<「右傾化していない」若者が政権を支持する理由とは>
・先に、「若者の右傾化」報道のウソを暴いた。右傾化していない若者が安倍政権を支持し、右傾化している高齢世代に自民党支持が減ったのは、なぜか?これは、じつはメディアが自ら蒔いたタネでもある。
若い世代が安倍政権を支持する理由は、「雇用」で説明できる。筆者は大学教員をしているので、大学生にとっての最大の関心事が就職であることをよく知っている。最初の就職がうまくいくかどうかは、その後の人生を決める大問題だからだ。
・正直にいって、学生のレベルは8年間でほとんど変わっていない。学生が優秀になったわけでもないのに就職率が上がったのは、政策が功を奏したからである。希望する仕事に就けるチャンスを広げた政権を若者が支持するのは当然ではないか。
・では、なぜ高齢世代の自民党支持率が下がったのかといえば、メディアの影響が大きいからだろう。
・となれば、メディアから流れてくる政権批判にも染まりやすい。その論調を刷り込まれて、消費増税にも理解を示す。
<学生の成績評価も、政権への評価も基本は同じ>
・しかし、政策に対する筆者の評価基準ははっきりしている。しかもシンプルだ。経済政策であれば、「雇用の確保ができているか」が6割、「所得が上がっているか」が4割。統計データを基にして、すべて定量的に分析して評価をしている。どちらも満点なら100点だ。
<選挙のときに筆者は何を場合分けしているのか>
・「場合分け」というのは、あらゆるシチュエーションを想定して、それぞれの状況における“yes or no”を明らかにすることをいう。いわば思考実験だ。場合分けを過不足なくできるのは数学的な一つの能力で、選択肢や可能性を頭のなかできれいに整理する力といってよい。
・選挙があると、筆者はいつも場合分けをして考える。参考までに、2017年の衆議院議員選挙のときにつくった各党の政策比較の表を載せておこう。
通常の選挙では「経済問題」が政策比較の中心になる。しかし、このときは北朝鮮問題への対応の「安全保障」と、その裏側にある「憲法改正」へのスタンスが真の争点だと筆者は感じた。そこで、一覧表は①北朝鮮対応、②憲法改正(自衛隊明記)、③雇用確保(マクロ政策)、④消費増税、⑤原発、⑥これまでの実績、という6項目に場合分けしてみた。
<信頼する情報ソースは「go.jp」と「ac.jp」だけ>
・筆者は普段から新聞は読まないし、テレビも観ない。この生活は、官邸に勤務していた役人時代から変わっていない。それでよくさまざまな分野の解説ができるものだなと驚かれる。
映画やスポーツはテレビでよく観ている。とくに高校野球は大好きでよく観るのだが、試合が終わったあと、うっかりスイッチを入れたままにしておいたら、耳を疑うようなニュース解説が流れてきたことがあった。
番組では「景気が好調なのに、なぜ賃金が上がらないのか」について解説していた。そのなかで、「構造失業率」についての言及は一切なかった。いくら金融緩和をしてもそれ以上は下げられず、インフレ率だけが高くなる失業率水準を「構造失業率」という。そこまで失業率が下がって、ようやく賃金の本格的な上昇は起こる。ところが構造失業率の説明がまったくなく、消費拡大がいま一歩で、物価が上がらないから賃金も上がらないと、表面的な現象面の解説に終始していた。
・巷のエコノミストにも、構造失業率をわかっていない人がたくさんいる。安倍政権になって雇用が劇的に改善したことを、数字ではなく雰囲気で評価し、すでに完全雇用は達成されているという前提で、「賃上げが進まない状況は、いまの経済学では解明できない」と真面目な顔で語っていたある学者には驚いた。マクロ経済を理解していないのなら、「エコノミスト」という看板は下ろしたほうがよい。
誤情報を信用すると、ひどい目に遭う。正しい前提となる情報を求めるのであれば、メディアには頼らないことだ。幸い、いまはインタ―ネットがある。ネット上には何の加工も施されていない1次情報は必ずある。それを見つけ出せば、正しい前提となる定義を構築するのは難しいことではない。
・筆者の情報収集も基本はインタ―ネットである。ただし、ドメインは日本の政府機関による情報を公開した<go.jp>か、大学・研究機関による情報を掲載した<ac.jp>に限定する。
・筆者が分析で用いている情報は、誰にでも簡単に閲覧できるものばかりだ。すごい情報収集術を駆使しているとか、インサイダー情報を入手しているといった「秘密」はない。だから、その気にさえなれば、筆者の仕事術は読者にも再現性はある。
取材に来る出版社の編集者にも、どのデータがどのサイトにあるのか教える。しかし「見方がわからない」という編集者もいる。数字を羅列しているだけのエクセルのデータでは、そこから事実や傾向を読み解いて定理を構想することが難しいらしい。だから都合よくつくられたニュースを信用してしまうのだろう。
・ほとんどの読者はスマートフォンを持ち歩いているだろう。フォトグラフィクメモリーと同じ機能が、スマホのカメラだ。ガラケーのカメラでも大差はない。コンパクトデジタルカメラを使ってもいい。いちいちノートにメモするより、カメラで撮影すれば一瞬で記録される。その画像を必要なときに再生すれば、フォトグラフィクメモリーの能力と同じことではないか。
<「時間がない」の真意は「時間の使い方がうまくない」>
・筆者にとって原稿を書くのは日課のようなものだ。月に12万字くらいのアウトプットがある。ビジネス書は約10万字(400字詰め原稿用紙で250枚)程度で1冊はつくれるというから、毎月本1冊は書いていることになる。
・2017年11月には、新聞各紙が(国際通貨基金(IMF)は21日発表した日本の労働環境に関する提言で、後を絶たない「KAROSHI(過労死)」を問題視し、残業抑制を求めた)と報道した。時間を基準に仕事をしない日本人の「頑張り」は、欧米のビジネス感覚からすれば非常識であり、非合理的でしかないだろう。
・じつは、日本のマスコミにしばしば出てくる「IMFがこういっている」という報道は、日本の通信社の記者が、IMFの日本人スタッフから聞き取った情報であることが多い。この報道もその一種だろう。
<国会の想定問答はAIにすべてやらせよう>
・実際に、2016年12月に経済産業省はAIに国会答弁を下書きさせる実証実験を始めた。AIに過去5年分の国会の議事録を読み込ませたうえで、質問に対して過去の問答内容を踏まえて答弁ができるかが検証されてきた。世耕弘成経産大臣は、「国会想定問答づくりで経産省が徹夜をすることがなくなった」と述べている。人間が「頑張って」やってきた仕事ほど、AIに代替される日が早く訪れるのではないだろうか。
<中央政府の金融政策もAIで代替可能だ>
・銀行以外でも、単純・定型的な業務はどんどんAIに置き換わるだろう。その現実を、「あなたの仕事がなくなる」と、悲観的に煽るメディアは多い。だが、筆者はAIに関して悲観論は唱えない。日本は人口減少の局面にある。AIが人間の代わりを果たすなら、これをチャンスとすべきだ。
<「年金制度維持のために増税せよ」という勘違い>
・バランスシートで判断するのは、経済を論じる際のイロハの「イ」といっていい。第1章で触れた「年金破綻論」のウソも、国が公表している財務データから年金のバランスシートを見れば、たちまち化けの皮は剥がれる。
<「歳入庁」創設で財源不足を解決せよ>
・社会保障の財源不足の原因を少子高齢化という人口問題で説明したがる論者がいるが、もっと「足元を見ろ」といいたくなる。
慢性的な財源不足を引き起こしている根っこには、およそ10兆円ともいわれる保険料の徴収漏れがある。
国税庁が把握している法人の数は、約280万社。一方、日本年金機構が把握している法人の数は約200万社。この“違い”に合理的な説明は不可能だ。差し引きの約80万社は、日本年金機構が社会保険料を取りこぼしている企業の数と考えていい。
公的年金の1階部分である国民年金の納付率も、62.0%(2017年4~10月・現年度分)である。納付率は少しずつ改善されてはいるものの、納められるべき保険料が納められていないという現実がある。その状況に大鉈を振るうことなく、「足りないから税金を投入する」というのは、筋が違うだろう。
・解決の切り札は、「歳入庁」を創設して、税金と社会保険料の徴収を一元化することである。
これは奇抜なアイデアでも何でもない。世界各国の社会保障はほとんどが保険方式だが、保険料の徴収は税金とともに歳入庁(名称はいろいろある)が行なっている。いわば、世界標準の徴収システムであり、歳入庁がない日本のほうが珍しいケースなのだ。
2016年1月から運用が始まったマイナンバー制度は、従来の基礎年金番号制度とも遠からずリンクするはずだ。国税庁と日本年金機構の徴収部門を統合して歳入庁を設置すれば、公的年金の捕捉率も高まり、保険料の徴収効率は格段にアップするに違いない。
・筆者は、第1次安倍政権時代に旧社会保険庁を解体して歳入庁を新設するプランを提出したことがあったが、財務省につぶされた。民主党政権になったとき、民主党は「マニフェスト2009」のなかに歳入庁の創設を明記していたが、これも財務省の圧力で実現せずに頓挫した。歳入庁創設プランは、これまでに何度となく浮上しては、つぶされてきた経緯がある。
・歳入庁の創設を実現するために、最後にものをいうのは政治決断だろう。政府が進める「社会保障と税の一体改革」のなかで、歳入庁の必要性がどこまで議論されるかが、これからの日本の社会保障を左右する大きなポイントとなると筆者は考えている。
<国外の活動に活路を見出す中国の経済戦略>
・ところが、ここ10年のスパンで見れば、中国は飛躍的な経済成長を遂げ、資本主義経済の世界市場において多大な影響力を及ぼすキープレイヤーとなった。もっとも筆者は、脱工業化に達する前に消費経済に移行してしまった中国は、いわゆる「中心国の罠」にぶち当たると読んでいる。
<日本経済を失速させるリスクは「緊縮勢力」>
・日本経済の行方を予測するうえでは、国内にも大きなリスクがある。増税をもくろむ財務省などの、いわゆる緊縮勢力の存在である。
2018年度予算でも、社会保障費カットを推し進めようとするなど、脱デフレのよい流れに逆行するような動きが見えた。19年10月の消費税率引き上げを控えて、その前に積極財政を打つのがマクロ経済理論の正しい手筋だが、緊縮勢力はしたたかに歳出削減を画策している。
<「水道民営化」は日本の将来を占う試金石>
・欧米では、公共インフラを公的部門が所有しながら、運営権を民間事業者に譲渡することが普通に行なわれている。たとえば、フランスは上水道の6割、下水道の5割を民間が運営している。スペインでも、上水道の5割、下水道の6割が民間事業である。
・日本の場合、水道民営化はほぼゼロからのスタートになる。現行の料金体系や事業に関する規制のもとで運営を任せる民間事業者を選定しても、サービスの質の低下は心配ないだろう。
『これが世界と日本経済の真実だ』
日本の「左巻き報道」に惑わされるな!
経済ニュースは嘘八百! 目からウロコの高橋節炸裂!
高橋洋一 悟空出版 2016/9/28
<中国はもう経済成長なんてしていない>
<中国が行き詰まっている理由>
・中国の経済成長は限界を迎えている。2016年の年初、株式が暴落し上海株式市場が取引中止に追い込まれたのは象徴的な出来事だった。「世界最大の市場」を持ち、「世界の工場」を謳っていた中国だが、近年の失速は顕著だ。
・貿易の数字も良くない。「世界の工場」の中心地帯である珠江デルタ地域での2016年の輸出の伸びは、わずか1%の成長と見込まれている。
まさに苦境にある中国経済だが、「中国の夢」を唱える習近平国家主席は、理想こそ高いが、有効な経済政策を打ち出せてはいない。筆者の考えでは、中国はもはや経済成長しない。そう考える理由は、「1人当たりGDP1万ドル」の壁にぶち当たっているからだ。
この「壁」は「中所得の罠」と呼ばれる現象だ。
・開発経済学の研究から見ると、十分な工業化が達成される前に消費経済化のステージに入ると経済は停滞するというパターンがある。
つまり、今の状況では中国は発展できないと言える。その「壁」を超えるには、社会経済の構造改革が必要である。先進国の条件とも言える「資本・投資の自由化」だ。これまでの歴史を振り返っても、先進国の中で、資本・投資の自由化なしに経済が発展してきた国はないのだ。
しかし周知のとおり、社会主義体制の中国では経済は自由化されていない。中国では自由な資本移動を否定し、固定為替制と独立した金融政策を進めるという歴史上はじめての試みをしている。だが、自由化つまり国有企業改革をやらない限り、中国は「壁」を突破できないと考えるのが経済学の常識だ。現在の一党独裁体制の中国が、はたして完全な自由化に舵を切れるのだろうか。
それでも、中国のGDPは成長を続けているではないか、と思う人はいるかもしれない。しかし、中国が発表しているGDP(国内総生産)の成長率は、とても信用できるものではない。中国の発表する統計は、偽造されていると考えるべきだ。
<中国のGDPの大噓>
・ただ、その「悪い数値」を信じている経済の専門家は皆無だ。中国の成長率が誇張されていることは誰もが知っている。社会主義の中国では、国家が発表する統計は国有企業の「成績表」という意味がある。そして、その統計を作っているのは、「中国統計局」という国家の一部局である。言ってしまえば、自分で受けたテストの採点を自分でしているようなものなので、信頼性はどこにも担保されていない。
さらに言うと、統計は短期的にではなく長期にわたって見る必要がある。
・中国のような経済大国の変化率が低いというのは、どういうことだろうか。
石油価格の高騰など、近年の世界経済は大きく変動している。その世界経済の変動に、各国のGDPも影響を受けなければおかしい。実際、日本やアメリカ、イギリスなどのヨーロッパ各国をはじめ、世界中の資本主義国のGDPの成長率は上昇と降下を繰り返している。それなのに、その各国と貿易をしている中国のGDPの成長率がほとんど変わっていないのはどういう意味か……。それは発表されている数字が人為的なものだということだ。
実は、中国がここ数年刻み続けているおよそ7%という数値には「根拠」がある。
・日本なら、成長率が7.1であろうと6.9であろうと統計上の誤差の範囲とされるが、中国ではその僅かな差が非常に大きなメッセージとなるのだ。
<本当のGDPは3分の1>
・中国の信用できない統計の中でも、農業生産と工業生産に関してはしっかりとデータを取っているようで、ある程度信頼できるとされてきた。なぜかといえば、計画経済を進めるために、1950年代からしっかり生産量のデータを取る必要があったからだ。しかし、その工業生産のデータも怪しくなってきた。
・つまり、産業別の成長率6%の伸びと工業製品別の生産量の伸びとが著しく乖離していることが分かる。工業製品の生産量が伸び悩んでいるのに、産業全体が成長するなどということはあり得ない。
このように数値を分析してみると、GDP成長率6.9%は相当に下駄を履かせた数値だと理解できるだろう。
・さらに気になるのが中国の失業率だ。GDPの統計と同じく発表する完全失業率のデータは何年も「国家目標」(4.5~4.7%)の範囲に収まっている。2008年のリーマン・ショック後も、2014年の景気後退の際ですらほとんど変動していないのだから、この数字も信用できない。調査対象も限定されており、無意味な統計なのだ。他にも客観的に信用できる公式統計はないが、現在の完全失業率は最低でも10%、およそ15%ではないかと見られる。
・ただし、中国のデタラメな統計の中でも信頼できるものがある。それは貿易統計だ。
中国もWTO(世界貿易機関)に加盟している。世界各国の中国向け輸出の統計もあるので、これをすべて足し算してみる。すると、その数字は一致するので、中国の輸入統計は正しいと言える。
・その中国の輸入統計は、およそマイナス15%だ!輸入統計がマイナス15%となると、GDPはマイナス2~3%になるのが普通だ。絶対に、GDP成長率がプラス5%や6%にはならないのだ。ここからも、中国の発表するGDPがデタラメということが分かるだろう。
・筆者の予測では、最悪を想定した場合、中国の実際のGDPは公式発表の数値の3分の1程度に過ぎないだろう。詳しくは次項で解説するが、中国の統計システムは、ソビエト社会主義共和国連邦から学んだものだ。
そのソ連の公式統計では、1928年から1985年までの国民取得の平均成長率は年率8.2%とされていた。しかし、実際は3.3%でしかなかった。その事実は、ジャーナリストのセリューニンと経済学者のハーニンによって、1987年に発表された『滑稽な数字』という論文で指摘されている。
ちょっと頭の体操であるが、もしこのソ連とまったく同じ手法を、中国統計局が15年間行っていたとすると、中国のGDPは半分ということになってしまうのだ。もっとも筆者はここまでひどくはないと思いたい。あくまでワーストケースを考えるという話だ。
<ソ連のGDPは発表の半分だった>
・中国の統計システムはソ連譲りということについて、ここで少々説明しておこう。「左巻き」(左派)が理想としている社会システムでは、統計改竄しやすいという実例である。簡単に言えば、左巻きは、経済活動で公的部門のウエイトが大きくなるが、公的部門の経済パフォーマンスを良くしたがために、統計改竄に走りやすいのだ。
・その後、1960年代になると毛沢東は顧問団を追い返し、ソ連から伝えられた産業を中国独特のシステムに改革しようとする。大躍進政策や文化大革命を経て、鄧小平の改革開放が行われた。しかしその間も、ソ連の統計システムだけは生き残っていた。
・そもそも、その統計システムはソ連で50年以上も使われていたものだったが、およそデタラメなものだった。ソ連でも正確な統計データを出そうとした職員がいたが、「人民の敵」として統計機関から追放されたり、弾圧を受けた。国の立てた経済計画は、どんなことがあっても達成したことにしなければいけない。
つまり、国家の意思に基づいたご都合主義の統計でしかなかったのだ。そんなものを基に国家運営をしていれば、国家が崩壊するのは当たり前だった。だが、そんなソ連のデタラメな統計に、世界中の人々、経済学者までもが騙され続けていた。
・かつて政府税制調査会長を務めた故・加藤寛慶應義塾大学名誉教授のお話が思い出される。先生は元々ソ連経済の専門家だった。ソ連の発表する経済統計はいい加減だから、それを正しく推計しようとすること自体が骨折りなのだと言い、「社会主義経済のひどさを学び、日本はそうならないよう民間が主導する経済でなければならない」と語っておられた。
・はたしてその指摘は正しかった。ソ連の統計のデタラメさ加減が明らかになったのは崩壊した時だった。驚くべきことに、ソ連のGDPは発表されていたものの半分しかなかった。1928年から1985年までの国民所得の伸びは、ソ連の公式統計によると90倍となっているが、実際には6.5倍しかなかったのだ。
中国は、そんな統計システムを引き継いでいるのだ。
中国の統計がデタラメであると自ら宣言してしまった政治家がいる。現在の中国首相李国強その人である。
・「中国の経済統計、指標は、まったく信用できない。遼寧省のGDP成長率も信用できない。私が信用してチェックしているのは、わずか3つの統計数値だけ。その3つとは電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資額。この3つの統計を見て、遼寧省の経済成長の本当のスピードを測ることが可能になる。他の中国の経済統計、とりわけGDPなどは、ただの『参考用数値』に過ぎない」
<中国のハニートラップ>
・左巻きの人々が中国に都合のいい言動をしてしまう理由のひとつが「ハニートラップ」だ。実は筆者も「罠」を仕掛けられたことがある。
1990年代のはじめ頃、筆者がかつて大蔵省の官僚だった時の話だ。中国の経済シンクタンクに招かれて訪中した。宿泊先は中国の国賓館である釣魚台だった。夜、外出先で宴席が設けられたのだが、とんでもない美女が接待役としてついてきた。2次会まで一緒にいれば危険だと思った私は、用事があるとか適当な理由をつけてその場から逃げ出した。
このようなハニートラップに引っかかった役人や学者、そして政治家は数多いという。「親密な関係」を盗撮され、帰りの空港で写真やビデオを見せられれば、たいていの人間は中国の操り人形になってしまうというわけだ。
・そして、あの手この手で中国に籠絡された日本の官僚、学者や政治家が、中国の都合のいい見解を垂れ流す。中国とはそういう国なのである。もちろん、そんなハニートラップなどなくても、中国政府の「公式見解」を拡大、補強しようという困った左巻きの評論家や官僚も多いのだが……。
それはさておき、これまで述べてきたとおり、中国経済は発展しないし、発表するGDPも大嘘だ。「中国崩壊」が政治体制の崩壊を意味するのか、経済の破綻を意味するのか論者はそれぞれだが、少なくとも中国経済は失速し、中国発の大不況が襲ってくる恐れは高まっている。左巻きの人たちは、拡大する中国と手を取り合わなければいけないと主張しているが、現実を直視すべき時が来ているのだ。
・筆者は近年、以上のような中国経済の真相を事あるごとに講演などで話してきた。『中国GDPの大嘘』(講談社)という本も上梓している。おかげさまで多くの人に納得してもらっており、論考に批判の声が来ることはほとんどない。
『日本はこの先どうなるか』
<政治・経済では本当は何が起きているのか>
<英国のEU離脱、欧州への大量移民、崩壊寸前の中国経済、米国の過激な大統領候補、日本の戦争リスク………>
<データに基づかなければ、議論する意味はまったくない>
・参院選の結果を受け、さらなる経済政策が実行される。
・憲法改正は容易ではない。
・イギリスEU離脱の悪影響はボディブローのように効いてくる。
・イギリス経済は将来的には成長する可能性あり。
・経済は人の「気分」で動く。
・エコノミストの予測が外れるのは経済学部が「文系」だから。
・輸出入統計から推計した中国のGDP成長率はマイナス3%。
・国債暴落説の大ウソ。
・財務省の税務調査権は実に恐ろしい。
・日本経済は必ず成長できる!
・戦争のリスクを甘く見てはいけない。
<データは嘘をつかない>
<トランプ大統領の誕生は日本にどう影響するか >
・最近のトランプ氏の発言を聞いていると、いよいよ「へりコプターマネー」を言い出すのではないかと考えている。
へりコプターマネーのもともとの意味は、中央銀行が紙幣を刷ってへりコプターから人々にばらまくというものだ。ただし、実際にこれを行うことは難しく、「いつどこにへりコプターが来るのか教えてほしい」というジョークすらあるほどだ。
現在のように中央銀行と政府が役割分担している世界では、中央銀行が新発国債を直接引き受けることで、財政赤字を直接賄うことをへりコプターマネーと言うことが多い。
・バーナンキ氏のそれは名目金利ゼロに直面していた日本経済の再生アドバイスであったが、具体的な手法として、国民への給付金の支給、あるいは企業に対する減税を国債発行で賄い、同時に中央銀行がその国債を買い入れることを提案していた。
中央銀行が国債を買い入れると、紙幣が発行されるので、中央銀行と政府のそれぞれの行動を合わせてみれば、中央銀行の発行した紙幣が、給付金や減税を通じて国民や企業にばらまかれていることになる。その意味で、バーナンキ氏の日本経済に対する提案はへりコプターマネーというわけだ。
<もし朝鮮半島で有事が起きれば、韓国における在留邦人保護も大きな課題>
・体制の維持には、一定の経済力が必要だ。中国経済の景気後退の影響で、北朝鮮経済は深刻なダメージを被っていることが予想される。対中輸出依存度が25%程度の韓国でさえ、2015年の輸出額は対前年比6%程度も減少している。対中輸出依存度が70%以上と言われる北朝鮮は、中国経済の低迷の影響をモロに受けているに違いない。
北朝鮮のGDPは謎に包まれているが、400億ドル程度(4兆4000億円程度)とされており、一人当たりGDPは2000ドルにも達しない最貧国である。人口は約2300万人で、そのうち5%、つまり約120万人が軍人である。
これを日本に当てはめて考えると、自衛隊員を600万人も抱えている計算になる。その経済的な負担は、あまりにも大きい。
・北朝鮮は、国連制裁をこれまで4回も受けている。1月の核実験、2月のミサイル発射を考慮して、もし追加の国連制裁を受けた場合、事実上は6回の制裁と考えていいだろう。これは、7回も国連制裁を受け、結果としてつぶされたイラク並みである。そうなると、朝鮮半島有事も充分に想定できるのだ。
<米軍が日本から撤退すれば、日本の核保有が現実味を帯びる>
<願うだけで平和が実現できるなら、世界はとっくに平和になっている>
・集団的自衛権の行使容認は、アメリカとの同盟関係の強化をもたらし、日本の戦争リスクを下げることにつながるのである。
集団的自衛権は、同盟関係と一体不可分のものだ。世界では、集団的自衛権なしの同盟関係はあり得ない。その意味で、もし集団的自衛権の行使を認めなかったら、日本はいずれは日米同盟を解消される恐れもある。
・安保関連法の成立を世界の視点で見れば、これまで同盟関係がありながら集団的自衛権の行使を認めなかった「非常識」を、世界の「常識」に則るようにした程度の意味である。そう考えれば、「安保関連法で日本が戦争をする国になる」などといった主張が単なる感情論にすぎないことがわかるだろう。実際、国際関係論の数量分析でも、同盟関係の強化が戦争のリスクを減らすことは実証されているのである。
安全保障を議論するときはいつもそうだが、左派系が展開する議論はリアルではなく、非現実的かつ極端なものばかりだ。
安保関連法案が国会で審議されている最中、衆議院憲法審査会において、3人の憲法学者が「安保関連法案は憲法違反」と指摘して話題になったことがある。聞けば、95%の憲法学者が集団的自衛権の行使容認を違憲だと考えているという。
<中国のGDP成長率を推計すると、「-3%」程度である>
・中国政府のシンクタンクである中国社会科学院は、2015年のGDP成長率を「+6.9%」と発表しているが、これはおそらくウソだろう。
もし、筆者のこの推計が正しければ、中国経済は強烈な減速局面に突入していることになる。
・要するに、貿易面から見れば、中国経済の失速はアメリカのそれと大差ないくらい、世界経済に与える影響が大きいものになるということだ。
しかも、その影響は中国との貿易依存度が大きいアジアでより深刻になるはずだ。
ちなみに、リーマンショック後の2009年、アメリカのGDPは3%程度減少し、輸入も15%程度減少した。貿易関係を通じた実体経済への影響については、現在の中国の経済減速は、リーマンショックのアメリカと酷似している状況だ。この意味では、中国ショックはリーマンショック級の事態に深刻化する可能性を秘めているのである。
<中国は「中所得国の罠」にはまり込んでいる>
・「中所得国の罠」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりのGDPが中程度の水準(1万ドルが目安とされる)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを言う。
この「中所得国の罠」を突破することは、簡単ではない。アメリカは別格として、日本は1960年代に、香港は1970年代に、韓国は1980年代にその罠を突破したと言われている。一方で、アジアの中ではマレーシアやタイが罠にはまっていると指摘されている。中南米でもブラジルやチリ、メキシコが罠を突破できすにいるようで、いずれの国も、一人当たりGDPが1万ドルを突破した後、成長が伸び悩んでいる。
・これまでの先進国の例を見ると、この罠を突破するためには、社会経済の構造改革が必要である。社会経済の構造改革とは、先進国の条件とも言える「資本・投資の自由化」である。日本は、東京オリンピックの1964年に、OECD(経済協力開発機構)に加盟することによって「資本取引の自由化に関する規約」に加入し、資本・投資の自由化に徐々に踏み出した。当時、それは「第二の黒船」と言われたが、外資の導入が経済を後押しし、それが奏功して、日本の1人当たりGDPは1970年代半ばに5000ドル、1980年代前半に1万ドルを突破した。
・では、中国ははたして「中所得の罠」を破れるだろうか。筆者は中国が一党独裁体制に固執し続けるかぎり、罠を突破することは無理だと考えている。
ミルトン・フリードマン氏の名著『資本主義と自由』(1962年)には、政治的自由と経済的自由には密接な関係があり、競争的な資本主義がそれらを実現させると述べられている。経済的自由を保つには政治的自由が不可欠であり、結局のところ、一党独裁体制が最後の障害になるのだ。
そう考えると、中国が「中所得国の罠」を突破することは難しいと言わざるを得ない。