日本は津波による大きな被害をうけるだろう UFOアガルタのシャンバラ 

コンタクティやチャネラーの情報を集めています。森羅万象も!UFOは、人類の歴史が始まって以来、最も重要な現象といわれます。

この点について「百万人郷土防衛隊」を整備すれば、相当な自衛隊の増強に匹敵し、自衛隊が郷土の防衛問題に後ろ髪をひかれることなく正規部隊をフルに前線で使用できる体制が整備できると強調している。(1)

 

 

(2023/6/27)

 

 

 

『有事、国民は避難できるのか』

ウクライナ戦争」から日本への警鐘

日本安全保障戦略研究所  国書刊行会  2022/10/10

 

 

 

ウクライナ戦争の教訓から緊急提言――日本に「民間防衛」が必要――

・2022年2月24日に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ウクライナ戦争)は、日本をはじめ世界中に深刻な衝撃を与えました。特に、戦後の平和ボケの中で戦争のことなど全く念頭になかった日本人にとって、その衝撃は計り知れないものとなりました。

 ウクライナ戦争が日本人に突き付けたことは、①戦争が始まれば国土全体が戦場となり、安全な場所などないという現実です。

 また、②民間人を保護することによって、戦争による被害をできる限り軽減することを目的で作られた国際法は安易に破られるという現実です。

 いま、国際情勢も安全保障環境も激変する中で、日本は空想的平和主義から現実的平和主義への大転換を迫られています。

 

ウクライナ戦争では、ロシアは「国連憲章第51条に基づいて『特別軍事作戦』を行う」と述べ、ロシア軍がウクライナ領土に侵攻しました。それをJus ad Bellum(戦争法)に照らして大多数の国家が非合法であると明確に意志表示しています

 ウクライナ戦争では、多数の民間人が犠牲になるとともに、国内外併せて1300万人の避難民が発生しています。このロシア軍による攻撃は、ジュネーヴ条約第1追加議定書52条2項の軍事目標主義を逸脱しています。つまり、Jus in Bello(戦争遂行中の合法性)の考え方に明らかに反しています

 

本書では、特にJus in Belloに違反する民間人への戦争被害をいかに極小化するかについて「民間防衛」というテーマで考察しています。

 

提言の主要な事項は、憲法への国家非常事態及び国民の国防義務の規定の追記、民間防衛組織とそれを支援する地方予備自衛官制度の創設、各地域の国民保護能力と災害対処能力の拡大などです

 

はじめに

・こうした緊張状態が加速する中、2023年2月24日にはロシアがウクライナに軍事侵攻しました。非戦闘員である民間人の犠牲者は日々増加しているとの報道が毎日のように流されています。

 

NPO法人日本核シェルター協会」が2014年に発表した資料によれば、本書で「民間防衛」研究の対象とした米国、韓国、台湾、スイス4か国の「人口あたりの核シェルターの普及率」は、アメリカが82%、韓国(ソウル市)が300%、スイスが100%であり、各国ともに緊急避難場所を確保していますが、日本はわずか0.02%にしか過ぎません

 台湾は、本資料には入っていませんが、100%です。台湾では、全国の公的場所には必ず地下壕を用意することが法的に義務付けられており、年に一度は必ず防空演習も行われています。

 世界各国では、核ミサイルの脅威に対する備えの重要性を認識し、いざという時の避難場所として、核シェルターの整備を政府主導で進めています。しかし、わが国は唯一の戦争被爆国であり、周囲を中国、ロシア、北朝鮮などの核保有国に囲まれているにもかかわらず、核シェルターの普及が全く進んでおらず、議論すら行われていません。

 

・このため、世界の国々は、武力紛争事態において国民の生命及びその生命維持に必要な公共財等を守るために軍隊以外の政府機関及び地方自治体並びに民間組織及び一般国民が参加する、国を挙げて行う「民間防衛」の制度を整備しています。

 わが国においても、遅ればせながら、武力攻撃事態等において、国民を保護するための「国民保護法」が作られ、2004年に施行されました。

 

諸外国の民間防衛を知ろう

諸外国との比較による真の「民間防衛」創設に向けた日本の課題

諸外国の民間防衛を知ることの意義

・その際、日本の唯一の同盟国である米国、日本と同じように中国や北朝鮮の脅威に直面し、かつ自由、民主主義などの基本的価値を共有する隣接国の韓国と台湾、及び「永世中立」政策を採り世界でも最も民間防衛に力を入れているスイスの4か国を対象とする。

 

諸外国における民間防衛の概念

・一般に諸外国では、自然災害及び重大事故に対応する措置を市民保護と称し、武力攻撃に対する被害の最少化を民間防衛と位置付けており、民間防衛こそが軍事行動―国防と密接に連動した概念である

 

民間防衛の歴史的変遷

・戦時に国民を保護する体制を意味するものとしての民間防衛の起源は、欧州における第一次世界大戦時の空襲経験にその緒を見ることができる。

 

民間防衛と市民保護の関係性

・民間防衛と市民保護の関係性をみると、国家レベルの民間防衛が、地方レベルの市民保護の発展を促してきたという各国に共通した特徴をみることができる。

 

「共同防衛」を基本とする米国の民間防衛

アメリカ合衆国憲法

全般

・わが国の現行(占領)憲法の起草に当たって、基礎史料の一つとされたアメリカ合衆国憲法は、その前文で、次頁のように宣言している。

 

 われわれ合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保証し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここにアメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。

 

・なかでも、「…、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、…」の記述は、州政府を束ねる連邦国家が、各州および国民の力を結集して社会全体で国を守ろうとする強い決意を表わしており、それを踏まえて、付帯的な内容が、立法、行政及び司法の各条項に定められている。

 まず「連邦議会立法権限」では、「宣戦布告」、「陸軍の設立」、「海軍の設立」、「軍隊の規則」、「民兵の招集」、「民兵の規律」に関し規定している。

 「大統領の権限」では、冒頭の1項目で「大統領は、合衆国の陸海軍、及び現に合衆国の軍務に服するために召集された各州の民兵の最高指揮官である」と軍の統帥権について規定している。

 

・なお、米国議会は、1950年5月に、それまであった沿岸警備隊懲戒法を含むすべての軍事犯罪に関する法律をまとめた『軍事法典』を可決、施行している。

 以上の他に、連邦議会の権限の冒頭にある徴税の項で、「共同の防衛および一般の福祉のため、租税、(…)消費税を賦課徴収すること」として、税徴収の主要な目的は防衛のためであることを明記している。

 

日本国憲法アメリカ合衆国憲法

日本国憲法の成立過程研究の第一人者とされる米国のセオドア・マクネリー博士の研究によると日本国憲法の前文は、時系列的に、①アメリカの独立宣言、②米合衆国憲法、③リンカーン大統領のゲティスバーグ演説、④米英首脳による大西洋憲章、⑤米英ソ首脳によるテヘラン宣言、⑥マッカーサー・ノートの6史料を基礎として作られた。

 

・すなわち、米国憲法は、連邦法律の執行、反乱の鎮圧及び侵略の撃退を目的とする軍務に服する組織として民兵団を設けることを定め、その招集、編成・武装・規律及び統率に関して規定する権限を連邦議会に、将校の任命及び訓練の権限を各州にそれぞれ与えている。

 その歴史は、アメリカ合衆国の植民地時代に遡る。当時、各植民地は志願者から成る民兵団を結成した。それは基本的に入植民による自警団であったが独立戦争では大陸軍とともに重要な戦力の一翼を担い、また独立後も国内外の紛争・事案にたびたび動員されたことから、1792年民兵法が制定され、究極の指揮権を州に与えた。

 

米国民の「国防の義務」

・国防の義務については、ほとんどの国の憲法に明確な規定がある。しかし米国の場合は、さらに踏み込んで、修正第2条で「規律ある民兵は、自由な国家にとって必要であるから、人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない」と規定し、国民の民兵としての必要性を強調するとともに、武器を保有する権利すなわち武装の権利を保証している点に大きな特徴がある。

 

米国の「武器保有権」と銃規制問題

アメリカでの銃の所持は、建国の歴史に背景があり、アメリカ合衆国憲法修正第2条によって守られているアメリカ人の基本的人権である。

 全米で適用されている銃規制の法律では、銃販売店に購入者の身元調査を義務づけ、未成年者や前科者、麻薬中毒者、精神病者への販売を禁止し、また、一部の自動機関銃などの攻撃用武器の販売を禁止している。

 

・銃販売、保持するための許可証の取得、使用など銃に関する法律は州によって異なり、カリフォルニア、アイオワ、メリーランド、ミネソタニュージャージー、ニューヨークなどの州は銃規制が厳しく、銃の所持禁止区域が設定されている。

 

・しかし、近年、銃乱射事件が劇的に増加し、銃規制強化を訴える世論が高まりを見せている一方、米国社会では銃規制より、自衛のための銃器に関する正しい使い方の教育、情報、訓練の必要性と強化を求める動きも広がっている。

なお、2022年5月に発生した南部テキサス州の小学校銃乱射事件など相次ぐ銃乱射事件を受け、上下両院が超党派で可決した銃規制強化法案にバイデン大統領が署名して6月25日、同法が成立した。本格的な銃規制法の制定は28年ぶりで、21歳に満たない銃購入者の犯罪暦調査の厳格化や、各州が危険と判断した人物から一時的に銃を取り上げる措置への財政支援などが柱となっている。

 

「国家警備隊」あるいは「郷土防衛隊」としての州兵

連邦政府と州政府との関係

・州政府は連邦政府の下部単位ではない。各州は主権を有し、憲法上、連邦政府のいかなる監督下にも置かれていない。ただし、合衆国憲法や連邦法と州の憲法が矛盾する場合には、合衆国憲法や連邦法が優先する。

 

州兵

・州兵は、アメリカ各州の治安維持を主目的とした軍事組織で、平時は州知事を最高司令官として、その命令に服するが、同時に連邦の予備兵力であり、連邦議会が非常事態を議決した場合には、アメリカの連邦軍の一部として、大統領が招集することができる。

 

兵役制度と予備役制度

兵役制度

・米国の兵役制度は、志願制である。

 予備役は、現役の連邦軍および州兵とともに米軍を構成する重要なコンポ―ネントの一つであり、「総合戦力」として一体的に運用される。その勢力は、約80万人である。

 

予備役の目的

・予備役の目的は、戦時または国家緊急事態、その他国家安全保障上必要な場合に、米軍の任務遂行上の要求に応えるため、動員計画に基づいて部隊および人員を確保・訓練し、現役に加え、必要とする部隊および人員を提供することである。

 

予備役としての州兵

民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもつ州兵には、陸軍州兵と空軍州兵があり、連邦と州の「異なる二つの地位と任務」を付与されている。

 

米国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓

憲法前文における「共同防衛」の欠陥

・連邦制を採る米国の憲法は、その全文で、国家の安全を保障するためには、「共同防衛」が重要であることを強調している。この共同防衛では、中央の連邦政府から州・地方政府に至るまで、また軍官民が一体となり、社会全体で国を守る防衛体制が必要であると説いている

 

米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」の欠如

・米国の州兵は、植民地時代の志願者から成る「自警団」としての民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもち、地域の緊急事態等において、大規模災害対処や暴動鎮圧等の治安維持などの主任務に携わっている。

 

・このような、多種多様な任務の急増に応えているものの、自衛隊は前掲の「主要国・地域の正規軍及び予備兵力」に見る通り、その組織規模が列国に比べて極めて小さいことから、本来任務である国家防衛への取組みが疎かになるのではないかとの懸念が高まっている。

 自衛隊は、中国や北朝鮮からの脅威の増大を受けるとともに、ロシアに対する抑止にも手を抜けないことから、本来任務であり国家防衛に一段と注力する必要がある。そのため、自助、共助を基本精神として具現化すべき、米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」が欠如していることは大いに懸念されるところである。

 

予備役制度の拡充の必要性

・予備役は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊沿岸警備隊、陸軍州兵、空軍州兵の各予備役、そして公共保健サービス予備役団の八つから構成されており、その体制は極めて充実している。

 

近年、東日本大震災以降、即応予備自衛官が招集され、また、医療従事者、語学要員、情報処理技術者建築士、車両整備などの特殊技能を有する予備自衛官補の需要も高まっており、この際、予備自衛官制度の抜本的な改革増強が急務である

 

国家非常事態における国家の総動員体制と組織の統合一元化の欠落

日本国憲法には、その根本的な問題の一つである、国家の最高規範として明確ににしておかなければならない「国家非常事態」についての規定も各省庁を統合する体制もない。

 

「統合防衛」体制を支える韓国の民間防衛

大韓民国(韓国)憲法

全般

大韓民国(韓国)憲法は、米国の軍政下にあった1948年7月に制定、公布されたものであるが、その後9回の改正が行われている。

 

韓国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓

日本国憲法には国防及び国民の「国防の義務」についての規定なし

・韓国の憲法は、前記の通り、国軍の保持とその使命並びに国民の「国防の義務」について明記している。また、憲法の規定を根拠に、「民防衛基本法」を制定し、民間防衛体制を整備している。

 一方、日本国憲法は、第9条2項で、「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を謳い、国家の唯一の軍事組織である自衛隊は、憲法のどこにも明記されていない。

 

国民の「国防の義務」に基づく民間防衛体制の欠如

・韓国は、憲法によって国民の「国防の義務」を定め、徴兵制度と民防衛隊を制度化してその目的に資する仕組みを作っている

 わが国の憲法には、国家と国民が一体となって国の生存と安全を確保するとの民主主義国家としてごく当たり前のことが記述されていない。

 

国家非常事態に国を挙げて対処できる枠組みの欠如

・韓国は「江陵(カンヌン)浸透事件」を契機に、国家として適切な対処が行えなかったという反省を踏まえ、「統合防衛法」を制定し、この法律のもと、国防関連諸組織をすべて組み合わせ、網羅して、外敵の侵入、挑発などに一元的に対処する仕組みを作った。

 わが国でも、東日本大震災において、国家として適切な対処が行えなかったことなど多くの問題や課題が指摘された。

 

「全民国防」下の台湾の民間防衛

中華民国(台湾)憲法

中華民国(台湾)憲法は、その「まえがき」で、「国権を強固にし、民権を保障し、社会の安寧を確立し、人民の福利を増進する」ために憲法を制定するとし、国家目標の四つの柱の一つに国防の重要性を掲げている。

 

台湾(中華民国)の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓

全国民参加型の国防体制の欠如

・台湾は、憲法20条で「人民の兵役の義務」を定め、それを基に台湾全民参加型の「全民国防」体制を敷いている。

 台湾は、九州とほぼ同じ面積の領土・領域を守るため、現役を約16万人にまで削減したが、約166万人の予備役を確保しており、有事には現役と予備役を併せて約182万人を動員することができる。さらに、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民の力と自衛・自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護する民間防衛体制を整備して、全民国防の実効性を担保している。

 

民間の力と国民の自助・共助の機能を組織化した民間防衛体制が欠如

・台湾は、「人民の兵役の義務」を背景に、全民参加型の「全民国防」体制を敷き、現役及び予備役を背後から支える民間防衛体制を整備している。 

 その役割は、「民間の力と市民の自衛と自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護し、平時の防災・救援の目標を達成し、戦時中の軍事任務を効果的に支援すること」にある。

 民間防衛体制は、現役及び予備役以外の、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民によって組織化されており、平時の重大災害対処と戦時の軍事任務支援の平・戦両時に備える構えになっている。

 

学校における国防教育の欠如

・台湾では、「全民国防教育法」に基づき、台湾全民に対する国防教育に力を入れ、全民国防を知識や意識の面からも高めている。特に、学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、軍事能力の向上を図っている。

 それに引き換え、日本の国防教育は、あらゆる世代を通じて皆無に等しい状態にある。

 中国は、現代の戦争の本質を「情報化戦争」と捉え、「情報戦で敗北することは、戦いに負けることになる」として、情報優勢の獲得を戦いの中心的要素と考えている。そして、「情報化戦争」においては、物理的手段のみならず非物理的手段を重視し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の「三戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、それらの軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律など他の分野の闘争と密接に呼応させるとの方針を掲げている。特に近年は、サイバー、電磁波および宇宙空間のマルチドメインを重視して情報優越の確立を目指そうとしている。

 

・その際、情報の優越獲得の矛先は、軍事の最前線に限定される訳ではなく、相手国の政治指導者、ソーシャルサイトやメディアそして国民など広範なターゲットへ向けられるため、中国の「情報化戦争」は、一般国民の身近な生活や社会活動、ひいては国の防衛に重大な影響を及ぼさずには措かないのである。

 台湾と同じように、中国の世論戦、心理戦、サイバー戦などの脅威に直面する日本としては、敵から身を守り、敵の侵略を阻止するには、物理的な力と無形の力を組み合わせる必要性に迫られている自衛隊の防衛能力を強化するのは当然であるが、併せて国民が脅威を正しく認識し、防衛意識を高める施策が伴わなければならない。

 そのため、特に学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、自衛隊の活動に関する理解を深め、それに協力して共に支える社会環境の醸成が不可欠であるものの、甚だ不十分な状況と言わざるを得ない。

 

永世中立」を政策とするスイスの民間防衛

スイスの「永世中立」政策」

スイスの「永世中立」政策は、以下述べるように、民兵制の原則(非専業原則)に基づいた「国民皆兵」制度の下、軍隊と民間防衛、すなわち軍民の力を結集した国防努力によって成り立っている

 

スイス憲法

国防及び緊急事態の規定

・スイスは、憲法第58条第1項に「スイスは軍隊を持つ。基本的には民兵制の原則の下に組織される」と規定している。同第2条に、軍隊の主な任務として、①戦争の防止及び平和の維持、②国土防衛、③国内的安全への重大な脅威が生じた場合及びその他の非常事態の場合における非軍事部門の支援の三つを定めている。

 また、同第59条第1項で「すべてのスイス人男性(18歳以上)は、兵役に従事する義務を負う。非軍事的代替役務については、法律でこれを定める」と規定している。

 

憲法の枠を超える緊急事態に対する措置

・過去、2度の世界大戦の際、1914年と1939年に、いわゆる「全権委任決議」により、連邦議会は、連邦参事会に無制限の全権を委任し、憲法秩序の一部の変更を認めた。

 

民間防衛

スイス憲法の「民間防衛」に関する規定

・スイス憲法では、第3編「連邦、州及び市町村」第2章「権限」第2節「安全、国防、民間防衛」の第61条(民間防衛)において、以下の通り、民間防衛について定めている。

  • 武力紛争の影響に対する人及び財産の民間防衛についての立法は、連邦の権限事項である。
  • 連邦は、大災害及び緊急事態における民間防衛の出動について法令を制定する。
  • 連邦は、男性について民間防衛役務が義務的である旨を宣言することができる。女性については、当該役務は、任意である
  • 連邦は、所得の損失に対する適正な補償について法令を制定する。
  • 民間防衛役務に従事した際に健康被害を被った者又は生命を失った者は、本人又は親族について、連邦による適正な扶助を要求する権利を有する。

 

シェルター(避難所・設備)の整備

スイスでは、国民の95%を収容できるシェルターが整備済みであり、旧型のシェルターを含めると100%程度に達する。

 また、一戸建ての家を建てる場合は、地下に核シェルターを設置することを義務付けている。

 

「民間防衛」から「市民保護」へ

背景・経緯

・欧州を主戦場とした東西冷戦が終結し、欧州を中心に、民間防衛の課題が武力紛争対処から災害対処へと重点を移行した。従来の民間防衛は、全国民にシェルターを用意するなど市民保護の概念が強調されるようになった。

 

市民保護組織(民間防衛隊)

・緊急事態に際し、警察、消防、公共医療サービス、技術サービスと協力して住民のシェルターへの避難誘導、救助等を実施する。

 

市民保護組織(民間防衛隊)は、民兵制の原則(非専業原則)に基づいた「国民皆兵」制度の下に作られている。

 スイス人男性は、18~30歳まで兵役義務があり、兵役義務を終えた男性は40歳まで民間防衛に従事する。40歳以降は各人の自由意志となっている。

 

スイス政府編『民間防衛』に見る民間防衛の精神

・東西冷戦時代に作られたスイスの政府編『民間防衛』は、冷戦終了とともに廃刊となっているが、その精神は、CPS(市民保護システム)の中に脈々と受け継がれている。

 

スイスの民間防衛体制が示唆する日本への主な参考事項

・スイスの場合は、永世中立国としての国家政策の下、国防や民間防衛の努力がなされており、日米安全保障体制下で安全保障を構築している日本とは大きく異なる。よって、直接的に教訓にはなりにくいものの、民主主義国家としての国防の在り方には大いに参考にすべきことがある

 

・スイスの「永世中立」政策は、民兵制の原則(非専業原則)に基づいた「国民皆兵」制度の下、軍隊と民間防衛、すなわち軍民の国防勢力いかんによって成り立っている。

 スイスの安全保障は、軍民の国防努力いかんによって左右されるとの考えが、「民間防衛」の冒頭に記述されている。軍が国防の責任をもっているのに加えて、民間人及び民間団体組織にも国防努力の必要性が認識されているのである。

 

また、スイスは、国民のほぼ100%を収容できるシェルターを整備済みである

 わが国も、大規模災害や武力攻撃事態などの場合には、国民を安全な場所に避難誘導することは避けて通れない最重要課題であり、核攻撃にも耐えうる避難所と必要な設備の整備を義務化することは喫緊の課題である憲法改正には主権者である国民の認識が進むことが必要であり、それには時間がかかることが予測される。

 

マルチドメイン作戦を前提とした民間防衛のあり方

マルチドメイン作戦とは

・現代における戦いは、新たな領域(ドメイン)に拡大した「マルチドメイン作戦」として戦われることが明確である。そして、領域の拡大が平時と有事の区別を一層曖昧なものとし、いわゆるグレーゾーンでの戦いが常態化してきている。

 

「グレーゾーンの事態」と「ハイブリッド戦」

いわゆる「グレーゾーンの事態」とは、純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を端的に表現したものです。

 

・いわゆる「ハイブリッド戦」は、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法であり、このような手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いることになります。

 

・これからの我が国のあるべき民間防衛という概念では、平時からグレーゾーン事態そして有事を通じて展開されるマルチドメイン作戦によって引き起こされるであろう脅威から防衛することも視野に入れるべきである。

 

中国・ロシアによるマルチドメイン作戦型の脅威

中国のマルチドメイン作戦

・中国では、日米などが新たな戦いの形として追求しているマルチドメイン作戦という言葉は使用せず、それに相当する概念を「情報化戦争」と呼んでいる。

 

・そして、「情報戦で敗北することは、戦いに負けることになる」として、情報を生命線と考えるのが中国の情報化戦争の概念であり、そのため、電磁波スぺクトラム領域、サイバー空間及び宇宙空間を特に重視して情報優越の確立を目指すとしている。

 

ロシアのマルチドメイン作戦

・ロシアは、自らはマルチドメイン作戦あるいはハイブリッド戦という言葉は使用していないが、2014年にプーチン大統領が承認した「ロシア連邦軍事ドクトリン」の概念、いわゆる西側諸国の考えるマルチドメイン作戦及びハイブリッド戦に該当する。

 

・改めてロシアを見ると、実際に国家に対する破壊妨害を目的とした初めてのサイバー攻撃は、ロシアがエストニアに対して行ったものである。

 

・ロシアは、2014年、ウクライナのロシア離れを契機にクリミア半島併合と東部ウクライナへの軍事介入を敢行した。

 

ウクライナに対するロシアのサイバー攻撃は、紛争の初期段階では、情報の窃取あるいは政府や軍のC4I系統の混乱等を目的としたサイバー戦が主であり、一般国民の目に触れる攻撃は見られなかった。

 

中国・ロシアのマルチドメイン作戦による脅威

・これまで、中国やロシアのマルチドメイン作戦について述べてきたが、両国が日本や日本人に対していかなる工作活動を行っているか、そしていかなる組織を日本に置いているのかについては、ほとんどの日本人は認識していないのではないだろうか。

 

・なお、北朝鮮については特段説明しなかったが、北朝鮮もサイバー部隊を集中的に増強し、サイバー攻撃を用いた金銭窃取のほか、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられており、中国やロシアと同様に警戒を厳重にすることが必要である

 

宇宙・電磁波空間における脅威――新たな脅威としての高高度電磁パルス(HEMP)攻撃

北朝鮮が使用をほのめかすHEMP攻撃

・高高度電磁パルス攻撃とは、高高度での核爆発によって生ずる電磁パルス(EMP)による電気・電子システムの損壊・破壊効果を利用するものであり、人員の殺傷や建造物の損壊等を伴わずに社会インフラを破壊する核攻撃の一形態である。

 

予想されるHEMP攻撃の効果・影響

HEMP攻撃は、これまで考えられてきた核爆発による熱線、爆風及び放射線による被害範囲を遥かに超える広大な地域の電気・電子機器システムを瞬時に破壊し、それらを利用した社会インフラの機能を長期間にわたり麻痺・停止させ、社会を大混乱に陥れる。

 

・いずれにしても、万一、HEMP攻撃があれば、国家としての機能が麻痺する可能性が極めて高く、国民一人一人がこのような脅威の存在を認識し、自ら避難し、避難生活等では自助及び共助によって命を守る行動をとらなければならない。

 

マルチドメイン作戦を前提とした民間防衛のあり方

・こうしたグレーゾーン事態は、明確な兆候のないまま推移し、被害発生時点では一挙に重大事態へと発展するような重大なリスクをはらんでいる。

 

有事対応型の法律からグレーゾーン段階で対応しうる法律体系へ

・こうしたニーズに応えるには、現行国民保護法では対応が困難であると言わざるを得ない。マルチドメイン作戦による脅威に対応しうる組織編成を盛り込んだ法律を制定するか、現行の「国民保護法」を全面的に改定するべきである。

 

国民に精神的な安心感を付与できる体制構築

・つまり、今後は、マルチドメイン作戦により国民がパニック状態に陥った状況、もしくはパニック状態に陥ることが予測される状況を想定し実効性のある対処法を確立しなければならないのである。

 

国を挙げた対応ができる組織体制の整備

・しかし、各省庁の縦割り行政では、効果的・実効的な対応は期待できないので、その弊害をなくし、政府が総合一体的な取組みを行えるよう、行政府内に非常事態対処の非軍事部門を総括する機関を新たに創設することが望まれる。

 

・このように、国家非常事態における国家防衛や国民保護、そして重要インフラ維持の国土政策、産業政策なども含めた総合的な対策を、いわば「国家百年の大計」の国づくりとして、更には千年の時をも見据えながら行っていくことが、わが国の歴史的課題である。

 

都道府県知事直属の民間防衛組織創設

民間防衛組織創設の必要性

・こうした国土防衛事態における住民避難は、強制力を伴わないために緊急性に欠け、統一的行動を取れないという致命的な欠陥を露呈する恐れがあり、早晩、国民保護法の改正も必要となろう。

 

自衛隊の役割再考と都道府県知事直属の民間防衛組織創設

・前述の通り、国民保護法は総務省所管(実際は消防庁)であり、敵部隊対処のための自衛隊運用は防衛省である。

 

・特に陸上自衛隊は、災害派遣等で培ってきた地方公共団体との連携や住民との信頼関係から、何が何でも国民保護に万全を尽したいとの思いがあるのは間違いない。

 

・民間防衛の研究については、日本でも過去にその検討がなされたことがある。それは、予備役の在り方を通じた検討であり、この研究は民間防衛を研究するにあたり極めて重要な先例となるだろう。

 

戦後の予備役制度と民間防衛組織としての郷土防衛隊創設の検討

検討の経緯

・わが国において、正規兵力を補完する予備兵力や郷土防衛隊等の民間防衛組織の必要性が問題提起されたのは、1953年8月に駐留米軍が「戦闘警護隊」の創設を勧告した吉田内閣時代にさかのぼる。

 

・昭和28年、吉田内閣の木村保安庁長官は、「民間防衛組織」建設の必要性について言及した。

 

・昭和29年8月、防衛庁長官は砂田重政氏に交替し、同長官は郷土防衛隊構想を積極的に推進した。「国民総動員による国民全体の力によってのみ防衛は成り立つ」と述べ、予備自衛官制度と並ぶ自衛隊の後方支援と郷土防衛を担う組織としての郷土防衛隊構想を掲げ、地域社会の青年壮年を対象にこれを組織する必要性を説いた。同時に、予備幹部自衛官制度の検討を指示した。

 

・他方、郷土防衛隊について、砂田防衛庁長官は昭和30年9月、「自衛隊の除隊者ではなく、消防団青年団をベースとした民兵制度を考えている」と述べた。

 

・同年10月、防衛庁は、郷土防衛を目的とし、非常の際、自衛隊と協力して防衛の任に当たる「郷土防衛隊設置大要」を決定した。

 

・また、同じころ、「屯田兵」構想が持ち上がり、昭和31年度予算で正式に予算化された。自衛隊退職者を北海道防衛のための予備兵力として有効活用しようとするもので、1人10町の耕地を与えて入植させる計画であった。しかし、応募者が少なく立ち消えになった。背景には、戦後の経済復興が軌道に乗り、国民所得も戦前の最盛期であった1939年の水準に回復し、屯田兵の魅力が高まらなかったことが挙げられる。

 

自民党内部でも再検討を要求する声が強くなったが、旧自由党系は時期尚早として郷土防衛隊構想に消極的であったこともあり、郷土防衛隊設置大要は、事実上白紙還元された。

 

わが国防衛力の一大欠陥は、第一線防衛部隊並びに装備に次ぐ背景の予備隊またはその施設の少ないことである。予備自衛官3万人は余りにも少ない。

 

この点について、「百万人郷土防衛隊」を整備すれば、相当な自衛隊の増強に匹敵し、自衛隊が郷土の防衛問題に後ろ髪をひかれることなく正規部隊をフルに前線で使用できる体制が整備できると強調している

 

自衛隊予備自衛官(予備役)制度の現況

・戦後、わが国は、警察予備隊発足当初から、終始一貫して志願制を採用してきた。その基本政策の枠組みの中で、わが国の予備役制度は、1954年の自衛隊発足と同時に予備自衛官制度として創設された。

 

陸上自衛隊のコア部隊

陸上自衛隊の組織の一つで、平時の充足率を定員の20%程度に抑えた、部隊の中核要員によって構成された部隊のこと。

 

第3章<政策提言 民間防衛組織の創設とそれに伴う新たな体制の整備

国、自衛隊地方自治体および国民の一体化と民間防衛体制の構築

国の行政機関

・国家防衛は、軍事と非軍事両部門をもって構成されるが、その軍事部門を防衛省自衛隊が所掌することは自明である。他方、非軍事部門については、民間防衛(国民保護)を所掌する責任官庁不在の問題があり、その解決と縦割り行政の弊害をなくすために、行政府内に国家非常事態対処の非軍事部門を統括する機関を新たに創設することが望ましい

 

自衛隊

・「必要最小限度の防衛力」として整備されている自衛隊は、武力攻撃事態等において、現役自衛官の全力をもって第一線に出動し、主要任務である武力攻撃等の阻止・排除の任務に従事する。

 

地方自治

・各都道府県には、国の統括機関に連接して「地方保全局」を設置し、その下に民間防衛組織としての「民間防衛隊」を置く。

 市区町村には、「地方保全局」に連接して同様の部局を置くものとする。

 

国民

・国民は、それぞれ「自助」自立を基本とし、警報や避難誘導の指示に従うとともに、近傍で発生する火災の消火、負傷者の搬送、被災者の救助など「共助」の共同責任を果たす。また、地方自治体の創設・運用される「公助」としての民間防衛隊へ自主的積極的に参加するものとする

 

 以上をもって、国、自衛隊地方自治体および全国民が参画する統合一体的な国家非常事態対処の体制を構築する。

 その際、わが国の国土強靭化に資するため、国・地方自治体あるいは地域社会において、危機管理に専門的機能を有する退職自衛官の有効活用が大いに推奨されるところである。

 また、各地方自治体と自衛隊の連携・協力関係の一層の強化が求められており、そのための制度や仕組みを整備することが必要である。

 

自衛隊陸上自衛隊)の後方地域警備等のあり方

自衛隊の後方地域警備のあり方については「陸上自衛隊の警備区域に関する訓令・達」の規定を前提として検討する。

 陸上自衛隊の師団長が担任する「警備地区」に、予備自衛官をもって編成され、専ら後方地域の警備等の任務に従事する「地区警備隊」を創設し、配置する。

 「地区警備隊」の下に、各都道府県の警備を担任する「警備隊区」ごとに、「隊区警備隊」を置く。

 

民間防衛隊の創設

編成と任務

・民間防衛隊は、各都道府県知事の下に創設することとし、退職自衛官消防団員など危機管理専門職の要員を基幹に、大学等の学生や一般国民からの志願者の参加を得て編成する。

 

民間防衛隊の創設に必要な人的可能性

一般国民からの公募の可能性

・「自衛隊に参加して戦う」【5.9%、人口換算約748万人】という最も積極的な回答を除くとしても、「何らかの方法で自衛隊を支援する」54.6%、「ゲリラ的な抵抗をする」1.9%、「武力によらない抵抗をする」19.6%を合計すると76.1%となり、人口に換算すると約9642万人の国民が、いわゆる武力攻撃事態に、国・自衛隊とともに何らかの協力的行動を起こす意志を表明している。

 

民間防衛隊を保護する予備自衛官制度の創設

民間防衛隊と自衛隊の部隊・隊員の配置・配属

・2022年2月24日早朝、ロシアはウクライナへの武力侵攻を開始した。国際法では、軍事目標主義の基本原則を確認し、文民に対する攻撃の禁止、無差別攻撃の禁止、民用物の攻撃の禁止等に関し詳細に規定している。ましてや、病者、難船者、医療組織、医療用輸送手段等の保護は厳重に守らなければならないことを謳っている。

 しかし、ウクライナに武力侵攻しているロシア軍は、文民に対する攻撃や民間施設・病院等への攻撃など、いわゆる無差別攻撃を行い、国際法を安易に踏みにじって戦争の悲劇的な現実を見せつけた

 このような事態を想定して、国際法は、民間人およびそれを保護する非武装の民間防衛組織の活動を守るため、自衛のために軽量の個人用武器のみを装備した軍隊の構成員の配置・配属を認めている

 

・民間防衛隊は、都道府県知事の指導監督を受けるものとし、必要に応じて各市町村に分派される。

 各都道府県知事は、「地方保全局」相互の調整を通じて、民間防衛隊が、各都道府県および各市町村において広域協力が行える体制を整備する。

 

「民間防衛予備自衛官」の新設と予備役の区分

・しかし、現行の制度においては、特に、後方地域の警備に充当できる予備自衛官は、ほぼ皆無に等しい。全国の後方地域の警備を行うには、大人数の予備自衛官が必要であり、その勢力の確保が不可欠である。

 さらに、現行の制度に加え、国家非常事態に際して、民間防衛隊に配置・配属し、文民保護の人道任務に従事させるために「民間防衛予備自衛官」が新たに必要であり、併せてその勢力を確保しなければならない

 

おわりに

・米国は、各州および国民の力を結集し社会全体で国を守ろうとする「共同防衛」の強い決意を表明しています。銃の保有権は、建国の歴史である民兵(自警団)の象徴なのです。

 韓国は、外敵の浸透・挑発やその脅威に対して、国家防衛の諸組織を統合・運用するための「統合防衛」体制を重視し、中でも郷土予備軍や民防衛隊が大きな役割を果たしています。

 台湾は、現代の国防は国全体の国防であり、国家の安全を守るには、全民の力を尽くして国家の安全を守るという目標を達成するため「全民国防」体制を敷いています。

 スイスは、「永世中立」政策を国是とし、安全保障は軍民の国防努力いかんによって左右されるとの方針のもと、民間防衛はその両輪の片方となっており、そのため、かつてのスイス政府編『民間防衛』は、次のように国民に問いかけています。

・今日では戦争は全国民と関わりがある。

・軍は、背後の国民の士気がぐらついていては頑張ることができない。

・戦争では、精神や心がくじければ、腕力があっても何の役にも立たない。

・わが祖国は、わが国民が、肉体的にも、知的にも、道徳的にも、充分に愛情を注いで奉仕するだけの価値がある。

・すべての国民は、外国の暴力行為に対して、抵抗する権利を有している。

 

中国の覇権的拡大や北朝鮮の核ミサイル開発によって、戦後最大の国難に直面している日本にとって、今ほど真の「民間防衛」が求められている時代はありません。真の「民間防衛」が整備されれば、国土防衛に直接寄与することになり、同時に周辺国に対する抑止力にもなりうるのです。

 

実際、欧州に目を転じてみれば、2022年2月以降のロシア軍の侵攻により、ウクライナ国民がロシア軍によって虐殺とも言えるような被害が大規模に行われている現実をみて、我々はその教訓をただちに活かさなければなりません

 

 

 

<●●インターネット情報から●●>

Hanadaプラスより引用(抜粋)

2021/10/24

 

 

徹底検証!習近平の「台湾侵攻」は本当に可能なのか? |澁谷司 

 

今年(2022年)2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻した。それ以来、盛んに、台湾海峡危機ウクライナ危機が同列に語られている。本当に中国は「台湾侵攻」を決行するのか、徹底検証する。

 

 

台湾とウクライナの相違

 

台湾とウクライナには、いくつもの相違が存在する。したがって、中国の台湾侵攻とロシアのウクライナ侵攻を別モノと考えた方が良いのではないだろうか

第1に、台湾に関しては、後述するように、米国内法である「台湾関係法」が存在する。ウクライナには、そのような法律は存在しない。

第2に、すでに台湾には米軍が駐屯している。ウクライナには米軍やNATO軍は駐屯していない。

第3に、台湾と中国の間は、台湾海峡で隔てられている。だが、ウクライナとロシアは地続きである。したがって、ロシアはウクライナを攻撃しやすい。

 

第4に、中国にとって台湾は必ずしも安全保障上のバッファーゾーン(緩衝国)ではない。他方、ロシアにとって、ウクライナ(とベラルーシ)は、対NATOとの安全保障上の死活的バッファーゾーンを形成している。

 

「中台戦争」は即座に「米中戦争」になる

 

中国の「台湾侵攻」は、即、「米中戦争」となるのは間違いない(ここでは「米中核戦争」については、両国が“共倒れ”になるので捨象する)。また、中国による「台湾海峡封鎖」も、やはり「米中戦争」となるだろう。なぜなら、基本的に、台湾は米国の「準州」と同じ “ステイタス”(地位)だからである。

 

台湾に米軍を駐在

 

2018年6月、台北市の米国在台協会(AIT)の新庁舎が落成した。総工費は2億5500万ドル(約280億円)である。その建設には、台湾人は一切関わらず、秘密裡に完成した。新庁舎には、すでに在台米軍が駐屯しているが、最大4000人が駐留可能だと言われる。

 

米国が台湾を特別視する理由

 

なぜ、米国はそれほどまでに台湾を特別視しているのか。

まず、第1に、台湾の地政学的重要性にあるだろう。台湾は「第1列島線」(日本・沖縄・台湾・フィリピン・ボルネオ島を結ぶライン)の要所に位置する。同列島線は米国にとって中国「封じ込め」の重要なラインである。

 

第2に、台湾は半導体の重要生産基地である。

 

とりわけ、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)はナノ・テクノロジーで世界トップ企業となった。同社は5ナノメートル半導体を供給している。近くTSMC は3ナノメートル半導体を製造するという。同社は、今後しばらくトップを走り続けるだろう。

第3に、台湾は米国の重要な武器輸出国の一つである。

 

第4に、台湾は李登輝政権下で、蔣経國の権威主義体制から、民主主義体制へと変貌を遂げた。同国は米国の期待通りの理想的な国家となったのである。

 

台湾のハリネズミ戦略

近年、中国側が圧倒的な軍事的優位を確立している。そこで、台湾は非対称戦略であるハリネズミ戦略を採る

イスラエルの防空システムは世界1の密集度を誇っている。台湾は防空システムでは、イスラエルに次ぎ、世界第2位の密集度だという。現在、台湾は、米国から購入した迎撃ミサイルシステムPAC3を72基設置している。

 

ところで、昨年11月、台湾・嘉義空港では約40機で構成されるF‐16V戦闘機部隊の発足式が行われた(その他、台湾軍はF‐16A/B、仏製ミラージュ2000、経国号<IDF>等、合計約280機を保有)。

他方、我が国の航空自衛隊は、戦闘機349機を保有する。とすれば、国土の狭い台湾が日本とほぼ同数の戦闘機を保有していることになるだろう。

 

 

台湾人の高い祖国防衛意識

「台湾が『独立宣言』したが故に、中国が台湾侵攻した場合、台湾防衛のために戦うか」という設問では、「戦う」と回答した人は62.7%で、「戦わない」と回答した人は26.7%だった(「無回答」は10.6%)。

次に、「もし中国が台湾を統一する際に武力を使用したら、台湾防衛のために戦うか」である。「戦う」と答えた人が72.5%、「戦わない」という人は18.6%にとどまった(「無回答」は9.0%)。

 

結局、「中国が武力統一のため台湾へ侵攻する場合、与党・民進党支持者のうち90%が、野党・国民党支持者のうち過半数が『戦う』という考えを持つ」という。

この結果を見る限り、中国の「台湾侵攻」がそう簡単ではないことがわかるのではないだろうか。

 

米海軍少将マハンの金言

米海軍少将だったアルフレッド・マハン(1840年~1914年)は戦略研究家として名を馳せている。特に、マハンは「いかなる国も『海洋国家』と『大陸国家』を兼ねることはできない」と喝破した

 

実際、世界の大国が「海洋国家」は陸で苦戦し、「大陸国家」は海で苦戦している。その失敗例を挙げてみよう。

 

【失敗例1】第1次世界大戦と第2次世界大戦で、「大陸国家」ドイツはUボート(潜水艦)でイギリス等に対抗したが、どちらも敗北した。

 

【失敗例2】第2次大戦前、「海洋国家」日本は中国大陸へ“進出”したが、結局、敗戦に至る。帝国陸軍は強かったが、やはり限界があった

【失敗例3】第2次大戦後、「海洋国家」米国は朝鮮戦争で勝利を収めることができず、またベトナム戦争でも敗れている。

【失敗例4】大陸国家」旧ソ連は、原子力潜水艦を製造して米国に対抗した。しかし、最終的に、ソ連邦という国家自体が崩壊している

 

【失敗例5】21世紀初頭、「海洋国家」米国がアフガニスタンへ派兵したが、20年後の今年、アフガンから撤退せざるを得なかった。

 

近年、「大陸国家」中国が、空母を建造し「海洋国家」米国の覇権に挑戦している。けれども、その試みは、果たして成功するだろうか。大きな疑問符が付く。

 

おそらく、マハンの金言には、経済的側面も含まれているのではないか。つまり、膨大なコストがかかる。したがって、どんな大国でも優れた海軍・陸軍を同時に持つのは極めて困難なのかもしれない。

 

八方塞がりの中国経済

2012年秋、習近平政権が誕生して以来、中国経済はほぼ右肩下がりである。

 

なぜ、中国は経済が停滞しているか。その主な原因は3つある

第1に、「混合所有制改革」が導入されたからである。ゾンビ、またはゾンビまがいの国有企業を生き延びさせるため、活きの良い民間企業とそれらの国有企業を合併している。これでは、大部分の民間企業が“ゾンビ化”して行くに違いない。

 

また、これでは「国退民進」(国有経済の縮小と民有経済の増強)ではなく、真逆の「国進民退」(国有経済の増強と民有経済の縮小)という現象が起きる。習近平政権は、中国経済を発展させた鄧小平路線の「改革・開放」を完全否定したのである。

 

第2に、「第2の文化大革命」が発動されたからである。政治思想(「習近平思想」)が優先され、自由な経済活動が阻害されている。これでは、成長は見込めないだろう。

 

第3に、「戦狼外交」(対外強硬路線)が展開され、中国は国際社会で多くの敵を作ったからである。そのため、経済的にも八方塞がりの状態となった。

例えば、昨年来、習政権がオーストラリアに対して強硬姿勢を取り、豪州産石炭の禁輸措置を行った。そこで、現在、中国は電力不足に悩まされている。加えて、習近平政権が推し進める「一帯一路」構想は「コロナ禍」で行き詰まった。貸付先の「債務国」の借金が中国へ戻って来ない。中国が借金のカタに相手国の湾岸等を租借しても、すぐに利益は産まない。

 

 

中国に味方する国は皆無

 

いったん「中台戦争」が開始されたら、台湾に味方する国々は多い。新軍事同盟である「AUKUS」(米英豪)、安倍晋三首相が提唱した戦略同盟「Quad」(日米豪印) 、機密情報共有枠組みの「Five Eyes」(米英豪加NZ)等のメンバーは、真っ先に台湾を支援するだろう。

 

既述の如く、近年に至るまで、習近平政権は対外強硬路線の「戦狼外交」を展開し、“四面楚歌”の状態にある。したがって、中国に味方する国はほとんどないだろう。

 

したがって、「海洋国家」群の台湾・米国・日本・英国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・フランス+インドVS. 「大陸国家」中国という図式になる。中国共産党は、苦しい戦いが強いられるだろう。

 

人民解放軍の問題

たとえ中台だけで戦火を交えても、中国軍が台湾軍に勝利するとは限らない。

 

「通常、攻撃側は防御側の3倍の兵力が必要である。台湾はおよそ45万人(予備役を含む)の兵力を持つ。もし地形が不利な場合、攻撃側は5倍以上の兵力が必要となる。そうすると、人民解放軍幹部は台湾へ派遣する兵力は、少なくても約135万人、できれば約225万人欲しいだろう」と鋭く指摘した。

 

現在、中国人民解放軍は総数約200万人である。仮に、約135万人の兵力を台湾へ投入したとしても、台湾軍に勝てるかどうかはあやしい

 

孫子』は中国人の行動原理

 

中国の古典で、最も重要な文献の一つは『孫子』である。これを読めば、中国共産党幹部(人民解放軍幹部を含む)の行動様式が、ある程度わかる。

 

孫子の唱える“ベスト”は「戦わずして勝つ」である。

 

そのため、様々な手法で敵を脅すのはもちろんのこと、(1)偽情報を流す、(2)賄賂を送る、(3)スパイを送り込む、(4)ハニートラップを仕掛ける等、あらゆる手段を採る。武力を用いずに敵に勝利する事こそが、孫子の唱えた最高の戦法である。

 

当然、共産党幹部もこの孫子の兵法を熟知している。また、中国が必ずしも「中台戦争」で勝利するとは限らない。そのため、孫子の哲学に沿った戦法を採るのではないだろうか。したがって、人民解放軍が軽々しく「台湾侵攻」を敢行しないと考える方が自然である。

 

 

「台湾侵攻」の模擬演習で6勝48敗

 

だが、中国は、1979年の中越国境紛争以後、40年以上、大規模な本格的戦闘を行っていない。だから、実戦経験に乏しい。せいぜい、近年の中印国境紛争ぐらいだろう。これとて、棍棒で殴り合うという原始的な戦いである。

 

実は、朱日和(内モンゴル自治区にある中国陸軍の総合訓練場)に“台湾総統府街区”の模擬建築物が建造されている。そこで、人民解放軍が「台湾侵攻」の模擬演習を行った。昨年9月、『三立新聞網』の報道によれば、解放軍側が6勝48敗6引き分けと散々な戦績に終わったという。模擬演習でさえ、この有様である。実戦となれば、更に厳しい結果が待ち受けていよう。

 

「アキレス腱」三峡ダムをミサイルで破壊

現在、揚子江三峡ダムは、中国のアキレス腱となっている。ダムは湖北省宜昌市に位置する世界最大の水力発電所で、1993年着工、2009年完成した。着工から完成に至るまでの間に、そのダムの寿命がなぜか1000年から100年に短縮されている完成間際には、10年もてば良いと言われるようになった。

 

2019年、「Google Earth」では、三峡ダムは歪んでいるように見えた。そこで、ダムはいつ崩落するかわからないと囁かれ始めた。その後、台湾の中央大学研究員が、ダムの防護石陥没を発見している。

中国当局は、長江へ大量の雨水が流れ込むたびに、三峡ダムの崩壊を恐れ、上流の小さなダムを決壊させている。そのため、四川省および重慶市ではしばしば大洪水が起きている。

仮に、「中台戦争」が勃発すれば、台湾はすぐさま射程1500キロメートルの中距離ミサイルで、三峡ダムを狙うに違いない(台湾島から三峡ダムまで約1100キロメートル)。

台湾がミサイルで三峡ダムを破壊すれば、中国経済に決定的ダメージを与えるだろう(ダム下流の経済は中国全体の40%以上を占める)。もしダムが決壊すれば、下流に位置する武漢市、南京市、上海市は壊滅するかもしれない。また、ダム下流穀物地帯は広範囲に浸水し、ひょっとして、中国は食糧危機に陥るおそれもある。

 

このようなアキレス腱を抱えたまま、中国共産党が「中台戦争」を敢行するとは考えにくい。

 

「中台戦争」が勃発する3つのケース

万が一、中国軍が「台湾侵攻」に踏み切る場合、3つのケース(地域)が考えられる(おそらく、中国は3地域いっぺんに攻撃することはないだろう)。

第1に、中国軍が南シナ海南沙諸島にある太平島・中洲島を攻撃する。この場合、民進党(本土派)の蔡英文政権が、太平島・中洲島を守るのだろうか。一応、台湾が両島を実効支配しているので、とりあえず防衛を試みるかもしれない。

 

第2に、中国軍が福建省の一部、馬祖・金門を攻撃する。馬祖・金門については、現時点で、「本土派」の蔡政権は死守する公算はある。だが、最終的に、民進党政権は馬祖・金門を中国に明け渡す可能性を捨てきれない。そして、中華民国から馬祖・金門を切り離した後、「台湾共和国」の樹立を目指すというシナリオもあるのではないか。

第3に、中国軍が澎湖島を含む台湾本島を攻撃する。この場合、台湾軍は死に物狂いで郷土を守ろうとするだろう。いくら現代戦はミサイル等のハイテク兵器が勝敗を決すると言っても、最後は”精神力”がモノをいうのではないだろうか。

 

他方、多くの人民解放軍兵士は自分とは直接関係のない台湾を真剣に「解放」しようと考えていないはずである。大半の兵士は如何に生き延びるかしか関心がないと思われる。

 

合理的判断ができない共産党トップと偶発的事故

結論として、中国共産党幹部が“合理的判断”をする限り、「台湾侵攻」を決行する可能性は著しく低い。中国の「台湾侵攻」(=「中台戦争」)は即、「米中戦争」となるからである。中国はサイバー戦争・宇宙戦争は別にして、米国との従来型の戦闘・戦争は望んでいないのではないか。

 

ただし、共産党トップが、“合理的判断”ができない場合、「中台戦争」の勃発する可能性を排除できない。

 

その他、中台間の偶発的事故(どちらかがミサイルを誤射する、戦闘機が敵機を打ち落とす等)によって、「中台戦争」が勃発する事はあり得るだろう。

 

澁谷司

© 株式会社飛鳥新社

 

 

 

 

(2022/4/16)

 

 

 

『ロシアを決して信じるな』

中村逸郎 新潮社   2021/2/17

 

 

 

北方領土は返ってこない。ロシア人は狡猾で、約束は禁物だ――著者はこう語る。長年、かの国に渡り、多くの知己をもつ研究者にそこまで思わせるロシアとは、一体、どんな国なのか。誤作動で発射をまぬがれた核ミサイル。日常の出来事となった反体制者の暗殺。世界最悪の飲酒大国。

 

核ボタンはついに押されたのか ⁉

人類は滅亡の日を迎えていたのか

・わたしが入手したロシア語の資料に綴られている文章によれば、1995年1月25日午前9時過ぎのこと……。わたしたちの知らないところで、米露の核戦争がはじまり、人類史上、最悪の危機を迎えていたかもしれないのだ。

 

・この極秘資料によれば、ロシア領土にむかって飛んできている核ミサイルをレーダーが探知。核バッグによって核兵器の自動制御システムを起動させ、ロシア軍は戦闘モードに突入することになったが、なぜかうまく作動しなかったというのである。

 

大統領の補佐官の証言

・「エリツィン大統領がボタンを押すべきかどうか、激しい議論が巻き起こりました。国防相は、ボタンを押すべきだと叫びました。でも大統領は、本当にアメリカがロシアを攻撃するなんて信じられないと躊躇しました

バトゥーリン氏の話が本当ならば、冒頭の資料と合致しない。資料には、核ボタンは押されたが、システムがうまく作動しなかったと記されていた。どちらが、事実なのだろうか。仮に故障していたならば、なんという間抜けなロシア。緊急事態に対処できないロシア。ロシアらしい大失態といえるが、そんなロシアに、世界は助けられたという皮肉。

 

核バッグは故障していたのか

はたして核ボタンは故障していたのか。またはエリツィン氏はアメリカの攻撃を信じなかったのか、いずれにしてもロシア側は行動をとらなかった。そうこうしている間に、ロシアへのミサイル攻撃という第一報から24分後、飛翔体はノルウェースピッツベルゲン島付近に着水したことをロシア国防省が確認した。

 

ロシア外務省の怠慢

・バトゥーリン氏はわたしの目を見据えて、語気を強める。

「そもそも事の発端はロシア外務省にあります。所詮、官僚機関なんです。ロケット発射について大使館がノルウェー政府に確認をとり、その情報を随時、本省に伝えておけばよかったのです。もちろん、外務省から国防省に、情報が正確に転送されていたかどうかは、わかりません。外務省という機関は、国防の危機的な状況ではまったく信頼できません。国家の安全保障という重大な任務は、国防省がしっかり負わなければならないのです。ノルウェー政府にしても、ロシア国防省に直接連絡すべき事案でした

 

平和時こそ危ない

核バッグが故障していたかどうか、その真相は解明できなかったが、いずれにしても平和な時代に勘違いや誤作動で核戦争がはじまる危険性があることを、わたしは身にしみてわかった

 当時、ノルウェー・インシデントは日本ではまったくニュースにならなかった。無理もない話だ。というのも1995年1月17日、ノルウェー・インシデントの8日まえに、阪神・淡路大震災が発生しているからである。犠牲者は6000人を越え、当時、戦後の地震災害としては最大規模であった。ロシアの動向を注視する余裕がなかったのは、当然である。

 

バトゥーリン氏との出会い

・勘違いで恐るべき核戦争を起こしかねない国――。そんなロシアの言動や約束を、わたしたちはどうして信じることができるだろうか。なんとなくきな臭くて、危うい雰囲気が漂うロシア、その内部でなにが起こっているのだろうか。

 

暗殺社会ロシア

毒を盛られた

・秘書ヤールミィシュ氏は、「どの時点でかれが意識を失ったかわからない」と困惑する。BBCモスクワ支局の報道では、ナヴァーリヌィー氏がトイレから出てきてから10分後のこと。男性乗客は「ちょうど9時だったと思います。『乗客のなかに医者はいますか。すぐにサポートしてください』と大声の緊急放送が流れた」と振り返っている。

 

・すぐにオームスク市立第一救命救急病院に緊急搬送され、集中治療室で人工呼吸器がつけられた。ナヴァーリヌィー氏の女性秘書は、トームスク空港内のカフェーで飲み物に毒物が混ぜられた可能性を指摘し、「朝からほかの飲み物はなにも口にしていない」と訴えた。

 ナヴァーリヌィー氏は、プーチン政権を批判する急先鋒としてロシア国内でもっとも著名な活動家である。

 

・補足すれば、2014年にウクライナ領であったクリミア半島を、ロシアがいわば強制的に併合して以降、プーチン氏は80%近い信頼感を維持してきたが、先の世論調査結果では28%に急落している。

 

毒裁国家ロシア

・信頼感の低下に危機感をいだくプーチン政権が、ナヴァーリヌィー氏に毒を盛ったと示唆する報道が相次いだ。プーチン氏が直接指示をしたのかどうか、真相は不明だが、衝撃的なニュースとなって、ロシア国内だけではなく日本でも駆けめぐった。

 

・この毒物が世界に知れわたるようになったのは、先に述べたスクリパーリ氏の暗殺未遂事件であった。ノヴィチョークは無色透明で無臭、そしてVXガスの5~8倍の威力があると推定されている。飲み物や衣服をとおして体内に取り込まれると、呼吸や心拍が停止するなど神経性の障害を引き起こす危険な毒物なのである。

 

毒殺の歴史

・では、ノヴィチョークはこれまでどのように使われてきたのであろうか。

 プーチン政権下で反政府活動家やジャーナリストたちが、不審な死を遂げる事態が相次いでいる。たしかに表現の自由は認められているが、発言のあとの身の安全は保証されていない。かれらの死因が特定されることもなく、たとえ容疑者の氏名が取り沙汰されても、逮捕、さらに立件されずに捜査が立ち消えになったりする。

 

ここでプーチン政権の発足以降、毒物の使用が疑われている主要な殺人事件(未遂を含む)を、以下に記してみたい。

◆FSBの汚職を追求したジャーナリストのユーリー・シェコチーヒン氏(2003年)

◆チェチェ人への人権抑圧を告発したジャーナリストのアーンナ・ポリトコーフスカヤ氏(2004年未遂、2年後に自宅アパートのエレベーター内で射殺)

プーチン氏がFSB長官時代に職員であったアレクサーンドル・リトヴィネーンコ氏(2006年)

◆野党指導者のヴラシーミル・カラー=ムルザー氏(2015年と17年、ともに未遂)

◆反政権派の演出家ピョートル・ヴェルジーロフ氏(2018年未遂)

市民運動家ニキータ・イサーエフ氏(2019年)

◆辛辣な政権批判を展開するコメンテーターのドミートリー・ビィーコフ氏(2019年)

 

特筆すべきは、2006年、当時43歳であったリトヴィネーンコ氏の毒殺である。ロンドン市内のホテルのバーで毒物の入った飲み物(緑茶)を口にしてから数日後、嘔吐がはじまり、頭髪が抜けはじめる。死亡する前日になって、尿から放射性物質ポロニウム210が検出された。ロシアの元情報将校であったリトヴィネーンコ氏が、プーチン氏の指令を無視したことによる個人的な恨みが背景にあるといわれている。プーチン氏による復讐なのだろうか。

 

・2004年のポリトコーフスカヤ氏の暗殺未遂事件も、衝撃的なニュースとなった。プーチン政権によるチェチェン戦争を批判した女性記者は、機内で出された紅茶を飲んで意識不明の重体になった。その後、症状は回復したものの、2年後にモスクワ市内のアパートで射殺された。

 

ソ連時代や権力闘争が激化したエリツィン時代にも、毒殺の疑惑がくすぶることはあったが、プーチン政権が発足した2000年以降、目立って増えているように感じられる。射殺されるのは、稀なケースといえる。

 毒物で神経が麻痺し、被害者は悶え苦しむことになる。一気に息の根を止めるというよりも、苦しめることに犯行者の執念がこめられているように思う。死に至らなかったとしても、毒を盛れば成功というわけだいわば「生かさず、殺さず」の瀕死の状態に追い込む。敵対者への警告や見せしめの意味もあるが、背景には「裏切り者は絶対に許さない」「復讐は名誉ある戦い」というロシアの伝統的な掟があるプーチン政権下で続く事件は、まさに古いロシアの体質を継承している証なのである。

 

・ロシアでは昔から、政治的な陰謀や政敵への復讐のために毒が使用されてきた。古代ロシアでは、貴族が祝宴のテーブルで致死量を超える毒を盛られて召使いに看取られながら死ぬ場面が、絵画として残されている。

 古来、植物由来の強い毒性をもつアルカロイド系の毒が用いられてきた。中世に入ると、ヒ素化合物の使用が主流となった。下痢や筋肉の痙攣といったコレラと似た症状が見られ、20世紀はじめまで広く使用されていた。

 ヒ素が「毒の王様」と形容されたのは、その中毒症状により相手を苦しめるのに効果があったからであろう。すぐに死に至らない毒物として、重宝されたのである。20世紀に入ると、政府機関が化学兵器の開発を進めるようになり、先のノヴィチョークもその流れで誕生した

 

裏切り者への罰としての毒殺は、ふつう、ロシア人の間ではあまり驚かない雰囲気があるのだが、客観的には恐ろしい殺害行為である。

 とくにプーチン政権はロシア愛国主義を前面に掲げており、その風潮のなかで裏切り者への復讐は年々、激しさを増している

 

災難への誘惑

・それにしてもわたしが納得できないのは、ナヴァーリヌィー氏の言動である。プーチン政権からたびたび警告を受けているにもかかわらず、いわば自分の命と引き換えに、果敢に反政府活動を強行しているからである。

 

・ロシアには、社会や人生の闇にとても深い愛着をいだいている人たちがいる。その暗闇は心に影を落とし、一人ひとりの人生と切り離すことができないと考えている。他人の「苦しむ」「悶える」姿に容易に感情移入し、同情するのである。

 ロシア人がそうなってしまう理由の一つは、長くて暗い厳しい冬を耐えているからである。ときにはマイナス40度に下がることがあり、冬至を挟んでの1カ月は、たとえばモスクワでも1日の日照時間は平均して1時間もない。暗くて寒い生活は、ロシア人たちの人生の半分を占めている。暗闇は、もはや生活の一部なのである

 

もう一つの理由は、苦難の歴史にある。13世紀から240年も続いたタタール(モンゴル)の支配やナポレオン、そしてナチスドイツの侵略など、外敵の脅威にさらされてきた。まさに、暗黒の歴史を紡ぎ、戦禍に耐えた。国内に目を向けると、イヴァーン雷帝ピョートル大帝、さらにはスターリンなどの残忍な支配者たちの抑圧や飢饉、飢餓に苦しめられた。

 

・国家にあらがったがゆえに、毒を盛られてしまうロシア人。裏切り者の苦悶を見て、愛国心を高揚させるロシア人。苦しみに魅了されるロシア人。では、ほかにどんなロシア人がいるのだろうか。

 わたしは40年間、ロシア(ソ連)の各地を訪ねてきた。1980年8月に3週間、モスクワとレニングラードサンクトペテルブルク)に滞在したのを皮切りに、渡航回数は100回以上になり、4年間のモスクワ留学も経験した。

 

<「ひたすら祈る」――魔窟からの脱出

古いロシアが生き続ける

・わたしは40年間、ロシア(ソ連)人とつきあってきた。いまから振り返っても、シェレメーチェヴォ空港で受けた衝撃は生涯、忘れられない。

 

最悪の事態、スーツケースの紛失

・毒殺など暗殺事件が頻発するロシア………。そんなロシアを舞台に、私はロシア人を睨みつけながら地団太を踏んだ。2014年10月11日のモスクワのシェレメーチェヴォ空港での出来事だ。

 

・「空港ではスーツケースを預けるときには、鍵をかけないほうがいい。だれかがこじ開けたいと思えば、鍵は壊されてしまうから。旅行の途中でスーツケースが閉まらなくなるなんて、悲惨なことだ。だから、はじめからスーツケースを持ち運ばないのがいい」

 

摩訶不思議の国

・絶望的な事態となった。わたしの経験上、問い合わせのメールをすべての空港に送信したところで、空港職員たちがタグ番号を手がかりに探してくれるとは到底想像できない。たとえ身近な場所にスーツケースが放置されていても、確認しないに決まっている。

 

一つの手荷物を発見できた

・「二つのスーツケースのうちの茶系のものが、いまターンテーブルのうえをぐるぐる回っているそうです。安心してください」

 

・「あなたのもう1個のスーツケースを発見しました。チターの空港にあります。あなたのスーツケースだけが、飛行機に積み忘れられたようです。あすの午前8時30分にシェレメーチェヴォ空港に到着する便で運ばれてきます」

 

最後は祈るのみ

・はずんだ声が響く。ドモジェードヴォ空港でスーツケースを発見すると同時に、もう1個の連絡が入るのもロシアらしい数奇な運命といえる。先ほどまで悲嘆にくれていたのに、いまでは歓喜に震える自分に、もう一人の自分があきれ返っているような気がする

 

倒錯する日常生活

空回りのロシア

・どんよりと曇った寒空のモスクワ市……。2013年3月8日のことである。3月は、1年中でもっとも不快な時期だ。真冬に路面を覆っていた雪男が溶けはじめ、雪に代わって雨が降り出す。車道も歩道もぬかるみ、長靴が泥水でひどく汚れてしまう。防水が不完全だと、水が靴のなかに染みて、靴下がびっしょり濡れてしまう。足が冷えて、もう最悪だ。

 

数字が無意味でめちゃくちゃ

・友人のアパートを訪れて驚くのは、エレベーターのかごのなかにある「行先階ボタン」の配列がめちゃくちゃなことだ。

 

・ロシアの統計によれば、失業者は若者に多く、2017年9月時点で、20歳から24歳までの失業者は13.9%、15歳から19歳にいたっては、25.7%に達する。

 プーチン政権が発足してから2020年で丸20年もなるが、すでに指摘したように反政府活動家が逮捕されたり、毒殺されたりし、辛辣に社会批判を繰り広げる250人のジャーナリストが不審死を遂げているという情報もある。

 

ロシア人のいないところが「いいところ」>

・「ロシアは予見できない国です。予想だにしなかった不思議なことが突然起きたり、ときには他人の悪意による行いで、生活が歪められたりします。思い通りにいかないことばかりで、他人への期待はいとも簡単に裏切られてしまいます。だから、ロシアでは、あなたはびっくりしたり、失望したりすることばかりに見舞われます。そのため、逆にいえば、人間の倫理や善意を問う文学や哲学思想が多くなるのです

 ロシア人たちは、絶望的な社会で生きているのだろうか。どんな気持ちで暮らしているのだろうか。トミートリーは、苦笑いしながら、こう言い放った。

結局、わたしたち(ロシア人)のいないところが、いい場所なのです

 

・「外国に移住したロシア人で、後悔した人はいないでしょう」現在、ロシア国籍を有し外国に住む人は約250万人に達する。ビジネスだけではなく、外国の大学で学ぶ若者も含まれている。

 

決して信じるな――ロシア人は嘘八百

騙されやすい人を狙え

・「相手を信じやすく、騙されやすい人は、すぐにロシア人の格好の的となり、騙されてしまう。このタイプの人間には、嘘の約束をするのが一番だ。逆に、頑なに相手の要求を拒否する人よりもずっと扱いやすい。だって嘘だとわかっても、相手は『そんなはずはない。なにかの誤解でしょう』と勝手に信じ込んでくれるからね。だから、ロシア人はどんどん嘘の約束を重ねていけばいいだけのこと。実際には何も実行しなくてすむし、失うものはないので、こんな楽な相手はいない

 

嘘に嘘を重ねるのがロシア流

・わたしとミハイールはそのとき、北方領土交渉の行方について会話をしていた。領土問題の詳しい経緯を知らない友人は当初、歴史の複雑さのあまり、頭を抱えてしまった。かれは一息ついてから姿勢を正し、わたしの方に身を乗り出していったのが、先の一言だった。日本は、ソ連、そしてロシアに騙されているのだろうか。

 嘘の約束を繰り返すやり方が、ロシア人の交渉術といわんばかりに得意気な表情をミハイールは見せる。

 

・どんなにお人好しといっても、最後には不信感を抱き、交渉への熱意を消失させるはずだ。しかし、ロシア人は嘘がばれてしまっても「悪いのは嘘をついた自分たちではない。気づいた相手に非がある」と開き直る。ロシアの流儀は、交渉のはじめに嘘をついておく、つまり、嘘から交渉をスタートさせるというものだ。

 

領土問題という悲劇

・ロシアに代わってまともな人たちを隣国に据えたいと願っても、ロシア人は「たしかに自分たちがいないところがいいところだ」と一笑にふすだけだ。ロシアは、本当に罪深い国なのだ

 

四島一括返還が本筋

・それにしても領土交渉が進展しているのかどうか、いっこうに定かではない。わたしのいう「進展」とは、ロシアが北方領土を返還する流れのことだ。ただ島の返還といっても、「二島」でも「二島+α」でもない。わたしにとっては「四島返還」であり、「領土問題の解決」というのは四島の一括返還を意味している。

 

返還が可能なタイミングはあったのか

・経済協力の成果は上がったが、領土は日本からどんどん遠くに去り、領土問題そのものが消滅することになるのではないだろうか。

 

プーチンへの「接待外交」>

・共同経済活動といっても、実態はロシアの法律のものとで行われることになる。つまり、ロシアの国家主権を容認することになる。

 

思いつき外交の弊害

・結果的に、プーチン氏は日本を騙したことになった。約束した2018年末までに、平和条約が締結されることもなければ、それにむけての進展さえもまったく見られなかった。プーチン政権は、いったいなにを考えているのだろうか。

 

ロシアが本音を吐いた

・結局、2018年末までに平和条約を締結することがなかったプーチン政権………。どこまでプーチン氏を信頼してよいか。2019年に入ると、領土問題へのロシア側の姿勢が明らかに変化した。プーチン氏の側近たちが北方領土を支配する正当性を躍起になって主張しはじめた。

 

北方領土の現実を見よ

・それにしても懸念の一つは、歯舞群島の一つひとつの名称が日露間で違うことである。たとえば、貝殻島はロシア語の表記では「シグナーリヌィ島」、志発島は「ゼリョーヌィ島」となっている。

 領土交渉をするにあたって、日本側が返還要求しても、ロシア側は「そのような島は存在しない」と突っぱねることも当然想定できる。

 

領土返還交渉は終わった

・ペスコフ氏の口からは、「平和条約」や「領土交渉」という文言は一切出てこなかった。もうロシアを信じて領土交渉をするのは、やめた方がよいのではないだろうか。

 

「偽プーチン」説の真相

悪魔に魅了されたロシア人

・ふつうのロシア人は信仰心が篤く、全人口の7割ほどがロシア正教会の信者といわれている。残りの人びともイスラム教、仏教、さらには土着のシャーマニズムを信仰している。

 しかし、ことばでは神や仏の恵みを感謝するのに、心底では悪魔が大好きという人もいるようだ。

 

飲まずにはいられない――世界最悪の飲酒大国

シベリアとは

・シベリアは、世界最大の国土面積を有するロシアの57%の広さを占める。980万平方キロメートルの大きさは、ほぼアメリカと同じだ。

 

「シベリアのパリ」

バイカル湖の南西岸のリストヴァーンカ村から北西60キロのところにイルクーツク市がある。1661年にコサックが城塞を築き、その後は中国との貿易と採金業で栄えた。

 その一方で、西欧流の彩りを添える街並みを形成した。意外と知られていないが、この町は「シベリアのパリ」の異名を誇る。

 

大平原のなかの虚しさ

・ザラリー駅で下車したのは、そこから南100キロほどの森林地帯に、東欧からの流浪の民ゴレーンドル人の村を訪れるためである。

 先祖はもともと1569年に誕生するポーランド・リトニア共和国内を放浪していたが、17世紀初頭にポーランドの伯爵によってブーク川沿い(現在のベラルーシポートランド国境付近)に集められた。1795年のポートランド分割で、かれらの地はロシア領土に併合された。1906年のストルィピンの農業改革で農民は自由に農村共同体から離脱できる権利を付与され、ゴレーンドル人たちは土地を求めてシベリアの今の奥地に移り住んできたというのだ。以来、森の中にひっそりと暮らしているという。

 

極上ウォッカの出番

ウォッカはロシア国内で広く飲まれる蒸留水であり、ときにはロシアの文化を育み、民間療法に利用されるなど、ロシア人の生活に大きな影響をあたえてきた。

 

ウォッカの起原についてはいろいろな説があるが、薬用酒としてその名前が登場するのが1533年、一般にアルコールとして認知されたのは17世紀に入ってからだ。

 

ウォッカの飲み方

ウォッカは「飲み込む」のではなく、「放り込む」。味わいを堪能したり、香りを楽しんだりする必要はない、といわんばかりだ、ちびちび飲むのも、ご法度だ。

 

ビンから絞り出すほどに

・「この一滴が、極上の美味しさなのだ」 どうやら、ウォッカの味わいは、最後の一滴に凝縮しているようである。

 

警察官は「伝説の人」>

・飲酒運転は、ロシアの法律では初犯の場合、3万ルーブル(約6万円)の罰金、そして免停は最大2年に及ぶ。それを見逃す代償に、警察官が法外な賄賂を要求してくるかもしれない。ロシアの警察官は、反社会勢力と揶揄されるほど、人びとに怖がられている。わたしの懸念を伝えると、かれはこう開き直った。

「心配するなよ。シベリアの平原には、警察官なんて働いていないからだ。だって人間が住んでいないからね。警察官なんて出会ったことがないし、伝説の人だと思っている」

 

・ロシア国土の大部分を占める森林地帯、そのなかで暮らすロシア人にとってウォッカは欠かせない自己確認のための「神聖な水」なのである。ウォッカの語源は、「ヴァダー(水)」だ。2020年のアルコール飲料の消費量を見ると、ウォッカは全体の51%を占めており、ビールとワインを圧倒している。ウォッカの一人当たりの年間消費量を国別で比較すると、ロシアは世界一位の13.9リットル。

 

オイルとウォッカ

・当時のロシア経済は、まさにバブルの絶頂期を迎えていた。ソ連時代を含めてロシア人の多くがはじめて資本主義の怒涛に飲まれ、その栄華に酔いしれていた。

 

たしかにプーチン氏が大統領に就任した翌年の2001年以降、町の様相が大きく変わった。GDP成長率は本格的な上昇局面に転じ、2006年には前年比で8.2%を記録している。とはいっても、ロシアが新しい産業を育成し、自力で経済大国にのし上がったというわけではない。

 世界的なオイル価格の上昇が、大きな要因となったのである

 

・7年間で5倍近くにまで跳ね上がったのだ。ロシアの輸出高の7割が、天然資源関連で占められる。いわば「毎日、宝くじに当たる」かのように外貨収入が激増した。このようなオイル価格の上昇を招いたのは、石油需要の増大と投機マネーの流入である。だから、ロシア経済の繁栄は世界の資本主義経済に依存しているといえる。

 

ロシアはヨーロッパなのか

・だが、赤の広場で出会った先の老人は、バブル経済に踊るロシア人の浅はかさを見透かしているかのようだ、ロシア人にとって大切なのは、ロシア経済を潤すオイルなのか、それとも伝統的なウォッカなのか。

 いわば、資本主義を奉じる「欧米」と「ロシア」のどちらの価値観をロシア人は選択するのか、迫っているようだ。両者の選択は19世紀以降、ロシア人が繰り返し思い悩んできている本質的なテーマである。ロシアはヨーロッパの近代化に追随する道を歩むのか、それともロシアの独自性を追求するのか。

 

・欧米と古いロシアの間の選択を迫られるロシア人の辛い心情を察したのか、モスクワの商店では、オイルのドラム缶を模したアルミ容器に入ったウォッカが販売されるようになった。商品名は「オイル」、価格は4122ルーブル(8244円)だ。酒の販売コーナーにオイル缶が所狭しと並べられているのを見たときは驚愕した。

 

祖国を愛せないロシア人の悲哀

ロシア人の根本的な不幸

・「ロシアを愛するのは罪なことですが、でもロシアを愛さないと犯罪になるのです……。現実のロシア社会はあまりにも理想からかけ離れており、惨憺たる現実にあきれ果てています。改善しようという気持ちも消え失せています。権力者はつねに、不満を募らせる民衆の言動を警戒しており、さまざまな方法で社会の動向を監視し、わたしたちに愛国精神をもつように強要しているのです

 

・しかし、祖国を露骨に嫌うという態度は、プーチン政権が推進するロシア愛国主義に抗することになる。反政府運動に参加すると、警察署から職場に通報され、上司からハラスメントを受けることは日常茶飯事のようである。退職を迫られたり、ときには、難癖をつけられて刑罰に処されたり、毒を盛られる危険もあったりする、とタメ息をつく。

 

おんぼろバスでの喧騒

・少し補足するならば、ロシアの離婚率は世界でトップクラスだ。2002年には離婚率は84%に達した。原因はアルコールと麻薬が41%、狭い住居環境が26%となっている。

 

再起不能のロシア

・喧騒を目の当たりにして、ロシアの知人たちがわたしになんども諭してきた言葉が、思い起こされた。まさに現実に起こっている光景にぴったりなのである。

ロシアは、将来に何が起こるかを推測できない国です。信じられないようなことが突然起こったり、ときには人間の悪意で生活がゆがめられたりします。思いどおりにいかないことが多く、期待は簡単に裏切られてしまいます。だからあなたはずっと、そんなロシアに困惑していくことでしょう」

 

・「わたしたちが予測不能の国に住むことになってしまったのは、過去からなにかを学び、それを将来に生かしたり、未来を予測したりしなかったからです。悪意、絶望、怒り、幻滅、恥辱という人間の感情によって歴史がゆがめられてきました」 

ロシアは一見、再起不能のように感じられる。

 

・車内のドタバタを見つめながら、隣の女性がそっとささやくのをわたしは耳にした。「神様! わたしがロシアに生まれたのは、なにかの罪の代償なのでしょうか。前世でなにか悪いことをしたからでしょうか

 哀愁に満ちた言葉に、わたしは嘆息してしまった。

 

それでも「ロシアは偉大」なのか

・本章の冒頭で、友人が打ち明けた「ロシアを愛するのは罪なこと」という煩悶は、心情としては理解できる。ここまで混沌として無秩序な祖国に愛着をいだくことはむずかしいだろう。だがそれにしても、「ロシアを愛さないのは犯罪」にはなるのだろうか。

 近年、プーチン政権はたしかにロシア愛国主義を強く打ち出している。

ロシアのクリミア併合に対し、欧米諸国が発動した経済制裁は今日でもロシア経済に深刻な打撃をあたえている

 

政権に批判的な立場の人間は、欧米諸国の反ロシア組織に扇動された裏切り者との烙印を押され、国家主権を侵害する外国の手先と見なされるのであろう。

 すでに述べたように、実際、反プーチンを訴える野党政治家やジャーナリスト、最近ではナヴァーリヌィー氏のような活動家までが身柄を拘束、毒を盛られる殺害未遂事件が相次いでいる。

 

政敵の暗殺事件

・ここで象徴的な事件に触れておきたい。

 2015年2月に起こった野党指導者ボリース・ネムツォーフ氏の殺害である。かれはソ連崩壊後のロシア改革を唱えるリーダーであり、エリツィン元大統領の政権下で副首相を務めた。ポスト・エリツィンの指導者に名前があがるほどの人気者であった。

 

ネムツォーフ氏に対するプーチン政権の忍耐は、2014年に限界を超えた、かれはクリミア併合を強く批判し、さらには2015年2月には、親ロシア派勢力が牛耳るウクライナ東部にロシアは軍事支援していると声を荒げた。

 かれ自身、ロシア軍侵攻の秘密情報を入手したことをほのめかし、状況は一気に緊迫した。欧米派を自認し、プーチン氏と真っ向から対立するウクライナのポロシェーンコ大統領は、ロシアの干渉を強く非難しており、プーチン政権にとってネムツォーフ氏はウクライナ政権を支援する裏切り者となったのだ。

 ロシア政府は表向き、ロシア軍の侵攻を否定し、個人の判断で、いわばボランティアとして義勇兵ウクライナ東部で活動しているにすぎないと発表した。ロシアは民主国家であり、私的な行動を制限することはできないといわんばかりであった。

 ネムツォーフ氏は2015年2月27日の深夜、クレムリンに隣接する橋を歩いているとき、背中から銃弾4発を浴びた。

 

ネムツォーフ氏の殺害でわかったのは、ロシア領土の拡大をはかるプーチン政権を批判するのは危険なことだということである。ロシアを愛さないのは犯罪者になるどころか、命の危険にさらされてしまう。

 

プーチン氏は終身大統領

・2000年以降、最高指導者として君臨するプーチン氏は一般民衆の言動にも疑心暗鬼となっている。2020年7月1日に実施されたロシア憲法改正国民投票は、民衆にとってプーチン氏への忠誠心を問う踏み絵と映ったようだ。プーチン政権は、投票を監視することで有権者の政治姿勢を探ろうとした。

 

・さらに憲法改正で注目されるのは、プーチン氏の神格化が本格化し、その支配に対してゆるぎのない正当性が付与された点である。ロシアは先祖が育んできた神への信仰で形成され、そして発展していく国家であると明文化された(第67条)プーチン氏が率いるロシアは神の国と位置づけられ、今後はより保守的な色彩の濃厚な国家体制が形成される。ロシア人は、もはや「ロシアを愛するのは罪なこと」と安易に話すことはできなくなりそうだ。というのも、祖国は神の国になるのだから。

 

・ロシアでは現在、無許可の集会に参加すると、30万ルーブル(約60万円)の罰金が科せられる。2012年6月の連邦議会で法案が採択され、従来の最大5000ルーブル(約1万円)から一気に引き上げられた。実質的に、反プーチン集会は封じられてしまっている。

 ロシア人は荒廃した社会に埋没し、ときには政治的な抑圧も受けながら、絶望のロシアに生きることの不幸を嘆く。それでも、祖国の実態とは対極に輝く理想や幸福を追い求めている。

 現実があまりにもおぞましいので、だからこそ生きる意味を真正面から問いかけ、たえず自分とロシアの距離感を探るのである。

 ロシア社会という大きな器のなかで、小さな個人の営みを見つめているロシア人の姿。わたしはかれらを、見守ることしかできなかった。

 

モスクワのわるいやつら――さもしさがあふれる都市

すぐに破棄される約束

・「あなたがホテルに迎えにきてくれたとき、あなたとタクシーを手配したコンセルジュ、そしてわたしの3人で、料金は3000ルーブルと約束しました。たとえ渋滞が発生し、どんなに所要時間が長くなっても、あなたは超過料金を求めないと約束しました。あなた自身が『一切、ありません』と明言した。それなのに……。余計な560ルーブルは、いったいなんの追加料金ですか」

 たしかに560ルーブル(約1120円)は、それほどの金額ではない。だから、わたしはチップだと思ってあきらめることもできる。でも、納得できない。なぜかれは約束を一方的に反故にするのか、その理由をわたしは資したいと思った。

 

約束するにはその条件を確定すること

・わたしがロシア人同士の会話でよく耳にするのは、約束を守らなかったことをめぐるモメ事である。時々というよりも、「とても頻繁」に聞く。人間関係に亀裂が走り、罵り合う場面も、なんども目撃している。

 

善意につけ込むロシア人

・わたしは、いつもポケットに携帯電話を入れており、なにかあれば、日本大使館に通報できるようにセットしている。わたしが「大使館に電話します」と声を絞り出すと、5人の男たちはバラバラに立ち去っていった。こうしてわたしは、窮地を逃れることができた。

 

賛美される他力本願の生き方

・ところで、わたしはモスクワ滞在中、スーパーに立ち寄って食料品を買うことが多い。ただ、ソ連時代から、レジの店員には細心の注意をはらってきた。紙幣を差し出すと、お釣りをごまかすことが多いからだ。買い物客から小銭を巻き上げるのだ。とくに外国人は標的にされやすい。

 露骨に「お釣りがないので、チューインガムをあげるね」と1、2枚を渡されることもたびたびある。

 

・店員のことばを聞いて、わたしはすぐにロシア人が日常しばしば口にするフレーズを思い出した。「他人のポケットに手を突っ込んで生きる

 ロシア人の多くはどんなに努力しても、豊かな生活を手にいれることはできない。富は特定の階層に集中しており、貧者はどんなに努力しても報われることはない確信しているのである。たしかに所得に応じて大きく三つの階層に分けると、「富裕層」は人口の10%を占めるのに対して、「貧しき人びと」は全体の半分に達する。

 ロシア人は、プーチン政権が自分たちの生活を本気で改善してくれることはないと思っている。

 

暴走する親切心

おせっかいな親切心

・もちろん、ロシアにあるのは罪深い面だけではない。これまでに述べてきた側面とは真逆の、親切心に満ちたロシアが存在しているのも事実である。

 意外に感じられるかもしれないが、ロシア人の気遣いは桁外れだ。

 

欧米スタイルを崩すロシア流の親切心

いずれにしても、店員はわたしを相手に過剰な親切心を発揮したのである。このような親切心は、ロシア人に特有の性質によるところが大きい。モスクワのような大都市では、欧米化の波が押し寄せているが、まるでそれを打ち消すかのように、個人を相手に全開になるロシア人の善良さが日常的に姿を見せるのだ。

 

注意はするけど、お好きなように

・「ロシアで生活すると、あれもダメ、これもダメ、窮屈に感じるだけではなく、ロシアに不信感をいだくようになります。たしかに制約が多すぎますが、それでも乗り越える方法があります」

 

<絶望のロシア

<不条理の国

・2019年12月28日、わたしはロシアで新年を迎えるために、成田空港からモスクワ近郊の空港に降り立った。10時間を超えるフライトに疲れていたが、経験上、ここから入国にむけての試練がはじまる。

 空港ビル内の長い通路を10分ほど早足に歩くと、少し広い空間に突き当たる。丸天井から白い蛍光灯の光がそそぐ入国審査場だ。

 

よく観察すると、入国審査には一人当たり3分を要している。わたしは先頭から数えておよそ80番目なので、入国までに240分(4時間)待つことになる。とはいえ急いでいるわけではなく、焦ることもない。モスクワ時間は午後6時まえなのだが、日本時間では翌日の午前0時になろうとしている。たしかに眠気が増してきている。このまま無力感に打ちひしがれて無為の苦しみに悶えながら、時間をやり過ごすのも空虚なロシアらしさを体感できる。

 

状況を突破せよ

・「ロシアで生き抜くのに大切なことは、行列をいかに突破するかの知恵を身につけることです。どんなにたくさんの知識を得ても、りっぱな高等教育を受けても、ロシアではあまり役に立ちません。行列をくぐりぬけるのには、だれかに媚を売ったり、抗議したりするのは無駄です。たとえお伺いを立てても、「ダメ」と一蹴されるどころか、無視されてしまいます。とにかく、やみくもに突進することです。自力で、最悪な状況を突破することです

 

奇異なロシア

・わたしでさえ、同じ場面に出くわすことは二度とないに違いない。一つひとつのシーンに反復性は期待できず、わたしの経験はいわばロシア社会のほんの小さな断片に過ぎないといえる。

 しかし大切なことは、ロシアを訪問すれば、だれでも自分だけの不可解な一コマを体験できるということだ。一過性のオリジナルなロシアに偶然にめぐり合うことができるのだ。ロシアの手荒い歓迎に狼狽することはない。

 

 

(2021/1/16)

 

 

 

『中国の正体』

知ってはいけない「歴史大国」最大のタブー

黄文雄    徳間書店   2020/1/31

 

 

     

本当の中国

歴史、民族、国家までも捏造して侵略を正当化してきた中国孔子司馬遷から始まるウソの歴史から、中国を野蛮な国にした儒教や漢字文明の害毒、何でも統一したがる中華思想の実態まで、目からウロコの「本当の中国」を解説する。

 

世界の中国誤解が中国の増長を招いた

中国人の『中国自慢』はすべてがあべこべ

・中国ほど、外国人が抱く幻想とその実態のギャップが大きい国はないだろう。中国については「悠久の歴史をもつ」「文化大国」「礼儀の国」などと称され、また中国人自身もそのようによく自国を自慢する。

 中国人はよく自国のことを「地大物博」と称する。これは、土地が広くて資源が豊富であるということだ。

 

・最近は、人口が多いことまで自慢の一つとなり、「地大物博 人口衆多」という成句にもなっている。

 中国に人口が多く面積が広いのは確かだが、しかし、資源が豊富だということはウソである。本書でも述べているが、歴代王朝では必ずといっていいほど有限の資源をめぐる内乱が起こり、干ばつや水害などの天災も加わって各地で農民蜂起や反乱が発生、全土を覆う天下大乱となって、王朝滅亡・王朝交代という「易姓革命」が繰り返されてきた。

 その歴史のなかで森林伐採による禿山化、土地の砂漠化が進んできた。現在は砂漠化を食い止めるための植林事業も行われているが、工業化にともなう土地や水質の汚染が広がっており、ほとんど効果がない。

 毛沢東も、かつて中国社会を「一窮二白」(貧しく、無知)と喝破していた。

 しかも、現在は14億人もの「人口衆多」であるために、食糧不足やエネルギー不足が深刻化し、中国は食糧・石油の輸入大国となっている。

 

なぜ世界は中国を見誤るのか

・さすがに現在はそこまで中国礼賛はないものの、首相の靖國参拝を批判したり、日本の防衛力強化に反対したりする一方で、中国による尖閣諸島周辺への領海侵犯には口をつぐむなど、中国の主張に同調、あるいはお先棒を担ぐような日本の文化人やマスコミ、政治家も多い。

 

・また対外的には、国家の支援を背景とした国有企業が、鉄鋼などの過剰生産とダンピングによって国際市場を牛耳り、さらには国からの潤沢な補助金を元手に海外企業を買収し、その独自技術を吸い上げるといったことを、平気で行うようになってきた。

 西欧諸国も、明らかに中国の本質を見誤っていたと言わざるをえない。

 

中国の野蛮に気づき始めた世界

しかしいま、中国という国への大きな疑問が世界で噴出している。ようやく世界も、中国が「近代国家としての常識が通用しない国」だということに気がつきはじめたといえる。

 2018年から始まった米中貿易戦争は、世界経済の秩序を壊す中国の横暴なやり口が、アメリカの安全保障を脅かすまでになったことが大きな要因である。

 

中国に関する「常識」は間違いだらけ

・本書では歴史的に「常識」となってきた中国についての通説や、日本人の一般的な中国理解について、そのウソや誤りを指摘し、日本のメディアや教科書などではまったく伝えられない中国の本性を解説したものである。

 

封印された禁断の中国の歴史

なぜ孔子は大ウソつきか

・中国人といえば、その国民性の一大特徴として、すぐ「ウソをつく」ということがあげられる。このようなことを述べると、すぐに「ヘイトだ」と批判されそうだが、しかし、これは中国に長年暮らしてきた西洋人も記録に残している。

 

現代の中国人は漢人の「なりすまし」

・いまでも少数民族を除く中国人は、みずから「漢人」を名乗る。だが、これは真っ赤なウソだ。後述するが、漢人漢帝国の天下崩壊後、種の絶滅に至っている。

 

・中国政府は、「多党制は各党それぞれ党利党略に私利私欲ばかりだが、中国共産党員はすべて無私、人民専制プロレタリア独裁)の制度がいちばんよい」と教えている。

 

日本も台湾も「中国がつくった」というウソ

・中国は昔から、日本人は中国人の子孫、日本国は中国がつくったと唱えている。尖閣諸島は中国の固有領土であり、「琉球回収、沖縄解放」まで叫びうごめいている。

 それは決して日本に対してだけではない。インドやロシア、ベトナムに対しても、「固有領土」回収のトラブルが絶えないBC(生物化学)兵器や核を使ってアメリカを取り戻し、第2の中国をつくるとも意気込んでいる。

 

地名を克明とした中国の策略

・中国人では「日本人は中国人を侮蔑するために『支那』という侮蔑語をつくった」などとされ、現在では完全に死語となり、タブー用語として言葉狩りが行われているが、それは真っ赤なウソである。

 

中国歴代王朝のウソを暴いた清

・なぜなら、清の盛世は、「人頭税」が史上はじめて減免され、人口が爆発的に増えたのに対し、明の時代は北京宮廷の文武百官から万民に至るまですみずみに朝廷のスパイ網が張り巡らされ、監視下に置かれて、人格から人権まで歴史上もっとも蹂躙された時代だったからだ。「胡化」と「華化」はそこまで違うのだ。

 

なぜ中国はウソばかりなのか

「同」の中国と「和」の日本

・それによれば、「同」を求めることで窮極的に至るのが、すべて同一の価値、いわゆる同倫同俗の世界となる。現代語でいう全体主義である。

 

中国の歴史認識はなぜ間違いだらけか

・しかし日本では、中国のノーベル平和賞受賞者の劉暁波のように、史観の違いによって逮捕・収監されることはない。それは国のかたち、そして国体と国格が違うからだろう。

 

・まして、中国のいわゆる「正しい歴史認識」とは、ほとんど架空のものといってよいものであり、政治目的のプロパガンダばかりである。韓国のほうはただの空想妄想であり、大中華に呼応追随しているだけである

 

・「正しい歴史認識」は逆説で知り、「すべて正しくないと知れ」という見方まで勧めることは、一見して極言や極論にも聞こえる。「なかには正しいこともあるのでは」という考え方は日本人には多いが、しかし、それは甘い。

 

「騙」は中国の特色文化

台湾と海外メディアによる調査では、中国のメディアのニュースを信じるのは1%くらいで、残りの99%は「都是騙人的」、つまりすべてが人騙しだと思っていることが明らかになった。驚くのは、まだ100人に1人は中国のニュースを信じていることである。台湾では、そういうフェイクニュースを「烏龍(ウーロン)記事報道」と称している。

 

中国を蝕む「八毒」と「七害」

・「すべてはニセモノで詐欺師だけが本物(一切都仮、唯有騙子是真的)」という諧謔は、中国一般民衆のあいだの流行語だけでなく、かつて朱鎔基首相(当時)まで口にしたことがある。

 現在の中国では、ブランドものや薬品、食品から映画、音楽のDVDの海賊版のみならず、紙幣、免許証やパスポート、卒業証書など、ありとあらゆるものが偽造される。ニセモノで溢れかえっているのが現状だ

 そんなインチキな商売だけでなく、庶民がいつも利用する市場にも、いわゆる「八毒」が蔓延している。八毒とは、坑(陥れる)、蒙(ごまかす)、拐(あざむく)、騙(だます)、仮(ニセ)、偽(いつわり)、冒(なりすまし)、劣(粗悪品)のことを指す。

 中国社会を蝕んでいるのは「八毒」だけではない。社会全体にはびこっているのが、いわゆる「七害」である。売春、密輸、賭博、婦女子誘拐、麻薬、詐欺、そして黒社会(ヤクザ)のことだ。

 

・詐欺は有効だが、有限だ。しかし、この有限な詐術が多くの人々を躓かせた。ことに善良な日本人は、中国人は詐術にあって騙されても、また懲りずに何度も騙されてしまう。騙す中国人の共犯者が、日本人のなかにいる。

 

「詐欺師だけが本物」の中国では、替え玉受験と学歴詐称、著名学者や教授らの著作や論文剽窃、著書捏造、研究費の詐取などが氾濫している。もちろん、歴史学者は「正しい歴史認識」がむしろ本業にもなっている。そのうえ、エセ学者、エセ学術、ニセ情報が跳梁跋扈し、国際的には、ほとんど信用されていない。信用するのは、日本の進歩的、良心的といわれる文化人だけだ。大学教授、医師、弁護士、記者、文化人などは、中国の民間人からはもっとも軽蔑される人種である。

 

「新聞はウソを伝える」が中国では常識

・私が小学生の時代から高校に至るまで、「新聞」とはウソを書くものというイメージがあった。それが台湾人共有の「常識」だった。大陸から逃げてきた国民党の蒋介石・経国の親子が総統として台湾を統治する時代だったからである。人類史上最長の戒厳令下で、新聞だけでなく、電波禁止法まであった。

 

私が高校を卒業するとき、父・蒋介石の後を継いで総統になった経国は、なおも300曲以上の「禁唱」、つまり歌ってはならない歌曲を発表した。「禁唱」といわれたら、声を出さないか、心の中に秘めて歌うか、あるいはトイレに隠れて小さな声で歌うしかなかった。友人の兄はバイオリンが好きで、たいていの曲が弾けた。だから、共匪中国共産党)のスパイ容疑で逮捕され、獄死した。

 私の青春時代は、謀反の計画を知って密告しないと、謀反者と同罪で捕まるという社会で過ごした。だから、学生と市民は街を練り歩きながら、「匪諜(スパイ)自首」の歌を大きな声で歌い、共匪のスパイが自首することをしかたなく呼びかけたものである。

 密告によって捕まった人物の財産は全部没収された。当局は密告を奨励するため、没収財産の40%を密告者に渡していた。つまり、密告が手っ取り早い金儲けの手段となっていたのである。「密告業者」も百鬼夜行していた時代だった。私も「僥倖な生き残り」といえるかもしれない。

 

・ときは移り、世も変わる。1990年代に入って、私は29年ぶりに祖国の土を踏むことができるようになり、言論も随分と自由になったが、地下放送は300以上もあった。新聞はメディアとして没落しつつあったが、ウソばかりの「烏龍記事」が残り、テレビやラジオもウソとマコトを混同した「烏龍報道」を性懲りもなく伝えていた。「言論」はかたちを変えただけだったのである。

 

・どこの国でも、たいていの女性は男性に比べ、暮らしには敏感だ。1960年代に台湾から欧米へ留学生として出国した女性から話を聞くと、一様に「いままでの人生は『白活』につきる」という声が返ってきたものである。「白活」とは、「ただ生きているだけ」という意味だ

 私のような同時代人からすれば、じつに感無量のひと言である。しかし、「白活」という人生観でさえも、私には贅沢だった。私のある友人は、高校生のときに逮捕され、大学にも進学できなかった。入試のない「牢屋大学」で7年間も学んだのである。「僥倖な生き残り」の者たちは、「白活」以上の悲惨な暮らしだった。

 私たちが生きてきた「中華民国」は自称「自由中国」である。しかし、「自由中国」なるものを僭称していたにすぎない。

 

どういう中国であろうと、古代から今日に至るまで、国がもっとも恐れているのは、やはり「民」である。私の若いころは、「3人以上同行してはならない」という規則があった。もしその規則を破れば、謀反を企てたと見なされかねない。だから、3人以上集まらないように、いつも気にしていた。もちろん、中国にも同様なタブーがある。

 

中国のインターネット警察は、人員300万人といわれているが、いわゆる「五毛党」を含めると、実質はもっと多い。五毛党とは、ネット世論を操作して誘導するために政府に雇われた「ネット工作員」のことだ。ネットで政府寄りの書き込みを一つすると、5毛(0.5元=約6円)もらえるということから、その名がつけられた。

 

世界市場の80%のニセモノが中国産

中国は堂々たる「ニセモノ大国」として有名だ。世界でもっとも知られているのは、「世界市場に出回っているニセモノの80%が中国産」だということだ。ちなみに、その次は韓国産である。何でも「世界一」を好む韓国人だが、いくら頑張っても、ニセモノづくりは中国には敵わない。

 ひと昔前なら、「世界一聡明なのは、大国人(支那人)、韓国はその次」だった。韓国が大国人の次に屈せざるをえないのも当然である。やはり国家規模も人口も中国には劣る。スケールがまったく違うからだ。しかし、ニセモノやパクリに関しては大差がない。大中華と小中華は、大と小の差だけだろう。

 

「ないものはない」とまでいわれる中国である。ニセモノが出ないのは、核兵器と戦闘機や旅客機くらいだ。それ以外はだいたい揃っている。たとえば、戸籍名簿、営業許可証、伝票、領収書などの書類なら、多くの企業や個人が何かと便利なので、よく利用している。ニセ領収書やニセ伝票を使っていない企業に至っては皆無だろう。それは中国企業の慣行ともいってもよい。

 大卒、修士、博士のニセ証明書となると、80元から100元で販売される。ニセの大学卒業証明書には、ご丁寧に4年間の成績表までついているというから驚く。そのサービス精神には頭が下がる。もちろん、購入者の希望に合わせて、どの大学でも大丈夫である。おもに就職活動に重宝されているようだ。ニセ結婚・離婚証明書は、未婚のカップルがホテルに宿泊する際に欠かせない。公安当局の取り締まり対策である。銀行融資の書類としても必要だ

 しかし、こんなニセ書類の氾濫に、もっとも頭を抱えているのが、日本の法務省だろう。ことに中国人留学生の書類審査では、どれがニセ書類でどれが本物か見分けがつかず、お手上げに近い。

 

・ある中国人から、「中国の食品については、中国人でもこわい。だから、日本での生活のなかでも、中国産食品はやたらに買わない」という話を聞いた。私は台湾に行くたびにお土産を買って日本に帰ってくるが、友人からよく「中国製だから買わないほうがいい」と注意されたものだ。

 日本に来ている中国人たちも中国産食品を信用していない。たとえタダ同然の値段であっても買わないのである。ましてや、わざわざ日本で中国産食品を「爆買い」するバカはいないだろう。中国人たちは、自分たちの食品に、こんな評価を下している。

 

 動物を食べたら、激素(生物ホルモン)がこわい

 植物を食べたら、毒素がこわい。

 飲み物を飲んだら、色素がこわい。

 何を食べたらいいのかわからない。

 

ウソから生まれた人間不信の社会

「詐欺師だけが本物」の社会だから、人々はごく自然に「人間不信」になってしまう。当然、信頼関係は成り立たないので、一匹狼のみが生き残る条件になり、さらに自己中が加わって中華思想が生まれたのだろう。また、そういう社会の仕組みから、ウソが生きるための必要不可欠の条件となった。そんなメンタリティが国風となり、国魂にまでなったのである。こういう社会のエートスから言行に現れるのは、ウソにまみれたビヘイビアしかない。

 もちろん、それは現代中国だけではなく、古代からすでに人間不信の社会だから、伝統文化にもなり、「騙文化」とまで呼ばれる。

 

・人間不信の社会だから、「男子門を出ずれば、7人の敵あり」という諺どころではない。「門前の虎」や「後門の狼」がうようよいるのだ。

 それ以上にこわいのは、「門内」である。女子は男子どころではなかった。門を出なくても、門内では骨肉の争いが繰り広げられたからだ。それがいちばんこわい。

 ことに中国社会では、古代から氏族、宗教、「家天下」とまでいわれる一家一族の天下だから、一家一族の絆は強いという「家族主義観」を常識としてもっている。しかし、それは常識であっても、決して「良識」ではない。一家一族にこだわるあまり、親族間の利害関係から権力争いに発展することも日常茶飯事だ。

 中国では「妻まで敵」ということを知る人は少なくない。しかし、所詮「夫婦は他人」だ。中国では、親子、父子、兄弟姉妹の争い、いわゆる骨肉の争いが日常的だ。というよりも、利害関係がからむと必然的に起こるものである。母と子、父と娘でさえ、例外ではないのだ。

 比較的よく知られるのは、則天武后が娘を殺して、皇后と王妃の座を争い、自分の腹を痛めた皇太子まで殺したことである。

 

国史を読むかぎり、骨肉の争いは決して希有や限定的な歴史ではなく、伝統の国風である。ことに上にいけばいくほど、骨肉の争いがより激しくなり、数万人もの人間が巻き添えになることもあるのだ。九族まで誅殺されることも少なくない。それが歴史の掟であり、定めでもある。

 ニセ書類、ニセ札、ニセ学歴と、ニセモノなら何でもある中国では、ニセ銀行や周恩来のニセの公文まで登場した。ニセモノが氾濫する社会だけでなく、「汚職・不正をしない役人はいない」といわれる国である。国富を私財に換える役人も跡を絶たない。御用学者の鑑定によれば、その総額はGDPの十数%だが、実際はGDPの4分の1から2分の1にものぼるといわれる。

 

「詐道」を貴ぶ中国兵法

・中華世界最大の本質は、「戦争国家と人間不信の社会」として捉えるべきだ。仏教の因果、輪廻の思想でいえば、戦争が「因」で、不信が「果」である。

 

だから、「鈍」と「誠」をモットーといっている日本人は、中国人にとって、もっとも「いいカモ」である。騙されても、また懲りずに騙されるというのも、この発想法の違いからくるものではないだろうか。

 

<「厚黒学」が「論語」に代わってはやる理由

・では、なぜ近年になって、「厚黒学」ブーム、しかもビジネスの聖典として再燃したのだろうか。中国人の「欲望最高、道徳最低」の現実については、民間学者だけでなく、国家指導者に至るまで語りはじめた。

「厚黒学」はただ反伝統・文化の逆説ではない。中国ではこの厚黒史観が広く認知されるようになった中国人がますます面の皮を厚くし、腹黒く進化していることも実証され、実感もされている。このウソだらけの社会をいかにして変えていくかと思う中国人は、すでにいなくなった。中国から逃げ出せない人だけになったのだ。

 いかに、「詐欺師だけが本物」の社会で厚かましく、腹黒くという処世術で生き残ればいいのか。「厚黒学」はまさしく処世の聖典としてブームとなったのである。

 

香港と台湾問題から瓦解する中国

民主化した台湾と独裁に戻った香港

・しかし、それこそ独裁政権の中国の反発するところであった。21世紀に残された覇権国家・中国は、日本列島とフィリピン諸島とのあいだにある島、台湾をあくまで「自国の領土」だとして取り込もうとしている。

 

天意と民意をめぐる中台対立

・1993年8月、中国政府は全5章、1万2000字からなる「台湾白書」を発表した。

 

・その白書いわく「台湾は古来、中国の領土である。古代には夷州、琉求と呼んだ。秦漢代には船による往来があり………」と書かれており、台湾は2000年前から中国の一部であったという主張である。

 

史書には「台湾は古来、中国に属していない」と書いてある

・前述したように、中国はさまざまな歴史書をもちだしては、台湾が中国の絶対不可分な一部だったことにこじつけようと必死だ。日本が遣隋使を派遣した隋代に1万人以上の兵を台湾に派遣したとか、17世紀には10万人もの中国人が台湾に渡っていただとか、明代から台湾は中国が統治していただとか、なんの根拠のない話をでっち上げる。

 

中国は台湾を日本の領土と見ていた

「野蛮で危険な台湾などいらない」と中国は言っていた

・現在の中国政府がなぜ台湾を自国の領土だと主張するのかといえば、それは清国時代の領土を継承した正統政府だと自認しているからにほかならない。歴史も言葉も異なるモンゴル地域、中央アジアチベットまでも「中国」となっている現状がその結果である。ただし、外モンゴル、すなわちモンゴル国が領土に入らなかったのは、ソ連(当時)の力に勝てなかったからだ。

 

中国の法的根拠「カイロ宣言」は存在しない

中国が台湾領有の根拠としているのが、「カイロ宣言」と「ポツダム宣言」である。

 

・先にあげた2000年の「台湾白書」には、

 1943年12月、中米英3カ国政府が発砲した「カイロ宣言」の規定により、日本が奪い取った中国東北、台湾、澎湖諸島などを含む土地を中国に返還しなければならない。1945年、中米英の3カ国が調印し、のちにソ連も加わった「ポツダム宣言」は「カイロ宣言の条件を実行しなければならない」と規定している。同年8月、日本は降伏を宣言し………10月25日、中国政府は台湾、澎湖諸島を取り戻し、台湾への主権行使を恢復した。

 

と記されている。これははなはだしい曲解である。ところが、日本の有識者のなかには中国の身勝手な言い分をそのまま受け入れ、「1945年、台湾は日本から中国に返還された」と書く人がいて、腹が立つというよりあきれてものも言えない。

 日本は占領地を「返還」などしていない。「放棄」したにすぎないのである。

 

台湾関係法とアメリカの戦略

アメリカの「台湾関係法」は中国と関係を結ぶ一方で、東シナ海におけるアメリカの覇権を維持するためのものだが、その基本は「中華民国」が自由主義体制として認められたからである。

 

台湾が大反発した中国の「半国家分裂法」>

・2005年3月、中国の第10期全国人民代表大会で「反国家分裂法」が決定された。この法はこれまでの「白書」の記述をさらに一歩進め、軍事力をもってしても必ず台湾を中国の一部とすることを示している。

 

台湾人は「中国人」ではない

・台湾は当然、中国の一部であるという中国の一方的な言い分を考えなしに天真爛漫に信じている一部の日本人は、中台統一を支持することこそリベラルだと思っているから困る。しかも、「同じ中国人なのだから、統一したいと思っているだろう」と言う者も多い。

 

・しかし、いったい台湾人民と大陸の「中国人」が同じだと言えるのだろうか。台湾では明らかに大陸の人種とは異なる東南アジア系の人種がもっとも古い住民である。彼らのことを台湾では、もともとの民族という意味で「原住民」と呼んでいるが、中国では「高山族」と呼び、日本は台湾を統治していた時代、「高砂族」と呼んでいた

 台湾というこの島の歴史と文化を考えるとき、原住民の存在を抜きにしてはならない。ところが、かつて中国の国家最高指導者であった江沢民は「高山族は人口のたった2%にすぎない」として無視し、そのほかの多数が「同じ中国人」だからという理由で統一の正統性をでっちあげた。

 

台湾島の中の台湾民族主義の大中華民族主義

・彼らは規律正しい日本軍とは正反対で、豊かな台湾人たちの生活を見て目がくらみ、台湾人の財産を掠奪しはじめたのだ。これは敵の財産は奪ってよいという中国古来の弱肉強食の戦争と同じ観念である。

 末端の国民党軍兵士たちだけではない。国民党軍は指令第一号の降伏受け入れという命令を拡大解釈して、旧日本軍の軍用機、戦艦をすべて接収し、20万もの兵士を2年間支えることができるだけの装備や軍需品、医薬品、食糧を国民党軍のものにした。さらに、台湾総督府をはじめとする官庁、公共機関や施設、学校、官営企業、病院などのすべての資産を接収し、そのうえ日本人経営者のもっていた企業や個人財産などまで「敵産」だといって取り上げた。これらを金額にすると109億990万円、全台湾の資産の60~80%にものぼると推定されている。

 

豊かだった台湾はたちまち疲弊し、1946年、有史以来と思えるほどの飢饉に見舞われ、台湾人はイモと雑穀で飢えをしのぐまでになった。

 陳儀長官が台湾にやってきてから、全台湾産業の90%が国民党に奪われ、高等教育を受けた人材6万3000人余りが失業に追いやられた。そのうえ中国の悪性インフレが台湾に持ち込まれ、紙幣を無限に乱発して終戦から2年後の1947年には10倍以上もの額になり、台湾人の生活はたちまち困窮したのである。

 

台湾人の胸に刻まれた228事件

・台湾人たちの怒りは激しく、各地で闘争組織が結成された。国民党政府はそれに対して軍事力で弾圧をかけ、民主的な話し合いで解決しようとする台湾人組織にはテロリズムでこたえ、2万人以上の人々が罪なくして殺害された。その後、政府は30年以上にわたり戒厳令をしき、1947年2月28日に始まった大弾圧の真実は封印され、語ることが許されなかった。

 

<「光復」という名の暗黒

・その後、陳儀長官が台湾に進駐すると事態はさらに悪化し、前述したように、全台湾の産業の90%が接収された。そして、ほとんどの産業は民政長官公署によって中断させられてしまった。これにより、大学や専門学校の近代教育を受けた6万3000人余りの人材が失業に追いやられ、公営企業にされたすべての企業は中国からやってきた役人、軍人一族に独占されたのである。

 

・戦前の台湾銀行券の発行額は約8000万円であった。戦時中も、日本、台湾、朝鮮において銀行券が増発され、戦争末期になると台湾銀行が発行した銀行券の額は、約14億3300万円にもなっていた。

 それでも、貯蓄が奨励されており、民間の通貨は絶えず国家銀行に還流されていたため物価の急騰などといった事態は起こらなかった。しかし、陳儀が台湾に入ってからは、紙幣を無限に増発し、台湾からあらゆる物資を掠奪して中国で売りさばいたため台湾島内の物資はあっという間に欠乏した。台湾住民は、知らぬ間に飢えと失業に苦しむハメになったのだ。

 

・日本が50年かけて台湾で蓄積した国富は、中国人の掠奪により、たった1年で消えてなくなったのである。その代わりに中国人が台湾へもたらしたものは、天然痘コレラ、ペストなどの疫病であった。

 

白色テロの時代を生きた台湾人のメンタリティ

・市中引き回しの形といえば、江戸時代に行われていた刑罰の方法だ。日本では明治になってから、大衆への見せしめとして公開処刑するという方法は行われていない。

 しかし、国民党独裁の白色テロ時代の台湾では、犯罪者の市中引き回しや駅前広場での見せしめ銃殺が行われていた。蒋経国の時代になっても、テレビでは強盗を働いた少年犯の銃殺シーンが放送されていた。

 

・台湾政治犯連誼会の調査によると、白色テロの時代、蒋経国が亡くなる1987年までに死刑やリンチを受けて迫害された人は14万人にものぼるという。近年の台湾のマスメディアでは20万人という数字が通常語られている。こうした人々の95%はまったくの無実で、当局がでっちあげた罪状による。

 

そして「中国の時代」は終わった

21世紀の歴史的事件となる香港動乱

・しかし、どういう結末を迎えようと、21世紀の人類史に残る事件となるにちがいない。デモの長期化は21世紀の一事件にとどまらず、今後の一大課題として提起されるだろう。

 

<「天下統一」から「五独乱華」といわれるまで

・秦の始皇帝の天下統一後、「統一」こそが最高の政治的価値となった。漢の武帝の代には、それまで見向きもされなかった孔子孟子らの儒家思想が「天下統一」のための国教とされるようになる。しかし中国はモザイク国家であり、中央の求心力に対して地方の遠心力が働き、一治一乱・一分一合のような統一と分裂を繰り返してきた。

 

繰り返すが、漢の天下崩壊後、漢の遺民である漢人は非漢人の五胡(匈奴鮮卑・羯・氐・羌)によって中原から追いやられた。『資治通鑑』「粱紀」によれば、548~550年の侯景の乱によって「南京大虐殺」が生じ、「三呉」(南京中心の地方)の漢人は絶滅同然となって、生き残った婦女子はことごとく奴隷として売られたという。史記』『漢書』といった中国の正史(通称「二十四史」)にも「漢族」という言葉はない

「漢族」「漢民族」「中華民族」は、20世紀に入って革命派と維新立憲派による民族主義論争のなかで出てきた新しい言葉であり、それまでは存在しなかった。

 

統一を嫌う台湾人の戦中世代

・私たちの世代は「養鶏場のニワトリになりたくない」と逃げだしてきた「監獄島からの脱獄者」が多く、中国にかかわらないことが正解だという考えを共有している。若手の立法議員に若い世代の動向を聞くと、ほぼ100%が天然独(生まれながらに台湾独立思想をもつ人)だという。これは欧米由来の出身地主義が血統主義を上回った当然の結果ではないだろうか。

 

・「統一が理想」というのは、あくまで中国人の思い込みである。私のような戦中世代や戦前世代にとって、「統一」は「恐怖」と同義語でしかない。それには以下の理由がある。

①  戦後、中国国民党軍の台湾進駐によって知識人は虐殺され、中学生や高校生までわけのわからない理由で政治犯として逮捕されることが相次いだ。

②  4万元と新台湾元1元が同価値というハイパーインフレとデノミなどを経験している。国民党軍と役人は大日本帝国の遺産を横領・収奪し、売れるものは上海の市場で大放出した。私も長蛇の列に並んでアメリカ軍や教会からの粉ミルクやバターなどの支援品を受けたことがあるどころか、飢えて道端の草を食べたこともある

③  政治経済の「統一被害」に加え、大陸からの難民の流入によってコレラ、ペスト、天然痘が流行した。こうした疫病の蔓延から救ってくれたのがアメリカ軍である。私も野外の後援で疫病撲滅の映画を見た記憶がある。

 

70年間の愚民教育のつけ

・台湾での選挙予想が難しいのは、戦後70年にわたった中華伝来の「奴隷化」と「愚民教育」、ことに「愛国教育」のためだろう。建前と本音が違いすぎるせいでもある。

 台湾人は中国人、インド人と並んで「世界の3大無知国民」と揶揄されたことがある。選挙に関して「将来」より「カネ」のことばかり考える者も少なくない。農村では「いくらくれる?」と買収が横行することもある。

いわゆる「三票(騙票=選挙公約で騙す、作票=投票を不正操作する、買票=票をカネで買う)」と呼ばれる風習や、70年以上にわたった愚民教育のつけもあることはよく知られている。

 大勢から見ると、誰が総統になろうと、最終的に台湾の運命を決めるのはアメリカの力だ。

 

・中国には弱点が多い。魅力あるソフトパワーはゼロに近く孔子孟子儒学老子荘子道家思想など諸子百家の思想はあっても、西洋や中近東に影響をおよぼすことはなく、インド世界にすら入ることがなかった。そして、外から入ってきたソフトパワーは暴力で排除する。インドから流入した仏教に対する「三武一宗の廃仏」、太平天国の乱後にキリスト教徒を殺害した湘軍(義勇軍)による「南京大虐殺」、北清事変で義和団が行ったキリスト教徒殺し、イスラム教徒の皆殺し「洗回」などがその例だ。

 私が小学4年生のころ、国民党軍による台湾人の大虐殺が発生した。

戦後の中国行政府の統計資料によれば、当時の生活レベルの評価基準である電気使用量は、台湾人が中国人の200倍以上だった。

 

改革開放後の中国はエネルギー資源のすべてを輸入に頼っている。すでに世界最大の通商国家ではなく、内外にアピールできるポイントもない。人民共和国時代の「台湾解放」から「台湾統一」へとキャッチフレーズは変わっても。もはや自力更生も長期戦もできず叫びつづけるだけだ。「一国両制」も台湾から拒否されている以上、文攻武嚇も無力でしかない。

 

日本人の胆力が試される

・香港の今日は明日の台湾であり、沖縄や日本本土にとっても対岸の火事ではない。台湾海域を通る日本の船は1日平均200隻以上である。

 

・私がしばしば疑念を抱くのは、「憲法9条を死守すれば世界平和が守れる」という思い込みに対してである。アメリカと中国の貿易や経済戦争、日韓関係悪化の背後にある国際関係の変化をみず、ひたすら傍観を決め込む輩の見識には憂慮を禁じえない。

 

・野蛮が世を支配する時代は終わった。香港デモが台湾の民主主義を動かしたことが、その証拠でもある。軍事パレードや威嚇で権力を誇示する手段は、古代中国でしか通用しないことを知るべきである。

 

 

 

『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』

遠藤功       東洋経済新報社  2020/7/10

 

 

 

コロナ後の最強の処方箋が1冊でわかる!

「コロナ・ショック」を「コロナ・チャンス」に変える

「まさかこんなことに………」という時代を生きる

・近年、大企業の経営者たちから、「VUCA」という言葉がさかんに聞かれるようになった。{VUCA}とは「Volatility」(不安定性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、{Ambiguity}(曖昧模糊)という4つの単語の頭文字からとった略語であり、「先がまったく読めない不安定、不透明な環境」を言い表している。

 私たちは「VUCA」という新たな混迷する環境を頭で理解し、備えていたつもりだった。

 しかし私たちの認識は、とんでもなく甘かったと認めざるをえない。

 

・中国に端を発する新型コロナウイルスは、わずか半年ほどで世界を震撼させ、経済活動や社会活動をいっきに停滞させ、世界中の人々の生活をどん底に陥れようとしている。

 「つながる」ことや「ひとつになる」ことの恩恵ばかりを享受していた私たちは、その裏で広がっていた「感染」というリスクの怖さを、日々身をもって体験している。

 

世界的な「コロナ大恐慌」の可能性は高まっている――インパクトはとてつもなく大きく、長くなる

・世界の累計感染者数は2020年7月5日現在、1120万人を超えた。6月28日に1000万人を突破してから、わずか7日で120万人も増加し、その勢いは加速している。累計の死者数も53万人を突破した。

 

・たとえ今回のコロナが収束しても、シベリアの永久凍土が溶け出し、新たな感染症が懸念されるなど、ウイルスによるリスクは間違いなく高まっている。

 パンデミック(感染爆発)のインパクトはとてつもなく大きく、長くなることを私たちは覚悟しなければならない

 経済の低迷は、企業の倒産、失業者の急増、自殺者の増大、食糧問題の深刻化など社会不安を高め、世界は混迷を深めている。

 

ドミノ倒しのようにさまざまな問題が連鎖し、世界的な「コロナ大恐慌」になる可能性は高まっている。

 

「緩慢なる衰退」から脱却する千載一遇のチャンスでもある――コロナ後に確実に起きる変化は、ある程度読み解ける

・現時点で、コロナ後の世界がどうなっていくのかの全貌を予測するのは時期尚早だ。それほど、コロナのインパクトは広範囲に及び、複雑で、根深い。しかし、コロナ後に確実に起きる変化を、ある程度読み解くことはできる。

 その変化を先取りし、先手先手を打たなければ、私たちはコロナの大渦に呑み込まれてしまうだろう。

 世界経済は大きく縮む。

 当面はコロナ前と比較して「30%エコノミー」「50%エコノミー」を想定せざるをえない。その先においても、「70%エコノミー」が妥当な予測だろう。

 それぞれの会社は、まずは「縮んだ経済」に合わせて、身を縮めるしかない。生き残るためには、痛みを伴う施策を断行せざるをえない会社も出てくるだろう。

 

むしろ、平成の「失われた30年」という「緩慢なる衰退」から脱却し、力強い再生へとシフトする千載一遇のチャンスである

 

<「プロの時代」「レスの時代」の幕開けになる

・コロナ・ショックは、ビジネス社会における「プロの時代」の幕開けになる。滅私奉公的なサラリーマンは淘汰され、高度専門性と市場性を兼ね備えた「プロ」が活躍する時代へと突入する。 

 競争は激しくなるが、「個」の活性化なしに、この国の再生はありえない。そして、働き方においては「レスの時代」の幕開けとなるだろう。

 「ペーパーレス」「ハンコレス」にとどまらず、「通勤レス」「出張レス」「残業レス」「対面レス」、さらには「転勤レス」といった新たな働き方がこれから広がっていく。

 

・コロナという「目に見えない黒船」は、この国を再生させる大きなきっかけになりえる。私たちは「コロナ・ショック」を、自らの手で「コロナ・チャンス」へと変えなければならない。

 

コロナがもたらす「本質的変化」とは何か

「移動蒸発→需要蒸発→雇用蒸発」というコロナ・ショックのインパクトを理解する

◆1000兆円の所得が消える

◆ポストコロナの「機関車」(牽引役)が見えない

◆「移動蒸発」が発端に

◆「移動蒸発」が「需要蒸発」を引き起こす

◆「需要蒸発」がもたらす、深刻な「雇用蒸発」の衝撃――米国では、すでに5人に1人が職を失った

 

「弱肉強食の時代」に突入する

◆「70%エコノミー」を前提に経営をする

◆多くの企業は、身の丈を縮めざるをえない

◆「コロナ特需」は限定的で、「蒸発した巨大な需要」

◆「生命力」のある国、会社しか生き残れない

◆「真面目な茹でガエル」は死滅する

 

「低成長×不安定」の時代に、生き残る覚悟を

◆「経済成長率」と「環境安定性」という二軸で現在を捉える

◆昭和=戦後続いた「高成長×安定」の時代

◆平成=バブル崩壊によって「低成長×崩れゆく安定」の時代に

◆令和=コロナでいっきに「低成長×不安的」局面へ

◆危機的な異常事態は「新たな様式」を生み出す

◆「出口のないトンネル」から脱出する

 

コロナ後に、日本企業は何を、どう変えるべきなのか

日本企業が再生のためにとるべき戦略

◆いま必要な4つの経営戦略――「SPGH戦略」

①サバイバル戦略(Survival)

②生産性戦略(Productivity)

③成長戦略(Growth)

④人材戦略(Human Resource)

 

ポストコロナのサバイバル戦略

ダメージを最小化するため、まずはしっかりと「守りを固める」

方策❶ 人員の適正化(ダウンサイジング)を断行する

◆「本社で働く3割はいらない」

◆「船の大きさ」に定員を合わせる

 

方策❷ コストの「変動費化」を進める

◆「身軽」にするのが最大のリスクヘッジ

◆コア業務以外は、外に切り出す

 

方策❸ 目先のビジネスチャンスをものにし、「しっかり稼ぐ」

◆「顧客の変化」を見逃さない

◆まずは国内市場に目を向け、「内需開拓」で生き残る

 

ポストコロナの生産性戦略

会社は「不要不急」なものだらけだったことが露呈した――止まったからこそ、いろいろなものが見えてきた

◆コロナによって「必要な人」と「不要な人」が顕在化した

 

ポイント❶ オンライン化、リモートワークを「デフォルト」にする

◆私たちは「新たな選択肢」を手に入れた

◆日立やNTTは、リモートワークを今後も継続

◆オンライン化やリモートワークを、「補助」ではなく「主」と位置づける

◆デジタル化は、オンライン化やリモートワークの前提条件

 

ポイント❷ 業務の棚卸しをしっかり行う

◆何を「廃止」するのかをまず決める

「不要な業務の廃止」+「リモートワーク」で、生産性を倍増させる

 

ポイント❸ 生産性と「幸せ」を両立する「スマートワーク」を実現する

◆働く人たちが「幸せ」にならなければ意味がない

◆リモートワークは「見える化」が難しく、社員が「孤立」しがち

 

ポストコロナの成長戦略

◆新たな「インキュベーション・プラットホーム」を確立する

 

ポイント❶本体から切り出し、社長直轄とする

◆「アジャイル方式」で新規事業を育てる

◆社内に積極果敢な「企業家精神」の気風を取り戻す

 

ポイント❷若手をリーダーに抜擢する

◆いま必要なのは「新たなレールを敷く」人間――若い力に賭ける

◆新たな事業化の方法論を確立する

 

ポイント❸M&Aで時間を買う

◆有事のいまこそ、M&Aを活用する

◆「PMI」(買収後の統合マネジメント)が成否を分ける

 

ポストコロナの人材戦略

◆不透明な時代に必要なのは「個の突破力」

 

ポイント❶ ハイブリッドの人事制度で対応する

◆「両利きの経営」に即した人事制度が求められている

◆市長価値が高い人は、報酬が高くても、会社にとってリスクは小さい

◆地方や中堅・中小の会社こそ外部人材を登用せよ

 

ポイント❷ 「ミッションありき、結果志向」へシフトする

◆「ミッション」で組織を動かす

◆「ミッション」(使命)と「リザルト」(結果)の大小で評価する

 

ポイント❸ 現場力を支える「ナレッジワーカー」の評価を高める

◆現場力の重要性はますます高まる――「ナレッジワーカー」は代替性の低い、会社の財産

◆「デジタルの民主化」で現場力を強化する

 

コロナ後に、「仕事」はどのように変わるのか

<「食える仕事」「食えない仕事」とは何か

◆今回は「一時的な失業者の増加」ではすまない

◆「蒸発した仕事」は元に戻らない

◆「アマチュア」は消え、「プロ」は引く手あまたに

 

◆「食える人」と「食えない人」の差は何か――「代替可能性」と「付加価値の大きさ」の二軸で分類できる

①「代替可能性」が低い職業で「付加価値」が高い(プロ)人材→スター

②「代替可能性」が高い職業で「付加価値」が高い(プロ)人材→サバイバー

③「代替可能性」が低い職業で「付加価値」が低い(アマ)人材→コモディティ

④「代替可能性」が高い職業で「付加価値」が低い(アマ)人材→ユースレス

 

「スター」と「サバイバー」は、間違いなく「食える人」――「コモディティ」はなんとか食える、「ユースレス」は消えるか、きわめて低賃金に

 

<「プロフェッショナルの時代」がやってくる

◆「新たなレール」を敷き、「新たな車両」を造る人が求められている――真面目に働けば、みんなが豊かになった時代は遠い昔の話

◆「人が生み出す価値には歴然とした差がある」という現実を認める

◆数千万円の報酬で「プロフェッショナル」を確保する

トヨタは、採用の5割を中途採用

◆終身雇用は消滅するか?――「去っても地獄、しがみついても地獄」という冬の時代が到来

◆自分の「腕一本」でのし上がっていくしかない

 

◆「プロ」として勝ち残るための5つのパラダイムシフト

パラダイムシフト❶「社内価値」ではなく、「市場価値」で勝負する

パラダイムシフト❷「プロセス」ではなく、「結果」にこだわる

パラダイムシフト❸「相対」ではなく、「絶対」を目指す

パラダイムシフト❹「他律」ではなく、「自律」で行動する

パラダイムシフト➎「アンコントローラブル」は捨て、「コントーラブル」に集中する

 

「プロ化するビジネス社会」で生き残るための処方箋

◆あなたはいったい何の「プロ」なのか?

◆「プロフェッショナル」の定義

◆「プロ」かどうかを決めるのは、欲する会社がなければ、ただの「オタク」

◆「プロ」と「アマ」の報酬格差は10倍以上になる

◆「プロ」と「アマ」の差以上に、「プロ」のなかでの差のほうが大きくなる――「プロ」になることは勝ち残るための「最低限の条件」

◆真の「プロ」は優れたチームプレイヤー ――「新たな和の形」が求められている

◆「多様性からの連帯」をどう生み出すか?

 

<「プロ」として成功するための8つのポイント

◆最初から「プロ」はいない

成功のポイント❶ 「会社」ではなく、「機会」で判断する

◆「未成熟」「未完成」なものほど、プロにとっては魅力的

◆「プロ」と会社は、「機会」でつながっている

 

成功のポイント❷ 「軸」を定める

◆「何のプロになるのか」を定める

◆普遍性の高いノウハウや知見は、陳腐化しない

 

成功のポイント❸ よき「お手本」を知る

◆高みを知るからこそ、努力は続けられる

◆「本物」を目指さなければ、面白くない

 

成功のポイント❹ 自分の可能性に蓋をしない

◆最初は自信がないのが当たり前

◆「自分の可能性を信じられる」ことが最大の資質

 

成功のポイント➎ 「他流試合」で力をつける

◆「他流試合」が人を育て、たくましくする

◆ぬるま湯的な居心地のよさは大敵――「出戻り自由」によって、会社のダイバーシティは高まる

 

成功のポイント❻ グローバルに通用する「プロ」になる

◆「内弁慶」のままでは活躍の場は限られる

◆異文化コミュニケーション力を磨く――なにより大切なのは「慣れ」

 

成功のポイント➐「信用」という価値を大事にする

◆力の出し惜しみをしないことが「信用」につながる

◆「プロ」は「一流の人間」でなければならない――当たり前の積み重ねが「信用」という財産につながる

 

成功のポイント➑{EQ}(心の知性)を磨く

◆高度専門性を磨くことは必要条件にすぎない

◆「プロ」の価値は、「IQ」(頭の知性)から「EQ」(心の知性)へシフト――「人間の情緒に働きかける能力」を磨く

 

コロナ後に、「働き方」はどのように変わるのか

「レスの時代」の幕開け

◆「通勤レス」「出張レス」「残業レス」「対面レス」――私たちは「新たな選択肢」を手に入れた

◆「プロ」としてふさわしい働き方「スマートワーク」を身につける

◆「生産性」と「創造性」という2つの視点で働き方を見直す

 

どうすれば「生産性の高い働き方」ができるのか

現業部門でのデジタル化、自動化、リモート化をいっきに進める

◆リモートワークに向いている人、向いていない人がいる――問題は、「業務」ではなく「人」

 

フェイスブックが掲げる「リモートワークが可能な人の4つの条件」

①経験豊富な人、優れた技術を持っている人

②直近のパフォーマンスが優れていること

③在宅勤務をサポートしてくれる人がいるチームの一員であること

④所属しているグループの上司から承認を得ること

 

リモート時代における社内コミュニケーションの4原則

◆「過剰管理」でもなく「野放し」でもなく――部下が「自己管理」できるように上司が導く

◆オンラインとオフラインを使い分け、コミュニケーションの質を高める――オンラインで「業務管理」はできるが、「人の管理」は限界がある

 

原則❶ 人間の3タイプによって、コミュニケーションの仕方を変える

①  言われなくてもやる人

②  言われたらやる人

③  言われてもやらない人

 

原則❷ 経験値の高い人と低い人を「ペア」で組ませ、アドバイスする「メンタリング」がより重要になる

 

原則❸ 「ムダ話」や「雑談」をするための、インフォーマル・コミュニケーションの「場」をつくる

 

原則❹ 定期的にオフライン(対面)で会うから、日常のオンラインが機能する

 

働き方の自由度を高め、真の豊かさを享受する

<◆「転勤」をめぐる会社と社員の溝は大きくなっている――「転勤レス」という「新たな選択肢」も現実のものに>

 

・ポストコロナにおいて私たちが手に入れるのは、「通勤レス」「出張レス」「残業レス」などの「新たな選択肢」だけではない。

 これまでサラリーマンが強いられてきた会社都合の「転勤」という考え方もここにきて大きく変わろうとしている。

 つまり、「転勤レス」という「新たな選択肢」も現実のものになろうとしている。

 

・共働きや育児、親の介護など、社員たちを取り巻く環境は大きく変わり、「転勤できない」社員も増えている。

 実際、人材サービス大手エン・ジャパンの調査では、「転勤が退職を考えるきっかけになる」との答えが6割に達している。

 

◆会社都合の転勤を撤廃する会社も出始めた

・もちろん、企業側も手をこまねいていたわけではない。

 これまでにも「地域限定社員」などの制度をつくり、転勤が難しい社員たちと「共生」する手だてを講じてきた。

 しかし、転勤を受け入れる社員と転勤しない社員のあいだに階層ができ、待遇面でも差が出るため、働く意欲という面でも問題が生じていた。

 そんななかで、管理職を含む基幹社員に対して「会社都合による転勤の原則禁止」を打ち出した会社がある。AIG損害保険である。

 同社は管理職を含む約4000人の社員を対象に、東京や大阪など全国を11に分けたエリアから、自分が望む勤務地を選べるようになっている。

 社員は、あらかじめ転勤の可否に関する自分の考えを表明する。

「場合によっては転勤してもいい」を自発的に選択した社員は約3割、「希望エリアで働きたい」が約7割となっている。

 この制度のポイントは、どちらを選択しても待遇は同じであり、昇進やキャリア形成など評価にも差を設けないことである。

 転勤なしを打ち出してから、同社の新卒採用への応募数は急増しているという。

「転勤レス」は時代の要請でもある。

 

◆社員が住むところにオフィスを設ける会社も――会社と個の「新たな関係性」をつくる

・会社のオフィスがある場所に社員を転勤させるのではなく、社員が住むところにオフィスを設けさせる会社もある。ソフトウエア大手のサイボウズだ。

 

・これまでは会社都合で有無を言わせずに、転勤を押しつけるのが、日本企業の常識だった。しかし、その常識はもはや通用しなくなりつつある。

 代替性の低い「プロ社員」に活躍してもらおうと思うのであれば、会社はこれまで以上に「個」の都合や自縄自縛に配慮せざるをえない。

 

・あらゆる制約条件を取っ払い、「プロ」の成果を最大化する環境を調える。それが会社と「プロ」が共存する方法なのだ。「社員本位」の目線で、働く場所や働き方を選択する。

 

◆「フリーランス」「会社レス」という働き方が広がる

・最も自由度の高い働き方のひとつが、「フリーランス」である。

 日本でもフリーランスは徐々に広がりつつあるが、欧米に比べるとまだまだマイナーな存在である。内閣官房の調査によると、副業や自営業者などを加えた広義のフリーランス人口は1087万人だ。

 フリーランス大国である米国は、労働人口の3分の1以上にあたる約5700万人が、広義のフリーランスとして仕事をしている。日本の5倍以上だ。

 ひとつの会社にしがみつく。ひとつの仕事にしがみつく。ひとつの場所にしがみつく。そうした生き方を否定するわけではないが、それしか認めない、それしか選択肢がない社会というのは、けっして豊かとは言えない。

 もちろん、コロナ・ショックによってフリーランスは収入減や取引停止の影響をもろに受けている。会社の被雇用者ではないので、収入減を補う手当や補償はない。

 

「コロナ時代は働き方に対する価値観が大きく変わる。会社に依存しスキルを磨いてこなかった正社員は会社にとっての一番のリスクで、社会の中で一番の弱者になる

「しがみつかない」生き方は、不安定でリスクが高いように見える。しかし、現実はそうではない。

 フリーランスとは「会社レス」という生き方である。

 

・ポストコロナにおいては、「会社レス」というフリーランスの働き方が日本でも確実に広がっていくだろう。

 

◆真の豊かさとは「経済的な豊かさ×精神的な豊かさ」――個を尊重し、人間らしく生きる社会に変える

・会社にはさまざまなストレスが存在する。

 とりわけ「通勤」「残業」「人間関係」は、どの会社にも共通する3大ストレスである。ポストコロナの社会においては、これらを解消もしくは大きく軽減できる可能性がある。「デジタル化→オンライン化→リモートワーク」の流れが浸透、定着すれば、「通勤レス」「残業レス」「対面レス」は十分に実現可能だ。

 ポストコロナをきっかけに、私たちは個を尊重し、人間らしく生きる社会に変えなくてはならない。

 

・いくら会社が利益を上げ、内部留保を貯め込んでも、そこで働く人たちが疲弊し、暗い顔をしていたのでは、とてもいい会社とは言えない。平成30年は、そんな会社が増えていった時代だった。

 私たちはコロナ・ショックを機に、その流れに終止符を打たなければならない。

 真の豊かさとは、「経済的な豊かさ」と「精神的な豊かさ」が共存するものだ。

 

「資本の論理」「会社の論理」ばかりがまかり通った時代から、「人間の論理」「個の論理」が通用する社会に変えていかなければならない。

 

どうすれば「創造性の高い働き方」ができるのか

◆「70%ルール」で時間を捻出し、創造性の高い仕事に振り向ける

・これまでの仕事は従来の70%の工数で終了させるという「70%ルール」を私は提唱したい。

 デジタルという武器を手に入れ、オンライン化、リモートワークという「新たな選択肢」を手に入れた現在、十分に実現可能な目標だ。

 それによって、残りの30%の時間を、創造的な仕事に振り向けることが可能となる。

 創造的な仕事とは、「新たな変化」や「新たな価値」を生み出す仕事である。難易度は高いが、やりがいは大きい。

 反復的かつ機能的なルーチン業務は、徹底的に効率化を志向する。

 

◆デジタルの時代だからこそ、リアリズムが大事――大事なのは「誰と会うか」

・創造性の高い仕事をするためには、「刺激」が必要だ。同質的な人たちだけが集まって、「刺激」に乏しい議論を繰り返したところで、新たな発想、ユニークなアイデアは生まれてこない。

 

「変化の芽」は現場にある。現場に身を置くからこそ、五感が機能し、「変化の予兆」に気づくことができる。

 機能的な仕事はサクサクとオンライン、リモートですませればいい。しかし、机にしがみついているだけでは、「未来の予兆」は見えてこない。

 デジタルの時代だからこそ、リアリズムが大事になる。人と対面で会うからこそわかること、現場に自ら行くからこそ見えることも多い。

 

・オンライン化やリモートワークの最大のリスクは、「つながっているつもり」「見えているつもり」「わかっているつもり」に陥ってしまうことである。

 いくら便利でも、やはり現場に行かなければ感じられないもの、人と対面で会わなければ見えてこないものは確実にある。

「三現主義」(現地・現物・現実)など時代遅れと切り捨ててはいけない。五感で感じるリアリズムは、デジタルで代替することはできない。

 

◆掛け持ち業務や副業で、創造性を高める――「異質の場」で、「異質の人」と出会い、「異質の仕事」に関わる

・日本企業における働き方改革は、リモートワークの推進だけではない。多くの会社が働き方の自由度を高める取り組みを広げようとしている。

 たとえば武田薬品工業は、社内で異なる業務を期間限定で掛け持ちする新たな制度を導入した。

「タケダ・キャリア・スクエア」というこの制度では、就業時間の20%程度を、自分が関心のあるほかの部署の業務に使うことができる

 知識やスキルを磨くだけでなく、自分自身の適正に合った仕事を見つけるきっかけにもなる。

 

・ライオンはほかの企業の社員などを対象に、新規事業の立ち上げを副業で行う人の公募を始めた。ライオンが個人に業務委託する契約で、リモートワークも可能で、勤務日数は週1日から選べる。

 こうした制度を使えば、転職しないでも、「新たな場」で「新たなチャレンジ」をすることができる。

「異質の場」で、「異質の人」と出会い、「異質の仕事」に関わることによって、間違いなく世界は広がる。

 

コロナ後の人材評価の4つのポイント

◆「個の自立」が前提条件

・機能的な仕事は、オンラインやリモートでサクサクと効率的に進めればいい。

 

・しかし、それを実現するには、重大な前提条件がある。それは一人ひとりが「自立」することである。

 

・力とやる気のある「個」の発想力、突破力を最大限に活かし、新たな可能性を追求しなくてはならない。

 

ポイント❶ 「自己管理」できる人が評価される

・リモートワークとは、たんに働く「場所」が変わることではない。仕事の「管理の仕方」が変わるのである。

 

・しかし、リモートワークにおける「ボス」はあくまでも自分自身である。自分で仕事を設計し、自分で管理するのが基本である。

 

リモートワークで成果を出すためには「規律」が必要である。たとえば、

  • 規則正しい生活を心がける
  • 報連相」(報告・連絡・相談)をこまめに行う
  • 業務日誌をつける(何をしていたのかを記録する)

 

ポイント❷ 「指示待ち」ではない人が評価される

・いま求められている人材は、「新たなレール」を敷ける人、「新たな車両」を造ることができる人である。

 自らの意見をもち、積極的にアイデアを出せる人でなければ、高い評価は得られない。

 

ポイント❸ 「自己研鑽」を続けられる人が評価される

・「プロ」になることを望むのであれば、自分自身を磨くことにお金と時間をかけて、自己鍛錬を行うべきである。

 

ポイント❹ 会社に「しがみつかない」人が評価される

・本当に力がある人間は、会社にしがみつかない。だから会社も、しがみつかない人を評価し、登用する。

 

元に戻るな、大きく前に進め!

歴史は70~80年サイクルで繰り返す」と多くの歴史学者が指摘する。

・そして、終戦から75年たった2020年、私たちを襲ったのは未知のウイルスだった。

 その被害は、私たちの当初の想定をはるかに超える甚大なものとなっている。世界経済は壊滅的な打撃を受け、日本もその影響をまともに受けざるをえない状況に陥っている。

 まずは、社会的弱者、経済的困窮者を救い、時間はかかるかもしれないが、経済的復興はしっかりと果たさなければならない。

 しかし、コロナ・ショックのもつ意味はそれだけにとどまらない。この「目に見えない黒船」は、日本という国、日本企業、そして日本人が覚醒するまたとないチャンスでもある。

 80年後には「コロナ革命」と呼ばれているかもしれない大変革の真っただ中に、私たちはいるのだ。

 

日本人が陥っていた悪弊を一掃するチャンス

・コロナ後に、私たちは元に戻ってはいけない。これは経済規模の話をしているのではない。元に戻してはいけないのは、私たちの心の中に長いあいだ巣食ってきた潜在意識や暗黙的な常識、根底にある価値観である。個人の幸せよりも組織が優先される「集団主義」。やってもやらなくても差がつかない「悪平等主義」。常に横と比較する「横並び主義」。責任を明確にしない「総合無責任体質」………。

 こうした悪弊を一掃することができず、私たちは「緩慢なる衰退」に陥っていた。「目に見えない黒船」が来襲したにもかかわらず、旧来の意識や常識、価値観を払拭することができなければ、この国が浮上することはないだろう。

 私たちは元に戻るのではなく、大きく前に進まなければならないのだ。

 

私たちはもっと豊かになれる。私たちはもっと幸せになれる

今回のコロナ・ショックは、私にとっても自分の働き方を見直す好機となった。この本はコロナのおかげで書き上げることができたといっても過言ではない。内容や質はさておき、私は2週間ほどでこの本をいっきに書き上げた。

 

「目に見えない黒船」は私たちに「もっと豊かになれ。もっと幸せになれ」という問いかけをしてくれているように私には思えてならない。

 すべてが止まったからこそ見えてきたものを、私たちは大切にしなければならない。

 

 

 

パンデミック・マップ』

伝染病の起源・拡大・根絶の歴史

サンドラ・ヘンベル 日経ナショナルグラフィック  2020/2/14

 

 

 

人類と伝染病の闘い

・14世紀にヨーロッパに壊滅的な被害をもたらしたペストから、19世紀に流行して多数の死者を出したコレラ、毎年のように流行をくりかえすインフルエンザ、1980年代に姿を現したエイズ、世界を恐怖に陥れたエボラ出血熱、近年ブラジルで爆発的な感染を見せ新生児に重篤な症状をもたらすジカ熱まで、歴史の中に現れては消えた伝染病の数々を、地図を中心に解説する。

 

人類と恐ろしい伝染病との戦いは、同時に、興味深い歴史の物語でもある

・伝染病がなぜ起こり広がるのかは人類にとって長年の謎だったが、19世紀半ば以降になると、感染地図と呼ばれるものがその解明に大きく寄与するようになる。専門家たちはこの地図を使って予防法を考え、感染の拡大を防ぐようになった。歴史上はじめての感染地図は、1854年にロンドン・ソーホー地区コレラが大流行した時にイギリスの医師ジョン・スノウが作ったものだ。この流行ではおよそ600人が犠牲になったが、そのうち200人は一夜のうちに命を落とした。

 

ソーホー地区の調査と、ロンドン南部で行われたさらに大規模な調査研究が評価され、ジョン・スノウは「疫学の父」として歴史上に名を残すことになった。疫学とは、伝染病の発生率や分布、決定因子などを研究する医学の一分野だ。疫学者は一人ひとりの患者を診るのではなく、もっと広い視野で発病したのかを調べ、伝染病が突如広がる原因を調査する学問だと言える。疫学者が「医学探偵」と呼ばれる所以だ

 

・1918年のスペインインフルエンザ(スペインかぜ)の流行のような世界規模での大流行を示す地図もあれば、1875年にダイド号からフィジーに広まった麻疹(はしか)のようにごく限られた地域での流行に着目したものもある。

 

・印象的な物語はいくつもある。15世紀の終わりに梅毒が初めてヨーロッパに上陸した時などは、この病気をどこの国が持ち込んだかという責任のなすり合いが起こった。17世紀には赤痢で死亡した人間が「積み荷」となった奴隷船がカリブ海に到着したという心痛む報告が残っている。18世紀にはニューゲート監獄の囚人たちが天然痘の接種を受けることに同意し、絞首刑を免れていた。

 

・1979年には天然痘の根絶が正式に宣言され、そう遠くない未来に、他の伝染病も根絶されるだろうという楽観的な見方が広まった。

 それから40年が経過したが、天然痘以外に人類が根絶できたヒトの伝染病はまだない。根絶寸前までいったものはいくつかあるが、伝染病は実にしぶとく、ほぼ根絶されたと思われていた状態から再流行が始まったケースもある。さらに何の前触れもなく新たな伝染病が発生し、交通網の発達のおかげであっという間に世界中に広がることすら起こり得るようになった。加えて、感染症の治療法として最も効果がある抗生物質に耐性を持つ病原体の増加も懸念されている

 

2002年、未知の新型肺炎が中国で広がった。重症急性呼吸器症候群(SARS)と名付けられたこの病気で命を落とした患者はアジア、南北アメリカ大陸、ヨーロッパで700人以上にのぼる。のちに、この新種の病原体は普通の風邪の症状を起こすウイルスの仲間だということがわかった。それまでの風邪のウイルスは、ちょっとしたのどの痛みを引き起こす程度のごく弱いものだった。

 エボラ出血熱が最初に知られるようになったのは1976年のことだ。この時は中央アフリカのごく一部の地域での流行だったため、ほとんど注目されなかった。ところが2014年に、突如として、爆発的な流行が始まった。過去にエボラ患者が出ていなかった西アフリカで最初の患者が確認されると、ヨーロッパや米国など他の地域にも感染が広がっていった。

 

2016年までにHIV感染とエイズの世界的流行により少なくとも3500万人が死亡し、さらに数千万人がウイルスのキャリアであることがわかっている。しかも患者の大多数は命を救うために必要な薬を手に入れられずにいる。これに匹敵する規模の伝染病を探すなら、14世紀のペストにまでさかのぼらなければならない。当時8000万人だったヨーロッパの全人口の60%が死亡し、全世界では7500万人から2億人の死者が出たと推定されている。

 14世紀には微生物の存在はまったく知られておらず、人々の生活の中心にあったのは宗教だった。そのため、ハンセン病は神の罰とされ、ペストも同じような捉え方をしていたようだ。

 

・本書で示す地図それぞれの背後には、人類が味わってきた恐怖と苦しみがある。しかし同時に、人類がどこまでも手ごわい、恐るべき敵を撃退する力を手に入れるための知識を求めて、たゆまぬ努力を続けたことも見て取れるだろう。

 

SARS

病原体: SARSコロナウイルス

感染経路: 完全には解明されていないが、感染者との濃厚な接触(主に経気道感染)やウイルスが付着した場所に触れることを介して感染すると考えられている

症状: 発熱、全身の懈怠感、筋肉痛、頭痛、下痢、悪寒などインフルエンザに似た症状が出る

発生状況: 2018年半ばの段階で2004年以降SARSの報告はない

流行状況: 現時点で発生の報告はないが、流行が起これば世界中に広がる恐れがある

予防: 新たな患者が発生した場合は速やかに報告し、感染者と接触者を隔離する

治療: 確立された治療法はないが、抗ウイルス剤を使用し、呼吸管理、肺炎の予防または治療、肺の腫脹を抑える治療が行われる

グローバル戦略: 新たな患者の発生を世界レベルで監視し、迅速な報告と封じ込めを行う

 

2002年11月16日、中南部広東省で農業に従事する若い男性が、肺炎に似た症状で仏山第一人民医院に入院した。その症状は一般的な肺炎

とは異なるものだった。男性は回復して退院したが、どこでどのようにして病気にかかったのかはわからないままだった。その後の数週間で同じ症状を示す患者が次々と現れた。

 

あっという間の感染拡大

・3カ月後、広東省でこの病気の治療にあたっていた医師の1人が結婚式に出席するため香港に向かった、この医師は香港のメトロポールホテルにチェックインした頃から体調を崩し、数日後に死亡する。医師のホテル滞在は24時間にも満たなかったが、近くの部屋に泊まっていた宿泊客にもすでに感染はひろがっていた。78歳のカナダ人女性も感染した1人だった。2日後に女性は自宅のあるカナダのトロントに戻ったが、その時点で肺炎に似た症状を呈しており、3月5日に死亡した。それからの数週間というもの、マスコミは騒然となる。カナダではおよそ400人が同様の症状を訴え、トロントの住民2万5000人に隔離措置がとられ、44人の患者が死亡した。

 中国系米国人のビジネスマン、ジョニー・チャンもメトロホールホテルに宿泊していた宿泊していた1人だ。チャンはベトナムに向かう飛行機の機内で具合が悪くなり、ハノイの病院に運ばれた。チャンは病院で死亡したが、医療スタッフや他の患者に感染が広がった。

 

・その頃、世界保健機関(WHO)の職員で感染症が専門のイタリア人医師カルロ・ウルバニはハノイを拠点に活動していた。ウルバニのもとに病院から緊急要請の電話が入り、調査に向かった。ウルバニはこの病気を今までにない未知の感染症だと結論付け、WHOに警戒態勢を敷くように連絡した。彼もまたこの病気に感染し、死亡した。

 

・2003年3月半ば、イギリスの新聞『サンデータイムズ』に「死の病原菌がヨーロッパにも」という見出しが躍った。ニューヨークからシンガポールに向かう飛行機の乗客150人以上に「従来の治療が効かない新型肺炎」と接触した恐れがあるため、ドイツのフランクフルトで隔離されているという記事だった。隔離は流行発生時の対策として古くから行われてきた手法で、賛否はあるものの、不明点が多くワクチンもない状況では、いかに21世紀とはいえ当局もこのやり方に頼るしかなかった

 

・3月の第3週までに350人の感染が疑われ、そのうち10人が死亡し、感染はイタリア、アイルランド、米国、シンガポールなど13カ国に拡大した。2週間後には感染者を出した国は18カ国に増え、2400人以上の感染者と、89人の死者が出た。WHOは調査のため国際的な専門家チームを中国に派遣。米国は隔離措置が可能な感染症のリストにSARSを加えた。

 

国際的な対応

・後になって、WHOはカルロ・ウルバニ医師の行動により流行の初期段階で多数の新規患者を特定して隔離できたため、さらなる感染拡大を防止できたと発表している。WHOは世界中の医師に向けてSARSへの注意を呼びかけた。ここで重要な役割を果たしたのが、国際保健規則だ。最初の導入は1969年で、コレラ、ペスト、黄熱、天然痘の監視と管理が目的だった。WHOは2005年に、SARSの流行を受けて新しい感染症にも対応できるよう改訂した。

 

・2月の終わりにWHOは重症急性呼吸器症候群、略してSARSと呼ばれるようになったこの病気を正式に認定した。

 

・SARSの感染拡大は、公衆衛生を脅かすリスクになっただけでなく、経済にも打撃を加えた。4月末の時点でタイへの旅行者は70%、シンガポールへの旅行者は60%も減少した。

 

恐ろしい新型コロナウイルス

・2003年4月、SARSの正体がやっと見えてくる。香港の研究者たちがSARSの病原体はコロナウイルスの新型である可能性が高いという論文を発表したのだ。「コロナウイルス」という名前はラテン語で「王冠」や「光環」を意味する「コロナ」に由来し、ウイルスの表面に王冠のような突起があることからこう呼ばれる。SARSを引き起こす特殊なコロナウイルスは過去に人間からも動物からも見つかったことがなかった。

 コロナウイルス自体はありふれたウイルスで、通常は重症化することなく、普通の風邪程度ですむ。しかし、SARSのような特殊なコロナウイルスは命を脅かす存在になる。SARSは主に感染者との濃厚な接触キス、ハグ、直接接触、食器やコップの共有、1メートル以内の接近)により感染すると考えられている。

 

患者が咳やくしゃみをしたときに飛び散る飛沫によって広がることが多い。飛沫が付着した表面や物体に触れた手で口や鼻、目を触ったときにもウイルスに感染する。広い範囲の空気感染や他の経路による感染が起こっている可能性もあるが、完全には解明されていない。

 2003年4月23日、北京郊外で1000床のSARS専門病院が開院した。この小湯山医院は迅速に患者に対応したが、治療した患者はわずか680人で、6月の終わりにもはや必要がなくなった。WHOは中国でSARSの危機が去ったと判断し、7月初めにSARS患者が出た29カ国でのSARSの終息を宣言。北米、南米、ヨーロッパ、アジアの諸国を巻き込み、8098人の患者と774人の死者を出し、世界を震撼させたSARSの大流行は突如として始まり、あっという間に終息したのだ。

 

・最初の感染源を含めて、SARSについてはまだわかっていないことが多い。中国で流行が始まった地域で捕獲されたハクビシンからSARSに似たウイルスが単離されたと発表されると、中国政府は駆除を開始し、1万頭以上のハクビシンアナグマ、タヌキが処分された。中国に生息するキクガシラコウモリも感染源になった可能性が指摘されている。

 

MERSの登場

・2018年の時点で、2004年以降にSARSの報告はない。しかし、2012年に米国はSARSウイルスを国民の健康や安全にとって重大な脅威となる可能性がある「特定病原体」に指定した。そして同じ年に、別の新型コロナウイルスサウジアラビアに現れた。

 サウジアラビアの都市ジェッダの病院で、1人の患者が急性肺炎と臓器不全のため死亡した。病院では病原体を特定できなかったため、オランダの研究所に喀痰(かくたん)検査を依頼したところ、中東呼吸器症候群コロナウイルスMERSコロナウイルス)が検出された。このウイルスこそ、中東呼吸器症候群、略してMERSはSARSに似た病気で、致死率は約40%にも達する。

 

2018年現在、米国、イラン、フィリピンと、イギリスなどヨーロッパの数カ国を含む合計27ヵ国でMERSの発生が報告されている。だが、患者の約80%はサウジアラビアに集中しており、人から人への感染以外にヒトコブラクダからの感染も疑われている。MERSはコウモリが持っていたウイルスがラクダに広がった可能性がある。中東以外で発生した患者は、同地域に旅行して感染したケースがほとんどだ。

 

普通の風邪の原因となるひとコロナウイルスは何百年もの間、重篤な症状を引き起こすことはなかった。それが、なぜ今になって突如として致死性の高い新型ウイルスが出現したのか。SARSの流行語、専門家はこれを「実に憂慮すべき問題」だと評した。SARSと入れ替わるように致死性の高いMERSが出現したのは、そのすぐ後だった。

 

ペスト Plague

病原体: ペスト菌

感染経路: ネズミなどのげっ歯類の動物からノミを介して人間に感染する。また、空気感染や菌が入り込んだ細胞に直接接触することにより人間同士の間で感染が起こる場合もある

症状: 発熱、悪寒、全身筋肉痛、衰弱、嘔吐、吐き気。最も一般的な腺ペストではリンパ節が腫れて痛みが生じ、膿がたまって破裂することもある

発生状況: 2010~15年の世界の患者数は3248人、死者は548人。腺ペストの致死率は30~60%。腺ペストの次に多い肺ペストは、治療しないまま放置すると確実に死に至る

進行状況: 南北アメリカ、アフリカ、アジアの各農村部で風土病となっており、主にコンゴ民主共和国マダガスカル、ペルーに集中している

予防: ペストが風土病になっている地域において、ネズミの巣の撤去と殺虫剤の使用

治療: 抗生物質の投与と酸素吸入療法と点滴の併用

グローバル戦略: ペスト感染のリスクがある地域の監視と、流行を封じ込めるための迅速な対応

 

・ペストは何世紀もの間、世界中に大きな惨禍をもたらしてきた。その影響は大きく、経済や政治にも動揺を与え、社会階層を変えることすらあった。ペストの英語Plague は、「傷」あるいは「襲うもの」を意味するラテン語に由来し、「疫病」とも訳される。人々に恐れられ、あらゆる形の災害を表現する言葉になっていたのだ。例えば、旧約聖書イスラエル人を救い出すために神がエジプトにもたらした十の災いは英語で「ten plagues(10の疫病)」と言い表される。

 ペストの歴史は古い。2017年には、ロシアとクロアチアで発見された後期旧石器時代の人骨からペストの痕跡が見つかったことが発表された。歴史学者の間では、紀元165年にローマを襲って多くの死者を出した「疫病」が、ローマ帝国崩壊の一因となったと指摘する声もある。ただし、この時の疫病が腺ペストだったのか、天然痘などの他の伝染病だったのかはわかっていない。この流行を除いても、ペストは少なくとも3回の大流行を起こしている。

 

ユスティニアヌスのペスト

・記録に残っている最初のペスト流行は、ビザンツ帝国東ローマ帝国)皇帝の名前をとって「ユスティニアヌスのペスト」と名付けられている。伝染病の流行としては信頼性の高い記録が残っている最初のものだ。この時の流行は紀元541年にコンスタンティノープル(現在のイスタンブール)で始まり、東はペルシャ、西は南ヨーロッパへと広がって、最終的には世界の全人口の33~40%が死亡したと言われている。

 コンスタンティノープルからペストが拡大する過程は明らかになっているが、そもそもコンスタンティノープルに入り込んだ経路はよくわかっていない。ペストの惨禍を目の当たりにしたビザンツ帝国の歴史家プロコピオスは、交易路をたどってエジプトから伝わったと主張している。最近の研究では、この時のペストはおそらくケニアウガンダコンゴあたりのサハラ以南の地域で発生し、そこからエジプトに移動したか、別の経路をたどってビザンツ帝国の首都に到達した可能性が示唆されている。現在のロシアから中国にかけての地域が発生地だったとする説もある。この地域が約800年後の「黒死病(ペスト)」の発生地だったことは現在では定説になっているからだ。

 コンスタンティノープルに冬が訪れるとペストの勢いは衰え、次の春がめぐってくると再び猛威を振るうというのが典型だった。流行は散発的に8世紀まで続いた。

 この病気を引き起こす病原体はペスト菌と呼ばれる細菌だ。げっ歯類に寄生する、ペスト菌を持つノミに人間が噛まれて感染することが多い。また、患者の咳やくしゃみの飛沫を吸ったり、菌がいる細胞に直接触れることでも感染する。

 

・かつてはネズミがペストを運ぶと考えられていたが、2018年に初めに、過去の世界的大流行の原因をネズミだとするには、すさまじい勢いで感染が広がった理由を説明できないという研究結果が出された。この研究では、人間の体や衣類にすみついたノミやシラミがペストを運んだ可能性が高いと結論付けている。

 ペストには腺ペストと肺ペストの2種類に分けられる。腺ペストはペスト患者の大部分を占め、リンパ節に集中する。肺ペストは肺が中心となり、致死率は高いが、かかることは少ない。もう一つ敗血症型ペストというものもある。こちらは、血液中にペスト菌が入り込んだ場合に発症する。

 

黒死病

・腺ペストにかかると、首やわきの下、鼠蹊部に腫れと痛みを伴う黒い「黄痃(おうげん)」ができる。

 

黒死病と恐れられたペストは史上最悪の伝染病と言われる当時8000万人だったヨーロッパの人口の60%が死亡し、世界全体では7500万人から2億人が命を落とした。長い間、黒死病は中国からヨーロッパへ持ち込まれたと考えられてきたが、ヨーロッパとアジアの間に横たわる広大な草原地帯が発生地だったとする説もある。カスピ海から南ロシアにかけての地域では、野ネズミが密集して暮らす巣にペスト菌がはびこり、ペストの温床になっているためだ。

 黒死病の最初の発生をたどっていくと、1346年のクリミアに行きつく。クリミア半島に築かれたイタリアの交易拠点をモンゴル軍が攻撃した際に、モンゴル軍でペストが発生し、それがすぐに町中に広まった。逃げ出したイタリア商人たちを乗せた船はあちこちに寄港しながら彼らを母国に送り届けたが、その船にペスト菌を持ったネズミたちも乗り込んでいたようだ。

 

・イタリア商人たちの船がクリミアを出てコンスタンティノープルに到着したのが1347年5月、その地で流行が始まったのは7月の初めだった。

ンスタンティノープルからはエジプトのアレキサンドリア行きの船が多数出ていたため、ペストはアレキサンドリアに運び込まれた。次いで北アフリカに広がり、中東を超えた。地中海沿岸地域でも流行して、9月にフランスの南部のマルセイユに達した。マルセイユからは北上してローヌ渓谷やリヨンに広がり、さらに南西のスペインにも拡大。その間も、イタリアの商船はジェノバベネチア、ピサに向かっていた。

 

・スペインはその後まもなく二方面からペストに襲われた。フランスのペストは西に広がりブルターニュ地方、次いで北東のパリへと進む。

 

・ペストがフランスからイギリスに入ってきたのは1647年6月のことで、現在のドーセット州沿岸部のウェイマスが最初に襲われた。

 

・ペストとがロンドンを襲ったのは1347年の8月で、瞬く間に国全体にペストが蔓延した。スコットランドウェールズアイルランドもそれに続いた。

 ほぼ時期を同じくして、ノルウェーデンマークスウェーデン、ドイツ、オーストリア、スイス、ポーランドにもペストの波が押し寄せた。そして、1351年末にはロシアに達する。ヨーロッパでペストの惨禍を免れたのは、人口がわずかで外界との接触が少なかったアイスランドフィンランドだけだったと言われている。

 

・ヨーロッパを席巻したペストは1353年にようやくおさまったが、その後も小規模な流行があちこちで散見された。イギリスでは、15世紀に入ってもしぶとくペストが残っていた。1563年には、ロンドンで当時の人口の4分の1から3分の1にあたる2万人以上の死者が出た。

 

ロンドンのペスト大流行

・17世紀の大流行として記録に残る「ロンドンのペスト大流行」の最初の患者は、1665年の初めにウェストミンスター地区を通るドルリーレーン沿いのロンドンウォールの外側で死亡した2人だった。

 

・暑い夏の間、ペストによる死者はとどまるところを知らず増え続け、9月に入った頃には1週間で7165人が死亡した。宮廷や法曹関係者、議会といった富裕層や権力者の多くはロンドンから逃げ出した。

 

・一般に、秋になって気温が下がるとペストの勢いは衰える。詳細な日記をつけていたことで有名なイングランドの官僚のサミュエル・ピープスは、10月半ばに次のように書いている。「しかし、通りに人影はなく、憂鬱なことに大勢の病気の貧乏人が通りで苦しみもだえている(中略)だが、今週は大幅な減少が大いに期待される

 ピープスの期待は現実となり、ロンドンのペスト大流行は終焉を迎えた。公式発表の死者数は6万8596人だったが、実際は10万人以上が亡くなったと考えられている。

 

現代のペスト

・3回目の大流行にして最後の世界規模の流行は1860年代に中国で発生し、1894年に香港に達した。それからはお決まりの流行パターンをたどって世界中の港湾都市に広がっていった。20年間続いた流行によって1000万~1200万人の死者が出たと推定されている。20世紀前半にはインドでペストが流行し、ベトナムでは1960年代から70年代にかけてのベトナム戦争中に流行した。サハラ以南のアフリカやマダガスカルでは、現在もペストは珍しくなく、報告症例数の95%以上をこの地域が占める。

 

・現代のペストが発生した時期は、伝染病の科学的な解明が大きく進展した頃と重なる。ルイ・パスツールの細菌説を足がかりに、19世紀後半から20世紀初頭には様々な伝染病を引き起こす多数の細菌が発見された。

 香港に現代のペストが到達した1894年に、フランスの細菌学者アレクサンドル・イェルサンや日本の北里柴三郎がペストの病原体となる細菌を発見し、感染経路を明らかにした。

 

・それからまもなく、都市部ではネズミが関与するペストは終息したものの、南北アメリカ、アフリカ、アジアではジリスなど現地に生息する小型の哺乳類の保菌が増えた。このような新たな保菌動物の登場により、米国西部を含む多数の地域でペストは風土病になった。2017年10月の時点で、ペストはコンゴ民主共和国マダガスカル、ペルーで最大の風土病となっている。ペストは感染拡大が速く、死亡率も高いため、ペスト患者の遺体を城壁超しに投げ込んだり、飛行機からペスト菌を持ったノミをばらまいたりという荒っぽいやり方で、何百年も前から生物兵器として利用されてきた。近年は、テロリストに利用される恐れがあるとして、安全保障における脅威に指定されている。米国の専門委員会は、「噴霧できる状態にしたペスト菌」は恐ろしい武器になる可能性があると警告している。

 

 

 

『地球の支配者は爬虫類人的異星人である』 

 (太田龍)(成甲書房)2007/9/15

 

 

 

黒死病は異星人の生物兵器だった

中世(~近世)ヨーロッパの黒死病(ペスト)の原因はUFOを使った異星人の生物兵器作戦であった、などという説明は初めて聞く。これは何らかの根拠のある話なのか。ブラムレイは以下の3冊の著作を引用している

1、ヨハネス・ノール著「黒死病―悪疫の年代記」(1926年)

2、ジョージ・デュー著「黒死病―1347年」(1969年)

3、ウォルター・ジョージ・ベル著「1665年―ロンドンの大悪疫」(1924年

 

・この時代の黒死病(ペスト)には、二つの型が観察、記録された。一つは腺ペスト。つまりリンパ腺がやられる。二つ目は、肺炎。いずれも致死的なもので、ごく短期日のうちに死亡する。

1347年から1350年までの4年足らずのうちにヨーロッパの人口の3分の1、2500万人が黒死病で死亡した。ある歴史家は、死者は3500万ないし4000万人、あるいはヨーロッパ人口の半分と推計している。このあと18世紀まで継続的な黒死病の罹病による死者は、1億人以上と信じられている。

 

ところが前記3冊の専門家の研究所によれば、黒死病の発生時にはUFOの活動が頻繁に見られたのみでなく、UFOの飛行物体の襲来に際してある種の霧が降下し、そして、その後突如として黒死病の大伝染と莫大な死者という順序だったという。この一件は初めて知った。私の知る限り、日本で公表された著作論文のたぐいでヨーロッパ黒死病とUFOの活動の濃厚な関連が指摘されたことは未だかってなかった。もしこの説が事実であるとしよう。しかし、その「動機」と「目的」は何か。いかなる目的で地球を支配している異星人は、14世紀以降のキリスト教ヨーロッパにかくも残酷な生物兵器戦争を展開したのであろう。

 

ブラムレイは、14世紀以降たびたびヨーロッパを襲った黒死病(1347-50年のものが最も有名で最悪の災害をもたらしたが、その後も17、8世紀まで何度も発生した)を異星人による意図的な生物兵器作戦の結果である、と論じている。それはなぜか。いかなる理由で異星人はこんな攻撃をヨーロッパキリスト教国の国民に仕掛けなければならなかったのか。

 

人類のジョノサイドがいよいよ始まる

悪疫の腺ペストによる症状は、旧約聖書の神(GOD)によって加えられた罰の中のあるものと、全く同一でないとしても、きわめてよく似ていた」として、ブラムレイは、『サムエル記』を引用している。

これはイスラエル軍とペリシテ軍の戦闘の場面である。イスラエル軍は敗北し、ペリシテ人イスラエル人から神の箱を奪い取った。すると、

 「主の御手は、シュドトの人々の上に重くのしかかり、災害をもたらした。主はシュドトとその周辺の人々を打って、腫れものを生じさせた」

箱が移されて来ると、主の御手がその町(ガド)に甚だしい恐慌を引き起こした。町の住民は、小さい者から大きい者までも打たれ、腫れものが彼らの間に広がった

「実際、町(エクロレ)全体が死の恐怖に包まれ、神の御手はそこに重くのしかかっていた。死を免れた人びとも腫れものを打たれ、町の叫び声は天にまで達した」

 

・「神の箱」とは「契約の箱」とも呼ばれるユダヤ教旧約聖書で最も重要なものの一つとされるが、BC6世紀、バビロニア軍がエルサレムを陥落させる直前に行方不明になったという、あの箱のこと。

 

・腫れものを生じさせるこの時の悪疫はごく局部的な現象であったが、14-18世紀のヨーロッパ人を襲った悪疫は人類史上、最大規模のものであろう。もしもこれがブラムレイのういう監視人的異星人の仕業であるとすれば、彼らには、それだけの作戦を演出しなければならない理由があったはずだ。つまり、ローマやカトリック教会とその支配が及ぶ中西欧南欧一帯の住民、その文化と文明が、彼らにとって大きな脅威となって来た。ゆえにこれをしかるべく“料理”しなければならない、ということなのか。

 

 

 

『図説UFO』

 (桜井慎太郎)(新紀元社)2008/4/11

 

 

 

マゴニア

世界中にある異星人の民間伝承

・誰が何といおうと、UFO現象こそ究極の超常現象であり、UFO研究は、超常現象研究の王道である。

・我々は、何者なのか、どこから来てどこへ行くのか?もしかしたら、UFO研究こそ、この究極の問題を解決する糸口になるかもしれないのである。

 

マゴニアとラピュータ

天空の世界マゴニア

・マゴニアとは、中世フランスの民間伝承において、空中にあると信じられた架空の領域である。マゴニアと地上とは、空中を飛行する船により連絡されると信じられていた。

9世紀のリヨンの記録には、「空中を飛ぶ船から落下した人物が捕らえられた」という記述が残っている。この時、男3人、女1人が捕らえられた。民衆はこの4人を石打の刑にして殺そうとしていたが、現場に駆け付けた当時のリヨン大司教アゴバールは、彼らが通常の人間であるとして、その解放を命じたという。

マゴニアの名が一般に広まぅたのはUFO事件と古来の伝承との内容の共通性に注目したジャック・バレーが『マゴニアへのパスポート』を著したことによる。

 

飛行体ラピュータ

同じく空中に漂う国としては、「ガリバー旅行記」に登場するラピュータがある。ラピュータは、ガリバーが3回目の航海で訪れた国で、その領土は、地上にあるバルニバービと呼ばれる領土と、直径7837ヤード(約7166メートル)の真円の飛行体ラピュータとで構成されている。

 

<ラエル事件>

・フランス人のクローボ・ボリロンことラエルは、自らのコンタクト・ストーリーを公開し、周囲に多くの信奉者を集めている。

 

・この異星人達は自らをエロヒムと呼ぶようにいい、人類を含む地球の生物すべては2万5000年前、自分たちが地球を訪れた際に作り出した人造生物だと明かした。そして、「旧約聖書」は、そのことを詳しく記したものだという。また、イエス仏陀などの預言者は、いずれも人類を正しい方向に導くためにエロヒムが送った使者であった。

 

・このラエリアン・ムーブメントは現在、日本を含め世界の20カ国に支部を持ち数万人の信者を集めている。

 

 

 

『聖書の暗号は知っていた』

(闇の絶対支配者)ロスチャイルドイルミナティフリーメーソン

伊達巌、船井幸雄  徳間書店 2010/2/27

 

 

 

最初の感染者がアメリカの大都市で現れ、ゲイにエイズが広まった理由

アメリカでは、危険な薬物の人体実験が犯罪受刑者に対して行われている。

もちろん、受刑者にも選ぶ権利はある。人体実験により死や発病といった命に関わる危険がある代わりに、もし人体実験が成功した場合には、彼らが自由の身になれる。危険な賭けだが、受刑者の中には一生刑務所で過ごさなければならない終身刑の受刑者もいる。一生監獄で過ごすぐらいなら、一か八かに賭けてみたいと、人体実験に自ら応じる受刑者も少なくないという。

 

エイズウィルスは黒人を減らすために開発された生物兵器だった

 

天然痘撲滅キャンペーンを利用して世界中にばらまかれたエイズウィルスはアフリカを中心に各地で多くの感染者を生みだした。今やエイズは2500万人以上の人々の命を奪い。6000万人以上という莫大な数の感染者を生みだした。その数は、今も増え続けている。国連の調査によれば、このまま行くと2025年にインドで3100万人、中国で1800万人、アフリカでなんと1億人もの死者を出すと予想されている。

 

今やアフリカでは死亡原因の第一位がエイズであり、その数は世界中のエイズによる死者の半分以上に当たるといわれている

 

・なぜ、これほどまでにアフリカで被害が拡大しているのか。発展途上国であること、国が効果的な対策を行っていないこと、人々にエイズの知識がなく感染を防ぐことができないこと、さまざまな問題があることは事実だが、実はそれ以前の問題を指摘する人もいる。

 それは、そもそもエイズウィルスが黒人をターゲットに開発された生物兵器だというものだ。

 

・若い黒人女性及び黒人小児の罹患率が高いため、黒人の人工増加は制限されると考えられる。エイズウィルスの伝播が抑えられなければ2010年には、黒人の人口増加率はゼロになるだろう。

 

イルミナティの残虐性の源

・なぜなら、この文書(「シオンの議定書」)によってユダヤ人迫害が誘発されユダヤ人虐殺が行われたからこそ、イスラエルの建国が現実のものとなったからだ。

ここでもう一度、アルバート・パイクの手紙を思い出して欲しい。彼は手紙の中で次のように語っていた。

「第3次世界大戦は、シオニストとアラブ人との間に、イルミナティ・エージェントが引き起こす意見の相違によって起こるべきである。世界的な紛争の拡大が計画されている」今、確かにイスラエル人とアラブ人は、パレスチナの地をめぐって絶えまない紛争を引き起こしている。これこそ、第3次世界大戦の予兆なのではないだろうか。

 

 

 

『無防備列島』

志方俊之   海竜社 2006/6/23

 

 

 

生物テロの被害を局限する備えを構築せよ

人類の新たな敵、SARSウィルス、天然痘ウィルス・・・・>

・我が国は地下鉄サリン事件のオウム集団に対して、破壊活動防止法を適用し、これを徹底的に壊滅させたことだろう。間違いなく世論もそれを支持したに違いない。

 

・しかし、現実はその逆だったわけで、集団そのものは名を変えて、活動を続けている。世界の危機管理感覚からすれば、11年前の日本は「世にも不思議な国」だった。

 

・2003年のSARSのアウトブレイク(大規模感染)は、どうやら中国の広東省で、ある種の動物を宿主としていたコロナ・ウィルスが、この肉を食した人間に入り込み、アッという間に多くの人に感染し、中国内だけでなく、海を渡って外国にまで感染していったと言われている。

 

・要するに、天然痘の伝染力はSARSの何倍もあり、かつ死亡率は40%とSARSの4倍にもなるから、単に日常生活の中で起きた2003年のようなアウト・ブレイクではなく、もしテロリストによって意図的にばら蒔かれたら、世界は想像を絶する危機に直面する。

 

非常時の危機管理は「地方分権」から「中央集権」機能へ

・我が国は、ここへきて、これまで進めてきた「地方分権」のベクトルから、非常時の危機管理には「中央集権」の機能が必要になり、ベクトルを逆に向けなくてはならなくなってきたのだ。

 

恐るべきは北朝鮮の核ミサイルより生物テロ

・それに最適な手段の一つは、生物テロだ。このような戦争は、宣戦布告もない、前線も後方の区別もない、毎日の社会生活の場が突然に戦場になるという脅威だ。

 

・このような新しい脅威と戦うのは陸海空軍と言う軍隊(わが国の場合は陸海空自衛隊)だけでなく、社会生活のインフラを支える警察や消防や保健所の力である。

 

「密かな攻撃」生物テロの恐ろしさ

生物テロの真の恐ろしさは、テロリストが逃走できることからテロを行いやすいことである。

 

被害を局限するために、恐れず着実に備えよ

・わが国の社会は非常にテロに弱いと言える。テロ・グループを摘発するために外国では許されている囮捜査や司法取引が行われていない。

 

・要するに、わが国では政治家も国民も危機管理意識が極めて希薄なのだ。

 

・テロの中でもわが国は松本と地下鉄でのサリン・ガスによる化学テロで世界に悪名を馳せた。生物テロは化学テロリストよりも対処が難しいことから、わが国の社会は生物テロへの備えと真剣に取り組まなければならない。

 

 

 

『こうして、2016年、「日本の時代」が本格的に始まった!』

日下公人  WAC   2016/2/24

 

 

 

「日本の時代」の始まり

世界の国がすべて崩壊し始めた

・2016年に入って、世界が崩壊し、日本の時代が始まったことを象徴する出来事が次々と起こっている。中国経済の崩壊、サウジアラビアとイランの衝突、北朝鮮が「水爆」と称する核実験など、世界の崩壊が現実のものとなって表れてきた。世界各地で問題が噴出し始め、世界はますますひどい状態になっている。それを解決できる国も存在しない。

 

アメリカもヨーロッパもロシアも、もはや力がない。つまり、これまで世界を支配してきた「白人」の指導力の衰えが明確になっているということだ。

 では、中国はどうかというと、経済指標はごまかしだらけで、国内では事故が頻繁に起こり、破綻状態である。国内の不満を逸らすため、海洋進出を図っているが、人工島建設などで世界から警戒され、嫌われている。

 言うまでもないが、世界一安定した実力を持った国が日本である。世界が沈んでいくなかで、日本の実力が突出してきた。

 

アメリカにもヨーロッパにも、もう力がない

・しかし、規模の利益しか見ていないところに彼らの失敗があった。「規模が大きくなれば大丈夫だ」と思って、安心してますます働かなくなる国が出てきた。EU域内で、国民が一所懸命に働いている国はドイツくらいである。あとの国はぶら下がり集団になってしまった。

 特に、債務危機が起こった国々は、もともとぶら下がり精神からくっついただけである。

 

埋蔵金があるからヨーロッパ人は働く気がない

・ヨーロッパが深刻な経済危機を迎えながらも辛うじて保たれているのは、各国が埋蔵金を持っているためだ。何百年もの間、植民地から搾取を続けてきた埋蔵金が眠っている。

 

多くの日本人がいよいよ目を覚ました

・「日本の実力」というと、政府の力を思い浮かべる人もいるかもしれないが、日本の実力は、政府ではなく民間にある。

 私はずっとビジネス界にいたからよく知っているが、戦後に鉄鋼、電力、石炭、海運が回復したのは、通産省が主導した奇跡の回復などではない。すべて国民が働き、復興させてきたものだ。通産省はその果実を貢がせて、勝手に自分たちの手柄としただけである。

 

通産省農林省の役人たちは、自分たちに都合よく『通産白書』『農林白書』を書いてきた。『建設白書』も同じである。それをマスコミが鵜呑みにしたから、役所の主導で日本が復活したかのように誤解されているだけだ。

 

「日本の時代」には、たかりに気をつけないといけない

・世界があまりにもひどい状態のため、日本の素晴らしさが際立ってきたが、それに満足して喜んでいるだけでは駄目である。

 日本の調子がよいため、よその国からたかられ、ゆすられる可能性が大きくなった。それに対してきちんと備えをしておかなければいけない。

 

・我々日本人が知っておかなければならいことは、「世界はみんな腹黒い」ということである。欧米がつくり出した戦後史観のなかでは、「欧米諸国は先進的な素晴らしい国」ということになっているが、世界史を冷静に振り返ってみれば、彼らがいかに腹黒いかがよく分かる。

 しかし、彼らは腹黒いのが当たり前だと思っている。日本とは常識が違っている。もちろん、自分たちが腹黒いという認識はない。

 外交だけでなく、ビジネスにおいても、日本と外国では常識が違っていることが多い。日本は以心伝心が成立する国なので、自分でも自分が分からない。いかに善人かの自覚がない。言語、文書、契約などで念を押す習慣がないため、日本人は騙されて損をすることだらけである。

 

・日本が世界の中心になればなるほど、世界中の腹黒い国が嫌がらせをしてくる。「日本の時代」を迎えるにあたって、「世界は腹黒い」ということを強く認識しておかないといけない。

 腹黒い国がどんな腹黒いことをするかを、日本人はもうよく分かったと思っているようだが、まだまだ足りない。それから、どんな国が狙われるかは常識で分かる。その例をいくつか挙げてみよう。

 

グローバリズムを真に受けてドアを開けてしまった国

国内相互もそうなった国

生活も産業もすっかり高度化して、世界市場と世界の情報網に連結してしまった国。

外国からのサイバー攻撃や細菌攻撃や情報攻撃や条約攻撃に弱い国。

用心不足でテロや工作にも弱い国。

しかも余裕資金と善意に溢れている国。

と書き上げていけば、日本が一番弱い国だと分かるではないか。

 

日本が目覚め、アメリカ、中国が報いを受ける

・瀬島は喜んで教えてくれた。

「あの当時は、ドイツが勝つと信じていた」

 

しかし11月の末に、モスクワの前面50キロのところでドイツ軍はストップした。攻撃再開は来週かもしれない。冬だから春まで待っての攻撃再開かもしれない。だが、いずれは攻撃を再開し、ドイツが勝利する。それに乗り遅れてはいけないので早く参戦しなければいけない、という雰囲気だったそうだ。

 

・その話を聞いたときに、これはウソではないだろうと思った。「勝ち馬に乗れ」ということで、開戦が決まったのだ。

大本営はドイツが勝つと信じていたから、3月の攻撃再開が駄目でも、4月か5月にはドイツが勝つだろうと見ていた。

大使館などを通じて、ドイツの攻撃はこれでストップだという電報は入っていたはずだが、それは重視しなかった。大本営の判断ミスと言っていいだろう。

 

どうしたら、あの戦争に勝てたのか?

・当時は、原爆投下で一般庶民が大量に殺されても「残虐だ」という意見は軍部ではほとんど出ていなかった。というのは、日本も原爆の研究をしていたからだ。「残虐非道だ」」という意見よりも「開発競争に負けてしまった」という声のほうが多かった。もし日本が先に開発に成功していたら、日本が先に使っていたはずである。

 その点では、日本も強く言える立場ではなかったが、もちろん当時の国際法の常識では一般市民を殺してはいけないことになっていたので、東京大空襲や原爆投下は犯罪である。

 

主権を奪うTPPは即座に撤回してやめるべき

アメリカが主導しているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、とんでもないインチキだ。安倍総理アメリカとの正面衝突を避けたいから要領よくやっているのだと思うが、TPPはアメリカによる主権の強盗のようなものだ。

 

・関税は一括で決めるのではなく、国家の主権を大事にして一つひとつ交渉していくべきである。アメリカ人が「一括引き下げせよ」というのは、人を馬鹿にしているとしか言いようがない。彼らは他国から主権を奪い取る強盗のようなものだ。

 ところが、日本の外務省の人や秀才たちは、いまだに全部まとめて一括でやることはいいことだと思っているのである。

 

グローバリズム」を理解するにはユダヤ人の歴史を知る

ユダヤ人が金に執着するのは仕方のない面がある

ユダヤ人たちは、ローマ軍に包囲されて、最後の砦と言われるマサダの丘の上に籠ったが皆殺しにされた。そのとき、マサダに籠もらなかったユダヤ人もいたが、その人たちにローマは人頭税をかけた。それが降伏を許した条件である。デナリという特別の通貨を発行して、定期間ごとに1デナリを持ってこないと死刑にするとした。人頭税は過酷なものだが、かなり効き目がある。

 

人頭税をかけられたユダヤ人は、定期間ごとに1デナリを持っていかないと殺されてしまうから金にうるさくなった。ユダヤ人が拝金主義になったのは、ローマ人が悪いのであってユダヤ人が悪いわけではない、と私は思っている。

 こうしたユダヤ人の歴史のあらすじを知っておくと、「グローバリズム」について理解しやすくなる。ユダヤ人にとって、金は自分たちの命を守るために非常に大事なものなのである。

 その後、ユダヤ人たちは金を儲けて、国際金融資本というものをつくった。金というのは動かしたほうが儲かる。戦争であろうが何であろうが、金が動けば儲けが出る。金が自由に動けるようにするには国境なんかないほうがいい。それが、ユダヤ系の国際金融資本にとって一番有利な環境だ。そういう環境をつくるために出てきた言葉が「グローバリズム」である。

 要するに、「グローバリズム」というのは、ユダヤ的な一神教の考え方だ。金融の邪魔になる国家の壁をなくそうとするものだから、国家を大切にする「ナショナリズム」とは対立する。

 

グローバリズムの本当の目的が隠されてしまっている

・欧米の国際金融資本が推進している「グローバリズム」というのは、一言で言えば「国境」をなくして「国家」をなくそうとするもので、それが彼らの金儲けには一番都合がいい。

 

グローバリズムと国内改革も、利害が一致している面がたくさんある。グローバリズムの本来の目的は、「国境をなくそうとすること」である。TPPの目的も、関税自主権という「国家の主権を奪うこと」である。それが隠されて、どんどん国内に入ってきてしまっている。

 

日米関係を楽観視しないほうがいい

・黒人の地位が急に向上したが、それは有色人種でもやればやれるという日本の成功に目覚めた運動だった。そして公民権法ができ、そのあとには黒人の大統領が出現した。

 日本の実績は、外国人がもっている有色人種を下に見る考えを次々に打ち破った。

 

なぜ、日本はこれほど素晴らしいのか

・戦後の日本がアメリカ化したのは占領政策もあるが、アメリカから楽しいものがたくさん入ってきたことも大きい。それを日本人はうまく取り入れて、大衆の力で戦後の日本を発展させた。

 

アメリカは「大衆文化」の発明で金持ち国になった

アメリカがこれだけ強く大きくなって世界中から受け入れられたのは、遊ぶ楽しさを世界に伝えたからだ。ハリウッド映画、音楽、ジーンズ、オートバイ、スポーツなどたくさんある。名前を付けるとすれば「大衆文化社会」である。「大衆文化社会」はアメリカの最大の発明品だ。

 アメリカは金持ちの国だから大衆文化社会をつくり出せたのではなく、大衆文化社会をつくったから金持ちになった。

 プロスポーツというのも、アメリカの発明品だ。スポーツのプロ化、つまりショービジネス化だ。もともとスポーツの分野には、世界中のどこにもショービジネス的なものはなかった。アメリカはショービジネスとして、みんなを楽しませるスポーツに変えた。

 アメリカはヨーロッパの貧しい人たちが移民してつくった国だから、下級労働者しかいなかった。彼らは頑張れば中流になれると信じて働いた。

 

・スポーツ選手を目指した人間も多く、野球界などに入った。アメリカ人は野球をプロ化して、「観たければお金を払って下さい」とした。こうしてお金を払ってスポーツを観る文化ができ、選手たちはお金を稼ぐことができた。アメリカが発達したのは、何でもプロ化したからだ。

 野球の場合は、都市対抗という形が創造された。アメリカには野球の球団が多い。小さな町にまで野球のチームが浸透している。彼らは都市対抗の意識で戦っているから、ものすごく盛り上がる。

 スポーツのプロ化によって、庶民がお金を払ってスポーツ観戦を楽しむようになり、それが世界中に伝わった。アメリカの大衆文化社会は、世界に冠たる発明品だった。

 

アメリカの大衆文化社会はスポーツだけでなく、自動車にも及んだ。産業革命後の技術進歩を取り入れて、フォードが画一的大量生産を導入し、庶民が自動車を買えるようにしていった。

 

古代から「文化」を売る国が繁栄してきた

・20世紀はアメリカの大衆文化が世界に広がり、アメリカが強大な国となった。世界史を振り返ってみると、常に「文化を売る国」が繁栄してきた。

 ヨーロッパの文化はギリシャで発祥し、ギリシャはローマに文化を売りつけた。ローマは全ヨーロッパに文化を売りつけた。ヨーロッパはイギリスに売り、イギリスはアメリカに売った。アメリカは日本にずいぶん売りつけた。次は、日本が文化を世界に売る時代だ。

 

・文化の影響力がいかに大きいかは、フランスの政策を見ても分かる。

 フランスは、文化については国粋主義の方針を採っている。テレビでは日本製のアニメをそのまま放送してはいけない。あたかもフランス製に見えるようにしなければいけない。主人公の名前も日本風の名前でなく、フランス風の名前に変えられたりしている。

 フランスの子供たちは、日本のアニメとは知らずにフランスのアニメだと思い込む。そういうふうにさせている。

 

 フランスでは放送時間も、外国製の番組が一定時間を超えてはいけないといった規制をしている。

 これだけフランスが警戒しているのは、文化の影響が非常に大きいからだ。文化を売る国が世界の中心となる国である。

 日本の文化はヨーロッパ、アメリカだけではなく、アジア諸国でも非常に人気がある。反日の中国でも、若い人たちは日本の文化が大好きだ。コピー商品、まがい物も多いが、それだけ日本文化の需要が大きいということだ。「日本的なもの」を世界が求めている。

 

「育ち」のいい日本人だから高級品をつくれる

・これからの日本は、高級品だけをつくり続けていれば儲けは大きい。安いものを大量生産しても利益は出ないから、大量生産する必要はない。トヨタ自動車はレクサスを中心にすればいいと思う。軽自動車をインドで売るのはかまわない。軽自動車というのは、インドでは高級車だからだ。

 

日本人がつくると、どんなものも「文化的」になる

アメリカ人は「清潔」を金儲けとして考えたが、育ちのいい日本人は「清潔」を文化として製品のなかに入れた。

「清潔」「衛生」に限らず、「いい匂い」とか「うまい」とか、そういった繊細で文化的なものは日本人にしかつくれない。それを世界の人が求めている。柄の悪い外国人たちも、文化的な日本の製品を知ると、そのよさに惹かれてしまう。これが日本の最大の強みだ。

 

<子供たちから始まっている世界の「日本化」>

普通の国民」がみんな賢いのが日本

・日本国民は世界で一番賢い。近代の欧米の大学の先生をすべて合わせたくらい、日本の普通の人はみんな賢い。それは、子供の頃から日本語で育ち、そのなかに情緒や思いやりの心が含まれているからだ。普通に生活しているだけで賢くなり、創造性が高くなる。

 

 これからは、日本人が何も発言しなくても、向こうが日本人のことを勉強する時代になる。

 

 

 

『独走する日本』     精神から見た現在と未来

日下公人    PHP  2007/11/5

 

 

 

日本は「原子爆弾を持て」という結論になる

・その26の階段を手っ取り早く言って、その登りきった先に何があるかと言えば、「日本は原子爆弾を持て」という結論がある。

 

借金を踏み倒す国には軍隊を出すのが常識

・まず、世界の常識と日本の常識はまるで、違っている、というのが大前提である。

 

・第1番は、借りた金はなるべく返さない。これが世界の常識である。第2番は、返したくないのは誰でも同じだが、特に国際金融がすぐに踏み倒される理由は、警察も裁判所もないからである。

 

・第3番は、日本政府は、外国政府に対して取り立て交渉をしない。

 

・第4番は、踏み倒す国に対しては、圧力をかけない。軍隊を出すことになっている。戦争をやるか、やらないかは別として、これこそ国際常識である。

 

・第5番は、軍隊が駐留することになっている。「ワシントンにいるのは、アメリカ人としては変な人たちだ」と田舎のアメリカ人は、そう言っている。

 

国際金融は必ず軍事交流になっていく

・第6番は、アメリカが軍隊の駐留を認めなければ、日本は自然にもう金を貸さなくなる。だから、国際金融をやっていると債権大国は、だんだん軍事大国になってしまうのである。

 

・第7番は、したがって、債務国は軍事基地を提供し、債権国は、軍隊を海外に派遣するようになる。

 

・第8番は、保障占領という前例がある。それは相手国の領土を担保にとるのである。

 

金を借りている国は、日本に宣戦布告する

・話を戻して第9番に、債権国と債務国の中が悪くなって戦争になった時、周辺の利害関係国はどちらの味方をしますか?・・・・と考えてみよう。これも日本と外国とでは180度常識が違う。日本人は、外国は日本の味方をしてくれると思っている。

 

・つまり第10番は、周辺国は勝ちそうで儲かりそうなほうにつく、それだけのことである。これが国際常識であり、歴史の常識である。前例なら山ほどある。

 

・つまり第11番、周辺国は自分が金を貸しているほうにつく、借りている国にはつきたくない。

 

・だから第12番、先に述べたように、自分がたくさん借りている国にはむしろ宣戦布告して、勝ったら借金をチャラにしようとする。

 

・第13番、債権国が持っている財産は戦利品として山分けしたい。以上をバランスよく考えて、儲かりそうなほうにつくのである。正しいかどうかは関係ない。

 

世界一貸している、だから世界で一番立場が弱い

・周辺国は自分が金を借りている国にはつかないーということからわかることは、つまり日本は世界で一番立場が弱い国だということである。

 世界中に一番たくさん貸している国だということは、「早く滅べ」と思われているのと同じである。「パアになってほしい」と思われている。

 

・同じように周辺国は中国にくっついて日本に宣戦布告して、中国が勝ったら自分も戦勝国だと日本に乗り込んで、まずは借金チャラさらに日本から何か分捕ってやれ、ということになるのが国際常識である。

 

・第2次世界大戦のとき、日本はそういう目に遭っている。多くの日本人は、当時戦っていた相手はアメリカだと思っているが、終戦直前には約50ヵ国が日本に宣戦布告している。その大部分は、なんの関係もない遠方の国々だった。勝ちそうな側についたのである。

 

・そして戦後何十年間も日本に対して、貿易でも金融でも「戦勝国特権」というのを行使したのである。何十年間もそれが続いたのは日本外務省の責任だが、怠慢か弱腰か、太っ腹か、その原因は知らない。

 

金を貸す国は軍事大国化するもの

・海外債権を持って立場が弱くなる。周辺にも味方がなくなる。つまりこれからの日本外交は本当に大変なのである。そのときに頼れるのは自分の武力だけである。だから、国際化する国は必ず、軍事大国になる。

 

・国際化する国、特に金を貸す国は軍事大国化する。これは「法則」である。

 

債権国は国連が好きになる

そもそも働かなくなる?

・日本人はもう海外投資を差し控えるようになる。金を貸さなくなる。すでにそれは始まっている。たとえば、中国に対してはもう劇的に減った。

 

・日本の外務省と通産省は、毎年1兆円のODAを貸したりあげたりしているが、その管理哲学を国民に説明したことがない。焦げ付いたり、踏み倒されたり、恨まれたりだが、日本国民がそれに気がつかないように隠すのが仕事になっている。

 

武力を持つなら安上りの原子爆弾

・国連強化こそが日本の生きる道であると決めて必死でやる。

 

・自分が武力を持つ。そして世界を取り仕切る。海外派兵もする。こうした方法の一番安上りで効率的なのは原子爆弾を持つことである。だからそちらの方に動いていく。

 

世の中は複雑怪奇、世界の人はタチが悪い

国民の気持ちを表に出すODAを

ODA1兆円で日本発の世界秩序をつくろう