(2021/2/19)
『世界のスパイから喰いモノにされる日本』
あなたの生活データを奪うのはこいつらだ!
MI6、CIAの厳秘インテリジェンス
山田敏弘 講談社 2020/1/21
<あまりに脆弱な日本のインテリジェンス――なぜ日本にMI6が必要なのか>
<ロシアは北方領土にファーウェイを>
・「国際的に活動するテロリストの動向は、もちろんMI6も注視している。日本での破壊活動がその視野に入ってくることもある。ただ、それ以上に私たちが危惧するのは、中国からのスパイ工作やサイバー攻撃が常に日本を狙っていることだ。さまざまなレベルや広範囲な分野で、中国は欧米や日本と対抗しようとしている」
・ロシアとも北方領土の問題はくすぶり続けていて、その面当てとしてか、ロシア側はアメリカが同盟国の日本などに排除を申し入れている中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」のインタ―ネットの通信インフラを、わざと北方領土に設置しているとされる。
このように日本の周辺には、日本国民の生命と財産を脅かす、安全保障の懸案がいくつも存在している。信頼できる対外情報機関がないことで日本が世界から遅れをとっているだけでなく、インテリジェンスによって自国を守るのには弱い体制にあることがわかるだろう。
<他国は「日本のために」助けてはくれない>
・生き馬の目を抜く世界情勢の中で「自国第一主義」が当たり前の各国が、他国から惑わされないように、基本的には独自にリスクを背負って情報を集め、分析しているのである。他力本願では、相手の思うように情報操作されるのが関の山だ。
・とはいっても、CIAやMI6といった機関はどれほどのインテリジェンスを持っているというのか。CIAなどは、そこまでいろいろとわかっているのなら、世界中でアメリカの関係するテロ事件があちらこちらで起きているのはなぜなのか。
率直な筆者のそんな問いに、この元スパイは、「計画を阻止」「テロリストを事前に拘束」といった事実は表に出てこないのがほとんどだと言う。要は食い止めているものが多い、と。
<歴史的警戒とMI6との親和性>
・2016年には、安倍首相の提唱で始まった外交・安全保障の情報機能強化を目指す政府の「情報機能強化検討会議」で「対外情報庁」(日本版CIA)設立案が浮上するも、立ち消えになっている。
・ところで、日本版CIAの設立が謳われてきた歴史の中で、これまで提案者たちが設立の参考にすべきだと名指ししてきたのは、MI6だった。これまで日本で対外諜報機関を作る志を抱いていた人たちは、なぜMI6を目指そうとしたのか。
最大の理由は、日本とイギリスにある類似性だ。どちらも島国で皇室(イギリスでは王室)があり、政府のシステム的にも、アメリカのような大統領制よりも、日本と同じ議院内閣制であるイギリスの体制がなじみやすいと考えられているからだ。
<外務省と警察の綱引き>
・ちなみにこうしたインテリジェンスをめぐる日本の動きには、中国や韓国が異常な関心を示す。MI6やCIAを参考にした対外諜報機関の設立を目指していた自民党のインテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクトチームの座長だった町村信孝が、講演で対外のスパイ機関の必要性を主張した際も、中国のメディアは極めて敏感に反応している。
<コンサバで公務員的なスパイたち>
・MI6では、9時~5時という仕事のスタイルは存在しない。24時間、任務にあるという感覚だ。
何があろうが関係ない。プロジェクトを担当しているときは、家に帰ってどうこうって時間はないと言っていい。そのプロジェクトが終わるまで、任務を続けなければならない。休むことはない。日本の情報機関は、思想的にも、守りに入っている感じがする。考え方自体が、公務員的、コンサバティブ。もう一度言うが、それは別に悪いことではない。文化の違いだろう。
ポジティブな面では、日本国内における情報収集のスキルは高い。それは間違いない。
・「本当に国として自立していくのに、諜報機関は不可欠ではないか。本当の使命とは何かということから考えたほうがいいかもしれない」
・「対外諜報機関がなければ国を守れない。それをしっかりと認識して、CIAのように国民は監視しない、といった法規制を作ればいい。イギリスは、7つの海を制覇し、インテリジェンスで植民地統治をこなしていた。日本もそろそろ自立を考えるべきでしょう。日本が独自のインテリジェンスを駆使できるために、ぜひ日本版MI6を実現してほしい」
<MI6と日本の交わりと、日本での活動と実態>
<サイバー嫌がらせにはサイバー嫌がらせ>
・国家に何らかの悪影響を与えるものは見逃さない。それがMI6の流儀だ。
「MI6の関係者などに危害を加えるような動きは潰されてしまうだろう。あまりにたちが悪い場合は、『消してしまう』ことだってある。MI6とはそういう組織だ」
そう、ことによって脅威を物理的に「消し去る」のである。
<人命軽視のCIA、一見穏やかなMI6>
・内調の元関係者は、「私たちはCIAをアメリカの『A』、MI6をブリテンの『B』と呼んで、情報のやりとりをしている。Aは人命を軽く見ている印象です。Bの関係者は日本にはあまりいないと思いますが、いい人が多いですね」と話す。
<韓国の内情に深く食い込む米英>
・「CIAなどもまさにそうだろうが、いろいろな重要情報を日本の情報当局と共有しているというのはあり得ない。北朝鮮、韓国、ロシア、中国、こうした国で起きていることを、CIAはほとんどすべて把握していると言える。それらを日本と情報共有するのは考えられないし、していないだろう」
<たしかに存在する協力者>
・「イギリスは、インテリジェンス活動という意味でアメリカやロシアと競合しており、これらの国ではMI6が超えるインプラントやモール(スパイ)の数は数百人規模になる。MI6が利害を鑑みて、重点的に注意をはらっている国だからだ。
<ゼロトラスト(けっして信用しない)>
・「MI6は外国人にレベル1の信用を与えることはない。レベル1のクリアランス(機密情報にアクセスできる権限)は、外国人には与えられないので、どれだけ頑張ってもレベル2だ。つまり、システム的にも、限られた情報しか外国人には提供しないし、できないことになっている」
MI6の任務においては、このゼロトラスト・モデルが鍵になっているようだ。
<中朝韓への諜報活動>
・喫緊の問題が日本との間にはないからと言って、MI6が日本について情報収集をしないわけではない。この元スパイがいたころは、「香港を拠点にしているスタッフも、中国の政府関係者らや、東京の政府関係者などの会話も傍受していた」という。
中国やロシア、北朝鮮と韓国など東アジアとその周辺は、世界情勢に影響を及ぼしかねない地域である。そんなことから、MI6も日本を含むこの地域で強い関心を持って情報収集をしている。
・最近では日韓関係の情報取集を強化する。東アジアにおいては、北朝鮮という世界を揺さぶる可能性がある国を中心に、隣の韓国国内の動向も注視している。
<反日傾向が強まる中でスパイ活動が活発に>
・MI6はさらに、韓国が日本の軍事産業などにかかわる民間企業などに、サイバー攻撃を仕掛けていることもわかっているという。
・MI6の元スパイのもとにも、日韓関係については、MI6から最新情報がもたらされていた。
「最近は、日本にいる在日韓国人が、韓国にいろいろな情報をまるでスパイのように送っていることを把握している。以前も多少はあったが、今のようなレベルではなかったと分析されており、最近、日韓関係の悪化にともなって、そうしたスパイのような行為が増えているようだ」
・「レーダー照射の事件後、日本の軍事関連の大手企業にはサイバー攻撃がとくに増えている。私たちは、その中に、韓国からの攻撃も含まれていることを把握している」
<あふれる中国の民間スパイ>
・「中国は、旧正月には毎年、年に一度のスパイキャンペーンを行う。旧正月が近くなると、中国の当局者や政府につながっている人たちが、日本など国外に暮らす中国人ビジネスパーソンなどに『帰国の手助けをします』と接触する。旅費を援助するなどと誘惑し、それで国に帰国させたら慎重に情報機関に協力するよう話を持ちかける。国外でのビジネスもうまくいくようにしてやるから、と金銭的にも協力する。しかも悪びれることもなく、大々的にやっている」
<世界最古の諜報機関>
・MI6による日本での活動は歴史的にも記録に残されている。
そもそも、MI6が設立されたのは1909年。世界で最も古い諜報機関は、ドイツ帝国の台頭という脅威から生まれた。
<大戦時の日本とのせめぎ合い>
・戦時中は、日本の進撃により、香港やシンガポールが陥落した。その際、日本軍はSIS(秘密情報部)のスパイたちも拘禁している。
一方でこの時期は、日本も国外でのスパイ工作を実施している。
<対ソ諜報から独自の世界的インテリジェンスに>
・戦後は冷戦構造の中、敵はドイツからソ連や東側陣営にシフトして、MI6はそうした国々にからむ情報を集めた。その後MI6はソ連のアフガニスタン侵攻、フォークランド紛争などでも暗躍。経済規模が大きくなっていく日本に対しても、MI6の経済部門が日本の産業界についての情報も収集するようになっていった。
<知られざるMI6の実力と秘密の掟>
<敵国スパイを「消した」とき>
・「もちろん人を殺めることもある。それはエージェンシー(MI6)でも明確な権利として定められている。国を守るためであれば、自分の命を犠牲にしたり、誰かの命を奪ったりということは仕方のないことだ。インテリジェンス・コミュニティでは、そんなことは常識だと言える」
・MI6スパイには情報機関法に基づいて、国家の利害のためには「違法な活動」が許されているとし、それには「殺傷」も含まれると認めている。
<イギリス情報局の組織図>
・設立から100年以上、歴史の裏舞台で暗躍し、現代でも活躍する最古の諜報機関であるMI6は、いったいどんな組織なのか。基本的にMI6の活動は機密であり、その内情を簡単に知ることはできない。だが内部にいた元スパイなどの証言から、その実像を窺い知ることはできるはずだ。
<潰された民間スパイ会社>
・その転機になった問題のひとつが、2009年に起きたカリブ海に浮かぶイギリス領ケイマン諸島での事件だ。この話は公には知られていないものである。
当時、MI6のスパイが何人も組織を離れて独立した。しかも3人が中心となって、一緒にケイマン諸島で、民間の諜報組織を作るという。ケイマン諸島といえばタックスヘイブンで知られ、不透明な資金が流入することが国際的にも問題視されている。元スパイたちには、外国の情報機関から多額の資金が提供されており、しかも世界の名だたる諜報機関からも何人もが、その会社に合流していた。
・結局、その企業はMI6によって「潰される」という結末になった。超えてはいけないラインを越えて、ビジネスを展開していたからだ。
<「007」はトップスパイではなかった>
・そもそも、MI6ではどれほどの人が働いているのか。MI6には現在、2500人以上が勤務している。
<相互監視と現地協力者>
・特筆すべきは、エージェントの権力が絶大だということだ。彼らはエリザベス女王にもアクセスできる。工作のためなら資金も使い放題だという。
・ただ、MI6には、独特のシステムである「ツー・アイド・シーイング」という仕組みがある。エージェントを中心に工作チームを編成する場合、サポートするスタッフの中に必ずエージェントの動きを監視する「ツー・アイド・シーイング」という役割のスタッフが、密かに任命される。「ツー・アイド・シーイング」によって、エージェントの「暴走」や「不穏な動き」を察知しようというのだ。
・現地では、インプラント(協力者)がいて、それぞれいろいろなかたちで私たちをサポートしてくれる。
<恋人との旅行は消されるもとに>
・「常に私たちの活動の基盤にあるのは、MI6の職員が共有する、ゼロトラストという考え方だ。つまり、すべて疑ってかかり、誰も信用しないということだ。それが国際情勢の裏にある世界の常識なのだ。インプラントも信用しないし、同僚も信用しないし、そのほかの職員も信用しない。信用はゼロ。それが原則の姿勢だ」
・でも実態は妻も子供もダメ、特定の恋人も作ってはいけないということになっている。
・それでもどうしても結婚したいスパイがいる。ただ、結婚をすれば、エージェントの仕事からは外され、サポートスタッフに回ることになるのだが、その後にエージェントに復帰することは決してない。定義されていないが、そんな原則が存在しているのである。
<その謎めいたリクルーティング>
・エージェントになったとしても、なぜこんな仕事をしているのか、と冷静に自分を見つめなおしてしまう人もいる。そうなると、あっさり辞めてしまうこともある。最初は国のために働く、エキサイティングだと感じていても、しばらくするとそうでもなくなってくる……それはどんな仕事にも当てはまるかもしれないが。
<なりすましのトレーニング>
・「映画などでは、みんなでMI6の美しいオフィスに集まっているというシーンなどがあるが、ありえない。私がいたころは、イギリス国内だけでも100近い『アジト』があった。表向きは大工の店舗だったり、旅行会社のオフィスということもある」
・もっともいくらMI6のスパイが優秀であっても、そんなに簡単には、肩書から経歴までも別の人間になりすますことはできないものである。準備不足なら、すぐにボロが出てしまい、工作どころではなくなってしまう。
そんな間抜けなことが起きないよう、スパイたちは何ヵ月もかけて訓練を行う。
<ただひたすら待つ>
・以前筆者が取材をしたCIAの元幹部も、CIA局員の仕事は、リポートや書類の作成といった作業がかなりのウェイトを占めると述べていた。情報は集めるだけでは意味がない。それを集約して、インテリジェンスとしてまとめてはじめて、価値を持つ。
リサーチもそうだが、スパイの仕事には忍耐力が必要になると、この元スパイは主張する。
「この仕事は忍耐が重要だ。待つことも多いし、監視で、ターゲットを根気よく見ていることも多い。我慢が必要だ」
<サイバー・ウォーフェア>
・1996年には、MI6がフランスの高度な原子力潜水艦追跡技術を盗んだことが、1998年には過去10年以上にわたり、ドイツ連邦銀行の幹部をスパイとして運用し、コードネーム「ジェットストリーム」という工作で、ドイツの金融政策から欧州経済の動向を探っていたことが表面化した。
身辺調査などをする場合でも、平均すると少なくとも2~4ヵ月、長いと2年もかかってしまうこともあるという。
<ハニートラップ>
・GCHQ(政府通信本部)の関連組織はMI6とも協力しながら、インターネットのデート系サイトなどを駆使してターゲットと「性的な接触」をし、その後にゆすりや脅しをかけていたという。または「性的な接触」をチラつかせながら、ターゲットの男性を陥れるというケースが多く使われている。いわゆる、「ハニートラップ」である。
・ハニートラップとは、女性のスパイなどが色仕掛けで諜報や工作活動を行うことを指す。有名なところでは、イスラエルが進めていた核兵器開発について1986年にイギリスの新聞に暴露した、核技術者のモルデハイ・バヌヌのケースがある。バヌヌは、イギリスでモサド(イスラエル諜報特務庁)の女性工作員によるハニートラップに引っかかり、イタリアのローマで逢瀬するという女性の誘いに乗り、同地で拉致された。まさかその女性がモサドの工作員だったとは思いもよらなかったことだろう。結局、イスラエルに送られ、裁判の末に反逆罪で有罪となって独房に投獄された。
おそらく、いまだに判明していないだけで、日本でもイギリスでも数多くのハニートラップのケースがあると考えられる。事実、ライバル国のハニートラップに引っかかり、今もその国に好意的な発言を繰り返している日本人の要人も存在している。
MI6も、そうした色仕掛けの工作は行っている。
<親友の非業の死>
・ここまで、MI6の実態を見てきたが、彼らの業務内容は人を相手にした諜報活動であり、いわゆる「ヒューミント」である。
<退職後の待遇と誘惑>
・「CIAなら、辞めた翌日から民間企業で働くことができる。局に報告さえすれば自分が勤めていたことも公にもできるし、履歴書にも自信をもって書くことが可能だ。だがMI6ではそういうわけにはいかない。もちろん履歴書にも、諜報機関にいたことは書いてはいけないことになっている」
<実在する「Q」>
・「Q」は、技術テクノロジー部門のトップのことで、「007」にもよく登場する。このトップは、実際にQと呼ばれているという。
・世界には多くの諜報機関が存在する。ほぼすべての国が、国外の脅威から自国を守るために、諜報機関を保持している。
<CIAの力と脆さ>
<年間800億ドルを費やす>
・「朝の5時に目を覚ました大統領が新聞・テレビで流れる重要な情報を知らされていないということがないように、と意識しながら情報をまとめている」
・アメリカには、CIAをはじめ17のインテリジェンス機関が存在する。これらの機関が少なくとも年間800億ドルの予算で、国内外で情報活動を行い、大統領などの政策決定に判断材料を提供する。
<隠された予算と巨大利権>
・CIAの予算額や職員の数は、機密事項として公開されてはいない。ただ、元CIAの職員だった内部告発者のスノーデンは、2013年当時のCIAの予算を機密文書から明らかにしている。それによれば、年間の予算は約150億ドルで、職員数は約2万1500人だ。
<国民の監視が暴走を防ぐ>
・「一度この世界に入ったら、けっして後戻りはできない極秘の世界であり、非常に閉鎖された世界だ。そして、一度足を踏み入れたら、まったく違う視点で世界を見ることになる」
・CIAのようなスパイ機関は、情報を集め工作を実施するのが任務である。それゆえに、その能力は諸刃の剣でもあり、自国内で「暴走」しかねない。民主主義システムは、その暴走を止める役割を担っているとする。
<本当の敵は内部監査という矛盾>
・「閉鎖された秘密主義の世界での活動とはいえ、欧米の情報機関では、すべてはルールと規制によって管理されている」
・「私にとっては敵との闘いではなかったですね。それよりも、内部監査とのやりとりが大変でした。いつも監査部とはやりあっていたのでね。彼らはいろいろと守るべきチェック項目などをこちらに求めてくる」
<虚々実々の駆け引き>
・「表向き、メディアなどでは、アメリカとイギリスはいい関係で、ファイブ・アイズで情報をいつも交換していて仲がいい、と言われている。だが、実態を明かせば、それは完全に嘘だ。諜報機関にはルールがある。非常にシンプルなルールだ」
・「それでも基本的にCIAなどにこちらの大事な機密情報を与えることはなかった。CIAももちろん、私たちに対して同じことをしている。情報は共有しない」
<MI6の痛恨事>
・そこでイギリスが送り込んだのが、MI6のエースで「目もくらむばかりの功績を上げて勲章ももらった情報活動の英雄」のフィルビーというわけだが、その彼がソ連の二重スパイだったのである。アメリカ側のMI6に対する不信感が高まったのは当然だ。
・アメリカとイギリスの間ですら、こうした微妙な関係性が横たわる世界のインテリジェンス・コミュニティの中で、日本がどんな位置付けにあるのか。
「ギブ・アンド・テイク」が常識であるインテリジェンスの世界で、日本のようにこちらから提供できる情報が少ない国には、国外の諜報機関からはいったいどんな有益な情報が提供されるのか、はなはだ疑問ではある。
<暗躍する恐るべき国際スパイ――モサドそして中露へ>
<強くなる以外選択肢がなかった>
・「モサドは、軍事的なインテリジェンスが得意だ。現場からのインテリジェンスを入手するのが非常にうまい。現場に強い。ベストな諜報組織のひとつと認めてもいいだろう」
・「強くなる以外、私たちには選択肢がなかった。それに尽きる。壁際に追い詰められ、何らかの対処をしなければならない。そういう状況下では、クリエイティブになって、解決策を見つける必要がある」
モサドという組織は、わかりやすいほどに目的がはっきりしており、自国の利害のために妥協なく活動してきたスパイ集団だと言える。
<影響力を強めるモサド>
・そして、モサドにはモットーとしている聖書の一節がある。
「賢明な方向性がないなら、人は倒れる。だが助言者たちがいればそこには安全がある」
国家としてどのように国民を導くのか、また、どのように国民の生命と財産を守るのか。政策を立案したり、国家の方向性を決定するには、物事の本質を知るためのインテリジェンスが欠かせないのである。それが世界の常識である。
<徴兵制とリクルート>
・イスラエル軍の人事部門は、すべての若者を入隊前にスクリ―ニングして、チェックする。その際に、秀でた才能のある人材は青田買いをして、軍が学費を負担して専門的な分野で学ばせる。徴兵の時期を変更するようなケースもある。
そんなかたちで毎年1000人ほどの高校生が選抜されて、軍に入る前に軍の意向で大学などに送られている。
<徹底した秘密主義>
・「モサドを裏切って二重スパイになるという話はあまり聞かない。MI6やCIAなどではそういう事件もあるのだが、モサドのエージェントは忠誠心が強いということだろう」
<他者の評価は気にしない>
・当然ながら、他の機関と同様に、スパイであることはモサドの職員も他言できない。ただ少し前から、モサドOBは、自分が元スパイだったことを話しても許されるようになってきているようだ。
<サイバーインテリジェンスをリードする中国>
・現在、国際的スパイ活動も過渡期にある。デジタル技術の普及により、従来のスパイ工作もかたちを変えつつあるからだ。リスクを伴う尾行といった手段も、サイバー攻撃やハッキングなら相手にばれることなくできてしまう。
・中国のMSSは、イギリスで言うなら、国外担当のMI6と、国内担当のMI5、そしてシギント相当のGCHQが一つになった組織である。アメリカなら、CIAと国内を担当するFBI、シギントを担当するNSAとが一緒になったようなものである。
<手玉に取られるトランプ>
・習近平国家主席は、2015年に国家安全法を制定し、国内の統制を強めたが、そこで実働部隊となるのがこのMSSといった機関ということになっている。政府の機関はすべてMSSに協力することが求められている。
<世界に浸透する中国スパイ>
・さらにここ最近も、中国のスパイ工作が世界中で取り沙汰されている。2018年にはMSSのスパイが、ベルギーで米航空会社から機密情報を盗もうとして逮捕され、アメリカに送致されて起訴されている。
・2010年ごろから、中国いるCIAの協力者たちが次々と拘束または処刑されていることが問題視されつつある。その背景には、中国側に機密情報を渡していた元CIAの職員がいたことや、CIAが協力者たちとの連絡に使っていた通信システムがハッキングされた件があるという。これにより、CIAの中国における諜報活動が大打撃を受けたとされる。