薬、ワクチンの開発です。
・しかし専門家の見通しでは、ワクチンが開発されて世界中へ供給されるには、12から18カ月が必要だそうです。開発に成功しても医療従事者から分配すべきですから、一般に行き渡るにはかなり時間がかかるでしょう。
① 企業はレジリエンシー(復元力)が問われる
・人の移動や物流の制限によってグローバル化がストップし、世界は内向きになって「自国ファースト」が加速するのではいかという見方があります。マスクひとつとっても、ほとんど中国製だから、輸入が滞ると品薄になってしまう。こんなことが起こらないように、生産をどこまで国内に戻すべきでしょうか。
② インフレはやってくるか。
・インフレが再燃するという仮説があります。感染が収束すれば、政府の経済政策の効果も出て、民間の需要は徐々に戻ります。設備投資も、回復スピードの問題はあるにせよ、確実に戻っていきます。
・現時点ではインフレ気味になっていくという予測ですが、注視は必要です。
③ 脱化石燃料が加速する。
・原油価格は、この10年ほど乱高下しています。2020年4月には、1日だけですが、史上初のマイナス価格になりました。
・一方で再生エネルギーは、技術の進歩によって生産コストが大きく下がっています。投資額もさほど大きくないので、安定して高いリターンを得られるのです。原油はコロナによって需要が減ったため、なおさらです。よってコロナ後は、脱化石燃料がさらに加速します。
④ 労働と教育のインセンティブが強まる。
・コロナ前でも所得格差は大きくなっていましたが、コロナによって生活を直撃されたのは低所得層の人たちです。
・生活の基礎となる仕事に就いている人ほど、低賃金なのはおかしい、所得配分の是正をしなければいけないという意見が、この先の共通認識になるでしょう。そして賃金コストが上昇すると、より高いスキルが求められます。スキルを獲得すればさらに給料が上がるので、生涯教育のインセンティブが上がる、という望ましい流れになるでしょう。
⑤ 何でもデジタルの世界になる
・これは結論です。コロナは思いもよらない危機でした。各国の政府も企業も国民も、自分たちの弱点を知りました。役所の仕事の遅さに比べて民間の対応は速いので、新しい技術を利用して創意工夫ができます。
・コロナがもたらすのは、Digital Everything。何でもデジタルという世界です。もたらすと言うより、加速させると言うほうが正しいでしょう。世界のトレンドが変わったわけではありません。「社会にすでに存在した問題の解決を、加速させよ」というのが、コロナから課された宿題だと思います。
<日本の国力はまだまだ高く、科学をはじめとするさまざまな分野で、世界に貢献しています。>
・一方で日本はいま、さまざまな難問に直面しています。人口動態は芳しい状況にありませんし、制度的な疲労も、教育が抱える問題も、世界の技術進歩についていけないという問題もあります。米中の貿易摩擦や、コロナのような予測がつかない問題も重なってきます。
この本は、こうした問題を解決する糸口を見つけることが目的です。ただし、動かなければジリ貧です。一刻も早く、農業にしても医療の分野にしても、新しい技術をビジネスに変えていくことが必要です。その結果として生まれてくるお金で日本及び世界を支えることが、この本の究極の目的です。特に地球温暖化は、時間の猶予がありません。
『ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ』
15歳から始める生き残るための社会学
響堂雪乃 白馬社 2017/3/3
<君たちはニホンという国ができて以来、最も過酷な時代を生きなくてはならないのだ>
<本書の特性とは反証が極めて困難な点にある>
・また201の概説全てが学術用語で括られているとおり、それらは筆者の臆見や私見ではなく、多くの碩学や研究者の思考によって濾された精度の高い仮説群である。
・「君たちが対峙する脅威とは、外国資本の傀儡と化した自国政府であり、生存権すら無効とする壮絶な搾取であり、永劫に収束することのない原発事故であり、正常な思考を奪う報道機関であり、人間性の一切を破壊する学校教育であり、貿易協定に偽装した植民地主義であり、戦争国家のもたらす全体主義である」
<読書しなければ人間になれない>
・このように読書によってのみ獲得できる分析や、批判や、内省や、洞察などの営為を「深い処理」と言います。
<繋がることよりも繋がらない価値>
・ラインやSNSで誰かと繋がっていることよりも、孤独の時間のほうがずっと大事なのです。
・このように一人作業の中で黙々と自身の内実を豊かにすることを「創造的孤独」と言います。
・マイナンバー制度が始まり、国民は番号によって管理されることになりました。
・このように生活の全般に浸透した情報機器によって、国民の言動を監視しようとする社会を「電子パノプティコン」と言います。
<政治や社会に関心のない馬鹿者のふりをする>
・このようにいったん自由な言論を奨励して、後から一斉に弾圧することを、毛沢東の政治になぞらえ、「百家争鳴」と言います。
<信じるのは自由だが、依存してはならない>
・今の時代のように社会が荒廃すると、人間は目に見えない力に救いを求めるようになります。だから占いや、霊媒や、宗教や、プラス思考が産業になるほど流行るのです。このように合理的に考えることを拒否し、神秘的なことに溺れてしまうことを「スピリチュアル・アディクション」と言います。
<ニホンの未来はアメリカの今であるという学説>
・これから何が起きるのかを予測することは難しくありません。ニホンはアメリカの(事実上の)保護領であるため、いずれ制度や法律がそれに規準(従って成立)したものになるのです。だからアメリカの今を観察すれば、やがてニホンでも貧困が蔓延し、医療が崩壊し、言論の自由が消え、国民が監視され、戦争がずっと続くだろうと予測できるのです。このようにアメリカで起こったことが後にニホンで起きるとする考えを「日本社会20年遅延説」と言います。
<必ず遭遇する「敵」を理解しておく>
・心理学者のマーサ・スタウトは人格障害者(人間性に大きな問題をもった人)が、だいたい25人に1人の割合で存在すると主張しています。
・このように社会の全域に生息する良心に欠けた者たちを「ソシオパス」と言います。
<意思の疎通ができないのは当たり前である理由>
・このように知識の格差によって現実の共有ができなくなることを「共約不可能性」と言います。
<知識の砂浜を歩く君の知識はコップ一杯程度>
・私たちは何かを知っているようで何も知りません。
・このように“自分の知らない事実が無限にある”という前提で世界と人間に向き合い、謙虚に思考を深めて行こうとする考え方を「無知の知」と言います。
<死ぬまで学び続けること>
・このように知識や情報は常に不完全なものであり、それを刷新するための学びに終わりのない様相を「オープンエンド」と言います。
<生命を授かると同時に残酷を授かった>
・このように自分の人生でありながら、時として自分以外の存在が自分の生を決定するにもかかわらず、それでも生きていかなくてはならないという本質的な人間の在り方を「被投性」と言います。
<悪意と暴力と矛盾の中で可能性を模索する>
・しかしそれでも私たちは逆境を克服し、それぞれの可能性を追及しなければなりません。このような世界の中においてすら自分を信じてより良く生きようとする決意を「投企」と言います。
<国会議員が作る法律は2割もない>
・このようにあたかも選挙に選ばれた者が法律を作っているかのようにみせかける場を「形式的な認証機関」と言います。
<法律は資本家によって作られる>
・国会に提出される法律の原案は、公務員が国内外の資本家と相談しながら作ったものです。
・このように資本家が国会を私物化し、都合のよい法律を作るという考え方を「政治の投資理論」と言います。
<言われたとおりに法律を作るとおカネがもらえる仕組み>
・このように政治がおカネ儲けの手段として私的に運営されているという捉え方を「公共選択理論」と言います。
<政治家はゾンビであるという意味>
・政治家の仕事は資本家からおカネをもらって法律を作ることです。だから国民のことを考えたり心配する人は政治家になれないのです。また内閣の約半分は世襲議員といって、お爺さんやお父さんから仕事を受け継ぎ、楽をして政治家になった人たちばかりです。このように口では立派なことを言いながら、他人の痛みや気持ちが実感として分からない者を「哲学的ゾンビ」と言います。
<なぜニホン人のためではなく、外国人のために法律を作るのか>
・2001年に総理大臣に就任した小泉純一郎は、外国資本の企業が政治家に献金してはけないという法律を廃止しました。
・それ以来、外国人の利益を図ることが政治家にとって最も儲かる仕事になりました。このように自国の資産や企業を外国に売り飛ばす人々を「買弁」と言います。
<総理大臣はコンビニの店長のようなもの>
・現実として政治資金報告書には、それを証明するおカネの流れが記されているのです。このように権力の後ろにさらに大きな権力があり、それが本当の権力である様子を「王の背後には王より偉大な何かが存在する」と言います。
<国会議員に世の中を動かす力などない>
・いろいろな出来事を注意深く観察すると、ニホンの社会で権力を握っているのは選挙で選ばれた議員たちではなく、外国資本と公務員とマスコミであることがわかります。繰り返しますが国会議員によって作られる法律など、せいぜい全体の2割程度にすぎないのです。このように内政や外交や経済など最も重要なことを動かす三者を「鼎談」と言います。
<野党でないのに野党のふりをする人々>
・このように野党でないのに野党を偽装して国民を騙す集団を「衛星政党」と言います。
<政党の役割とは政治が存在すると錯覚をさせること>
・ニホンには与党(政権をもっている政党)も野党(政権を攻撃する政党)もありません。
・このように国民が政治的な選択肢を持たない状態を「パラ・ポリティクス」と言います。
<アメリカでもニホンでも資本が国家を操る>
・このように資本と政治が癒着し国民無視の政治を進める体制を「コーポラティズム」と言います。
<議会も政治も国家も無いということ>
・作家の矢部宏治さんの調査により、ニホンの重要な法律は日米合同委員会で決定されることがわかりました。この会合は毎月ニュー山王ホテルで開催され、アメリカ側からは在日米軍の幹部、そして日本側からは官庁の局長などが出席します。そしてそこでアメリカ側から法案化すべきこと、改正すべきことが下されるというのです。このように極めて少数の者たちが勝手に国を運営することを「寡頭制」と言います。
<聖書の時代から変わらない仕組みがある>
・このように家畜を飼うように国民を支配しようとする考えを「パストラル」と言います。
<洗脳は生涯途切れない>
・学校に代わって企業とマスコミが私たちに規範を叩き込み、そうやって私たちはパストラル(司牧的統治)の中で「作られる」のです。このように連続的な洗脳を経て、最終的に家畜のような人間になることを「馴致」と言います。
<そもそも考える教育を受けていない>
・このように新聞テレビや政府の広報に頼らなければ、物事の意味が何も分からない状況を「イナーシア」と言います。
<生まれてから死ぬまで刷り込まれること>
・原発事故の被害が拡大し、放射線が原因とみられる多くの病気が報告され、そして自由貿易協定によって国民の主権が脅かされています。しかしなぜ大人は問題を共有して、議論を交わしたり、国に抗議したりしないのでしょうか? それは子供の頃から、自分の頭で考えないこと、言われたことだけを実行することが脳に刷り込まれているからです。このように社会全体が校則に従う子供のように振る舞うことを「学校化」と言います。
<企業が政府になる>
・東京、名古屋、大阪、福岡などの都市が「経済特区」になり、これまで労働者を守ってきた法律が廃止される見込みとなりました。つまり「経済特区構想」とはニホン全体を租界のように作り変えることなのです。このように自国の政府ではなく、外国の企業や金融機関などに統治を委ねようとする考えを「スープラナショナリズム」と言います。
<食料の自給が止まる>
・二国間協議が決定されると、アメリカ産の安い農産物や肉が入ってきます。
・実際にアメリカと貿易協定を結んだメキシコなどでは、農民の約60%が失業し、国内で安い食料を作ることができなくなりました。このように自国の経済を発展させるため、他国の市場を侵略しようとする考え方を「帝国主義」と言います。
<先進国ではなくなる>
・ニホンの1人当たりGDP(国内総生産)はドル計算で40%近くも減り、世界ランキングで20位まで後退しています。
・ニホンは過去20年にわたりミナキズム(福祉や国民サービスを削り、そのおカネを大企業の減税に充てること)に取り組んできたので、消費が減ってモノが売れなくなり、会社の99%を占める中小企業の経営が悪化し、国民の多くが貧乏になったのです。このように無能な政治によって経済の規模が小さくなることを「シュリンク」と言います。
<財政が破綻する>
・国税は大体50兆円ですが、国債償還費は68兆円にも達しています。そしてそのため毎年100兆円を超える借換債が積み重なっているのです。
・このように財政破綻した国に課せられる借金返済の取り決めを「コンディショナリティ」と言います。
<国民はどんどん貧乏になる>
・政府が推進していることは資本主義ではなく市場原理主義です。繰り返しますが、市場原理とは福祉や教育や医療に使うおカネを切り捨てて、それを大企業の減税や補助金に使うことなのです。
・このように1%のおカネ持ちのために、99%の国民を貧しくしようとする構想を「レッセフェール」と言います。
<移民が増えて失業者だらけになる>
・資本家は政治家に働きかけ、年間20万人労働者を呼び寄せようとしています。そうやってニホン人の労働者よりも安く雇用することによって、おカネをより多く儲けることができるからです。
・このように国民の将来を考えない愚劣な人々が国を治める体制を「カキストクラシー」と言います。
<歴史に学ばないから再び戦争する国になった>
・このように人間が同じ歴史を繰り返し全く進歩しないことを「永劫回帰」と言います。
<スポーツは馬鹿を作るための道具>
・このようにスポーツによって民度(国民の知的水準)を低く保つ政治手法を「パンとサーカス」と言います。
<本当の経済の仕組みが語られない理由>
・景気をよくするには国民一人一人を豊かにしてモノを消費させなくてはなりません。
・このように各々が立場や利害にとらわれ、嘘やデタラメを話す営みを「言語ゲーム」と言います。
<テレビを視るほど馬鹿になる>
・アメリカの刑務所ではテレビ番組を流し続けることによって囚人を大人しくさせます。
・このように国策として国民の白痴化を進めることを「衆愚主義」と言います。
<おカネのために政治をする者を何というか>
・本来であれば選挙で選ばれた政治家は、公約に基づいて政治をしなければなりません。
・このように国民のためでなく自分の利益のために政治をしようとする者を「レントシーカー」と言います。
<まともな政治家はこうして消された>
・これまで国益を守るために頑張った政治家もいたのですが、みんな変な死に方をしたり、国策捜査(些細なことを重大犯罪にでっちあげること)によって国政を追われました。このように外国資本に逆らう人物を排除することを「帝国による秩序取り締まり」と言います。
<知性のない国民が知性のない政治家を選ぶ>
・このように物事を考えられない国民がそれにふさわしい政治家を選ぶことを「形式性」と言います。
<政治家も国のおカネの流れを知らない>
・国家予算は大体100兆円だと伝えられていますが、これは一般会計という表向きの予算です。本当の予算は一般会計に国債と、財投債を加えた特別会計という400兆円規模の予算です。しかしこれは国会ではなく公務員が作る予算であるため、政治家も国民もその内訳を全然知らないのです。このように国のおカネの流れが秘密化されることを「財政のブラックボックス化」と言います。
<人種差別で国民の不満を解消させる方法>
・このように差別感情や過激な愛国心を政治に利用することを「ジンゴイズム」と言います。
<反戦運動はニセモノだった>
・このように市民運動や学生運動を偽装し、問題の核心を誤魔化す手法を「人工芝」と言います。
<原子力発電は国民を犠牲にするから儲かる>
・このように原発にかかわる費用を電気代に上乗せして国民の負担にすることを「原価加算方式」と言います。
<ニホンは泥棒主義の国>
・資本主義が産業の発展によって富(おカネ)を増やすことを目的とするのに対し、市場原理主義は国民を守ってきた制度の破壊によって国民のおカネを奪おうとします。このようにあたかも国が強盗のように振る舞う体制を「クレプトクラシー」と言います。
<私たちの民度は世界最低レベル>
・それに対しニホンの民度や文化の水準は著しく低いため、市場原理主義を防ぐどころか、逆に加速させてしまったのです。このように他国から攻撃を受けたり侵略される要素となる弱点を「ヴァルネラビリティ」と言います。
<もう資本家に怖いものはない>
・中国の開放政策とソ連の崩壊によって、資本主義は共産主義というアンチテーゼ(対立する考え方)を失いました。
・このような資本家の強欲によって世界を再編成すべきだと主張する人々を「グローバリスト」と言います。
<お笑い芸人と政治の関係>
・このように物事を深く考えず政治家の口車に乗ってしまう人々を「B層」と言います。
<国民は馬鹿だから何をやってもいいという考え>
・このように“国民は馬鹿なのだから何をやってもかまわない”という考えのもとで国を治めることを「衆愚政治」と言います。
<すでにニホンは先進国ではない>
・ニホンは構造改革によって一部の人々だけが豊かになる制度を推進した結果、一人当たりGDPが20位にまで大後退したのです。このように国家や民族の発展も何世代かを通してみれば大差がなくなることを「平均への回帰」と言います。
<なぜ国民が貧しくなる仕組みを作るのか>
・国は派遣労働者を増やし正社員を減らしています。そしてさらに大量の移民を受け入れ、国民が仕事に就けない仕組みを作ろうとしています。そうすればニホン人のお給料は減りますが、資本家の利益を何倍にも増やすことができるからです。このように貧しい人はドンドン苦しくなり、おカネ持ちがさらに豊かになることを「マタイ効果」と言います。
<若者は自分たちが売られたという自覚がない>
・ニホンには人材派遣会社がアメリカの5倍もあり、今やその数はコンビニよりも多いのです。つまりニホンは世界でもっとも「労働者の賃金をピンハネする会社」が多い国となり、そのため国民はドンドン貧しくなり、税収が落ち込み、経済そのものが縮小しているのです。
・このように政治家を都合よく使い使い有利に資産運用をすることを「理財」と言います。
<巨大すぎる詐欺さからこそ見過ごされる>
・日本銀行は国の機関ではなく民間企業です。それなのに、原価20円の1万円紙幣を銀行などに貸し出して莫大なおカネを稼いでいるのです。また日銀は400兆円の国債を所有していますが、これも自分たちが刷った紙幣と引き換えに、ただ同然で手にしたものなのです。このようにあまりにも手口が大胆すぎるため気づかれない心理的盲点を「スコトーマ」と言います。
<君が想うより社会は1000倍も汚い>
・被災地では除染作業が行われていますが、これは全く意味がありません。
・ゼネコンに何兆円もの除染の仕事を与えると、見返りに政治家が献金をもらえ、公務員は天下りができるため、みんな「除染は無駄」という本当のことを口にしないのです。このように何の効果もない空想上の解決を「パタフィジック」と言います。
<すでに憲法は止まっていた>
・このように憲法で定められた権利の侵害により生存がおびやかされる様子を「違憲状態」と言います。
<経済の仕組みとはたったこれだけ>
・だから国を豊かにするには国民一人一人を豊かにするしかないのです。このようにひとつの連続する流れの中で考える図式を「スパイラル」と言います。
<大企業はどれだけ脱税してもかまわない>
・「パナマ文書」によって外国で税金逃れをしている企業が暴露されました。
・ニホンを代表する企業ばかりです。しかし司法関係者もこれらの企業に天下りしているため、脱税を咎められることがないのです。このように行政と資本が共謀して互いに利益を得る営みを「コープレートクラシー」と言います。
<身分制度を直視すること>
・またリストラなどが当たり前に行なわれることから、大企業の社員も常に下の階層に転落する可能性があります。このように資本家の構想によって作られた地位の階層構造を「ハイアラーキー」と言います。
<国民を食い物にして肥え太るという図式>
・正社員を派遣や請負に置き換えると、企業の利益は増えますが労働者は貧しくなります。
・このように一方の犠牲により一方が豊かになることを「パレート効率性」と言います。
<宗教家が政治家になっておカネを稼ぐ>
・このように宗教に関わる者が政治に関わり利益を得ようとする様子を「世俗化」と言います。
<人とおカネの繋がりから世界の現実を見る>
・このように物事を人とおカネの関連性の中で捉える考え方を「構造主義」と言います。
<無知な人々が絶望の国を作る>
・法律の大半が国会ではなく公務員と在日米軍によって作られることもしりません。このように無知な人々が投票して政府を作ることを「凡庸な多数者の支配」と言います。
<教育におカネを使わないから未来がない>
・しかし平成のニホンにおいては教育支出を先進国最低に引き下げ、それで浮いたおカネを大企業や資本家の減税に充てているのです。だから私たちの未来が明るいはずがありません。このように短期でおカネを儲けることだけを考え、後はどうなってもいいという考え方を「ボトムライン主義」と言います。
<ニホンは独立国家ではない>
・敗戦から70年以上が経った現在においても、国際連合はニホンに対し敵国条項を解除していません。つまり独立した国とは認めていないのです。したがって立法や外交などの全てが、常任理事国によって干渉され、ニホンの国会が決められることは極僅かしかないのです。このように民族が主権を持たない体系を「保護領」と言います。
<なぜ総理大臣は外国におカネを貢ぐのか>
・50兆円以上のおカネをアフリカなどの途上国に援助しています。そうやっていったん外国政府に入ったおカネが、現地で事業を受注する多国籍企業に流れる仕組みなのです。もちろんこのおカネは全てニホン国民が納めた税金です。このように外国資本が相手国の資産を奪うために雇う者を「エコノミック・ヒットマン」と言います。
<オリンピックはおカネ儲けのために開催される>
・2020年に開催される東京オリンピックには、3兆円以上のおカネがかかります。たった2週間のお祭りのために、それだけの税金が使われるのです。東京都などは招致費用を作るために、障碍者の福祉までも削減しているのです。
・このように国民のサービスよりも権力者の利益を優先しようとする政治を「ミナキズム」と言います。
<大統領とは原稿を読むだけの仕事>
・アメリカの大統領は何も権限がありません。演説などもスピーチ・ライターという専門家が書くため、大統領が自分で内容を考えることも殆どありません。
・このようにアメリカの財界が息のかかった者を政界に送り、自分たちに都合のよい法律を作らせる仕組みを「猟官制度」と言います。
<資本家の道具としての政治家>
・このように政治家や国家は資本階級が調整するための道具であるという考え方を「階級国家論」と言います。
<主権を奪われた国が廃れる状態を何というか>
・このように金融機関や大企業が政府に成り代わることによって国の廃れる状態を「再帰的統治化」と言います。
<国民がパニック状態の時に行なわれていること>
・このように民衆がパニック状態のときを狙い、資本家や投資家に都合のよい法律を作ることを「ショック・ドクトリン」と言います。
<消えた年金は誰のものになるのか>
・このように金融市場を通じ国民の財産を受け渡す操作を「マニピュレーション」と言います。
<国民の暮らしではなく資本家の利益が第一>
・このように資本家の利益だけを追求し、国民サービスを最低限にする構想を「福祉国家の解体」と言います。
<最も高い税金を払い、最も低い福祉を受ける>
・このように国が国民の幸福という本来の目的を投げ捨て、あたかも投資機関のように振る舞うことを「国家の金融化」と言います。
<ニホンは「領土」を売る世界でただ一つの国>
・どこの国でも国防のため外国人による土地の取得を制限しています。
・このように自国の領土を切り売りして国を解体しようとする者たちを「シセンオニスト」と言います。
<国民ではなく資本のために働くと誓った>
・ヒラリー・クリントンは「多国籍企業のために戦う」と宣言しました。そして安倍晋三も「世界で一番企業が活動しやすい国を目指す」と公言しています。
・このように本来は国によって監督されるべき企業が、逆に国を監督する独裁的な存在になることを「反転した全体主義」と言います。
<企業も政府も外国人に所有されている>
・このように世界中に跨って事業を行い、各国の政府を動かすほど莫大なおカネを蓄えた会社を「多国籍企業」と言います。
<アメリカとニホンの関係を表す言葉>
・このように外国と対等の関係が認められず、主権を侵害されドンドン貧しくなることを「野獣化と従属化の関係」と言います。
<国民を守る意思の無い国>
・このように国民を守るという国本来の機能とともに道徳や倫理が崩壊した場所を「ワイルド・ゾーン」と言います。
<だから世論調査を信用してはいけない>
・このように世論調査などに都合よく絞られた層のことを「偏りのある標本」と言います。
<なぜ新聞テレビはアメリカのことを批判できないのか>
・このようにマスコミの情報を統制する様々な制約や決まり事を「プレスコード」と言います。
<私たちの認識は常に歪んでいる>
・このように報道によって歪められた社会認識を「虚偽意識」と言います。
<国民は家畜のように大人しくなった>
・派遣法の改正によって労働者は15年間で400兆円もの賃金を失っています。労働者の40%以上を占める非正規社員は、本来受け取るはずの給与から、それだけ莫大なおカネを搾取されているのです。
・しかし新聞テレビが問題の核心を隠してしまうため、国民は社会の仕組みを考えることができないのです。このようにマスコミの洗脳によって、あたかも家畜のように大人しくなった人々を「シープル」と言います。
『終末社会学用語辞典』
響堂雪乃 編 / 飯山一郎 監修 白馬社 2016/2/16
<崩壊社会の構造とメカニズムの解明>
<ディストピア>
・[構造的暴力] 資本と国家が人権蹂躙を共同し、何もなかったかのようにばっくれること。
・原発事故は収束するどころか終末的様相を呈し、外国資本はそれを侵略の好機と位置づけ、為政者は戦争を社会統合策としたのであり、すでにこの体系はあらゆる人間悪が凝集するディストピアなのだ。
・いよいよ時代は全面崩壊の徴候を鮮明に活写し、そしておそらく未来は過酷なのだけれど、だからこそ<言葉>を端緒に現実を探求し、それを生きる力に転化して頂けるのであれば、製作の苦労など砂漠の露の如く霧消するのであり、論壇の末席者としてこれを凌ぐ光栄などないのだ。
<あ>
・社会科学者のR・マートンは新しい知識(仮説)を批判的に捉えることにより精度の高い仮設へ発展させることを「系統的懐疑主義」として提唱したのだが、これは現代の科学共同体が規範とするモデルであると同時に正統な弁証法手続きであり、我々もまたこのような姿勢をもって事物を凝視しなくてはならない。
[アベノミクス] 年金、郵貯を証券市場にぶち込み外国人投資家の利潤を最大化すること。植民地行政。
[天下り] 退官した公務員が法外な不労所得を獲得するスキーム。財政破綻の最大要因。
[アライアンス] 外資企業と官吏機構が共謀し好き勝手に国家運営すること。コーポラティズム。
[アルゴリズム] テレビ番組に仕組まれた知性劣化の算法表現。低強度戦争の中心的戦略ツール。
[アルゼンチン・タンゴ] 市場原理主義によってニホンが南米各国と同じ荒廃の道を辿ること。
[アジェンダ] 宗主国通達に記された植民地行政ノルマ。日米経済調和対話(旧年次改革要望書)など。
[アドルフ・ヒトラー] ニホン型扇動政治や宣伝理論のプロトタイプを構築した政治家。
[アナルシー] 多国籍企業が議会に代わる意思決定機構となり社会調整機能が破壊されること。
<い>
[イナーシア] 新聞テレビが物事をなんらかの言葉にしてやらないと民衆が何も理解できない状況。
[イネイブラー] 多国籍資本による虐政や公務員による搾取を助長する者。新聞テレビなど。
[イリュージョニズム] 資本独裁体制であるにもかかわらず、代表議会が存在するという集団的妄想。
[イリュージョンの体系] 議会制民主主義や法治国家が機能していると愚民が錯覚している有様。
・右翼を偽装する者たちは脅威資本があたかも隣国であるかのように煽るのだが、我々が対峙するものは多国籍資本による経済侵略、福島原発による核汚染の拡大、そして社会資本の全てを喰い尽くすビューロクラシ(官僚絶対主義)というトリニティ(三位一体)の脅威なのであり、あらためて彼らが企図するショーヴィニズム(排外主義と自民族至上主義を合一した思潮)は陽動だと捉えなくてはならない。
<え>
[エコノミック・ヒットマン] 対象国の政治家をカネや暴力で篭絡する多国籍企業の実動部隊。
[エスケイピズム] 問題先送り、現実逃避という今時代的なニホンの国民精神。シャッター反応。
[エスニック・アイデンティティの解除] 武道の代わりにヒップホップを授業化みたいな民族性解体。
・専制のノモス(秩序)に対抗する最後の防御壁は文化なのであり、だからこそ我々は言葉を探査し、思想を探求し、現実を探針するのであり、そしてそのようなツ頭脳作業こそが抵抗運動であり、人間尊厳を保ち続ける手段なのだと思う。
<か>
[傀儡政権] 外国人投資家のひも付きによって編成される代表議会。国政のデフォルトモデル。
[カキストクラシー] 人格破綻者が最悪の国家運営をする体系。資本と政治が共謀すれば大体こうなる。
[家産官僚国家] 旧ソのように役人が国民の生命財産を私物と見なし消費する体系。公務員天国。
[カジノ法案] 収賄金を賭場の配当金として引き渡すシステムの導入。政治資金規正法の抜け道。
[ガバナンス] 多国籍資本に委ねられた経済、福祉、外交、労働などにかかわる社会調整機能。
[カフカ的恐怖] 愚民政策により思考力と人間性を喪失し昆虫化すること。それが理解できないこと。
[カルト資本主義] 船井幸雄や稲盛和夫など経済界の重鎮が唱導したオカルティズム。プラス思考。
[変わりなき日常] 支配勢力に負託されメディアが演出するパラダイム。愚民社会の認知的枠組。
[環太平洋戦略的経済連携協定] 宗主国が属国を植民地として再編成すること。TPP。新世代帝国。
[観念闘争] 右翼対左翼、共産主義対資本主義、与党対野党、権力対報道など形骸化した二項対立。
・オートクラシー(専制体制)におけるメディアの役割の一つが「語彙の漸減」であるのだが、おおよそ3・11を起点として人権や人倫や公衆衛生などという言葉が抹消されているのであり、今後はそれが最高学府にまでおよび、もはや人間尊厳に関わる高度概念を思惟し抽象することが全く不可能になるわけだ。
<き>
[議員立法] 国政議員が制定する20%の法律。残りの80%は役人が好き勝手に制定する内閣立法。
[議会制民主主義] 代表議会が存在するかの如く民衆に錯覚させる観念語。
[企業団体献金] 外国資本が対象国の代表議会を私物化する手段。政治のモチベーション。
[記者クラブ] 公務員が年間100億円の税金を投じて運営する新聞社の談合会。官報の別室。
・様相は「モデルが現実に先行する」というボードリヤール理論そのものと言えるだろう。いまや民衆が蝕知する<現実>とは起源やオリジナルを持たない疑似像の劣化コピーであり、すなわち(シミュラクラ)によって成形される模造世界なのである。
<こ>
・3・11は原子力プラントと同時に人倫をも吹き飛ばしたのだが、それは破局によるアノミー(規範喪失)であり、ナショナル・アイデンティティ(国民的自我)の解除であり、もはやニホンジンは脱人格により記号化した「タイトル民族」に過ぎないのである。
[個人メディアの粛清] 反政府的な記事を投稿するブロガーなどが国策捜査でしょっ引かれること。
[国家元首] 世界植民地フランチャイズの雇われ支配人。報酬は法案ノルマの達成率に応じた出来高制。
[国家の中の国家] 代表議会に代わり意思決定を行う駐留米軍や経済団体などの別称。植民地政府。
[構造改革] 外国人投資家に言われるまま労働法や会計制度を改定し政権関係者がカネをもらうこと。
[合理的馬鹿] 貧困層を量産すれば消費不足で経済縮小に陥ることが理解できない者。日本経団連。
[コーポラティズム] 資本と行政にズブズブな共謀主義。小泉政権以降のイデオロギー(政治観念)
[国政議会] 内閣法制局が殆どの法律を作ることから慢性的に仕事ゼロな形式的認証機関。
[国税・地方税] 公務員の給料や福利厚生、天下りの補助金と財投債の返済で消えるカネ。
[国土の治外法権化] 特区構想やTPPなどにより主権が消失し、外国人による支配が絶対化すること。
[国民的競争国家] 老人、主婦、移民、離職者が職を奪い合いグチャグチャに収捨がつかない体系。
<さ>
[左翼の理論的敗北] 一生派遣労働法や残業代不払い法などが相次ぎ、左派の存在意義がゼロ化した様相。
<し>
・17世紀のヴィクトリア朝では貴族階級が大衆紙を駆使し、「認知支配」のプロトタイプを確立したが、近代においてはナチス・ドイツがそれを広報に援用したのであり、今社会で展開されるプロパガンダはその体系理論に基づくのだ。つまり前景化した報道の錯乱とはメディア始源期への回帰現象なのであり、新聞テレビは扇動装置という醜悪な内在本質を露呈するのである。
[自然律] 食糧自給を放棄し存続し得た国家は人類史に存在しないという定理。自由貿易体制。
[資本規制撤廃] 出資法などを改正し国家企業の株式を外国人に取得させること。経済主権の移譲。
[弱者に対する戦争] グローバル化により福祉、医療、教育が全面解体され貧困層が犠牲になる様相。
[シングル・テクスチャ] 公共教育が植え込む単一視座的思考。分析力が常態的に麻痺する要因。
[シンクレシズム] 相反するイデオロギーがカネで結び付き綜合すること。自民党と共産党の同衾。
[ジンギイズム] 搾取や外国人による支配などの内政問題を誤魔化すため用いられる排外主義思想。
[人口減少] 外国人と民族を入れ替えるため推進される政策。穏健な形の民族浄化。
[真実管理] 現実は在るものではなく作るものだというマスコミの論理。認知支配の基礎的な原理。
[心理的装置] 虐政を隠蔽し思考麻痺させる芸人、御用学者、タレント、新聞テレビ、雑誌などの総称。
[心理的ミサイル] 報道番組などが視聴者を愚民化させるために流布する常套句。
[上層権力のテーゼ] 民衆の注意を重大問題から逸らせ、政治的知性を限りなくゼロに維持すること。
[植民地税制] 消費税など取りっぱぐれの無い一律税制度。多国籍企業の還付金や減税に充当される。
[植民地政府] ニュー山王ホテルで月次開催される在日米軍と省庁幹部級の会合。日米合同委員会。
[諸コミュニティの局所的な自治] 植民地行政において国政が町内会レベルの議決権しか持たないこと。
[自由民主党] 米国が自国企業の利潤を最大化するため工作資金を投じて運営する政党。傀儡政権。
[シュールリアル] 国家議会が代表議員ではなく外国人投資家によって意思決定されるという実相世界。
[主権の妄想] 主要法案が外圧で決まるにもかかわらず、代表議会によるものと錯覚し続ける様相。
[シュリンク] 消費税率の引き上げやTPP加盟などバカな政策により経済が縮小すること。
[馴化] 公共教育やバラエティ番組また報道などによって民衆が家畜化すること。属国支配の中心手段。
[新自由主義] 多国籍企業の自由だけを保障し、各国市民の自由を抑圧する思潮。エゴセントリズム。
[新世界の暴力的画一主義] 自由貿易、民営化、労働・福祉権の解体という帝国主義3点セット。
[シンメトリー] 官僚支配、原発事故という崩壊前のソ連と同じ破滅要因に侵されている状態。
[心理作戦] バラエティやスポーツ中継を執拗に繰り返し、相手国民を根絶やしにすること。
・ポスト3・11(原子炉事故以降の社会)議論はタブー化し公共圏から排除されているのだ。様相は民族的な「シャッター反応(escapism=現実逃避)」であり、我々は見たいものしか見ないという閉じた循環を超越できず、むしろ「希望的盲目」に退歩しているのだが、やがて現実は楽観論者にも悲観論者にも公平に訪れるだろう。
<す>
[スキーマ] 固定観念で事物を捉える認知の枠組み。指摘すると大抵怒りだすので、やめたほうがいい。
[スキーム] 省庁OBが独立行政法人などで再就職を繰り返し不労所得を獲得する方法論。
[世界政府] 各国の代表議会に代わり意思決定する多国籍企業と一流投資銀行の連合体。帝国。
[セックス特集] 虐政を隠蔽するためポストや現代が企画する性行為記事。1984年的社会統合策。
[ゼノフォビア] 労働者搾取や原子力災害による荒廃を周辺民族のせいにして誤魔化すこと。排外主義。
[セミコロニー] 他国の軍隊が駐留し反植民地状態にある国。主要な法律が外圧によって決まる体系。
[ステークホルダー論] ひもつきを国政へ投入し都合よく運営すればよいではないかという投資理論。
[ストックフレーズ] 支配層が仕立て上げ、マスコミが喧伝し、愚民がうのみにする常套句。
[砂山のパラドックス] 移民と国民が入れ替わってもニホンであるのか?という命題。
<せ>
[ゼロ金利制度] 国債金利を抑えるため国民が200兆円規模の預金金利を逸失すること。
[先進医療技術工業会] TPPにより医療法人の株式会社化と国保の解体を推進する米国のロビー団体。
[専制のノモス] 欧米寡頭金融→在日米軍→ニホン経団連→官僚機構→国家議会という秩序。
[全米貿易協議会] 米国議会に献金を投じTPPを推進する事業者団体。コンキスタドール(征服者)。
<た>
・心理学者であるJ・ジェインズは「言語能力を獲得する以前の人間は自我意識を持たず、おおよそ誰もが統合失調症状態だった」と主張するのだが、イデオロギー化した衆愚主義により言語機能を破壊されたニホン民族もまた譫妄(イカれた)状態なのである。
[第三極] 維新など野党を僭称する政治集団。自民党の衛星政党の総称。偽装野党。
[大衆] 知的主体性や自律思考をもたずメディアによって操作される人群。ニホン人民の99%。
[対日投資倍増計画] 派遣法改正でピンハネして外国人投資家の配当を3倍に引き上げたりすること。
[対日年次改革要望書] 植民地ノルマ一覧。鳩山政権で廃止されたが日米経済調和対話として復活した。
[タイム・ホライズン] 長期スパンで国民社会を構想すること。自公政治の対義語。
[ダヴォス階級] 地球的規模で石油経済と福祉国家の解体を推進する超富裕層。いわゆる支配人種。
<ち>
[小さな政府] 医療、教育、福祉予算を全面削減し、資本と役人が浮いたカネを私物化する構想。
[知性の憎悪] モボクラシー(馬鹿主義)を推進する当局にとってインテリが何かと邪魔になること。
<て>
・タナトロジー(生死を深く考える思潮)はすでに危険思想であり、大学教育における人文科学の抹消もまたポスト3・11の社会統合策なのである。つまるところアンソロポロジー(人間とは何かという問い掛け)を禁忌とし、思索性が希薄で無哲学な人間の大量生産により支配を絶対化するという構想に他ならないのだ。
[デカルトの論法] 悪魔的な存在(新聞テレビ)が認知を欺き、知覚は常に捏造されているという主張。
[テクノロジーによる集中力欠損] ディバイスの氾濫やネット環境により注意力散漫が常態化すること。
[テクノロジーによるディスクレシア] ウェブの特有言語が脳の生成力を喪失させバカを量産すること。
[デザイナー・リアリティ] 現実逃避したヘタレが脳内にプログラムする仮想現実。唯名論。
<と>
・大衆は存在本質としてSHEEPLE(品種改良されたヒト家畜)なのであり、言葉も意識も粉末化されているのであり、もはや知的営為の一切が無効なのであり、この体系から「市民的不服従(人倫的視点から疑うことができない制度に反逆すること)」など永劫に生じ得ないのだ。
[投資家対国家間の紛争解決条項] 外国人の利益を損なう法律や規制を撤廃する特約。ISDS条項。
[同心円形式の物語] 9・11でも通貨危機でも構造改革でもTPPでも毎度同じ連中がボロ儲けすること。
[トポロジー] 社会の諸現象をキャッシュフロー(カネの流れ)から立体構造的に捉えるセンス。
[トリクルダウン理論] 富裕者を優遇すれば景気が拡大するというトンデモ疑似科学理論。
<に>
・「観察せよ、記録せよ。論理的にとことんまで考えよ、確認せよ、訂正せよ。他人と知識を交流させよ。その知識に耳を傾けよ。比較せよ。論理的に討議せよ。かくして立証せよ。自分の頭を他人の頭によってチェックせよ。自分の言葉の全てを疑え。常に真実に立ち戻れ。検証のない哲学を放棄せよ」 F・ベーコン
[入管法改正案] 安価な移民を高コストのニホン人と入れ替える法律。コードノワール(奴隷法案)。
[認知的閉鎖] 脳機能の限界から議論に対処できず、相手を異常者か変人として処理すること。
[日米合同委員会] ニュー山王ホテルで月次開催される在日米軍と高級官吏の会合。実質政府。実質国会。
[日米社会20年遅延説] 米国のロクでもない社会現象が約20年後に日本で発生するという考現学説。
[ニホン型政治] 外国人投資家の要求する法案の成立度に応じてカネをもらうこと。買弁商法。
<は>
[買弁] 外国人投資家に教唆されるまま税法や労働法などを改定しカネをもらう者。
[派遣労働] 経団連企業の人件費コストを圧縮し、外国人配当を倍増させるため導入された制度。
[パラ・ポリティクス] どの政党も資本に買われ同じ政策を推進するため政治的選択肢が消失すること。
[ハレーション効果] 世論操作に著名人を用いることで宣伝効果がいっそう高まること。
[パレート効率性] 一方(国民)の経済状況を悪化させ、もう一方(資本)のそれをよくすること。
<ひ>
・この民族は過酷な超現実に対峙するのではなく、シュミュレートされたか仮想現実に没入することを選択したのだ。個々の実存は摘出され「水槽に浮かぶ脳」に等しく、すでに現実はマッド・サイエンティストの電極刺激に反応する知覚細胞の幻視に過ぎないのであり、それは我々に突き付けられた形而上学的命題なのだけれど、貴方もまた否定する論理的根拠も反証する思考手段も持たないのだ。
[ピノキオ的世界] 成員の識字率が99%に達しながら情報の意味化ができない体系。メンタルな文盲。
[百家争鳴] ブログなどで自由言論を奨励し不満分子を炙り出したところで一挙に弾圧すること。
[ヒューマノイド] 支配民族による日本民族に対する基本認識および支配根拠。人間モドキ。家畜人。
[ヒューリスティック] 経験的な枠組でしか事物を考察できず、思考作業そのものを忌避する様相。
[非正規社員] 分割統治の一環としてヒエラルヒーの最底辺に固定されたプレカリアート(新貧困層)。
[ヒラリー・クリントン] 「多国籍企業のために戦います!」と宣言した次期米国大統領候補。
[ヒンズー的世界] 資本家→公務員→正社員→非正規社員という身分制によって階級を分化する構想。
<ふ>
・戦慄すべきは歴史的破局に際し一斉に口を閉ざす知識人の群れである。啓蒙のリーダーとなるべき彼らは検証主義を訴え生命の蹂躙を糾弾するのではなく、むしろ真逆に疑似科学を唱道しアンチヒューマニズムを共同するのであり、それはおそらく我々の文化資本の死滅状態である証左なのだ。
[文化蒙昧主義] バラエティ番組などを中心的コンテンツにして民衆の精神を退行させるイズム。
[文明の衝突] 異文明同士の出会い(戦闘)において優れた文明側が勝利するという定理。
[文明のドラッグ] 国民を無知に沈め現実の痛みを麻痺させる新聞テレビの総称。お笑い、バラエティ。
[プレカリアート] 外国人投資家の教唆により量産された派遣労働者などの新貧困層。
<へ>
[平均への回帰] 繁栄と没落を数百年周期で捉えれば、どの民族も大差ないという論理。ゴールトン説。
<ほ>
[報道のナラティブ] 「風評被害」などと問題本質をすり替える新聞テレビの物語的語法。
[放任資本主義] 投資銀行などに好き勝手な投機をさせ、損失が出たら税金で救済する様式。
<め>
[明在系・暗在系] 民間経済(表)と官制経済(裏)によって国家が二重構造化した様相。
<ら>
[ラーゲリ] 旧ソが米国から資金調達するため1500万人もの市民を無賃金労働者として収容した施設。
[ラショナル・フール] 賃下げすると内需が縮小し収益が悪化することを理解できない馬鹿。
<れ>
[隷属地域の中間支配者] 官吏機構、自公政権、新聞テレビ各社などいわゆる植民地の「現地採用組」。
[連続性の虚偽] 国民と移民が総入れ替えになってもニホン国であることに変わりないという詭弁。
[レントシーカー] 外国人からカネをもらい法律を制定する政治家の総称。私益追求者。
・かつてオーウェルは「近代の戦争とはある種のごまかしであり、互いに致命傷を与えない擬制の闘争であり、それは今や外交ではなく純然な内政問題であり、暴力は他国ではなく自国の民衆に向けられる」(要約)と語ったのだが、おおよそ本質はこのパラグラフに集約されるのだと思う。
<や>
[安上がりな福祉国家] 非正規労働者を量産し年金や医療保険などを自己負担させる体系。ミナキズム。
[柔らかい野蛮] 国民の知らないところで政策を決定する日本型独裁。ヒトラー政権が理想とした。
・民族集団は眼前の破局に慄然とするのではなく薄笑いしながらそれを享受するのであり、やがて根拠のない楽観は感染症のように広まり多幸感すらもたらすのだ。それはいわば瀕死の脳が見る臨死体験のファンタジーであり、つまり彼らは肉体の死を迎える以前に精神が滅んでいるのであり、すでにこの体系はファントムパブリック(思考という人間営為の放棄により亡霊化した大衆)の群れなのである。
<ゆ>
[ユートピア] 賃金や税金など企業の応負担を最小化し、投資家利潤の最大化を約束する世界。
<わ>
[わが闘争] 広告代理店や総務省など中央官庁が参照するプロパガンダの実用書。衆愚政治の理論書。
『略奪者のロジック』
響堂雪乃 三五館 2013/2/21
<おそらく真理は清廉よりも、汚穢の中に見出されるのだろう>
<グローバリズム>
・グローバリズムという言葉は極めて抽象的なのだが、つまるところ16世紀から連綿と続く対外膨張エリートの有色人種支配に他ならない。この論理において我々非白人は人間とみなされていないのであり、アステカやインカのインディオと同じく侵略地の労働資源に過ぎないわけだ。
<労働法改正>
・外国人資本家の利益を最大化するため労働法が改正され、労働者の約40%近くが使い捨ての非正規就労者となり、年間30超円規模の賃金が不当に搾取されているのだから、この国の労働市場もコロンブス統治下のエスパニョーラ島と大差ないだろう。
「文明の衝突」においては、優越種が劣等種を滅ぼすという歴史が繰り返されてきたのであり、危機に直面する我々は喫緊の生存戦略を問われている。
<Index Terms>
非正規就労:抑制した人件費を、企業と派遣事業者の利益に付け加えられる手段。
合成の誤謬:搾取が一私企業から全社会領域に波及し、経済が機能不全に陥ること。
Low Cost Slave(低賃金奴隷):経営環境によって賃金を増減するシステムの不可欠要員。
世論合意:メディアの暴力が形成する生活保護費削減の社会的コンセンサス。
竹中平蔵:派遣労働法を改正し、現在は人材派遣会社の会長職を務める元政治家。
円キャリー:年間30兆円ベースで削減した賃金をプールし、国外の投機で運用すること。
消費税:徴収額を多国籍企業と富裕層の減税や還付金などの各種優遇に用いる制度。
トリクルダウン理論:金持ちを優遇すれば景気が上向くという市場原理主義者の詭弁。
ILO(国際労働機関):労働条件の後進性が非難される日本が常任理事国を務める国際団体。
児童人口減少:労働者派遣法改正を要因とした晩婚化によって進捗する社会現象。
プレカリアート:構造改革によって現出したフリーターや非正規社員などの「新貧困層」。
労働者派遣事業:2000年初期から3倍にまで業容を拡大した成長産業のひとつ。
<君が未来を描きたければ、人間の顔を踏みつけるブーツを思い浮かべればいい。ジョージ・オーウェル(イギリスの作家)>
・2012年度の厚生労働省調査によると、非正規労働者30代男性の未婚率は75.6%、正規労働者の30.7%と比較し2.5倍もの差があることが判明。2004年の45.5%から僅か数年で30ポイント増加し、非正規労働者の経済的不安定が未婚化を加速させる様相を浮き彫りにしている。また非正規労働者の未婚・晩婚化は40代でも進行し、前回の25.3%から45.7%へ増加した。加速的な児童減少の原因が、構造改革による労働者派遣法改正であることは明らかだ。
<今日の奴隷ひとりの平均価格は、民主主義が最低レベルにあったと思われる時代に栄えたローマ帝国の価格の10分の1以下である。ロレッタ・ナポレオーニ(イタリアの経済学者)>
・グローバル経済において最下層の国民は最低賃金で雇用され、ゼロ・レイボア・コスト(生産コストにおいて人件費の占める割合が限りなくゼロに近い)を提供するのだが、つまりTPPが席巻するデフレは、人間そのものの低廉化をもたらしている。
<彼らはいい身体つきをしており、見栄えもよく均整がとれている。素晴らしい奴隷になるだろう。クリストファー・コロンブス(イタリアの探検家)>
・構造改革を契機に年収200万円以下のワーキングプアは1000万人に達し、正規雇用が190万人減り、非正規雇用は330万人も増加した試算となる。
・「ワーキング・プアということ自体の確立した定義がないので、どこがワーキングプアとは統計的にはなかなか言えない」などと答弁した。
・行政が貧困や格差問題に無関心であることが明らかだ。
<植民地を会社経営としたのだから、利益の追求が最大目的で、原住民の福祉が眼中にないのは当然である。清水馨八郎(千葉大学名誉教授)>
・97年から07年の間において、日本国企業の売上げに顕著な伸びはなかったが、経常利益は28兆円から53兆円に増加する。これに対し、労働者賃金は222兆円から192兆円に削減されていた。リストラや非正規就労の推進によって抑制された人件費が、そのまま企業と派遣事業者の利益に付け替えられた格好だ。さらに株式配当に対する税率を20%から10%に引き下げる証券優遇税制が延長されたことを受け、労働法の規制緩和を推進した投資集団の利益は倍増、企業群は270兆円規模の内部留保を蓄積した。
<エコノミックヒトマンとは、世界中の国を騙して莫大な金を掠め取る、きわめて高収入の仕事だ。ジョン・パーキンズ(エコノミスト)>
・小泉政権は「対日投資倍増計画」を掲げ、時価会計制度の導入によって企業価格を大幅に引き下げるなど、外国勢力による経済支配を推進したとおり、グローバル資本の実働部隊であったことは語るまでもない。主要企業の過半数株式を制圧した外国人投資家は、労賃の圧縮を求め「労働者派遣法」を改正させたのだが、これにより派遣法のネガティブリストに規定されていた労働種目がすべて解禁され、日本人労働者の実に3分の1が非正規という奴隷階級に転落した。
<インデァスこそ富そのものである。なぜなら、彼らは地を掘り、われらキリスト教徒のパンやその他の糧食を作り、鉱山から黄金を取り出し、人間と荷役動物の労役のすべてをするのが彼らだからだ。クリストファー・コロンブス(イタリアの探検家)>
・経済市場から流通マネーが枯渇しデフレへ発展した要因は、年間30兆円ベースで労働者賃金が削減され、その大半が企業内部留保や配当益となり、プールされた莫大な資本が円キャリーとして持ち出されているためだ。つまり過去10年において労働者が正当に受け取るべき300兆円規模の金が国内外の勢力によって搾取され、国民経済の本質である内需から揮発し、すでに国家は植民地の様相を呈している。
<私は、企業などというものは、そもそも無法者を内在しながら存在すると考えている。宮崎学(作家)>
・構造改革を契機に日経平均株価50%以上も下落し続けていたのだが、この間に主要企業の配当と役員報酬は2倍以上で推移している。つまり「労働者の非正規化は、商品価格の国際競争力維持のためやむを得ない」というのは虚言であり、労働者の逸失した賃金が直接的に企業利益と投資利潤に付け替えられているわけだ。1000万人が年収200万円以下の貧困層に転落する中、労働者派遣法改正により莫大な経常利益を確保した日産自動車のCEOは9億円、投資は平均2憶円の報酬額に達するなど、レッセフェールは社会資本の傾斜配分という歪みを増幅させている。
<君が奴隷であることだ。生まれたときから匂いも味もない牢獄に入れられている。ウォシャスキー兄弟(米国の映画監督)>
・2001年、小泉政権の発足直後に外資比率が50%を超える企業群の政治献金が合法化されているのだが、つまり自民党という政党は国民利益よりもインセンティブを重視し、国民福祉よりも外資利潤を優先する方針を明確に打ち出している。今後は確実にTPPへ批准し、ラテン・アメリカ諸国が挙証するとおり、国民生活の全領域において植民地化が進行するのだろう。
<我々が文明に麻酔をかけたわけだ。でないと持ちこたえられないからだ。だから覚醒させるわけにはいかない。スタニスワフ・レム(ポーランドの作家)>
・経団連グループによる全領域的な社会保障の削減要求とは、ステークホルダーへの傾斜的な利潤配分を目的化しているのであり、粗暴な言説は国家の上部構造として多国籍企業が君臨する構造を浮き彫りにしている。
<派遣労働が低賃金なのは当たり前。気ままに生活して賃金も社員並みというのは理解できない。御手洗富士夫(キャノン会長兼社長)>
・就労者の38%以上が非正規労働者となり、生活不安に脅かされている下層レイヤーに組み込まれているのだが、没落は不測の事態ではなく、企業利潤のため構造化されたものであるといえるだろう。
<対立するものを与えて、それを高みから統治せよ。ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(ドイツの哲学者)>
・「社会保障費の増大は、生活困難者の自助努力の不足によるものである」というコンセンサスがメディアの暴力によって形成され、大幅な削減が実践されようとしているのだが、そもそも生活保護費は特別会計の1.5%にも満たない額である。OECD加盟国中2位まで上昇した貧困が、労働者派遣法の改正によって構造化されたことは明らかだ。
<「改革で格差が広がったということはない」(竹中平蔵・第6代総務大臣)。>
・生活保護受給者は2003年当時より年間平均8万人ペースで増加しているとおり、その源泉が労働者派遣法改正による労働者の使い捨てであったことは明らかだ。
<政治のイロハも知らない素人が政治家と自称しているのである。マックス・ウェーバー(ドイツの社会学者)>
・小泉純一郎、竹中平蔵らが「多様な雇用形態が成長をもたらす」と主張し、非正規就労を強力に推進したのだが、派遣社員などが将来に要する福祉支援は年間20兆円に達することが明らかとなった。
<格差が出ることが悪いとは思わない。小泉純一郎(第89代内閣総理大臣)。>
・日本国では小泉改革から引き続き、米国を追従する市場原理主義政策が推進されている。2012年、行政府は究極の不公平税である消費税の引き上げを強行したが、教育予算はOECD加盟国中最低を更新中だ。一連の施策においては日本育英会が廃止され、奨学金制度が厳格化されたことから、教育格差による経済格差を固定し、国策として社会流動性を絶つ狙いであると指摘される。
<金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない。マーガレット・サッチャー(イギリス史上初の女性首相)>
・世界銀行により貧困は基準化され、「絶対的な貧困者」と「相対的な貧困者」の二つに定義されている。
・「絶対的な貧困者」の人口は95年から20%増加し12億人に達し、世界人口の約50%に相当する30億人が1日2ドル以下で暮らしている。
・なおマーガレット・サッチャーは急進的な市場原理主義改革に着手したが、貧困層は増税となり富裕層は減税となるなど格差は拡大し、内需不足から企業倒産は5倍に達した。
<新自由主義は国民の生存権を憲法上義務付けた福祉国家の解体戦略である。二宮厚美(神戸大学教授)>
・ユニセフの調査によると2012年度の日本国における児童の貧困率は14.9%に達し、OECD加盟35ヵ国中ワースト9位であり、極めて悪化傾向にあることが判明する。
<世界で最も豊かな日本人が、なぜそれをできないのか?ミッシェル・フェルネックス(スイスのバーゼル大学教授)>
・ユニセフのレポートは各国の子育て支援や福祉政策にも言及しているが、日本国の児童福祉にかかわる公的支出はGDP対比1.3%程度、OECD加盟35ヵ国中においてワースト7位であり、市場原理主義の導入により児童の人権が抑圧される構図を示している。
<同じ嘘を何千回・何万回と繰り返せばそれは真実となる。アドルフ・ヒトラー(ナチス・ドイツ総統)>
・2012年、生活保護受給者が212万人を突破したことを受け、爆発的な社会保障支出を危惧する日本国政府は、テレビ媒体を主軸とする宣伝工作を実践した。
・生活保護費の削減を国民合意として、厚生労働省は年間100億円ベースの抑制策を打ち出す、「聖域視せず最大限の効率化を図る」などと、全面的に削減する方針を示したが、抑制された予算が公共事業費へ転用されることから、国民福祉を利権に付け替える行為に過ぎない。
<嘘も100回言えば真実になる。ヨゼフ・ゲッペルス(ナチス・ドイツ宣伝相)>
・竹中平蔵が唱導したトリクルダウン理論とは、富裕層が資産を増やせば、貧困層へも富が波及するという各国においては、富の寡占と傾斜配分が加速したのみであり、貧困層の生活が改善された事例はほとんど見られない。
<恐怖の連続だろ?それが奴隷の一生だ。デーヴィッド・ビープルズ(米国の脚本家)>
・98年、ILO(国際労働機関)新宣言として111号(雇用および職業における差別待遇禁止)、157号(社会保障の権利維持)などが加えられたが、当時の日本は構造改革をひかえ雇用規制の大幅な緩和策を打ち出していたため条約の加盟を見送った。
・ILO常任理事国である日本国の後進性が指摘されている。
<フリーターこそ終身雇用だ。南部靖之(人材派遣会社パソナ社長)>
・プレカリアートとは、「不安定な」と「労働者階級」を組み合わせた造語であり、90年代から急増した非正規就労者など不安定な雇用状況に放置された社会層を意味する。フリーター、パートタイマー、アルバイト、派遣労働者、契約社員、委託労働者から広義には零細自営業者や失業者まで包括され、プロレタリアートにかわる労働者派遣法改正が推進された結果、労働者派遣事業の売上げは2003年度の2兆3614億円から2008年には3倍以上となる7兆7892億円にまで達した。
<汝らは人類であるが、世界の他の国民は人類にあらずして獣類である。(タルムード「ユダヤ経典」の言葉)>
・ユニセフの統計によると、貧困を原因とする栄養不足や衛生悪化により年間平均1400万人の児童が死亡しているが、そのうちIMFや世界銀行の構造調整プログラム(融資条件として、債務国に福祉・教育・医療の切り捨てを迫る)の影響で死亡する児童は600万人に達するという。この数は紛争による年間死亡者数の12倍に達することから、金融勢力による途上国支配がもたらした構造的暴力であるとする見方が強い。
<新自由主義は階級権力の再構築に向けた支配階級の戦略的プロジェクトである。二宮厚美(神戸大学教授)>
・IMF出資国は「市場化と民主化が各国を発展させる」というスローガンを掲げていたが、融資条件に従い改革を行なった途上国社会は悲惨を極めている。世界人口65億人に占める貧困者の割合は1981年当時36%だったが、2000年には40%を突破し、特にアフリカ地域の貧困者は1億6400万人から3億1600万人まで増加。
<国家は、あらゆる立派な職業から弾き出された屑によって統治されている。ジョルジュ・デュアメル(フランスの作家)>
・世界支配のスキームは極めてシンプルであり、国際金融が破綻国家に対し国家主権の委譲を要求する。あるいは米国が傀儡政権を樹立し実質支配の下に国内法を改正する。抑制された社会支出は国庫に集約されるのではなく、各種の優遇税制により多国籍企業へ付与される仕組みだ。
<語るまでもなくプロパガンダには目的がある。しかしこの目的は抜け目なく覆い隠されていなければならない。ヨゼフ・ゲッペルス(ナチス・ドイツ宣伝相)>
・小泉政権を契機に「構造改革」が実践されたのだが、「構造改革」とはもともとIMFが債務国に求める返済計画を意味したイディオムなのであり、社会保障費の削減、労働規制の撤廃、投資の自由化(企業買収の簡易化)をプログラムの支柱として、すなわちフリードマン型経済(市場原理主義)の導入そのものであるわけだ。あらためて小泉内閣とはグローバリストによって編成された経済傭兵集団であり、国民資産あるいは労働者賃金を搾取・集約し譲渡することがミッションであったといえるだろう。
<我々は世界人口の4%を占めているに過ぎないが、世界の富の22%を必要としている。ビル・クリントン(米国第42代大統領>
・構造改革にともない「投資の自由化」が推進され、三角併合、持株会社、減損会計など聞きなれない制度が施行されたのだが、目的は外国人による日本企業買収の規制撤廃に他ならない。いまや株式市場の75%以上が外資による取引であり、外国人の持ち株比率は20年前の15倍に達しているのであり、すでに日本の経済的イニシアティブが解体されているに等しい。現在日本国が推進する市場原理主義の政策群は、90年代にクリントン政権が策定した金融を主体とするヘゲモニープロジェクトなのだから、我々は完全に略奪のプロットに取り込まれているのだと思う。
<誰もが得をする――そんなバカな話があるはずもない。金には必ず出どころがある。ゲイリー・ワイス(米国の作家)>
・2002年から推進される民営化、社会保障費削減、消費税率の引き上げなど構造改革の核心は、IMFが破綻国家に対して要求する「構造調整プログラム」のコンディショナリティ(政策勧告)そのものだ。国債を保有するメガバンクや市中銀行の外資比率が40%に迫ると推定されることから、一連の政策はデフォルトを危惧する外国人投資家の意向を反映したリスクヘッジであるとの見方が強い。すでにゼロ金利政策によって約200兆円の預金者金利が銀行の利益に付け替えられているのだが、それはつまり金融機関優遇であると同時に、国債の保有に対するインセンティブでもあるわけだ。財政規律の腐敗によって国家は外国に干渉され、国民は高額な税負担、預金金利逸失、福祉の後退という三重の負担を強いられている。
<日本を脅したいのなら、穀物の輸出を止めればいい。アール・バッツ(元米国農務長官)>
・2012年、日本が保有する米国債など外貨準備金の為替損失は、復興予算の2倍を上回る50兆円に達した。その前年には原発事故の深刻な汚染実態が顕在化する中、為替介入資金として195兆円を計上し、さらにIMFの資金基盤強化のため10兆円を拠出している。これに対し、東日本大震災の被災者の70%以上が再就職できない状態にもかかわらず失業給付を打ち切るなど、社会資本分配は完全に機能不全だ。国益に反した意思決定を繰り返す事由は、今なお占領統治が継続されている証左であるのだが、今後はTPPの加盟により食糧供給を機略としてさらに外圧が高まるのは必至だろう。
<どんな文化においても、圧制者というのは、まず支配される側の時間の価値を下げることから始める。ステファン・レクトシャッフェン(米国の内科医)>
・グローバル基準を主導する米国もまた、激しい衰退セクターにある。2010年に実施された国勢調査局の報告によると、貧困者数(年間所得が4人世帯で2万1954ドル以下)は4360万人で1959年の調査開始以来最多となり、総人口に対する貧困率は14.3%とワーストを記録した。これは非正規化が推進され、パートタイムなどの不安定雇用が蔓延したことが原因だ。日本国においては「雇用の柔軟化」という名目で200万人規模の労働者が非正規に置換され、民族が誇る1億中流社会は、構造改革から僅か7年余で米国型の格差社会に没落した。
<新自由主義とは経済グローバル化のヘゲモニー的戦略である。ボブ・ジェソップ(イギリスの社会学者)>
・98年には財閥解体が着手され、起亜、双龍、大宇、三星などのグループは事業単位で売却となり、約半数が消滅する。これにより現代が起亜グループを、ダイムラーが双龍グループを、GMが大宇グループを、ルノーが三星グループを取得。
<老人が多く自殺する国は滅ぶ。アドルフ・ヒトラー(ナチス・ドイツ総統)>
・IMFが推進した政策により対韓国投資は200億ドル規模にまで膨張したが、労働市場の改革とともに年功序列賃金や終身雇用制度は廃止された。これにより相対貧困率はOECD加盟国中6位、高齢者の貧困率は45%まで悪化し1位となる。またIMFの改革プログラムに同期して韓国の自殺率は急上昇し、2010年のWHO統計ではOECD加盟国中1位を記録した。
<政治家は羊の毛を刈り、政治屋は皮をはぐ。マイケル・オマリー(米国の作家)>
・1992年には価格自由化が追い討ちをかけ、2万5000%のハイパーインフレによってロシア国民は貯蓄を喪失する。50%が貧困に転落する最中においても国営企業の民営化は間断なく推進され、オルガリッヒ(新興財閥)と多国籍資本は公共資本の私物化を完成した。
<業績予測は占星術をまっとうに見せるための詭弁のようなものだ。バートン・マルキール(米国の経済学者)>
・1994年、ノーベル経済学賞の受賞者であるマイロン・ショールズとロバート・マートンらはヘッジファンドLTCMを設立した。その後は年平均40%以上という高利回りを叩き出し、運用額は1000億ドルを突破するが、アジア通貨危機とロシア財政危機によって業績は暗転する。ロシアのデフォルトを100万年に3回とシミュレーションしていたことが致命傷となり、最終的に機関投資家の損失は1兆円を上回った。なお、ショールズとマートンはその後サブプライム理論を提唱し、さらに米国経済の破綻を加速させている。