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いま、日本の防衛で何が問題かと言うと、一言で言えば、「誰も軍事を知らない」ということです。恥ずかしながら、私ども自衛隊OBも軍事を知らない。現役の人たちはもっと知らない。(1)

 

 

(2024/12/8)

 

 

『新・自衛隊論』

自衛隊を活かす会  講談社現代新書  2015/6/18

 

 

 

はしがき

・「自衛隊を活かす会」をご存じでしょうか。正式名称は、「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」といいます。

 この「会」は、自衛隊を否定するのでもなく、かといって集団的自衛権国防軍に走るのでもなく、現行憲法下で誕生した自衛隊の可能性を探り、活かしていくための提言を行うことを目的に、2014年6月7日に発足しました。

 

専守防衛」と「安全保障」の本質を考える

自衛隊は「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて」武力を行使することになっていましたが、集団的自衛権の行使とは、日本が武力攻撃を受けないのに自衛隊が武力を行使するということだからです。なお、専守防衛は、軍事用語としては「戦略守勢」とも言われます。

 

・しかし、専守防衛という考え方が生まれたのは、あのソ連の脅威が目の前に立ちはだかっていた時代のことでした。

 

・いろいろな挑発には対処し、阻止するだけの軍事力は必要だが、いま重要なのは不測の事態が起きないような「危機管理」であって、専守防衛を超えるような軍事戦略は不要ではないのかというのが、「会」の問題意識です。

 

現代に生きる専守防衛    柳澤脇二

・「専守防衛」というのは非常に政治的な言葉であって、軍事的な言葉ではありません。軍事の言葉としては「戦略守勢」などが使われます。しかし、専守防衛は、政治的なメッセージとして現代に生きているのではないかと思います。

 

安全保障とは何か

それは、一言で言えば国家の自己実現です。つまり、自分が生きたいように生きる――それは平和、独立、自由、繁栄、いろんな言葉で表されますが――国家であることが出来るということです。現実にはそれを阻害する要因、リスクがあることは仕方がにあので、それをどのように現実化させないようにするか、というのが安全保障だと私は定義します。

 

・その場合、やはり一番大事なキーワードは、敵を知り、己を知るということです。それに加えて、孫氏もクラウゼヴィッツも言っていますけれども、戦争管理の技法を知るということです

 

己を知る

・日本を守る時に考えないといけないのは、地政学的な条件です。

 

・一言で言うと、日本は島国ではありますが、大陸に近いです。

 

その意味では、相手にとって攻めやすく、海外線が長いことによって守りにくいという状況にあります。また、南北に細長い格好をしているので、日本海から太平洋に抜けようとすれば、東北地方の最短距離は100キロ程度です。軍事的にはこれを縦深性と言っていますが、国土の懐が狭いのです。

 

・同時に、石油など自前の資源がないのも特徴です。戦争に必要な物資を自給する能力がないのです。

 

・そうすると、白紙で考えた場合、選択肢は三つあります。

 一つめは防衛線、いわゆる利益線を拡大することです。主権線だけではなく、国防ラインを拡大していくというのが一つの発想です

 

・二つめは、地形に弱点がある以上は、できるだけ紛争を局地に封じ込めて、早く終わらせるよう考えることです。

 三つめは、最小限抑止としての自前の核兵器を持つことです。

 

簡単には作れない「戦争をする国」

・以上は客観的、地理的な条件です。加えて、主観的、主体的条件を考えなければなりません。その前提となるのは、日本は貿易が出来なければ成り立たない国という意味では、国際公共財、グローバル・コモンズが安定していないといけないということです。

 

・戦争をする国はそんなに簡単に作れるものではありません。

 

「基盤的防衛力」から「動的抑止」へ

・当時、一番大きなものとして想定されていたのは核戦争でした。

 

つまり、核戦争を自分で戦いぬくということではなく、アメリカ軍の来援まで、およそ1ヵ月、独力で対処することに防衛力の意味があるという考え方をしたのです。

 

・その足らざる部分は何によって拡大するかといえば、政治の決断なのです。

 

・それが安倍政権でどうなったのか。安倍政権下、国家安全保障戦略がつくられ、それと同時期の2013年末に「防衛計画大綱」が閣議決定されました。「ヒトサン大綱」と言っておりますが、ここでの防衛構想の要となるキーワードは「動的抑止」と「離島防衛」です

まず動的抑止というのは何か。防衛大綱では、「相手が出てくる、出てきたらピッタリくっついてプレゼンスを示すことによって、防衛の意思を示す。それによって、相手に手出しをさせないようにする」という意味で使われています。

相手が来たらこっちも出るということを考えていくと、運用の頻度を相当上げなければならなくなります。

 

現実離れしている「離島防衛」

・次に離島防衛についてです。これは、政府が何をしたいのかが本当に分からない。

 そもそも、防衛の対象は尖閣諸島なのかという問題もあります。

 

・「大綱」は防衛予算獲得のための理屈ですから、そうなってしまう部分もあるのだろうと思いますが、そのあたりの理屈の説明がなさすぎると思います。

 「大綱」では、核の脅威に対してはアメリカの拡大抑止に期待すると書いてあります。一方、それ以外の本格的な侵攻に対して、アメリカに期待するのかというと、そこは何も書いていない。現実味がないと考えているのか、アメリカに期待せず、自衛隊がやるのか。後者だとすれば、中国と同じ規模の無限の軍拡が必要になってくるという、変な結論になってしまいます。

 

問題は武器の共同開発

・しかし、日本が生産している武器の完成品、システムとして組み上がった日本製の武器は売れません。実戦で使ったこともないし、人件費も高いので、国際競争力などありません。

 問題になるのは、共同開発でしょう。

 

・しかし、今の解禁の仕方があまりにも問題です。テロの被害を拡大する要因になっている小型武器やミサイルなどの管理のレジームをしっかりと作っていかなければいけません。

 

・こういう点で、2014年4月1日の閣議決定は、あまりにも拙速だったと思います。武器の輸出は課題として考えなければいけないけれども、もっと慎重な議論が必要だと思います。間違っても、アベノミクスの成長戦略の一環として大いにやっていくんだというような、馬鹿げた発想に立ってはいけません。

 

抑止力の変化と米中関係の現状

・先ほど、「大綱」の問題点を指摘しました。なぜ「大綱」が現実離れしたものになるのかというと、それなりの理由があると思います。防衛政策というものを抑止力だけで考えていくからです。

 

・しかし、今のアメリカと中国の関係は、最大の貿易相手国、投資の対象国、国債保有国の一つです。3・11の地震で日本の工場が止まって、部品が供給できなくなったら、中国やアメリカをはじめ、ヨーロッパの工場も止まってしまうというようなことを考えると、グローバル化というのは、実は想像を絶した深まりを持っている。すべての先進国がすでに一つの生産ライン、一つの金融システムの中に組み込まれてしまっている状況ではないでしょうか。

 だから現在は、戦争が怖いから、核が飛んできて滅びてしまうのが怖いから、戦争が起こらないのではない。そうではなくて、戦争をしたら自分の経済が滅茶苦茶になり、バカバカしいからではないでしょうか

 

・全体として言えば、抑止力、特に報復的な抑止というのは、従来、相手が侵攻してきたら倍返し、3倍返ししてやるというものでしたが、そこが変わってきているということです。

 

・それでは米中の対立要因はどうなっているか、戦争する可能性はあるのかということです。米中は戦争をしない、そう私は思います。常識的にそう思います。

 かの歴史家トゥキディデスは、「恐怖」と「名誉」が戦争の要因だと言いました。今日風に言えば、恐怖とは軍事的脅威が迫っている事態、名誉とは内政面での権威を確保しなければならない事態です。また、今日では、「利益」も戦争の原因であると思います

 中国の視点から見て、恐怖、名誉、利益という戦争の条件が全て揃っているのは、おそらく南シナ海だろうと思います。台湾はどうかというと、内政要因は非常に大きいけれども、他の要因はあまり大きくありません。

 

・では、尖閣諸島はどうか。内政要因だけの問題でしょう。

 

アメリカが日本に期待するもの

アメリカは、オバマ政権になり、対テロ戦争の店じまいをして(なかなか足を洗えていませんが)、対中リバランスに向かっていると言われています。そのスタンスを「封じ込め」とは言っていません。中国は敵でも味方でもないということで、あるいは敵でも味方でもあるべきか、フレネミー(friend enemy)という定義の仕方をしている。

 

・もう一つの大事な点は、アメリカは今、国益重視に戻りつつあることです。

 

・ですからアメリカは、米軍再編ということで、オーストラリアのダーウィンなども対象として、基地を分散しようとしています。

 

冷戦の終結で同盟と抑止力の存在意義が問われた

・そういう状況下で、いま、日米同盟そのもののあり方が問われています。

 

・その日米同盟を生んだ冷戦構造が根底から変化したわけです。

 

・もう一つが、いまの安倍首相に代表されるものです。もっとアメリカにサービスするから、アメリカからもっと大きな報償がほしいとするような考え方です。

 

日米同盟は相対化せざるを得ない

・日本は、この二つの考え方の間で、揺れてきました。日本の安全をどうするのか、その安全の代償としての対米従属はどの程度容認できるのか、そのバランスが見えないできたのです。

 

・こういう状況のなかでは、日米同盟は相対化せざるを得ないのであって、相手に対してもオープンなものにしていくべきです。そういう条件があるのに、ただただ同盟を強化するという選択肢しかないところに、現在の安倍政権の戦略的な貧困さがあらわれていると言えるでしょう。

 

「守るべき米軍の船がない」という事態も

集団的自衛権の問題は、それを行使したらどうなるのか、日本の利害の問題としても整理しておく必要があると思います。

 冷戦時の防衛計画大綱で想定された防衛力というのは、陸18万人、海60隻、空430機という体制でした。現在の大綱では、陸が15.9万人、海が54隻、空が360機です。

 

・さらに、米中が仮に本当に戦争をするのだったら、日本は最前線なのです。敵の目の前にいるわけです。

 

・だから、自由と民主主義という価値観を共有するが故に同盟国だという、そういう冷戦時代は明確だった分水嶺がなくなってきているのです。

 

安全保障のジレンマ

・結論として言えば、繰り返しになりますが、紛争の局地化・早期収拾というのが、日本が考えるべき防衛のあり方です。それが一番かしこいやり方だと思います。

 

・総じて専守防衛というのは――戦略守勢でもいいんですが――基本的にはこちらから先に手出しはしないということなのです。

 

・その戦略を構築するにあたって、われわれが今考えなければならないのは、グローバリゼーションの三つの側面です。一つめは、相互依存が強まって戦争という手段が合理性を欠くようになってきているというところをどう捉えるか。二つめは、同盟というのは相対化していって、もっと利益共有型のものになっていくのではないかという問題の捉え方。そして三つめには、「イスラム国」のような、グローバリゼーションから疎外された者の不満の表明にどう対処するかです。

 

日本の防衛にとって何が必要か  冨澤暉>  

いま、日本の防衛で何が問題かと言うと、一言で言えば、「誰も軍事を知らない」ということです。恥ずかしながら、私ども自衛隊OBも軍事を知らない。現役の人たちはもっと知らない

 

まず守るべきは平和ではなく独立

・第一に、自衛隊の存在目的は何だというところが、誰も分っていません。

 

・ところで、独立という言葉は、現在の日本の憲法にも全く書かれていません。占領下にできた憲法ですから、独立という言葉は当然使っていないのです。独立というのは別の言葉で言えば、国家主権を守るということですが、この言葉も全くありません

 

国家の三要素はというのは、高校の教科書によると、国土と国民と主権です。その「主権」という言葉は、憲法には3ヵ所で出てきますが、主には主権在民のことを書いた箇所であって、国家主権のことはあまり重視されていません。日本国は国家主権という言葉をよく承知していないのです。

 

独立も平和も必要である

実は今、新憲法をつくるという議論が、我々の仲間で流行っています。

 

・要するに、平和ということも必要ですし、主権や独立も当然必要なのです。

 

しかし、僕の後輩でも平和をやめましょうなどと言う人がいる。そういうおかしな人がいるということが、日本の防衛の最大の問題だということです。

 

独立と平和は矛盾する

・実は、平和という言葉と、主権や独立という言葉は矛盾するんです。独立だけを追求していったら、どうしても平和じゃなくなります。ホッブズが言ったとおりです。一方、平和だけを追求していったら、独立がなくなります。

 

ソ連が来ても追い返さないというのは、奴隷の平和と呼ばれる状態です。奴隷というのはお金でマスターに買われていて、マスターはお金を損するから、奴隷を殺したりしないわけです。だけど、奴隷には何の自由もない。

 

・ひどい人は主権はある部分は移譲してもいいと。当時の鳩山由紀夫首相なんて得意だったですよね。彼の好きな博愛のためには主権を移譲することを言いました。それもあると思うんです。TPPなんてまさにその問題です。

 

「主権線と利益線」

・次は、「主権線と利益線」の問題です。

 

・1890年に帝国議会が初めて開かれた時、山形有朋首相が、主権線のみならず、主権線と密着した関係である利益線を守らなければいけないと言いました。

 

・では現代の利益線は何か。特に海上自衛隊の仲間に意見によれば、日本は中東から石油をたくさん買っていますから、シーレーン海上交通路)がそれに当たります。中東の平和は日本の平和にとって非常に大事です。

 

ですから、現在のアメリカ主導の考え方で言うと、このシーレーンというのは、グローバル・コモンズ、みんな共通のものだということになります。

 

国連が納得しない場合、有志連合で守らざるを得ませんが、グローバル・コモンズを守るのは集団的自衛権ではなくて、集団安全保障なんだということを、よく理解していただくことが大事です

 

警察と自衛隊(軍隊)の違いを知ること

・警察と自衛隊は違うのだと知られていないことが問題です。

 

・国内の治安を守るのは警察の仕事です。自衛隊がやるのは武力行使です。武力行使というのは、逮捕ではなくて、相手を殺すことです

 

・そこで問題となるのが、テロやゲリラへの対処です。テロ・ゲリラ対処は警察の役割か、自衛隊の治安行動の役割かというのが、今、非常に問題になっています。

日本にとって一番恐ろしいのは、原子力発電所が襲われることです

 

・これらは今のところ一義的に警察の役割とされています。自衛隊の出番は警察がお手上げになってからです。

 

・治安行動がやれるというのは自衛隊法には書いてあるのですが、そういう経緯があるので、それ以来ずっと訓練もやっていません。訓練していないものはできるわけがないことをよく承知していただきたい。

 

現代の脅威は「核拡散」と「国際テロ」

現代における世界の脅威は「核拡散」と「国際テロ」と知ることが大事です。このことを誰も知りません

 2010年にQDR(「4年ごとの国防計画の見直し」)という報告書がアメリカで出ました。今からちょうど5年前です。QDRというのはアメリカの一種の戦略です。

 

この報告書では、戦略環境として一番の問題は核拡散と国際テロと書いてあります

 

・その時ヒラリー・クリントン国防長官が、「リバランス」という用語を使い、我々はアジアに焦点を移すと初めて言いました。

 

・実際のアメリカは、その時、正にアフガン、イラクと戦っていたのです。それを片付けることが第一でした。

 

それなのに、日本はその真意を良く理解せずに、むしろこれからは海軍力だと本気で思ったのです。それで陸上自衛隊が減らされました。

 

日本の「国家安全保障戦略」の問題点

・その後、2013年、日本政府は「国家安全保障戦略」を出しました。それを見て私はびっくりしました。何と脅威という言葉が使われています。

 

・まあ、QDRに添って大量破壊兵器等の拡散と国際テロの二つが脅威だと言ったまでは良いのですが、それに対する対策はほとんど出ていません。

 

・核拡散について言えば、それまでの大綱では、アメリカの核の傘に頼るとしか書いていません。ようやく新大綱で「拡大抑止」という新しい言葉を使っていますが、「拡大抑止」とは何かという説明もない。これが現在の日本の安全保障戦略の水準です。

 

中国脅威論と北朝鮮脅威論について

・要するに今の中国の脅威というのは、彼ら自身が言っているように、「三戦」なのです。三戦というのは、心理戦、広報宣伝戦、そして法律戦のことです。この狙いは日本の弱体化です

琉球独立に関する本が沢山売れています。

 

・そうならば、日本の戦いも中国と同様、三戦でやるしかありません。三戦を誰がやるんだと言えば、自衛隊ではありません。それこそ今度出来た国家安全保障会議(NSC)がやるべきものです。

自衛隊の軍事力はどうあるべきかというと、その三戦の背景として、適切なものをつくることが大事なのです。それが軍事のあり方です。

 

・ただし、北朝鮮は危険だと思います。大した力を持ってはいないが、追い詰めると何をやるか分かりません。

 

・追い詰められた時に怖いのは核ミサイルです。それと、陸上自衛隊と同じくらいいる、十何万人の特殊部隊です。そして、第五列(スパイ)が日本には相当入っている。そうなると、対核兵器防護と対テロ・ゲリラに焦点をあてなければいけないというのが私の考えです。

 

ミサイル迎撃はあてにならない

・ミサイル・ディフェンスはあてになりません。「これさえあれば」と言う人がいますけれども、そんなものではありません。あったほうがいいという程度のものです。

それよりも、中国が先んじてやり、スイスやスウェ-デンもやっているように、核シェルターを考えたほうがいい。核シェルターというと大げさのように聞こえますが、今は地下街が多いので、都市にいる人は地下街に潜って、何日間か生きられるようにすればいいのです

 

アメリカのASB(エアー・シー・バトル)は、あくまでアメリカの軍事力整備戦略です。

 

・最近では、中国がA2AD(接近阻止)をやるから、日本もA2ADをやるべきだという人が多くなっています。

 

アメリカにはいろいろな人がいます。シンクタンクもたくさんあります。それに振り回されないようにしなければならない。そのうちの一つを持って来て、「こうしよう」などとするのは良くありません。

 

海上自衛隊は敵の基地を把握していない

・軍事力の実態を知ることが大事です。専守防衛が大事だという人がいます。これは、もともとが戦略守勢と言われたものを、誰かが勝手に専守防衛というのはあり得ない。こちらから何も手を出さないというのでは、本当に戦争をやったら必ず負けます

 

情報はアメリカから貰うと言いますが、アメリカも情報は不十分なんです。そんなものに頼って、「敵基地攻撃をやる」などと言っても、全く無意味です。出来ないことをやってはいけません。軍事が分かっていないと、こうなるのです。

 

現実離れした「南西諸島防衛」

・南西諸島防衛についても、現実を知らないで議論されている現状があります。沖縄本島の防衛なのか、尖閣諸島の防衛なのかも、あまり意識されていません。最近の若い人たちの中には、チョークポイント封鎖を口にする人もいます。

 

・しかし、昔我々が北海道のチョークポイントと言った場合、その間は40キロとか20キロのことでした。一方、沖縄本島宮古島の間は250キロあるんですよ。

 

・それなのに、チョークポイントを守れば中国の海洋進出を阻めるなんて、これも「冗談ではない」と言わざるを得ないのです。

 

監禁された邦人の救出は不可能

・監禁された邦人の救出というのは、到底無理な話です。

 

・これまで監禁された人を無傷で救出した例というのは、おそらく一例あるだけです。

 

・なお、軍備を議論する時、よく「これさえあればいい」とか、逆に「これは不要だ」とか、言われることがあります。例えば「ミサイルディフェンスさえあればいい」とか、「戦車は不要だ」とかいうものです。何も軍事が分かっていないことの表れです。そういう意味で、ずっと日本の防衛政策で使われてきた基盤的防衛力というものを、もう一度考え直す必要があるというのが私の意見です。

 いずれにせよ、こうした問題を発信できる自衛官自衛官OBの組織が必要だと思います。私は戦車のことは詳しいですけれども、海軍のことや空軍のことはよく分かりません。だからみんなで考えないといけません

 

情報収集の問題点について

・最後に情報収集能力の不足について指摘しておきます。

 情報という場合、敵情だけじゃなくて、全ての情報が必要です。METTT(メッツ)という言葉があります。これはアメリカ軍が状況判断する時の、最悪の場合の最小限の条件のことです。任務、敵、我が部隊、地形、時の全てが必要です。孫氏は「敵を知り、己を知れば百戦危うべからず」と言いましたが、それだけではないんです。

 

・軍事だけではなく、経済・文化の情報も必要です。国家の体系には、力の体系と利益の体系と価値の体系があるのです。

 

・情報収集で一番大切なのは相手の意図と能力を知ることです。

 

・私は、個々に言うと、安倍首相のやることにはいろいろ不満があります。さらに、集団的自衛権などは言わないで、集団安全保障をまずやるべきだという意見です。

 

中級国家・日本の平和国家戦略   加藤朗

私の結論は、平和国家戦略です。具体的には自衛隊は原点に戻って専守防衛戦略に基づく国土防衛に徹し、国際協力は平和憲法の実践すなわちNGOや民間による非軍事活動に専心すべきということです。

 

日本は大国から転落している

・日本はもはや世界の大国でもなければアジア随一の大国でもありません。いずれの地位も中国に譲ってしまいました。

 

・しかし、今では世界そしてアジアの大国の両方の称号を持つのは中国です。

 

・世界の国家を見渡すと、大国、中級国、小国の三つに大別できます。大国は経済的、軍事的そして政治的に卓越した影響力をもち国際秩序を形成する能力のある国です。現在はアメリカと中国の2ヵ国です。

 

普通の国」と「民生大国」の折衷

・こうして、日本は国際公共財については人道支援と非武装のPKOの派遣、アジアの安全保障には日米安保の強化で対応しようとしました。

 

日本が「普通の国」になれない理由

・日本はバブル崩壊後20年にわたるデフレで経済は疲弊し、今や財政赤字は1000兆円を超えるなど、中国との国力差は開くばかりです。

 

・もはや日本はかつてのような世界第2位の経済大国にもアジアの盟主にもなれません。だからと言って、普通の国にもなれません。

 

・だからこそ、われわれは普通の国ではない、中級国家としての日本の安全保障政策を考えていく必要があります。

 

「積極的」国際貢献の必要性

普通の国ではない、中級国家日本の安全保障政策は大きく二つに分けることができると思います。第一は国家安全保障政策。第二は国際安全保障政策。前者は、日本の国土、国家主権をいかに防衛するかです。後者は、グローバル・コモンズすなわち国際公共財としての国際社会の秩序をいかに維持するかということです。結論から言えば、前者については専守防衛、後者については非軍事分野での貢献に徹するということです。

 

・その意味で専守防衛戦略は厳密には軍事戦略ではなく外交戦略です。

 

大国という虚像

・ちなみに専守防衛の名称が外交戦略として使用されたのは1971年の佐藤栄作内閣の時です。当時中曽根康弘防衛庁長官は「非核中級国家論」を唱えました。

 

・ここに日本の安全保障政策の難問が横たわっています。すなわち大国としての虚像と中級国家としての実像の分裂です。

 

・だからこそ中級国家としての実像に合わせて中級国家にふさわしい戦略、それを中級国家論と呼ぼうが専守防衛と呼ぼうが、日本の国土防衛に徹した防衛戦略をとるべきだと私は考えます。

 

世界に誇れる「平和大国」ブランド

・次に、国際安全保障政策は非軍事に徹するべきです。これこそ普通の国ではない中級国家日本の国際貢献だと思います。その理由は下記の通りです。

 第一は、巨額な財政赤字を抱える日本にとってもはや巨費を支出することが難しいこと。

 

第二は、東アジアの安全保障環境を考えると、自衛隊を海外に派遣することは日本の国土防衛を危うくする恐れがあること

 

・第三は、これまで自衛隊が行ってきた人道支援・復興支援などは、自衛隊よりもむしろ建設、医療、教育等民間の専門家が適任であること。

 

・第四は、戦後70年間培ってきた平和大国というブランドを今後とも護るためです。

 

平和憲法の実践

平和憲法を実践するのは、今一度憲法を理解する必要があります。

 

したがって、「公共の福祉に反しない限り」において、ジョン・ロックが主張するように武装する権利を個々人が保有することになります

 

国際紛争とは何か

憲法学者はともかく、一般国民の多くは限定放棄説を支持しています。限定放棄説に立てば、日本国民は政府に対して国民の生命、財産を自衛戦争で護ることを求めています。憲法の効力が及ぶのは日本の主権の範囲内ですので、自衛のための武力行使は原則日本国領域に限定されます。

 

対テロ戦争で日本と自衛隊が求められる役割

・9・11以来、テロ問題には多くの方が関心を寄せています。「イスラム国」の登場は、日本に何ができるのかという議論を加速させています。

この問題では、一方に、安倍政権の中では、人質になった日本人を救出するため、「自衛隊を投入すべきだ」というような議論がありました。

 

国際テロ対策と日本の役割  宮坂直史

テロの現状

・テロの現状といった場合、発生件数や被害者数が問題になります。

 

それによるとこの10年間、おおむね1万件前後のテロが発生していることが分かります

 

・このうち、国際的な焦点となっているのはイラクパキスタンアフガニスタンの最初の3ヵ国で、インドは意外かもしれませんが、テロのデパートと言われており、宗教的なものから政治的なものまでさまざまな種類のテロが起きています。

 

・シリア、ソマリアになると正確なデータがありません。

 

テロ組織の背景と終わり方

・次に、誰がテロをやっているのかということです。

 実は、年間1万件テロが起きるとして、その7割は誰がやっているか分っていません。犯行声明も出ていないし、犯人が捕まっていないのです。捕まらないにしても、これにはタリバンが関与しているとか、そういうことが分かるのは3割程度です。

 

宗教的なテロ組織のライフスパンは長いです40年間に生まれた約650団体の平均寿命は、だいたい8年から9年と言われていますが、宗教的な団体に関してはその倍が平均寿命です。

 

テロの原因

・問題解決になぜそんなに時間がかかるのか。なぜ、テロ集団が生まれてくるのか。やはり、テロの原因から考えることが大事です。

 実はそれが非常に複雑であって、原因をなくせばテロがなくなるという単純な話ではありません。そもそも、原因を一言で言うこともできません。

 

テロの根本原因として貧困とか抑圧、教育などを指摘する人も多いです。それがテロの直接の原因とは言えないと思いますが、それらが背景にあることは考えられます。南米のペルーにおけるテロを例にとると、テロ組織のメンバーを見れば、特定の貧困地域の人が入っています。しかし、現在世界で最も暴れている人たちを見ると、必ずしも貧困層の出身ではありません。

 

・ただし、テロの土壌としては、一つだけは言えると思います。テロが多い国は、そして内紛・内戦が多い国にもあてはまるのですが、15歳から24歳の人口が非常に多く、高等教育を受けても職業に就けないということです。そういう相関関係はあるのだと思います。

 

国連安保理決議に基づくテロ対策

・国連のテロ対策は、加盟国200ヵ国近くを包摂するような形で、あらゆる分野で進められています。

 

テロ資金規制と内部脅威対策

・対策の中身としては、テロ資金規制が重視されています。日本が行っている対策のなかでは、テロ資金規制が一番の脆弱な点だということは、テロ対策に詳しい人ならば誰でも知っています。

 

・ところが、原発を50基以上も持っていながら、内部脅威対策をまったくやっていないのは日本だけです。

 

爆発物探知その他

・それ以外にも対策はたくさんあります。たとえば核テロ対策という分野もあります。そんなテロがあるのかと思われるかもしれませんが、いくらでもあります放射性物質を使ったり、核施設を攻撃したりするなどです。病原菌をばらまくバイオテロもあります。

 

テロを未然に防ぐには

・テロ対策は、フェーズ(段階)で考えると良く理解できます。

 まず未然防止のフェーズがあります。

 

ただし、いくら未然防止の措置をとっても、テロを100%防げるとは保証できませんアメリカの諜報機関の一つである国家安全保障局(NSA)のように、国民全体に網を掛けて秘密裏に情報収集をやっていたら、民主主義国家ではなくなってしまいます。日本はそこまで無差別的にはやっていません。

 

・100%防げない理由として、過去に前科がない人がいきなり大きなテロをやるケースがあることがあげられます。初犯ですから、それまで警察や公安にマークされているわけでもありません。

 

・被害管理とは、テロの現場あるいは関係場所での初動対処によって、被害を局限化していく措置を指します。

 

日本で重視されていない公的検証

・最後に検証のフェーズがあります。

 日本には、テロ事件のあとに、なぜそういうことが起きたのか、政府や関係機関の対応はどうだったのかを、第三者が一次資料にアクセスしたり関係者にインタビューしたりできる特別の権限を付与されて、検証し政策提言をした経験がありません。

 

・1994年の松本サリン事件について言えば、事件そのものを防止するのは、当時の状況からしても難しかったと思います。

 

アメリカやイギリスも、テロや安全保障問題で大きな失敗、失策をしますが、そこはさすが民主主義国家で、大きな失敗については、連邦議会などが超党派の委員会に調査権限を与えて、きちんとした検証報告書を出させています。

 

テロの備えは万全か

・テロが起きることを想定して、いろいろな訓練がなされるようになっています。とりわけ、2004年に国民保護法ができて10年が経ち、全国津々浦々、行政による対テロ訓練が行われています

 

・図上訓練というものもあります。いろいろな状況を想定して、警察、消防、自衛隊自治体、医療機関などのプレーヤーが、コントローラーから分刻みに与えられる状況に対処していくという訓練です。

 

バイオテロの訓練もされています。バイオテロの場合、お医者さんが国家防衛、危機管理の最前線にいると言えます。

 

国際的な協力体制と日本

・最後に、日本に何ができるかという問題です。できることは限られていると思います。海外におけるインフラ施設の整備も、間接的なテロ対策になりますが、日本はいろいろやっています。

 

・日本は、キャパシティ・ビルディング(能力構築)支援といって、テロ対策のお手伝いをしています。他国がテロ対策の能力を向上させるよう、いろいろな援助をするのです。

 

・また、間接的なテロ対策になりますが、貧困や格差を少しでも解消していくことが求められます。ですから、日本が平和構築や紛争停戦の仲介などを行うことも大事です。

 テロの第3の波――私は1990年代から今日まで続くテロ情勢をそう呼んでいますが――はまだ引き潮になりません

 

 

・本書の企画は「自衛隊を活かす会」ですが、私は自衛隊のことについて、これまで全然話していません。テロリズムやテロ対策の専門家は、広く、すべての手段を見ていかねばなりませんから、軍事力というのも、過大評価も過小評価もせず、テロ対策のワン・オブ・ゼムに過ぎないのです。ただ、自衛隊の部隊、あるいは要員を海外に派遣すれば、それだけテロに関する情報が入ってくる利点はあります。

 

どうシナリオを書くか

・財団法人・日本再建イニシアティブが最近、『日本最悪のシナリオ――9つの死角』という本をつくりました。大規模テロを含めて、自然災害や国際的な有事などの最悪事態が、いつ、どこで起きて、どのように展開していくか、9つのケースを検討しています。

 

・情勢というのは急変することがあります。その中で、自分たちの権益や人命を守らなければなりません。明日のこと、1年後のことでも正確に予測できないのですが、予測できないからこそいろいろなシナリオで将来のことを考えなければならないのです。

 

・シナリオはどうやって書くのかといえば、今起こっていること、過去に起こったこと、これらをいろいろ集めて分析するのです。だから私は、自分の授業でも、多くの条件をつけて危機事案のシナリオを書かせます。シナリオを書くためには、現状の対応能力や法制度、国際情勢や治安情勢を知らねばなりません。だから、シナリオを書くというのが、実践的な座学としては、一番勉強になると思っています。

 もう1冊ご紹介しますが、『「実践 危機管理」国民保護訓練マニュアル』

という本があります。

 

対テロ戦争の位置と「憲法9条部隊」構想   加藤朗

憲法9条部隊」構想

・さて、では具体的にどうすれば平和国家のブランドを守ることができるのか。それには二つの戦略があります。

 

・一つは、専守防衛戦略です。自衛隊専守防衛に徹すべきだということです。国際協力、人道支援であっても基本的に海外に行くべきではないと考えています。

 では、日本の国際協力をどうすべきか。それがもう一つの戦略である民間のPKO部隊「憲法9条部隊」の創設です

 1990年の湾岸危機当時、連合(日本労働組合総連合会)は自衛隊の派遣を真っ向から否定していました。それだったら自分たちで行ったらどうなんだと反感を抱いたのが、この「憲法9条部隊」を着想したそもそものきっかけでした。

 海外に派遣された自衛隊が実際にやっていることは、ネーション・ビルディング(国づくり)、あるいはキャパシティ・ビルディング(能力構築)です。これは自衛隊よりも、多くの職域・職種の人からなる労働組合によるPKO(国連平和維持活動)部隊の方によりふさわしい任務です

 

・機会あるごとにこうしたPKO部隊の構想をお話ししました。そして月刊誌などにも寄稿しました。冗談だと思われたのか何の反応もありませんでした。

 

自衛隊に何を期待するか

・なぜ民間によって国際協力をした方が良いのかといえば、まさにそれこそが憲法9条の実践だからです。私たちは、ともすれば自衛隊に反対することが憲法を守ることだというふうにこれまでずっと思ってきました。はたしてそうなのでしょうか。

 

・私が違和感を持っているのは、自衛隊は国民の生命、財産を守るのだといいますけれども、実際問題、現場の最前線で生命、財産を守るのは、警察であり消防だということです。自衛隊が守るのは国体です。

 

最後に、内村鑑三の「非戦主義者の戦死」について。彼は日露戦争に当たって、「非戦主義者よ、進んで死んで来い」と言ったのです。非戦主義者の死は戦争賛成の人の死よりも何倍も意味があることだと言ったのですいま一度、内村鑑三の言葉を思い起こして、そして出来れば憲法9条部隊構想に大いに賛同していただいて、志願していていただければと思います。

 

対テロ戦争」問題の諸論考に学ぶ   柳澤脇二

・何を教訓として一番大事に捉えなければならないかということを、専門家のみなさんに寄稿していただきました。

 

国のあり方としての問題

・酒井さんはまた、アメリカの文脈ではなく、相手の国にそれが求められているかどうかで自衛隊の派遣を考えるべきだと述べています。まったく同意します。

 

ほとんど意味のない対テロ訓練

・宮坂さんが、テロの未然防止に関する行動計画に言及しています。この行動計画は、私が官邸にいるとき、各省の取りまとめをやらせていただいて作成したものです。閣議決定もしていない文書ですが、各省はきちんと動いてくださっていると思います。

 

問われるべき本質

・私たちが「自衛隊を活かす会」を始めたのは、一つには、憲法解釈の見直し、直接には自衛隊をどう使っていくかということをめぐって、非常に乱暴な議論がどんどん進んでおり、そのこと自体に大きな危機感を持っていたということがあります。その懸念は、多くの国民も共有しているだろうと思います。

 

軍事技術の発展の視点から捉えた集団的自衛権 加藤朗

15事例はリアリティが欠如している

・政府が提示した15事例にリアリティがあるのかということが問題になっています。私は、集団的自衛権やグレーゾーンの問題を考える時に、軍事技術の発展という視点からも、15事例がリアリティを持たなくなっているのではないかという印象を持ちます。

 

・これまで自衛隊と米軍の関係は盾とか矛の関係に譬えられていましたが、ネットワークで戦闘するこれからの時代では、極東地域において自衛隊は米軍の目や耳の一部、米軍は拳という関係になるでしょう。こうした軍事技術の発達を踏まえて集団的自衛権は検討されるべきと思います。

 

集団的自衛権を持ち出した真意とは

なお、15事例だけを見ると、個別的自衛権で解決可能な事例ばかりです。あえて、集団的自衛権を持ち出さなくても対処可能です。逆になぜ安倍政権はあえて集団的自衛権の問題を持ち出したか。その真意は何かを問うことが必要だと思います。

 

・いま、経済力においても軍事力においても、中国が間違いなくアジア第一の大国です。では日本がアジアの大国になるためにはどうするかというと、残るはソフトパワーだけです。

 

提言  変貌する安全保障環境における「専守防衛」と自衛隊の役割――あとがきにかえて

21世紀とはどういう時代か

・安倍首相が進める集団的自衛権を行使する国づくりについても世論の過半数が危惧を示す一方、根強い支持の声もあり、対立の構図が強まっています。

 

・20世紀の終わりにソ連が崩壊して冷戦が終了し、アメリカの圧倒的優位が確立する一方、平和な21世紀への希望も灯りました。ところが、21世紀は実際には、その劈頭にあった9・11同時多発テロ事件が象徴したように、そのまま対テロ戦争の世紀になりつつあります。

 

アメリカの覇権の終わりと国際テロの広がりという二つの現象は、無縁なものではありません。目の前で急速に進むグローバリズムの波と密接に関係しています。

 

国際政治学においては、大国の覇権が後退する場合は戦争が避けられないとされ、同盟関係や軍事力を強化することにより抑止力を維持するという考え方があります。この立場をとり、アメリカ一極の世界を維持することによって日本の安全を確保することを願うなら、中国の現状を考えると、アメリカを支える日本の軍事的な負担は相当な規模のものになることが避けられません

 

日本防衛のあり方

・国家という枠で相手を敵視し、それを滅ぼすという動機そのものが失われています。ですから、米中や米ロが本気で戦争状態に入ることなど、真面目に国際政治に携わっている人なら、誰も真剣には想定していません。

 

・こういう世界において、もっとも求められるのは何でしょうか。それは、相手の破壊を前提とした抑止力ではなく、相互依存を通じて戦争を避ける方策を制度として定着させることではないでしょうか

 

このことが何を意味するかと言えば、日本は国土全体を守ることが極めて困難で、また、長期にわたる消耗戦には向かない地政学的特徴がある、ということです

 

・日本のような国にとって必要なことは、紛争を未然に防ぎ、紛争が起きた場合にはそれをできるだけ局地的なものに限定しながら早期に収拾することです。専守防衛は、こうした日本の特性に最も適合した防衛思想であると思います。

 

国際秩序に対する日本の貢献

・しかし、自衛隊を使ってアメリカによる秩序構築を軍事的に助けるというやり方は、アメリカの対テロ戦争が憎悪の連鎖を生んで新たなテロを再生産するという悪循環を招いてきた失敗を、さらに大規模にくり返すだけです。日本もまた、憎悪の連鎖の当事者となり、テロの標的とされていくことになります

 

・この分野では、当面の人道的支援に加え、テロが生まれる根源を認識し、息の長い取り組みをすることが必要です。

 

それは、政府だけでなく、企業や民間NGOによる暮らしや医療、教育にかかわる活動であり、そうした支援を、現地の要請にもとづいて、増やしていくことがますます求められています

 

日米同盟における日本の立ち位置

・したがって、大事なことは、日本は日本としての立場を確立し、アメリカとの間で戦略的な議論を闘わせることです。

 

日米安保条約、日米同盟自体は、やがては相対化が避けられない時代に入っていくでしょう

 

このように同盟が相対化していく時代にあって、安倍首相の言う「血の同盟」という考えこそが、いまや時代に遅れになっています

 

 

 

『有事、国民は避難できるのか』

ウクライナ戦争」から日本への警鐘

日本安全保障戦略研究所  国書刊行会  2022/10/10

 

 

 

ウクライナ戦争の教訓から緊急提言――日本に「民間防衛」が必要――

・2022年2月24日に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ウクライナ戦争)は、日本をはじめ世界中に深刻な衝撃を与えました。特に、戦後の平和ボケの中で戦争のことなど全く念頭になかった日本人にとって、その衝撃は計り知れないものとなりました。

 ウクライナ戦争が日本人に突き付けたことは、①戦争が始まれば国土全体が戦場となり、安全な場所などないという現実です。

 また、②民間人を保護することによって、戦争による被害をできる限り軽減することを目的で作られた国際法は安易に破られるという現実です。

 いま、国際情勢も安全保障環境も激変する中で、日本は空想的平和主義から現実的平和主義への大転換を迫られています。

 

ウクライナ戦争では、ロシアは「国連憲章第51条に基づいて『特別軍事作戦』を行う」と述べ、ロシア軍がウクライナ領土に侵攻しました。それをJus ad Bellum(戦争法)に照らして大多数の国家が非合法であると明確に意志表示しています

 ウクライナ戦争では、多数の民間人が犠牲になるとともに、国内外併せて1300万人の避難民が発生しています。このロシア軍による攻撃は、ジュネーヴ条約第1追加議定書52条2項の軍事目標主義を逸脱しています。つまり、Jus in Bello(戦争遂行中の合法性)の考え方に明らかに反しています

 

本書では、特にJus in Belloに違反する民間人への戦争被害をいかに極小化するかについて「民間防衛」というテーマで考察しています。

 

提言の主要な事項は、憲法への国家非常事態及び国民の国防義務の規定の追記、民間防衛組織とそれを支援する地方予備自衛官制度の創設、各地域の国民保護能力と災害対処能力の拡大などです

 

はじめに

・こうした緊張状態が加速する中、2023年2月24日にはロシアがウクライナに軍事侵攻しました。非戦闘員である民間人の犠牲者は日々増加しているとの報道が毎日のように流されています。

 

NPO法人日本核シェルター協会」が2014年に発表した資料によれば、本書で「民間防衛」研究の対象とした米国、韓国、台湾、スイス4か国の「人口あたりの核シェルターの普及率」は、アメリカが82%、韓国(ソウル市)が300%、スイスが100%であり、各国ともに緊急避難場所を確保していますが、日本はわずか0.02%にしか過ぎません

 台湾は、本資料には入っていませんが、100%です。台湾では、全国の公的場所には必ず地下壕を用意することが法的に義務付けられており、年に一度は必ず防空演習も行われています。

 世界各国では、核ミサイルの脅威に対する備えの重要性を認識し、いざという時の避難場所として、核シェルターの整備を政府主導で進めています。しかし、わが国は唯一の戦争被爆国であり、周囲を中国、ロシア、北朝鮮などの核保有国に囲まれているにもかかわらず、核シェルターの普及が全く進んでおらず、議論すら行われていません。

 

・このため、世界の国々は、武力紛争事態において国民の生命及びその生命維持に必要な公共財等を守るために軍隊以外の政府機関及び地方自治体並びに民間組織及び一般国民が参加する、国を挙げて行う「民間防衛」の制度を整備しています。

 わが国においても、遅ればせながら、武力攻撃事態等において、国民を保護するための「国民保護法」が作られ、2004年に施行されました。

 

諸外国の民間防衛を知ろう

諸外国との比較による真の「民間防衛」創設に向けた日本の課題

諸外国の民間防衛を知ることの意義

・その際、日本の唯一の同盟国である米国、日本と同じように中国や北朝鮮の脅威に直面し、かつ自由、民主主義などの基本的価値を共有する隣接国の韓国と台湾、及び「永世中立」政策を採り世界でも最も民間防衛に力を入れているスイスの4か国を対象とする。

 

諸外国における民間防衛の概念

・一般に諸外国では、自然災害及び重大事故に対応する措置を市民保護と称し、武力攻撃に対する被害の最少化を民間防衛と位置付けており、民間防衛こそが軍事行動―国防と密接に連動した概念である

 

民間防衛の歴史的変遷

・戦時に国民を保護する体制を意味するものとしての民間防衛の起源は、欧州における第一次世界大戦時の空襲経験にその緒を見ることができる。

 

民間防衛と市民保護の関係性

・民間防衛と市民保護の関係性をみると、国家レベルの民間防衛が、地方レベルの市民保護の発展を促してきたという各国に共通した特徴をみることができる。

 

「共同防衛」を基本とする米国の民間防衛

アメリカ合衆国憲法

全般

・わが国の現行(占領)憲法の起草に当たって、基礎史料の一つとされたアメリカ合衆国憲法は、その前文で、次頁のように宣言している。

 

 われわれ合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保証し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここにアメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。

 

・なかでも、「…、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、…」の記述は、州政府を束ねる連邦国家が、各州および国民の力を結集して社会全体で国を守ろうとする強い決意を表わしており、それを踏まえて、付帯的な内容が、立法、行政及び司法の各条項に定められている。

 まず「連邦議会立法権限」では、「宣戦布告」、「陸軍の設立」、「海軍の設立」、「軍隊の規則」、「民兵の招集」、「民兵の規律」に関し規定している。

 「大統領の権限」では、冒頭の1項目で「大統領は、合衆国の陸海軍、及び現に合衆国の軍務に服するために召集された各州の民兵の最高指揮官である」と軍の統帥権について規定している。

 

・なお、米国議会は、1950年5月に、それまであった沿岸警備隊懲戒法を含むすべての軍事犯罪に関する法律をまとめた『軍事法典』を可決、施行している。

 以上の他に、連邦議会の権限の冒頭にある徴税の項で、「共同の防衛および一般の福祉のため、租税、(…)消費税を賦課徴収すること」として、税徴収の主要な目的は防衛のためであることを明記している。

 

日本国憲法アメリカ合衆国憲法

日本国憲法の成立過程研究の第一人者とされる米国のセオドア・マクネリー博士の研究によると日本国憲法の前文は、時系列的に、①アメリカの独立宣言、②米合衆国憲法、③リンカーン大統領のゲティスバーグ演説、④米英首脳による大西洋憲章、⑤米英ソ首脳によるテヘラン宣言、⑥マッカーサー・ノートの6史料を基礎として作られた。

 

・すなわち、米国憲法は、連邦法律の執行、反乱の鎮圧及び侵略の撃退を目的とする軍務に服する組織として民兵団を設けることを定め、その招集、編成・武装・規律及び統率に関して規定する権限を連邦議会に、将校の任命及び訓練の権限を各州にそれぞれ与えている。

 その歴史は、アメリカ合衆国の植民地時代に遡る。当時、各植民地は志願者から成る民兵団を結成した。それは基本的に入植民による自警団であったが独立戦争では大陸軍とともに重要な戦力の一翼を担い、また独立後も国内外の紛争・事案にたびたび動員されたことから、1792年民兵法が制定され、究極の指揮権を州に与えた。

 

米国民の「国防の義務」

・国防の義務については、ほとんどの国の憲法に明確な規定がある。しかし米国の場合は、さらに踏み込んで、修正第2条で「規律ある民兵は、自由な国家にとって必要であるから、人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない」と規定し、国民の民兵としての必要性を強調するとともに、武器を保有する権利すなわち武装の権利を保証している点に大きな特徴がある。

 

米国の「武器保有権」と銃規制問題

アメリカでの銃の所持は、建国の歴史に背景があり、アメリカ合衆国憲法修正第2条によって守られているアメリカ人の基本的人権である。

 全米で適用されている銃規制の法律では、銃販売店に購入者の身元調査を義務づけ、未成年者や前科者、麻薬中毒者、精神病者への販売を禁止し、また、一部の自動機関銃などの攻撃用武器の販売を禁止している。

 

・銃販売、保持するための許可証の取得、使用など銃に関する法律は州によって異なり、カリフォルニア、アイオワ、メリーランド、ミネソタニュージャージー、ニューヨークなどの州は銃規制が厳しく、銃の所持禁止区域が設定されている。

 

・しかし、近年、銃乱射事件が劇的に増加し、銃規制強化を訴える世論が高まりを見せている一方、米国社会では銃規制より、自衛のための銃器に関する正しい使い方の教育、情報、訓練の必要性と強化を求める動きも広がっている。

なお、2022年5月に発生した南部テキサス州の小学校銃乱射事件など相次ぐ銃乱射事件を受け、上下両院が超党派で可決した銃規制強化法案にバイデン大統領が署名して6月25日、同法が成立した。本格的な銃規制法の制定は28年ぶりで、21歳に満たない銃購入者の犯罪暦調査の厳格化や、各州が危険と判断した人物から一時的に銃を取り上げる措置への財政支援などが柱となっている。

 

「国家警備隊」あるいは「郷土防衛隊」としての州兵

連邦政府と州政府との関係

・州政府は連邦政府の下部単位ではない。各州は主権を有し、憲法上、連邦政府のいかなる監督下にも置かれていない。ただし、合衆国憲法や連邦法と州の憲法が矛盾する場合には、合衆国憲法や連邦法が優先する。

 

州兵

・州兵は、アメリカ各州の治安維持を主目的とした軍事組織で、平時は州知事を最高司令官として、その命令に服するが、同時に連邦の予備兵力であり、連邦議会が非常事態を議決した場合には、アメリカの連邦軍の一部として、大統領が招集することができる。

 

兵役制度と予備役制度

兵役制度

・米国の兵役制度は、志願制である。

 予備役は、現役の連邦軍および州兵とともに米軍を構成する重要なコンポ―ネントの一つであり、「総合戦力」として一体的に運用される。その勢力は、約80万人である。

 

予備役の目的

・予備役の目的は、戦時または国家緊急事態、その他国家安全保障上必要な場合に、米軍の任務遂行上の要求に応えるため、動員計画に基づいて部隊および人員を確保・訓練し、現役に加え、必要とする部隊および人員を提供することである。

 

予備役としての州兵

民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもつ州兵には、陸軍州兵と空軍州兵があり、連邦と州の「異なる二つの地位と任務」を付与されている。

 

米国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓

憲法前文における「共同防衛」の欠陥

・連邦制を採る米国の憲法は、その全文で、国家の安全を保障するためには、「共同防衛」が重要であることを強調している。この共同防衛では、中央の連邦政府から州・地方政府に至るまで、また軍官民が一体となり、社会全体で国を守る防衛体制が必要であると説いている

 

米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」の欠如

・米国の州兵は、植民地時代の志願者から成る「自警団」としての民兵に起源があり、国家警備隊あるいは郷土防衛隊としての性格をもち、地域の緊急事態等において、大規模災害対処や暴動鎮圧等の治安維持などの主任務に携わっている。

 

・このような、多種多様な任務の急増に応えているものの、自衛隊は前掲の「主要国・地域の正規軍及び予備兵力」に見る通り、その組織規模が列国に比べて極めて小さいことから、本来任務である国家防衛への取組みが疎かになるのではないかとの懸念が高まっている。

 自衛隊は、中国や北朝鮮からの脅威の増大を受けるとともに、ロシアに対する抑止にも手を抜けないことから、本来任務であり国家防衛に一段と注力する必要がある。そのため、自助、共助を基本精神として具現化すべき、米国の州兵に相当する「郷土防衛隊」が欠如していることは大いに懸念されるところである。

 

予備役制度の拡充の必要性

・予備役は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊沿岸警備隊、陸軍州兵、空軍州兵の各予備役、そして公共保健サービス予備役団の八つから構成されており、その体制は極めて充実している。

 

近年、東日本大震災以降、即応予備自衛官が招集され、また、医療従事者、語学要員、情報処理技術者建築士、車両整備などの特殊技能を有する予備自衛官補の需要も高まっており、この際、予備自衛官制度の抜本的な改革増強が急務である

 

国家非常事態における国家の総動員体制と組織の統合一元化の欠落

日本国憲法には、その根本的な問題の一つである、国家の最高規範として明確ににしておかなければならない「国家非常事態」についての規定も各省庁を統合する体制もない。

 

「統合防衛」体制を支える韓国の民間防衛

大韓民国(韓国)憲法

全般

大韓民国(韓国)憲法は、米国の軍政下にあった1948年7月に制定、公布されたものであるが、その後9回の改正が行われている。

 

韓国の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓

日本国憲法には国防及び国民の「国防の義務」についての規定なし

・韓国の憲法は、前記の通り、国軍の保持とその使命並びに国民の「国防の義務」について明記している。また、憲法の規定を根拠に、「民防衛基本法」を制定し、民間防衛体制を整備している。

 一方、日本国憲法は、第9条2項で、「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を謳い、国家の唯一の軍事組織である自衛隊は、憲法のどこにも明記されていない。

 

国民の「国防の義務」に基づく民間防衛体制の欠如

・韓国は、憲法によって国民の「国防の義務」を定め、徴兵制度と民防衛隊を制度化してその目的に資する仕組みを作っている

 わが国の憲法には、国家と国民が一体となって国の生存と安全を確保するとの民主主義国家としてごく当たり前のことが記述されていない。

 

国家非常事態に国を挙げて対処できる枠組みの欠如

・韓国は「江陵(カンヌン)浸透事件」を契機に、国家として適切な対処が行えなかったという反省を踏まえ、「統合防衛法」を制定し、この法律のもと、国防関連諸組織をすべて組み合わせ、網羅して、外敵の侵入、挑発などに一元的に対処する仕組みを作った。

 わが国でも、東日本大震災において、国家として適切な対処が行えなかったことなど多くの問題や課題が指摘された。

 

「全民国防」下の台湾の民間防衛

中華民国(台湾)憲法

中華民国(台湾)憲法は、その「まえがき」で、「国権を強固にし、民権を保障し、社会の安寧を確立し、人民の福利を増進する」ために憲法を制定するとし、国家目標の四つの柱の一つに国防の重要性を掲げている。

 

台湾(中華民国)の民間防衛体制が示唆する日本への主な教訓

全国民参加型の国防体制の欠如

・台湾は、憲法20条で「人民の兵役の義務」を定め、それを基に台湾全民参加型の「全民国防」体制を敷いている。

 台湾は、九州とほぼ同じ面積の領土・領域を守るため、現役を約16万人にまで削減したが、約166万人の予備役を確保しており、有事には現役と予備役を併せて約182万人を動員することができる。さらに、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民の力と自衛・自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護する民間防衛体制を整備して、全民国防の実効性を担保している。

 

民間の力と国民の自助・共助の機能を組織化した民間防衛体制が欠如

・台湾は、「人民の兵役の義務」を背景に、全民参加型の「全民国防」体制を敷き、現役及び予備役を背後から支える民間防衛体制を整備している。 

 その役割は、「民間の力と市民の自衛と自助の機能を有効に活用し、人々の生命、身体、財産を共同で保護し、平時の防災・救援の目標を達成し、戦時中の軍事任務を効果的に支援すること」にある。

 民間防衛体制は、現役及び予備役以外の、高等学校以上の生徒を含めた70歳までの市民によって組織化されており、平時の重大災害対処と戦時の軍事任務支援の平・戦両時に備える構えになっている。

 

学校における国防教育の欠如

・台湾では、「全民国防教育法」に基づき、台湾全民に対する国防教育に力を入れ、全民国防を知識や意識の面からも高めている。特に、学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、軍事能力の向上を図っている。

 それに引き換え、日本の国防教育は、あらゆる世代を通じて皆無に等しい状態にある。

 中国は、現代の戦争の本質を「情報化戦争」と捉え、「情報戦で敗北することは、戦いに負けることになる」として、情報優勢の獲得を戦いの中心的要素と考えている。そして、「情報化戦争」においては、物理的手段のみならず非物理的手段を重視し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の「三戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、それらの軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律など他の分野の闘争と密接に呼応させるとの方針を掲げている。特に近年は、サイバー、電磁波および宇宙空間のマルチドメインを重視して情報優越の確立を目指そうとしている。

 

・その際、情報の優越獲得の矛先は、軍事の最前線に限定される訳ではなく、相手国の政治指導者、ソーシャルサイトやメディアそして国民など広範なターゲットへ向けられるため、中国の「情報化戦争」は、一般国民の身近な生活や社会活動、ひいては国の防衛に重大な影響を及ぼさずには措かないのである。

 台湾と同じように、中国の世論戦、心理戦、サイバー戦などの脅威に直面する日本としては、敵から身を守り、敵の侵略を阻止するには、物理的な力と無形の力を組み合わせる必要性に迫られている自衛隊の防衛能力を強化するのは当然であるが、併せて国民が脅威を正しく認識し、防衛意識を高める施策が伴わなければならない。

 そのため、特に学校教育では、国防教育を必修科目とし、青少年の愛国心と国防意識を高揚し、自衛隊の活動に関する理解を深め、それに協力して共に支える社会環境の醸成が不可欠であるものの、甚だ不十分な状況と言わざるを得ない。

 

永世中立」を政策とするスイスの民間防衛

<スイスの「永世中立」政策」

スイスの「永世中立」政策は、以下述べるように、民兵制の原則(非専業原則)に基づいた「国民皆兵」制度の下、軍隊と民間防衛、すなわち軍民の力を結集した国防努力によって成り立っている

 

スイス憲法

国防及び緊急事態の規定

・スイスは、憲法第58条第1項に「スイスは軍隊を持つ。基本的には民兵制の原則の下に組織される」と規定している。同第2条に、軍隊の主な任務として、①戦争の防止及び平和の維持、②国土防衛、③国内的安全への重大な脅威が生じた場合及びその他の非常事態の場合における非軍事部門の支援の三つを定めている。

 また、同第59条第1項で「すべてのスイス人男性(18歳以上)は、兵役に従事する義務を負う。非軍事的代替役務については、法律でこれを定める」と規定している。

 

憲法の枠を超える緊急事態に対する措置

・過去、2度の世界大戦の際、1914年と1939年に、いわゆる「全権委任決議」により、連邦議会は、連邦参事会に無制限の全権を委任し、憲法秩序の一部の変更を認めた。

 

民間防衛

スイス憲法の「民間防衛」に関する規定

・スイス憲法では、第3編「連邦、州及び市町村」第2章「権限」第2節「安全、国防、民間防衛」の第61条(民間防衛)において、以下の通り、民間防衛について定めている。

  • 武力紛争の影響に対する人及び財産の民間防衛についての立法は、連邦の権限事項である。
  • 連邦は、大災害及び緊急事態における民間防衛の出動について法令を制定する。
  • 連邦は、男性について民間防衛役務が義務的である旨を宣言することができる。女性については、当該役務は、任意である
  • 連邦は、所得の損失に対する適正な補償について法令を制定する。
  • 民間防衛役務に従事した際に健康被害を被った者又は生命を失った者は、本人又は親族について、連邦による適正な扶助を要求する権利を有する。

 

シェルター(避難所・設備)の整備

スイスでは、国民の95%を収容できるシェルターが整備済みであり、旧型のシェルターを含めると100%程度に達する。

 また、一戸建ての家を建てる場合は、地下に核シェルターを設置することを義務付けている。

 

「民間防衛」から「市民保護」へ

背景・経緯

・欧州を主戦場とした東西冷戦が終結し、欧州を中心に、民間防衛の課題が武力紛争対処から災害対処へと重点を移行した。従来の民間防衛は、全国民にシェルターを用意するなど市民保護の概念が強調されるようになった。

 

市民保護組織(民間防衛隊)

・緊急事態に際し、警察、消防、公共医療サービス、技術サービスと協力して住民のシェルターへの避難誘導、救助等を実施する。

 

市民保護組織(民間防衛隊)は、民兵制の原則(非専業原則)に基づいた「国民皆兵」制度の下に作られている。

 スイス人男性は、18~30歳まで兵役義務があり、兵役義務を終えた男性は40歳まで民間防衛に従事する。40歳以降は各人の自由意志となっている。

 

スイス政府編『民間防衛』に見る民間防衛の精神

・東西冷戦時代に作られたスイスの政府編『民間防衛』は、冷戦終了とともに廃刊となっているが、その精神は、CPS(市民保護システム)の中に脈々と受け継がれている。

 

スイスの民間防衛体制が示唆する日本への主な参考事項

・スイスの場合は、永世中立国としての国家政策の下、国防や民間防衛の努力がなされており、日米安全保障体制下で安全保障を構築している日本とは大きく異なる。よって、直接的に教訓にはなりにくいものの、民主主義国家としての国防の在り方には大いに参考にすべきことがある

 

・スイスの「永世中立」政策は、民兵制の原則(非専業原則)に基づいた「国民皆兵」制度の下、軍隊と民間防衛、すなわち軍民の国防勢力いかんによって成り立っている。

 スイスの安全保障は、軍民の国防努力いかんによって左右されるとの考えが、「民間防衛」の冒頭に記述されている。軍が国防の責任をもっているのに加えて、民間人及び民間団体組織にも国防努力の必要性が認識されているのである。

 

また、スイスは、国民のほぼ100%を収容できるシェルターを整備済みである

 わが国も、大規模災害や武力攻撃事態などの場合には、国民を安全な場所に避難誘導することは避けて通れない最重要課題であり、核攻撃にも耐えうる避難所と必要な設備の整備を義務化することは喫緊の課題である憲法改正には主権者である国民の認識が進むことが必要であり、それには時間がかかることが予測される。

 

マルチドメイン作戦を前提とした民間防衛のあり方

マルチドメイン作戦とは

・現代における戦いは、新たな領域(ドメイン)に拡大した「マルチドメイン作戦」として戦われることが明確である。そして、領域の拡大が平時と有事の区別を一層曖昧なものとし、いわゆるグレーゾーンでの戦いが常態化してきている。

 

「グレーゾーンの事態」と「ハイブリッド戦」

いわゆる「グレーゾーンの事態」とは、純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を端的に表現したものです。

 

・いわゆる「ハイブリッド戦」は、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法であり、このような手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いることになります。

 

・これからの我が国のあるべき民間防衛という概念では、平時からグレーゾーン事態そして有事を通じて展開されるマルチドメイン作戦によって引き起こされるであろう脅威から防衛することも視野に入れるべきである。

 

中国・ロシアによるマルチドメイン作戦型の脅威

中国のマルチドメイン作戦

・中国では、日米などが新たな戦いの形として追求しているマルチドメイン作戦という言葉は使用せず、それに相当する概念を「情報化戦争」と呼んでいる。

 

・そして、「情報戦で敗北することは、戦いに負けることになる」として、情報を生命線と考えるのが中国の情報化戦争の概念であり、そのため、電磁波スぺクトラム領域、サイバー空間及び宇宙空間を特に重視して情報優越の確立を目指すとしている。

 

ロシアのマルチドメイン作戦

・ロシアは、自らはマルチドメイン作戦あるいはハイブリッド戦という言葉は使用していないが、2014年にプーチン大統領が承認した「ロシア連邦軍事ドクトリン」の概念、いわゆる西側諸国の考えるマルチドメイン作戦及びハイブリッド戦に該当する。

 

・改めてロシアを見ると、実際に国家に対する破壊妨害を目的とした初めてのサイバー攻撃は、ロシアがエストニアに対して行ったものである。

 

・ロシアは、2014年、ウクライナのロシア離れを契機にクリミア半島併合と東部ウクライナへの軍事介入を敢行した。

 

ウクライナに対するロシアのサイバー攻撃は、紛争の初期段階では、情報の窃取あるいは政府や軍のC4I系統の混乱等を目的としたサイバー戦が主であり、一般国民の目に触れる攻撃は見られなかった。

 

中国・ロシアのマルチドメイン作戦による脅威

・これまで、中国やロシアのマルチドメイン作戦について述べてきたが、両国が日本や日本人に対していかなる工作活動を行っているか、そしていかなる組織を日本に置いているのかについては、ほとんどの日本人は認識していないのではないだろうか。

 

・なお、北朝鮮については特段説明しなかったが、北朝鮮もサイバー部隊を集中的に増強し、サイバー攻撃を用いた金銭窃取のほか、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられており、中国やロシアと同様に警戒を厳重にすることが必要である

 

宇宙・電磁波空間における脅威――新たな脅威としての高高度電磁パルス(HEMP)攻撃

北朝鮮が使用をほのめかすHEMP攻撃

・高高度電磁パルス攻撃とは、高高度での核爆発によって生ずる電磁パルス(EMP)による電気・電子システムの損壊・破壊効果を利用するものであり、人員の殺傷や建造物の損壊等を伴わずに社会インフラを破壊する核攻撃の一形態である。

 

予想されるHEMP攻撃の効果・影響

HEMP攻撃は、これまで考えられてきた核爆発による熱線、爆風及び放射線による被害範囲を遥かに超える広大な地域の電気・電子機器システムを瞬時に破壊し、それらを利用した社会インフラの機能を長期間にわたり麻痺・停止させ、社会を大混乱に陥れる。

 

・いずれにしても、万一、HEMP攻撃があれば、国家としての機能が麻痺する可能性が極めて高く、国民一人一人がこのような脅威の存在を認識し、自ら避難し、避難生活等では自助及び共助によって命を守る行動をとらなければならない。

 

マルチドメイン作戦を前提とした民間防衛のあり方

・こうしたグレーゾーン事態は、明確な兆候のないまま推移し、被害発生時点では一挙に重大事態へと発展するような重大なリスクをはらんでいる。

 

有事対応型の法律からグレーゾーン段階で対応しうる法律体系へ

・こうしたニーズに応えるには、現行国民保護法では対応が困難であると言わざるを得ない。マルチドメイン作戦による脅威に対応しうる組織編成を盛り込んだ法律を制定するか、現行の「国民保護法」を全面的に改定するべきである。

 

国民に精神的な安心感を付与できる体制構築

・つまり、今後は、マルチドメイン作戦により国民がパニック状態に陥った状況、もしくはパニック状態に陥ることが予測される状況を想定し実効性のある対処法を確立しなければならないのである。

 

国を挙げた対応ができる組織体制の整備

・しかし、各省庁の縦割り行政では、効果的・実効的な対応は期待できないので、その弊害をなくし、政府が総合一体的な取組みを行えるよう、行政府内に非常事態対処の非軍事部門を総括する機関を新たに創設することが望まれる。

 

・このように、国家非常事態における国家防衛や国民保護、そして重要インフラ維持の国土政策、産業政策なども含めた総合的な対策を、いわば「国家百年の大計」の国づくりとして、更には千年の時をも見据えながら行っていくことが、わが国の歴史的課題である。

 

都道府県知事直属の民間防衛組織創設

民間防衛組織創設の必要性

・こうした国土防衛事態における住民避難は、強制力を伴わないために緊急性に欠け、統一的行動を取れないという致命的な欠陥を露呈する恐れがあり、早晩、国民保護法の改正も必要となろう。

 

自衛隊の役割再考と都道府県知事直属の民間防衛組織創設

・前述の通り、国民保護法は総務省所管(実際は消防庁)であり、敵部隊対処のための自衛隊運用は防衛省である。

 

・特に陸上自衛隊は、災害派遣等で培ってきた地方公共団体との連携や住民との信頼関係から、何が何でも国民保護に万全を尽したいとの思いがあるのは間違いない。

 

・民間防衛の研究については、日本でも過去にその検討がなされたことがある。それは、予備役の在り方を通じた検討であり、この研究は民間防衛を研究するにあたり極めて重要な先例となるだろう。

 

戦後の予備役制度と民間防衛組織としての郷土防衛隊創設の検討

検討の経緯

・わが国において、正規兵力を補完する予備兵力や郷土防衛隊等の民間防衛組織の必要性が問題提起されたのは、1953年8月に駐留米軍が「戦闘警護隊」の創設を勧告した吉田内閣時代にさかのぼる。

 

・昭和28年、吉田内閣の木村保安庁長官は、「民間防衛組織」建設の必要性について言及した。

 

・昭和29年8月、防衛庁長官は砂田重政氏に交替し、同長官は郷土防衛隊構想を積極的に推進した。「国民総動員による国民全体の力によってのみ防衛は成り立つ」と述べ、予備自衛官制度と並ぶ自衛隊の後方支援と郷土防衛を担う組織としての郷土防衛隊構想を掲げ、地域社会の青年壮年を対象にこれを組織する必要性を説いた。同時に、予備幹部自衛官制度の検討を指示した。

 

・他方、郷土防衛隊について、砂田防衛庁長官は昭和30年9月、「自衛隊の除隊者ではなく、消防団青年団をベースとした民兵制度を考えている」と述べた。

 

・同年10月、防衛庁は、郷土防衛を目的とし、非常の際、自衛隊と協力して防衛の任に当たる「郷土防衛隊設置大要」を決定した。

 

・また、同じころ、「屯田兵」構想が持ち上がり、昭和31年度予算で正式に予算化された。自衛隊退職者を北海道防衛のための予備兵力として有効活用しようとするもので、1人10町の耕地を与えて入植させる計画であった。しかし、応募者が少なく立ち消えになった。背景には、戦後の経済復興が軌道に乗り、国民所得も戦前の最盛期であった1939年の水準に回復し、屯田兵の魅力が高まらなかったことが挙げられる。

 

自民党内部でも再検討を要求する声が強くなったが、旧自由党系は時期尚早として郷土防衛隊構想に消極的であったこともあり、郷土防衛隊設置大要は、事実上白紙還元された。

 

わが国防衛力の一大欠陥は、第一線防衛部隊並びに装備に次ぐ背景の予備隊またはその施設の少ないことである。予備自衛官3万人は余りにも少ない。

 

この点について、「百万人郷土防衛隊」を整備すれば、相当な自衛隊の増強に匹敵し、自衛隊が郷土の防衛問題に後ろ髪をひかれることなく正規部隊をフルに前線で使用できる体制が整備できると強調している

 

自衛隊予備自衛官(予備役)制度の現況

・戦後、わが国は、警察予備隊発足当初から、終始一貫して志願制を採用してきた。その基本政策の枠組みの中で、わが国の予備役制度は、1954年の自衛隊発足と同時に予備自衛官制度として創設された。

 

陸上自衛隊のコア部隊

陸上自衛隊の組織の一つで、平時の充足率を定員の20%程度に抑えた、部隊の中核要員によって構成された部隊のこと。

 

第3章<政策提言 民間防衛組織の創設とそれに伴う新たな体制の整備

国、自衛隊地方自治体および国民の一体化と民間防衛体制の構築

国の行政機関

・国家防衛は、軍事と非軍事両部門をもって構成されるが、その軍事部門を防衛省自衛隊が所掌することは自明である。他方、非軍事部門については、民間防衛(国民保護)を所掌する責任官庁不在の問題があり、その解決と縦割り行政の弊害をなくすために、行政府内に国家非常事態対処の非軍事部門を統括する機関を新たに創設することが望ましい

 

自衛隊

・「必要最小限度の防衛力」として整備されている自衛隊は、武力攻撃事態等において、現役自衛官の全力をもって第一線に出動し、主要任務である武力攻撃等の阻止・排除の任務に従事する。

 

地方自治

・各都道府県には、国の統括機関に連接して「地方保全局」を設置し、その下に民間防衛組織としての「民間防衛隊」を置く。

 市区町村には、「地方保全局」に連接して同様の部局を置くものとする。

 

国民

・国民は、それぞれ「自助」自立を基本とし、警報や避難誘導の指示に従うとともに、近傍で発生する火災の消火、負傷者の搬送、被災者の救助など「共助」の共同責任を果たす。また、地方自治体の創設・運用される「公助」としての民間防衛隊へ自主的積極的に参加するものとする

 

 以上をもって、国、自衛隊地方自治体および全国民が参画する統合一体的な国家非常事態対処の体制を構築する。

 その際、わが国の国土強靭化に資するため、国・地方自治体あるいは地域社会において、危機管理に専門的機能を有する退職自衛官の有効活用が大いに推奨されるところである。

 また、各地方自治体と自衛隊の連携・協力関係の一層の強化が求められており、そのための制度や仕組みを整備することが必要である。

 

自衛隊陸上自衛隊)の後方地域警備等のあり方

自衛隊の後方地域警備のあり方については「陸上自衛隊の警備区域に関する訓令・達」の規定を前提として検討する。

 陸上自衛隊の師団長が担任する「警備地区」に、予備自衛官をもって編成され、専ら後方地域の警備等の任務に従事する「地区警備隊」を創設し、配置する。

 「地区警備隊」の下に、各都道府県の警備を担任する「警備隊区」ごとに、「隊区警備隊」を置く。

 

民間防衛隊の創設

編成と任務

・民間防衛隊は、各都道府県知事の下に創設することとし、退職自衛官消防団員など危機管理専門職の要員を基幹に、大学等の学生や一般国民からの志願者の参加を得て編成する。

 

民間防衛隊の創設に必要な人的可能性

一般国民からの公募の可能性

・「自衛隊に参加して戦う」【5.9%、人口換算約748万人】という最も積極的な回答を除くとしても、「何らかの方法で自衛隊を支援する」54.6%、「ゲリラ的な抵抗をする」1.9%、「武力によらない抵抗をする」19.6%を合計すると76.1%となり、人口に換算すると約9642万人の国民が、いわゆる武力攻撃事態に、国・自衛隊とともに何らかの協力的行動を起こす意志を表明している。

 

民間防衛隊を保護する予備自衛官制度の創設

民間防衛隊と自衛隊の部隊・隊員の配置・配属

・2022年2月24日早朝、ロシアはウクライナへの武力侵攻を開始した。国際法では、軍事目標主義の基本原則を確認し、文民に対する攻撃の禁止、無差別攻撃の禁止、民用物の攻撃の禁止等に関し詳細に規定している。ましてや、病者、難船者、医療組織、医療用輸送手段等の保護は厳重に守らなければならないことを謳っている。

 しかし、ウクライナに武力侵攻しているロシア軍は、文民に対する攻撃や民間施設・病院等への攻撃など、いわゆる無差別攻撃を行い、国際法を安易に踏みにじって戦争の悲劇的な現実を見せつけた

 このような事態を想定して、国際法は、民間人およびそれを保護する非武装の民間防衛組織の活動を守るため、自衛のために軽量の個人用武器のみを装備した軍隊の構成員の配置・配属を認めている

 

・民間防衛隊は、都道府県知事の指導監督を受けるものとし、必要に応じて各市町村に分派される。

 各都道府県知事は、「地方保全局」相互の調整を通じて、民間防衛隊が、各都道府県および各市町村において広域協力が行える体制を整備する。

 

「民間防衛予備自衛官」の新設と予備役の区分

・しかし、現行の制度においては、特に、後方地域の警備に充当できる予備自衛官は、ほぼ皆無に等しい。全国の後方地域の警備を行うには、大人数の予備自衛官が必要であり、その勢力の確保が不可欠である。

 さらに、現行の制度に加え、国家非常事態に際して、民間防衛隊に配置・配属し、文民保護の人道任務に従事させるために「民間防衛予備自衛官」が新たに必要であり、併せてその勢力を確保しなければならない

 

おわりに

・米国は、各州および国民の力を結集し社会全体で国を守ろうとする「共同防衛」の強い決意を表明しています。銃の保有権は、建国の歴史である民兵(自警団)の象徴なのです。

 韓国は、外敵の浸透・挑発やその脅威に対して、国家防衛の諸組織を統合・運用するための「統合防衛」体制を重視し、中でも郷土予備軍や民防衛隊が大きな役割を果たしています。

 台湾は、現代の国防は国全体の国防であり、国家の安全を守るには、全民の力を尽くして国家の安全を守るという目標を達成するため「全民国防」体制を敷いています。

 スイスは、「永世中立」政策を国是とし、安全保障は軍民の国防努力いかんによって左右されるとの方針のもと、民間防衛はその両輪の片方となっており、そのため、かつてのスイス政府編『民間防衛』は、次のように国民に問いかけています。

・今日では戦争は全国民と関わりがある。

・軍は、背後の国民の士気がぐらついていては頑張ることができない。

・戦争では、精神や心がくじければ、腕力があっても何の役にも立たない。

・わが祖国は、わが国民が、肉体的にも、知的にも、道徳的にも、充分に愛情を注いで奉仕するだけの価値がある。

・すべての国民は、外国の暴力行為に対して、抵抗する権利を有している。

 

中国の覇権的拡大や北朝鮮の核ミサイル開発によって、戦後最大の国難に直面している日本にとって、今ほど真の「民間防衛」が求められている時代はありません。真の「民間防衛」が整備されれば、国土防衛に直接寄与することになり、同時に周辺国に対する抑止力にもなりうるのです。

 

実際、欧州に目を転じてみれば、2022年2月以降のロシア軍の侵攻により、ウクライナ国民がロシア軍によって虐殺とも言えるような被害が大規模に行われている現実をみて、我々はその教訓をただちに活かさなければなりません

 

 

 

<●●インターネット情報から●●>

Hanadaプラスより引用(抜粋)

2021/10/24

 

 

徹底検証!習近平の「台湾侵攻」は本当に可能なのか? |澁谷司 

 

今年(2022年)2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻した。それ以来、盛んに、台湾海峡危機ウクライナ危機が同列に語られている。本当に中国は「台湾侵攻」を決行するのか、徹底検証する。

 

 

台湾とウクライナの相違

 台湾とウクライナには、いくつもの相違が存在する。したがって、中国の台湾侵攻とロシアのウクライナ侵攻を別モノと考えた方が良いのではないだろうか

第1に、台湾に関しては、後述するように、米国内法である「台湾関係法」が存在する。ウクライナには、そのような法律は存在しない。

第2に、すでに台湾には米軍が駐屯している。ウクライナには米軍やNATO軍は駐屯していない。

第3に、台湾と中国の間は、台湾海峡で隔てられている。だが、ウクライナとロシアは地続きである。したがって、ロシアはウクライナを攻撃しやすい。

 

第4に、中国にとって台湾は必ずしも安全保障上のバッファーゾーン(緩衝国)ではない。他方、ロシアにとって、ウクライナ(とベラルーシ)は、対NATOとの安全保障上の死活的バッファーゾーンを形成している。

 

「中台戦争」は即座に「米中戦争」になる

 中国の「台湾侵攻」は、即、「米中戦争」となるのは間違いない(ここでは「米中核戦争」については、両国が“共倒れ”になるので捨象する)。また、中国による「台湾海峡封鎖」も、やはり「米中戦争」となるだろう。なぜなら、基本的に、台湾は米国の「準州」と同じ “ステイタス”(地位)だからである。

 

台湾に米軍を駐在

 2018年6月、台北市の米国在台協会(AIT)の新庁舎が落成した。総工費は2億5500万ドル(約280億円)である。その建設には、台湾人は一切関わらず、秘密裡に完成した。新庁舎には、すでに在台米軍が駐屯しているが、最大4000人が駐留可能だと言われる。

 

米国が台湾を特別視する理由

 なぜ、米国はそれほどまでに台湾を特別視しているのか。

まず、第1に、台湾の地政学的重要性にあるだろう。台湾は「第1列島線」(日本・沖縄・台湾・フィリピン・ボルネオ島を結ぶライン)の要所に位置する。同列島線は米国にとって中国「封じ込め」の重要なラインである。

 

第2に、台湾は半導体の重要生産基地である。

 

とりわけ、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)はナノ・テクノロジーで世界トップ企業となった。同社は5ナノメートル半導体を供給している。近くTSMC は3ナノメートル半導体を製造するという。同社は、今後しばらくトップを走り続けるだろう。

第3に、台湾は米国の重要な武器輸出国の一つである。

 

第4に、台湾は李登輝政権下で、蔣経國の権威主義体制から、民主主義体制へと変貌を遂げた。同国は米国の期待通りの理想的な国家となったのである。

 

台湾のハリネズミ戦略

近年、中国側が圧倒的な軍事的優位を確立している。そこで、台湾は非対称戦略であるハリネズミ戦略を採る

イスラエルの防空システムは世界1の密集度を誇っている。台湾は防空システムでは、イスラエルに次ぎ、世界第2位の密集度だという。現在、台湾は、米国から購入した迎撃ミサイルシステムPAC3を72基設置している。

 

ところで、昨年11月、台湾・嘉義空港では約40機で構成されるF‐16V戦闘機部隊の発足式が行われた(その他、台湾軍はF‐16A/B、仏製ミラージュ2000、経国号<IDF>等、合計約280機を保有)。

他方、我が国の航空自衛隊は、戦闘機349機を保有する。とすれば、国土の狭い台湾が日本とほぼ同数の戦闘機を保有していることになるだろう。

  

台湾人の高い祖国防衛意識

「台湾が『独立宣言』したが故に、中国が台湾侵攻した場合、台湾防衛のために戦うか」という設問では、「戦う」と回答した人は62.7%で、「戦わない」と回答した人は26.7%だった(「無回答」は10.6%)。

次に、「もし中国が台湾を統一する際に武力を使用したら、台湾防衛のために戦うか」である。「戦う」と答えた人が72.5%、「戦わない」という人は18.6%にとどまった(「無回答」は9.0%)。

 

結局、「中国が武力統一のため台湾へ侵攻する場合、与党・民進党支持者のうち90%が、野党・国民党支持者のうち過半数が『戦う』という考えを持つ」という。

この結果を見る限り、中国の「台湾侵攻」がそう簡単ではないことがわかるのではないだろうか。

 

米海軍少将マハンの金言

米海軍少将だったアルフレッド・マハン(1840年~1914年)は戦略研究家として名を馳せている。特に、マハンは「いかなる国も『海洋国家』と『大陸国家』を兼ねることはできない」と喝破した

 

実際、世界の大国が「海洋国家」は陸で苦戦し、「大陸国家」は海で苦戦している。その失敗例を挙げてみよう。

 

【失敗例1】第1次世界大戦と第2次世界大戦で、「大陸国家」ドイツはUボート(潜水艦)でイギリス等に対抗したが、どちらも敗北した。

 

【失敗例2】第2次大戦前、「海洋国家」日本は中国大陸へ“進出”したが、結局、敗戦に至る。帝国陸軍は強かったが、やはり限界があった

【失敗例3】第2次大戦後、「海洋国家」米国は朝鮮戦争で勝利を収めることができず、またベトナム戦争でも敗れている。

【失敗例4】大陸国家」旧ソ連は、原子力潜水艦を製造して米国に対抗した。しかし、最終的に、ソ連邦という国家自体が崩壊している

 

【失敗例5】21世紀初頭、「海洋国家」米国がアフガニスタンへ派兵したが、20年後の今年、アフガンから撤退せざるを得なかった。

 

近年、「大陸国家」中国が、空母を建造し「海洋国家」米国の覇権に挑戦している。けれども、その試みは、果たして成功するだろうか。大きな疑問符が付く。

 

おそらく、マハンの金言には、経済的側面も含まれているのではないか。つまり、膨大なコストがかかる。したがって、どんな大国でも優れた海軍・陸軍を同時に持つのは極めて困難なのかもしれない。

 

八方塞がりの中国経済

2012年秋、習近平政権が誕生して以来、中国経済はほぼ右肩下がりである。

 

なぜ、中国は経済が停滞しているか。その主な原因は3つある。

第1に、「混合所有制改革」が導入されたからである。ゾンビ、またはゾンビまがいの国有企業を生き延びさせるため、活きの良い民間企業とそれらの国有企業を合併している。これでは、大部分の民間企業が“ゾンビ化”して行くに違いない。

 

また、これでは「国退民進」(国有経済の縮小と民有経済の増強)ではなく、真逆の「国進民退」(国有経済の増強と民有経済の縮小)という現象が起きる。習近平政権は、中国経済を発展させた鄧小平路線の「改革・開放」を完全否定したのである。

 

第2に、「第2の文化大革命」が発動されたからである。政治思想(「習近平思想」)が優先され、自由な経済活動が阻害されている。これでは、成長は見込めないだろう。

 

第3に、「戦狼外交」(対外強硬路線)が展開され、中国は国際社会で多くの敵を作ったからである。そのため、経済的にも八方塞がりの状態となった。

例えば、昨年来、習政権がオーストラリアに対して強硬姿勢を取り、豪州産石炭の禁輸措置を行った。そこで、現在、中国は電力不足に悩まされている。加えて、習近平政権が推し進める「一帯一路」構想は「コロナ禍」で行き詰まった。貸付先の「債務国」の借金が中国へ戻って来ない。中国が借金のカタに相手国の湾岸等を租借しても、すぐに利益は産まない。

 

 

中国に味方する国は皆無

 いったん「中台戦争」が開始されたら、台湾に味方する国々は多い。新軍事同盟である「AUKUS」(米英豪)、安倍晋三首相が提唱した戦略同盟「Quad」(日米豪印) 、機密情報共有枠組みの「Five Eyes」(米英豪加NZ)等のメンバーは、真っ先に台湾を支援するだろう。

 

既述の如く、近年に至るまで、習近平政権は対外強硬路線の「戦狼外交」を展開し、“四面楚歌”の状態にある。したがって、中国に味方する国はほとんどないだろう。

 

したがって、「海洋国家」群の台湾・米国・日本・英国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・フランス+インドVS. 「大陸国家」中国という図式になる。中国共産党は、苦しい戦いが強いられるだろう。

 

人民解放軍の問題

たとえ中台だけで戦火を交えても、中国軍が台湾軍に勝利するとは限らない。

 

「通常、攻撃側は防御側の3倍の兵力が必要である。台湾はおよそ45万人(予備役を含む)の兵力を持つ。もし地形が不利な場合、攻撃側は5倍以上の兵力が必要となる。そうすると、人民解放軍幹部は台湾へ派遣する兵力は、少なくても約135万人、できれば約225万人欲しいだろう」と鋭く指摘した。

 

現在、中国人民解放軍は総数約200万人である。仮に、約135万人の兵力を台湾へ投入したとしても、台湾軍に勝てるかどうかはあやしい

 

孫子』は中国人の行動原理

 中国の古典で、最も重要な文献の一つは『孫子』である。これを読めば、中国共産党幹部(人民解放軍幹部を含む)の行動様式が、ある程度わかる。

 

孫子の唱える“ベスト”は「戦わずして勝つ」である。

 

そのため、様々な手法で敵を脅すのはもちろんのこと、(1)偽情報を流す、(2)賄賂を送る、(3)スパイを送り込む、(4)ハニートラップを仕掛ける等、あらゆる手段を採る。武力を用いずに敵に勝利する事こそが、孫子の唱えた最高の戦法である。

 

当然、共産党幹部もこの孫子の兵法を熟知している。また、中国が必ずしも「中台戦争」で勝利するとは限らない。そのため、孫子の哲学に沿った戦法を採るのではないだろうか。したがって、人民解放軍が軽々しく「台湾侵攻」を敢行しないと考える方が自然である。

 

 

「台湾侵攻」の模擬演習で6勝48敗

 だが、中国は、1979年の中越国境紛争以後、40年以上、大規模な本格的戦闘を行っていない。だから、実戦経験に乏しい。せいぜい、近年の中印国境紛争ぐらいだろう。これとて、棍棒で殴り合うという原始的な戦いである。

 

実は、朱日和(内モンゴル自治区にある中国陸軍の総合訓練場)に“台湾総統府街区”の模擬建築物が建造されている。そこで、人民解放軍が「台湾侵攻」の模擬演習を行った。昨年9月、『三立新聞網』の報道によれば、解放軍側が6勝48敗6引き分けと散々な戦績に終わったという。模擬演習でさえ、この有様である。実戦となれば、更に厳しい結果が待ち受けていよう。

 

「アキレス腱」三峡ダムをミサイルで破壊

現在、揚子江三峡ダムは、中国のアキレス腱となっている。ダムは湖北省宜昌市に位置する世界最大の水力発電所で、1993年着工、2009年完成した。着工から完成に至るまでの間に、そのダムの寿命がなぜか1000年から100年に短縮されている。完成間際には、10年もてば良いと言われるようになった。

 

2019年、「Google Earth」では、三峡ダムは歪んでいるように見えた。そこで、ダムはいつ崩落するかわからないと囁かれ始めた。その後、台湾の中央大学研究員が、ダムの防護石陥没を発見している。

中国当局は、長江へ大量の雨水が流れ込むたびに、三峡ダムの崩壊を恐れ、上流の小さなダムを決壊させている。そのため、四川省および重慶市ではしばしば大洪水が起きている。

仮に、「中台戦争」が勃発すれば、台湾はすぐさま射程1500キロメートルの中距離ミサイルで、三峡ダムを狙うに違いない(台湾島から三峡ダムまで約1100キロメートル)。

台湾がミサイルで三峡ダムを破壊すれば、中国経済に決定的ダメージを与えるだろう(ダム下流の経済は中国全体の40%以上を占める)。もしダムが決壊すれば、下流に位置する武漢市、南京市、上海市は壊滅するかもしれない。また、ダム下流穀物地帯は広範囲に浸水し、ひょっとして、中国は食糧危機に陥るおそれもある。

 

このようなアキレス腱を抱えたまま、中国共産党が「中台戦争」を敢行するとは考えにくい。

 

「中台戦争」が勃発する3つのケース

万が一、中国軍が「台湾侵攻」に踏み切る場合、3つのケース(地域)が考えられる(おそらく、中国は3地域いっぺんに攻撃することはないだろう)。

第1に、中国軍が南シナ海南沙諸島にある太平島・中洲島を攻撃する。この場合、民進党(本土派)の蔡英文政権が、太平島・中洲島を守るのだろうか。一応、台湾が両島を実効支配しているので、とりあえず防衛を試みるかもしれない。

 

第2に、中国軍が福建省の一部、馬祖・金門を攻撃する。馬祖・金門については、現時点で、「本土派」の蔡政権は死守する公算はある。だが、最終的に、民進党政権は馬祖・金門を中国に明け渡す可能性を捨てきれない。そして、中華民国から馬祖・金門を切り離した後、「台湾共和国」の樹立を目指すというシナリオもあるのではないか。

第3に、中国軍が澎湖島を含む台湾本島を攻撃する。この場合、台湾軍は死に物狂いで郷土を守ろうとするだろう。いくら現代戦はミサイル等のハイテク兵器が勝敗を決すると言っても、最後は”精神力”がモノをいうのではないだろうか。

 

他方、多くの人民解放軍兵士は自分とは直接関係のない台湾を真剣に「解放」しようと考えていないはずである。大半の兵士は如何に生き延びるかしか関心がないと思われる。

 

合理的判断ができない共産党トップと偶発的事故

結論として、中国共産党幹部が“合理的判断”をする限り、「台湾侵攻」を決行する可能性は著しく低い。中国の「台湾侵攻」(=「中台戦争」)は即、「米中戦争」となるからである。中国はサイバー戦争・宇宙戦争は別にして、米国との従来型の戦闘・戦争は望んでいないのではないか。

 

ただし、共産党トップが、“合理的判断”ができない場合、「中台戦争」の勃発する可能性を排除できない。

 

その他、中台間の偶発的事故(どちらかがミサイルを誤射する、戦闘機が敵機を打ち落とす等)によって、「中台戦争」が勃発する事はあり得るだろう。

 澁谷司  © 株式会社飛鳥新社

 

 

 

『戦争のリアル』

日本の「戦争力」を徹底分析

小川和久  SB新書 2022/10/6

 

 

 

危機意識が乏しい日本人こそ知るべき日本の「戦争力」

・ロシアのウクライナ侵攻により、軍事に無関心だといわれる日本人も、これまでになく国防意識が高まっている。

 

日本が戦後最大級の難局にある

・ロシア軍の戦車や装甲車がキーウの北で、幹線道路に60キロメートルも数珠つなぎになりました。先頭車両が何台か破壊されただけで全体が身動きできなくなってしまうのに、そんな隊列をなぜ組むはめになったのか。マスコミがまともに解説するのを聞いた覚えがありません

 

一言でいえば話にリアルティがないのです。

 中国の海上輸送能力や台湾の上陸適地という本格的な上陸作戦に必要な条件、そして中国の軍事力が機能するかどうかを決める軍事インフラの検証などが抜け落ちたまま、台湾有事の空しい議論だけが高まり、人びとの不安を煽りました。

 

さらに、高まる軍事的な危機を前にして、日本には日米同盟を強化するほか道がないことを、米軍や自衛隊のリアルな姿を示して説明しました。

 

「ロシアによるウクライナ侵攻」のリアル――この戦争はいつまで続くのか

トラックの数でロシアの侵攻能力がわかる

Q:早い段階から、「ロシアはウクライナ侵攻で首都キーウを狙う」と主張されていました。そのとおりでしたが、主張の根拠は?

 

A:これまた大学の同僚・西恭之さんの分析に負うところ大です。2022年1月半ばに公表した論考に沿って、「なぜ、キーウだったのか」をお話ししましょう。

ウクライナ侵攻を狙うロシアは、十数万人の兵力・兵器・物資をウクライナ国境付近へ「鉄道」で展開し、極東からも輸送しましたプーチン大統領が侵攻命令を出せば、鉄道線路の末端から前線への兵士・物資の輸送も、逆に前線で負傷した兵士・故障した兵器の鉄道線路への輸送も「トラック」が担います。

 そこで、いきなり結論です。ロシア陸軍の「トラック」を数えることで、ロシア陸軍の“外征能力”がわかるのです

 

 具体的にいえば、ロシア陸軍のトラックが国内の物資集積地と往復して支援できる攻勢作戦は、ウクライナ南東部の前線にいるウクライナ軍を包囲殲滅するといった場合、国境からおおむね100キロ圏内に限られます。

 首都キーウはベラルーシ国境から直線距離で90キロ以上、チェルノブイリを通る道路をたどれば約150キロ離れています。そこへ機械化部隊を進めるには、第一段作戦のあと占領地の道路を修理するなどして、物資集積地を前進させることが必要です。

 

 米陸軍のアレックス・ヴァーシニン中佐によれば、トラックの行動範囲を計算する簡単な方法は、こうです

 物資集積地と届け先部隊が45マイル(72キロ)離れているとき、平均時速45マイルで走行できる道路網があれば、トラック1台が1日3往復できます。荷積み1時間・往路1時間・荷下ろし1時間・復路1時間のサイクルが3回で12時間。1日の残り12時間はトラックの整備や給油、乗員の食事・休息・睡眠、個人携行火器の手入れなどにあてます。

 

 届け先部隊までの距離が90マイルならば、右の1サイクルは6時間となり、1日の往復が2回に減ります。180マイル(290キロ)では、1日1往復しかできません。

 ある輸送部隊が45マイル先の前線部隊をちょうど維持できている状態だとすると、前線部隊が90マイル先に進めば1日の輸送量が33%減り、180マイル進めば66%減るわけです。機械化部隊が前進して物資集積地から離れるほど、補給できる物資量は減っていきます。戦闘で道路や橋が破壊されれば、補給はさらに細ってしまいます。

 

 ロシア陸軍には10個の兵站旅団があり、それぞれトラックが約200台配備されています。同中佐によれば、「諸兵科連合軍」1個に兵站旅団1個とトラック200台を割り当てると、物資集積地から90マイル以内の部隊へ補給するのが精一杯。180マイル離れた部隊へ補給するには、トラックを400台と倍増することが必要です。

 ウクライナ国境付近に展開した諸兵科連合軍4個は、それぞれ多連装ロケット発射機56~90両を持っています。発射機1両のロケット弾装填にトラック1台を要するので、諸兵科連合軍1個がロケット弾を全部撃てば、再装填に56~90台のトラックが必要です。これだけで兵站旅団の持つ通常貨物トラックの半分近くが食われてしまいます

 諸兵科連合軍1個には、さらに野戦砲大隊6~9個、防空大隊9個、機械化・偵察大隊12個、戦車大隊3~5個が配備されていますから、大型兵器の弾薬のほか迫撃砲弾・対戦車ミサイル・銃弾・食料・工兵資材・医療品などもトラックで運ばなければなりません。

 

兵站旅団のもつ「戦術パイプライン大隊」は、占領地に3~4日間でパイプラインを敷設する能力がありますが、敷設完了までは、燃料はタンクローリーで、水は給水車で運びます。

 戦闘車両が満タンで出発すれば数百キロ先まで行けそうなものですが、ヴァーシニン中佐は、「装甲車両はアイドリング中も燃料を大量に消費する。給油の必要性は走行距離ではなく出発後の経過時間で決まる」と指摘しています。つまり、36時間以上かかる攻勢作戦では、タンクローリーを少なくとも1回送って装甲車両に給油する必要が生じるのです。

 

ロシア陸軍の攻勢作戦の範囲は、トラックの輸送能力から百数十キロに限られる」というヴァーシニン中佐の分析は、ロシア軍の前身であるソ連赤軍が第ニ次大戦中、数百キロ進撃する攻勢作戦を繰り返した史実と、矛盾するように思われるかもしれません。

 じつは、独ソ戦後の赤軍の輸送能力は、アメリカが供与したトラック・機関車・貨車などに支えられていました

 

・以上のように西さんが解説する兵站能力の限界は、ロシア軍も自覚しています。

 ロシアが一方的に独立を承認したウクライナ東部2州から西へ、あるいはクリミア半島から北へ、ロシア軍が100~150キロ進出することは、さほど難しくありません。

 しかし、その先、首都キーウへの進撃は、補給線が長く伸びすぎ、非常に難しくなります。猛反撃するウクライナ軍に補給線を断たれ、孤立してしまっては、作戦は頓挫してアウト。ドニエプル川の渡河作戦にも大きな障害となります。

 

 一方、ロシア軍はベラルーシベラルーシ軍と合同演習を繰り返し、そのたびに使った装備を残置して集積しましたベラルーシウクライナ国境からキーウまで約150キロ(90マイル強)の道は、ロシア軍の兵站能力からして、遠すぎる距離ではありません。

 また、現ウクライナ政権を「急進派とネオナチ」「反ロシア・プロジェクト」といった言葉で罵倒したプーチン大統領は、政権の打倒と親ロシア政権の樹立を目論んでいるでしょう。速攻でキーウを陥落させ、現政権を崩壊させてアメリカやNATOと交渉するといった狙いです

 

 以上を総合して、ロシアはウクライナ侵攻でまず首都キーウを目指す作戦計画を立案し実行する、と私は結論しました。

 オースティン米国防長官が「ウクライナ国境周辺に集結した10万規模のロシア軍は、複数の都市や大規模な領土を奪取できる」といい、侵攻はプーチン大統領の決断しだいとの見方を示したのは2022年1月28日でした。

 これより前に私たちは、ロシア軍はキーウを狙うとわかっていました。軍事をリアルに見るとは、こういうことなのです。

 

なぜロシア軍はキーウ攻略に失敗したのか

Q:北から攻めたロシア軍はキーウ手前で停滞。やがて首都攻略を諦め、東部・南部への攻撃に切り替えました。どうしてですか?

 

A:2022年2月24日に侵攻を開始しキーウをめざしたロシア軍部隊は、5日後には首都の北25キロ付近で停滞、後ろの幹線道路には全長60キロ超の車列が連なり、身動きがとれなくなりました

 

・「この3日間、識別できる前進をほとんどしていない」、「兵站が大破綻。多くの車両が泥にはまって動けない」と語っています。

 こうなった理由は、ロシア軍の兵站という大問題をはじめ、車両の整備不良・故障・戦闘による破損、悪路の泥濘、主要道路の渋滞、ロシア兵の士気の低さ、ウクライナ軍の善戦などです。

 

・西さんの論考からわかるように、ロシア軍はもともと兵站が弱いのです。諸兵科連合軍1個に兵站旅団1個(トラック200台)は、ロケット砲・戦車などの戦闘部隊と兵站部隊のバランスが悪い。戦闘部隊が大きすぎるか、兵站部隊が小さすぎるのですロシア国内で鉄道を駆使するときはそれでよくても、道路しかない場所では大問題です

 

・日本は国土の4分の3が山地ですから、平野や盆地は人が集中し、道路も高密度に張りめぐらされています。ところがロシアやウクライナは、国土が広いわりにGDPが小さく、道路網の整備が容易ではありません。だから鉄道依存が強まります

 

・しかも北の寒い土地です。雪が凍りつく1~2月ならまだしも、春の雪解け期には上層の黒土と下層の粘土からできた土壌が排水不良を起こし、ひどく泥濘みます。

 ロシア語の「ラスプティツァ」は、ロシア・ベラルーシウクライナの雪解けの時期や、泥濘んだ道の状態を指す言葉です。昔からロシアを守ってくれる「泥将軍」なる言葉もあります。

 2021~22年のヨーロッパは暖冬で、東部ほど気温が高いとの長期予報でした。ウクライナの雪解けも例年より早く、ロシア軍はこのラスプティツァに足を取られました。キャタピラを履いた戦車ですら、思うように動けなかったのです。

 戦車を主力とする機械化部隊と戦うとき、守る側は「歩戦分離」ということを狙います

 

・凍土が解けた泥濘みは戦車が尻を振るほど滑りますが、全輪にチェーンをつけた装甲車でも、さらに戦車からは引き離されてしまいます。今回のウクライナ戦争では、こうして歩戦分離を泥将軍がやってくれた面があるのです。

 

第ニ次大戦では、現ウクライナ北東部にあるハリコフ(現ハルキウ)をめぐってナチス・ドイツ軍とソ連赤軍が4度にわたる「ハリコフ攻防戦」を戦いました。

 

・この経緯を見れば、雪解け前の凍土の上での戦闘はあっても、雪解けが始まると戦闘が止まり、乾燥した5月以降に再開されたことがわかります。

 もちろんロシア軍が80年前の戦史を知らないはずはありません。雪解け前の原野や畑が例年どおりに凍った状態であれば、ロシア軍は一本道だけに頼らず、いくつもの方面から進撃できました。そして2022年の雪解けが早いこともわかっていました。

 それなりに泥濘にはまってしまったのは、「2日でキーウを攻略せよ」と命じたプーチン大統領の前に、ロシアの軍部が異議申し立てできず、“無謀な作戦”と知りながら実行せざるをえなかったからだ、と思われます

 

ウクライナ軍が善戦した秘密

Q:ドローンからの撮影か、道路上のロシア軍戦車が次々に破壊されていく動画が印象的でした。ウクライナ軍が善戦できた理由は?

 

A:こうしたウクライナ軍の頑強な抵抗には、隠された秘密があります。

 クリミア併合のころ最低の状態にあったウクライナ軍は、その後、アメリカの軍事顧問団の教育訓練を受け、組織や人事が徹底的にたたき直されました。

 

・これに対してロシア側は「演習と聞かされていた」「本当の目的を知り、行きたくなかった」と話した若い捕虜がいたように、戦争に消極的な兵士が少なからずいます。しかも、モスクワはじめ大都市出身の若者が死傷して反戦ムードが高まることをおそれ、少数民族や貧しい地方の出身者を最前線に出している模様です。

 

戦車戦にならなかった秘密

Q:ロシア軍がキーウ攻略に失敗したあと、テレビでは識者の皆さんが「次は平坦地が続く東部の戦いだから戦車戦になる」といっていましたが、そうなっていないようですね。なにか理由があるのですか?

 

A:それは双方の戦車戦力の中心をなす旧ソ連が開発したT-72と、同じ設計思想で生まれたT-80やT-90の運用に理由があるのです

 T-72の車高は2メートル20センチ前後と極端に低く、改良型では改善されたものの、初期のモデルは身長160センチ以下の乗員しかは乗務できませんでした。車高を低くして、被弾面積を減らそうという考え方だったからです。ちなみにアメリカのM-1は2メートル40センチもあります。

 そしてT-72は前面装甲を極端とも言えるほど強化しています。これは戦車壕に身を潜め、砲身だけを突き出して防御する場合に、低い車高と相まって強みを発揮します。しかし、全体の重量42~45トンの相当部分を前面装甲に食われる結果、側面や背面、上部の装甲は薄くならざるをえないのです。

 そのロシア軍戦車が平坦地形で戦おうとすると、側面を狙われるし、ジャベリン対戦車ミサイルなどは上部装甲を狙うトップアタックモードで攻撃してきます。いくら弁当箱のようなリアクティブアーマーをまとっていても、戦車の機動力を発揮する戦いには向かないのです。

 

ロシアの「大隊戦術グループ」の弱点

Q:ウクライナ軍は、2014年から東部でロシア軍や親ロシア武装勢力と戦ってきた。その教訓が生きている、とはいえませんか?

 

A:ある程度は、そういえると思います。ロシア軍の「大隊戦術グループ」を紹介し、ウクライナが過去の戦闘から学んだ教訓を考えることにしましょう。

 

 侵攻1週間前の時点でアメリカ政府は、ロシア陸軍に約170個ある大隊戦術グループ(以下BTG)のうち120~125個がウクライナ側地域から60キロ以内に展開している、と見ていました。BTGという戦闘単位は、おおむね大隊本部・戦車中隊1個(戦車10両)・機械化歩兵中隊3個・対戦車中隊1個・砲兵中隊2~3個(自走榴弾砲6門から多連装ロケット砲6両)、防空中隊2個で編成されます

 ウクライナがロシアの侵攻に持ちこたえられるかは、ウクライナ軍が「ロシア軍BTGの弱点を突くことができるか」にかかっていたわけです。

 

BTGの最大の弱点は、歩兵の数に余裕がないことです。BTGのおもな攻撃力は砲兵で、全体として“貴重な志願兵”である歩兵を温存する編成になっています。

 歩兵部隊の死傷者が増えると、BTG同士で歩兵を融通しなければ戦力を回復できませんし、国内の厭戦世論を高めてしまう戦略的な影響も無視できないからです。

 

・8年前の教訓を一言でいえば、ウクライナ軍は、ロシア軍の砲撃と正面攻撃に耐えることができれば、BTGの歩兵部隊を釘付けにして迂回し、武装勢力の攻撃に成功する可能性があります。今回も、この教訓を生かしながら戦っているように見えます。

 しかし、キーウを諦めて東部・南部に転じたロシア軍は、2022年5月にマリウポリのアゾフスタリ製鉄所を陥落させるなど攻勢が目立ちました。

 

第ニ次大戦前夜のズデーデン併合と酷似

Q:ロシアのウクライナ侵攻は、過去の歴史と重ね合わせることができると思うのですが、どうでしょう?

 

A:2014年のクリミア併合当時、ドイツのショイブン財務相は「ヒトラーのズデーテン併合を思い起こさせる」と警告しました。

 

今回のロシアの動きは第ニ次世界大戦前夜のドイツの動きと、2014年時点よりもはるかによく似ている、というのが私の見方です

 

旧ソ連時代の核シェルターが機能

Q:ロシア軍は首都や東部ほか、中央部や西部の都市にもミサイルを撃ち込んでいます。ウクライナの人びとはよく耐えているものだ、と思うのですが。

 

A:さらに、多くの人が知らないのは冷戦時代、ソ連が国策として核戦争に備える核シェルターを全土に設置したことです。

 核シェルターの多くは、大規模工場・プラント・行政機関・公共施設などの地下深く造られ、大都市の地下鉄駅は初めから核シェルターです。

 放射性物質や煙から収容者を守るフィルター付きの換気・冷却装置や発電機を備え、3日間の食料・飲料水・燃料も備蓄していますマリウポリの製鉄所の地下でウクライナ側が立てこもっていた地下5階のシェルターは、その典型です。多くの避難者の姿がニュースに映し出されたキーウの地下鉄の駅は深さ105.5メートルと世界でもっとも深い駅です。

 

ある研究者は、人口20万程度の中都市で数十~100か所、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市には数百~1000か所以上の核シェルターがあったとします。ソ連の重要な工業地帯だったウクライナでも多数建設されました。

 

ウクライナだけでなく、スイスやフィンランドも核シェルターの設置に熱心な国として知られています。スイスは全国民を、フィンランドでも全国民の7割を収納できるシェルターの設置が法的に義務づけられています。

 

いつ終わるのか、ウクライナ戦争

Q:2022年2月に始まったウクライナ・ロシア戦争は、いつ終わるのでしょうか? 今後どんな点に注目していくべきですか?

 

A:本書を執筆している2022年9月中旬現在で、ロシアのウクライナ侵攻から半年がたちました。国内のマスコミ報道は“ウクライナ疲れ”ともいえそうな低調なムードです。

 

このように眺めると、「ウクライナ問題は長期化する」という見方のリアリティが強まってきます。

 

中国・台湾問題のリアル――軍事的合理性のない「台湾有事論」に踊らされるな

軍事的合理性のない「台湾有事論」

Q:ロシアのウクライナ侵攻で、「次は中国の台湾侵攻では?」とおそれる台湾有事論が広がっています。どう考えますか?

 

A:それは、日本で取り沙汰されている「台湾有事論」には“科学的な視点”が欠け、軍事的合理性もない、ということです

 

・この状況を見て私が思い出したのは、1970年代後半の「北方脅威論」です。米ソ冷戦が激しさを増した当時、日本国内では「何十個師団ものソ連軍が北海道に上陸侵攻してくる」という危機感が高まり、マスコミも煽るような報道を繰り返しました。

 

・ところが現実には、ソ連海上輸送能力には明らかな限界がありました。リアルな姿をとらえれば、ソ連が北海道に投入できるのは3個自動車化狙撃師団、1個空挺師団、1個海軍歩兵旅団、1個空中機動旅団にすぎません。

 まだ弱体だった自衛隊ですが、米軍と力を合わせれば、攻めてくるソ連軍の半数を海に沈めるだけの能力はありました。

 

今回の台湾有事論にも同じ側面が色濃く出ている、と私は考えています。

 

台湾に侵攻するには「海上輸送能力」が不可欠

Q:ソ連の北海道上陸作戦ができなかったように、海上輸送力に限界があるから中国の台湾上陸作戦もできない、ということですか?

 

A:単純な台湾有事論は、「中国軍が数年以内に台湾本島を攻めて占領しようとする」というものですから、そこで台湾侵攻の成否を分けるカギは、台湾への「着上陸作戦」です。

 

・軍事の常識に「攻める側は守る側の3倍以上の兵力が必要」というものがあり、「攻者3倍の法則」と呼ばれています。

 

・現在は、軍の装備品が北方脅威論の時代より大型化しています。100万人規模の兵力で計算すると、必要な輸送船の船腹量は3000万トンから5000万トンという膨大なものになります。これでは中国が保有する商船の船腹量6200万トン(2020年末)の大半を占めてしまいます。経済活動に従事する船をすべて台湾に振り向けることなどありえませんから、中国は充分な船舶を台湾上陸作戦に投入できないことになります。

 

・このあと中国軍の能力について詳しく述べますが、中国軍は台湾海峡で航空優性(制空権)も海上優勢(制海権)も握ることができません。

 

それを考えると、台湾海峡を船で渡る中国軍の兵力100万人の半数程度が洋上で撃破される、と見てよいでしょう

 

どこにでも「上陸適地」があるわけじゃない

Q:台湾有事論が非科学的な第一の理由は、海上輸送能力を考慮していないこと。では第二の理由は?

 

A:第二に、台湾本島の「上陸適地」という問題があります。台湾有事論を振りかざす人で、この問題に触れた例を、残念ながら私は知りません。

 

台湾海峡を渡るとき半数が海の藻屑、台湾上陸直前や上陸中にまた集中攻撃を受けるというのでは、100万人のうち何万人が上陸できるのか、という話です

 かろうじて上陸できたとしても、限られた数の中国軍が台湾の主要部を占領できるはずもありません。予備役200万人が手ぐすね引いて待ち構えており、まして人口2300万人以上という全国土の占領など、はなから不可能です。

 もちろん中国軍は、成立しない上陸作戦は立案しません。これが内外で騒がれている台湾有事論のリアルな現実です。

 

軍高官のポジション・トークに騙されるな

Q:軍高官や軍当局が事実と異なる話をすることがあるのは、なぜですか?メディアがそれを見抜くのは難しいでしょう?

 

A:「ポジション・トーク」という言葉を聞いたことがおありでしょう。自分の立場を重視し、もっぱら自分の立場からの発言ばかりすることです。

 

・「6年後」証言のデビッドソン司令官は、着任が2018年5月で、2021年4月の退任が決まっていました。だから退任直前、長年務めた海軍の役割と中国の増大する脅威を強調し、海軍の予算の増額や新兵器の導入が必要と訴えました。これには、古巣への“置き土産”のような意味もあっただろう、と思います。

 

・前統合幕僚長もその一人ですが、マスメディアでは、海上自衛隊海将OBや航空自衛隊の空将OBが語る台湾有事論が影響力を持っています。ところが、彼らの台湾有事論には、着上陸作戦の軍事的な常識が決定的に欠けているのです。

 というのは、自衛隊の高級幹部を目指すエリートが学ぶ指揮幕僚課程で、海上輸送の計算式や上陸適地を学ぶのは陸上自衛隊だけだからです。海空自衛隊のエリートには、この基礎知識を身につける機会がないのです

 

自衛隊一点豪華主義の軍隊

Q:自衛隊には世界最高水準の突出した部分があり、それで米軍を守っている。なぜ、そういう姿になったのですか?

 

A:日本の自衛隊は、いくつかの部分が世界トップクラスであるものの、他の部分は世界の平均か、もっと低いレベルにとどまっています。“一点豪華主義”といってもよい軍隊なのです。

 

核共有は日本にふさわしいか

Q:「核武装」は必要ないとしても、せめて日本はヨーロッパのような「核共有」を、という意見については?

 

A:「核共有」は、アメリカの核兵器を同盟国の運搬手段に搭載して使う方法です。安倍晋三・元首相は2022年3月に「日本も議論を進める必要がある」と述べています。

 議論するのは結構ですが、NATOが核共有に至った脅威や目的を整理し、日本が同じような状況にあるかどうかを比較検討するのが、順序というものです。

 

・結局、ヨーロッパの核兵共有は、もともと東から大平原を侵攻してくるワルシャワ条約機構軍の地上部隊や航空機の大群を撃破するために、アメリカが小型の戦術核兵器を必要な国に置くことがおもな目的で、それを各国と海を隔てた日本にそのまま適用しても、ほとんど意味がないのです。

 日本の「核武装」論は、リアリズムの対極にある妄想のようなもの、とお話ししましたが、それがダメなら少なくともという発想の「核共有」論も、リアリズムとかけ離れた短絡的な発想です。実態を調べもせず、核兵器をめぐる言葉遊びのような議論を重ねても、虚勢を張る以上のものではありません。

 

サイバー防衛は侵入テストから始まる

Q:日本のサイバー防衛能力については、どうしますか?日本はIT先進国ではないですか?

 

A:意外かもしれませんが、日本はIT先進国ではありません。とりわけコンピュータ・ネットワークのセキュリティには、著しい後進性が残っています。

 

日本の未来を切り開くために

巨大災害や原発事故、感染症も平時の戦争だ

南海トラフ巨大地震の被害想定は、最悪のケースで死者30万人以上、直後の停電2710万件、断水3440万件、電話9割規制、都市ガス停止180万戸などです。西日本の電力は半減してしまうとの予測です。

 

・2020年から始まった新型コロナ禍は2022年8月、陽性報告20万人以上・死者300人以上という日が続き、日本は“世界最悪”の戦いを強いられています。

 

安全と繁栄を実現するための課題

ウクライナ・ロシア、台湾・中国、北朝鮮と、日本を取り巻く国際環境が厳しさを増すなか、私たちは巨大災害や新型コロナ感染症とも戦わなければなりません。

 

外交・安全保障

①  尖閣諸島の領有権について、エストッペル(禁反言)の法理に基づき、国際社会に強く発言し続け、同時に国際司法裁判所への提訴について、中国が嫌がろうとも対応を求め続ける。

②  日中漁業協定の棚上げ海域のうち、尖閣諸島周辺の適用除外海域については、エストッペルの法理から見ても日本の領海であることを国際社会に強く発信し、協定の改正を求め続ける。

③  領海に関する国内法を新たに制定し、少なくとも中国・ベトナムの領海法なみに強制力のともなう執行を可能とする。

 

安全保障

①  弾道ミサイル防衛について、新たな装備が導入されるまでの間は、戦場で友軍の支援を求めるのと同じ発想で、米海軍のBMD対応イージス艦を日本側の費用・人員負担で配備し、「いまそこにある危機」に対処できるようにする。

②  反撃力としての敵の先制攻撃を抑止する能力を「打撃力」として位置づけ」、量的には韓国のキル・チェーンの規模などを参考に、海上自衛隊の艦艇と陸上自衛隊の特科部隊にトマホーク級の巡航ミサイルを配備する

③  核抑止力については、非核三原則のうち「持ち込ませず」を「必要に応じて持ち込むことができる」に変更し、アメリカの核の傘による抑止機能を万全なものにする。

 

災害対策

①  アメリカの連邦緊急事態管理庁FEMA)などを参考に、感染症対策を含む災害への司令塔機能を整備する。「屋上屋を架すがごとし」とする反対論、つまり現在の体制で対処できるという官僚機構の主張には根拠がなく、容易に論破できるものばかりである。まずは小規模なチームを発足させ、実務を進めていくなかで、適正な規模に整備していくことが現実的である。

②  アメリカの疾病対策予防センター(CDC)に相当する組織を、日本版FEMAの外局的な組織として発足させる。

③  日本に1か所も存在しない危機管理要員の教育訓練施設を、関東・関西などブロックごとに設置し、国家的な災害対策能力の向上を図る。

④  将来、南関東で必ず起こるとされる直下型地震に備え、首都・東京の抗堪性を高めるとともに、関西圏に副首都を建設し、東京とのホットバックアップ(システムを停止せず常に情報と機能を共有)によって、災害時に国家機能を継続できるようにする。

 

サイバー・セキュリティ

①  先進国でもっとも遅れている日本のサイバー・セキュリティを国際水準に向上させるため、ホワイトハッカーなど国際的な専門家からなるチームを発足させ、あらゆる角度から日本の脆弱性を探り、リアルタイムで対策を講じていくとともに、洗い出された問題点をもとにサイバー防衛の青写真を描く。

 

・これらを実行に移すことができるのは、国家のリーダーたる内閣総理大臣をおいて他にありません。

 

国家の司令塔を機能させる

・じつは私は、右のような問題を、これまで繰り返し提言してきました。しかし、残念ながら採用されるまでには至っていません。そうなってしまう理由がいくつかあります。

 第一に、日本は国家としての司令塔機能が充分ではありません。これを早急に改善しなければいけません

 

「拙速」こそ危機管理の要諦

・第二に、「拙速」こそが危機管理の要諦であり、人災は「巧遅」から生まれるのだ、という思想を徹底する必要があります。

 

国際水準を知らない「井の中の蛙

第三に、日本の従来の危機管理の多くは、世界に通用しない“井の中の蛙”ともいえるものです。世界を広く見渡し、国際水準から見て合格点をつけることができない危機管理は、その時点で失敗なのです

 

民主主義の基本は記録と検証

第四に、日本は“検証”する――「まず起こったことを正確に記録に残し、一息ついたら、責任問題はさておき、しっかり検証しようではないか」という部分が非常に弱い

 この点を改める必要があります。既に指摘した図上演習・拙速・国際水準の三点とも、しっかりした検証作業を通じて実現できることは、いうまでもありません。これが民主主義を機能させる基本となります。

 

「オペレーション希望」

・それは、戦後最大級の難局に直面する日本で、危機や不安を煽る一方の無責任な言説ばかりが広がり、冷静な分析に基づく議論がなされず、それを踏まえて人びとに“安心”と“希望”をもたらす政策も一向に打ち出されない、という深刻な問題です

 

 

 

(2023/2/4)

 

 

『日本はすでに戦時下にある』

すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル

渡部悦和  ワニ・プラス  2022/1/26

 

 

 

<まえがき>

平和なときにおいても「目にみえない戦い」は進行している

我が国周辺の安全保障関係は世界でもっとも厳しい状況にあると言っても過言ではない

 

・また、北朝鮮は核ミサイルの開発を継続し、その能力は目を見張る進歩を遂げ、やはり日本の脅威になっている。さらにロシアは、ウラジーミル・プーチン大統領が唱える「ロシアの復活」に基づき、米国を中心とした民主主義陣営を敵視する政策を展開している北方領土問題を抱える日本にとってロシアは警戒すべき国家である。

 つまり、日本周辺には中国、ロシア、北朝鮮という民主主義陣営と対立する世界的にも有名な独裁国家が存在していることになる。

 

・マイケル・ピルズベリーは、現在進行中の中国が仕掛ける戦いについて、「我々はゲームに負けているのかどうかわかっていない。実際、我々はゲームが始まっていることさえ知らないのだ」と表現している。

 ピルズベリーが言っているゲームとは、中国が100年間の屈辱の歴史を晴らし、世界一の覇権国を目指して実施している「100年マラソン」のことで、習近平国家主席が主張する2049年を目標とする、「中華民族の偉大なる復興」の実現と符合する。

 

あらゆる領域が侵略される「全領域戦」の時代

・米国は、現在の国際情勢を称して「大国間の競争の時代」と呼んでいるが、大国とは米国、中国、ロシアのことだ。とくに中国は米国と覇権争いを展開している。米中覇権争いがおこなわれている現在を、ある者は「新冷戦の時代」「第3次世界大戦の時代」「ハイブリッド戦の時代」「超限戦の時代」などと表現している私は現代を「全領域戦の時代」と表現したいと思う。

 

・官庁や民間企業では、システムが不正アクセスされて秘密情報を盗まれ、システム全体を凍結され、その解除のための身代金を要求される事件(ランサムウェア攻撃)が日々報道されている。

 そのような不法なサイバー攻撃には個人や民間組織のみならず、国家レベルの軍事組織が関与しているケースが多い。例えば、中国人民解放軍やロシア軍、とくにロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)は、自らサイバー攻撃をおこなうのみならず、民間のサイバーグループを組織化してサイバー攻撃をさせるケースが増えている。

 

オーストラリアにおける中国の統一戦線工作

中国との戦いがすでに始まっていることを知らない人は多い中国共産党の中央統一戦線工作部(以下、中央統戦部)の工作(統一戦線工作)のことを知っている日本人は少ないと思う。中央統戦部についてはいままで語られることが少なかったからだ。私は中央統戦部と統一戦線工作を多くの人に知ってもらわなければいけないという使命感をもって本書を書いた。

 

・とくに大きかったのは新型コロナの蔓延である。オーストラリア人が

新型コロナを機に中国が仕掛ける「静かな侵略」の脅威に覚醒したのだ。この静かな侵略に対して堂々と戦っているオーストラリアは日本のいいお手本になる。

 

日本におけるトロイの木馬

・日本も統一戦線工作のターゲットになっていることを強調したい。この工作は、日本の政界、経済界、メディア、アカデミア(学会)、中央省庁、芸能界、宗教界、自衛隊、警察などあらゆる分野に浸透している。

 外国資本が自衛隊海上保安庁の基地周辺の不動産や北海道などの広大な土地を買いあさり、日本の団地に中国人が大勢住むようになり、その団地が彼らに占領されかねない状況になっていることなど、工作の例は枚挙にいとまがない。

 

<我々は賢くて強くなければいけない

・以上記述してきたように、我々がいまは平和なときだと思っていても、中国などが仕掛ける「目にみえない戦い」は進行している。このままでは「目にみえない戦い」に気づかないまま敗北してしまう可能性がある。

 中国は、統一戦線工作の国家であり、「超限思考」の国家でもある。

 

・『超限戦』の本質は「目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する」ことを徹底的に主張していることだ。民主主義諸国の基本的な価値観の制限を超え、あらゆる境界を超越する戦いを公然と主張している。

 

・超限思想を信じる国家にとって、日本は鴨がネギを背負った状態の“鴨ネギ”国家だと思う。目的のためには手段を選ばない手強い国に対して、日本はあまりにも無防備だ。

 愚かなことに我が国は非常に多くの安全保障上の制約やタブーを、自ら設けている。日本人はもっと危機感をもたなければいけない。そして、鴨ネギ状態から脱却しなければいけない。

 脅威には目にみえるものと目にみえないものがある。日本人は賢くなければいけないし、強くなければいけない。

 

あらゆる領域が戦いの場となる「全領域戦」の時代

・米国のジョー・バイデン大統領は2021年3月の記者会見で、米中のせめぎ合いは「21世紀における民主主義と専制主義との戦いだ」と表現した。「民主主義」対「専制主義」という構図は、2021年3月18日にアラスカでおこなわれた米中の外交トップ会談でも明確であった。

 

中国があらゆる手段で米国を中心とする民主主義陣営に対抗しようとする際に、米国の同盟国である日本も攻撃の主たるターゲットになっている。だからこそ、「日本は戦時中である」という認識になるのだ

 

・筆者は、『現代戦争論―超「超限戦」』で、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIの軍事利用を中心に現代戦の一端を紹介した。これらの戦いが中国要人の発言にある「あらゆる手段」になるのだ。

 

・全領域戦の特徴は、①あらゆる領域を使用すること、②軍事的手段や非軍事的手段などあらゆる手段を活用すること、③軍事作戦が主として戦時におこなわれるのに対して、全領域戦は平時と戦時を問わずおこなわれること、④いままで平時とおもわれていたときをとくに重視しておこなわれることである。

 

「平時と戦時」の概念の変化

・米陸軍はその作戦構想「多領域作戦」において、期間を競争と紛争のふたつに分けている。つまり、昔でいうところの平時は文字通りの平和なときではなく、競争相手国と競争している期間だと解釈したのだ。この解釈は適切で、中国やロシアはこの競争の期間を重視して情報戦、宇宙戦、サイバー戦などを仕掛けてくる。

 

米海軍はその作戦構想「統合全領域海軍力」において、日々の競争から危機を経て紛争になると考えている。

 

・米空軍はその作戦構想「全領域作戦」において、協力から競争を経て武力紛争になると考えている。

 

・筆者の造語である「全領域戦」は、米国防省や米軍が最近主張している全領域作戦からヒントを得ている。米軍の作戦構想に関しては、前述のように米陸軍が主導する多領域作戦がある。米国防省や米軍は最近、多領域作戦を一歩進めた全領域作戦を提唱しており、その具体化を進めている。

 軍事作戦としての全領域作戦は、米軍を中心とした作戦構想を知るためには米軍の作戦を研究して、その考え方を模倣している。つまり、解放軍の作戦構想を知るためには米軍の作戦構想を知ることが近道になる。

 そして、全領域作戦は軍隊がおこなう軍事作戦であるが、筆者が提案する全領域戦は政府を中心として多くの組織が参加し、あらゆる手段とあらゆる領域を利用しておこなう戦いである。

 

中国が考える現代戦――「超限戦」と中国の現代戦

・習は、中国の夢を実現するために、海洋強国の夢、航空強国の夢、宇宙強国の夢、技術大国の夢、サイバー強国の夢、AI強国の夢など多くの夢を実現すると主張している。つまり、列挙したそれぞれの分野で世界一になるということだ。これらすべての領域で世界一になるという夢は、全領域戦に勝利する決意の表れである。

 

領域(ドメイン)と全領域戦

・中国が一番重視しているのが情報戦だ。通常の民主主義国家の情報戦は、主として軍事作戦に必要な情報活動を意味する。しかし、中国は情報戦を広い概念でとらえていて、解放軍の軍事作戦に寄与する情報活動のみならず、2016年の米国大統領選挙以来有名になった政治戦、影響工作、心理戦、謀略戦、大外宣戦(大対外宣伝戦)などをすべて含むものだと理解すべきであろう。

 解放軍にとっては情報戦が現代戦のもっとも基本となる戦いになる。情報戦を基本として、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などがある。

 

中国の政治戦:統一線工作による「静かな侵略」>

・中国において、その長い歴史のなかで繰り広げられてきた政治戦は、伝統的な戦いである。現代の政治戦は、中国共産党一党独裁体制を維持するために、中共中央統一戦線工作部の工作として実施されているが、最近は習近平主席の意向もあり、国外における工作も重視されている。

 

中国の統一戦線工作

・このなかで中央統戦部は、「秘密主義」「曖昧」「目立たない」と表現されている組織であり、日本人には馴染みの薄い組織だと思われるが、我が国の平和と安定を維持するためにはさけて通れない組織だ。中央統戦部は、中共に対する中国本土の国民、海外の中国人、世界中の広範な華僑コミュニティの忠誠を確保しようとする、中共中央委員会直轄の組織だ。

 

日本における統一戦線工作

日本における工作組織

 ・日本での中央統戦部の活動についてはあまり公表されてこなかったが、その存在自体は日本の公安警察や米国の国防情報局などでもかなり把握されている。

 

日本で懸念される「移民戦」の脅威

・「移民戦」という言葉を知っているだろうかベラルーシアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が移民を利用して、ポートランドなどの隣接国の政情や治安を意図的に不安定にすることを狙っているが、このような戦いのことを「移民戦」という。

 

外国人参政権・外国人住民投票の問題

・在日外国人が増加してくると、次なる問題は外国人参政権投票権の問題だ。

 

突然襲ってくるウイルスと化学兵器との戦い

新型コロナウイルスが2020年以降2年にわたり、世界中で猛威を振るっている。これを「ウイルス兵器を使用したウイルス戦だ」と主張する人もいるが、否定する専門家は多い。いずれにしても、新型コロナのパンデミックは、私が現役の自衛官のときに恐れていた事態であることは確かだ。

 軍事の世界では大量破壊兵器またはNBC兵器という専門用語があるが、これは核兵器生物兵器化学兵器のことだ。

 

新型コロナウイルスをめぐる中国の大問題

武漢で発生した新型コロナについて謝罪もなく情報隠しをする中国

・新型コロナが2019年12月に中国・武漢市で発生してから2年が経過した。この間、世界における新型コロナの感染者数は約2.8億人、死亡者数は538万人(2021年12月23日現在)という未曽有の状況になっている。各国は新型コロナに対して悪戦苦闘しているが、発生源である中国からの謝罪は一切ない。

 新型コロナへの対処は国家の危機管理あるいは国家防衛そのものであり、新型コロナとの戦いはまさにウイルス戦の様相を呈している。

 新型コロナのパンデミックは明らかに武漢市から始まったが、その発生源に関しては明確な答えが出ていない。感染拡大の早い段階から、多くの人や組織が「武漢ウイルス研究所からの流出説」を主張している。

 

新型コロナをめぐる論戦の結論

・新型コロナの起源に関する論戦の最終的な結論は、中国当局武漢での感染発生当初の情報を開示しない限り出てこない。敢えて現時点における私の結論を出すとすれば以下の通りだ。

 

①  新型コロナは解放軍が関与したウイルス兵器として開発されたものか?

新型コロナは、ウイルス兵器として開発されたものではない可能性が高い

②  新型コロナは自然由来のものではなく、人工的に作られたものなのか?

新型コロナは、おそらく自然由来(コウモリなどが起源)のもので、人工的に遺伝子操作されたものではない可能性が高い。

 

③  武漢ウイルス研究所(WIV)から流出したものではないのか?

WIVから流出した可能性を完全に否定することはできない。しかし、WIVから流出したものではなく、コロナウイルスがコウモリから他の動物へと伝染したあと、遺伝子の構成に重大な変化が生じ、ヒトに感染した可能性もある。つまり、「WIVから流出した」と断定することはできない。

 

私の結論は、米国の国家情報長官と国家情報会議が共同でまとめた報告書、ウイルスの専門家の意見を重視している。とくに国家情報長官は米国の16ある情報機関を統括する立場にあり、その結論は重視すべきだと思う。

新型コロナの起源をめぐる議論は、客観的事実が明確でない状況ではポジショントークになりがちである。ポジショントークとは、自分の立ち位置に由来する発言をおこなうことで、自分に有利な状況になることを目的とした発言のことだ。

とくに米中覇権争いにおいて、中国を徹底的に批判したい者は米国のみならず世界中にいるが、それに対して米国の情報機関の冷静さは注目に値する。この点が、中国やロシアなどの権威主義諸国の嘘に満ちた情報機関の主張と大きく違う点だ。

新型コロナのパンデミックを、将来的にウイルス戦として積極的に利用する国家や非国家主体が出現しても私は驚かない。まさかそんなことは起こらないだろうという考えはやめたほうがよい。つねに最悪の事態を想定し、それに備えなければいけない。

 

サイバー戦:サイバー空間を利用した仁義なき戦い

サイバー戦とは

・サイバー戦の明確な定義はないが、本書においては「サイバー戦とは、ある目的達成のために国家や非国家主体が実施するサイバー空間での戦い」と定義する。

 サイバー空間は、インタ―ネット、インタ―ネットに接続されているネットワーク、これらのネットワークに接続されている電子機器が作り出す人工の空間だ。人体で譬えるなら、脳とその他の器官をつなぐ「脳神経系統」と言えるだろう。

 このサイバー空間は、情報通信分野に目を見張る発展をもたらし、インタ―ネットを利用した様々なビジネスを生み出した。それにより経済を発展させ、民間でも軍事においても不可欠な空間になっている。

 一方で、悪意ある者がサイバー空間を悪用し、サイバー犯罪、サイバースパイ活動、重要インフラに対するサイバー攻撃が発生し、世界の安定を脅かす大きなリスクになっている。そしていまやサイバー空間は、陸・海・空・宇宙に次ぐ第五の戦場と呼ばれ、安全保障における重要な空間である。

 

防衛省を例にとると、一日に膨大な数の不正アクセスを受けている。日本に対するサイバー戦でとくに注意しなければいけない国々は中国、北朝鮮、ロシアだ。

 

サイバー戦の三つの要素

・サイバー戦を区分すると、サイバー情報活動、攻撃的なサイバー戦、防御的サイバー戦に分かれる。

 サイバー情報活動には、ふたつの目的がある。第一の目的は、相手のシステムやネットワークに存在する情報を収集し、分析すること、即ち作戦遂行に直接必要な情報を収集・分析することである。

 第二の目的は、相手のシステムそれ自体に関する技術的な情報を収集・分析することだ。

 

・一方、人間がおこなうハッキングは、相手のシステムへの侵入や偵察、プログラムの書き換えやすり替え、情報の窃取、システムダウンやシステムの物理的破壊などの工作をおこなう。

 例えば、敵政府組織や軍のシステムの破壊や混乱、電力や通信、金融、交通などのインフラを機能不全に陥れることができれば、戦う前から圧倒的に有利な状況を作ることができる。

 サイバー空間における防御にはふたつの備えが必要になる

 ひとつ目は、DDos攻撃――攻撃目標に対し、大量のデータや不正なデータを送り付けることで、正常に稼働できない状態に追いこむこと――のようにシステム内部に侵入することなく、直接システムに負荷をかける攻撃への備えだ。

 ふたつ目は、敵が我々のシステムに侵入し、プログラムを書き換え、情報の窃取やシステムダウンをおこなう攻撃への備えだ。

 

最近のランサムウェア攻撃

・世界中でランサムウェア身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃が相次いでいる。

 ランサムウェア攻撃とは、標的型メールなどを利用して端末に侵入し、コンピュータ内のファイルを不正に暗号化したうえで、暗号を解除するための身代金を要求するというものだ。

 サイバーセキュリティの専門家は、事態を悪化の一途をたどっていると警鐘を鳴らしている。

 

ランサムウェア攻撃を回避または被害を局限するための心構え

ランサムウェア攻撃は企業のみならず個人もターゲットになる可能性がある。とくに個人がランサムウェア攻撃をいかにして回避または被害を極力減らせるか、専門家に質問すると異口同音に返ってくる答えが、以下のようなサイバーセキュリティの基本を事前の予防措置として、日ごろから徹底することだという。

⓵データ等のバックアップをこまめに取る。

②OSやソフトウエアの更新を徹底し、セキュリティソフトを導入する。

④  パスワード保護を確実におこなう。

⑤  不審なメールを開封しない。

⑥  安全なネットワークのみを使用する。

 

ランサムウェア攻撃を受けてしまったら

・不幸にしてランサムウェア攻撃を受けた場合、以下の対処が推奨される。

⓵すぐに切断する

②身代金を支払わない

 

日本における軍事面でのサイバー攻撃の実例

・サイバー空間に「平時」はない。文字通りの「常在戦場」であり、つねにアップデートされた最新技術を駆使した攻撃が続けられている。その目的はただひとつ、政治、経済、軍事などあらゆる面で、対象国より自国の優位を実現することにある。

 

ロシアによる攻撃

・ロシアの場合、実際にサイバー戦の重要性を証明した例がある。2014年にロシアとウクライナクリミア半島の領有権を争った「ウクライナ危機」だ。この紛争は「新時代における戦争の作法」として、各国の軍関係者から注目を集めた。

 クリミア半島の併合を目論むロシアの計画は周到だった。まず、軍事侵攻の7年前にウクライナへのサイバー攻撃を仕掛けた。

 

・当初、彼らはウクライナ国内の官民組織のネットワークのハッキングに着手。至るところにその後の工作・破壊活動を有利にする「バックドアコンピュータへ不正に侵入するための入り口)」を設置し、以降は政府組織や主要メディアのサイトの改竄や変更をくりかえした。

 同時に「Redoctober」「MiniDuke」などのコンピュータウイルスを活用した「アルマゲドン作戦」に着手。これはウクライナ政府や軍の情報を搾取するほか、以降のロシア軍部隊の動きを支援する情報操作や撹乱を企図したものだ。

 いよいよ侵攻を翌年に控えた2013年には、複数のテレビ局や新聞などのメディアとその関係者、反ロシア、親EUの立場の政治家やその支援者のサイトをダウンさせた。

 

かくして2014年2月に侵攻作戦が始まった。親ロシア派武装勢力を装ったロシア特殊作戦軍や、ロシア軍が支給する武器や装備品をもたないことから「国籍不明」と判断され、「リトル・グリーンメン」と呼ばれた覆面兵士の集団――実際にはロシア軍特殊部隊の「スペツナズ」だった――が、半島中央に位置するシンフェローポリ国際空港や地方議会、政府庁舎、複数の軍事基地などの重要拠点を占拠した。

 作戦がスムーズに進んだ最大の理由は、ウクライナ国内のインタ―ネット・エクスチェンジ・ポイントや通信施設はほとんどが無力化されていたからだ。都市機能のマヒだけでなく、ウクライナ軍の通信網も大混乱に陥っていたのである。

 

我が国の「サイバーセキュリティ」に対する甘い認識

・しかし、本書においては「サイバー戦」という用語を重視して使用する。なぜなら、我が国では中国、ロシア、北朝鮮などのサイバー攻撃の脅威を甘くみすぎているからだ。

 

日本のサイバー安全保障の体制

・現実世界の戦いと同様に、サイバー空間でも敵を排除して攻撃を防ぐには、反撃の意志と能力をもつことが不可欠だ。しかし、自衛隊は「防衛出動」や「治安出動」が命じられない限り動けない。ここでも憲法に規定された「専守防衛」が足枷になっているからだ。

 

世界各国のサイバー戦能力比較

・ロシアの大手セキュリティベンダー「ゼクリオン・アナリティックス」によると、各国のサイバー軍の総合力は、1位・米国、2位・中国、3位・英国、4位・ロシア、5位・ドイツ、6位・北朝鮮、7位・フランス、8位・韓国、9位・イスラエル、10位・ポートランドである。日本は北朝鮮より下の11位。

 

・パイプラインへの攻撃が示す通り、一等国の米国でさえサイバー攻撃を完全に防ぐことは難しい。その米国と比べてはるかに劣る、日本の課題はあまりに多い。

 

サイバー空間における将来のリスク

・元NATO軍最高司令官ジェームズ・スタヴリディス大将の著書『2034』(翻訳は『2034米中戦争』二見文庫)は、米中核戦争を扱った小説であり、米国では10万部以上のベストセラーになっている。

『2034』では、米海軍の艦艇37隻が中国海軍に撃沈され、米本土の重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃を受ける。米国はその報復として、中国の湛江(たんこう)市に戦術核攻撃をおこなうというストーリーだが、重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃というシナリオは現実離れしている。さらに『2034』は、サイバー攻撃を過剰に評価している。

 

情報戦、とくに影響工作の主戦場としてのSNS

・SNS時代においては、ソーシャルメディアが世論の形成にますます大きな影響を与える存在になることを認識しなければいけない。私はSNSを多用しているが、SNSは影響工作の主戦場になっているという実感がある。

 

我々はフェイクの時代を生きている

SNSを使った影響工作

・インタ―ネットとSNSの普及により、真実や事実のみならず、偽情報や誤情報も流布され、私たちがそれらに踊らされる事例が数多く発生するようになった。

 

中ロの影響工作とデュープス

・SNSを使っていると、米国の大統領選挙や新型コロナのワクチンをめぐりSNS上で流布されている偽情報を簡単に信用し、その偽情報を自らも拡散する人たちの多さに驚かされる。私はこれらの人たちは、中国やロシアのデュープスではないかと思っている。ここでいうデュープスとは、「明確な意思をもって中国やロシアのために活動しているわけではないが、知らず知らずのうちに中国やロシアに利用されている人々」のことだ。中国やロシアが流す偽情報を信用して、その情報をSNS経由で拡散する人たちがなんと多いことか。

 

米国大統領選挙における影響工作

2016年の米国大統領選挙における影響工作

・影響工作が世界的に有名になったのは、2016年の米国大統領選におけるロシアの影響工作で、「ロシアゲート事件」とか「プロジェクト・ラクタ」と呼ばれている。ロシア参謀本部情報総局(GRU)は、ヒラリー・クリントン候補を落選させる目的で、彼女の選挙戦を不利にする偽情報などをSNSやウィキリークスなどに大量に流布した。

 

2020年の米国大統領選挙における影響工作

・2020年の米大統領選挙に際しても、諸外国による大量のメール送信やSNSなどに偽情報を流すなどの情報工作がなされた。

 

Qアノン信奉者やトランプ支持者による偽情報の流布

・典型的な偽情報のひとつに、「米大統領選挙で大規模な不正があり、じつはトランプが勝利していた」という主張がある。

 このトランプ支持者がらみの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ前大統領自身が「米大統領選で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という虚偽の主張を執拗にくりかえしたからだ。

 

<●Qアノンとは

・中国やロシア以外にも複数の団体や個人が、2020年米大統領選挙に関連してSNSなどを通じて、偽情報を流布し、社会を混乱させた。これらの行為は、団体や個人による影響工作といえるだろう。彼らの代表がQアノンである。Qアノンとは、2017年10月に匿名掲示板「4chan」に政府関係者「Q」を名乗る人物が登場し、米政府の機密だと主張する内容の投稿を始めたことに由来する。アノンは、匿名を意味する「アノニマス」に由来している。「Q」はトランプ政権内にいた者だと私は思っている。

 Qアノンの主張を熱狂的に信じる支持者(熱心な層だけで米国に数十万人)はトランプ支持者と重なる。彼らは「米国や世界はディープ・ステート(DS:世界を操る影の政府)に支配されていて、DSと戦う救世主がトランプだ」という陰謀論を信じている。

 

・このQアノンやトランプ支持者らの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ氏自身が「米大統領選挙で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という根拠に乏しい主張を執拗にくりかえしたからだ。

 

<●QアノンやJアノンが信じた偽情報

・日本にもQアノンの支持者が流布する偽情報を信じ、SNSで活発に偽情報を流す者が多数いるが、彼らはJアノンと呼ばれている。

 

新型コロナをめぐる影響工作

・新型コロナのパンデミックにともない、中国やロシアの「意図的な偽情報の拡散」が世界的な問題になっている。

 さらに問題なのは、中国やロシアの偽情報とまったく同じワクチン陰謀論などをSNS上で拡散する日本人も相当数存在することだ。彼らは、知らず知らずのうちに中国やロシアの偽情報を拡散するデュープスの役割を果たしている。

 

SNSの問題:偽情報や誤情報の流布をいかに防ぐか

・現代は「フェイクの時代」だと私は思っている。2016年の米大統領選挙以降に顕著になった誤情報や偽情報などの有害情報やヘイトスピーチなどのSNS上での氾濫は「ポスト真実」の時代のひとつの表れだ。

 

<●事実は虚偽に負ける ⁉

・情報を受け取る者にも問題がある。人はみたいものをみて、聞きたいものを聞き、読みたいものを読む傾向がある。人々はSNSを通じて事実か否かよりも面白さを重視して情報収集し、それを好んで拡散する。また、すでにもっている先入観に合致する情報を選択的に収集し、拡散する傾向がある。SNSで同じような考えの人とつながることを好み、自分が信じたい情報を好み、好みの情報を流布することにより、フェイクニュースが急速に拡散されていく。

 

<●アテンション・エコノミー(注目経済圏)

・偽情報や誤情報はいかなるメカニズムによって、広がり浸透するのか。それについては「アテンション・エコノミー」の効果が注目されている。フェイスブックやユーチューブなどのビジネスモデルのベースは、人々が閲覧し、クリックすることでコンテンツ提供者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。この構造全体は「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。

 

<●訴訟による賠償請求など

・最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきた。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もある。また、偽情報や誤情報を安易に垂れ流すソーシャルメディアに対する集団訴訟の可能性もあるだろう。

 偽情報の垂れ流しに対する訴訟は、安易な偽情報や誤情報の流布に対する一定の抑止手段になる可能性はある。

 

情報戦に際して個人で対応できること

・SNSには偽情報や誤情報が満ち満ちている。出所の怪しい情報をファクトチェックすることなく簡単に信じている人たちがなんと多いことか。怪しい情報を鵜呑みにする人が、米大統領選挙の陰謀論者になり、同時にワクチンの陰謀論者になっている。

 陰謀論の氾濫は、「誰もが自由に情報発信できること」が招いた危機である。

 

宇宙戦:宇宙平和利用は甘い、宇宙での戦い

「宇宙の平和利用」が通用しない「宇宙は戦場」という現実

米国の宇宙政策

ドナルド・トランプ政権の国家宇宙戦略

・トランプ前大統領が2018年3月に発表した、国家宇宙戦略は、米国が宇宙における覇権を死守することを宣言したものであり、その要点を紹介する。

 

宇宙に関しては、米国の利益を最優先し、米国を強く、競争力があり、偉大な国家にする

・米国の宇宙をめぐる足枷を取り除き、米国が宇宙サービスと技術において世界的なリーダーであり続けるための規制改革を優先する。

宇宙における科学・ビジネス・国家安全保障上の利益を確保することが政権の最優先事項だ。

・米国の繁栄と安全にとって不可欠な宇宙システムの創造と維持において引き続き主導的役割を果たす。宇宙における米国のリーダーシップと成功を確保する。

宇宙分野における「力による平和」を追求する。宇宙への自由なアクセスと宇宙での活動の自由を確保し、米国の安全保障、経済的繁栄、化学的知識を増進する。

・米国のライバルや敵が宇宙を戦闘領域に変えてしまった。宇宙領域に紛争がないことを望むが、それに対応する準備をする。米国と同盟国の国益に反する宇宙空間の脅威を抑止し、対処し、撃退する。

 

 以上で明らかなように、トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」は宇宙にも適用される。明らかに宇宙における覇権を追及しているからだ。

 

電磁波戦:みえない領域での危険な戦い

電磁波について

電磁波の軍事利用

ハバナ症候群

中國人民解放軍の「マイクロ波兵器」

マイクロ波を利用した対人兵器システムは、もともと米国企業が暴動鎮圧用に「非致死性兵器」として開発したもので、米軍はアフガンとの対立で短期間戦地へもちこんだが、使用しなかったとも言われている

 マイクロ波は、電子レンジや携帯電話に利用されることで知られているが、専門家によれば、95ギガヘルツのマイクロ波を照射されると、一瞬で皮膚表層が熱くなり、やけどこそしないものの、皮膚細胞の水分が体内に到達して脳や内臓にダメージを与え、頭脳、吐き気、記憶障害、激しい倦怠感などを引き起こすという。微弱なため、当初は自覚症状がなく、外傷も残さないのが特徴だ。兵器化にあたっては、その出力と条件を研究することが課題だともされる

 指向性エネルギー兵器とは、レーザー、メーザー波、マイクロ波素粒子エネルギー、電子ビーム、音響など、多種にわたるエネルギーを使用して、目標物や人間に対して直接照射し、破壊したり機能を停止させたりする兵器だ。現在も研究開発の段階にあるとはいうものの、技術の進歩と投資の増加により、2027年までに、世界の指向性エネルギー兵器市場は大幅な拡大がみこまれている。

 

電磁パルス(EMP)攻撃

EMP攻撃とは

EMP攻撃とは、核爆発などにより強力な電磁波(ガンマ線など)を発生させることで、電子機器に過負荷をかけ、誤作動を発生させ、破壊することを目的とした攻撃である。EMP攻撃は、パソコン、電車、飛行機、自動車、インフラなど、対象地域の全ての電子機器に致命的な打撃をもたらす。

 核EMP攻撃は、高高度で核爆発をおこなうことにより、地上で人体に有害な影響――爆風、熱、降下物による被害――は発生しないが、電子機器に致命的な被害を引き起こすため、敵の防衛力を低下させる比較的簡単な手段であるとみなされている。このため、中国、ロシアなどは、核EMP攻撃は核攻撃ではないと主張している点が厄介である。

 

西側は北朝鮮の核ミサイルの実験やEMPの脅威を軽視してきた

EMP攻撃シナリオ

プライ博士は、2020年6月18日の論考のなかで、「(世界は武漢ウイルスで右往左往している場合ではない。というのも、)中国は長年、EMP攻撃を計画してきた。中国のEMP攻撃こそ脅威なのだ」と主張している。

 

北朝鮮による日本と韓国に対するEMP攻撃シナリオ

北朝鮮は自らが世界の大国であることを証明するために、国際法を無視して核ミサイルをテストし、配備している。北朝鮮の戦略は、核戦争の恐怖を高め、米国とその同盟国を従属させるために、「核による恫喝」を通じて韓国と日本に対する米国の安全保障協力関係を断つことだ。

  • 東京上空で核爆発を引き起こす
  • EMP影響圏は北朝鮮には及ばない
  • 中国は米国の空母打撃群に対しEMP攻撃をおこなう

 

日本よ、賢くて強靭な国家を目指せ

強靭な国家・日本を目指せ

・「超限戦」の主張は、突き詰めれば、国家もマフィアやテロリストたちと同じ論理で行動しなさいということだ。しかし、国家が「超限戦」の教えを実践することにはリスクが大きすぎ、実行すべきではない。一方、中国には民主主義国家のような倫理や法の限界などない。超限戦は日本人をはじめとする民主主義国家がしてはいけない戦いなのだ。

 

日本における機微技術管理を強化せよ

中国などの各種工作に有効に対処するのは難しい状況だ。「スパイ天国日本」の汚名を返上すべきだ。

 そのためには、憲法第9条の改正とスパイ防止法の制定は急務であり、日本の膨張組織の充実、サイバー安全保障体制の確立も急務である。さらに、米国の輸出管理や投資管理を参考にした法令の整備も急務になっている。

 

スパイ防止法の制定と諜報機関の充実を急げ

・我が国はスパイ天国だと言われている。我が国にはスパイを取り締まる法律「スパイ防止法」がないからだ。スパイ防止法がないということはスパイ罪の規定がないということである。

 我が国では、国家の重要な情報や企業等の情報が不法に盗まれたとしても、その行為をスパイ罪で罰することができない。スパイ行為をスパイ罪で罰することができない稀有な国が日本なのだ。

 

・日本以外の国では死刑や無期懲役に処せられるほどの重大犯罪であるスパイ活動を、日本では出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法などの違反、窃盗罪、建造物侵入などの刑の軽い特別法や一般刑法でしか取り締まれず、事実上、野放し状態なのだ。

 

日本の諜報機関の充実を

・世界各国では、国外でも諜報活動を実施する米国のCIA、中国のMSS、英国のSIS、ロシアのFSB、ドイツのBND、イスラエルモサドなどの有名な対外諜報機関が存在するが、日本には国外で諜報活動を実施する機関は存在しない。

 

日本政治の抜本的な改革が必要だ

・かつては「日本の経済は一流、政治は三流」と言われてきたが、一流と言われた経済も三流の政治の影響で二流の経済になる可能性がある。かつては政治が三流であっても、一流の日本企業が頑張って一流の経済を実現していた。しかし、失われた30年を経て、一流の企業が諸外国の企業に敗北するケースがだんだん増えてきている。電機産業や半導体産業が典型的である。

 米国や中国をはじめとして主要国のなかで成長力が最低なのが日本である。ひとりあたりの国民実質所得が低下しているのも日本だけだ。失われた30年の責任の相当の部分は三流の政治にある

 

・「多くの日本の政治家は本来の意味の政治家ではなく“政治屋”だ」と言う人がいる。私は「政治屋は次の選挙のみを考えるが、真の政治家は日本の将来を考える」と思っているが、日本の将来よりも自らの生活を優先する政治屋がなんと多いことか。そういう政治屋が中国のハニートラップやマネートラップに引っかかり、中国の代弁者になるのだ

 とくに政権与党の議員は奮起しなければいけない。議員一人ひとりが、厳しい国際環境のなかで日本が存在感のある国家として生き残るために何をしなければいけないかに集中すべきである。

 

親中の政権与党・公明党の問題

中国共産党の機関紙である『人民日報』には、いかに公明党が親中であるか、いかに日本政府を親中に導いているかを記述した論考が掲載されている。

 

統一戦工作や影響工作の実態を知り効果的に対処せよ

・北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている。

 

中国の超限戦に対して全領域戦で勝利せよ

「超限戦の中国」に「専守防衛の日本」は勝てるか

・国際政治において、大国関係は基本的にゼロサムゲームである。一方が勝てば、他方が負けるという厳しい現実がある。日本人独特のガラパゴス的な発想を捨て、軍事や安全保障の要素をつねに取り入れた国際標準の発想をしないと、憲法前文に記述されている<国際社会における名誉ある地位>は確保できない。

 

日本は現代戦のすべての分野で米中に比し出遅れている

・米中ロは力を信奉する国々だ。この三国と比較すると、日本の現代戦への取り組みは遅れている。とくに米中に対しては、すべての分野において、出遅れていると言わざるを得ない。

 

ここで強調したいのは、現代戦における日本の出遅れの原因は多岐にわたるが、最大の原因は憲法第9条にあるということだ。

 

これらのドメインにおける戦いでは「先手必勝」の原則が成立する。なぜなら、攻撃する者は、いつどこを攻撃するかについて、主導権を持っているからだ。さらに、衛星が破壊される例が典型だが、攻撃による損害の早期回復が困難で、負けっぱなしになってしまう。だから、「先手必勝」なのだ。

 また、防御のみの戦いでは勝てないし、防御的な手段には膨大な費用とマンパワーが必要だ。なぜなら、受動的な立場にある防御側は、すべての攻撃に備えなければいけないからだ

 現代戦における日本の出遅れを取り戻し、中国の超限戦に対抗するためには、まず第9条を改正するか、少なくとも専守防衛などの過度に抑制的な政策を見直すべきだ。

 なぜ憲法改正が必要か。憲法が国家の根幹をなすものだからである。その影響は多分野にわたるからだ。

 

最先端技術開発のために人材および予算を確保せよ

・予算なくしてまっとうなAIの軍事適用などできない。思い切った予算の増額が必要だ。現在の防衛費はGDPの約1%枠内だが、中国や北朝鮮の脅威を勘案すると、AIのみならず防衛省の事業のほとんどの分野で予算不足が指摘されている。

 防衛費の目標については、自民党の安全保障調査会が2018年5月に提言したGDP2%(NATOの目標値でもある)が基準になる。

 

新たな「国家安全保障戦略」への提言

・だからといって、全領域戦を無視するわけにはいかない。中国やロシアは全領域戦を日本に対して仕掛けてくるからだ。

 日本は全領域戦の戦時下にあり、これに対処しなければ日本はあらゆる領域において侵略されるだろう。これが本書でもっとも言いたかったことだ。

 

あとがき

全領域戦の視点が重要

・くりかえしになるが、全領域戦であるという観点で世の中の動きを観察することが有益だと思う。

 最近、我が国において中国の統一戦線工作に関連した書籍が出版されるようになったことは喜ばしい。それらを読むことによって日本への工作の一部を理解することができると思う。

 

全領域戦を仕掛けられている日本は危機的な状況にある。中国の全領域戦に対処できていないのだ

 

日本はオーストラリアと台湾を参考にすべきだ

・中国の日本への工作にいかに対処するかを考える際に非常に参考になる国がオーストラリアと台湾だ。両国は中国から激しい工作を受けているが、その工作に耐えている典型的な国家である。

 

・中国が核心的利益と主張する台湾に対しても中国の全領域戦がおこなわれている。習近平主席は2019年1月の演説で、①解放軍による軍事的圧力、②対外的な台湾の離脱、③浸透工作と政治体制の転覆、④中央統一戦線工作部との連携、⑤サイバー活動と偽情報の拡大、という五つの対台湾工作を重視するとした。

 

日本としては、台湾の状況を注視しながら、そこから多くの教訓を得て、中国の対日工作を撃退する資とすべきであろう

 

真珠湾攻撃から80年:日本は相変わらず国家戦略なき国家

・この日中の違いは何なのか。私は国家として戦略をもっているか否かの違いだと思っている。

 中国の超限戦は邪道ではあるが、厳しい国際社会を生き延びていくひとつの戦略だと思う。しかし、日本には超限戦に匹敵するようなしたたかな国家戦略がない。

 

・本文でもふれた書籍『超限戦』では、<21世紀の戦争は、すべての境界と限度を超えた戦争で、これを超限戦と呼ぶ。この様な戦争であらゆる領域が戦場となりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人という境界がなくなる。>との主張がなされている。 

 これは私が主張する全領域戦の考えと合致する。

 

・日本人は、「平和がノーマルで戦争がアブノーマルだ」と思っているが、世界的には「平和がアブノーマルで戦争がノーマルだ」と思っている人たちが決して少なくない。

 

・しかし、「超限戦」では、<敵国に全く気づかれない状況下で、相手の金融市場を奇襲して、金融危機を起こした後、相手のコンピューターシステムに事前に潜ませておいたウイルスやハッカー分隊が同時に敵のネットワークに攻撃を仕掛け、民間の電力網や交通管制網、金融取引ネット、電気通信網、マスメディア・ネットワークを全面的な麻痺状態に陥れ、社会の恐怖、街頭の騒乱、政府の危機を誘発させる、そして最後に大軍が国境を乗り越え、軍事手段の運用を逐次エスカレートさせて、敵に城下の盟の調印を迫る。>と主張しているのだ。

 まずは、この日本と中国のギャップを認識し、全領域戦で戦いを仕かける相手に対していかに対処するかを真剣に検討すべきだ。

 

 

(2022/5/26)

 

 

『戦争の常識・非常識』

戦争をしたがる文民、したくない軍人

田母神俊雄  ビジネス社  2015/8/22

 

 

 

文民統制のほんとうの意味はご存知だろうか?

日本人が知らない軍事の常識・非常識35

「中国脅威論」も9割引して考えるのが正解!

 

日本の危機管理体制

・日本人には、とにかく軍隊の行動に制約をかけよう、軍が動かなければ戦争にならないし国民が不幸にならない、だから軍事について考えたり、論じたりすることも避けようという思い込みがあります

 しかし、こうした思い込みは国民を不幸から遠ざけるどころか、タブーを増やし、軍事について考える機会を減らし、誤った軍事知識の横行を許し、結局は日本人を危険に晒しているのが現実なのです。

 

戦争のできない軍事力は抑止力とならない

戦争ができる国は、戦争に巻き込まれない。戦争に巻き込まれるのは、戦争ができない国である。

 

同様に、「核武装するよりは核武装しないほうがより国は安全である」というのも、日本以外の国では絶対に通らない非常識です。

 軍事力が強ければ、他国は戦争を挑んできません。プロレスラーに殴りかかろうとは思わないのと同じことです。だから、軍事力が強いほうが国は安全である。したがって、核兵器はもっているほうが安全に決まっているだろう、というのがごく普通の考え方です。

 

<【常識①】軍事的に強い国は、戦争に巻き込まれない。これを「抑止力」という。>

 

核武装国同士は戦争ができない

核兵器についていえば、もうひとつ日本では非常識がまかり通っています。それは、核兵器が「攻撃兵器」だという見方です。

 

核兵器はあまりにも破壊力が強大です。たとえ1発でも食らえば、その被害に耐えられる国家はどこにもありません

 つまり、核兵器を使った戦争には勝者はいない。だから核武装国同士はけっして戦争ができないわけです。撃てば必ず相手も撃ち返してきて、両者が負けることになるからです。こんな愚かな戦争を仕掛ける指導者はいません。

撃てるものなら撃ってみろ。必ず撃ち返すぞ」とお互いに牽制しあって戦争を抑止する。その意味で、核兵器は徹底して防御用の兵器なのです。

 

<【常識②】核兵器は徹底的に防御用の兵器である。>

 

総力戦がなくなった時代

核戦争にかぎらず、国を挙げて戦争すること、つまり総力戦を国家同士が戦うことは、これからの時代にはまずありえません。先進国は世論の反発を恐れて国民が死ぬことを非常に嫌いますし、総力戦の犠牲はあまりにも大きすぎるからです。

 また、軍事力を強化するとすぐに「徴兵制が復活して若者が死ぬことになる」と警戒する人がいますが、これも時代錯誤としか言いようのない主張です。

 世界の軍隊は、徴兵制から志願制へ、という流れが圧倒的になっています。

 

・ところが、中国では一人っ子政策を長く続けてきましたし、年金制度も生活保護制度もないので親は子供の世話になるしかない。すると、まともな子供は絶対に軍にとられたくない、と親は考えます。結局、あまり期待されていない若者が「お前、行ってこい」ということで選ばれる。だから中国の兵隊は3分の1ぐらいは使いものにならないのが実態です。

 

<【常識③】徴兵制の軍隊は弱く、志願制の軍隊は強い。>

 

文民統制の本当の意味は?

・というのも、文民統制シビリアンコントロールとは結局「戦争をやるかやらないかの判断を誰がするか」というだけのことだからです。

 戦争を始める決断は軍がやるのではなく、政治がする。そして、戦争をやめるときにも、「もうやめろ」と命じるのはやっぱり政治であって、軍ではない。軍は戦争をやれと言われれば一生懸命に戦い、やめろと言われれば即座にやめる。これがシビリアン・コントロールで、当たり前の話でしかありません。

 

・これは、日本の戦後教育のなかで、「軍部の独走によって戦争になった」といった教育がなされているせいもあるのでしょう。しかし、大東亜戦争でも、宣戦布告を行って戦争を始めたのは日本の政府です。シビリアンコントロールは旧軍にも働いていたのです。

 

・実際に歴史を見るならば、戦争をやりたがるのは軍人ではなく、文民であることのほうが圧倒的に多いことがわかります。

 戦前、日本が支那事変の泥沼にはまっていったのは近衛文麿首相の判断のせいです。1937年に南京が陥落した時点で、当時の陸海軍のトップ、陸軍参謀総長と海軍軍令部長両方とも宮様だったので、実際には軍人であるナンバー2)は「戦争をやめてくれ」と近衛首相に哀願をしています。北からソ連の脅威が迫っているのに、中国と関わり合っている暇はないという合理的な判断です。

 けれども、近衛首相は「それでは中国になめられる」という論理で対中戦争を強行したのです。

 

・少し考えればわかることですが、軍人は戦争をやりたがりません。当たり前です。戦争になれば自分が死ぬかもしれない。自分の大事な部下が死ぬかもしれない。そんなことを好き好んでやりたがるわけがないのです。

 軍人はもっとも戦争をしたがらない人びとであり、安全なところにいる文民が軍人を使って戦争をしたがる。

 

先ほど日本の戦後教育が軍人を悪者にした、と言いました。これは、さらにさかのぼってみると、大東亜戦争後の東京裁判で、アメリカが日本を分断する政策として「指導者のあの軍人たちが悪かった」というプロパガンダを広めたことが原因でしょう。

 

<【常識④】戦争をしたがらないのが軍人、したがるのが文民である。

 

軍隊の行動はポジティブリストからネガティブリストへ

・これがなにを意味するかというと、自衛隊は国内法上根拠法令がなければなにもできないということ。なにもしてはいけない、というのが原則で、「こういうことをしてよい」という根拠規定(ポジティブリスト)が定められた場合だけ、例外的に自衛のための行動ができるだけ、ということです。

 

・有事の際、相手国はネガティブリストで動く。すなわち、条約と慣習法の集合体であるところの国際法が禁止していること以外はあらゆる手段を用いてくる。

 

<【常識⑤】根拠規定(ポジティブリスト)で動く軍隊は役に立たない。

 

日本を軍事的に自立させずに経済支配をするアメリカの戦略

・日本が防衛出動発令までは集団的自衛権はおろか個別的自衛権さえ行使できない現状では、なにか事が起きないように日米安保アメリカの抑止力に期待するしかありません。すなわちアメリカに守ってもらっている状況なのです。

 

<【常識⑥】武器輸出解禁は、日本が自立するために必要な政策である。

 

核の傘」はどこまであてになるのか?>

国際社会というものは、本当に腹黒で、ダブルスタンダードがまかり通っている熾烈な社会です。どの国も自分の国が儲かればいいと考えていて、その点はアメリカでもロシアでも中国でもみな一緒です。

 

・前にも述べたように、核兵器はあくまでも防御のための武器であり、抑止力でしかありません。

 

・「核の傘」も日米安保条約も、あくまで抑止力でしかないのです。だから日本は、一歩ずつ「自分の国は自分で守る」という体制に近づいていくしかない。そのことを日本人は自覚しなければいけないのです。

 

【常識⑦】「腹黒」な国際社会で生き残るには、軍事的自立は不可欠である。

 

日本をめぐる国際関係の常識

ウクライナで見えてきたもの

2014年3月の、ロシアによるクリミアの併合は、一度は終わったかに見えた東西冷戦の新たな始まりを画すものでした。

 日本ではあまり報道されませんでしたが、現在のウクライナ暫定政権は、2010年に選挙で選ばれたヤヌコビッチ大統領をクーデターで倒して権力を掌握したものです。つまり、民主的な手続きをふんでつくられたものではなく、なんら正当性をもっていません。

 その暫定政権が、ウクライナ憲法上の手続きを無視してクリミアの編入を決めたロシアを非難している構図ですが、果たしてそんな資格があるのでしょうか。どっちもどっちだと言わざるをえません。

 

・そのアメリカも、併合から1年が経ってもロシアに対する効果的な「制裁」はできていません。できるわけがないのです。ロシア自身が常任理事国である国連安保理では制裁を決議できないのはもちろん、実力的に見ても核武装国に対する軍事攻撃はありえないのは第1章で見た通りです。あらためて、核兵器は究極の戦争抑止兵器であることがよくわかるでしょう。

 一方では、今回のロシアの動きを見て、「帝国主義が復活する」などと言っている人も見受けられますが、そこまでいくとは私は考えません。

 国際社会がここまで緊密につながるようになり、情報が瞬時に世界を駆け巡る時代において、かつてのような大規模な侵略はほぼ不可能です

大きな動きをしようとすれば、それだけ露見しやすくなる。昼に動けば夕方までにはすべてが世界に報じられてしまう時代です。

 新たな冷戦がどのようなものかは、こうした前提のもとで見ていかなくてはなりません。

 

<【常識⑧】グローバル化、情報化時代にかつてのような「侵略戦争」「帝国主義」は存在しえない。>

 

中国の軍事力はアメリカに迫りつつある?

・現在の世界情勢について、しばしば言われるのが「米中2軍事超大国」ということです。20年以上にわたって軍拡を続けた中国は、いまやアメリカに匹敵する実力を身につけつつある、というわけです。これはまったくの誤りです。軍事を知らない素人の誤解にすぎません。アメリカを10とすれば中国は1にも満たないでしょう。それくらい、アメリカの軍事力は圧倒的なのです。

 

<【常識⑨】「中国脅威論」は9割引きしてみればちょうどいい。>

 

アメリカが本当に恐れていることは

・では、アメリカが本当に警戒しているのはなにかと言えば、もちろんロシアです。軍事力で言えば、ロシアは中国とは比較にならないほどの脅威であることは言うまでもありません。

 

・このことに限らず、軍事においては「常に本当のことを言う」という正直な情報発信の仕方は得策ではありません。

 ですから、中国の「脅威」を言い立てるアメリカのように、自分たちに有利な情報を流す、そのためにウソもつくのは常識なわけです。

 それに加えて、もし本当のことしか言わなければ、相手方に情報収集能力を推測されてしまいます。自軍の情報収集能力を隠すためにも、時にはわかっていてもわからないふりをしなければいけない。また、わかってないこともわかっているような顔をしなければならないのです。

 

<【常識⑩】わざわざ「脅威」を否定する軍人はいない。予算を削られるからである。

 

「敵」と共同演習をする意味

・2014年のリムパックに中国を招待したアメリカの目的はいろいろあるでしょうが、最大の狙いは中国の情報を取ることです。

 

<【常識⑪】情報を取るためには、ある程度情報を取られることもやむをえない。>

 

韓国の実力と北朝鮮の存在価値

・おそらく韓国軍は、北朝鮮軍との戦いには問題なく勝てるはずです。

 

・ただ、北朝鮮が駄々っ子のように振る舞い、時々ミサイルを発射することで、日本は防衛力の整備をやりやすくなります。

 

<【常識⑫】現代戦を左右するのは兵器の能力。特に、空と海では決定的。

 

自衛隊はどこまで闘えるか

「実力」は安易に語れない

・情報システムや戦闘機の性能を見れば、中国軍は「脅威」とはほど遠いのです。では、航空自衛隊と中国空軍の「どちらが強いか」という問いに答えるならば、くわしく前提条件を設定しなければいけません。実際の戦闘は、特定の条件下で起こるものだからです。

 

・はっきり言えば、防衛の現場にいる人間でなくては、本当のところはわからない。

 

<【常識⑬】軍事の「専門家」の多くは、現実の戦闘を知らない。>

 

スクランブルで鍛えられた空自の防衛力

・結論から言うと、敵の侵入に対して即応する、という守りの実力についていえば、航空自衛隊は世界一の水準です。

 

<【常識⑭】領空を守ることに関しては、航空自衛隊の実力は世界でトップレベルである。>

 

中国軍に「勝てない」と思わせる自衛隊の実力

・こうした実力の差は、中国の軍人たちは当然わかっています。実際に海上自衛隊と総力戦で戦えばまず負けると中国海軍の軍人たちは把握しているのです。だから、本気で戦争を仕掛けるつもりはない。

 

<【常識⑮】軍人こそが、自軍と相手の実力をもっとも正確に分析している。だから軍人は暴走しない。暴走するのは常に文官。

 

自衛隊の「強さ」はアメリカ次第

自衛隊は、米軍の友軍として行動するときは相当強い。しかし、仮に米軍と敵対することになると、これまで述べてきたような優れた能力はほとんど発揮できなくなってしまいます。

 

このように、ソフトウェアの暗号をつくっているのはアメリカなのですから、基本的にはアメリカにしか中身はわからない

 

・日本の自衛隊が使っているGPS端末は、言うまでもなくアメリカのシステムに依存しています。もしもアメリカがGPSのコードを変えれば、その瞬間から使い物にならなくなるわけです。

 

・長い間、「武器輸出三原則」によって、「輸入する分にはいくらでもしていいが、武器を売るのはだめだ」という方針をとってきた日本は、自ら首を絞めているようなものでした。

 

<【常識⑯】アメリカはいつでも自衛隊を無力化できる。解決策は武器輸出の解禁しかない。>

 

中国はなにを狙っているのか――シミュレーション・尖閣

中国の「戦争準備」の真意とは

つまり、日本と貿易をやめた途端に中国経済はやっていけなくなってしまう。だから、戦争になっては困るわけです。その意味では、日本は中国の首根っこを押さえているようなものです。

 このように、軍事的に考えても、経済的に考えても、中国が日本と戦争をすることはできないわけです。

 

<【常識⑰】「戦争の準備」を宣言することは、戦う気がない証拠である。>

 

中国軍に尖閣を攻める能力があるのか

・中国はいまのところ、日本と戦争をする気はまったくない。その準備も進めていない。

 

・つまり、中国空軍機は、たとえ撃墜されなかったとしても、燃料切れで東シナ海に落ちてしまうのです。

 

・ただでさえ、中国空軍はまだ組織だった行動をとる訓練ができていません。

 

<【常識⑱】現状の中国空軍には、尖閣で制空権を取る能力はない。>

 

ロシアで見たスホイ27の実力

・また、中国空軍の最新戦闘機であるスホイ27の実力にも疑問符がつきます。

 

・そこで、なにも映っていないスコープを見るしかなかったのですが、そのときに感じたのはスコープの小ささです。それは、航空自衛隊のF15のスコープと比べても明らかに小さかった。率直に言って、必要なデジタルデータを全部表示するのは難しいのではないかと感じたのです。

 

これが現在の空中戦なのですが、いまだに無線で「右行け」「左行け」「高度を上げろ」「下げろ」と指示するような訓練をしているのが中国空軍ですこちらから無線の電波に妨害をかければ、一発で無力化します。この点でも、中国の実力はまだまだ、ということがわかります。

 

<【常識⑲】現代の兵器は「情報端末」でもある。この視点から見れば、実力は見破れる。>

 

自衛隊がどうやって軍事的なプレゼンスを出すか?

・このように、尖閣を中国は攻撃できるのか、と考えると、まず最初の航空優勢を取ることが中国空軍にとっては不可能だということがわかります。

 

<【常識⑳】軍事的プレゼンスをしっかりと見せることが、戦争を防ぐ。

 

竹島はなぜ、どうやって韓国が占有したのか?

戦って国を守る、という軍事的プレゼンスを明確に打ち出す。これを怠ったために、最悪の結果となってしまった前例があります。韓国に実効支配されている竹島です。

 

<【常識㉑】「不測の事態」を恐れる思考こそが、戦争を引き起こす。>

 

中国が仕掛ける「情報戦」

・そして、それを真に受けて「中国脅威論」を唱える、あるいは大人の対応、冷静な対応を唱える日本の評論家や政治家は、残念ですが中国との情報戦にすでに敗北しているのです。

 

<【常識㉒】平時でも情報戦は行われている。情報戦で遅れをとれば、戦わずして負けることもありうる。

 

情報戦としての「防空識別圏

・2013年11月に「東シナ海上空に防空識別圏を設定した」と発表したのも、こうした情報攻勢の典型例でした。

 

そもそも、防空識別圏とは自国の空軍に向けた規定です。領空侵犯されないためにはこの辺から識別しなければいけない、ということで自国の空軍に向けて言っているだけの話なのです。言ってみれば「国内法」で、それを決めたからといって外国に対し影響を与えることはできません。これが現在の国際法なのです。

 

<【常識㉓】防空識別圏は、どこに設定しようと、その国の勝手である。

 

まがいものの軍事知識に騙されるな

自衛隊だけが知る真実の軍事情報

・現代の戦争は高度な技術の戦いであり、防衛の現場では大量の情報が取り扱われています。しかも、それは普通に集められるような情報ではなく、特別な技術と体制があってはじめて収集・分析できる情報です。

したがって、正しい軍事情報を得られるのは、我が国では自衛隊だけであると言ってよいでしょう。

 

<Q① 旧ソ連を仮想敵国とした日本の防衛は時代遅れ」は本当か?

・だから、日本の防衛が、いまでもロシアを仮想敵としていることはなにも間違っていないのです。ロシアに対して備えることで、中国にも充分対応できるのです。

 

<【常識㉔】真に警戒すべき仮想敵は、騒いでいる国ではない。力をもった国である。>

 

<Q② 「米軍あっての自衛隊。単独ではなにもできない」は本当か?

・結論から言うと、嘆かわしいことですが、その通りなのです。

 

現代戦の帰趨を決するのはソフトウェアで、そのコードはすべてアメリカが握っているわけですから

 

・2014年には、CIAがドイツのメルケル首相を盗聴していたことが問題になりました。このことからもよくわかるのは、アメリカはたとえ同盟国であろうと、徹底的な情報収集をする国です。つまり、根本的には同盟国を信用していない。このことは絶対に忘れてはいけません。

 

<【常識㉕】アメリカは、同盟国を信用していない。>

 

<Q③ 「日本は独力で尖閣諸島を守れない」のか?

・日本は独力で尖閣諸島を守るだけの実力をもっている。このことはすでに明らかでしょう。

 

<【常識㉖】防衛力=能力×国を守る意思

 

<Q④ 自衛隊は「継戦能力」が弱点なのか?

・継戦能力が勝敗を決するほどの意味をもつのは、国同士が総力を挙げて、相手の国を徹底的に破壊するまで戦うような「総力戦」においてです。

 

<【常識㉗】現代の戦争において、「継戦能力」の優先順位はさほど高くない。

 

<Q⑤ 「軍事力ランキング」はどこまで信用できる?

・しかし、こうしたスタティックな軍事力を比較したところで、強さの比較にはなりえないことはもうおわかりでしょう。

 

<【常識㉘】「軍事力ランキング」はお遊びか情報操作の一環である。>

 

<Q➅ 正しい軍事知識の学び方とは?

そのためには、自衛隊の高官を務め、退職後10年以内ぐらいの人の話を聞くことが有効であると思います。

 

<【常識㉙】軍事のことは軍人に聞くべし。>

 

戦後レジーム」の正体

日本の地政学的現実

・経済の相互依存関係が強まり、情報が一瞬にして世界を駆け巡る現代においては、あからさまに武力に訴えるという手段は使いづらい。

 

<【常識㉚】世界地図をひっくり返して見れば、日本の置かれている現実がわかる。

 

アメリカは中国になにもできない

・現在では、アメリカは中国の脅威をしきりに煽っていますが、アメリカと中国の現実の軍事力の差となると、すでに述べたように10対1ぐらいの大差がつきます。勝負にならないと言っていいでしょう。しかもこれは、中国が20年以上2桁のパーセント以上の軍拡を続けたにもかかわらずです。

 それでもアメリカが中国の脅威をしきりに訴えるのは、これ以上軍事費を減らすわけにはいかない事情があるからです。

 アメリカの軍人たちは、実は中国の脅威などまったく感じていないはずですが、彼らは財政状況の悪化による軍事費の削減に脅かされています。

 

ウクライナの件でも、結局、アメリカは動けませんでした。ロシアは核武装国であり、アメリカとしてもまさか戦争をするわけにはいかないからです。

 

・幸いにして、いまはまだ中国の能力が不充分なのですから、日本はいまのうちに軍事力を整備しなくてはいけません。

 それは当然のこととして、もうひとつ、ぜひ考えなければいけないのは核武装です。核兵器は徹底的に防御用の兵器です。核の一撃を受けて大丈夫な国などありませんし、核攻撃をすれば必ず核による反撃を受けることになるわけですから、核戦争に勝者はいないのです。だから核戦争は誰もしようとはしません。

 けれども、核武装をしたがる国が多いのはなぜなのか。言うまでもなく、核武装している国が国際政治を動かしているという現実があるからです。

 

<【常識㉛】国際社会のルールを決めているのは核武装国。一流国とは核武装国のこと。これが現実である。>

 

「改革」という名の第二の敗戦

・それは、具体的にはアメリカからつきつけられる「改革」の要求として表れました。1989~1990年の日米構造協議、その後1994年から2008年まで毎年行われた「年次改革要望書」の交換などがその典型例です。

 

小泉内閣時代の郵政民営化をはじめとする「改革」は、そのひとつの頂点だったと言えるでしょう。

 しかし、これらの「改革」のおかげで、少しでも日本は良くなったのでしょうか。構造改革をして日本はいいほうに変わった」と言えるものがひとつぐらいあるのでしょうか。なにもありません。結局は悪くなっているだけです

 

要するに、これらの「改革」なるものは、「改革」という名の日本ぶち壊しでしかなかった。日本政府はアメリカの要求に基づいて、国の弱体化をしてきたというのがこの二十数年なのですみずから弱体化して、世界の経済競争に勝てるわけがありません。

 

<【常識㉜】「失われた20年」とは、アメリカによる日本弱体化計画にほかならない。>

 

アメリカの基本方針はdivide and conquer

アメリカ外交の基本方針は分割統治divide and conquerです。

 

・お人よしな日本人の感覚からするとずいぶんと腹黒い策略のように見えるかもしれませんが、本来、外交戦略で自国、相手国とは別の国をカウンターパワーとして使うのは当たり前です。

 

<【常識㉝】外交交渉では自国、相手国のほかに、カウンターパワーとなる第三国をうまく使うべし。>

 

安倍政権の右にしっかりした柱が必要

・日本の政治家は、大きく2つに分けることができます。親中派の政治家と、これに対する保守派といわれる政治家です。

 しかしこの、保守派といわれる政治家の大半は、実はアメリカ従属派にほかなりません。嘆かわしいことに、日本には、日本のことを心底考える「日本派」の政治家がほとんどいないわけです。

 この状況を変えるには、「日本派」の政治家が集まって政党ができ、一定の議席を占めるようにならなくてはいけないでしょう。

 

<【常識㉞】保守政治家はいても、「日本派」の政治家はいない。>

 

本気で「戦後レジームからの脱却」を目指すために

・安倍首相といえば、その就任以前から、「戦後レジームからの脱却」を旗印に掲げています。

 

・結局、日本がここまで弱体化してしまったのは、国のあり方を自分で決められなくなってしまったのは、要するにいままでのリーダーがダメだったからです。

 どうダメかと言えば、自分がトラブルに巻き込まれないことを最優先していたということです。

 

・戦争で勝敗が決着すると、戦後秩序をつくるのは当然ながら戦勝国です。

 

<【常識㉟】自分を守ることを第一に考えるリーダーでは、国を守ることはできない。

 

日本は侵略国家であったのか

アメリカ合衆国軍隊は日米安全保障条約により日本国内に駐留している。これをアメリカによる日本侵略とは言わない。2国間で合意された条約に基づいているからである。我が国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したと言われるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留も条約に基づいたものであることは意外に知られていない。日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。

 

自分の国は自分で守らないと長期的に損をするのです。>

・しかもいざとなったらアメリカが日本を命懸けで守ってくれるかといえば、それは極めて確率が低いのです。日米安保は日本に対する侵略を抑止するためのものではあるが、万が一抑止が破綻した場合に機能する確率は極めてゼロに近いと私は思っています。

 

・国際社会とは徹底して腹黒なものだということがわかります。アメリカが日本を守ってくれるというのは幻想にすぎません。

 とはいえ、正面から日本の独立を唱え、アメリカとぶつかると日本の政治家は必ず潰されるというのは歴史が証明しているところです。だから反米になることはできない。安倍首相が本音を語ったら、アメリカに潰されるでしょう。