<30年間も騙され続けた日米>
・(石平) 胡錦涛政権時代での中国のもっとも根本的な国策は、絶対にアメリカを敵に回さない、常にアメリカとは協調姿勢で行く、であった。
実は鄧小平は非常に詐欺的なやり方で対米協調路線をとった。とにかく
韜光養晦(とうこうようかい)で中国の野心を一切言わない、仄めかさない。30年後に何をやりたいかを一切胸に秘め、包み隠した。
表向きには西側とうまくやろう、共存共栄で行こうとソフトな顔で合流する。それにアメリカはまんまと騙されて、日本も含めてここ30年間、中国に技術を貢ぎ、お金を貢いだ。中国はこれを使って経済を成長させた。さらにアメリカや日本は中国に大事なマーケットも提供した。それを利用した中国は輸出主導で、貿易黒字を稼いだ。
こうしてそこそこの成功をしてきたところで、中国の最高指導者が賢明であれば、あと10年ぐらいは我慢をするのだろう。あるいは10年ぐらいさらに鄧小平のやり方を続けるのだろう。
仮にいまの中国の最高指導者が懐が深く、あと10年間我慢したら、もうアメリカも日本もどうにもならないかもしれない。幸いにも、習近平が指導者となり、本性を剥き出しにして「先端技術分野でアメリカと競う」「一帯一路を打ち出して、アメリカを市場から排除する」「軍事力を増大して南シナ海、東シナ海からアメリカを老い出す」とやらかしたので、完全にアメリカを怒らせてしまった。
高橋さんはアメリカ全体の雰囲気をどう捉えているのか?
(高橋) 今回は韓国がGSOMIAを破棄したことから、アメリカも安全保障の観点ではよりセンシティブになっているのではないか。2010年ぐらいから米議会は中国の野心に気付いていたけれど、オバマ政権のほうはその前の流れに乗って新中国に傾いていた。
・(高橋) 意識はしていたけれど、やはりオバマは緩くて、いずれ中国は民主化するだろうとする甘い考えだった。結果的にはそうではなかった。日本も騙された。日本は天安門事件以降はもう騙されっぱなしで、私も、正直言ってちょっと恥ずかしいくらいだ。
天安門事件直後、日本が中国を支えて国際社会に復帰させていく仕事の一環で、私は中国に出向いたことがある。日本の政治家が中国の円借款を決めたため、大蔵省の人間だった私はその手続きの仕事で訪中したのだ。当時の私の役職は課長の下の課長補佐だったが、本来なら国賓が泊まる北京の釣魚台に泊まったほどの厚遇を受けた。
北京空港に着いたときもすごかった。飛行機を降りた場所に車を横付けにしてくれ、そのまま税関なしで空港をあとにした。そうした扱いを受けて、みんな騙された。
(石平) あの頃の中国は国際社会から孤立して、もう日本は“命綱”のような存在だった。
(高橋) そうだった。西側のバッシングは半端ではなかった。われわれのトップはせいぜい大蔵省の局長クラスなのだが、人民大会堂で会ったカウンターパートとして出てきたのがなんと中国の副首相だったので、びっくりした。加えて、財務部の部長も従えていた。
(石平) 当時の北京ではまだ戒厳令が敷かれていて、欧米から訪れる人などいなかった。
(高橋) そんなときに日本から政治家も役人も財界人も北京詣でをし、みんなでめでたく騙されて、円借款をどんどん進めていったのだ。
<中国に残された2つの道>
・(石平) 貿易戦争がこのまま続くとなると、経済から安全保障まで米中関係がますます悪くなるのは必至。そうなると基本的にはかつての米ソ冷戦とほとんど同じような状況になるということか。
(高橋) 似ているかもしれない。
・(石平) そうなると、中国に残された道は2つしかない。1つは、自ら中国共産党独裁体制を捨てて民主主義社会と融合する。もう1つは、最後まで独裁政権を守って潰される。
(高橋) 最後まで独裁政権を守ろうと頑張ると、おそらく旧ソ連の二の舞となる。これまでは石さんの言うとおり、中国はうまく立ち回って東ドイツみたいな悲惨な思いは味わっていないが、このままでは旧ソ連のように崩壊の道をたどるほかない。
社会科学の議論では自由主義や民主主義を敷いている国家のほうが“無難”だと結論づけられている。これは先に言及した「中所得の罠」の理屈と重なるけれど、何よりもこれまでの歴史が共産主義、社会主義がうまく機能しない事実を裏付けしている。
<ラプラスの悪魔>
・(高橋) 「ラプラスの悪魔」という物理学の概念がある。大づかみに言うと、全知全能の神みたいな人間が世の中の事象をすべてコントロールできるかというと、やはりそれは不可能であるということ。これは実は自由主義経済のなかにいると認識できる。コントロールできないのを前提に、さまざまな手当をするから無難なのだ。
一方、共産主義や社会主義の人の頭のなかには悪魔がいて、コントロールできると思い込むから収拾がつかなくなる。
<粉飾の大国>
<投資の失敗という概念がない中国>
・(高橋) おそらく中国には公共部門における投資について、自動的にチェックする仕組みがないということだろう。どうして日本には自動的にチェックする仕組みがあるのか。「公会計」がきちんと機能しているからにほかならない。投資後に予定された収益が入ってくるかどうかがわかるシステムになっている。
日本の場合は、政府の投資については不良債権率を全部計算して、収入がこの水準に達しなければ不良債権とする基準があるわけだが、中国にはたぶんそれが存在していない。基準がないから、いくら投資をしても失敗は“ない”わけだ。
<リーマン・ショック後の景気刺激策に味をしめた中国>
・(石平) ここに何か1つの構図が透けて見えてきた。実体経済が脆弱ななか、消費もまた全然経済を支え切れていない。そこで中央銀行は人民元札をふんだんに刷って、それを原資に財政出動し、公共事業投資を行う。公共事業投資を行えば、それに参加する鉄鋼産業やセメント産業などインフラ関連企業がそのニーズに応えるために設備投資に走る。
中国はこの方程式を繰り返しながら、高度成長を支えてきた。それで2018年になってみたら、固定資産投資がGDPの7割を占めるというとんでもない経済になっていた。
<自らの粉飾の程度がわからなくなっている中国>
・(高橋) けれども、実際には中国政府はわかっていない。企業の例でいうと、粉飾決算をする企業があるのだが、あれは本当のことがわかっているから粉飾できるわけである。
いまの中国はどのくらい粉飾をしているかどうか、それもわからなくなっているのではないか。おそらく企業経営に当てはめるとそんな感じだと思う。
・(高橋) もう限界が来つつある。やはり中国は中所得国の壁を越えられないのではないか。これが常に私の問題意識のなかにある。
<異形の国の不動産バブルと国際ルール>
<投資対象となり5000万軒にまで在庫が嵩んでいる不動産物件>
・(高橋) 資本主義でも何でも、不動産は投機の対象になって、よくバブルになる。バブルは世界でどこにでも起きる現象だ。問題は、バブルが弾けた後、どういう風な社会システムでバブルを吸収していくのか、それだけの話なのである。けれども、中国の不動産バブルは弾けない。
(石平) 不動産バブルは政府が絶対に弾けさせない。少なくとも中国人はそう信じている。
<弾けないバブルはない>
・(高橋) だが、弾けないバブルはない。いつかは弾ける。したがって、それをどうやって弾けさせるのかと、逆にこちらが中国政府に聞きたいくらいである。
普通の国はそこそこのところでバブルを弾けさせて、それを繰り返すだけだ。中国の場合、弾けさせないとマグマがどんどん大きくなるとしか思えない。
(石平) ここまで膨らんできたバブルが弾けたら、中国経済は潰れる。問題はここで、弾けたら中国経済が潰れるからこそ、中国政府は絶対にこれを弾けさせないという“神話”が逆に生まれた。
<自分で自分をごまかしている中国>
・(石平) 中国の不動産バブルが弾けないのは、政府が不動産価格の暴落が始まると、暴落を防ぐために不動産の売買を“凍結”するという強硬手段を採っているからだと指摘する声が挙がっている。実際に中国の一部の地方政府はもうそれを実行しており、不動産物件は購入後3年以内は転売できないようにしている。
<毛沢東時代に戻れば中国の分割を防げる>
・(高橋) ロシアも70年以上持ち堪えた。中国も今年で建国70年だ。私は、中国はひょっとして建国100年程度は持ち堪えるかもしれないけれど、150年は無理だと思っている。だから、そういう意味で「中国崩壊論を唱える知識人は当たってないではないか」と言う人は後で後悔することになる。ソ連の崩壊論もずっと「当たっていない」と批判され続けていたのだけれど、1989年になって強烈に当たった。
・だから、崩壊したときに悲惨だと言っているのだ。崩壊したときには本当に大変で、おそらく中国は“分割”されるのではないか。
中国の長い歴史のなか、統一国家の時代はほとんどなかった。分かれているのが、“常態”であったから、中国は最後に追い詰められたとき、とてもまとめ切れず、旧ソ連よりさらに激しく分かれるような気がする。
<誤差脱漏があまりにも大きい中国>
・(高橋) 中国から逃げられる人は逃げると思うのだけれど、逃げるのは中国人だけでなく、中国国内の金も実は盛大に国外に流出している。
毎年、IMFでは国際収支統計を発表している。いちおう中国はIMFのなかでナンバー2の国だからきちんとしなければならないのだが、どうもおかしい。
輸出額については結構正しいのだが、金の流れがほとんど把握できていない。要は、誤差脱漏、スタティスティカル・エラーが滅茶苦茶に大きい。過去の例から、これはコントロールできてないくらいに金が海外に出て行っている可能性が高いわけである。
<倒産するのが前提の資本主義>
・(石平) ある意味では中国共産党はまだ大丈夫ではないか。不動産バブルが弾けたら一斉に全土を軍事統制、戒厳令下において、国民の全財産を凍結して、物価も凍結する。
・(石平) 要するに先祖返り、昔の共産主義に戻すわけである。どうせバブルが崩壊したら、不動産の在庫が山ほど余る。今でさえ、5000万戸も過剰だ。それらすべてを国が没収して貧しい人々に分配し、もう一度「共産主義革命」をやればいい。金持ちから財産を奪って分配する準備を習近平は進めているのではないか。一昨年あたりから、中国の著名経営者や芸能人が持つ海外資産を没収しているのは、その嚆矢だったと思えば納得がいく。
(高橋) 金持ちは間違いなく中国から逃げる。ただ、金持ちが逃げた国ほど悲惨なことはない。
<大変なのは中国ビジネスに「両足」を突っ込んだ日本企業>
・(石平) ただし、中国が崩壊して先祖返りすると、日本企業は中国市場を一斉に失う。
(高橋) 私はもともと中国市場を狙って出て行ったのはセコイ、狡っからい人たちばかりだったから、ある意味、自業自得だと思う。
中国進出のコンサルをしたことは先に述べたけれど、ほとんどが賛成できかねるプロジェクトだった。「やめたほうがいいよ」と口を酸っぱくして言ったのだが、行ってしまった。だから今、中国ビジネスで苦しんでいる人はスケベ心を起こして、それが裏目に出たということになる。
<最小コストで最大効果を上げられるハニートラップ>
・(石平) 二階さんがいなくなると、自民党の親中派の親玉は誰になるのか?
(高橋) 自民党内に親中派はけっこう多くいる。親中派=下半身スキャンダルでチクられるのを心配している議員とも言われている。
(石平) やはり議員の下半身は諸悪の根源となるわけだ。ハニートラップは中国が大得意なのだが、あれは国家戦略としては正しい、最小コストで最大効果を挙げられるわけだから。ほとんど国家予算は要らない。
ハニートラップはどこの国でもある。ない国はないのではないか。ただし、独裁政権が大規模に組織的にやるからうまくいくのだ。まともな民主主義体制では簡単にできない。
・(高橋) ところで、中国の高齢化社会が日本の比ではないほどの勢いで進んでいるようだ。
(石平) 1つは自然発生的な高齢化。もう1つは人為的高齢化にある。要は、1979年から2015年まで続けた「一人っ子政策」がもたらした大弊害である。中国の高齢化をより際立たせてしまった。
・しかし、その結果もたらされたのは、「余剰男性」問題であった。一人っ子政策が敷かれているなかにおいては、妊娠した胎児が女とわかれば、堕胎するケースが圧倒的に多く、この30年間で男女比率がきわめて“いびつ”になってしまった。
現在では3400万人も男性が上回っており、これは台湾の総人口の1.5倍にもなる。これは中国人男性にとっては悲劇で、国内では結婚相手が容易に見つからなくなっているわけである。
(高橋) 私は役人だったし、社会保障制度には関心が高いほうだが、調べてみたら中国の社会保障はやはり、社会主義国らしい姿を晒していた。
・(高橋) 中国政府はこれから国民皆保険を敷こうとしているようだが、これは現実的には不可能だ。政府が国民に“恵む”社会保障制度は世界中のどこにも存在せず、みな保険制度を敷いている。保険料をそこそこ取って、病気になった人に還元するシステムである。
(石平) 中国もそうした制度を曲がりなりに設立したが、プールされている資金がまったく足りない。プールされた資金が投資に悪用され、枯渇してしまったのだ。すると中国政府は、大学を卒業しても職に就けない若者たちが膨大にいるにもかかわらず、一方的に高齢者の定年退職時期を延ばした。
というのは、高齢者に一斉に定年退職されたら年金支給が滞ってしまい、プールに水(金)がないことが露呈してしまうからである。これはいずれ中国の致命傷になるはずだ。
・(石平) 最後に1つの方法がある。中国の民間企業と進出してきた外国企業から徹底的に搾り取ることだ。
(高橋) 民主主義国における保険料負担は特別会計で、国の保険の運営法についてたいていは決まっているのだが、社会主義国はほとんど保険の運営に対する方針が曖昧である。つまり、「恵んでやる」方式のどんぶり勘定でやっている。
・(石平) 実際、中国の医療保険はほとんど機能していない。だから、中国の社会主義は非常に“残酷”なものになっている。急病でも交通事故でも、病院に運び込まれた患者は病院側から、治療費の“半分以上”をその場で支払えるかどうかを聞かれる。支払えなければ、治療はなされない。
・(高橋) 社会主義国なのだけれど、社会保障がぜんぜんダメなのが中国ということになる。
<日本経済に浮上の目はあるのか?>
<一度しかバブルを経験していない日本は異常>
・(高橋) 1980年以降だけを調べてみると、約100カ国のなかで百数十回のバブルが発生していたことがわかった。ということは、バブルは世界のどこでも起きていたのだ。
・そのときにある人が私にこう言ってきた。
「日本のバブルはたいしたことはないのだけれど、そのあとがひどかった」
要するに、バブルは自然発生的に起きるものだが、問題はバブルが破裂したあとの対処だというわけである。他国ではバブルが破裂したあとにきちんと対処を行ったので、再びバブルが起こることもたびたびあった。
・(高橋) 日本ではバブルを潰したあとがひどかった。それはデータでははっきりしている。1980年代における日本のマネーサプライの伸びを見ると、世界の先進国の標準だった。標準だから、普通の先進国同様、バブルが起こったともいえる。
だが、バブル後の日本のマネーサプライはほとんど伸びなくなった。金融引き締め策で日本の景気を冷やし過ぎてしまったのだ。その後の日本は二度目のバブルは起きなかったし、経済成長もまったくしていない。
(石平) その判断の間違いをしたのは政治家なのか、官僚なのか?
(高橋) 両方だ。マスコミも後押しした。もう二度とバブルを起こしてはいけないという論調に終始した。日本みたいにバブル後に経済活動を萎縮させ、デフレを促進するような政策を打つ国は本当に珍しい。
他の国の政策はちがう。ひどいバブルは自然に起こるものなのだと認識しているからだ。日本はバブルが起こった後に、「角を矯めて牛を殺す」ようなことだけはしてはならなかった。
・残念ながら、そのことを日本人の多くは知らない。『官僚たちの夏』もまったく一緒で、官僚が主導して日本経済が成長を遂げたという話はまったくの嘘だ。官僚が主導したわけではなかった。それどころか、何も主導しなかった。
民間主導そのものだった。官僚は、本当は民間が行ったのに後付けで、自分たちが主導したと嘘をついただけである。「おれたちの成果だ」と。
<高度経済成長の最大の要因は“円安”>
・(高橋) なぜ日本は高度経済成長ができたのか?
もちろん民間の努力、気骨もその一因だけれど、これは私の1つの研究成果なのだが、非常に単純な結論に集約される。
為替レートを均衡為替レート(適正水準)よりもはるかに“円安”にした。それに尽きるのである。
・1ドル=360円と1ドル=150円という2倍以上の乖離。この乖離は1980年代までずっと続いた。これをアメリカは見逃し続けてくれていたわけである。
・(高橋) 日本の為替レートが安かったため、日本製品を海外に非常に売りやすかった。ある意味で世界経済が平和な状態で、アメリカが見過ごしてくれたのでラッキーだった。それだけである。
<安い労働力という“麻薬”>
・(石平) では、日本の製造業の復活のカギは何か?
(高橋) カギはやはり民間しかない。今後、民間がいかに技術開発をしたり、設備投資するかにかかっている。正直言って、先にもふれたが、政府が設備投資をするのはまったく意味がない。政府はあまりにも生産能力の乏しい分野にしか設備投資しないからだ。民間にしか期待できないのは世界共通といえる。
<日本政府の「クールジャパン」も完全なる後付け>
・(高橋) 最近、政府が有望産業に補助金を出したという話をよく聞く。これは昔の通産省と一緒で、あんなものはすべて“後付け”にほかならない。「「クールジャパン」などはその典型で、人気が出たら、慌てて補助金を付けているだけのことである。
(石平) なるほど、日本の官僚は、民間の努力の結果を自分の“成果”にしてしまうわけだ。
・(石平) そうなると日本の高度成長とは結局、民間企業の努力と工夫の賜物ということに収斂するわけだ。
<政治的自由と経済的自由はパラレルという原理>
・(高橋) 習近平が共産主義を徹底してくれるのは、日本としては絶好のチャンスだろう。米中貿易戦争においては、中国に出て行った日本企業は日本に戻らなければならないので大変は大変だ。けれども、中国がガタガタになってきたら、今度は日本企業にチャンスがやってくる。
・(高橋) 中国については私の理論に基づくと、石さんのように10年以内に崩壊するかどうかはわからないけれど、今後30年はまず持ちこたえられない。だから、企業の方針を10年スパンで考えるならば、やはり日本企業には多くのチャンスが与えられるはずだ。
・(高橋) 再び、ソ連崩壊のような社会主義体制の終焉が見られる確率はそうとう高いのではないか。なぜなら、ソ連に起こったことが中国に起こらないはずはないからだ。ちょっとした時間のズレはある。
・(石平)歴史上、もっとも寿命の長かった共産党政権は旧ソ連の73年間(1917~1989年)だったが、中国もこの10月で満70年を迎えた。
(高橋)だから中国もそろそろ危なくなりつつある。よく巷間、「中国破綻論は敗れ去った」と声高に言う人がいるのだが、長い目で見ればその人の目は曇っているとしか言いようがない、ということになる。社会科学理論を照らし合わせてみれば、長い目で見れば中国の破綻は必ず起こる。
<消費増税で取った分は全部吐き出す覚悟の安倍首相>
・(高橋) けれども安倍首相は、経済的には消費増税はまずいのではないかとも認識しているから、先の参議院選に勝ったあと、「景気対策は何でもやる」と公言してしまった。これはどういう意味かといえば、消費税を取る分をすべて吐き出しますと言っているのと同じだ。
<“やせ我慢”せず財務省と手打ちした大新聞>
・(高橋) 消費増税後は先に述べたとおり、景気を悪化させないよう政府は秋の補正予算で景気対策を大きく打つ。
この秋は米中貿易戦争も大変だし、いくら日本が漁夫の利を得るといったって、中国に進出している日本企業もいるわけだし、自業自得とはいえ、中国向けのビジネスをしている人は大変である・
・(高橋) 私などは新聞の定期購読をやめてから30年くらい経っている。私は新聞についても、言論界なのだから権力に媚びず、消費増税を“やせ我慢”してみろと言ったのだが、背に腹は代えられず財務省と手打ちをしてしまったわけである。
・(高橋) 麻生さんは閲して人は悪くないのだけれど、政策面でちょっと“難”がある。郵政民営化のときも大反対して、私はひどく恨まれていた。麻生さんからすると、民営化を進めた私は憎き男らしい。
当時の国会の総務委員会で、「財務省の高橋洋一はけしからん」と発言していた。私が郵政民営化の黒幕と勘違いしていたらしい。あれは小泉元総理が言ったのをそのまま法律にしただけのことである。
<政府は消費増税分を何年間吐き出せるのか?>
・(高橋) 消費税に関する最後のウルトラCとして考えられるのは、全品目を軽減税率にしてしまうことだろう。実現は無理だろうが。
ここで言っておきたいのは、消費増税分を吐き出すのは一度では効果がないということだ。何年間吐き出せるかが勝負となる。
最低でも2年は吐き出さないと、増税ショックに耐え切れないだろうと、私は見ている。1年こっきりであれば苦しい。だから、最低でも東京五輪が終わった後くらいまでは吐き出さなければいけない。
<「習近平思想」理解度テストに見る中国の哀れ>
(石平) 官僚には将来発展するものを見出す「目利き力」は皆無。すべて民間企業の努力と工夫と熱意に収斂すると、高橋さんは結論づけて続けた。
通産省が主導したとされる政策はおよそ的外れで、百発一中すらないから、むしろ逆張りしたほうが正解だとまで言い募り、官僚とはいつの世もそうした存在であり、“世界共通”であると断言した。
こうした高橋さんの知的刺激あふれる言葉は、ごく自然に私の思考を日本から中国へと導いてくれた。
そうだ、官僚が打った政策が正しいのならば、中国は毛沢東時代から大発展していたはずだった。
けれども、知ってのとおり中国は大躍進政策、文化大革命により、当時9~10億人いた国民は食うや食わずの超貧困生活を強いられた。
したがって、毛沢東になりたがっている習近平が唱える「中国製造2025」も五十歩百歩の結果に終わるのだろう、というのが私と高橋さんの見立てである。それが国有企業ばかりを優遇し、民間企業をないがしろにしてきた中国の定めだからだ。中国の未来は暗くなる一方である。
『正論』2020年6月号
<『四重苦抱える中華帝国の末路 評論家 石平』>
・中国武漢発の新型コロナウイルスは今、地球上で猛威を振るって人類全体に多大な苦難をもたらしている。この原稿を書いている4月15日現在、欧米諸国や日本での感染の拡大がいつになって終息するのかまったく見通せず、世界が混沌としている最中である。
<感染拡大、長期化の様相>
・どうやら今後において、新型コロナウイルスとの一進一退の攻防戦は「常態=常にある状態」として長期化していくのであろう。
<壊滅的な国内経済>
・彼の論述によると、今の中国では1月からの新型肺炎ウイルス拡散の影響で中小企業の倒産・廃業が相次ぎ、いわば「倒産ラッシュ」が現に起きているという。状況が特に悪いのは輸出向けの中小企業とサービス業の中小企業である。
・4月6日付の香港・南華早報が、中国国内にある「天眼査」という調査・コンサルタント会社の調査結果を紹介した。それによると、今年第一・四半期において、中国全国で46万社の企業が倒産・廃業で企業登録から消えたという。
<大量失業の発生は必至だ>
・相次ぐ企業の倒産・廃業が招く大問題の一つはすなわち失業の拡大である。中国では、製造業の中小企業で働く人々の数は9千万人に上っている。サービス業全体が3億7千万人も雇っているが、関連企業の大半は中小企業であることは言うまでもない。
・発表した論文で一つ驚くべき数字を披露した。曰く、新型肺炎の影響で中国全国の失業者数は何と2億5百万人に上るという。
中国の労働力人口はおよそ8億数百万人であるが、働く人の4人に1人が失業するような状況となれば、それはどう考えても、改革・開放以来の中国経済が陥る最大の危機的な状態、新型コロナウイルス蔓延以上の大災難である。
・しかも、大量失業の発生によって国内消費がどん底に落ちていくのは必至であるから、消費の低迷が当然、さらなる景気の悪化を招き、企業の倒産拡大と失業増加に拍車をかけることとなろう。つまり中国経済はこれで、蟻地獄のような悪循環の中に陥って沈没する一方の道を辿っていくのである。
そして、億人単位もの大量失業の発生がそのまま社会的不安の拡大につながって、深刻な社会危機と政治危機の発生を招きかねない。たとえ新型肺炎の感染拡大はある程度抑えられたとしても、習近平政権の直面する国内危機の深刻さはおそらく天安門事件以来の最大なものとなろう。
<もう一つの地獄>
・各国の中で中国に対する批判と責任追及がもっとも先鋭化しているのはアメリカである。
・その一方、アメリカ国内では新型肺炎ウイルスの拡散で大きな被害を受けたことで、加害者の中国に対する集団訴訟の動きが広がっている。アメリカ議会でも、情報隠蔽でウイルスを拡大させた中国の責任を問う法案が提出された。
そして4月上旬にアメリカで行われた世論調査の結果、米国民の約8割がウイルスの拡大について「中国に責任がある」と考えていることが判明した。
・世界でのウイルス拡散がいつ終息するのかはわからないが、それがある程度収まった段階からはおそらく、アメリカを中心に、各国政府と民衆による中国の責任追及と中国に対して賠償を求める運動が本格化していくのであろう。
そして、中国発のこの世紀の大災難に際し、このならず者国家の危うい本性と、中国と緊密な関係を持つことの危険性を身を以て知った多くの国々や世界企業は今後、中国との関係を見直してさまざまな分野での「脱中国化」を始めるのであろう。
・そして世界からの孤立化は当然、中国国内の経済危機と社会危機の拡大に拍車をかけることとなろう。
このようにして、内憂外患の中で大きく揺らいでいくのが、まさに2020年におけるならず者国家・中国の哀れな姿である。そして2020年はまた、中華帝国の本格的崩壊が始まる年となろう。