日本は津波による大きな被害をうけるだろう UFOアガルタのシャンバラ 

コンタクティやチャネラーの情報を集めています。森羅万象も!UFOは、人類の歴史が始まって以来、最も重要な現象といわれます。

コロナウイルスを巡る外交戦略で表面化した中国強硬外交の在り方は、「戦狼外交」や「最後通牒外交」と呼ばれるようになった。(2)

 

 

『国際社会を支配する地政学の思考法』

歴史・情報・大衆を操作すれば他国を思い通りにできる

ペドロ・バーニョス  講談社  2019/12/12

 

 

 

地政学と地政戦略学

西洋諸国の悲劇とは、自由民主主義国家に恒常的な戦略がなく、戦略と戦術が混同されていることだ。

 

・“地政学”という言葉の現代的な意味を理解するには、従来の語義を掘り下げるだけでは十分でない。語義を知ったうえでもう一歩踏み込み、世界の現状に照らして正しく定義しなければならない。

 古典的な考え方では、政治的な出来事は、地理的位置や歴史との関係において解釈され、正当化されてきた。そのため、過去から現在まで繰り返し起こる出来事の原因には地政学的に不変の要素が存在すると信じられてきた。

 

地政学の大原則は「偽善」

国際政治ほど偽善的で残酷なものはない。各国は自国の利益だけを考えて政策を練り、それを実施する。だが、利害関係はうつろいやすく、つねに変化する。しかも、ある国にとっての利益は、他の国々にとってはほとんど、いやまったくといっていいほど関係がないものだ

 

なぜ、戦争はなくならないのか?

「人間の自然な状態は平和ではなく戦争である」

社会的意思を押しつけるための暴力行為としての戦争は、けっしてなくなることはないだろう。自分たちの考え方や生き方を他者に強制し、平和を好む人たちさえ、降伏しないかぎり戦わせようとする人間集団は、いつの時代にも必ず存在する。

どんな危険を避けられた人でも、その人が所属する集団の存在が許せないという者たちからの攻撃をかわすことはできない」と述べたのは、古代ギリシアの政治家デモステネスだ。

 

・フランスの将軍で地政学者でもあるピエール・M・ガロアによれば、戦争を始めるのは必ずしも強者とはかぎらない。というのも、英国の思想家であり軍事史家でもあるJ・F・C・フラーが述べたように、「貧しい人々が権力者の富を奪い取りたいと願うことに何ら不合理はない」からである。

 いわゆる“西洋世界”の人口は9億人だが、地球上には現在、見解も文化も異なり、ある意味で発展とグローバリゼーションの敗者とみなされる66億もの人間が住んでいる。したがって、地球人口の大部分が、形勢が一変して自分たちが特権階級となることを望んでいるのは明白だ。

 

情報操作の10の戦略

・「プロパガンダのモデルは、メディアの“社会的目的”が国家とその国の社会を支配する特権集団の経済、社会、政治の行動計画を頭に叩き込み、擁護することにあると垣間見せてくれる」とはノーム・チョムスキーの発言であり、情報操作の10の戦略は、彼がつくったものだと思われていることが多い。

 

1重大事から注意をそらす:気晴らしは社会管理に不可欠な要素となる。気晴らしや取るに足りない情報という名の爆弾をつねに投下して、重要問題や政治・経済エリート集団の決定から民衆の注意をそらし、人々に本質的な知識への興味を抱かせないようにする。西洋では、真に重要なことから民衆の興味をそらすための主要な気晴らし手段として、スポーツが利用されてきた。

 

2問題を創出し、のちに解決を示す:この戦略は“問題―反応―解決戦略”としても知られている。民衆が何らかの反応を起こすような問題をつくり出し、指導者が押しつけたいと考えている対策を民衆自らが要求するように仕向ける戦略だ。

 

3段階性:極端な措置を受け入れさせるには、何年もかけて少しずつ段階的に適用すればいい。

 

4時間をずらす:不人気な施策も、“痛みをともなうが必要な”決定であり、将来適用されるものとして紹介すれば、民衆はとりあえず了承する。民衆に対しては、慣れるための時間の猶予さえ与えれば、最後にはあきらめて変化を受け入れる。

 

5幼い子どもに対するように民衆に向き合う:聴衆をだまそうという思いが強ければ、自然と頭の鈍い人でもわかるような基本的な言葉とメッセージを使って、子どもっぽく話すようになる。

 

6考えさせないように感情に訴える:感情に訴えると、相手は理性的な分析回路がショートして批評精神が働かなくなる。こうして無防備な状態になった人には、思想、欲望、不安や恐怖、強迫観念を植え付けたり、その行動を誘導したりすることができる。

 

7民衆を無知で凡庸なままにしておく:もっとも下層階級の人々に対して、欠陥のある教育を施すことから始める。支配層が民衆を支配して隷属させるために使う技術と方法を、民衆には理解できないようにするためだ。

 

8凡庸さに寛容であるよう民衆を促す:「リアリティ・ショー」でよく見られるように、愚かで下品で無教養であることが人々の間で流行するようにけしかける。

 

9自己非難の感情を強くさせる:頭がよくないとか能力が低いとか努力が足りないといった欠点は、すべての自己の責任であると人々に思い込ませる。その結果、人々は抑鬱状態に陥る。活動がないところには革命もない。

 

10人々が自分自身について知っているよりたくさんの情報を得る:この時代、科学技術の発展によって、人が自分について知っていること以上の情報を他人が得られるようになった。したがって、権力者は、これまでよりずっと簡単に個人を管理できるようになっている。

 

レーガン時代のCIAによるプロパガンダ

・機密扱いが解除されたさまざまな文書によると、レーガン政権時代、ソビエトプロパガンダを相殺するための心理作戦が開始されたようだ。こういった作戦は当時、西洋諸国で活発に行われていた。何年も続けるうちに強化され、どんどん洗練されていったこの心理作戦の目的は、対象国の世論だけでなく米国民自身にも影響をおよぼし(とくに“ベトナム症候群”を克服するために)、米国に有利になるような一般の支持を得ることだった。

 この野心的計画を開発し実行に移す役割を託されたのはCIA、具体的にいえばウォルター・レイモンド・ジュニア率いる秘密作戦専門チームだ。

レイモンドにそれまでより重要な肩書を与えるため、国家安全保障会議の一員とするという処置がとられた。ワシントンは当時、ソ連中南米に食い込むことを懸念しており、コスタリカキューバエルサルバドルグアテマラホンジュラス、ニカラグラ、パナマ、ペルーなどでさまざまなプロパガンダ活動や情報操作を実施していた。同様の活動を、米国にとって重要度の高いアフガニスタンやフィリピンでも実施した。

 機密扱いが解除された文書のなかには、社会主義インターナショナルや、ヨーロッパで思想的に社会主義社会民主主義に近い政党のリーダーたちに働きかけ、国にとって都合のいい利害関係を保とうとした米国の外交努力が記載されたものもある。

 

・ポイントの一つは、心理作戦をしかける社会の弱点を見つけて、さらに効果的に操作できるようにするという点だ。この目的を達成するために、必要があればジャーナリストや編集者と共謀してニュースを操作し、別のニュースをつくりあげ、害になるとみなしたものを発禁にしてきた。

 

ロシアもまた混乱をもてあそぶ

・ジャーナリストのエイドリアン・チェンは、2015年に掲載された記事のなかで、ロシアのサンクトペテルブルクにあるインターネット・リサーチ・エージェンシーという企業がクレムリンの指示を受け、虚偽や歪曲した情報を広めてインターネットやソーシャルネットワークに影響を与えている疑いについて公表した。チェンによると、米国で流布した有名な虚偽ニュースに関するいくつかの事件の犯人が同社だったという同社には、トロール(荒らし)として活動し、高い報酬を受け取る20代の若い社員が数百人も在籍していた。

 チェンの記事に出てくる最初の事件は米国南部、ルイジアナ州の小さな自治体、セントメアリー郡で2014年9月11日に起きた。9・11のテロから13年目に当たるこの日、「都内にある化学製品処理会社で重大事故が発生したので、住民はすぐに防護措置をとるべきだ」という巧妙なデマのメッセージが拡散された。配信開始からわずか数分で、多数の異なるアカウントから、目撃者の証言や施設が炎に包まれる画像など、疑念を挟む余地のなさそうなデータを含む数百ものメッセージがツイッターで発信された。

 

・こんなことが起きたのは初めてではなかった。その前年にも、もっと小さな規模ではあったが同じようなことが何度かあったからだなかでももっと大きな反響を巻き起こしたのは、2013年12月13日、アトランタエボラ出血熱が発生したというニュースがやはりツイッターで拡散されたときだ。セントメアリー郡の例と同じく、フェイクニュースやビデオ画像が広く使用され、このニュースに関するハッシュタグは同地方で数時間、検索上位ワードになった。偽情報作戦の実行者たちが費やした労力はかなりのもので、防護服を着た衛星職員がアトランタ国際空港で発見された犠牲者を移送する様子を映したビデオがユーチューブで公開されたのだが、駐車場に停まっているトラックに空港のロゴが入っているのが見えるほどの芸の細かさだった。

 

CNN効果

・「メディアのグローバル化によってテレビはきみを洗脳し、インターネットはきみの最後の抵抗さえ押しのける」とはポール・カーベルの言葉だ。

 対外政治を指揮するのはメディアだという考え方は、1990年代に生まれた。いわゆる“CNN効果”という言葉は、この米国企業が1日24時間、世界中の出来事の映像を流し続けることに由来する。ニュースの即時性が現実を作り出す。何がニュースになりそうかを決めるのはテレビ局だからである。こうしてテレビ局は、国内外の政治活動に影響力を持つ、世界の世論の発生器となる。

 CNNの影響力については、多くの研究がなされてきた。例としては1989年の天安門事件共産主義の崩壊、第1次湾岸戦争モガディシュソマリア)の戦闘などが挙げられるだろう。実際、1990年代初めの内戦中にソマリアで飢餓が起きているという報道によって、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は人道援助ボランティア活動を援護するために2万8000人の部隊を送ることを決意したように思われる。

 

世界のメディアを支配する巨大な6社

メディアの考え方を一つの方向にだけ引っ張っていこうとする強大な権力があるのは明らかだ。そのやり方があまりに巧妙なため、社会が操られていることを非難しようとする者は誰でも悪人にされてしまう。近年、世界で大きな影響力を持つ主要なメディアは、一握りの人間のもとに集中しているのだ。その一握りの人たちは巨大な権力を手に入れ、政府、企業、民衆を、破壊はしないまでもぐらつかせることができるようになった。

 現在、わずか6社が、新聞1500紙、雑誌1100誌、出版社2400社、テレビ局1500社、ラジオ局9000社にのぼる世界の主要マスメディア(テレビ、ラジオ、執筆媒体、映画製作会社)の95%を、直接または間接的に所有しているという研究結果もある。さらに詳しい資料による、映画を含めたマスメディアの主要な複合企業は以下のとおり(順不同。さまざまな企業や組織が複雑に絡まっていて、それぞれの真の経済力を知ることは不可能なため)。

コムキャスト:米国に本社を置く。世界第1位。

ウォルト・ディズニー・カンパニー:米国に本社を置く。世界第2位。

タイム・ワーナー:米国に本社を置く。世界第3位。

20世紀フォックス:米国に本社を置く。世界第4位。

・CBSコーポレーション:米国に本社を置く。

バイアコム:米国最大級の企業。

以下省略

 

フェイクニュースの戦略

マスメディアの目的は、起こったことを知らせるというよりはむしろ、支配的権力組織の行動計画に沿った形で世論を形成することにある。

 

・絶え間なく押し寄せる大量の情報は、われわれに完全に自由だという幻覚を抱かせ、独自の意見を持っていると思い込ませる。だが多くの場合、ニュースの連続爆撃によってもたらせるのは、クリアな思考ができないように頭脳がブロックされることだけだ。さらに、自分たちは実際にものごとについてきちんと考えていて、自分自身の力で結論に達することができると思い込む危険すらある。

 

北朝鮮の「お宝」を米国が狙う

北朝鮮は、強い経済体制の確立を狙っていると同時に、現在の政治体制と政府の運営形態をなんとか保ちつづけようと必死になっていると、ロバート・D・カプランは考えている。朝鮮半島は中国北東の海上交通路をコントロールしており、しかもその境界線に位置する渤海には、中国の外洋においてもっとも豊かな油田が存在する。カプランは、北朝鮮と韓国がひとつになって新しい国家が誕生すれば、それは重要な経済大国になるという。なぜなら、韓国は技術力を持ち発展している一方、北朝鮮には天然資源と規律正しく教育された労働力があって、互いに相手にはない強みを持っているからだ。また統一されれば、その人口は、日本の1億2700万人に対し、7500万人となる。

 

・何より、統一朝鮮は、韓国にとっての最大の貿易国である中国の勢力圏に入ってしまう。そうなれば、中国政府と日本政府の対立は深刻化し、日本の軍事力強化に拍車がかかる可能性もある。

 また無視できないのは、北朝鮮に対する米国の狙いが、現在の平壌をより米国寄りの政府にすり替え、北朝鮮の有望な鉱業界に米国企業の参入を図ることだという可能性だ。あまり知られていないいくつかの調査によると、北朝鮮の領土にはまだ開発されていない大量の鉱物が存在し、総価値は10兆ドル以上にのぼるともいわれている。

 

ソロスが仕掛けた金融ファンド戦争

・「ビジネスに友はない。あるのは客のみだ」とアレクサンドル・デュマは述べた。

 気づいている人は多くはないかもしれないが、われわれの生活はつねに“戦争”のもとにある。今日の戦いは、官民の諜報機関、外交、メディアによる情報操作を通して行われ、昨今はサイバースペースという新しい舞台でも繰り広げられている。こうした状況において、軍事があらゆる活動の援助的役割を果たしているとはいえ、経済の重要性のほうがいっそう高まっている。

 

・フランスの地政学パスカル・ロロおよびフランソワ・テュアルは、現在の地政学的特徴として、軍事的戦略が隅に追いやられて経済が中心になってきたこと、西洋および先進国政府の主要な戦略的目的がポテンシャルのある市場探しになったことを挙げている。戦略家の喬良と王湘穂もまた、国家の安全において軍事的脅威は二の次になることが多いと考える。

 いまでも戦争の大きな原因は、領土問題、ナショナリズムや宗教による対立、他国の影響がおよぶ地域での紛争だが、そうした伝統的な原因が次第に、資源や市場の奪い合い、資産の支配、さらには貿易摩擦に結びつくようになってきている

 

・“ポストモダン”ともいわれる時代、前述のような新しい戦場で敵を打ち負かしたり、その力を弱めたりするための有効な武器として使われているのが、経済と金融だ。具体的には、融資、制裁、格付機関の評価、政府系ファンドやベンチャーキャピタルへの投資、市場の独占、株式のコントロール、負債、そして絶えず進化している銀行ツールの操作だ。こうして経済が行動の手段となったとき、経済戦争となる。つまり、主に経済的目的を達成するために経済ツールを使う対立が起こるのである。前提として経済戦争は無血の戦いだが、ときには(あるいは多くの場合)結果的に(または戦い方によって)血が流されることもある。

 

米国の戦略アナリスト、ファリード・ザカリアは、経済を使って他国を操作する一例を挙げている。1990年代、ロシアは完全に米国の援助と融資に頼っていた。フランスの哲学者でジャーナリストのミシェル・エルチャニノフがいうように、このことがウラジーミル・プーチンを駆り立てたことは間違いない。世界の経済大国と戦えるように通貨ルーブルに根ざした帝国を性急に拡大させようと考え始めたのだ。

 喬良と王湘穂は、将来的に金融戦争が増えることは確実で、敗者は一滴の血も流すことなく打ち負かされるという。彼らは証として、1990年代末、IMFから550億ドルを借りる韓国に対して米国が課した条件が韓国市場の完全なる開放であったことについて言及している。この条件によって米政府は、自国の資本家たちに韓国の企業を微々たる金額で買収する機会を提供した。経済的占領の一つの形である。

 

喬良と王湘穂は、金融戦争が“超戦略的”武器となり、秘密裏に激しい破壊力を発揮できるようになったと断言する。彼らいわく、“金融ファンドの戦争”がいい例だ。今日、多国籍企業や億万長者たちによってつくられたファンドの富は国家とライバル関係にある。たとえば、財界の大物ジョージ・ソロスは、1992年、イングランド銀行にポンドの切り下げを強いた。多国籍企業や億万長者たちはマスメディアをコントロールし、政治機関に資金を投じ、既存の権力に反対したり社会秩序を根本から変えたり、場合によっては政府を転覆させることもできる

 別の例は、1990年代に起こったアジア通貨危機だ。喬良と王湘穂によると、突然始まった通貨の空売り攻撃は、実は国際流動資本の所有者たちがしかけたものだという。主要なしかけ人は、政治家でも戦略家でもなく、ソロスだった。似たようなやり方で、ドイツのヘルムート・コール首相も冷戦時代にドイツマルクの力を活用し、ベルリンの壁崩壊のきっかけをつくることに成功した。

 

中国が支配する新グローバリゼーション

・一連のグローバル化のプロセスは、とくに英国と米国のアングロサクソン系によってつくられ、推進されてきた。しかしいま、それは大きな変革期にあり、結末がどうなるかはまだわからない。そして公式には共産主義国である中国が資本主義の擁護者になろうとしている。アジアのこの国は米国に次ぐ世界第2位の経済力を誇るが、購買力平価説{訳注:2国間の為替レートは、各国通貨の同一財の購買力の比較で決まるという為替相場の決定理論}で見ると世界第1位で、いまやグローバリゼーションおよび自由貿易の世界的リーダーとなることを目指している。

 2017年1月18日のダボス会議でそう述べた習近平国家主席は、さらに貿易と投資の自由化に尽力すると強調した。同時にこの中国のリーダーはあらゆる保護主義に断固反対する姿勢を見せた。これは明らかに、ホワイトハウスに着任後のドナルド・トランプがことあるごとに公言してきた、米国経済に損害を与えている中国製品に対する関税引き上げの意思に対抗するものだ。習近平は「貿易戦争には勝者はいない」とまでいい放った。

 

人間の集団間の争い

・「権力を保持する者は、地球上どこにいても、どんな手段を用いても、自身の覇権を脅かす他者の出現を妨害する人間の集団間の争いは、どんなに避けようとしてもなくなることはない

 

新旧のパワーバランスで起きたキューバ戦争

具体的な経済的・地政学的状況から発展したキューバ戦争(1868年―1898年)は、頭角をあらわしつつあった米国という大国と、明らかに衰退しつつあったスペインとの間で起こり、避けようのないものだった。地域限定であろうが、世界規模であろうが、国々は絶えず互いにパワーバランスをとろうとするものだが、キューバ戦争もその一例である。あまりにも大きくなった米国の権力を前に、ヨーロッパの大国たちはホワイトハウスとの対立を恐れ、この米西戦争から距離を置いた。

 

・問題は、国内の南部から北部の工場に配送される商品がフロリダ海峡を通らなくてはならず、一方、中米や南米からの荷がさらにユカタン海峡を横切らなくてはならないことだった。さらに米政府は、キューバプエルトリコにコントロールされたウィンドワード海峡、モナ海峡、そして度合こそ低いもののアネガダ島を通る海洋航路は、安全面ではリスキーであると考えていた。

 米国が通らざるをえないこれらの海洋航路を封鎖することで、スぺインは米国に対して戦略的な圧力をかけることができる。

 

・米国は海軍を強化し、領土の両側、つまり太平洋と大西洋の両方にその存在感を示すべきだという海軍の戦略研究者アルフレッド・マハンの主張が取り入れられたことで、緊張はさらに高まった。艦隊は両大洋を横断する交通路を使って流通する商品を保護すべきであり、それができるようになればわざわざホーン岬をまわる必要がなくなり時間も経費も大きく削減することができる。この交通路がその後パナマ運河となるわけだが、この構想はすでにスぺイン政府も検討していた。しかし、それを実現するためには、米国が中米とその周辺の海洋をすべて支配する必要があった。このような状況下、キューバにスぺインの影があることは、ホワイトハウスにとって最大の脅威だったのだ。

 さらにキューバの豊かな砂糖産業に目をつけた米国の有力投資家たちが、キューバの収穫量だけで北米の消費をまかなえると、キューバの支配を求めて政府にプレッシャーをかけたのである。

 

第1次世界大戦――英国vs.ドイツの経済戦争

1873年に経済危機が起きると、その前の数年間に支配的だった自由貿易に替わって、高い関税を課す保護貿易主義が幅をきかせるようになった。これにより、外交ルートで問題を解決できなかったいくつかの主要な先進国の間で激しい経済戦争が巻き起こった。こうして、不安定な経済に加え、ドイツ、日本、米国など、拡大できる領土を求める新たな国々が台頭して来る。

 ヨーロッパでは、経済の支配国として優勢を誇っていた英国だったが、ドイツの勢いを不安視するようになってきていた。ドイツはあらゆる分野で効率的に働くように教育された豊かな労働人口を抱えているだけでなく、短期間のうちに鉄鋼や化学の分野で英国を超えていた。そうなるとドイツは、天然資源を安く確保でき、しかも優良な市場にもなる広い植民地を必要とした。

 英国政府も、ドイツの工業化のスピードからすると新たな領土を征服しようと打って出てくるのは時間の問題だろうと考えていた。

 

このように第1次世界大戦の主要因は、経済的なライバルのドイツをできるだけ早く駆逐しようとする英国の産業と貿易にあった、とフラーは断言する。19世紀末のドイツの急速な輸出拡大と商船の増加が、英国にとって大きな脅威となったのだ。さらにドイツのビスマルクは艦隊を補強して自国の輸送船を護衛し、フランスの海洋派遣を妨害しようとしていた。英国とフランスにとって、その状況は生き残りをかけた経済競争となり、そのため両国ともライバルをつぶすことを決断した

 レーニンにとって1914年の戦争の目的は、世界の分配だった。植民地や影響力のおよぶ地域および金融資本を再分配した結果、世界の人口の半分以上が、いくつかの大きな産業国に従属する形となった。一方、国際関係が専門のフランス人ピエール・ルヌーヴァンは、1917年以降の米国は、自国の威信を守り経済的利益を得るためにヨーロッパの紛争に介入したといっている。

 

第2次世界大戦――米国資本主義vs.ヒトラーの経済戦争

・第2次世界大戦が勃発する前、世界経済の権力を握っていたのは米国と英国だった。フラーによると、ヒトラー覇権主義的な世界に反対し、金貸しの資本主義とは距離を置くドイツ国家をつくろうとしたのだという。そのためにヒトラーは外国からの利子つき融資を拒み、国家経済を準備された金に頼るのではなく、製造業の活性化による生産にもとづくものにした。物々交換制で輸入し、必要があれば輸出を支援するだけでなく、為替の自由を禁じることも検討した。

 しかしこれは、利子をつけて貸し付けをしていた資本主義の国際社会には受け入れがたいことだった。ヒトラーのこの試みが成功すると、他の国々もドイツの真似をする可能性がある。つまり金が不足している国家間で物品のやりとりをするようになれば、金の価値が失われてしまうのだ。当時、米国が世界の金の70%を保有していたことを忘れてはいけない。こうして、金貸しの資本主義国家がヒトラーの財政システムをつぶすことを目的とする経済戦争が勃発する。それに加えて、景気のいいドイツ産業界は自分たちの商品を売りつける市場を必要としていた。1937年、急激で破壊的な不景気に襲われた米国で何百万もの失業者が出たのに対し、そのわずか7年前の1930年には1750万人が政府の保護を受けて1500万人が空腹を抱えていたドイツでは、もはや失業問題は解決し、繁栄を確立していた。

 この第2次世界大戦中、ドイツもまた経済的利益に突き動かされた軍事的戦術・戦略をとらざるをえなくなった。

 

ドルに致命傷を負わせる覚悟の中国

・世界最大級の石油輸入国である中国は、原油の国際取引を人民元建てで行う計画を立てている。人民元は、上海と香港の取引所で問題なく金と交換可能になるという。それが実現すれば、人民元がアジアにおける石油市場の通貨となり、石油輸出国はこれまでのようにドルを使用しなくてもかまわない。北京が何年も前から画策してきたこの斬新な計画は、2017年末に実現する予定[訳注:2018年3月に人民元建ての取引が開始している]で、そうなると、ロシア、イラン、ベネズエラといった主要な石油輸出国のいくつかは、米国の制裁をかわすことができるだろう。

 

宗教を敵に回す愚かさ

イデオロギーは過ぎ去るが、宗教は残る

・犯す恐れのある最大の過ちの一つは、宗教に敵対することだ。それを実行した者のほとんどが失敗に終わっている。宗教は、情熱的に信仰を持つ者の能力と士気を途方もなく増大させ、しまいには、想像を絶する犠牲を払うことを促す。交渉が通用しないもっとも恐るべき敵は、なんらかの宗教を熱狂的に崇拝する戦士にほかならない。彼らは完璧な兵士といえ、信仰を守るために戦い、自らが命を落とすことすら望む。だからこそ、知性のある偉大な指導者たちはみな、宗教とは協定を結ぼうとしてきた。宗教の教義にケチをつけた者は長く血みどろの戦いをすることとなり、理論上は武器や兵力の面で有利だと思われるときでさえ、負けることが多かった。同じことは政治や地政学でも起こりうる。多くの場合、自分が信仰していない宗教に対して間違った認識を持った指導者は、その宗教の信者の立場でものを考えることができないために破滅の道をたどるのである。          

 

賢い統治者は宗教を利用する

・宗教を侮辱するのではなく、逆に利用した賢い統治者もいる。

 アケメネス朝ペルシャ王のキュロス2世は、征服した中東の人々の民族意識や宗教を敬うだけの能力と知性を持っていた。たとえば、紀元前539年、その半世紀前にネブカドネザル2世によってバビロンに捕虜として連れてこられたユダヤ人の子孫約4万人を解放し、パレスチナへ戻って宗教にもとづく共同体を築くのを許した。また、バビロンではどんな宗教も認められた。

 

地政学上の8つの大罪

人間はつねに、名誉、恐怖、私利私欲によって突き動かされている

・米国の軍事史学者のビクター・デイビス・ハンソンによると、時代とともに戦争技術は変化するが、戦争の動機やそれにともなう感情、戦争を行う大義名分は変わらないという。傲慢、計算違い、欲望、間違って解釈された名誉心、その他諸々の感情により、将軍たちは、ときには常識的に考えればそうすべきではないとわかっているにもかかわらず、運に身を任せて戦争を始めてしまう。またハンソンは、戦いたいという欲求は、怒り、誇り、名誉心、恐怖心、利得心から来るものであることが多いと言っている。

 

大罪1 利己主義

・これまで描写してきた脆さや情熱は、個人においても集団においても一言でいえば「エゴイズム」である。

 

大罪2 色欲

・色欲もまた、政治と地政学の領域に入り込んでいる。腹立たしいほど制御不能なこの欲望は、歴史において重要な役割を果たしてきた。たとえば、ロシアのエカチュリーナ2世は性欲が旺盛なことで有名だが、愛人の一人、スタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキをポーランド王に据えた。

 また、この大罪がどのように当時の政治に影響し、その影響が現在まで続いてきたかを示す典型的な例は、英国王ヘンリー8世だろう。彼は恋愛に夢中になり、新しい教派であるイングランド国教会を生み出した。6回結婚したが、スぺインのカトリック両王の娘、キャサリン・オブ・アラゴンとの離婚協議を理由にローマ・カトリック教会と絶縁し、その機を利用してイングランド国教会の最高権力者となった。

 

大罪3 怠惰

・意外に思われるかもしれないが、怠惰もまた、国際関係や地政学的戦略を定める際に役割を与えられている。

 

大罪4  貪食

地政学の世界「貪食」は天然資源を手に入れたいという過度の欲求を意味する。必要以上のものを独占して、それを他者が享受できないようにするのだ。

 

大罪5 怒り

・怒りは、多かれ少なかれあらゆる人間のなかに巣くっており、ときに驚くべき早さと辛辣さで暴力の源となる。見た目は穏やかな人でも、地政学的行動を指揮する際には怒りが重要な役割を果たす。

 

大罪6 羨望

・今日、「羨望」は不公平感と関連づけられる。いまや、テレビからインターネットまで、さまざまなメディアが、私たちに世界のほかの場所で何が起きているかを事細かに教えてくれる。

 

大罪7 強欲

国益を国の政治の基本指針とするのは、ネンリー・ジョン・テンプルがいっていたように、「すべてを自分のものにして他人には何も残さない」という意味において、「強欲」の一種だと考えられる。結局、「強欲」とは、誰とも共有せずにただ独占する喜びのためだけにできるだけ多くの富を持ちたい、という強い欲望なのだ。これは飽くことを知らず、だからこそ際限のない罪といえる。

 

大罪8 傲慢

・この大罪は国際関係の領域で広く見られる。自国がもっとも発展していると信じている国々は、自分たちの優位性や正当性を信じ、自分たちこそが真理を知る唯一の存在だという盲目的な自信を持っている。こうした感情から、ほかの社会や人生観を軽蔑して修正しようとしたり、最悪の場合はその時代の権力者の社会的・経済的・政治的価値観に合わないというだけで、ほかの国を侵略することさえする。

 

 

 

新版『ラルース 地図で見る国際関係』  現代の地政学

イヴ・ラコスト   原書房    2016/12/22

 

 

 

地政学、それはまず戦争をするのに役立つ」

地政学、それはまず戦争をするのに役立つ」。これは1970年代末に発行されたイヴ・ラコストの著書のタイトルで、当時大きな反響をよんだ。

 現状に即して完全に見なおしたこの新版で、著者はこの直観を現代世界を読み解くカギとして使っている。著者(フランスの地政学の第一人者の1人)は現代の大きな争点について、独自のアプローチを提案する。それは、局地的な地図から世界地図まで、さまざまな地域の地図を重ねあわせることによって、そうした争点をたがいに関連付けるという方法である。

 

<中国:いずれは世界一の経済大国か?>

統計によれば、中国は2009年から公式に世界第2位の経済大国になった。しかし国民の多く、とりわけ農民は、今でも非常に貧しい生活を送っている。にもかかわらずそうした状況が語られないのは、人々が今でも共産党の役人の支配下にあるからである

 

始まりは大きな地政学的動き

漢民族の勢力拡大:南北2000㎞

・中国人は全員同じ言語を話すわけではないが(中国南部にはさまざまな方言が存在する)、そのほとんどが自らを漢民族だと認識しており、共通の文字である漢字を用いている。漢字はアルファベットと違って表意文字で、読み方は地域によって異なる。この文字の統一性は、インドとは大きく異なる点である。インドも10億人以上の人口をかかえるが、その90%がヒンドゥー教徒であることを除けば、言語的、文化的には非常に多様である。

 

中華帝国がまもなく世界の中心になる

中国のめざましい経済発展とその地政学的理由

・産業活動は、党の有力者とその家族が結託して中国や外国の個人投資家と取引するという、理論的に不鮮明な無秩序な方向に向かって進められた。

取引相手はとくに台湾の人間だった。

 

・そのいっぽうで地方の状況は非常に不安定なままで、国の管理下にある工場は失業者を出し、多くの場合労働者に賃金を払えずにいる。

 

国内移住と貧困

国際的な研究によれば、中国では中流階級(西洋型消費・社会生活を送る人々)が3億人いるいっぽうで、公式な数字によれば1億人以上が貧困線以下の生活を送っている。これは年収882元以下を基準にしたものだが、貧困線の世界平均は年収3000元以下である。こうした貧困層の大半は、仕事を求めて田舎から都市に出てきた無数の国内移民(2000年代初頭には約4200万人)で、おもな出身地は、四川省湖南省河南省である。出稼ぎ先としては、広州(半数近く)と上海が多い。こうした人口の大移動は、国の政治経済を不安定にする大きな危険要素の一つである。

 

・人口密度の非常に高い東部地域となかば砂漠のような西部地域との違いは歴然としている。世界的な経済危機によって対米貿易が低下したとはいえ、中国はこの危機以前に経済成長の記録を達成している(最高年16%)。そうしたなかでも中国当局は綿密な出生管理を続けており、1970年代に決定した産児制限政策は2001年にふたたび「国家政策の基本」であると宣言された。しかも妊娠中絶という強制的な手段も棄ててはいない。中国の出生率は人口の自然出生率より低くなる見込みで、女性の数の不足が強く意識されはじめている。都市の人口は、1980年から2011年の間に、全体の19.7%から50%に変化した。

 

農地の獲得、緊張と対立の源

・1980年に中国の都市人口は全人口の20%以下であったが、現在は50%を超えたところだ。上海は2300万人を、北京は2000万人を超えている。かつて四川省に属していた内陸部の重慶市は、数字の上では3100万人を超えるが、これは特別なケースである。というのも、三峡ダムの建設後に長江流域が水没したため、「赤色盆地」(四川盆地)の多くの地域を行政上まとめたからである。

 多くの都市の拡張はほかの国と同様、都市化の問題を引き起こしたが、中国では都市の農村部への拡張が特別の問題をもたらした。農地は原則として集団の土地にしておかなければならないからである。各公社で指導者たち(選挙で選ばれる原則だが、実際は共産党に任命される)が土地を不動産開発業者に売ることを決めると、開発業者はその不動産を裕福な市民に売却する。この売買の際に、公社の指導者たちが利益のうちのかなりの部分をしばしば着服していることに、農民たちはすぐに気がついた。こうした土地詐欺に続いて複数の指導者に対する暴動が起こり、インタ―ネットで伝えられるようになった。

 党幹部(「赤いプリンス」とよばれる)の家族が私服を肥やす問題やその役職の問題、地方や国家のトップの座を争うライバル関係については、ますます論議されている。

 

<中国がアメリカを「救う」>

・1990年代から米中の経済関係は非常に良好で、何年も前から中国資本がアメリカの巨額な貿易・予算赤字を補填しているほどである。中国はアメリカに製品を売り、同国から国債を購入しており(推定1兆ドル以上)、アメリカの外貨と経済を支えている。

 

国内移動者が大量に存在

・今や豊かで工業化された沿岸各省と、大部分が農村の中央部、そしてあきらかに開発の遅れた西部各省の間には大きな格差が認められる。

 現代の中国の特徴は地方から都市へ向かう国内移動者が大量に存在することで(2000-05年に2億人以上)、一部の人はこれを社会を不安定にするリスクであると考えている。しかし当局は、人口100万人以上の都市に住む人の割合は世界平均よりもまだ5%以上低いと指摘する。

 香港を含む中国のGDP(国内総生産)は、2010年にはアメリカに次いで世界第2位であり、日本とドイツがこれに続いている。

 

華僑

・華僑がもっとも多いのは当然ながら東南アジアだが、中国人の存在に対して土着住民が激しい拒否の動きをみせることがある。とくにインドネシアでは、1965年にスハルト将軍のクーデターが起こったときにそれがみられた。中国人は当時共産主義と同一視され、地元の共産主義者とともに多数が虐殺されたのである。

 

どのような大国? どのような未来?

中国では昔から、何百万人もの農民が不法に都市に出稼ぎにきて、非常に不安定な状態におかれている。国内移住を管轄する当局は、相応の許可をもたない人間が都市に居住することを禁止しているからである。現実に何千万人もの「密労働者」が必要な滞在許可なしに都市で働いているが、最低の賃金で、家族を呼びよせられずにいる。彼らはいかなる要求もできない。そんなことをしたら追い出されるか、労働所に収容され、それまでの貯金を田舎の家族に仕送りできなくなるからである。世界的な経済危機の影響で中国の経済成長も大幅に減速したため、「不法労働者」たちは田舎に押しもどされている。収入源を絶たれた彼らは、自分達よりもはるかに豊かに暮らしている地元の共産党の役人による支配に反発しはじめている。

 反発の声は、共産党員の労働者からも上がっている。党の有力者の親族が経営する民間企業は羽振りがいいのに、彼らが働くかつての国営工場は不振にあえいでいるからである。この不安定な社会情勢に直面して、指導者たちは社会保障制度をはじめとする改革を約束する。国の息のかかった組織は、国の統一を強化するために、中国が外国から脅威にさらされていると吹聴する。その言によれば、国際世論がチベット人を支持しているのがその証拠だ。

 

ナショナリズムの高まり、社会不安、農村部での反乱、都市部の混乱など、現在の中国は何が起きてもおかしくない状況である。しかも、めざましい発展を制御しつづけることができたとしても、この国はいずれは国境を越えて力を行使したくなるのではないだろうか。中国は原材料、とりわけ石油を大量に必要とし、中央アジアやアフリカに本格的な経済攻勢をしかけている。とくにアフリカには、資材と資本だけでなく数多くの労働者も送りこんで、地元民をひどく驚かせている。

 中国の大企業は、現在はグリーンランド北極海の鉱物資源に強い関心を示している。

 

北朝鮮:横目でみる地政学的争点

・以来、韓国は民主主義体制のもとで繁栄する国家となり(人口4900万人、2011年にGNP1兆1630億ドルで世界13位の経済大国)、隣国の北朝鮮は貧困と全体主義に沈んでいった(人口2400万人)。

 

そのうえ北朝鮮原子力研究分野でパキスタンや複数のアラブ諸国を支援したことも忘れてはならない。また、特定のテロリストグループに原子力兵器を提供すると脅していることも忘れてはならない。しかしながら、国の経済が破綻しているにもかかわらず、現在誰も体制が近々崩壊するとみている様子はない。それは直接の利益を得るものがいないからかもしれない。南北統一が実現した場合、韓国は、ドイツ経済が東西再統一時にかかえた負債よりもはるかに重い負担がのしかかってくることを恐れている。中国は、南北朝鮮の再統一がアメリカに有利に働くのではないかと危惧している。そしてアメリカは、南北統一によって韓国駐留米軍の存在意義が問われることになるだろうとみている。日本はといえば、北朝鮮のミサイルの直接の脅威にさらされているのにもかかわらず、統一された朝鮮が長期的には大国となり、経済的な手ごわいライバルになることを憂慮している。さらに北朝鮮から大量の移民が流入するリスクもかかえている。近年北朝鮮政府は、新たな核実験や、太平洋上のハワイにまで達しうるロケット弾の発射を行った。

 

韓国は、北朝鮮軍が日本に到達する能力のある射程1300㎞以上のミサイルを少なくとも1000基保有しているとみている。一部の観測筋によると、中国は深刻な危機の際に北朝鮮のカードを切るかもしれないという。とくに台湾問題をめぐって米中間に強い緊張が生じた場合に、北朝鮮のミサイルの脅威は日本に向けられるかもしれない。

 

日本:驚異的な成長も現在は停滞中

・中国と朝鮮半島の北東に位置する日本のジャパンという英語名は、中国語で「日本」をリーベンと呼んだことに由来する(ジーペンと聞こえる)。この非常に古いアジアの国は、世界的に見て二つの大きな地理的特徴をもっている。第一に、早い段階でおおよそ統一された、全体として非常に単純な形状の島国国家であるという点だ

 

・しかも全長3000㎞以上の広さをもちながら、大きな文化的均質性を保っている点も、他の島国国家とは異なっている。二つめの大きな地理的・地政学的特徴は、19世紀の産業革命を自力でなしとげ、その結果、西ヨーロッパや北米と同様の「先進国」の特徴をすべてかねそなえた唯一の非西洋国家であるという点である。

 

日本の危機感

・1990年代半ばからは成長率が大幅に低下し、日本は新たな段階に入った。さらに2009年には世界的な経済危機の影響で、本格的な景気後退に突入した。原因は複雑だ。1つは、産業界の大企業が多くの生産拠点を海外に移したことである。海外拠点は人件費が安く、そう遠くない韓国や台湾、インドネシアだけでなく、より大きな市場をもつアメリカや西ヨーロッパにも広がった。また、人口の減少と老齢化による国内市場の景気停滞も原因の一つである。

 

現代日本地政学的課題

・かつて日本の地政学野心はとほうもないものだった。現在は国境を越えた介入は少しずつ増えてはいるものの(アフガニスタンイラクへの派兵、台湾への明確な外交支持)、日本の地政学的問題は限定的になっている。

 

実際は、日本の地政学的な課題は、領土よりも国のイメージの問題だといえる。近隣諸国は日本に対して、かつての帝国主義のイメージを抱いているからである。韓国人は、日本の植民地時代や第2次世界大戦中に自国の男女が受けた扱いを忘れてはいないし、中国人は日本軍の行い、とりわけ1937年の「南京大虐殺」における残虐な行為をつねに思い起こしているのである。

 北朝鮮の問題と同政府が核兵器をちらつかせる戦略は、直接的には韓国に向けられているが、日本もとりわけ関係があるといえよう。北朝鮮はすでに、弾頭非搭載のミサイルを日本の頭越しに太平洋に撃ちこんで、自国の力を誇示しているのである。

 

中国と日本の競争は、石油分野と地政学的戦略面でも表れはじめている。中国政府は今、カザフスタンと西シベリアから石油を受け取っているが、日本は西シベリアやカザフスタンから来るパイプラインがロシア連邦の沿岸地方まで、すなわち日本海側まで到達することを望んでいる。日本は広島への原爆投下の記憶がありながらも、エネルギーの安全確保のために何十年も前から原子力発電所建設の大規模計画を実現してきたが、これは福島の大惨事以後非常に問題視されている。とはいえこの原子力の民生利用計画は、日本が自力で国の安全を守らなければならなくなった場合に、簡単に軍事目的に転用できる手段でもある。

 

・1946年にアメリカに押しつけられた憲法によって、日本は公式な軍隊はもたないものの「自衛隊」を備えており、その艦隊は力を増しつづけている。2007年1月、防衛庁は省に昇格したが、これは日本における軍隊復活の兆しかもしれない。日本の地政学的課題は北朝鮮の挑発に限られているのではなく、中国国内で高まるナショナリズムの流れにも関係している。中国は西側諸国には軍事力をアピールし、日本に対しては、先の大戦で日本軍が犯した残虐行為を思い起こさせている。