<あと3年続くのか? 「スペイン風邪」の教訓>
・投資家たちが、早期収束を望むのはわかるが、それに掛けてしまうのは極めて危険ではなかろうか。
ビル・ゲイツ氏は新型コロナウイルスを「100年に一度発生するレベルの感染症」と称した。となると、100年前に大流行した「スペイン風邪」を念頭に置いて、今回のコロナ禍がどうなるかを考えてみることも必要だ。
スペイン風邪の流行は、1918年から1920年まで、なんと3年間も続いた。全世界で5億人が感染し、死亡者は3000万~4000万人に達したと言われている。
・それによると、3年間の総患者数は2380万4673人、死亡者数は38万8727人。当時の日本の人口は約5500万人だったから、なんと半数が感染したことになる。
<ペストの蔓延で人類は人口の多くを失ってきた>
・歴史上もっともひどかったとされる感染症の蔓延は、14世紀にヨーロッパを襲ったペストである。発症すると死に至ることが多いので「黒死病」と恐れられた。このとき、約7000万人だったヨーロッパの人口は、約3分の1にあたる2000万人以上を失ったという。イタリアでは、人口の8割が失われてほぼ全滅した村もあった。その結果、中世は「暗黒時代」となり、経済も文化も大きく滞った。
ペストの発生源については諸説あるが、もっとも有力な説は中国である。
・同じく大航海時代の新大陸航路も疫病の輸送路となった。ヨーロッパ人が持ち込んだペスト、天然痘、結核、コレラなどで、中南米の先住民の多くが滅亡した。
モンゴル人による中国王朝である元朝が崩壊したのも、ペストのせいと言われている。元朝を倒した明王朝は、異常気象による大凶作とペストの流行により衰えた元朝を、朱元璋が華南から反乱を起こすことで建国された。元朝の最盛期の中国の人口は1億3000万人と推定されるが、明朝初期には、その半分以下の約6000万人にまで減っていたという。
明朝は1644年に滅亡し、その後は、満州族の清が王朝を立てるが、このときも感染症が大流行したという。
・明朝末期の華北地方では、ペストや天然痘が猛威を振るい、少なくとも1000万人の死者が出たと言われている。同時に飢饉も続いて人口は減り続け、清が建国されたときの中国の人口は3000万人を割り込んでいたという。明朝で1億人以上まで回復した人口は、またしても3分の1以下になっていたのである。
<20世紀以降はインフルエンザが猛威を振るった>
・このように中国発の疫病の歴史は、近代になっても繰り返された。
1820年には広東でコレラが大流行し、翌年には北京にも広まった。このコレラは日本にも伝染した。
・20世紀以降では、ウイルスによる感染症のパンデミックは三度記録されている。いずれもインフルエンザウイルスによるものだ。そのうちの最大のものが、前記したスペイン風邪である。
インフルエンザウイルスは、大別してA型、B型、C型の三種類があり、このうち主に人間に感染して流行を引き起こすのはA型である。しかもA型のなかでも細かい種類があり、常に変異を繰り返している。
はたして、新型コロナウイルスが今後どのような経緯をたどるのかは、いまのところわからない。
ただし、これまでの歴史から見て、確実に言えることがある。それは、どんなかたちにせよ、人類はこのウイルスを撲滅するか、あるいはうまく共存するようになり、蔓延の惨禍を乗り越えて、次の時代を生きていくということだ。
<ペストの蔓延がルネサンスを用意した>
<ポストコロナはいままでと違う世界になる>
・ペストは、その後、17世紀にも大流行した。
とくにひどかったのは英国で、1665年から1666年にかけて、約10万人が死亡し、ロンドンの街は死体であふれたという。
・このように見てくれば、今回の新型コロナウイルスのパンデミックは、人類に与えられた試練だが、その先には必ず明るい未来があることがわかる。
コロナ禍が短期で収束するのか、それとも長期にわたるのかは別として、感染が収束した後に訪れるポストコロナの世界は、これまでと違った世界になる。経済は復活し、社会は発展し、人類はより豊かになるだろう。
<ウイルスは人工的につくられたのか?>
<トランプ「チャイナウイルス」発言の真意>
・それは、ウイルスが自然発生ではなく、中国が人工的につくったものではないかというものだった。だから、「アメリカ軍が武漢に持ち込んだ」という趙立堅報道官の発言は、看過できなかったのだ。
<海鮮市場のコウモリからヒトに感染した>
・武漢市には「武漢ウイルス研究所」があり、研究所内には中国ウイルス培養物保存センターがあって、多くのウイルス株を保管している。そこが、ウイルスの発生源ではないかということは、早くから指摘されていた。
・しかし、米中が舌戦を始める前までのマスメディアでの主流なストーリーは、新型コロナウイルスは自然界のなかで突然変異によって生じた。それはおそらく、センザンンコウなどを中間宿主として、コウモリからヒトに伝染したというものだった。
中国の研究者たちは、そう発表していたし、中国政府もそれを認めていた。中国政府は、1月半ばの段階で、ウイルスの遺伝子情報を公開したので、人工説を唱える研究者は世界にはいなかった。
発生源は、中国の武漢市にある海鮮市場。そこで売られていたコウモリから中間宿主に感染。その後ヒトに感染するようになった。これが定説化していた。
<なぜ中国は、武漢を全面封鎖したのか?>
<ウイルスめぐる北京とワシントンの非難合戦>
<「ワシントン・ポスト」紙が口火を切った>
・マスメディアでウイルス人工説を最初に取り上げたのは、「ワシントン・ポスト」(WP)紙だった。「WP」紙が4月14日に、ジャーナリストのジョシュ・ロギン氏の記事で、アメリカ政府が武漢ウイルス研究所の安全基準について懸念していたことを明らかとする文書の存在を報道すると、「フォーブス」誌、「FOXニュース」などが、こぞって追随した。
<動物由来か? 人工か? どちらにも確証がない>
・《ウイルスはここで発生したのか?――「WP」紙と「FOXニュース」がその可能性を報道した。「WP」紙が入手した外交公電からは、当局者らがとくにSARSに類似したコウモリコロナウイルスの取り扱いをめぐる安全対策の不備に懸念を示していたことが明らかになった。
「FOXニュース」は、同施設で研究対象となっていたコウモリ由来のウイルス株に感染した人物が「〇号患者」となり、そこからウイルスが武漢の住民に広まった可能性があると伝えた。
中国の科学者らは、ウイルスは武漢の海鮮市場で動物からヒトへと感染した可能性が高いとしているが、ネット上では武漢ウイルス研究所が発生源だという陰謀説が拡散。アメリカ政府も調査に乗り出した。同研究所と中国外務省はこの説を否定している》
<なんとノーベル賞学者が「人工説」を唱えた>
・その本人というのは、1983年にHIV(エイズウイルス)を発見した功績でノーベル賞を受賞したリュック・モンタニエ博士で、語ったのは「新型コロナウイルスは人工的なものであり、武漢ウイルス研究所でつくられたのに違いない」というものだった。
ノーベル賞受賞者が人工説を断言しただけに、アメリカでも日本でも右派人間は喜んだ。これで、人工説にお墨付きが与えられたと思った。
<「人工説」「生物兵器説」が立ち消えた理由>
・こうして、新型コロナウイルス人工説は、ほぼ立ち消えになった。一時まことしやかに言われた「生物兵器説」は、モンタニエ博士の騒動後は、完全に葬り去られた。
その理由は、このウイルスにとって敵も味方もないからだ。敵も味方もなく、ヒトなら誰でも感染する。しかも、治療法がない。治療法がなければ味方も死んでしまうから、そんなものが兵器になるわけがない。
・最終的に、新型コロナウイルスは自然界由来ということがほぼ確定したと言っていい。
<武漢で開催された「世界軍人オリンピック」>
・しかし、新型コロナウイルスの発生源が、武漢の海鮮市場と特定できる証拠はない。そのため、武漢ウイルス研究所で保管されていたウイルスがなんらかの理由で流出してしまったという見方は消え去らなかった。
<アメリカ人の3割が「人工説」を信じている>
・“米中ウイルス・バトル”の渦中、4月14日、世論調査機関「ビュー・リサーチセンター」は、18歳以上のアメリカ人に、ウイルスの起源に関してのアンケート調査を行った結果を公表した。それによると、43%が「自然発生した」と答えたが、23%が「意図的につくられた」、6%が「偶然つくられた」と答え、計29%が人工説を信じていた。なんと、アメリカ人の約3割が、新型コロナウイルスは人工的につくられたと信じていたのである。
<ウイルスは世界政府樹立への布石>
<ウイルスは「NWO」によってバラ撒かれた>
・コロナ禍で世界は危機に陥ったが、危機になるときまってささやかれるのが「陰謀論」である。この章では、あえてそれを紹介してみたい。
その理由は、コロナ禍が続いていくと、収束後の世界が陰謀論が描くような“暗黒の世界”になる可能性があるからだ。
今回のコロナ禍でもっとも多く語られている陰謀論は、毎度おなじみの世界のパワーエリートたちが、人類の数を減らして家畜化し、それを支配するというものだ。そのために、人工的につくられた新型コロナウイルスがバラ撒かれたというのである。
陰謀論の世界では、あまりのも有名な「NWO計画」というものがある。これは、「新世界秩序」(New World Order:NWO)のことで、パワーエリートたちは世界政府を樹立してNWOをつくろうとしている。NWOは、人類の数を減らし(つまり人口を抑制し)、その後、徹底した管理社会をつくる。そうして、人類は思想や行動を完全に統制・制御されて生きていくことになる。
・また、ロックフェラー財団が10年前に作成したという『パンデミックの計画書』(ウイルスのパンデミックによって全体主義になるという未来予想)も持ち出されている。さらに、殺害されたリビアの独裁者カダフィ大佐が、かつて国連で「インフルエンザはアメリカの生物兵器」と述べたことを指摘して、新型コロナウイルスは人工的につくられたと示唆したりする。
・NWO陰謀論では、その首謀者は、マイクロソフトの創業者で世界第2位の大富豪ビル・ゲイツ氏となっている。ゲイツ氏は、2015年の{TED}の講演会で、「今後数十年で1000万人以上が亡くなる事態があるとすれば、戦争より感染性のウイルスが原因だろう。ミサイルより病原菌に備えるべきだ」とスピーチしていた。これが、新型コロナウイルスの蔓延を預言していたものとされ、ゲイツ氏らパワーエリートたちが新型コロナウイルスをつくり、NWO計画を進めている証拠だとされたのである。
・ゲイツ氏を中心とするパワーエリート集団には、国際金融資本、国際機関幹部、主要政治家などが参加している。古くからの陰謀論にしたがえば、ロックフェラー、ロスチャイルド、イルミナティ、フリーメーソン、世界300人会議、ビルダーバーグ会議など、すべてが世界を支配する集団である。
彼らは国家の枠組みを超えた存在で、アメリカではもっぱら「Deep State」(ディープステート)と呼ばれている。
彼らの計画は、「ウイルス散布」→「経済破壊」→「人口削減」というように進んでいき、最終的に世界政府が樹立される。
<ビル・ゲイツ氏「ありがとう」動画が大炎上>
・陰謀論を活気づけさせたのは、ビル・ゲイツ氏自身のこれまでの言動にも原因がある。ゲイツ氏は以前から「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を通して「グローバルヘルス・プログラム」活動を行い、ワクチンや医薬品の開発などに資金を積極的に投じてきた。今回のコロナ禍でも、2020年5月までに総額で2億5000万ドル(約275億円)の資金を提供している。
・とくに、インスタグラムは、ゲイツ氏が「ありがとう、医療従事者のみなさん」と書いたサインを窓際に掲げる3秒の動画を投稿したので、激しく炎上した。
<トランプ支持の極右が陰謀論をつくった>
・ビル・ゲイツ首謀の陰謀論をつくって拡散させたのは、極右集団「QAnon」(キューアノン)の一派とされている。これに、右派の論客たちが次々に飛びついた。彼らはみなトランプの支持者で、民主党とリベラルを敵視している。
・このようなアメリカの右派の人々とトランプ支持者たちには、「大統領はディープステートと戦っているのだ」という、根拠のない信念がある。前大統領のバラク・オバマ氏までディープステートの一員で、トランプ大統領は彼らの支配からわれわれを救ってくれているのだと思っている。
そのため、陰謀論は沈静化しないのである。ラシュ・リンボー氏はついに、「コロナ禍は中国人が仕組んだ陰謀だ」と言い出し、トランプ大統領もそれを真に受けたのか、中国非難を繰り返すようになった。
<ポストコロナ世界は「新しい中世」になる>
・それでは、ここで、今回の陰謀論が本当だと仮定してみよう。そうして、コロナ禍が収束した後のポストコロナの世界はどうなっているかを考えてみたい。
陰謀論によれば、人間は世界政府の監視下で自由を奪われ、統制された生活を余儀なくされる。この政治体制は、コロナ封じ込めに成功したとされる中国の政治体制とそっくりではないだろうか。
人々はデジタルIDを付けられ、常時、行動を追跡され、思想までコントロールされる。コロナ禍のなかで、行動が監視され、集会が禁止され、ソーシャルディタンシングを守ることに慣らされてしまうと、ポストコロナの時代になっても、それがおかしいとは感じなくなる恐れがある。
まして、コロナ禍は格差を拡大させるので、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる。中間層は転落を余儀なくされ、ポストコロナ社会は、少数の富めるパワーエリートと圧倒的な貧しい人々の二極社会になると予想される。
となると、これは欧州中世の暗黒時代の再来ではなかろうか? ペストの蔓延で「暗黒の中世」は終わりを告げたとされるが、今回の新型コロナウイルスは、当時とはまったく逆の方向に社会を変えていってしまう恐れがある。
<「新しい中世」は「グローバル階級社会」>
・この論文によると、私たち世界の政治経済秩序の大きな転換期に直面していて、その変化は16~17世紀の中世から近代への変化に匹敵するものだという。そして、次の世界秩序は「中世世界」に似たものになるというのだ。中世世界においては、キリスト教が唯一の権威だった。キリスト教は国家の権威の上に存在していた。
新しい中世においても同じで、領土的主権、国境、国内と国際の区別などを基盤とした「国民国家」は力を失い、国家を超えた権威が成立する。それは、リベラリズム、デモクラシー、エンバイロンメンタリズム(環境主義)などだ、とコブリン教授は指摘した。
しかし、コロナ禍はそうした普遍的なイデオロギーによる世界政府の確立により、デジタル支配による覇権的世界政府の確立に世界を向かわせる可能性がある。
また、「新しい中世」が、グローバル階級社会になるという見方もある。それを示したのが、ジェレミー・シーブルック氏の『階級社会 グローバリズムと不平等』だ。
この本は、世界のグローバル化によって生じた不平等を告発し、「新しい貧困」と「新しい階級」を描き出している。いま、この本を再読すると、ポストコロナの世界では、ますます「新しい貧困」が進み、一部の上流階級が支配するようになることが予感される。
<陰謀論は一般庶民の傷ついた心を癒す>
・そうではない証拠は山ほどにあるのに、人々は陰謀論のほうを信じてしまうのである。今回の新型コロナウイルスも同じだ。陰謀論とはいかないまでも、根拠のない言説が洪水のようにあふれ、それを信じる人が多く出た。
陰謀論というのは、この世界の出来事にはシナリオがあり、それは、“選ばれた人々”によってつくられている。これが、すべての陰謀論の基盤である。
選ばれた人々というのは、たとえば金融を支配するロスチャイルド家などの「ユダヤ人ネットワーク」であり、世界のトップが参加しているという「300人委員会」であり、あるいは昔からの闇の権力と言われてきた「イルミナティ(秘密結社)」などだ。
いずれも、一般庶民、とくに貧しい人々からは、はるかに遠い存在である。
こうした黒幕が世界を動かしているので、自分たちはなにもできない。自分の人生も世界も変えることはできない。そう考えてしまうストーリー構造になっている。
・つまり、陰謀論は、一般庶民、とくに貧しい人々、不幸な人々にとって、傷ついた心を癒してくれる。自分の貧しさ、自分の不幸は、自分のせいではなく、すべて仕組まれていたのだから、自分を責める必要がなくなるのである。
これが、私が考えた陰謀論が広まる理由である。
<金融バブルの崩壊と第二次大恐慌>
<英国の有名な童話「三匹のくま」の教訓>
・ここ数年、世界規模の金融緩和による「適温相場」が続いてきた。しかし、それはやがて終わる。ただし、それがいつになるかわからないという雰囲気のなかで、突如、襲ってきたのが「コロナショック」である。NY株価の暴落をきっかけに、世界経済は未曽有の危機に陥った。
<なぜ、「適温相場」は崩れるとされたのか?>
・未来永劫にわたって株価は上がり続ける。そう信じている人々がいる。それは、これまでの歴史を振り返れば、ある意味、まったく正しい。世界経済は、長い目で見れば拡大を続けてきたからだ。それにともない、株価は何度か下落を繰り返しながら上がり続けてきた。
・債務残高がいくら膨らんでも、資金の流動性が続いている限りデフォルトはない。しかし、なにかのキッカケで金利が上昇すれば、リーマンショックのような金融危機が訪れる。
このような観点から、金融バブルはやがて弾ける。適温相場は崩れるとされてきたのだ。
・したがって、ひとたび金融バブルが崩壊すれば、リーマンショック以上の危機が起こり、世界経済は大幅に後退する。アメリカ発の金融危機は全世界に及び、中国も欧州も大きく落ち込むだろうと、投資家は警戒してきた。
・ミンスキー・モーメントとは、簡単に言えば、バブルが弾けて崩壊に転じる瞬間のことだ。経済学者のハイマン・ミンスキーが、金融の不安定性を説いた金融循環理論のなかで唱えた。景気がいくらよくなろうと、債務が増加すれば、過剰な資産形成から、やがて資産価値が下落する局面(バブル崩壊)が必ずやってくる。これが、ミンスキー・モーメントであり、2008年のリーマンショックもミンスキー・モーメントだった。
「バブルがいつ弾けるのか、それを予測することは誰にもできない。ただ、バブルは必ず崩壊する」
と、経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイスは言った。
・コロナショックは、このミンスキー・モーメントを確実に引き寄せる。なぜなら、世界中で、コロナ禍に対する経済政策が行われ、そのための金融緩和が行われ、さらに莫大な債務が積み上がったからだ。
<IMF大甘予測>
・コロナショックによって、あらゆる経済指標は意味を失った。それによって生み出される経済予測も意味を失った。
・コロナショックが起こってから、相場に影響を与えるのは、感染者数の増減、新薬やワクチンの開発など、これまでとまったく違う情報になった。
・コロナ禍が続いている限り、経済予測はことごとく外れると考えるべきだ。
<アメリカ経済は今後どこまで落ちるのか?>
・また、「CNBCニュース」の報道によると、ニューヨーク連邦準備銀行は、アメリカの世帯債務が2019年に急上昇し、リーマンショック以来最大の年間増加を記録したと公表したという。アメリカ人のほとんどがクレジットの債務を抱えて暮らしている。消費はほとんどクレジットで行われている。新型コロナウイルスは、こうしたアメリカの一般世帯を直撃したことになる。このようなことを考えれば、アメリカ経済が1年で回復に向かうなどとはとても思えない。GDPの落ち込みも一桁ですむわけがない。
<社会を底辺から支えるギクエコノミーの崩壊>
・アメリカ経済の7割を占めるサービス業で、廃業、倒産、レイオフ(一時解雇)が相次いでいる。ロックダウンは経済的な大虐殺と同じで、サービス業から全業種に拡がり、大不況をもたらした。
泡を食ったトランプ大統領は、経済再開を急いだが、感染者が出続ける限り、経済は元には戻らない。
・最近のアメリカ経済は「ギグエコノミー」で回っていると言われている。ギグとは、日本で言う「ライブ」のことで、ライブハウスなどでギタリストなどがライブセッションをすることを指す。そこから転じて、インターネットなどを通じて単発の仕事でおカネを稼ぐのがギグ労働で、そうした仕事でお金が回っている経済がギグエコノミーである。
現在、アメリカの労働者の36%がギグエコノミーで働いているとされ、その職種は、レストランのウエイター、仕出屋、ウーバーの運転手、ホテルやビルの掃除人、イベントのスタッフ、企業のアウトソース事務、プログラマーなど多岐にわたっている。
これらのギグ労働者をコロナ禍は直撃した。アメリカでは約1550万人が、飲食店で働いており、そのうちの約300万人が貧困ラインにいる。彼らは仕事がなくなって、家賃が払えず、ホームレスになる者も出た。
<株価再暴落と金融崩壊で「第二次大恐慌」に>
・今後考えられるのは、株式市場の再暴落と金融バブルの崩壊である。
・NY株価が暴落後に大きく反発したのは、FRBによる無制限の量的緩和と大規模な流動性供給に加え、トランプ政権が次々と大型の経済対策を打ったからである。
ただし、2万9000ドル台まで上がった株価の上昇過程を振り返ると、さらなる暴落(二番底)の可能性は高い。NY株価が上昇し、「適温相場」を続けられてきたのは、企業の好業績もあるが、金融緩和マネーと超低金利のおかげだ。超低金利で借り入れ、それを自社株買いや配当に回す「株主還元」が大ブームになった。
・一方の金融相場は、今回のコロナ禍による緩和で、もう限界である。これまで、アメリカの財政赤字とそれに伴う米国債の発行は、海外マネーとFRBによって支えられてきた。海外マネーというのは、主に日本と中国である。しかし、コロナ禍で日本も中国も、もう米国債を買う余力がない。実際のところ、リーマンショック以降は、米国債の最大の買い手はFRBとなっている。これが「QE2」と呼ばれた量的緩和で、いわゆる「財政ファイナンス」だ。
・株価の再暴落と金融バブルの崩壊が起これば、アメリカ経済は1929年の大恐慌をはるかに超える落ち込みを記録し、「第二次大恐慌」に突入する。すでに、実体経済のほうは大恐慌時を超える状況になっている。
大恐慌では、1929年から1933年にかけて、アメリカのGDPは27%も減った。アメリカがこのどん底から立ち直ったのは、1941年からの戦争特需の発生からだ。
とはいえ、アメリカ経済は世界最強である。アメリカは食料も資源もあるから、国を閉ざしても十分にやっていける。
<できるのか「グッドバイ・チャイナ!>
<反グローバル化で国境は閉じられる>
・ポストコロナの世界に対して、さまざま見方が入り乱れている。それを整理してみると二つの世界観があることに気づく。
一つは、グローバル化が大きく後退し、世界の国々が国境を閉ざす世界。もう一つは、逆にグローバル化が促進され、世界規模の連携が強化される世界だ。
・こうした状況を見ると、今後の世界では反グローバル化が進むのではないかと思える。人々は以前のように移動しなくなり、多くが国内に止まる。コロナ禍の教訓から、各国は、医療リソースをはじめとする健康、安全にこだわるようになる。食糧安全保障も進むだろう。どの国の政治家も、トランプのように「自国第一主義」を掲げ、グローバル化は後退してしまうのか。
そういう世界が訪れると、多くのエコノミストたちが口をそろえる。はたして、この見方は正しいのだろうか?
<グローバル化を止めれば経済成長も止まる>
・歴史を振り返れば、グローバル化が大きく後退したことは、これまでに何度もあった。世界の歴史はグローバル化と反グローバル化の繰り返しと言ってもいい。
20世紀においても、大恐慌前まではグローバル化が進んでいた。ところが、大恐慌とともに各国はバラバラになり、政治・経済のブロック化が始まった。大恐慌では世界の国々の約4割が事実上のデフォルトに陥って、世界市場から退場していった。これらの国が再び世界市場にアクセスできるようになったのは、第ニ次世界大戦が終わってからである。ブロック経済は、結局、主要国の対立を激化させ、第ニ次世界大戦を引き起こしてしまった。
この教訓から、グローバル化を止めてはならない、よりいっそう強化すべきだと、別のエコノミストたちは主張する。
・前記したように、コロナ禍は国家が強権を発動しなければ防げないことを、私たちに思い知らせた。しかし逆に、一国だけで解決できる問題ではないことも、私たちに思い知らせた。感染症は、人類全体の脅威だからだ。この先、新型コロナウイルス以上に強力なウイルスが襲ってくる可能性もある。
そう考えれば、ポストコロナの世界では、よりいっそうの国際協調が必要ではなかろうか。そうしなければ、人類は世界全体の問題を解決できない。
<先に経済再開した中国がアメリカを逆転する?>
・反グローバル化、グローバル化、どちらに進むにせよ、ポストコロナの大問題は、米中両大国の「覇権争い」である。このことに、異論を唱える者はいない。コロナ禍でいったん中止になったように見えるが、米中の覇権争いは続いている。
エコノミストの多くが、コロナ禍の影響をもっとも大きく受けるのがアメリカで、中国はいち早く立ち直ると見ている。
・いくら中国が真っ先に経済活動を再開させたからといっても、かつてのような成長軌道を取り戻すことができるだろうか?
2020年の世界のGDPは、すでに前年比で20~30%の減少が見込まれている。コロナ禍はこのまま終わらず、第二波がくる可能性も指摘されている。とすれば、「第二次大恐慌」は相当長引く。そんななかで、中国一国だけが、再び経済成長していけるだろうか?
<医療分野で中国に依存してきたアメリカ>
・じつは、中国には大きなアドバンテージがある。それは、アメリカが、中国の医薬品、医療機器に依存していることだ。
中国は産業政策「中国製造2025」の重点分野の一つとして、医薬品産業の強化を図ってきた。その結果、中国の医薬品産業は、近年、急成長し、とくに「抗生物質」や「API」(医薬品有効成分)、「ジェネリック薬」などの分野で、世界市場で高いシェアを占めるようになった。その結果、アメリカは、抗生物質の80~90%、鎮痛・解熱剤「アセトアミノフェン」の70%、血栓症防止薬「ヘパリン」の40%などを中国に依存するようになった。もちろん、コロナ対策で必要なマスク、手袋、防護服、人工呼吸器も中国依存である。
<中国に「コロナ蔓延」の責任を取らせる>
・政治学者に言わせると、アメリカの選択肢は二つある。一つは、国民の生活、安全、健康、幸福を最優先して、この先は中国と協調していくこと。もう一つは、世界覇権の維持が最終的な国益につながるとして、この先も中国の覇権挑戦を退ける戦いを続けることだ。
<「中国寄り」のWHOを拠出金の停止で脅す>
・トランプ大統領は、4月14日、WHOへの拠出金を停止すると表明した。本来公平であるべきWHOが「中国寄り」の立場を取ったせいで、適切な警告を出さず、その結果、全世界に感染を拡大させたと指摘した。
<トランプ政権の危険な「国際機関」離脱戦略>
・国際機関のトップやそれに準ずるポストに、中国の息のかかった人間を据えるのは、中国の国際戦略である。
・アメリカは単に国際機関離れをするのではなく、国際機関の改革に乗り出し、アメリカ中心の自由主義、資本主義、民主主義を基盤とする組織につくり変えなければならない。それが、世界の覇権国家としての責務だ。
たとえば、現在、ほとんど機能しなくなっている国連は、「安保理改革」や「二院制改革」など、改革すべき点が山ほどある。
<超党派で議会をあげて中国に対抗する>
・日本では誤解されているが、中国との覇権戦争は、トランプ大統領が始めた勝手な戦争ではない。「中国封じ込め政策」は、共和党と民主党を超えた超党派(バイパーティザン)の戦略であって、アメリカは一枚岩である。
<アメリカばかりか欧州諸国も中国に反発>
・「中国のほうがウイルスに上手く対応していると単純に信じてはいけない」
こんなきつい言葉で、中国の情報公開への疑問を呈したのはフランスのマクロン大統領だ。彼は、感染拡大が始まった当初から、中国には懐疑的だった。
<「脱中国」「中国封じ込め」が進んでいく>
・このように見てくれば、ポストコロナの世界で中国の力が増し、逆にアメリカの力が衰えて、世界は多極化、フラット化していくという見方には無理があるのがわかる。
いくらトランプのアメリカが国際協調を乱すからといって、中国サイドに立つ国は出そうもない。むしろ、アメリカといっしょになって、中国の責任を追及するだろう。そうして、中国離れが進んでいく、そう見るのが、妥当ではないだろうか。
・ポストコロナの世界では、東南アジア圏が中国に代わって「世界の工場」になる可能性が高い。
そうして、中国経済は衰え、中国の「アメリカを超える超大国」になるという「中国の夢」は消えていく。となると、コロナ収束後にアメリカ経済が回復すれば、世界は中国抜きのグローバル化した世界になる。そうして、アメリカによる一極支配が強化されるだろう。
それを推進するのは、次期アメリカ大統領である。
<集団免疫ができるまで経済は回復しない>
・2020年5月の時点で、コロナ禍から脱して経済活動を全面的に再開しているのは、主要国では中国だけである。習近平政権は3月半ば以降、ウイルスを抑え込んだ自国の体制の優秀さを国民向けに強調し、「中国は必ず双勝利できる」と言ってきた。「双勝利」とは二つの勝利のことで、一つがウイルスの撲滅で、もう一つが経済復興である。
・これで、中国経済が再び成長ができるだろうか?
2019年の中国の対外輸出総額は2兆4984億ドル、人民元に換算すると17兆4888億元で、中国のGDPの17.4%を占めている。中国経済は輸出依存が高いと言える。
では、海外との交流ができないまま、輸出をこのレベルまで回復させられるだろうか? 輸出するには輸出先が必要だが、その輸出先が中国と同じように感染を収束させていなければ、中国製品は売れない。
これは、中国ばかりの話ではない。一国内だけで完結する経済を持っている国以外のすべての国にあてはまる。コロナ禍は一国だけでは解決しない。コロナ禍は、世界全体で収束しなければ終わらないのである。
したがって、収束後の世界でボイコットされるのが確実な中国経済は、永遠に回復しない。
これまで経験したことがない長期低迷に入るだろう。
<希望にあふれた世界>
・新型コロナウイルスのパンデミックは、人類に与えられた試練と言える。この試練を乗り越えれば、いままでとは違う世界が訪れ、経済も必ず復活する。
おそらく、ポストコロナの世界は、希望にあふれた世界になるのではないだろうか。人類はさらに飛躍的に発展すると思われる。
ただ、それがいつから始まるのかわわからない。