(2022/5/15)
『地政学リスク』
歴史をつくり相場と経済を撹乱する震源の正体
倉都康行 ダイヤモンド社 2016/4/15
・地政学上の出来事が資本主義システムにどのような影響をもたらし、具体的変化を促したのか――。歴史的かつ巨視的な観点から捉えることは、今日われわれが直面する経済・金融問題を理解するための必要最低限の知識である。
<直撃された資本市場>
・資本市場や市場経済の分野で「地政学」という言葉が使われ始めたのは、21世紀に入ってからのことである。きっかけは、2001年9月11日に米国で起こった同時多発テロ事件であった。
ニューヨークのワールドトレードセンタービルに向けて過激派組織に乗っ取られた飛行機が突っ込んでいく映像を、いまも生々しく記憶している人は多いはずだ。
・以降、この「地理的環境と国際政治の関係」を捉えようとする視座を示す地政学という言葉が、市場用語として毎年のようにメディアのヘッドラインを賑わしている。
・また、1914年にサラエボに響いた一発の銃声がオーストリアの対セルビア宣戦布告を呼び、株価が急落して欧米の株式市場は相次いで休業を余儀なくされた、第一次世界大戦の口火が切られたその日、英国シティでは為替市場も麻痺し、英国蔵相の要職にあったデビッド・ロイド=ジョージ伯爵は「世界の信用取引の組織全体を破壊するような戦争がロンドンで始まろうとしている」と述懐していたという。
・地政学リスクは、バブルのDNAとともに、資本主義の黎明期からそのシステムのなかに組み込まれていた、と言ってよいのかもしれない。
昨今の金融市場は、米国や日欧など中央銀行の一挙手一投足に目を奪われがちで、地政学リスクはどこか遠巻きに見ている風だった。
・たとえば、米国政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる「ユーラシア・グループ」は毎年1月に世界的リスクを抽出して「トップテン」の発表を行っており、2015年を「地政学リスクが蘇る年」と銘打った。ロシアのクリミア併合やウクライナ干渉問題、IS・イラク・シリア問題、サウジアラビアとイランの対立、中台関係の悪化、トルコの内政問題などを挙げて分析していた。実際はといえば、ウクライナに対するロシアの強硬な姿勢やシリア内戦の激化などはあったが、時に株価や為替に影響を与えることはあっても、全般的に地政学リスクが経済・金融市場を撹乱させたことはなかったと言える。
・2015年末のパリ同時多発テロやトルコによるロシア軍機撃墜などの事件に際しても、市場変動は限定的であった。「有事の安全資産買い」はほとんど見られず、金価格は低迷し円高も発生しなかった。むしろ多くの機関投資家は、そうした地政学リスクによって株価が押し下げられる場面を「絶好の投資機会」と捉えることも少なくなかったのである。
・地政学と経済の接点としては、株価や原油のほかに長期金利や為替相場も重要な要素として挙げられる。実体経済にとっては、むしろ長期金利や為替の急変動による影響の方が重要なケースも少なくない。
・地政学が、投資家だけでなく実体経済に携わるビジネスパーソンにもきわめて重要な情報であることは明白である。これから世界の舞台で勝負する人々にとって、旧時代の地政学ではなく21世紀の地政学が重要な武器になることも間違いない。そして、ローカルかグローバルか、といった二分化の意味も次第に薄れていくだろう。
<直撃された資本市場>
<原油価格と金融市場の因縁>
・地政学と現代経済との関わりの深さでいえば、株価と並んで原油価格の問題を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。多くの産油国が集まる中東地域は常に紛争リスクに晒されており、何か事件が起きれば原油価格が高騰して市場が動揺し景気が悪化する、というパターンがこれまで何度も繰り返されてきたからだ。
・現在でも、世界全体で見てエネルギー消費量に占める石油のシェアは約33%(2015)と最大である。再生可能エネルギーなどの登場でその割合は年々低下傾向にあるものの、現代社会にとって極めて重要な役割を果たしていることは言うまでもあるまい。今日でも、原油価格をめぐるニュースは新聞の1面を飾ることが多い。
・物価上昇を抑制するために中央銀行が引き締めに動くと予想すれば、市場では債券利回りが上昇(債券価格は下落)し、株価にも影響が出ることになる。1970年代に起きた2度の石油ショックによる原油価格急上昇は、物価上昇と景気後退を伴う「スタグフレーション」を世界にもたらした。その結果として、金融市場は債券と株の双方の価格が急落するという厳しい事態に見舞われた。
・また原油価格の変動が単に需給関係ではなく、産油国周辺での地政学的な要因によって発生するとすれば、為替市場にも影響が及ぶ。
「有事のドル買い」という言葉は、中東戦争などの地政学リスクの高まりを背景に、準備通貨であるドルに買いが集まったことから生まれた。もっとも昨今では、安全資産としての円が評価されて「有事の円買い」のほうが主流になった感もある。
また、市場では「有事の金買い」という言葉もある。金は有価証券と違って実体のある投資対象であることから、安全資産として見做される傾向が強い。
・金融機関のディーリング・ルームのなかで筆者が「売った、買った」の喧騒に包まれていた時代に、「地政学リスク」という言葉を耳にしたことはなかった。だが内乱や戦争、軍事革命といったニュースキャスターに事欠くことはなく、経済指標の分析とともに世界のどこで何が起きているのか知っておくことは、ディーラーとして必須の要件であった。
なかでも忘れることのできない事件のひとつが、1990年のイラクによるクウェート侵攻である。
筆者は当時、旧東京銀行ロンドン現地法人のデリバティブズ部門で、計算用コンピュータ画面と数秒ごとに変化する相場を刻む複数のスクリーンに囲まれていた。
・この起債のスワップのヘッジとして、筆者は「固定金利受け取り・変動金利支払い」のスワップと日本国債を組み合わせ、変動相場を見ながら国債ポジションをコントロールするつもりでいた。だがこの「地政学リスク」の登場で、シナリオは一変してしまったのだ。
日本の市場はクローズしていたが、ロンドン市場では各通貨の長期金利が急騰し、日本国債の価格も急落していた。市場部門の仕事に就いて以降、米国の引き締め政策がもたらしたドルの金利の乱高下やプラザ合意によるドル急落、あるいは株価大暴落となったブラックマンデーなど、荒れる相場には馴れていたつもりであったが、流石にこれには参った。大損である。
ディーラーの当然の職務ではあるが、金利がXX%まで上がればYY円くらいの損失になる、という計算結果はすぐに頭に浮かぶ。その瞬間に目の前が真っ暗になったことは、還暦を過ぎたいまでも明確に覚えている。
<“油”をめぐる歴史は繰り返される>
・世界の債券市場や株式市場は、1970年代に2度のオイル・ショックという大変な出来事に見舞われた。1973年第一次オイル・ショックの引き金を引いたのは第4次中東戦争であり、第二次オイル・ショックをもたらしたのは1979年のイラン革命であった。それは、地政学リスクと石油、そしてグローバルな資本市場とが直結した最初の出来事と言ってよい。
・当時、筆者が悔やんだのは、なぜこうした中東の危機をうまく察知できなかったのか、ということであった。典型的な後の祭りではあるが、地政学的な事件は突如として起きることが多いように見えても、実際には水面下でマグマが蓄積されているケースがほとんどである。
<石油にまつわる新たな波乱要因>
・当時、イラクがクウェートを占領するという予想外のショックが発生したことで市場が呆然とするなか、ディーラーたちの目は原油価格の上昇に釘付けとなっていた。それまで1バレル18ドル前後で推移していた原油価格はあっという間に40ドルまで急騰し、市場には1970年代のオイル・ショックの悪夢さえ蘇ることになった。
物価上昇を懸念した日本銀行は8月末に公定歩合を引き上げ、債券先物は上場以来最低値に落ち込んで長期金利は急騰した。そして1989年末に3万8915円とピークをつけていた日経平均の下げも加速し、事件前には3万円近辺にあったその水準は10月には2万円近辺にまで急落したのである。
・1991年12月のソビエト社会主義共和国連邦崩壊は、20世紀最大といえる地政学的ニュースであった。
・共産主義を理想に置く社会主義国としてのソ連は、資本主義陣営の中核である米国を幾度となく脅かしてきた存在であった。人工衛星や有人宇宙飛行など宇宙開発競争では米国をリードし、経済体制に関しても共産主義の合理性や優位性を説く西側のエコノミストは少なくなかった。日本の主要な大学の経済学部においても、1970年代まではマルクス経済学が主流だったのである。
だが1980年代以降には西側諸国との経済格差拡大が明らかとなり、ゴルバチョフ総書記の下で自由化や民主化へと舵を切ろうとしたが、ペレストロイカと呼ばれた改革路線も行き詰まる。ソ連は東欧諸国に対する影響力も失うこととなり、民主化を模索するポートランドで自由選挙が実施されて人民共和国が崩壊すると、他国でも次々に民主化運動が起こるようになった。
・なかでも1989年8月のハンガリーで起きた「ピクニック事件」が、東西冷戦の象徴でもあったベルリンの壁を崩壊させる契機となった。
・こうした東欧諸国の民主化運動は、当然ソ連体制にも跳ね返ってくる。改革派に対して保守派が起こしたクーデターは失敗に終わったが、それはゴルバチョフの勝利ではなく、ソ連の崩壊を意味していた。その後、ロシアで政権を担ったのが急進改革派のエリツィンであった。
・だが資本ストックの拡大が行き詰まると、経済成長力は目に見えて低下し始める。重工業への偏重は経済構造を生み出し、労働生産性は上昇せず、国有企業の赤字を政府補填で埋めるために財政赤字は急拡大していく。1980年代にはもはやそれが修正不能の段階にまで達していたのである。ゴルバチョフによる部分的な市場経済導入も失敗に終わった。ソ連崩壊は「共産主義の敗北、そして資本主義の勝利」という文脈で報道されることも少なくなかった。
もちろん、大国としてのソ連が行き詰まったのは経済的側面だけの問題ではない。労働者の国家とは言いながら実質的には共産党エリート集団の専制政治体制であり、社会主義体制とは事実上の全体主義体制だったのである。また、周辺民族を抑圧する露骨なロシア民族主義でもあったことなどがソビエト連邦制度の持続性を困難にしたことは事実であろう。
最終的には、西側諸国がコンピュータや通信、金融などのイノベーションを通じて高い経済成長を遂げたのに対し、技術革新が遅れたソ連の劣後性が経済を停滞させた。それによって国民の強い不満を招いたことが、国家体制を揺さぶったのは明らかである。
・もっとも、新生ロシアは結果的に厳しい景気後退とハイパーインフレに見舞われる。国営企業の民営化プロセスにおいても政権に近い新興財閥が有利な条件で資産譲渡を受けるという不公平な状況が生まれた。そうした不完全で不健全な市場経済への移行は、1998年に発生するロシア危機の布石となるのである。
その金融危機の際にロシア国債は事実上のデフォルト状態となり、同国債を大量に抱え込んでいた大手ヘッジファンドのLTCMが破綻寸前に追い込まれるという非常事態に陥った。同ファンドの危機が次々に波及していくシステミック・リスクを警戒したニューヨーク連銀の要請を受けて大手金融機関がLTCM救済に出動したが、市場は混乱に陥った。為替市場では「キャリー・トレード」と呼ばれた円売り・ドル買いのポジション調整で、ドル円は130円台から一気に110円まで急落したのである。
・後に旧社会主義国が次々とEUに加盟して西側陣営に参加し、ロシアの影響力は急速に後退していくことになる。だが、そこで取り残された問題がウクライナであった。同国は独立したとはいえ、西欧に接近する西部とロシアとの関係を重視する東部が分裂気味に共存した国家となり、それが今日のクリミア・東部紛争を誘う導火線となったのである。
一方で、旧社会主義国を引き入れながら東方へと地理的に拡張したEUも、拡大路線をどこまで維持すべきか、という地政学的問題を抱えることとなった。それはNATOという軍事問題やエネルギー安全保障問題とも密接に絡みながら、トルコの加盟シナリオやギリシャのロシア接近などきわどい政治経済問題にまで発展し、現在に至っている。
<復活するロシアの強硬姿勢>
<答えの出ないウクライナ問題>
・1991年のソ連の崩壊、1998年のロシア危機、2001年の米国同時多発テロ、そして、2008年の世界的金融危機などのイベントを経て、プーチン大統領はテロ対策や経済安定化などのテーマを通じて欧米社会との協調姿勢を打ち出した。それは、ロシアをめぐる地政学の大きな転換点であったかに思われた。
・だが、ウクライナ問題が、その期待感を一気に後退させてしまった。ロシアによるクリミア自治国の併合やウクライナ東部州への軍事援助などに対して欧米諸国は猛反発して対ロ制裁を発動し、G8も事実上運営停止となった。ロシアもウクライナの政変は米国が誘導した違法なクーデターであるとして、強硬姿勢を崩すことはなかった。それは「21世紀の新冷戦」という、新たな地政学リスクを産み落とすことになる。
・この「新冷戦」の下で欧米が発動した制裁により、ロシア企業は国際資本市場から締め出され、外貨資金の調達が困難になった。ロシア政府は、企業の外貨建て債務の借り換えに必要な資金を外貨準備や石油基金から拠出する方針を探ったが、一方で為替市場ではルーブル売りが殺到してロシア中央銀行はルーブル防衛を余儀なくされ、外貨準備は急減する。
2014年12月にルーブルが1ドル80ルーブル台という年初来約60%もの暴落を記録した主因はサウジアラビアの戦略変更に伴う原油価格の急落であったが、欧米の経済制裁によるロシア経済失速への懸念がその下落ペースを加速したことは間違いない。原油と地政学のダブルパンチである。
・ロシアが以前からウクライナに対して強い不信感を抱いていた理由のひとつに、ガス・パイプラインの問題がある。ソ連時代に対欧州向けに構築されたパイプラインは欧州経済にとってのライフラインであるが、その80%はウクライナを通過している。その地理を利用して同国は、無断でのガス抜き取りや料金不払いを続けてきたのである。
・その後も2008年金、2009年と毎年のように両国間で料金不払いやガス供給停止といった衝突が発生した。そして、2014年にウクライナで親ロ派のヤヌコビッチ政権が倒れると、ロシアは累積的な代金未払いを理由にガス供給の全面供給停止を示唆するなど、強硬な態度に出た。ロシアによるクリミア自治国の編入も、時を同じくして起きた事件であった。
プーチン大統領が欧米社会との協調路線を捨てて、自国の利益を主張する方針に転換したのは明らかである。その軌道修正は、2011年に始まったシリア内戦への関与において、一層明確になっていく。
<シリアへの介入>
・シリアは、ウクライナと同様にロシアにとって極めて重大な地政学的な意味を持つ国である。ソ連時代からの友好国であるシリアのタルトゥース港は、旧ソ連圏以外で唯一のロシアの軍事基地となっているからだ。また、シリアはロシアの軍事兵器輸出の重要な輸出先のひとつでもある。
・そこには相変わらず諸国の「シリア介入」への関心が紛れ込んでいる。欧米はアサド政権退陣を大前提とし、ロシアは仮にアサド大統領が退陣したとしても親ロ政権が継続されることを望んでいる。いずれにしても、内政介入という基本路線に変わりはない。ロシアだけでなく欧米諸国も、19世紀末から続く「中東介入方針」からいまだに脱皮できていないのである。
またシリアをめぐる対立構造は、複雑な民族問題でもある。ロシアが支援するアサド政権はイスラム教シーア派の一派であるアラウィー派であり、体制維持に協力しているイラン、ヒズボラもシーア派の勢力だ。一方で、反アサド体制を主張する自由シリア軍、トルコ、サウジアラビアなどはイスラム教スンニ派である。
<トルコの軋轢>
・そうしたなかで2015年11月に起きたのが、トルコによるロシア軍機の撃墜事件であった。トルコ政府は、ロシア機が領空を侵犯し、針路を変更するよう警告したが従わなかったために撃墜した、と発表した。ロシア側はトルコ領空内には入っておらずシリア領空で撃墜されたと激怒し、双方の言い分が全面的に食い違う激しい非難の応酬となった。
・両国が戦争に突入する確率は低そうだが、対IS攻撃で各国の足並みが乱れる可能性は高い。そもそもロシアとトルコの間には、ロシア帝国とオスマン帝国時代から引きずる犬猿の長い歴史がある。クリミア戦争だけが両国の戦いではない。それを考えれば、対IS戦略において協調関係を結ぶのは容易ではないようにも見える。
同時に、ロシアとトルコにはガス・パイプラインという重要な経済テーマもある。
・その意味では、中長期的に見込みが高いのは中国の需要である。中国の経済成長率は低迷しているが、潜在力は欧州よりもはるかに高い。また、欧米市場での資金調達が難しいロシアが中国にファイナンスを打診している可能性も高い。プーチン大統領の優先リストは、いまや欧州ではなく中国なのかもしれない。
<中ロ接近時代>
・そのロシアと中国との関係も、重要な地政学リスクの一要素である。両国が軍事衝突する可能性は極めて低く、むしろ「21世紀の新冷戦構造」のなかで二国間の接近度が注目されることになるだろう。その距離感を定める主要なパラメータは、エネルギーとファイナンス、そして対米関係である。
・ただし、国際政治面では中ロ両国の利害が一致して欧米諸国と一線を画す態度に出るケースは今後も増えるだろう。これまでも、国連安全保障理事会においてはイラン核問題やシリア和平問題などの抗議の場で、両国は共同路線を採ってきた。ロシアのクリミア併合やウクライナ東部での軍事介入に関しても、中国は沈黙を保ってきた。
プーチン大統領と習首席はともに米国との協調姿勢を示しながらも、領土問題など個別の案件では絶対に譲らないという共通点がある。基本的に対米というイデオロギー面での「共闘」は今日でもなお健在であり、それが「21世紀の冷戦構造」という地政学リスクの通奏低音になっていることは明らかである。
・前章では現時点のスナップショットとして世界各地域に横たわる地政学リスクを概観したが、今後の展開に関しては足元の状況の延長線上で演繹するには限界がある。資本市場の見通しに常に「想定外のシナリオ」が降りかかるように、地政学にも思いがけない展開が待ち伏せていることは疑いを入れない。
・それを別の言葉で言い表したのが、ナシーム・ニコラス・タレブが書いた『ブラック・スワン』であろう。
「ブラック・スワン」とは文字通り「黒い白鳥」であり、地球上には存在しないと思われていたが、17世紀末に豪州で発見されたという。その事実からタレブは、一般にはあり得ないと思われる予測不能の現象を「ブラック・スワン」と呼び、それがひとたび起きればシステムに強い衝撃を与え、かつ事後的には当たり前のように記述されるようになることを説いた。
2008年のリーマン・ショックのように、資本市場における「ブラック・スワン」の存在やその影響を正確に予測することは困難であり、地政学の問題となればさらにその難易度は急上昇する。だが、頭の体操を兼ねてその候補リストを作成してみることは、決して無駄な作業ではあるまい。
以下の5つの項目は、筆者が現時点で思いついた点にすぎない。
<1 サウジ王家の崩壊リスク>
・中東の地政学リスクの代表格は、すでに見てきたようにイスラエル、シリア、イラン、エジプトなどをめぐる政治的不安定性とISによる軍事展開である。
これに対して、最大の原油産出国であり治安が維持されているサウジアラビアは、米国のバックアップもあって政治的な安定性が保たれている。
・したがって、サウジ内政に大きな変化が起きれば、まず株式市場において強烈な「リスクオフ」の売りが生じ、その結果として円買い、スイスフラン買い、金買いといった動きが加速する可能性がある。また、原油供給体制の不透明感から原油価格が急騰し、債券価格が急落(金利は急上昇)するといった波乱を通じて実体経済に悪影響を及ぼすことも想定されよう。
<2 プーチン大統領の失脚リスク>
・ソ連と米国が世界を二分する大国であった時代は過ぎ去り、ソ連崩壊を経た21世紀は、米国の一極主義に中国が対抗意識を強める新たな「G2時代」を迎えつつあるように見える。だからロシアは、依然として大国としてのプライドを捨ててはいない。プーチン大統領の巧みな外交政策を通じて、世界に対して一定の影響力を保持しているのは周知のとおりである。
・1998年に破綻したロシア経済の復興、そしてクリミア編入やウクライナ東部への武力支援、およびシリア内戦や対IS攻撃のイニシアティブ
姿勢は、ロシア国民のプーチン礼賛の基本的要因である。一方で、欧米だけでなく国内でもプーチンの経済運営に対する不満が徐々に蓄積されている
その主因は、国内景気の悪化である。
前述したように、ロシアは原油価格下落による景気後退の波に襲われ、企業や国民は疲弊している。
・現時点でそれがプーチン批判に集結しないのは、経済的疲弊は欧米によるロシア制裁によるものだ、との主張が受け入れられているからだ。ウクライナ問題は、そもそも米国が引き起こしたクーデターであるとの理解が同国内では一般的である。シリア内戦も欧米が無理やりアサド政権を崩壊させようとしているから起きたものだ、との見方が定着している。国民の大半にとって、プーチン大統領はそうした非合理的な外圧に対する頼もしい防波堤なのである。
・だが、同大統領も油断できない状況にある。
2015年末に承認された国家安全保障戦略において、ロシアはNATOと米国を「ロシアに対する脅威である」と明示したのである。これは、新冷戦の幕開けを予感させると同時に、国内に「アラブの春」のような反体制運動が拡大することへの強い警戒感を示している。反米姿勢だけで、国民の不満を鎮めることは容易ではないかもしれない。
仮にプーチン大統領が表舞台から去るような事態になれば、強いリーダー不在のロシアへの不安が、資本市場に渦巻く可能性もある。
<3 中国共産党の弱体化リスク>
・国際資本市場では、中国が公表しているGDP成長率の水準を疑問視する声が一般的となっており、実際の成長率は4~5%程度と見られている。だが、その経済力の潜在性への期待が消えたわけではない。
・2015年は、長い間指摘されてきた中国の経済リスクが市場に露呈した年であった。上海株の急落や人民元の下落、そしてその市場の急変動に対する政府対応の拙さは、海外市場における不安を惹起しただけでなく、国民の不信感をも増幅させることになった。GDPで見れば米国に次ぐ世界第2位の座にあるが、1人当たりGDPは先進国の水準に遠く及ばず、このまま頭打ちになる可能性も強い。中国政府は対外的に強気の姿勢を保っているが、その一方で、輸出や投資に依存せざるを得ない国内経済の脆弱性は隠しきれなくなっている。
・メディアや社会運動の弾圧なども、開かれた市場経済への軌道とは逆行している。かくして、過剰供給構造へメスが入らない可能性も高い。だが、こうした停滞構造に不満を抱く国民が増えれば、大国主義を突き進む習主席の地位も安泰ではなくなる。
鍵を握るのは、増加傾向にある中間層だろう。
・仮に中国内政に明確な異変が生じれば、世界の株式市場に厳しい売り圧力がかかることは避けられまい。為替市場では人民元が急落し、ドルが急上昇して他の新興国通貨もつれ安となるだろう。
・また、中国の政治経済的混乱は世界のデフレ・リスクを一層高めることから、グローバルな低成長構造が定着した停滞感や景気後退への警戒感が強まることが想定される。
・EU内で軍事的な衝突が起きることは考えられないが、社会的な不満の鬱積が各国間の刺々しい対立感情を生み始めたり、欧米間の同盟関係の弱体化が進んだりすることも予想される。欧州は新たな地政学リスクに直面し始めている。
<4 ドイツ求心力の後退リスク>
・2007~2008年のリーマン・ショックで米国の経済社会に激震が走った後、欧州にもその波が押し寄せた。アイルランドの金融危機やギリシャの債務危機に続く、ポルトガル、スぺイン、イタリアの財政赤字懸念は、各国の頭文字を取って「PIIGS問題」と呼ばれ、ユーロの存続を脅かすほどの暴風雨となった。なかでも台風の目になったのは、ギリシャである。
・東西ドイツ統一に苦労しながら最終的には経済大国を再建することに成功したドイツには、難民への寛容な態度が中長期的にプラス効果を生むという自負や期待感がある。だが、年間100万人に達するほどの難民の流入ペースは短期的には社会不安や財政不安を連想させやすい。首相陣営のCDU内部からも難民政策反対の声が上がり始めており、2017年に行われる総選挙を前に、選挙対策としての「メルケル降ろし」が画策される可能性もないとは言えない。
<5 日本の地政学リスク>
・これまで見てきたように、世界には至るところに市場経済や金融システムとの関連が深い地政学リスクが散在している。
・たとえば、英国で国際分散投資を行うポートフォリオ・マネージャーの目には、日本はどのような投資対象に映っているのだろうか。
GDPや株式市場の時価総額で世界第3位の日本が、重要な市場であることは言うまでもない。「有事の円買い」と言われるように、リスク回避の際に選好される通貨を持つ国であり、また対外保有資産では他国を寄せ付けない世界最大の債権国でもある。
国内の治安も良く国民は勤勉で、最近では「おもてなし」に代表されるサービス精神も高い評価を受けている。食品から工業製品に至るまでの製品の品質の良さも、昨今の中国人旅行客による「爆買い」があらためて証明している。
日本株式市場の外国人投資家の取引シェアは60%を超え、保有残高シェアでも30%を超える。外交の場では時に「日本人パッシング」などと揶揄されることもあるが、海外資本にとって日本はとても無視できる国ではない。日本経済も海外資本と密接に結びついている。
・海外勢が抱く日本経済への懸念材料と言えば、長引くデフレと巨額の財政赤字が双璧であった。それに加えて、頻発する地震などの自然災害リスクが意識されることもあったが、それよりも深刻な地政学的な観点で捉えられたのが原子力発電所の問題である。2011年3月11日の福島原発事故は、海外勢の日本を見る目に新しい座標軸を与えることになった。
・先進国の場合、公的債務のGDP比よりも歳出に占める利払い額のシェアのほうが問題である。超低金利の日本ではまだ耐久力があるとも言えるが、財政再建への工夫や努力が見られないなかでの債務増加は日本のアキレス腱である。地政学と財政赤字の結節点に関して、われわれ日本人はもっと敏感になる必要があるのではないだろうか。
・また、陸海への支配域拡大の野望を抱く中国や、極東への関心を強めるロシアなど、日本の周辺国との外交的な難題は山積みである。それと並行して憲法改正による武力展開への道を探ろうとする日本は、地政学リスクの観点からすれば、海外のポートフォリオ・マネージャーにとっても「リスク・フリー」と言える地域ではない。
・日本は海外諸国に胚胎する地政学リスクに疎い、と「はしがき」に書いた。しかし、日本人が本当に鈍感なのは、日本国内にみずから抱えている地政学リスクに対してかもしれない。
<地政学リスク>
・地政学という言葉は現代的な用語であるが、そこに潜むリスクは古代から人間社会の形成に大きな影響を及ぼしてきた。その構造的な本質は、今日も変わっていない。
そして、各国・各地域の経済体制や金融システム、資本市場において、地政学リスクは通奏低音のように現代にも流れ続けている。
国際情勢を正確に、かつ迅速に把握することは、容易ではない。しかし、その綿密な作業を怠れば21世紀の資本主義社会における厳しい競争から落ちこぼれてしまうことは確実である。
さらに、過激派により攻撃リスクも日本に無縁とは言えなくなってきた。
・そして、地政学リスクの主因となる憎悪の背景に貧困と差別があることは、本書で何度も繰り返してきた。その責任の一端を資本システムが負っていることは否定できない。そこに付着する排除の論理を共産主義で取り除くことができないこともわれわれは学んできた。
現代社会では投資や経営の視点から地政学リスクを考えることが多いが、そのリスクを生んだのが、先進国が依拠する資本主義のシステムであることを忘れがちである。そうした欠点への問いかけなしに、報復攻撃のような対症療法だけに注視することは、今日の社会が不健全である証左に他ならない。
・もっとも、過去の地政学リスクによる相場下落が絶好の買い場であったという安易な経験則は、どこが底値であったかを事前に知る由もない、という事実を無視している。どんな地政学上の問題でも、先行きの正確な予測は容易ではない。不透明さをできるだけ排除しつつ視界を少しでも晴らしていくことが、地政学を学ぶ意味であろう。
・環境という新たな地政学リスクの存在が、旧来の思考経路の修正を促す重大な要素になることもあり得る。そして、そのリスクゆえに投資や経営からの撤退を決断せざるを得ない局面があるかもしれない。
いずれにしても、局所的な理解と対極的な把握の双方が求められるのが、現代の市場経済における地政学なのである。
(2021/12/18)
『新 地政学』
世界史と時事ニュースが同時にわかる
祝田秀全 長谷川敦 朝日新聞出版 2021/8/20
<対立続くヨーロッパとロシア>
<鳥かごから海へと羽ばたき世界史の主人公となる>
<文化を育むうえで最適な環境>
<ロシア問題とドイツ問題>
・19世紀後半以降、ヨーロッパではロシアとドイツというランドパワーが台頭し、シーパワー一辺倒ではなくなった。マッキンダーはその理由に、鉄道技術の進歩によって、ランドパワーの郵送力が格段に向上したことを挙げている。以後ヨーロッパでは、ロシアやドイツの膨張をいかに抑えるかが課題となっている。
現在のロシアは、ヨーロッパとアジアにまたがる広大な領土を有しているが、15世紀時点ではモスクワ周辺に領土を持つ小さな内陸国に過ぎなかった。周辺には東ヨーロッパ平原が広がっており、自然の要塞となるものがなかったため、常に敵の侵入に怯えなくてはならなかった。そこでロシアは「攻撃は最大の防禦」とばかりに、領土を拡大することで強国になる道を選択した。
<ロシアとヨーロッパの対立の歴史>
・ロシア領土は西欧諸国からの侵攻に脅かされ続けてきた。冷戦期には旧ソ連の衛星国となった東ヨーロッパの国々が緩衝地帯となっていた。
・ロシアの膨張主義は、地政学的な宿命といってもいいだろう。一方ドイツは19世紀末から、領土拡張の野心を露わにし始める。第一次と第ニ次世界大戦が、ドイツの振る舞いが原因で起きた側面が大きかった。
この「ロシア問題」と「ドイツ問題」は、今でもヨーロッパの大きなテーマだ。現在のヨーロッパの安全保障上の一番の課題は、EUとロシアの対立が深刻になっていることである。
<ヨーロッパ統合を目指して東へと拡大を続けるEU>
<EUの中にドイツを取り込む>
・とりわけ軍事同盟のNATOに関しては、ロシアを刺激しないためにも、加盟国はあくまでも旧西側陣営のみに留め、東欧諸国はロシアとの緩衝地帯にするという選択肢もあるはずだった。だが東欧諸国が権力の空白地帯になれば、そこにロシアが入り込んでくる可能性があったため、拡大が選らばれたのだった。
しかしこの選択は、当然西欧諸国とロシアとの間の緊張関係を高めることにつながった。
<ロシアがEUの東方拡大に神経を尖らせる理由>
<独立していった共和国>
・だが1991年にソ連が解体すると、ソ連の継承国は、ロシアに、共和国はそれぞれ独立し、CISを形成した。
<緩衝地帯を失う恐怖>
・敵国から見たときのロシアの地理的特徴は、「入り込んだら大変だが、入り込みやすい地形」であることだ。ロシアは、自然環境が厳しく広大なハートランドを有しているため、深く入り込むほど兵站線が長く延び、兵士は疲弊してしまう。
・だからこそ東西冷戦期のソ連は、東欧諸国をソ連寄りの緩衝地帯にすることで、国土を侵攻されるリスクを下げようとしたのだ。こうした地理的特徴と歴史を見れば、ロシアがEUとNATOの東方拡大に神経を尖らせるのは必然だといえる。
<国際ルールを破ってでもロシアがクリミアを死守する理由>
<クリミアの併合を宣言>
・ところがソ連の解体とともに、ウクライナは独立を遂げた。ソ連の継承国であるロシアは、セヴァストーポリの海軍基地だけは失いたくなかったため、ウクライナに借地料を払って、港湾を使用してきた。
冷戦後のロシアとウクライナの関係に、決定的な変化が生じたのは2014年のことである。ウクライナでEUやNATOへの加盟を主張する親西欧派が誕生。すると親ロシア派が多いクリミアの住民が、住民投票を経て、ウクライナからの独立とロシアへの編入を決定。これを受けてロシアもクリミアの併合を宣言した。ウクライナ政府はこの事態を認めなかったため、ウクライナは内戦状態に陥ったのである。
クリミアに親ロシア派が多いのは、ロシア人や、ロシア語を母語とするウクライナ人が多く住んでいるからだ。また宗教的にも、ウクライナの西部はカトリック教徒が多いのに対して、クリミアも含めた東部はロシアと同じ正教徒が多く住んでいる。
・ロシアの強引なクリミアの併合に対して、西欧諸国はその姿勢を激しく非難。一時はNATOとロシアの間で軍事衝突の危機も高まった。またロシアに対して経済制裁を科した。しかし現在もロシアはクリミアの実効支配を続けている。
ロシアが制裁による経済的ダメージを受けてでも、クリミアに固執するのは、とりわけ黒海に面する不凍港、セヴァストーポリを死守したいからである。
黒海の南岸に位置するトルコもNATOに加盟しているため、セヴァストーポリも失えば、黒海は完全にNATOの内海になってしまう。そういう意味でのロシアのクリミアでの振る舞いは、国際ルールには明らかに反しているが、きわめて地政学的な判断だったといえる。
<東西で揺れるウクライナ情勢>
・(ハルキウ) ロシア編入を求め、ハリコフ人民共和国が独立するも、ウクライナ政府軍に鎮圧。
・(ドネツク) ドンバス地方と呼ばれる二州は、ロシア編入を求め独立。ウクライナ政府と停戦合意を結ぶも、紛争が絶えない。
<新 地政学>
・いままで「地政学」と名のついた本はたくさんありましたが、ほとんどが国際的な時事ニュースの解説書で、地政学とは言いがたいものです。地政学とは、各国それぞれの歴史的な政治経験をたたき台にして、国益に沿って行われる対外研究から発展したものです。その研究事情と行動は世界史とつながっています。「今日の出来事=時事ニュース」は、世界史の延長線上にあるからです。いま起こっていることは、世界史という巨大な水脈から湧き出たものなのです。
<「気候」が農業や人口、国力に及ぼす影響とは ⁉>
<地政学的に有利な四つの気候>
・(POINT);気候によって耕作に適している地域と適さない地域があり、これが人口の維持や国力にも大きな影響を及ぼしている。
・気候学者のケッペンは、降水量と気温をもとに、世界の気候を13に区分した。このうち農業に適しているのは、地中海性気候、温暖冬季少雨気候、温暖湿潤気候、西岸海洋性気候の四つである。
マッキンダーは「ハートランドを制する者が世界を制する」と述べたが、スパイクマンは気候の視点からこれに異を唱えた。ハートランドの大部分は冷帯湿潤気候に属しており、耕作に適していないからだ。
<気候変動が世界史を動かす>
・人類は世界中のあらゆるところで生活を営んでいるが、強力な国家へと発展した国々の多くは、農作物の安定的な収穫が可能な4区分の気候に属している。しかし気候の特徴は、数百年単位の比較的短期間で変動することだ。気候変動は、各国の地政学的条件や、国際情勢に大きな影響を及ぼしてきた。
・3世紀頃から始まった中央アジアの乾燥化は、シルクロードを衰退させただけではなかった。モンゴル高原に住んでいたフン族が、豊かな土地を求めてヨーロッパ東部に移動。するとその圧迫を受けて、ゲルマン人の大移動も始まった。
ゲルマン人はローマ帝国にも侵入し、帝国の衰退を招くことになる。そして西ローマ帝国は476年に滅亡した。これにより世界史は古代から中世へと転換したのだ。現在進行している地球温暖化は、世界の地政学的状況にどのような変化をもたらすのだろうか。
<世界は昔も今も「宗教」を巡って対立している>
<世界の歴史は宗教戦争の歴史>
・(POINT);世界は今も宗教を原因とする対立が数多く起きており、国際情勢を分析する際には「宗教」の視点が絶対に欠かせない。
・世界の戦争の歴史は、宗教戦争の歴史だったと言っても過言ではない。十字軍の遠征のようにキリスト教とイスラーム教が激突した戦いもあれば、16世紀のユグノー戦争のように、キリスト教内のカトリックとプロテスタント間の戦争もある。
<グローバル化と宗教の問題>
・また近年起きた事件では、イスラーム過激派による欧米諸国でのテロを思い浮かべる人も多いことだろう。実行犯の多くは移民の二世、三世であり、EU各国の移民政策の行き詰まりを象徴する事件となった。
グローバル化とは、異なる宗教的価値観を持つ人たちが、同じ空間の中で暮らすようになることを意味する。宗教間の対立をどう回避し、融和を図るかが、これまで以上に重要なテーマになっているといえる。
<「バランス・オブ・パワー」で国際秩序は成り立っている>
・国際社会の中には、現状の国際秩序に対して、その維持を望む国もあれば、拡張主義的な政策を取り、現状変更を企てようとする国もある。このように外交政策における思惑は、国ごとに大きく異なるため、国際社会は常に不安定な状態に置かれがちだ。そんな中で編み出されたのが、バランス・オブ・パワー(勢力均衡)の考え方。これは文字通り、対立する勢力同士の力を均衡させて国際社会の平和を維持しようというもので、17世紀のウェストファリア体制によって広がった。
・またヨーロッパでは冷戦終結後、EUやNATOの東方拡大が進んだことで、冷戦期の二極型の勢力均衡が崩れてしまった。これにロシアは反発を隠しておらず、ヨーロッパの不安定要因の一つとなっている。ヨーロッパの勢力均衡をどう確立していくかも大きな課題だ。
<ナチ党にも影響を与えたドイツ系地政学の系譜>
・ドイツ系地政学の創始者は、地理学者であり生物学者でもあったラッツェルである。ラッツェルは19世紀末に発表した論文の中で、国家は生物と同じ有機的な存在であるとする「国家有機体説」を唱えた。そして国家が生き残るためには、実力を行使してでも生存権を確保する必要があると考えた。彼の思想は、当時の帝国時代の風潮に合致していた。
スウェーデンの地理学者だったチェーレンは、このラッツェルの考え方を継承し、「国家が存続するためには、必要な物資や資源を域内ですべて自給自足できる状態を作らなければいけない」とする説を唱えた。
・ハウスホーファーは1913年に発表した著書の中で、植民地を「持たざる国」が「持てる国」に対抗して生存権を確保するために、ドイツ、オーストリア、ロシア、日本が同盟を結び、世界を分割支配するという大陸ブロック論を提唱した。
ハウスホーファーの大陸ブロック論は、初期のナチ党政権の拡張政策に理論的根拠を与えることになった。ヒトラーの著書『わが闘争』の中にも、生存権の確保について言及した章がある。また日本の大東亜共栄圏構想にも影響を与えたとされている。
・ただし実際には、ナチ党は「ロシアと連携すべきだ」というハウスホーファーの主張を無視し、独ソ戦に踏み切った。
ともあれ戦後のドイツや日本では、「戦争に導いた学問」として地政学の研究が回避されるようになった。世界的にも米英の地政学が主流となり、ドイツ地政学は過去の遺物となっていった。
<四方を海に囲まれたシーパワーの国・日本>
<日本が独立を維持できた理由>
・(POINT);日本は「海」に守られて独立を維持してきたシーパワーの国。ただしかつてはランドパワーを志向したこともあった。
・日本の地理的特徴は、いうまでもなく島国であることだ。四周を「海」という天然の要塞に囲まれているため、航行手段が帆船しかなかった時代、他国が日本を攻めるためには、大量の軍船や兵糧を用意したうえで、長い航海を行う必要があった。
・植民地獲得競争において、ヨーロッパ諸国はアジアではまずインドや東南アジアを植民地化し、次に中国の清王朝に目を向けた。清よりもさらに東にある日本は後回しにされた、その間に日本は情報を収集し、国を固め、列強の脅威に備えることができた。
<社会主義勢力の防波堤となる>
・迫りくるロシアとの全面対決に備えて、日本はイギリスと日英同盟を締結することを選択する。イギリスは日本と同じシーパワーの国であり、やはりロシアの勢力拡大を警戒していた。
・ところが日露戦争後の日本は、迷走を始める。本来はシーパワーであるにもかかわらず、大陸への進出を推し進めることで、ランドパワーの強国にもなることを志向したからだ、地政学では「シーパワーとランドパワーは両立できない」ことがセオリーとされている。日本は第2次世界大戦において、大陸ではランドパワーの中国と戦い、太平洋上ではシーパワーの米英と戦うという無謀な挑戦を行い、敗北に追い込まれた。
戦後の日本は、東西冷戦構造の中で西側陣営に組み込まれた。
・そんな中でアメリカが日本に求めたのは、社会主義勢力の拡大を防ぐ防波堤であり、資本主義の成功例になることだった。
・日本は東アジアの地政学的状況を的確に分析しながら、自らの進むべき道を選択する必要に迫られている。
<韓国との関係悪化の要因と今後の日韓関係の行方>
<戦前からの禍根が今も残る>
・(POINT);日本は緩衝地帯だった朝鮮半島を影響下に収めるために、朝鮮を支配。この過去が、現在も日韓関係に影を落としている。
・いわば韓国としては、反日感情は捨てがたいものではあるが、一方で同じアメリカと同盟を結ぶ国として日本と連携しなくてはいけないというアンビバレントな状態に置かれることになったわけだ。
<米中の動きにも注視が必要>
・日韓関係は、単に二国間の関係ではなく、アメリカと中国の動きも意識しつつ見ていく必要がある。
<なぜ日米は同盟関係を結び 米軍は日本に駐留するのか>
<日本は東アジア防衛の拠点>
・(POINT);アメリカにとって日本は、ロシアや中国の外洋進出を封じるうえで重要な位置にあり、同盟を結ぶ意義は大きい。
・そこでアメリカは、かつては敵国であった日本との同盟を選択した。日本は中ソと距離的に近く、ここに米軍基地を置けば有事の際にはすぐに現地に到着できる。
中ソが外洋に出るときに通過しなくてはいけない宗谷海峡や津軽海峡、対馬海峡、南西諸島等を有しており、米軍はここを押さえれば、中ソの動きを封じ込めることができる。
・また日本は、自国の防衛の多くを在日米軍に担ってもらうことで防衛費を削減。そのぶんを経済政策に回すことで、高度経済成長を実現した。
<米軍が日本の石油を守る>
・アメリカは世界各地に自国の軍隊を駐留させているが、その中でも最も兵士の駐留人数が多いのが日本だ。在日米軍は、東アジアだけでなく、太平洋からインド洋の一帯を監視する役割を担っているからだ。
・アメリカは日本を失えば、この地域での軍事的影響力が低下し、日本はアメリカを失えば、国防も経済も危機に瀕する。それが同盟を強固なものにしている。
<沖縄が米軍の重要な軍事拠点になっている理由>
<戦後もアメリカの施政権下に>
・(POINT);東アジアの各地域に最短距離で向かうことができる沖縄は、軍事上極めて好立地であり、基地が集中する要因になっている。
・戦後の沖縄は、米軍から「太平洋の要石」と呼ばれてきた。米軍は沖縄本島の全面積の約14%を自軍の基地にしているが、これも沖縄を地政学的な「要」と考えているからだ。
・戦後になって冷戦が始まると、今度は沖縄は中国やソ連などの社会主義勢力に対抗するための最前線基地になった。
<東アジアをカバーできる場所>
・次に大陸間弾道弾ミサイルの射程範囲である半径1万㎞の園を描いてみると、中南米やアフリカを除く世界の主要地域をほぼカバーしていることが分かる。実は世界中のこれだけの範囲をカバーできる場所はけっして多くない。
<中国の封じ込めの拠点>
・さらに沖縄は対中国の前線基地としても重要な地理的位置に存在している。中国の艦隊が東シナ海から太平洋に抜けるときには、琉球諸島の間を通るルートか、台湾海峡を通るルートが現実的だ。そのため沖縄に基地を配置しておけば、このうち琉球諸島の間を通るルートを封じ込めることが可能になるのだ。
また台湾で有事があった際にも、沖縄であれば、日本本土からよりはずっと早く駆けつけることができる。青島にある中国の北海艦隊や、寧波にある東海艦隊にもにらみを利かすことができる。軍事上極めて好立地であるといえるのだ。
これが沖縄の人たちが「基地なき島」を悲願としているにもかかわらず、その願いがなかなか実現できない大きな理由となっている。
<なぜ北方領土は解決が困難なのか>
<噛み合わない日ロの主張>
・(POINT);ロシアにとって北方四島を失うことは、地政学上のダメージが大きいことが、交渉が膠着している大きな要因となっている。
・北方領土とは、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の四島のこと。ロシア(当時ソ連)は、日本が第2次世界大戦においてポツダム宣言を受諾したあとにこの北方四島を占領し、今も実効支配を続けている。
<米軍の進出を警戒するロシア>
・日本はロシアとこれまでも何度も北方四島の返還交渉を行ってきたが、いまだに実現していない。実はロシアは2000年代以降、中国やノルウェーなどとの間で、次々と領土問題を解決している。そんな中で北方四島の交渉が難航しているのは、地政学的な理由がある。
冷戦終結時、ソ連を構成していたバルト3国が独立したことで、ロシアはバルト海に面する港の多くを失った。これに加えてもし国後島や択捉島を日本に渡せば、冬でも海が凍結せず、オホーツク海から太平洋へと抜け出せる国後水道を失うことになり、ダメージは大きい。
・逆にロシアは択捉島に地対空ミサイル、択捉島と国後島に艦艇攻撃用ミサイルを実戦配備するなど、北方領土の軍事基地化を進めている。
2020年には、さらにこの問題の解決が遠のく出来事がロシアで起きた。外国への領土割譲の禁止が盛り込まれた憲法改正案が、全国投票によって承認されたのだ。ただしこの禁止条項には、「隣国との国境画定作業は除く」という例外規定が設けられたため、交渉の道が完全に閉ざされたわけではない。とはいえ現時点では、状況の打開はかなり厳しいと言わざるを得ないだろう。
<「インド太平洋」構想で日本が目指していることとは>
<インド太平洋の自由を守る>
・(POINT);日本は「自由で開かれたインド太平洋」構想で、この地域の民主主義の維持や、航行の自由などの構想を打ち出している。
・2016年、当時の安倍晋三首相は、「自由で開かれたインド太平洋」という構想を打ち出す。これはインド洋・太平洋地域において、「民主主義や人権といった普遍的価値を基盤とする地域秩序の維持強化」「航行の自由の確保」「自由貿易をベースとしつつ、経済援助や連携も行いながら、地域全体の経済的繁栄を実現」等について、関係国が協力して取り組んでいこうというものだ。
<日米豪印の4ヵ国が主軸>
・「開かれたインド太平洋」の中心を担うのは、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヵ国である。
この4ヵ国による対話の枠組みのことをQuad(日米豪印戦略対話)と呼び、Quadも2006年に当時の安倍首相が提唱したことで始まった。
<東アジアの地形が育んだランドパワー大国・中国>
<共通点が多い東アジアの国々>
・(POINT);山脈、砂漠、海によって閉ざされた空間であることが、東アジア独自の文化を育むうえでの母体となった。
・ユーラシア大陸の東端にある東アジアの国々は、漢字文化圏に属していることや、社会や人々の価値観が儒教の影響を色濃く受けていることなど、共通点も多い。
<大陸の意識が強い中国>
・東アジアのうち、面積の約8割、人口の約9割を占めているのが中国である。中国もまた、東アジアの地理的環境が生み出した国家であるといえる。
中国は、黄河文明が古代四大文明の一つとされているように、古くより文明が栄えてきた。
・この北方からの異民族の侵入の脅威に絶えず脅かされてきたことが、中国の歴代の為政者の意識を自然と陸へと向かわせた。中国は東シナ海と南シナ海という豊かな海を持ちながらも、シーパワーではなく、ランドパワーとしての勢力の拡充に力を注がざるを得なかったのである。
・現在の中国は「一帯一路」を掲げた積極的な海洋進出を行っている。この背景には、冷戦の終結とともにソ連が崩壊し、大陸方面の脅威が減じたことが大きい。現在ロシアとはひとまず良好な関係を保っている。
・同じランドパワー勢力でも、ロシアが不凍港を求めて苦難の歴史を歩んできたのに対して、政治的環境さえ整えば、すぐに海へと出られることも、中国の地理的な強みである。
・朝鮮半島は、地政学的にはランドパワー勢力とシーパワー勢力がぶつかり合うリムランドに位置する。
とりわけ朝鮮半島は、ランドパワーの中国の圧力を受け続けてきた。中国と朝鮮半島の間を流れる鴨緑江と豆満江は、渡るのが容易で、ほとんど防御の機能を担うことができなかった。近代に至るまで、朝鮮が中国の柵封体制に組み込まれたのは、地政学的な宿命とも言えた。
<なぜ中国は是が非でも台湾を手に入れたいのか>
<台湾は「国」ではなく「地域」>
・(POINT);中国は第一列島線の中を「内海」にしたいと考えているが、列島線の内側に位置する台湾が、その野望の障壁となっている。
・近年、海洋進出を図る中国は、太平洋西部に第一列島線と第二列島線という二つの防衛線を設定している。
・ところがこの第一列島線の内側で、中国の内海化を阻む位置に存在しているのが台湾だ。
そもそも台湾は、「国」ではなく「地域」であるとされている。
・一方国際社会も、1971年に中国が国連に加盟し、入れ替わるように台湾が国連を脱退したときから、中華人民共和国を中国の代表であると認め、台湾は「地域」であるとみなすようになったのだ。
ちなみに台湾の人たち自身は、独立派と親中派に分かれるが、近年は「自分は中国人ではなく台湾人だ」と考える人が増えているとされる。
<台湾をめぐる米中の攻防>
・中国は第一列島線を内海にするためにも、是が非でも台湾を中国の体制に組み込み、文字通り「中国を一つ」にしたいと考えている。近年は、台湾と国交がある国に経済援助をちらつかせることで台湾と断交させ、台湾を国際的に孤立した状態に追い込もうとしてきた。また台湾周辺で軍事行動も活発化させている。
<最大の貿易相手国だが……>
・(POINT);中国と北朝鮮は一枚板ではなく、時には反目し合ったこともあった。だが様々な思惑から、友好関係を保っている。
・ところが冷戦の終結とともに、1990年にソ連が敵国であるはずの韓国との国交を正常化。その2年後には中国も韓国と国交を結んだ。北朝鮮から見れば、北の中国、ロシアと南の韓国から挟み撃ちにされた状態になった。そこで北朝鮮が自国の生存を図るために採用したのが、核兵器の開発だった。
・一方中国にとって北朝鮮は、冷戦期には自由資本主義勢力の拡大から中国を守る防波堤の役割を担ってきた。だが1990年代に韓国と国交が結ばれると、その重要性は低下した。
<大国に挟まれた韓国の難しい立場>
<「クジラに挟まれたエビ」>
・(POINT);冷戦終結後の韓国は、中国とアメリカの双方に目配りした外交政策を展開せざるを得ない地政学的状況に置かれている。
・韓国は地政学的には、「クジラに挟まれたエビ」によく喩えられる。何しろ周辺を中国、ロシア、日本というクジラのような強国に囲まれており、歴史的にもこの3国に領土を脅かされ続けてきたからだ。
・つまりアメリカというもう一つの巨大なクジラにも挟まれている。
そのため韓国は、クジラに飲み込まれてしまわないように、それぞれの国とどのような距離感でつきあっていくか、苦慮せざるを得ない地理的環境にある。
<中国を敵に回したとされるときの脅威>
・現在、韓国の最大の貿易相手国は中国である。政治的にも首脳会談が頻繁に行われている。
・ただし韓国は依然として西側陣営の一員でもあり、アメリカとの関係にも配慮する必要がある。2016年には、中国との関係悪化を覚悟したうえで、アメリカの要請に従いTHAADを国内に配備したこともあった。
韓国は米中双方に目配りした「二股外交」とも揶揄される外交を、今後も続けざるを得ないだろう。
<ランドパワー大国の中ロは接近と反目を繰り返してきた>
<核戦争の危機に陥った国境紛争>
・(POINT);陸地で長い国境を接する中ロは、長年国境問題で対立してきた。だが今は「資源」で両者の思惑が一致。親密な関係にある。
・ユーラシア大陸のランドパワー大国である中国とロシア。その国境線は、約4300㎞にも及ぶ。
ロシアの南に位置する国々は、その多くが18世紀から50世紀初頭にかけてロシアの南下政策の影響を被ったが、中国も例外ではなかった。陸地で長い国境を接する中ロは、地政学的には敵対しやすい関係にある。
・その後ロシアはソ連となり、中国では共産党政権が成立すると、中ソは蜜月関係に入ったが、それも長くは続かなかった。1950年代以降、ソ連が中国の指導者だった毛沢東の大躍進政策や人民公社運動を批判したことなどから溝が深まり、協定が破棄されていった。1969年、国境線が未画定だったダマンスキー島をめぐって、ついに軍事衝突が発生。その後も対立は続き、一時は核戦争の危機すら危ぶまれるほどだった。再び和解へと向かうのは、冷戦の終結の間際まで待たなくてはいけなかった。
<「資源」が中ロを近づける>
・現在の中ロは親密な関係にある。懸案事項だった国境問題も、2004年にすべての国境が画定された。
両者を結ぶキーワードは「資源」である。ロシアは世界有数の石油と天然ガスの産出国であり、中国は世界最大のエネルギー消費国である。ウクライナ問題によりEUから経済制裁を受けている大型顧客はありがたい。
<中国とインドは本当に犬猿の仲なのか>
<チベット問題から関係が悪化>
・(POINT);インドは国境問題で中国と対立しながらも、上海協力機構では中国と協力するなど、したたかな外交戦略を展開している。
・しかし1950年、中印関係がにわかに緊迫化する事件が起きた。独自の政府を有していたチベットを中国が併合。国家元首ダライ=ラマ14世がインドに亡命したのだ。これによりチベットという両国の緩衝地帯がなくなり、中国の勢力がヒマラヤ山脈にまで及ぶようになった。この中国とインドの対立は、1962年には国境紛争にまで発展した。
<インド洋を脅かす中国>
・2000年代以降、中国が海洋進出を本格化させると、両国は海でも対立を深めるようになる。
・これに対しインドは、アメリカ、日本、オーストラリアとQuad(日米豪印戦略対話)を形成することで、インド洋での中国の膨張を牽制しようとしている。ただし対中包囲網色が過度に強いものになることは望んでいない。
なぜならインドは、中国やロシアなどとの間では上海協力機構を形成しているからだ。
<多数のウイグル族を強制収容>
・(POINT);地政学上、新疆ウイグル自治区を失いたくない中国は、ウイグル族を弾圧することで、反乱の芽を摘み取ろうとしている。
・今、国際社会では、中国による新疆ウイグル自治区で暮らすイスラーム教徒の少数民族ウイグル族への弾圧を問題視する声が高まっている。
中国政府は近年、職業技能教育訓練センターを設置。ここに100万人単位のウイグル族を強制収容し、共産党の意に沿った人間にするために、信仰を捨てさせるなどの思想教育を実施。その過程では拷問も行われているとされる。
ただし中国は、国連の調査団の受け入れを阻んでいるため、施設の全容は明らかになっていない。
<新疆は地理的には中央アジア>
・新疆が中国の版図に組み込まれたのは、清朝の時代のことだ。しかし中国とは文化も言語も民族も異なるため、ウイグル族の独立への志向は強く、実際には1933年から34年、44年から50年には、東トルキスタン共和国が樹立されたこともあった。だが中国軍の侵攻によって独立の夢は打ち砕かれた。
・また新疆には、豊富な石油資源が埋蔵されている。さらにはカザフスタンなどの油田から中国沿岸地域までのパイプラインが新疆を通っている。新疆は「一帯一路」構想のルートに含まれており、政府はユーラシア経済の中継地の役割を新疆に担わせようとしている。中国は新疆を失うわけにはいかないのだ。
<なぜ不法移民は自国を捨ててアメリカを目指すのか>
<トランプの不法移民対策>
・(POINT);中米北部三角地帯と呼ばれる地域からのアメリカへの不法移民が絶えない理由を知るには、この地域の歴史を見る必要がある。
・不法滞在者としてアメリカで拘束された人をメキシコに送り返すことをメキシコ政府に認めさせるなど、徹底的な移民の締め出しを図った。
その背景には、トランプを支持する白人保守層の間で、「移民のせいで、自分たちの仕事や生活が脅かされている」という不満や不安が留まっていることが挙げられる。
<移民増加の理由はアメリカ ⁉>
・国境を不法に超えてアメリカに入国してくるのは、かつてはメキシコ人が多かったが、近年は中米北部三角地帯と呼ばれるグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの人たちが急増している。
・三角地帯は、地形的には南米と北米を結ぶつなぎ目にあたる。そのため現在この地帯は、コロンビアなどの南米で生産された麻薬を、消費地のアメリカに輸送する際の中継ルートに使われている。現地では国際犯罪組織が活動し、若者たちを強引に組織に入れ、拒否すると殺されることもある。またマラスと呼ばれるギャングも、住民から金を巻き上げ、若者や子どもには組織に入るように脅迫する。そのため命の危険を感じた人々たちが、遠くアメリカにまで逃れようとするのだ。
つまり不法移民の増加を招いた責任は、アメリカにもあるといえる。
<サイバーパワーは地政学の理論を無効にするか>
・サイバー空間(サイバーパワー)は国家や軍にとって、今世紀に入ってから陸(ランドパワー)、海(シーパワー)、空(エアパワー)、宇宙(スぺースパワー)に続く第5の作戦領域になっている。
・だがむしろサイバーパワーは、地政学的な思考に基づいて活用したときに、最大限の効果を発揮すると考えるべきだろう。サイバー攻撃が行われる際には、攻め手はどの国・地域のどんな施設を攻撃すれば地政学的に有効か、逆に守り手はどの地域のどんな施設が、地政学的に脆弱かを分析したうえで、戦略を練る必要があるからだ。
またサイバー攻撃だけで戦争に勝ち、相手国を統治することは不可能で、ランドパワーやシーパワー、エアパワーとの連携が不可欠になる。サイバーパワーがどんなに進化しても、地政学が失効することはないと考えられる。
<なぜイギリスはEUから離脱したのか>
<国民投票で離脱派が勝利>
・(POINT);EUからの離脱を決めたイギリスは、そもそもこれまでもヨーロッパから距離を置いた外交政策を取り続けてきた。
・その後イギリスは、離脱協定案に関する国内での調整やEUとの交渉を経て、2020年1月、ついに正式にEUから離脱した。
国民投票で離脱に賛成票を投じたのは、中高年やブルーカラーが中心だった。彼らは東欧からの移民が自分たちの仕事を奪っていると感じており、その原因は域内での自由な人の流れを認めているEUにあると考え、離脱に賛成したのだった。
<ユーロも採用しなかった>
・そのためEUに関しても、加盟時から距離を置いていた。EUの単一通貨であるユーロを用いずにポンドを使い続けたし、出入国検査なしで国境を超えることができるシェンゲン協定にも加入していなかった。
・こうして見ていくと、イギリスのEUからの離脱は、決して不可能なことではないといえるだろう。
<経済格差の深刻化により暗雲が立ちこめるEUの未来>
<通貨ユーロがもたらした明暗>
・(POINT);「ヨーロッパを一つにする」という理念のもとに誕生したEUは、西欧と南欧、東欧との経済格差が問題になっている。
・この経済格差が、「ヨーロッパを一つにする」という理念のもとに生まれたEUの行く末を危ういものにしている。
EUでは統一通貨のユーロが使われており、当然金利も為替レートも同一だ。また域内は無関税である。
これは製造業を中心に高い国際競争力を持つドイツに有利に働いた。ドイツの経済力から見れば低い為替レートで、しかも無税でユーロ圏内に製品を輸出することで、莫大な利益を手にできたからである。
<ポピュリズム政党の台頭>
・ただしポピュリズム政党は、東欧や南欧だけでなく、EU内では勝ち組であるはずの西欧でも、無視できない存在になっている。これは地域を問わず、特に労働者層の間で、「EUに加盟してから、グローバル化によって経済格差が進み、また移民が増えたことで、かえって自分たちの生活は悪くなった」と感じる人が増えているためだ。
もし今後イギリスに続いてEUから離脱する国が現れれば、EUは存続の危機に瀕することになる。
<住む場所を追われて難民に>
・(POINT);パレスチナ人はイスラエルの管理の下に十分な自治を認められず、狭い地域に押し込められて暮らしている。
・中東の混乱の一要因であるパレスチナ問題が起きたのは、第2次世界大戦後すぐのことである。
・そのためにますます多くのパレスチナ難民が生まれ、難民でない人たちも、三重県程度の面積のヨルダン川西岸地区と、福岡市より広い程度のガザの地区に押し込められて暮らしている。現在、この2地区には約500万人のパレスチナ人が暮らしている。パレスチナ人はパレスチナ国家の建設どころか、自治も十分に認められていない。
一方パレスチナ側も、イスラエルとの共存を目指すパレスチナ自治政府の政党のファタハと、共存を否定する政党のハマースに分裂しており、一枚板とは言い難い。
<地政学的に脆弱な場所に位置>
・イスラエルは領土拡大に対して、強硬な姿勢を取り続けてきた。この要因に周囲がすべて敵国であることと、地政学的に脆弱な場所に位置していることが挙げられる。
イスラエルは水資源の多くを、シリアのゴラン高原を水源とする川に頼っている。そのため第三次中東戦争では、水資源の確保を目的にゴラン高原を占領した。ゴラン高原はイスラエルを見下ろす位置にあるため、占領は防衛上も重要だった。
またイスラエルには油田がなく、石油は輸入に頼っている。唯一の輸入ルートである紅海のアカバ湾の制海権も死守する必要がある。
イスラエルが好戦的なのは、いわば地政学的な宿命とも言える。なお公的には宣言していないが、核兵器の保有もほぼ確実視されている。
<アフリカが経済発展から取り残された理由とは>
<南北に長いことが不利に>
・(POINT);部族の多様性を無視した人工的な国家が多いことが、アフリカ諸国の政治の安定と経済発展を妨げる要因となってきた。
・さらにサハラ以南のアフリカは、他地域からの文化や技術の移入という点でも、不利な地理的環境にあった。何しろ北はサハラ砂漠に阻まれ、西には大西洋、東にはインド洋が広がっている。どの大陸からも孤絶した環境にあったため、文化面でも世界から取り残されてしまった。
<「無主の地」とみなされる>
・アフリカは天然資源に恵まれた大陸であり、ポルトガル人たちが最初に目をつけたのも金だった。しかしやがて奴隷も有力な「商品」であることに彼らは気がついた。
・15世紀以降、奴隷にされたアフリカ人の数は、1000万人から数千万人とされる。サハラ以南のアフリカは、ただでさえ不利な地理的環境にあったうえに、奴隷貿易によって膨大な労働力を奪われたことで、さらに発展の機会を失った。
19世紀末、第2次産業革命が発展すると、今度はヨーロッパ列強はアフリカの豊富な天然資源に目を向けた。天然資源は列強が工業化を進めるうえで欠かせないものだからだ。
・ただし21世紀に入ってからは、アフリカ連合(AU)が紛争の予防・解決を担う機関として機能し始めたこともあり、かつてと比べれば紛争は減少傾向にある。
<なぜ中南米諸国は政情が安定しないのか>
<先住民不在の独立運動>
・(POINT);植民地時代から続く特殊な社会構造と、大国アメリカの介入が、中南米諸国の民主主義の定着の妨げとなってきた。
・ただしこのときスペインからの独立運動の主役を担ったのは、中南米の先住民ではなく、クリオーリョと呼ばれる現地生まれのスペイン人だった。
<富裕層と貧困層の二極化>
・このように中間層が薄いことが、富裕層優遇が大衆迎合かの極端な政策を招く要因となり、中南米に安定した民主主義を根付かせるうえでの障害となってきた。
<再びポピュリズムが台頭>
・その姿勢は冷戦期に入っても変わらなかった。1959年のキューバ革命後、キューバが社会主義国化すると、アメリカは中南米諸国への革命の波及を恐れ、軍事政権や独裁政権を支援。1960年代から70年代にかけて、メキシコなどの一部を除き、ほとんどの国が軍政となった。
・これに対する民衆の不満の高まりが、再びポピュリズム政治の台頭を招くことになる。1990年代末から2000年代初頭にかけて、左派政権が次々に誕生。公共料金の大幅値下げなどのばらまき政治を実行するが、やはり財政破綻を招くことになり、近年は右派の巻き返しが顕著になっている。つまりかつてと同じ光景が繰り返されているのである。
<白人国家オーストラリアのアジア政策の行方>
<白豪主義により移民を制限>
・(POINT);1970年代に欧米重視からアジア重視へと舵を切ったオーストラリアは、中国の台頭により、また新たな局面を迎えている。
<遠くの欧米より近くのアジア>
・そんな中でオーストラリアは中国に対する警戒心を露わにしており、日本、アメリカ、インドとともにQuad(日米豪印戦略対話)を形成することで中国に対抗しようとしている。一方ニュージーランドは、アメリカと同盟関係を結びつつも、中国とのFTA(自由貿易協定)にも署名するなど、独自の外交路線を展開しようとしている。
<第二次地政学ブームのさなかにある日本>
・第一のブームが起きたのは1940年代前半、つまり太平洋戦争のさなかだ。当時の日本の地政学はドイツ系地政学の理論に基づいた研究が中心であり、大東亜共栄圏の構想もその影響を色濃く受けたものであるとされる。
ところが戦後になると、地政学に関する書籍の刊行点数は激減する。その要因として、戦後の日本では地政学は、日本を破滅的な戦争に導いた学問として忌避されたことがあげられる。
<なぜ今の日本で地政学が必要なのか>
・2000年代半ばより地政学ブームが続いているのは、隣国の韓国との関係悪化や、北朝鮮情勢の緊迫化など、多くの日本人にとって国際問題が他人事ではいられなくなったからだろう。
中でも現在、多くの人が強い関心を抱いているのが、近年の中国の帝国主義的な行動についてだ。「一帯一路」政策にしても、第一列島線や第二列島線、九段線を定めたうえでの海洋進出にしても、中国の行動はきわめて地政学的だ。
・問題を困難にさせているのは、主要先進国と呼ばれてきた国々と中国との間で、国際社会のあり方についての価値観を共有できていないことだ。
<地政学的な視点では解決できない問題もある>
・地政学は、それぞれの国が置かれている地理的環境に注目して国家間の関係を分析したり、外交戦略や軍事戦略に活かしたりしようとする学問である。現在のように、国家と国家が国際社会における主導権や国益をめぐって激しく対立している時期ほど、地政学的な思考が必要となる。
ただし一方で現代の世界では、地政学的な発想だけでは解決が困難な問題も山積みしている。その代表格は気候変動問題であり、新型コロナウイルス感染症対策だろう。
工業化以降、世界の平均気温は約1度上昇しており、今も上昇を続けている。2015年に採択されたパリ協定では、その上昇を1.5度までに抑えることが盛り込まれた。もし2度まで上昇した場合、地球は私たちが住めない星になることが確実視されているからだ。ただし1.5度までに抑えるという目標すら、きわめてハードルが高いものである。
・また2020年以来世界を襲って新型コロナウイルス感染症も、本来は世界が一つになって対処すべき問題である。だが、現実に起きたのは、主要国がワクチンの開発中から争奪戦を繰り広げる「ワクチン・ナショナリズム」と言われる現象だった。WHOは、ワクチンを先進国と途上国に公平に届ける仕組みとして「COVAX・ファシリティ」を設けたが、実際には途上国の人々への接種は後回しにされた。
・世界には、自国の国益のみを追求しているだけでは解決できない問題がある。私たちには地政学的な視点で世界を見つつも、一方で地政学よりも巨視的な視点で世界のあり方を考えていくことが求められている。
『地政学』
ビジネス教養 サクッとわかる
防衛のプロへも指南、地政学の第一人者が伝授!
奥山真司 新星出版社 2020/6/13
<国際政治が「劇」なら、地政学は「舞台装置」 国家の裏側にある思惑をひも解くスキル>
・世界はどんどん小さくなり、グローバル化が進んだ現在、教養として重要度を増しているのが、地球全体をマクロな視点でとらえ、世界各国の動向を分析する地政学です。
・では、地政学とは何なのでしょう。研究者によってさまざまな答えがあると思いますが、私は「国際政治を冷酷に見る視点やアプローチ」と考えています。多くの日本人が思うよりも、国際政治での国家のふるまいは冷酷で残虐です。
・2020年現在、新型コロナウイルスの蔓延により世界中で未曽有の大混乱が起こっています。この混乱の背後で、アメリカと中国は世界の覇権をめぐって“新冷戦”ともいえる頂上決戦を行っているのにお気づきでしょうか?この決戦は、世界の将来を左右するものですから、海外で活躍するビジネスマンなどは当然として、ほとんどすべての人に影響を与えるでしょう。こうした世界的な動きを正確に把握するには、地政学な視点が絶対に必要なのです。
・例えるなら、国際政治を「劇」とすれば、地政学は「舞台装置」です。「劇」の裏側で、そのシステム全体の構造を決めているのは「舞台装置」ですから、国際政治の表面的な部分だけでなく、その裏にある各国の思惑を理解するには、地政学の考え方を身につける必要があるのです。
<地理的に衝突が頻発する3大エリアをめぐる“国のふるまい”の研究>
<3大エリアの衝突をマクロな視点で読み解く>
・上図は、地政学の重要な概念を提唱したマッキンダーという人が描いた世界地図を簡略化したものです。地政学とは、おおまかにいえば地図の中央上部エリアの勢力と、周辺の対抗勢力との衝突をマクロな視点で研究するもの。
もう少し具体的にいえば、アジア・中東・ヨーロッパという3大エリアで、衝突に関係する国のふるまいの研究です。世界的なニュースのほとんどは、このエリアに関わっているため、地政学を知ることは、世界の情勢を知ることにつながるのです。
<地政学を戦略に活用すれば“道”や“要所”をおさえてエリアを一気に支配できる>
<効率的に、あるエリアを支配するには………>
・地政学における国際情勢の研究では、「ある国やエリアを誰がどうやって支配するのか」が非常に重要なポイントです。地政学的に、支配するのにもっとも効率が良く、効果的なのが「道」と「要所」を手に入れること。
・このように、地政学をミクロな視点でとらえると、あるエリアを支配するための戦略が見えてきます。
<地政学を知ると見えてくる世界の姿>
<地政学の理論では中国の外交は必ず失敗する>
・急成長をとげ、一帯一路構想などで海外進出をする中国。しかし、地政学の理論で見ると、かつてローマ帝国や大日本帝国が衰退したのと同じ、ある重大な欠陥が。
<中国やロシアなど、内陸の大国は領土を奪われないために拡大する宿命が>
・ニュースなどで見かける中国やロシアの領土問題。いつの時代も内陸の大国は拡大する性質があり、それは領土を奪われる恐怖が影響しています。
<ローマ帝国に大英帝国、アメリカも。覇権国のスタートは近海の制覇>
・かつて世界の覇権を握ったローマ帝国に大英帝国、そして、現在その座はアメリカです。実はこうした覇権国の海洋進出で最初に行うのは、常に“近海の制覇”です。
<日本では条約を守るのが当然。世界では地政学的メリットの優先が当たり前>
・日本人は、決まりを遵守するのが当然と考えますが、実は世界ではそれは少数派。世界では、自国の権益を守るため、地政学的なメリットを優先するのが当たり前なのです。
<国際社会でのふるまいはイデオロギーでも世論でもなく軍事力と経済力のパワーで決まる>
・地政学を知ると、軍事力と経済力というリアルなパワーのみで動く、世界の論理が見えてきます。そこに、イデオロギーや世論、カリスマなどは関係ありません。
<白村江の戦いから日中戦争、イラク戦争まで……。大きな国際紛争は陸vs海の権力闘争>
・地政学的な視点で見ると、これまで地球上で起きた大きな国際紛争は、陸戦力(ランドパワー)と海勢力(シーパワー)の闘争です。
<昔のセオリーがドイツやイギリス、アメリカで体系化されてきた! 地政学の歴史>
・はるか古代から、戦争や物流において人間が物理的に移動できる距離や移動に適した地形など、地理に関するセオリーは存在していました。こうした知識を近代的な戦略として初めて活用したのが、1800年代後半のプロイセン王国、現在のドイツといわれています。プロイセンは地理や地形のセオリーを戦略として活用し、当時の大帝国であったフランスとの普仏戦争に勝利したのです。
こうして、「国際紛争や外交で役立つ実践的な学問として地理を研究しよう」という機運が高まっていきました。
日本でいうと明治時代に、アメリカのマハンという軍人が、シーパワーやランドパワーの概念を提唱し、イギリスのマッキンダーという学者はマハンの主張を継承しながら、ハートランドという概念を提唱しました。
その後、第ニ次世界大戦の時代にアメリカのジャーナリスト、スパイクマンによってリムランドという概念が提唱され、地政学の基礎が完成し、体系化されていったのです。当時考えだされた理論の多くは、現在の外交戦略でも活用されています。
<基本的な6つの概念>
・地政学とは、簡単にいうと「国の物理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える」アプローチ。
・イデオロギーを排除し、地理的な側面から国家のふるまいを検証する地政学を学べば、国の本音を見抜けます。
<2、他国をコントロールする戦略「バランス・オブ・パワー」は、要するに猿山理論>
・地政学の最大のメリットである“相手をコントロール”するための重要な考え方が、「バランス・オブ・パワー」と「チョーク・ポイント」です。
まず「バランス・オブ・パワー」とは、日本語にすると“勢力均衡”。突出した強国をつくらず、勢力を同等にして秩序を保つという国際関係のメカニズムです。
<3、「チョーク・ポイント」をおさえて国家の命綱である「ルート」を支配する>
・ここでいうルートとは海上交通の道、つまりは海路のこと。グローバル化といわれる現在でも国から国、また、中東やアジアなどエリア間の大規模な物流の中心は海路であり、国家の運営においてルートは命綱です。「チョーク・ポイント」とは、このルートを航行するうえで絶対に通る、海上の関所。
・現在、世界の多くのチョーク・ポイントをおさえているのが米海軍です。アメリカが世界の覇権を握れるのは、世界最大規模の陸軍や、最新鋭の戦闘機をそろえる空軍ではなく、チョーク・ポイント、そしてルートを握る海軍の力なのです。
<4、国際的な紛争に見え隠れする「ランドパワー」と「シーパワー」の正体>
・人類の歴史では、大きな力を持ったランドパワーの国がさらなるパワーを求めて海洋へ進出すると、自らのフィールドを守るシーパワーの衝突する、という流れを何度も繰り返しています。つまり、大きな国際紛争は、常にランドパワーとシーパワーのせめぎ合いなのです。
もう一つ、歴史から浮かび上がるポイントが、“ランドパワーとシーパワーは両立できない”こと。古くは、ローマ帝国はランドパワーの大国でしたが、海洋進出をして国力が低下し、崩壊。また、日本の敗戦も太平洋の支配に加え、中国内陸部への進出を目論み、シーとランドの両立を目指して失敗したと地政学では考えます。
<5、大きな紛争は「ハートランド」のランドパワーと「リムランド」のシーパワーの衝突>
・ハートランドとは、文字通りユーラシア大陸の心臓部で、現在のロシアのあたり。寒冷で雨量が少なく、平坦な平野が多いエリアです。
・リムランドは、主にユーラシア大陸の海岸線に沿った沿岸部で、温暖で雨量が多く、経済活動が盛んなエリアです。
・つまり、地政学的には、リムランドは「ハートランドのランドパワー」と「周辺のシーパワー」という勢力同士の国際紛争が起こる場所なのです。
<6、国同士の衝突の火種に ⁉ コントロールに必須の「拠点」の重要性>
・相手をコントロールする際に、もう一つ重要なのが、足がかりとして“拠点”をつくること。あるエリアをコントロールするには、その付近に拠点をつくり、レーダーで監視をしたり、軍隊を駐屯するなどして影響力を保持します。
・このように、国と国の小競り合いを見ると、コントロールに必須の拠点争いが原因であることが多いのです。
<日本の地政学>
・地政学的にとらえると、島国であること以外にも日本には多くのめぐまれた環境がありました。
<歴史 地政学的に見ると日本は①ランドパワー➡②シー&ランドパワー➡③シーパワー>
<国土 攻めにくい自然環境&自給できる国土により独立を守る>
<衝突 長らく中国と朝鮮半島のランドパワー勢力と対立。韓国がある現在は例外的な時代>
・現在の日本の対立国は主に中国と北朝鮮で、米軍基地のある韓国とは、基本的には協力関係にあります。
<地政学的な優位性で独立を守れた島国日本>
・イギリスは、1066年に「ノルマン・コンクエスト」という戦いでノルマン人に征服された。
<なんで北方領土はロシアから返還されない?>
1、 海を挟んでアメリカ本土に面した北方領土。ロシアがアメリカ、そして中国をもけん制する重要拠点です。
2、 2000年頃に航行可能となったロシアの北の海を通る「北極海ルート」を守ります。
3、 ロシアにとっては重要ですが、日本にとっては地政学的メリットはほとんどありません。
<アメリカと中東諸国の関係って今どうなってるの?>
<自国で石油生産ができるようになり、中東から手を引きたい>
・石油の産出地である中東は重要視されてきましたが、2010年代、アメリカが自国内で石油を生産できるようになったために、関心は低くなっています。
<中東の大国イランの後ろにロシア・中国が迫る>
・中東最大の敵はイラン。そこに中東での覇権をねらうロシアだけでなく、中国が絡みます。
<地政学で考える中国の特徴>
<国土 はるか昔から、国土の広さのせいで周辺国から攻められる恐怖心が!>
・アジア最大の国土面積を持つ中国。古来より、漢民族と四方に住む異民族との争いや、ロシアやベトナムなどの隣接国との国境紛争が絶えず、常に陸の脅威に悩まされてきました。
・中国は国内に50以上の少数民族がいます。国内を監視・統制するための治安維持費用が国防費を上回るという、珍しい状態です。
・右肩上がりの国防費と治安維持費。特に治安維持費は2010年以降、国防費を上回っています。治安維持費には、反体制派の監視やジャーナリストの盗聴、過激派対策、ネット上の政治的内容の削除なども含まれるといわれています。
<戦略 中国史上2度目のシーパワー国家を目指す>
・1400年代に海洋進出したことがありますが、周辺国との戦いに注力するために中止に。そして現在、再びシーパワー国家を目指し、海洋へ進出しています。
<海上に線を引く ⁉ 地政学的にはありえない軍事戦略「第一・第二列島線>
<独自の線を海に引きアメリカの接近を抑止する>
・海洋進出をする際、シーパワー国家は「拠点」を確保することを第一に考えます。つまり、まずは「点」をおさえ、そこから周囲ににらみを効かせてそのエリアをコントロールに入れるのです。
・ところがランドパワー国家の中国は海も陸と同じように「面」で考えます。それが表れているのが、鄧小平が提唱した「第一列島線」「第二列島線」という概念。
<いかにも“陸の国”らいしい海洋進出アプローチとは?>
<海を制すには、拠点を取るのが地政学の常識>
・海の覇権を握るには、島に拠点をつくり、そこから周囲の海域をコントロールするのが地政学の常識とされています。
<中国のランドパワー的海洋進出アプローチ>
<海に線を引き、“面”で取ろうとする>
・国境という“線”の概念が強い中国は、海にも独自の線を引き、点ではなく、面でとろうとしているのです。
<現代版シルクロードといわれる「一帯一路」とは“いったい”どんな構想なの?>
<シーパワーとランドパワーを両立させ貿易を促進させる構想だが裏にはさまざまな問題が>
<世界を豊かにする構想に見えるがその裏には………>
・中国の本音としては国内で過剰になった製品を国外で売って利益を得たいという思いや、13億の国民に国外で仕事を与える意図もあるようです。
さらに、中国の貸しつけに対し、返済不能になると中国が使用権を独占するという“債務の罠”も国際的に問題視されています。
ランドとシーの力を両立し、存続できた国家はこれまでになく、一帯一路の先行きは不透明です。
<世界情勢を大きく変える! 新型コロナウイルス後の世界は中国がさらに台頭 ⁉>
<コロナウイルスのまん延 国境封鎖にともない、一時的に「グローバリズム」が減退>
<国際情勢を大きく揺るがす新型コロナの流行>
<シーパワー優位の現状から収束直後は「中国の台頭」、その後「シーパワーの復権へ>
・2020年初頭から一気に広まった新型コロナウイルスは、世界を大混乱におとしいれました。国際情勢において、第ニ次世界大戦並の影響があるといわれています。
・このウイルスの流行を地政学的にとらえると、まず国境封鎖などによって、現代の国際社会の前提ともいえる「グローバリズム」の流れが一時的に減退すると考えられます。「グローバリズム」はシーパワーの土台であるため、相反するランドパワーの勢力が強くなります。なかでも、人口が多く、ある程度自国内で経済を回せる中国は、世界の経済が大きな打撃を受けるなかで、さらに躍進を遂げると予測されています。ただし、ウイルスの危機が収束して5~10年程度たつと、一帯一路で拡大した中国の勢力に、流行以前に影響力のあったシーパワー勢力が戻ってくるため、以降は中国も成長を続けられないと思われます。
<ISは崩壊したのに混乱の増すシリア内戦……なぜこんなに衝突が続く?>
<露支援の独裁政権vs欧米支援の反体制組織に>
<宗教問題や民族問題が重なり、状況は複雑化>
<世界中の国を巻き込むシリア内戦>
・2010年代初頭から続くシリア内戦。イスラム国(IS)崩壊後も争いが続く現在の様子を見てみましょう。
もともとシリア国内では、シーア派の独裁体制であるアサド政権と、国民の多数を占めるスンニ派の反体制武装組織が対立していました。そこへ、シーア派やアメリカへの不満を募らせ、イラクで生まれたスンニ派のISが合流し、「アサド政権」対「反体制組織+IS」という構図になりました。
・世界中でテロを起こし、勢力を拡大したISですが、米軍を中心とする部隊に空爆を受け、2017年10月にはISが首都と称していたラッカが陥落し、崩壊したようです。その後、同地で勢力を得たのが、「国家を持たない世界最大の民族」といわれ、独立を目指すクルド人です。現在は、アメリカやロシア、イランからの支援を受け、アサド政権と反体制組織とクルド人が三つ巴の争いを展開しています。
<宗教も絡んでよくわからない問題を歴史から整理して!>
<いつまでも争いが続くイスラエルの紛争>
・イスラエルで続く紛争の経緯を振り返ってみましょう。
第一次世界大戦後、バルフォア宣言の影響もあり、世界に散らばるユダヤ人は独立国家を建設するため、パレスチナに移住。すると、長年現地に住んでいたパレスチナ人(アラブ人)と対立します。これが紛争の大きなきっかけの一つです。また、ユダヤ人が信仰するユダヤ教と、パレスチナ人が信仰するイスラム教は、互いにエルサレムという都市が聖地であり、この場所の領有をめぐる争いも、紛争を大きくする原因になりました。
・1947年に国連が「イスラエルとパレスチナ」に分割しますが双方反発。アメリカ支援のイスラエルと、アラブ諸国支援のパレスチナで中東戦争が勃発します。その後、二国共存を認めるパレスチナ暫定自治協定が結ばれますが、再び抵抗運動が展開され、争いが続いています。
<現在の問題>
・イスラエルにとっては、武装組織ハマスや過激派組織ヒズボラなどが現在の主な脅威。
<地政学で考えるヨーロッパの特徴>
<歴史 ヨーロッパは大きな半島。揺れ動きが激しく、安定しづらいという特徴が>
<同盟 ヨーロッパ諸国が締結しているのが政治経済の「EU」と軍事の「NATO」>
<大国同士のせめぎ合いの影響を受け続ける>
・地政学的に、ヨーロッパはユーラシア大陸の西に位置する「半島」です。海洋に進出しやすい反面、陸続きのロシアからの脅威に常にさらされ、またヨーロッパの南にはイスラム諸国が控えています。つまり、東のロシアと南のイスラム、2つの勢力とせめぎ合いを続けてきたのがヨーロッパの歴史なのです。
第ニ次大戦後はさらにアメリカが介入。
<ユーラシア大陸と一定の距離を保つのがイギリスの伝統的な戦略>
<潜在的に持っている大陸側への恐怖心>
・島国であるイギリスは、ユーラシア大陸とドーバー海峡でへだてられているため、ヨーロッパで起きた大規模な戦争に巻き込まれなかった歴史があります。この地の利を生かしてイギリスはシーパワー国家として海外に進出し、世界を制覇、ヨーロッパに対しては争いを続けさせ、強国が台頭したときには攻撃するという戦略でした。このユーラシア大陸と一定の距離を保つのがイギリスの伝統的な姿勢なのです。
しかし、第ニ次世界大戦後は旧ソ連の台頭に加え、失った植民地に代わる市場を必要としたことでEUに加盟しました。
・ところが、この伝統的な戦略を重視する反対派が多く、それが再びヨーロッパと距離を置くEU脱退という選択に至ったのです。
<地政学的に不利なはずなのに現在、ドイツが優勢なのはEUのおかげ?>
<あまり知られていないが、統一通貨のユーロがドイツの経済を発展させた>
<ユーロ安によりドイツ経済は右肩上がりに>
・ヨーロッパの中央に位置するドイツは、大国のロシアや、フランス、イギリスなどのヨーロッパ内の大国に囲まれています。そのため古くから、周辺国に侵略を受けていました。一方で周辺国にとっては、第一次世界大戦や第ニ次世界大戦を引き起こしたドイツは、脅威の存在でもありました。そのため、戦争が終わる度に領土を分断させられてきた歴史があります。
・旧ソ連が崩壊し冷戦が終結すると、東西ドイツは再統一。実はドイツが再び強大な帝国になることへの不安が、ヨーロッパ諸国によるEU発足の理由の1つといわれています。
しかし、EU内の他国の経済が低迷しユーロ安になると、高品質な商品を製造するドイツにとっては、それが追い風となり、輸出が増加。ドイツをおさえこもうとしたEUが、結果的にドイツ経済を後押ししたという見方もできるのです。
<フランスではなぜあんなにテロが多いの?>
<移民2世によるテロが大きな社会問題に>
<シーパワーとして得た植民地からの移民が現在のテロ問題の火種>
・戦後、人口の減少が問題となっていたフランスは、労働力として旧植民地からの移民を大量に受け入れてきました。
・フランスでは、2015年頃から全土でテロが多発しています。その実行犯のなかには、移民の2世や3世、つまりはフランスで生まれ育った人が多く含まれているといわれています。
フランスは地政学的にシーパワーとランドパワー両方の特徴を持つ珍しい国です。かつてはシーパワーとして海洋に進出し、カナダやアフリカ、東南アジアにまで植民地を拡大するなど、世界に進出していました。そして、戦中や戦後には、戦力や労働力として、植民地からの移民を大量に受け入れてきました。
しかし、移民の子どもは、フランス国内でさまざまな差別を受けたり、自由な信仰をさまたげられたりする問題があり、大きな不満が蓄積していったのです。そんななかで過激派の思想に染まった若者が、テロを起こすという悲劇につながったとされています。
<難民→旧植民地→フランス本土というルートをたどるケースも>
・インド洋のフランス領・マヨット島に流れ込んだ難民が、一定条件を満たし仏国籍を得てから、本土に渡るというルートも。
<これまでの秩序が一新され、新しい世界になる可能性を秘めた米中による新冷戦のカタチとは>
<2018年にはアメリカによる新冷戦の開戦宣言がなされた>
・中国が目指しているのは、習近平の言葉によると「中華帝国の偉大なる復興」。アメリカの支配する世界の貿易体制や自由・民主主義社会を壊し、中国共産党が管理する、世界の新しい秩序をつくりあげようとしているのです。
<大国同士の戦いは、直接対峙するのではなく別の場所で局地戦が>
・どのような形態の戦争になるかを考えると、かつてのアメリカと旧ソ連の冷戦がヒントになります。大国同士の戦いは、朝鮮戦争やベトナム戦争、アフガニスタン侵攻などのように、国同士の代理戦争、もしくはある国のなかで、アメリカと中国が支援する2つの派閥が争う内戦が引き起こされるのです。つまり、中国とアメリカが直接的に対峙する可能性は高くないですが、両国とは直接、関係のない場所で、局地戦を展開することになるでしょう。
もうひとつ、かつての冷戦から、アメリカの動向として予測できるのが、「コスト・インポージング」という戦略です。これは、かつてのアメリカのカーター大統領が始めたもので、「相手国家が構造的にコストをかけざるを得ない部分のコストを増大させる」というもの。
・政治の世界では社会党はソ連から、自民党はアメリカから資金援助を受けていたと言われています。地政学では大国の動向に大きく左右される小国の状態を「小国の悲劇」などと呼びますが、新冷戦の影響で日本国内は親米派と親中派という国民の分断が強まるでしょう。そして、親米派と親中派、どちらが優位性を持てるかが、将来的な日本の姿を決める別れ道になるのです。
<“自分たちに都合のいい”平和論に流されず広い視野で、世界をとらえる能力を養う>
・ところが、そのような感覚は、世界政治の冷酷な論理の前では、言葉を選ばずにいえば、邪魔にしかなりません。世界中の国家は、我々のような普通の日本人の感覚とは大きくかけ離れた、地政学的な戦略に基づいた「世界観」を持って動いているからです。
・人々が、“自分たちに都合のいい平和”を求めるからこそ、絶えず争いが起こり、平和を求めること自体が、争いのタネにすらなっています。
『フェルドマン教授の未来型日本経済最新講義』
ロバート・フェルドマン 文藝春秋 2020/8/27
<フェルドマン式未来型経済のポイント>
◉生産性の高いIT人材を育成する
◉技術革新が経済復興のカギ
◉国のお金は公共投資、研究開発費、教育費へ
◉大学生の海外留学を必須に
◉社会人にこそリカレント教育を
◉76歳を退職年齢に
◉東京一極集中をやめて地方再生へ
<新型コロナウイルスという未知のウイルス>
・怪物というのは、災害や戦争や社会問題の比喩でしょう。21世紀のいまなら、地球温暖化であり、エネルギーや食糧、人口増加の問題。そして2020年は、新型コロナウイルスという未知の怪物が世界の隅々まで襲い、甚大な被害をもたらしました。
これらの怪物から人類を救うために日本は何をすべきか、というのがこの本のテーマです。答えは、技術革新を経済により迅速に、より密接に、より広く普及させることです。新しい技術が現れると、経済をどう変えるのか。変えるためには、どのような政策が必要なのか。技術革新を中心に、日本経済の展望を語ります。
・その本のまえがきで、経済学とは「希少資源の最適な利用の学問」であり、その目的は「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」にあると書きました。誰もが食べ物に困らず、お金持ちになれれば、世の中から戦争や争い事はなくなるでしょうという意味です。
・エネルギーに関しては新しい技術が進歩して、各々の技術のコストが完全に変わりました。石油と石炭の発電所は減り、本格的な再生可能エネルギーの時代に入りました。
労働市場に流動性がないことは、まだまだ大きな課題です。しかし5年前に比べ、リカレント教育の意味が大きくなっています。歳を取っても高い生産性を誇る労働者がたくさんいることは、日本にとって大きなビジネスチャンスになるはずです。
・社会保障を巡る状況は、進歩がありません。しかし、私の処方箋が変わりました。簡単に言えば、退職年齢を上げるべきだという主張です。少子高齢化社会にあって年金制度を維持するには、長く働くしかありません。
地方再生については、視点を変えました。前の本では「政治がおかしいから、地方が疲弊している」という話をしましたが、今回は物流構造と東京一極集中によって地方の価値が下がっていることの弊害を論じました。
前の本に全くなかったテーマは、AIです。AIが進歩するスピードはすさまじく、今後あらゆる経済分野に影響を与えます。
・御歌の意味は「なまけて磨くことを怠ったならば、立派な光を持つ宝石も、瓦や石ころと同じで、何の役にも立たなくなります」。
<Q1 地球温暖化はどこまで進んでいるのか>
・世界に山積する課題の中で、最も高くそびえ立つ難問が地球環境の悪化です。中でも温暖化は、今世紀の半ばまでに食い止めなければ、豪雨、干ばつ、害虫繁殖、新型コロナウイルスのような疫病の発生とさらなる蔓延の原因になることが避けられません。その結果、世界は慢性的な食料危機に陥り、難民は激増し、人間もほかの生物も生き残れなくなります。
・海水温も次第に上昇しています。ここ数年、猛烈な台風や熱帯のような豪雨に当たり前のように襲われることがその証です。当然、全世界で同じ現象が起こっています。
・GDPは人口と生活水準で決まりますが、ここではGDPだけ考慮に入れれば十分でしょう。GDPが上がれば、利用するエネルギーが増えます。1980年から2016年の間に、世界の実質GDPは年率で4.1%伸び、CO2は年率1.7%ずつ増えていきます。
<Q2 気候変動が続くと人々の暮らしはどう変わる?>
・海水が蒸発して大気に含まれる水分が増えるので、豪雨が多くなります。南極の氷山が融解するので、海面が上昇し、水没する国や都市が出てきます。海水温が高くなるので、海流や気流が変わり、干ばつが起こりやすくなります。山火事も増えます。河川の流量が減り、水力発電がうまくいかなくなります。
洪水、熱波、害虫の発生で、耕地は減少し、農作物の収穫量が減ります。
<Q3 化石燃料を減らすには?>
・このような将来を避けるためには、CO2などの温暖化ガスの排出を抑えること。一番効果的なのは石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の使用量を減らすこと。さらにそのためには、化石燃料より安くて使いやすいエネルギーを作ることが必要です。
<Q4 日本にはどんなビジネスチャンスがあるのか>
・これだけ急激に変わる世界のエネルギー事情の中で、日本はどう動けばいいでしょうか。私は、前述した世界全体のシナリオで、CO2の排出総量58%減を目標に掲げました。しかし技術先進国の日本は、90%カットを目標にすべきだと考えています。すなわち、2016年の1.2ギガトンを、2050年には0.12ギガトンまで減らすのです。そのためには、化石燃料の使用割合を12%まで下げなければなりません。
・日本は、エネルギーのほとんどを化石燃料の輸入に頼っています。エネルギーが安くなっていても、毎年海外から約17兆円(2019年)をかけてエネルギーを買っています。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)のデータを基に計算した右の年間3兆円を国内の再生エネルギー事業に投資すれば、20年以内に、この17兆円の節約も達成できるかもしれません。
<AIの定義と働き>
・未来図の話に入る前に、AIとは何なのか、まず定義付けをしておきましょう。いろいろな定義がありますけれども、私は「人間の能力をはるかに超えたパターンの認識を行うのがAI」というのが、一番わかりやすいと思っています。
<Q1 生産性の高いIT人材の育て方>
・1543年、火縄銃が日本に伝来しました。鹿児島の種子島に漂着したポルトガルの船に積まれていたことから、種子島と呼ばれるようになります。
刀や弓矢で戦っていた当時の武士には、驚愕の新技術だったことでしょう。現代の我々にとってのAI以上に、強いインパクトを受けたに違いありません。
・ここで、マルクス経済学と現代経済学の興味深い違いが出てきます。マルクス経済学では、資本と労働は敵対的です。資本家が利益を上げたければ、労働者から搾取するという関係だからです。
現代の経済学では違います。資本を投じて新しい機械を作っても、その機械を使える人がいなければ、意味がありません。機械を作る資本とスキルをもつ労働力とは、むしろ補完関係になります。
すると、社会の形が変わってきます。これがAIのもたらす新しい意味です。資本家は、スキルを持つ人たちをどうしても雇いたい。すなわち、人間がAIに仕事を奪われないようにするのは、新しい技術を使いこなすスキルを身につけることがポイントになります。
見たこともない新しい技術が登場したら、訓練をして、使えるようにならなければいけません。そうすれば、生産性が高くなり、賃金も上がります。かつて火縄銃を使いこなし、米百俵の知恵ももつ日本人は、それに対応できる素質を備えているのです。
<Q2 AI技術の進化で、日本の産業はどう変化するのか>
・AIが発達すると、現在の仕事が奪われてしまうのではないかと心配する人が、たくさんいます、実は私も、その一人です。エキスパートシステムによって、経済学者は不要になる可能性があるといわれているからです。とても怖いことです。
では、どんな仕事がAIに取って代わられ、どんな仕事が人間のもとに残るのでしょうか。この問題に関しては、すでにOECDなどがさまざまな研究を行っています。
・不動産も同様でしょう。「私はこういう家が欲しいです」と希望の条件を出すと、「ピッタリの物件がここにありますよ」と、たくさんのデータの中から即座に選んでくれるシステムが、すでに普及しています。
・農業も似ていると思います。この土地にはどういう作物が適しているか、気象条件や土壌の分析結果から、AIが考えてくれるでしょう。
小売業は、基本的にビスポーク(手でやる特注)です。お客さんが何を買いたいかによって、仕事の中身が変わります。だからamazonや楽天は、どんなニーズにも応えられるように、サイトの検索機能の向上に努めているわけです。
飲食業にも、似たような部分はあります。注文した食べ物をウェイターさんがうやうやしく運んできてくれるのは、気持ちがいいものです。しかしその人件費が、料理の値段に上乗せされます。一方、回転寿司はルーティンワークをIT化と機械化の徹底によって人件費を節約することで、大幅なコストダウンに成功しました。
このように、マニュアルとビスポーク、マニュアルとルーティン(手でやる定型的)をどうやってうまくIT化、機械化していくのかが、これからあらゆる産業で課題になります。
・金融は、すでにAIの利用が進んでいる業種です。たとえば、クオンツという仕事があります。「Quantitative=数量的」から派生した言葉です。従来のファンドマネージャーは、経験則から売る株と買う株を決めていましたが、高度な数学を駆使して市場の動向や企業業績を分析・予測し、金融商品を開発したり投資戦略を組み立てることです。機械化した商品、あるいはロボット運用と言い換えることもできます。
・もう一つは、市場の情報です。どういう商品がどんな値段で売られているかという情報が、一般の人にもどんどん取りやすくなっています。たとえば、不動産の価格です。これまでは、どんな土地がいくらで売り買いされているかという情報は、普通の人には全く取れませんでした。専門家だとわかっていて、その専門知識を生かして利益を出していたわけです。けれどもAIがビッグデータを収集・分析することで、誰にでも使えるようになってきています。
・法曹界はどうでしょうか。弁護士は、裁判記録など膨大な資料を読まなければいけません。人間ですから、忘れたり眠くなって理解が浅くなったりします。そこでいまは、機械で検索し、機械で読み取り、機械で要約までできるようになっています。
製造業では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで、工場での作業を非常に効率化できます。人間の数を減らすことによって、製造コストが格段に下がります。たくさんの情報を集めることで、たとえばどの自動車がどこで売れているのか、その理由は何かがすぐにわかるので、生産計画などに効果的に応用できます。
・技術革新には、プロセス・イノベーションと、プロダクト(商品)イノベーションがあります。プロセス・イノベーションとは、新しい技術を利用して、従来の商品を安く作れるようにすること。プロダクト・イノベーションは、新しい技術を使って、全く違う商品を作ることです。たとえばスマートフォンは、それまでに存在した携帯電話とは全然違います。これまでなかった商品の製造を可能にする技術の下では、雇用が増えます。
プロセス・イノベーションは逆に、合理化によって雇用を減らすと言えます。
・我々が今後どうやってAIを使うのかと考えれば、新しい仕事が生まれて増えた雇用に対して、これまでと同じ仕事の仕方では対応できないということです。すなわち、新しい技術の恩恵を受けるには、学び直しと働き方改革が必要です。
<Q3 ナビゲーションシステムと深層学習(ディープラーニング)の活用>
・ナビゲーションシステムの良いところは、得られる情報量が増え、情報の非対称性が減少する点です。情報を持っている人と持っていない人がいるとき、持っている人たちはそれを利用することで市場力を持ち、儲けることができました。ナビゲーションシステムの登場によって、そうした優位性はなくなりました。
<日本人の働き方を未来型に>
<Q1 長時間労働はなぜ改善されないのか>
・日本は、1991年には年間2000時間でした。誇るべきではないトップです。それが次第に減ってきて、2000年には各国の平均と同じ1800時間程度になります。その後も減り続けて、2018年には1700時間を下回りました。
OECDの平均も、1750時間くらいまで減っています。アメリカも減ってはいますが、日本より長い1800時間弱程度です。
日本は長時間労働の国だと思っていたのに、このデータを見る限り、そうとは言えません。解釈には、いくつかの仮説が成り立ちます。
① 残業代の制度と必要性が変わった。
② 社会の構造が変わった。
③ 資本装備率が上がって、長く働かなくてすむようになった。
④ パートタイム労働者が増えたために、正規労働者を含む全体の平均が下った。
・つまり、正解は④です。日本の平均労働時間が短くなったのは、「パートタイム労働者が多くなったため、全体として平均が下ったにすぎない」というのが正しい説明です。一般的なサラリーマンの労働時間は減っていないし、OECD加盟国の中でトップレベルを維持し続けているのです。
・なぜ減らないのかという質問に対する答えを考えましょう。雇い主からみて、労働者にかかるコストは2種類あります。ひとつは給料です。1時間当たりいくらの給料を払うか。もうひとつは固定コストです。採用にかかるコスト、オフィスの机や椅子などの設備費用、退職金などです。
固定コストが高いほど、採用できる人数は少なくなります。おのずと、採用した労働者を長く働かせたほうが安上がりになります。日本の労働市場では、採用コストと退職コストが高いために、なるべく長く働かせたほうがいいのです。多くの人を雇って給料を払うよりも、少ない人数を長く働かせたほうが企業にとって経済的だという現実が、長時間労働の減らない原因の一つです。そして大企業ほど、採用コストと退職コストは高くなります。
・労働市場が柔軟になれば固定コストが下がり、より多くの人をより短い時間で働かせることが可能になります。高い時給を払うことも可能になります。働き方改革がなぜ失敗したかというと、固定コストを上げたためです。結果として平均の時給が下るので、労働時間の短縮にはつながりません。
<Q2 雇用システムや環境はなぜよくならないのか>
・新卒一括採用は、日本固有のシステムです。この制度は、労働者の交渉力を弱め、交渉力の弱い若者には、さらに損をさせる結果をもたらします。
・次に、一括採用の弊害を考えてみます。
② 若者の好奇心を薄れさせる
③ 転職が難しくなるため、スキルを取得する動機が薄れてしまう
④ 壁のない刑務所に閉じ込められてしまう
・もう一つ大きな弊害は、一括採用の網からこぼれると、アウトサイダーの市場に入ってしまう人が多くなることです。新卒の年に就職が上手くいかないと、非正規の労働者になりがちです。そうなると、正規労働者になることが難しい。これは個人の能力に関係しない問題で、社会全体の問題であり損害でもあります。
・この状態が変わらないのは、経団連に所属するような大企業と厚労省の人たちが、自分たちの経験とインセンティブを背景に作っているルールだからです。労働行政は交渉する人の考える「正義」「公正」だけではなく、制度全体のインセンティブと成長効果を踏まえて、ゼロベースから制度を作り直すべきです。
<Q3 なぜ女性管理職は生まれにくいのか>
・性差別は、日本だけの問題ではありません。社会で実績を上げる女性が増える前は、「女性エコノミスト」とか「女医」と言っていました。しかし私は、「男性エコノミストです」と名乗ったことは一度もありません。エコノミストの仕事に、男女の違いはないはずです。
アメリカでも、男女平等の実現は簡単なことではありません。
・当時はそれくらい、国務省にも極めてはっきりした男女差別が存在したのです。
1976年になっても、昇格やポストが不平等だとして、国務省の女性職員が訴訟を起こしています。今後はなくしますという約束で、ようやく和解が成立したのは、1990年のことでした。
<Q4 外国人は日本で働いて幸せなの?>
・外国人が日本に住みたいと思う理由は、観光客が日本に魅力を感じるのと同じ理由です。ひと言でいえば、日本人の意識の高さです。治安がいい。街がきれい。いろいろな点で便利。たとえば日本とニューヨークの地下鉄を比較すると、雲泥の差です。
・外国人が日本に住むことによって日本が得する点は2つあります。ひとつは労働力不足の解消です。介護や清掃、建設現場やコンビニなど、労働集約的で人手が足りない仕事をすることです。
役割のもうひとつは、多様性をもたらすことです。
・なぜ私みたいな外国人が、内閣や中央官庁の方々に意見を聞かれるかというと、外の目から見て、村社会の解毒剤という役割を果たすからです。これは、日本社会の知恵だと思います。
アメリカでは、外国からどう見られているか気にする人は少数です。
・外国人に働いてほしいけれども、住みつかれるのは困る、というのが現状です。いっそのこと期間限定の外国人労働者という位置づけはやめて、移民という資格を作るべきです。
・次の障壁は、所得と給料です。現状では、特に高いスキルを持つ外国人ほど、海外に比べて給料が低すぎるのです。たとえばAIの専門家です。
・給料の次は、税金の問題です。まず、日本の所得税は非常に高いのです。
・さらに日本の税制では、外国人が母国に帰っても10年間は相続税の支払い義務があります。日本で5年以上働いてから帰国して、10年以内に死んだ場合、その人の家族が日本に相続税を納めないといけないのです。
・もうひとつ、大きな障壁が人権問題です。特に外国人の技能実習生は、パスポートを取り上げられ、安い給料で長時間働かされるなど、人権の阻害が指摘されてきました。アメリカにも、不法移民などに関して問題があります。
<Q5 移民をどう受け入れたら明るい未来になるのか>
・アメリカのワシントンにある「CGDEV.ORG(世界開発センター)」という民間シンクタンクが、各国の移民制度を評価しています。評価の基準は3つあります。まず、受け入れの積極性。「来てください」とアピールしているかどうかです。次に、移民の同化。うまく溶け込める体制を整えているかどうか。3つ目は、さまざまな国際協定や条約や規定に、国として参加しているかどうかです。
この基準で各国の移民制度を比較評価すると、日本はかなり低いほうです。
・日本は、受け入れの積極性については問題ないと思います。永住権を取得する手続きは結構簡単です。ただし最近は、申請後9カ月から1年ほど時間がかかるようです。申請件数と審査体制のバランスが取れていないことが理由です。それでも世界の基準からすると取得しやすいので、来てほしいという姿勢には問題ないと思います。
社会に溶け込ませる体制は、前述したようにまだまだです。
・今後、移民や難民はますます増えると予想されます。環境と移民の関係を調査した結果、2050年までに世界で2億人が、新しく住む場所を探して移動すると言っています。これまでの倍の人数です。
<Q6 移民政策によってどんな社会になるのか>
・日本人労働者は減り続け、2030年までに約10%減少します。外国人労働者のシェアは増え続け、現在の約2%から約5%まで上昇します。しかし、労働者の総数が減少するのをカバーするには至りません。したがって、10年たっても労働力不足は解消されない、というのが結論です。
では、現在の日本人の職は、彼らに奪われてしまうのか。これも答えはノーです。奪われません。
・つまり、移民を排除さえすれば、自分がいい仕事に就けたり高い給料がもらえると考えるのは間違い。移民が入ってくるのは怖いと怯えるのも大きな間違いです。職を失わないためには、自分自身のスキル獲得以外に手段はないのです。
・では、社会政策として機能する雇用政策は何か。繰り返しになりますが、次の3点が有効だと考えます。
① 再教育とリカレント教育。新しい技術が使えるスキルを育てること。
② 労働市場の流動性を阻む法律習慣、慣行を外すこと。終身雇用や新卒一括採用のことです。
③ 福祉の罠に陥ることがないように、福祉の制度と税制を一緒に改革すること。
・政府が全国民に対して、最低限の生活を送るのに必要な現金を支給する「ユニバーサルベーシックインカム(最低所得保障)」について、いろいろと議論があります。私は賛成ですが、手厚い福祉に流れすぎると労働のインセンティブが失われ、社会によい結果をもたらしません。福祉を向上させるときは、同時に税制もゼロベースから再設計すべきだと思います。税制と社会保障がバッティングしないことがポイントです。
<Q7 移民政策と治安の問題>
・外国人が増えると治安が悪くなるという声を聞きますが、事実でしょうか。刑法犯と特別法犯(道路交通法、覚せい剤取締法、売春防止法などの違反者)を合わせた来日外国人犯罪の検挙件数は、2005年の4万7865件をピークに下がり続け、2012年以降は1万4000件~1万7000件で横ばいです。検挙人数も、2004年の2万1842人から減り続け、ここ数年は1万人前後で推移しています。
日本で起きている犯罪の97.5%は、日本人によるものです。
・もちろん犯罪の問題は軽視できませんし、治安のよさは日本の大きな長所です。しかし、犯罪が増えるから移民は認めませんという意見は、短絡的すぎると言えるでしょう。
<未来を豊かにする社会保障改革>
<Q1 国の財政再建のために必要なこととは?>
・14兆円にせよ36兆円にせよ、目を瞠るような経済成長がない限り、捻出するには選択肢は2つしかありません。歳出削減か、増税です。日本の法人税と所得税は他国に比べてかなり高いので、増税するなら消費税しかないでしょう。
・年金の支給と、医療費の自己負担が軽減される社会保険制度を、20年後まで維持し続けるには、財政を持続させることが肝心です。そのためには、研究開発費や教育費に国のお金をもっと使い、経済の生産性を上げなければなりません。さらにそのためには、借金を返し、PB(プライマリーバランス)を正す必要があるわけです。選択肢は、歳出削減か、消費税アップか。
どういうやり方がフェアか、最後に決めるのは国民です。税金を払いながら選挙権がない私の意見としては、大半は歳出削減がいいと思っています。
<Q2 年金がもらえるのか不安で仕方がない>
・したがって私の提案は、2041年までに基準退職年齢を76歳にすることです。3年ごとに2歳ずつ、段階的に引き上げていけば年金勘定が合います。
・しかも、日本の年金は決して贅沢なものではありません。年金歳出額の対GDP比を見ると、日本は高齢化が進んでいるかわりに、他国より実は低いです。打つ手はあるでしょうか。
<Q3 歳を取っても働かななければいけないのか>
・問題は、制度の改革です。どのくらいのペースで定年年齢を引き上げるべきか、ということです。2025年から、基準退職年齢が65歳になります。2031年に76歳にしましょうということなら、2020年から毎年1.83歳ずつ上げなければいけません。無理です。3年で1歳ずつだと、76歳になるのは2057年です。遅すぎます。3年で2歳ずつ上げれば2041年に76歳になるので、このペースがベストというのが私の結論です。
労働市場は、高齢者がいっそう働きやすいようにしなければいけません。年齢ではなく、成果と脳力で評価される市場を作らないといけないのです。
<Q4 医療制度はどうあるべきか>
・社会保障に関する私の提案をまとめると、次の通りです。
財政再建については、まず決断です。何割を増税で補い、何割を歳出カットで捻出するのか。
年金改革は、冷静、公正、持続性をもって行うこと。2040年までに退職年齢を76歳まで段階的に引き上げ、年金の支出額を抑えることです。
医療改革では4つあります。
第1に技術の選択です。安全性、有効性、経済性の基準で決めること
第2に公的医療歳出の対GDP比率の上限を設定すること。
第3には、健康保険制度の歪みを正すこと。IT、AIを活用して、現在の組織保険組合からマイ保険口座への移行を進めます。
第4は、医療審議会などいろいろな審議会を小さくし、多様化して、さらに情報開示を徹底すべきです。
<2030年の地方再生>
・国の将来に少子化が避けられない以上、都市への一極集中は地方の人口がさらに減っていくことを意味します。地方の再生は、人口を減らさず、産業を衰退させないためにも必須です。
<地方の農業を活性化するため>
・しかも、日本の農産品には充分競争力があります。なのに、チャンスを掴めずにいます。それは、6つの大きな理由があるからです。
チャンスを逃している理由①農地法が時代遅れ
チャンスを逃している理由②農業人口の減少と高齢化
チャンスを逃している理由③技術の普及が遅い
チャンスを逃している理由④農業資本が劣化している
チャンスを逃している理由⑤流通における農協の独占力
チャンスを逃している理由⑥農業と金融がごちゃ混ぜ
<ポスト・コロナの日本経済>
<コロナ後の日本経済はどうなる?>
・では回復の速さは、どれぐらいでしょうか。モルガン・スタンレーの正式予測(7月4日現在)では、日本のGDPがコロナ危機以前の水準に戻るのは2021年末です。
<世界経済が向かう先は?>
・世界経済の展望を正確に明らかにする要因は、新しい治療法や新薬、ワクチンの開発です。
・しかし専門家の見通しでは、ワクチンが開発されて世界中へ供給されるには、12から18カ月が必要だそうです。開発に成功しても医療従事者から分配すべきですから、一般に行き渡るにはかなり時間がかかるでしょう。
① 企業はレジリエンシー(復元力)が問われる
・人の移動や物流の制限によってグローバル化がストップし、世界は内向きになって「自国ファースト」が加速するのではいかという見方があります。マスクひとつとっても、ほとんど中国製だから、輸入が滞ると品薄になってしまう。こんなことが起こらないように、生産をどこまで国内に戻すべきでしょうか。
② インフレはやってくるか。
・インフレが再燃するという仮説があります。感染が収束すれば、政府の経済政策の効果も出て、民間の需要は徐々に戻ります。設備投資も、回復スピードの問題はあるにせよ、確実に戻っていきます。
・現時点ではインフレ気味になっていくという予測ですが、注視は必要です。
③ 脱化石燃料が加速する。
・原油価格は、この10年ほど乱高下しています。2020年4月には、1日だけですが、史上初のマイナス価格になりました。
・一方で再生エネルギーは、技術の進歩によって生産コストが大きく下がっています。投資額もさほど大きくないので、安定して高いリターンを得られるのです。原油はコロナによって需要が減ったため、なおさらです。よってコロナ後は、脱化石燃料がさらに加速します。
④ 労働と教育のインセンティブが強まる。
・コロナ前でも所得格差は大きくなっていましたが、コロナによって生活を直撃されたのは低所得層の人たちです。
・生活の基礎となる仕事に就いている人ほど、低賃金なのはおかしい、所得配分の是正をしなければいけないという意見が、この先の共通認識になるでしょう。そして賃金コストが上昇すると、より高いスキルが求められます。スキルを獲得すればさらに給料が上がるので、生涯教育のインセンティブが上がる、という望ましい流れになるでしょう。
⑤ 何でもデジタルの世界になる
・これは結論です。コロナは思いもよらない危機でした。各国の政府も企業も国民も、自分たちの弱点を知りました。役所の仕事の遅さに比べて民間の対応は速いので、新しい技術を利用して創意工夫ができます。
・コロナがもたらすのは、Digital Everything。何でもデジタルという世界です。もたらすと言うより、加速させると言うほうが正しいでしょう。世界のトレンドが変わったわけではありません。「社会にすでに存在した問題の解決を、加速させよ」というのが、コロナから課された宿題だと思います。
<日本の国力はまだまだ高く、科学をはじめとするさまざまな分野で、世界に貢献しています。>
・一方で日本はいま、さまざまな難問に直面しています。人口動態は芳しい状況にありませんし、制度的な疲労も、教育が抱える問題も、世界の技術進歩についていけないという問題もあります。米中の貿易摩擦や、コロナのような予測がつかない問題も重なってきます。
この本は、こうした問題を解決する糸口を見つけることが目的です。ただし、動かなければジリ貧です。一刻も早く、農業にしても医療の分野にしても、新しい技術をビジネスに変えていくことが必要です。その結果として生まれてくるお金で日本及び世界を支えることが、この本の究極の目的です。特に地球温暖化は、時間の猶予がありません。
『終末社会学用語辞典』
響堂雪乃 編 / 飯山一郎 監修 白馬社 2016/2/16
<崩壊社会の構造とメカニズムの解明>
<ディストピア>
・[構造的暴力] 資本と国家が人権蹂躙を共同し、何もなかったかのようにばっくれること。
・原発事故は収束するどころか終末的様相を呈し、外国資本はそれを侵略の好機と位置づけ、為政者は戦争を社会統合策としたのであり、すでにこの体系はあらゆる人間悪が凝集するディストピアなのだ。
・いよいよ時代は全面崩壊の徴候を鮮明に活写し、そしておそらく未来は過酷なのだけれど、だからこそ<言葉>を端緒に現実を探求し、それを生きる力に転化して頂けるのであれば、製作の苦労など砂漠の露の如く霧消するのであり、論壇の末席者としてこれを凌ぐ光栄などないのだ。
<あ>
・社会科学者のR・マートンは新しい知識(仮説)を批判的に捉えることにより精度の高い仮設へ発展させることを「系統的懐疑主義」として提唱したのだが、これは現代の科学共同体が規範とするモデルであると同時に正統な弁証法手続きであり、我々もまたこのような姿勢をもって事物を凝視しなくてはならない。
[アベノミクス] 年金、郵貯を証券市場にぶち込み外国人投資家の利潤を最大化すること。植民地行政。
[天下り] 退官した公務員が法外な不労所得を獲得するスキーム。財政破綻の最大要因。
[アライアンス] 外資企業と官吏機構が共謀し好き勝手に国家運営すること。コーポラティズム。
[アルゴリズム] テレビ番組に仕組まれた知性劣化の算法表現。低強度戦争の中心的戦略ツール。
[アルゼンチン・タンゴ] 市場原理主義によってニホンが南米各国と同じ荒廃の道を辿ること。
[アジェンダ] 宗主国通達に記された植民地行政ノルマ。日米経済調和対話(旧年次改革要望書)など。
[アドルフ・ヒトラー] ニホン型扇動政治や宣伝理論のプロトタイプを構築した政治家。
[アナルシー] 多国籍企業が議会に代わる意思決定機構となり社会調整機能が破壊されること。
<い>
[イナーシア] 新聞テレビが物事をなんらかの言葉にしてやらないと民衆が何も理解できない状況。
[イネイブラー] 多国籍資本による虐政や公務員による搾取を助長する者。新聞テレビなど。
[イリュージョニズム] 資本独裁体制であるにもかかわらず、代表議会が存在するという集団的妄想。
[イリュージョンの体系] 議会制民主主義や法治国家が機能していると愚民が錯覚している有様。
・右翼を偽装する者たちは脅威資本があたかも隣国であるかのように煽るのだが、我々が対峙するものは多国籍資本による経済侵略、福島原発による核汚染の拡大、そして社会資本の全てを喰い尽くすビューロクラシ(官僚絶対主義)というトリニティ(三位一体)の脅威なのであり、あらためて彼らが企図するショーヴィニズム(排外主義と自民族至上主義を合一した思潮)は陽動だと捉えなくてはならない。
<え>
[エコノミック・ヒットマン] 対象国の政治家をカネや暴力で篭絡する多国籍企業の実動部隊。
[エスケイピズム] 問題先送り、現実逃避という今時代的なニホンの国民精神。シャッター反応。
[エスニック・アイデンティティの解除] 武道の代わりにヒップホップを授業化みたいな民族性解体。
・専制のノモス(秩序)に対抗する最後の防御壁は文化なのであり、だからこそ我々は言葉を探査し、思想を探求し、現実を探針するのであり、そしてそのようなツ頭脳作業こそが抵抗運動であり、人間尊厳を保ち続ける手段なのだと思う。
<か>
[傀儡政権] 外国人投資家のひも付きによって編成される代表議会。国政のデフォルトモデル。
[カキストクラシー] 人格破綻者が最悪の国家運営をする体系。資本と政治が共謀すれば大体こうなる。
[家産官僚国家] 旧ソのように役人が国民の生命財産を私物と見なし消費する体系。公務員天国。
[カジノ法案] 収賄金を賭場の配当金として引き渡すシステムの導入。政治資金規正法の抜け道。
[ガバナンス] 多国籍資本に委ねられた経済、福祉、外交、労働などにかかわる社会調整機能。
[カフカ的恐怖] 愚民政策により思考力と人間性を喪失し昆虫化すること。それが理解できないこと。
[カルト資本主義] 船井幸雄や稲盛和夫など経済界の重鎮が唱導したオカルティズム。プラス思考。
[変わりなき日常] 支配勢力に負託されメディアが演出するパラダイム。愚民社会の認知的枠組。
[環太平洋戦略的経済連携協定] 宗主国が属国を植民地として再編成すること。TPP。新世代帝国。
[観念闘争] 右翼対左翼、共産主義対資本主義、与党対野党、権力対報道など形骸化した二項対立。
・オートクラシー(専制体制)におけるメディアの役割の一つが「語彙の漸減」であるのだが、おおよそ3・11を起点として人権や人倫や公衆衛生などという言葉が抹消されているのであり、今後はそれが最高学府にまでおよび、もはや人間尊厳に関わる高度概念を思惟し抽象することが全く不可能になるわけだ。
<き>
[議員立法] 国政議員が制定する20%の法律。残りの80%は役人が好き勝手に制定する内閣立法。
[議会制民主主義] 代表議会が存在するかの如く民衆に錯覚させる観念語。
[企業団体献金] 外国資本が対象国の代表議会を私物化する手段。政治のモチベーション。
[記者クラブ] 公務員が年間100億円の税金を投じて運営する新聞社の談合会。官報の別室。
・様相は「モデルが現実に先行する」というボードリヤール理論そのものと言えるだろう。いまや民衆が蝕知する<現実>とは起源やオリジナルを持たない疑似像の劣化コピーであり、すなわち(シミュラクラ)によって成形される模造世界なのである。
<こ>
・3・11は原子力プラントと同時に人倫をも吹き飛ばしたのだが、それは破局によるアノミー(規範喪失)であり、ナショナル・アイデンティティ(国民的自我)の解除であり、もはやニホンジンは脱人格により記号化した「タイトル民族」に過ぎないのである。
[個人メディアの粛清] 反政府的な記事を投稿するブロガーなどが国策捜査でしょっ引かれること。
[国家元首] 世界植民地フランチャイズの雇われ支配人。報酬は法案ノルマの達成率に応じた出来高制。
[国家の中の国家] 代表議会に代わり意思決定を行う駐留米軍や経済団体などの別称。植民地政府。
[構造改革] 外国人投資家に言われるまま労働法や会計制度を改定し政権関係者がカネをもらうこと。
[合理的馬鹿] 貧困層を量産すれば消費不足で経済縮小に陥ることが理解できない者。日本経団連。
[コーポラティズム] 資本と行政にズブズブな共謀主義。小泉政権以降のイデオロギー(政治観念)
[国政議会] 内閣法制局が殆どの法律を作ることから慢性的に仕事ゼロな形式的認証機関。
[国税・地方税] 公務員の給料や福利厚生、天下りの補助金と財投債の返済で消えるカネ。
[国土の治外法権化] 特区構想やTPPなどにより主権が消失し、外国人による支配が絶対化すること。
[国民的競争国家] 老人、主婦、移民、離職者が職を奪い合いグチャグチャに収捨がつかない体系。
<さ>
[左翼の理論的敗北] 一生派遣労働法や残業代不払い法などが相次ぎ、左派の存在意義がゼロ化した様相。
<し>
・17世紀のヴィクトリア朝では貴族階級が大衆紙を駆使し、「認知支配」のプロトタイプを確立したが、近代においてはナチス・ドイツがそれを広報に援用したのであり、今社会で展開されるプロパガンダはその体系理論に基づくのだ。つまり前景化した報道の錯乱とはメディア始源期への回帰現象なのであり、新聞テレビは扇動装置という醜悪な内在本質を露呈するのである。
[自然律] 食糧自給を放棄し存続し得た国家は人類史に存在しないという定理。自由貿易体制。
[資本規制撤廃] 出資法などを改正し国家企業の株式を外国人に取得させること。経済主権の移譲。
[弱者に対する戦争] グローバル化により福祉、医療、教育が全面解体され貧困層が犠牲になる様相。
[シングル・テクスチャ] 公共教育が植え込む単一視座的思考。分析力が常態的に麻痺する要因。
[シンクレシズム] 相反するイデオロギーがカネで結び付き綜合すること。自民党と共産党の同衾。
[ジンギイズム] 搾取や外国人による支配などの内政問題を誤魔化すため用いられる排外主義思想。
[人口減少] 外国人と民族を入れ替えるため推進される政策。穏健な形の民族浄化。
[真実管理] 現実は在るものではなく作るものだというマスコミの論理。認知支配の基礎的な原理。
[心理的装置] 虐政を隠蔽し思考麻痺させる芸人、御用学者、タレント、新聞テレビ、雑誌などの総称。
[心理的ミサイル] 報道番組などが視聴者を愚民化させるために流布する常套句。
[上層権力のテーゼ] 民衆の注意を重大問題から逸らせ、政治的知性を限りなくゼロに維持すること。
[植民地税制] 消費税など取りっぱぐれの無い一律税制度。多国籍企業の還付金や減税に充当される。
[植民地政府] ニュー山王ホテルで月次開催される在日米軍と省庁幹部級の会合。日米合同委員会。
[諸コミュニティの局所的な自治] 植民地行政において国政が町内会レベルの議決権しか持たないこと。
[自由民主党] 米国が自国企業の利潤を最大化するため工作資金を投じて運営する政党。傀儡政権。
[シュールリアル] 国家議会が代表議員ではなく外国人投資家によって意思決定されるという実相世界。
[主権の妄想] 主要法案が外圧で決まるにもかかわらず、代表議会によるものと錯覚し続ける様相。
[シュリンク] 消費税率の引き上げやTPP加盟などバカな政策により経済が縮小すること。
[馴化] 公共教育やバラエティ番組また報道などによって民衆が家畜化すること。属国支配の中心手段。
[新自由主義] 多国籍企業の自由だけを保障し、各国市民の自由を抑圧する思潮。エゴセントリズム。
[新世界の暴力的画一主義] 自由貿易、民営化、労働・福祉権の解体という帝国主義3点セット。
[シンメトリー] 官僚支配、原発事故という崩壊前のソ連と同じ破滅要因に侵されている状態。
[心理作戦] バラエティやスポーツ中継を執拗に繰り返し、相手国民を根絶やしにすること。
・ポスト3・11(原子炉事故以降の社会)議論はタブー化し公共圏から排除されているのだ。様相は民族的な「シャッター反応(escapism=現実逃避)」であり、我々は見たいものしか見ないという閉じた循環を超越できず、むしろ「希望的盲目」に退歩しているのだが、やがて現実は楽観論者にも悲観論者にも公平に訪れるだろう。
<す>
[スキーマ] 固定観念で事物を捉える認知の枠組み。指摘すると大抵怒りだすので、やめたほうがいい。
[スキーム] 省庁OBが独立行政法人などで再就職を繰り返し不労所得を獲得する方法論。
[世界政府] 各国の代表議会に代わり意思決定する多国籍企業と一流投資銀行の連合体。帝国。
[セックス特集] 虐政を隠蔽するためポストや現代が企画する性行為記事。1984年的社会統合策。
[ゼノフォビア] 労働者搾取や原子力災害による荒廃を周辺民族のせいにして誤魔化すこと。排外主義。
[セミコロニー] 他国の軍隊が駐留し反植民地状態にある国。主要な法律が外圧によって決まる体系。
[ステークホルダー論] ひもつきを国政へ投入し都合よく運営すればよいではないかという投資理論。
[ストックフレーズ] 支配層が仕立て上げ、マスコミが喧伝し、愚民がうのみにする常套句。
[砂山のパラドックス] 移民と国民が入れ替わってもニホンであるのか?という命題。
<せ>
[ゼロ金利制度] 国債金利を抑えるため国民が200兆円規模の預金金利を逸失すること。
[先進医療技術工業会] TPPにより医療法人の株式会社化と国保の解体を推進する米国のロビー団体。
[専制のノモス] 欧米寡頭金融→在日米軍→ニホン経団連→官僚機構→国家議会という秩序。
[全米貿易協議会] 米国議会に献金を投じTPPを推進する事業者団体。コンキスタドール(征服者)。
<た>
・心理学者であるJ・ジェインズは「言語能力を獲得する以前の人間は自我意識を持たず、おおよそ誰もが統合失調症状態だった」と主張するのだが、イデオロギー化した衆愚主義により言語機能を破壊されたニホン民族もまた譫妄(イカれた)状態なのである。
[第三極] 維新など野党を僭称する政治集団。自民党の衛星政党の総称。偽装野党。
[大衆] 知的主体性や自律思考をもたずメディアによって操作される人群。ニホン人民の99%。
[対日投資倍増計画] 派遣法改正でピンハネして外国人投資家の配当を3倍に引き上げたりすること。
[対日年次改革要望書] 植民地ノルマ一覧。鳩山政権で廃止されたが日米経済調和対話として復活した。
[タイム・ホライズン] 長期スパンで国民社会を構想すること。自公政治の対義語。
[ダヴォス階級] 地球的規模で石油経済と福祉国家の解体を推進する超富裕層。いわゆる支配人種。
<ち>
[小さな政府] 医療、教育、福祉予算を全面削減し、資本と役人が浮いたカネを私物化する構想。
[知性の憎悪] モボクラシー(馬鹿主義)を推進する当局にとってインテリが何かと邪魔になること。
<て>
・タナトロジー(生死を深く考える思潮)はすでに危険思想であり、大学教育における人文科学の抹消もまたポスト3・11の社会統合策なのである。つまるところアンソロポロジー(人間とは何かという問い掛け)を禁忌とし、思索性が希薄で無哲学な人間の大量生産により支配を絶対化するという構想に他ならないのだ。
[デカルトの論法] 悪魔的な存在(新聞テレビ)が認知を欺き、知覚は常に捏造されているという主張。
[テクノロジーによる集中力欠損] ディバイスの氾濫やネット環境により注意力散漫が常態化すること。
[テクノロジーによるディスクレシア] ウェブの特有言語が脳の生成力を喪失させバカを量産すること。
[デザイナー・リアリティ] 現実逃避したヘタレが脳内にプログラムする仮想現実。唯名論。
<と>
・大衆は存在本質としてSHEEPLE(品種改良されたヒト家畜)なのであり、言葉も意識も粉末化されているのであり、もはや知的営為の一切が無効なのであり、この体系から「市民的不服従(人倫的視点から疑うことができない制度に反逆すること)」など永劫に生じ得ないのだ。
[投資家対国家間の紛争解決条項] 外国人の利益を損なう法律や規制を撤廃する特約。ISDS条項。
[同心円形式の物語] 9・11でも通貨危機でも構造改革でもTPPでも毎度同じ連中がボロ儲けすること。
[トポロジー] 社会の諸現象をキャッシュフロー(カネの流れ)から立体構造的に捉えるセンス。
[トリクルダウン理論] 富裕者を優遇すれば景気が拡大するというトンデモ疑似科学理論。
<に>
・「観察せよ、記録せよ。論理的にとことんまで考えよ、確認せよ、訂正せよ。他人と知識を交流させよ。その知識に耳を傾けよ。比較せよ。論理的に討議せよ。かくして立証せよ。自分の頭を他人の頭によってチェックせよ。自分の言葉の全てを疑え。常に真実に立ち戻れ。検証のない哲学を放棄せよ」 F・ベーコン
[入管法改正案] 安価な移民を高コストのニホン人と入れ替える法律。コードノワール(奴隷法案)。
[認知的閉鎖] 脳機能の限界から議論に対処できず、相手を異常者か変人として処理すること。
[日米合同委員会] ニュー山王ホテルで月次開催される在日米軍と高級官吏の会合。実質政府。実質国会。
[日米社会20年遅延説] 米国のロクでもない社会現象が約20年後に日本で発生するという考現学説。
[ニホン型政治] 外国人投資家の要求する法案の成立度に応じてカネをもらうこと。買弁商法。
<は>
[買弁] 外国人投資家に教唆されるまま税法や労働法などを改定しカネをもらう者。
[派遣労働] 経団連企業の人件費コストを圧縮し、外国人配当を倍増させるため導入された制度。
[パラ・ポリティクス] どの政党も資本に買われ同じ政策を推進するため政治的選択肢が消失すること。
[ハレーション効果] 世論操作に著名人を用いることで宣伝効果がいっそう高まること。
[パレート効率性] 一方(国民)の経済状況を悪化させ、もう一方(資本)のそれをよくすること。
<ひ>
・この民族は過酷な超現実に対峙するのではなく、シュミュレートされたか仮想現実に没入することを選択したのだ。個々の実存は摘出され「水槽に浮かぶ脳」に等しく、すでに現実はマッド・サイエンティストの電極刺激に反応する知覚細胞の幻視に過ぎないのであり、それは我々に突き付けられた形而上学的命題なのだけれど、貴方もまた否定する論理的根拠も反証する思考手段も持たないのだ。
[ピノキオ的世界] 成員の識字率が99%に達しながら情報の意味化ができない体系。メンタルな文盲。
[百家争鳴] ブログなどで自由言論を奨励し不満分子を炙り出したところで一挙に弾圧すること。
[ヒューマノイド] 支配民族による日本民族に対する基本認識および支配根拠。人間モドキ。家畜人。
[ヒューリスティック] 経験的な枠組でしか事物を考察できず、思考作業そのものを忌避する様相。
[非正規社員] 分割統治の一環としてヒエラルヒーの最底辺に固定されたプレカリアート(新貧困層)。
[ヒラリー・クリントン] 「多国籍企業のために戦います!」と宣言した次期米国大統領候補。
[ヒンズー的世界] 資本家→公務員→正社員→非正規社員という身分制によって階級を分化する構想。
<ふ>
・戦慄すべきは歴史的破局に際し一斉に口を閉ざす知識人の群れである。啓蒙のリーダーとなるべき彼らは検証主義を訴え生命の蹂躙を糾弾するのではなく、むしろ真逆に疑似科学を唱道しアンチヒューマニズムを共同するのであり、それはおそらく我々の文化資本の死滅状態である証左なのだ。
[文化蒙昧主義] バラエティ番組などを中心的コンテンツにして民衆の精神を退行させるイズム。
[文明の衝突] 異文明同士の出会い(戦闘)において優れた文明側が勝利するという定理。
[文明のドラッグ] 国民を無知に沈め現実の痛みを麻痺させる新聞テレビの総称。お笑い、バラエティ。
[プレカリアート] 外国人投資家の教唆により量産された派遣労働者などの新貧困層。
<へ>
[平均への回帰] 繁栄と没落を数百年周期で捉えれば、どの民族も大差ないという論理。ゴールトン説。
<ほ>
[報道のナラティブ] 「風評被害」などと問題本質をすり替える新聞テレビの物語的語法。
[放任資本主義] 投資銀行などに好き勝手な投機をさせ、損失が出たら税金で救済する様式。
<め>
[明在系・暗在系] 民間経済(表)と官制経済(裏)によって国家が二重構造化した様相。
<ら>
[ラーゲリ] 旧ソが米国から資金調達するため1500万人もの市民を無賃金労働者として収容した施設。
[ラショナル・フール] 賃下げすると内需が縮小し収益が悪化することを理解できない馬鹿。
<れ>
[隷属地域の中間支配者] 官吏機構、自公政権、新聞テレビ各社などいわゆる植民地の「現地採用組」。
[連続性の虚偽] 国民と移民が総入れ替えになってもニホン国であることに変わりないという詭弁。
[レントシーカー] 外国人からカネをもらい法律を制定する政治家の総称。私益追求者。
・かつてオーウェルは「近代の戦争とはある種のごまかしであり、互いに致命傷を与えない擬制の闘争であり、それは今や外交ではなく純然な内政問題であり、暴力は他国ではなく自国の民衆に向けられる」(要約)と語ったのだが、おおよそ本質はこのパラグラフに集約されるのだと思う。
<や>
[安上がりな福祉国家] 非正規労働者を量産し年金や医療保険などを自己負担させる体系。ミナキズム。
[柔らかい野蛮] 国民の知らないところで政策を決定する日本型独裁。ヒトラー政権が理想とした。
・民族集団は眼前の破局に慄然とするのではなく薄笑いしながらそれを享受するのであり、やがて根拠のない楽観は感染症のように広まり多幸感すらもたらすのだ。それはいわば瀕死の脳が見る臨死体験のファンタジーであり、つまり彼らは肉体の死を迎える以前に精神が滅んでいるのであり、すでにこの体系はファントムパブリック(思考という人間営為の放棄により亡霊化した大衆)の群れなのである。
<ゆ>
[ユートピア] 賃金や税金など企業の応負担を最小化し、投資家利潤の最大化を約束する世界。
<わ>
[わが闘争] 広告代理店や総務省など中央官庁が参照するプロパガンダの実用書。衆愚政治の理論書。
『略奪者のロジック』
響堂雪乃 三五館 2013/2/21
<おそらく真理は清廉よりも、汚穢の中に見出されるのだろう>
<グローバリズム>
・グローバリズムという言葉は極めて抽象的なのだが、つまるところ16世紀から連綿と続く対外膨張エリートの有色人種支配に他ならない。この論理において我々非白人は人間とみなされていないのであり、アステカやインカのインディオと同じく侵略地の労働資源に過ぎないわけだ。
<労働法改正>
・外国人資本家の利益を最大化するため労働法が改正され、労働者の約40%近くが使い捨ての非正規就労者となり、年間30超円規模の賃金が不当に搾取されているのだから、この国の労働市場もコロンブス統治下のエスパニョーラ島と大差ないだろう。
「文明の衝突」においては、優越種が劣等種を滅ぼすという歴史が繰り返されてきたのであり、危機に直面する我々は喫緊の生存戦略を問われている。
<Index Terms>
非正規就労:抑制した人件費を、企業と派遣事業者の利益に付け加えられる手段。
合成の誤謬:搾取が一私企業から全社会領域に波及し、経済が機能不全に陥ること。
Low Cost Slave(低賃金奴隷):経営環境によって賃金を増減するシステムの不可欠要員。
世論合意:メディアの暴力が形成する生活保護費削減の社会的コンセンサス。
竹中平蔵:派遣労働法を改正し、現在は人材派遣会社の会長職を務める元政治家。
円キャリー:年間30兆円ベースで削減した賃金をプールし、国外の投機で運用すること。
消費税:徴収額を多国籍企業と富裕層の減税や還付金などの各種優遇に用いる制度。
トリクルダウン理論:金持ちを優遇すれば景気が上向くという市場原理主義者の詭弁。
ILO(国際労働機関):労働条件の後進性が非難される日本が常任理事国を務める国際団体。
児童人口減少:労働者派遣法改正を要因とした晩婚化によって進捗する社会現象。
プレカリアート:構造改革によって現出したフリーターや非正規社員などの「新貧困層」。
労働者派遣事業:2000年初期から3倍にまで業容を拡大した成長産業のひとつ。
<君が未来を描きたければ、人間の顔を踏みつけるブーツを思い浮かべればいい。ジョージ・オーウェル(イギリスの作家)>
・2012年度の厚生労働省調査によると、非正規労働者30代男性の未婚率は75.6%、正規労働者の30.7%と比較し2.5倍もの差があることが判明。2004年の45.5%から僅か数年で30ポイント増加し、非正規労働者の経済的不安定が未婚化を加速させる様相を浮き彫りにしている。また非正規労働者の未婚・晩婚化は40代でも進行し、前回の25.3%から45.7%へ増加した。加速的な児童減少の原因が、構造改革による労働者派遣法改正であることは明らかだ。
<今日の奴隷ひとりの平均価格は、民主主義が最低レベルにあったと思われる時代に栄えたローマ帝国の価格の10分の1以下である。ロレッタ・ナポレオーニ(イタリアの経済学者)>
・グローバル経済において最下層の国民は最低賃金で雇用され、ゼロ・レイボア・コスト(生産コストにおいて人件費の占める割合が限りなくゼロに近い)を提供するのだが、つまりTPPが席巻するデフレは、人間そのものの低廉化をもたらしている。
<彼らはいい身体つきをしており、見栄えもよく均整がとれている。素晴らしい奴隷になるだろう。クリストファー・コロンブス(イタリアの探検家)>
・構造改革を契機に年収200万円以下のワーキングプアは1000万人に達し、正規雇用が190万人減り、非正規雇用は330万人も増加した試算となる。
・「ワーキング・プアということ自体の確立した定義がないので、どこがワーキングプアとは統計的にはなかなか言えない」などと答弁した。
・行政が貧困や格差問題に無関心であることが明らかだ。
<植民地を会社経営としたのだから、利益の追求が最大目的で、原住民の福祉が眼中にないのは当然である。清水馨八郎(千葉大学名誉教授)>
・97年から07年の間において、日本国企業の売上げに顕著な伸びはなかったが、経常利益は28兆円から53兆円に増加する。これに対し、労働者賃金は222兆円から192兆円に削減されていた。リストラや非正規就労の推進によって抑制された人件費が、そのまま企業と派遣事業者の利益に付け替えられた格好だ。さらに株式配当に対する税率を20%から10%に引き下げる証券優遇税制が延長されたことを受け、労働法の規制緩和を推進した投資集団の利益は倍増、企業群は270兆円規模の内部留保を蓄積した。
<エコノミックヒトマンとは、世界中の国を騙して莫大な金を掠め取る、きわめて高収入の仕事だ。ジョン・パーキンズ(エコノミスト)>
・小泉政権は「対日投資倍増計画」を掲げ、時価会計制度の導入によって企業価格を大幅に引き下げるなど、外国勢力による経済支配を推進したとおり、グローバル資本の実働部隊であったことは語るまでもない。主要企業の過半数株式を制圧した外国人投資家は、労賃の圧縮を求め「労働者派遣法」を改正させたのだが、これにより派遣法のネガティブリストに規定されていた労働種目がすべて解禁され、日本人労働者の実に3分の1が非正規という奴隷階級に転落した。
<インデァスこそ富そのものである。なぜなら、彼らは地を掘り、われらキリスト教徒のパンやその他の糧食を作り、鉱山から黄金を取り出し、人間と荷役動物の労役のすべてをするのが彼らだからだ。クリストファー・コロンブス(イタリアの探検家)>
・経済市場から流通マネーが枯渇しデフレへ発展した要因は、年間30兆円ベースで労働者賃金が削減され、その大半が企業内部留保や配当益となり、プールされた莫大な資本が円キャリーとして持ち出されているためだ。つまり過去10年において労働者が正当に受け取るべき300兆円規模の金が国内外の勢力によって搾取され、国民経済の本質である内需から揮発し、すでに国家は植民地の様相を呈している。
<私は、企業などというものは、そもそも無法者を内在しながら存在すると考えている。宮崎学(作家)>
・構造改革を契機に日経平均株価50%以上も下落し続けていたのだが、この間に主要企業の配当と役員報酬は2倍以上で推移している。つまり「労働者の非正規化は、商品価格の国際競争力維持のためやむを得ない」というのは虚言であり、労働者の逸失した賃金が直接的に企業利益と投資利潤に付け替えられているわけだ。1000万人が年収200万円以下の貧困層に転落する中、労働者派遣法改正により莫大な経常利益を確保した日産自動車のCEOは9億円、投資は平均2憶円の報酬額に達するなど、レッセフェールは社会資本の傾斜配分という歪みを増幅させている。
<君が奴隷であることだ。生まれたときから匂いも味もない牢獄に入れられている。ウォシャスキー兄弟(米国の映画監督)>
・2001年、小泉政権の発足直後に外資比率が50%を超える企業群の政治献金が合法化されているのだが、つまり自民党という政党は国民利益よりもインセンティブを重視し、国民福祉よりも外資利潤を優先する方針を明確に打ち出している。今後は確実にTPPへ批准し、ラテン・アメリカ諸国が挙証するとおり、国民生活の全領域において植民地化が進行するのだろう。
<我々が文明に麻酔をかけたわけだ。でないと持ちこたえられないからだ。だから覚醒させるわけにはいかない。スタニスワフ・レム(ポーランドの作家)>
・経団連グループによる全領域的な社会保障の削減要求とは、ステークホルダーへの傾斜的な利潤配分を目的化しているのであり、粗暴な言説は国家の上部構造として多国籍企業が君臨する構造を浮き彫りにしている。
<派遣労働が低賃金なのは当たり前。気ままに生活して賃金も社員並みというのは理解できない。御手洗富士夫(キャノン会長兼社長)>
・就労者の38%以上が非正規労働者となり、生活不安に脅かされている下層レイヤーに組み込まれているのだが、没落は不測の事態ではなく、企業利潤のため構造化されたものであるといえるだろう。
<対立するものを与えて、それを高みから統治せよ。ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(ドイツの哲学者)>
・「社会保障費の増大は、生活困難者の自助努力の不足によるものである」というコンセンサスがメディアの暴力によって形成され、大幅な削減が実践されようとしているのだが、そもそも生活保護費は特別会計の1.5%にも満たない額である。OECD加盟国中2位まで上昇した貧困が、労働者派遣法の改正によって構造化されたことは明らかだ。
<「改革で格差が広がったということはない」(竹中平蔵・第6代総務大臣)。>
・生活保護受給者は2003年当時より年間平均8万人ペースで増加しているとおり、その源泉が労働者派遣法改正による労働者の使い捨てであったことは明らかだ。
<政治のイロハも知らない素人が政治家と自称しているのである。マックス・ウェーバー(ドイツの社会学者)>
・小泉純一郎、竹中平蔵らが「多様な雇用形態が成長をもたらす」と主張し、非正規就労を強力に推進したのだが、派遣社員などが将来に要する福祉支援は年間20兆円に達することが明らかとなった。
<格差が出ることが悪いとは思わない。小泉純一郎(第89代内閣総理大臣)。>
・日本国では小泉改革から引き続き、米国を追従する市場原理主義政策が推進されている。2012年、行政府は究極の不公平税である消費税の引き上げを強行したが、教育予算はOECD加盟国中最低を更新中だ。一連の施策においては日本育英会が廃止され、奨学金制度が厳格化されたことから、教育格差による経済格差を固定し、国策として社会流動性を絶つ狙いであると指摘される。
<金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない。マーガレット・サッチャー(イギリス史上初の女性首相)>
・世界銀行により貧困は基準化され、「絶対的な貧困者」と「相対的な貧困者」の二つに定義されている。
・「絶対的な貧困者」の人口は95年から20%増加し12億人に達し、世界人口の約50%に相当する30億人が1日2ドル以下で暮らしている。
・なおマーガレット・サッチャーは急進的な市場原理主義改革に着手したが、貧困層は増税となり富裕層は減税となるなど格差は拡大し、内需不足から企業倒産は5倍に達した。
<新自由主義は国民の生存権を憲法上義務付けた福祉国家の解体戦略である。二宮厚美(神戸大学教授)>
・ユニセフの調査によると2012年度の日本国における児童の貧困率は14.9%に達し、OECD加盟35ヵ国中ワースト9位であり、極めて悪化傾向にあることが判明する。
<世界で最も豊かな日本人が、なぜそれをできないのか?ミッシェル・フェルネックス(スイスのバーゼル大学教授)>
・ユニセフのレポートは各国の子育て支援や福祉政策にも言及しているが、日本国の児童福祉にかかわる公的支出はGDP対比1.3%程度、OECD加盟35ヵ国中においてワースト7位であり、市場原理主義の導入により児童の人権が抑圧される構図を示している。
<同じ嘘を何千回・何万回と繰り返せばそれは真実となる。アドルフ・ヒトラー(ナチス・ドイツ総統)>
・2012年、生活保護受給者が212万人を突破したことを受け、爆発的な社会保障支出を危惧する日本国政府は、テレビ媒体を主軸とする宣伝工作を実践した。
・生活保護費の削減を国民合意として、厚生労働省は年間100億円ベースの抑制策を打ち出す、「聖域視せず最大限の効率化を図る」などと、全面的に削減する方針を示したが、抑制された予算が公共事業費へ転用されることから、国民福祉を利権に付け替える行為に過ぎない。
<嘘も100回言えば真実になる。ヨゼフ・ゲッペルス(ナチス・ドイツ宣伝相)>
・竹中平蔵が唱導したトリクルダウン理論とは、富裕層が資産を増やせば、貧困層へも富が波及するという各国においては、富の寡占と傾斜配分が加速したのみであり、貧困層の生活が改善された事例はほとんど見られない。
<恐怖の連続だろ?それが奴隷の一生だ。デーヴィッド・ビープルズ(米国の脚本家)>
・98年、ILO(国際労働機関)新宣言として111号(雇用および職業における差別待遇禁止)、157号(社会保障の権利維持)などが加えられたが、当時の日本は構造改革をひかえ雇用規制の大幅な緩和策を打ち出していたため条約の加盟を見送った。
・ILO常任理事国である日本国の後進性が指摘されている。
<フリーターこそ終身雇用だ。南部靖之(人材派遣会社パソナ社長)>
・プレカリアートとは、「不安定な」と「労働者階級」を組み合わせた造語であり、90年代から急増した非正規就労者など不安定な雇用状況に放置された社会層を意味する。フリーター、パートタイマー、アルバイト、派遣労働者、契約社員、委託労働者から広義には零細自営業者や失業者まで包括され、プロレタリアートにかわる労働者派遣法改正が推進された結果、労働者派遣事業の売上げは2003年度の2兆3614億円から2008年には3倍以上となる7兆7892億円にまで達した。
<汝らは人類であるが、世界の他の国民は人類にあらずして獣類である。(タルムード「ユダヤ経典」の言葉)>
・ユニセフの統計によると、貧困を原因とする栄養不足や衛生悪化により年間平均1400万人の児童が死亡しているが、そのうちIMFや世界銀行の構造調整プログラム(融資条件として、債務国に福祉・教育・医療の切り捨てを迫る)の影響で死亡する児童は600万人に達するという。この数は紛争による年間死亡者数の12倍に達することから、金融勢力による途上国支配がもたらした構造的暴力であるとする見方が強い。
<新自由主義は階級権力の再構築に向けた支配階級の戦略的プロジェクトである。二宮厚美(神戸大学教授)>
・IMF出資国は「市場化と民主化が各国を発展させる」というスローガンを掲げていたが、融資条件に従い改革を行なった途上国社会は悲惨を極めている。世界人口65億人に占める貧困者の割合は1981年当時36%だったが、2000年には40%を突破し、特にアフリカ地域の貧困者は1億6400万人から3億1600万人まで増加。
<国家は、あらゆる立派な職業から弾き出された屑によって統治されている。ジョルジュ・デュアメル(フランスの作家)>
・世界支配のスキームは極めてシンプルであり、国際金融が破綻国家に対し国家主権の委譲を要求する。あるいは米国が傀儡政権を樹立し実質支配の下に国内法を改正する。抑制された社会支出は国庫に集約されるのではなく、各種の優遇税制により多国籍企業へ付与される仕組みだ。
<語るまでもなくプロパガンダには目的がある。しかしこの目的は抜け目なく覆い隠されていなければならない。ヨゼフ・ゲッペルス(ナチス・ドイツ宣伝相)>
・小泉政権を契機に「構造改革」が実践されたのだが、「構造改革」とはもともとIMFが債務国に求める返済計画を意味したイディオムなのであり、社会保障費の削減、労働規制の撤廃、投資の自由化(企業買収の簡易化)をプログラムの支柱として、すなわちフリードマン型経済(市場原理主義)の導入そのものであるわけだ。あらためて小泉内閣とはグローバリストによって編成された経済傭兵集団であり、国民資産あるいは労働者賃金を搾取・集約し譲渡することがミッションであったといえるだろう。
<我々は世界人口の4%を占めているに過ぎないが、世界の富の22%を必要としている。ビル・クリントン(米国第42代大統領>
・構造改革にともない「投資の自由化」が推進され、三角併合、持株会社、減損会計など聞きなれない制度が施行されたのだが、目的は外国人による日本企業買収の規制撤廃に他ならない。いまや株式市場の75%以上が外資による取引であり、外国人の持ち株比率は20年前の15倍に達しているのであり、すでに日本の経済的イニシアティブが解体されているに等しい。現在日本国が推進する市場原理主義の政策群は、90年代にクリントン政権が策定した金融を主体とするヘゲモニープロジェクトなのだから、我々は完全に略奪のプロットに取り込まれているのだと思う。
<誰もが得をする――そんなバカな話があるはずもない。金には必ず出どころがある。ゲイリー・ワイス(米国の作家)>
・2002年から推進される民営化、社会保障費削減、消費税率の引き上げなど構造改革の核心は、IMFが破綻国家に対して要求する「構造調整プログラム」のコンディショナリティ(政策勧告)そのものだ。国債を保有するメガバンクや市中銀行の外資比率が40%に迫ると推定されることから、一連の政策はデフォルトを危惧する外国人投資家の意向を反映したリスクヘッジであるとの見方が強い。すでにゼロ金利政策によって約200兆円の預金者金利が銀行の利益に付け替えられているのだが、それはつまり金融機関優遇であると同時に、国債の保有に対するインセンティブでもあるわけだ。財政規律の腐敗によって国家は外国に干渉され、国民は高額な税負担、預金金利逸失、福祉の後退という三重の負担を強いられている。
<日本を脅したいのなら、穀物の輸出を止めればいい。アール・バッツ(元米国農務長官)>
・2012年、日本が保有する米国債など外貨準備金の為替損失は、復興予算の2倍を上回る50兆円に達した。その前年には原発事故の深刻な汚染実態が顕在化する中、為替介入資金として195兆円を計上し、さらにIMFの資金基盤強化のため10兆円を拠出している。これに対し、東日本大震災の被災者の70%以上が再就職できない状態にもかかわらず失業給付を打ち切るなど、社会資本分配は完全に機能不全だ。国益に反した意思決定を繰り返す事由は、今なお占領統治が継続されている証左であるのだが、今後はTPPの加盟により食糧供給を機略としてさらに外圧が高まるのは必至だろう。
<どんな文化においても、圧制者というのは、まず支配される側の時間の価値を下げることから始める。ステファン・レクトシャッフェン(米国の内科医)>
・グローバル基準を主導する米国もまた、激しい衰退セクターにある。2010年に実施された国勢調査局の報告によると、貧困者数(年間所得が4人世帯で2万1954ドル以下)は4360万人で1959年の調査開始以来最多となり、総人口に対する貧困率は14.3%とワーストを記録した。これは非正規化が推進され、パートタイムなどの不安定雇用が蔓延したことが原因だ。日本国においては「雇用の柔軟化」という名目で200万人規模の労働者が非正規に置換され、民族が誇る1億中流社会は、構造改革から僅か7年余で米国型の格差社会に没落した。
<新自由主義とは経済グローバル化のヘゲモニー的戦略である。ボブ・ジェソップ(イギリスの社会学者)>
・98年には財閥解体が着手され、起亜、双龍、大宇、三星などのグループは事業単位で売却となり、約半数が消滅する。これにより現代が起亜グループを、ダイムラーが双龍グループを、GMが大宇グループを、ルノーが三星グループを取得。
<老人が多く自殺する国は滅ぶ。アドルフ・ヒトラー(ナチス・ドイツ総統)>
・IMFが推進した政策により対韓国投資は200億ドル規模にまで膨張したが、労働市場の改革とともに年功序列賃金や終身雇用制度は廃止された。これにより相対貧困率はOECD加盟国中6位、高齢者の貧困率は45%まで悪化し1位となる。またIMFの改革プログラムに同期して韓国の自殺率は急上昇し、2010年のWHO統計ではOECD加盟国中1位を記録した。
<政治家は羊の毛を刈り、政治屋は皮をはぐ。マイケル・オマリー(米国の作家)>
・1992年には価格自由化が追い討ちをかけ、2万5000%のハイパーインフレによってロシア国民は貯蓄を喪失する。50%が貧困に貧困に転落する最中においても国営企業の民営化は間断なく推進され、オルガリッヒ(新興財閥)と多国籍資本は公共資本の私物化を完成した。
<業績予測は占星術をまっとうに見せるための詭弁のようなものだ。バートン・マルキール(米国の経済学者)>
・1994年、ノーベル経済学賞の受賞者であるマイロン・ショールズとロバート・マートンらはヘッジファンドLTCMを設立した。その後は年平均40%以上という高利回りを叩き出し、運用額は1000億ドルを突破するが、アジア通貨危機とロシア財政危機によって業績は暗転する。ロシアのデフォルトを100万年に3回とシミュレーションしていたことが致命傷となり、最終的に機関投資家の損失は1兆円を上回った。なお、ショールズとマートンはその後サブプライム理論を提唱し、さらに米国経済の破綻を加速させている。
『ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ』
15歳から始める生き残るための社会学
響堂雪乃 白馬社 2017/3/3
<君たちはニホンという国ができて以来、最も過酷な時代を生きなくてはならないのだ>
<本書の特性とは反証が極めて困難な点にある>
・また201の概説全てが学術用語で括られているとおり、それらは筆者の臆見や私見ではなく、多くの碩学や研究者の思考によって濾された精度の高い仮説群である。
・「君たちが対峙する脅威とは、外国資本の傀儡と化した自国政府であり、生存権すら無効とする壮絶な搾取であり、永劫に収束することのない原発事故であり、正常な思考を奪う報道機関であり、人間性の一切を破壊する学校教育であり、貿易協定に偽装した植民地主義であり、戦争国家のもたらす全体主義である」
<読書しなければ人間になれない>
・このように読書によってのみ獲得できる分析や、批判や、内省や、洞察などの営為を「深い処理」と言います。
<繋がることよりも繋がらない価値>
・ラインやSNSで誰かと繋がっていることよりも、孤独の時間のほうがずっと大事なのです。
・このように一人作業の中で黙々と自身の内実を豊かにすることを「創造的孤独」と言います。
・マイナンバー制度が始まり、国民は番号によって管理されることになりました。
・このように生活の全般に浸透した情報機器によって、国民の言動を監視しようとする社会を「電子パノプティコン」と言います。
<政治や社会に関心のない馬鹿者のふりをする>
・このようにいったん自由な言論を奨励して、後から一斉に弾圧することを、毛沢東の政治になぞらえ、「百家争鳴」と言います。
<信じるのは自由だが、依存してはならない>
・今の時代のように社会が荒廃すると、人間は目に見えない力に救いを求めるようになります。だから占いや、霊媒や、宗教や、プラス思考が産業になるほど流行るのです。このように合理的に考えることを拒否し、神秘的なことに溺れてしまうことを「スピリチュアル・アディクション」と言います。
<ニホンの未来はアメリカの今であるという学説>
・これから何が起きるのかを予測することは難しくありません。ニホンはアメリカの(事実上の)保護領であるため、いずれ制度や法律がそれに規準(従って成立)したものになるのです。だからアメリカの今を観察すれば、やがてニホンでも貧困が蔓延し、医療が崩壊し、言論の自由が消え、国民が監視され、戦争がずっと続くだろうと予測できるのです。このようにアメリカで起こったことが後にニホンで起きるとする考えを「日本社会20年遅延説」と言います。
<必ず遭遇する「敵」を理解しておく>
・心理学者のマーサ・スタウトは人格障害者(人間性に大きな問題をもった人)が、だいたい25人に1人の割合で存在すると主張しています。
・このように社会の全域に生息する良心に欠けた者たちを「ソシオパス」と言います。
<意思の疎通ができないのは当たり前である理由>
・このように知識の格差によって現実の共有ができなくなることを「共約不可能性」と言います。
<知識の砂浜を歩く君の知識はコップ一杯程度>
・私たちは何かを知っているようで何も知りません。
・このように“自分の知らない事実が無限にある”という前提で世界と人間に向き合い、謙虚に思考を深めて行こうとする考え方を「無知の知」と言います。
<死ぬまで学び続けること>
・このように知識や情報は常に不完全なものであり、それを刷新するための学びに終わりのない様相を「オープンエンド」と言います。
<生命を授かると同時に残酷を授かった>
・このように自分の人生でありながら、時として自分以外の存在が自分の生を決定するにもかかわらず、それでも生きていかなくてはならないという本質的な人間の在り方を「被投性」と言います。
<悪意と暴力と矛盾の中で可能性を模索する>
・しかしそれでも私たちは逆境を克服し、それぞれの可能性を追及しなければなりません。このような世界の中においてすら自分を信じてより良く生きようとする決意を「投企」と言います。
<国会議員が作る法律は2割もない>
・このようにあたかも選挙に選ばれた者が法律を作っているかのようにみせかける場を「形式的な認証機関」と言います。
<法律は資本家によって作られる>
・国会に提出される法律の原案は、公務員が国内外の資本家と相談しながら作ったものです。
・このように資本家が国会を私物化し、都合のよい法律を作るという考え方を「政治の投資理論」と言います。
<言われたとおりに法律を作るとおカネがもらえる仕組み>
・このように政治がおカネ儲けの手段として私的に運営されているという捉え方を「公共選択理論」と言います。
<政治家はゾンビであるという意味>
・政治家の仕事は資本家からおカネをもらって法律を作ることです。だから国民のことを考えたり心配する人は政治家になれないのです。また内閣の約半分は世襲議員といって、お爺さんやお父さんから仕事を受け継ぎ、楽をして政治家になった人たちばかりです。このように口では立派なことを言いながら、他人の痛みや気持ちが実感として分からない者を「哲学的ゾンビ」と言います。
<なぜニホン人のためではなく、外国人のために法律を作るのか>
・2001年に総理大臣に就任した小泉純一郎は、外国資本の企業が政治家に献金してはけないという法律を廃止しました。
・それ以来、外国人の利益を図ることが政治家にとって最も儲かる仕事になりました。このように自国の資産や企業を外国に売り飛ばす人々を「買弁」と言います。
<総理大臣はコンビニの店長のようなもの>
・現実として政治資金報告書には、それを証明するおカネの流れが記されているのです。このように権力の後ろにさらに大きな権力があり、それが本当の権力である様子を「王の背後には王より偉大な何かが存在する」と言います。
<国会議員に世の中を動かす力などない>
・いろいろな出来事を注意深く観察すると、ニホンの社会で権力を握っているのは選挙で選ばれた議員たちではなく、外国資本と公務員とマスコミであることがわかります。繰り返しますが国会議員によって作られる法律など、せいぜい全体の2割程度にすぎないのです。このように内政や外交や経済など最も重要なことを動かす三者を「鼎談」と言います。
<野党でないのに野党のふりをする人々>
・このように野党でないのに野党を偽装して国民を騙す集団を「衛星政党」と言います。
<政党の役割とは政治が存在すると錯覚をさせること>
・ニホンには与党(政権をもっている政党)も野党(政権を攻撃する政党)もありません。
・このように国民が政治的な選択肢を持たない状態を「パラ・ポリティクス」と言います。
<アメリカでもニホンでも資本が国家を操る>
・このように資本と政治が癒着し国民無視の政治を進める体制を「コーポラティズム」と言います。
<議会も政治も国家も無いということ>
・作家の矢部宏治さんの調査により、ニホンの重要な法律は日米合同委員会で決定されることがわかりました。この会合は毎月ニュー山王ホテルで開催され、アメリカ側からは在日米軍の幹部、そして日本側からは官庁の局長などが出席します。そしてそこでアメリカ側から法案化すべきこと、改正すべきことが下されるというのです。このように極めて少数の者たちが勝手に国を運営することを「寡頭制」と言います。
<聖書の時代から変わらない仕組みがある>
・このように家畜を飼うように国民を支配しようとする考えを「パストラル」と言います。
<洗脳は生涯途切れない>
・学校に代わって企業とマスコミが私たちに規範を叩き込み、そうやって私たちはパストラル(司牧的統治)の中で「作られる」のです。このように連続的な洗脳を経て、最終的に家畜のような人間になることを「馴致」と言います。
<そもそも考える教育を受けていない>
・このように新聞テレビや政府の広報に頼らなければ、物事の意味が何も分からない状況を「イナーシア」と言います。
<生まれてから死ぬまで刷り込まれること>
・原発事故の被害が拡大し、放射線が原因とみられる多くの病気が報告され、そして自由貿易協定によって国民の主権が脅かされています。しかしなぜ大人は問題を共有して、議論を交わしたり、国に抗議したりしないのでしょうか? それは子供の頃から、自分の頭で考えないこと、言われたことだけを実行することが脳に刷り込まれているからです。このように社会全体が校則に従う子供のように振る舞うことを「学校化」と言います。
<企業が政府になる>
・東京、名古屋、大阪、福岡などの都市が「経済特区」になり、これまで労働者を守ってきた法律が廃止される見込みとなりました。つまり「経済特区構想」とはニホン全体を租界のように作り変えることなのです。このように自国の政府ではなく、外国の企業や金融機関などに統治を委ねようとする考えを「スープラナショナリズム」と言います。
<食料の自給が止まる>
・二国間協議が決定されると、アメリカ産の安い農産物や肉が入ってきます。
・実際にアメリカと貿易協定を結んだメキシコなどでは、農民の約60%が失業し、国内で安い食料を作ることができなくなりました。このように自国の経済を発展させるため、他国の市場を侵略しようとする考え方を「帝国主義」と言います。
<先進国ではなくなる>
・ニホンの1人当たりGDP(国内総生産)はドル計算で40%近くも減り、世界ランキングで20位まで後退しています。
・ニホンは過去20年にわたりミナキズム(福祉や国民サービスを削り、そのおカネを大企業の減税に充てること)に取り組んできたので、消費が減ってモノが売れなくなり、会社の99%を占める中小企業の経営が悪化し、国民の多くが貧乏になったのです。このように無能な政治によって経済の規模が小さくなることを「シュリンク」と言います。
<財政が破綻する>
・国税は大体50兆円ですが、国債償還費は68兆円にも達しています。そしてそのため毎年100兆円を超える借換債が積み重なっているのです。
・このように財政破綻した国に課せられる借金返済の取り決めを「コンディショナリティ」と言います。
<国民はどんどん貧乏になる>
・政府が推進していることは資本主義ではなく市場原理主義です。繰り返しますが、市場原理とは福祉や教育や医療に使うおカネを切り捨てて、それを大企業の減税や補助金に使うことなのです。
・このように1%のおカネ持ちのために、99%の国民を貧しくしようとする構想を「レッセフェール」と言います。
<移民が増えて失業者だらけになる>
・資本家は政治家に働きかけ、年間20万人労働者を呼び寄せようとしています。そうやってニホン人の労働者よりも安く雇用することによって、おカネをより多く儲けることができるからです。
・このように国民の将来を考えない愚劣な人々が国を治める体制を「カキストクラシー」と言います。
<歴史に学ばないから再び戦争する国になった>
・このように人間が同じ歴史を繰り返し全く進歩しないことを「永劫回帰」と言います。
<スポーツは馬鹿を作るための道具>
・このようにスポーツによって民度(国民の知的水準)を低く保つ政治手法を「パンとサーカス」と言います。
<本当の経済の仕組みが語られない理由>
・景気をよくするには国民一人一人を豊かにしてモノを消費させなくてはなりません。
・このように各々が立場や利害にとらわれ、嘘やデタラメを話す営みを「言語ゲーム」と言います。
<テレビを視るほど馬鹿になる>
・アメリカの刑務所ではテレビ番組を流し続けることによって囚人を大人しくさせます。
・このように国策として国民の白痴化を進めることを「衆愚主義」と言います。
<おカネのために政治をする者を何というか>
・本来であれば選挙で選ばれた政治家は、公約に基づいて政治をしなければなりません。
・このように国民のためでなく自分の利益のために政治をしようとする者を「レントシーカー」と言います。
<まともな政治家はこうして消された>
・これまで国益を守るために頑張った政治家もいたのですが、みんな変な死に方をしたり、国策捜査(些細なことを重大犯罪にでっちあげること)によって国政を追われました。このように外国資本に逆らう人物を排除することを「帝国による秩序取り締まり」と言います。
<知性のない国民が知性のない政治家を選ぶ>
・このように物事を考えられない国民がそれにふさわしい政治家を選ぶことを「形式性」と言います。
<政治家も国のおカネの流れを知らない>
・国家予算は大体100兆円だと伝えられていますが、これは一般会計という表向きの予算です。本当の予算は一般会計に国債と、財投債を加えた特別会計という400兆円規模の予算です。しかしこれは国会ではなく公務員が作る予算であるため、政治家も国民もその内訳を全然知らないのです。このように国のおカネの流れが秘密化されることを「財政のブラックボックス化」と言います。
<人種差別で国民の不満を解消させる方法>
・このように差別感情や過激な愛国心を政治に利用することを「ジンゴイズム」と言います。
<反戦運動はニセモノだった>
・このように市民運動や学生運動を偽装し、問題の核心を誤魔化す手法を「人工芝」と言います。
<原子力発電は国民を犠牲にするから儲かる>
・このように原発にかかわる費用を電気代に上乗せして国民の負担にすることを「原価加算方式」と言います。
<ニホンは泥棒主義の国>
・資本主義が産業の発展によって富(おカネ)を増やすことを目的とするのに対し、市場原理主義は国民を守ってきた制度の破壊によって国民のおカネを奪おうとします。このようにあたかも国が強盗のように振る舞う体制を「クレプトクラシー」と言います。
<私たちの民度は世界最低レベル>
・それに対しニホンの民度や文化の水準は著しく低いため、市場原理主義を防ぐどころか、逆に加速させてしまったのです。このように他国から攻撃を受けたり侵略される要素となる弱点を「ヴァルネラビリティ」と言います。
<もう資本家に怖いものはない>
・中国の開放政策とソ連の崩壊によって、資本主義は共産主義というアンチテーゼ(対立する考え方)を失いました。
・このような資本家の強欲によって世界を再編成すべきだと主張する人々を「グローバリスト」と言います。
<お笑い芸人と政治の関係>
・このように物事を深く考えず政治家の口車に乗ってしまう人々を「B層」と言います。
<国民は馬鹿だから何をやってもいいという考え>
・このように“国民は馬鹿なのだから何をやってもかまわない”という考えのもとで国を治めることを「衆愚政治」と言います。
<すでにニホンは先進国ではない>
・ニホンは構造改革によって一部の人々だけが豊かになる制度を推進した結果、一人当たりGDPが20位にまで大後退したのです。このように国家や民族の発展も何世代かを通してみれば大差がなくなることを「平均への回帰」と言います。
<なぜ国民が貧しくなる仕組みを作るのか>
・国は派遣労働者を増やし正社員を減らしています。そしてさらに大量の移民を受け入れ、国民が仕事に就けない仕組みを作ろうとしています。そうすればニホン人のお給料は減りますが、資本家の利益を何倍にも増やすことができるからです。このように貧しい人はドンドン苦しくなり、おカネ持ちがさらに豊かになることを「マタイ効果」と言います。
<若者は自分たちが売られたという自覚がない>
・ニホンには人材派遣会社がアメリカの5倍もあり、今やその数はコンビニよりも多いのです。つまりニホンは世界でもっとも「労働者の賃金をピンハネする会社」が多い国となり、そのため国民はドンドン貧しくなり、税収が落ち込み、経済そのものが縮小しているのです。
・このように政治家を都合よく使い使い有利に資産運用をすることを「理財」と言います。
<巨大すぎる詐欺さからこそ見過ごされる>
・日本銀行は国の機関ではなく民間企業です。それなのに、原価20円の1万円紙幣を銀行などに貸し出して莫大なおカネを稼いでいるのです。また日銀は400兆円の国債を所有していますが、これも自分たちが刷った紙幣と引き換えに、ただ同然で手にしたものなのです。このようにあまりにも手口が大胆すぎるため気づかれない心理的盲点を「スコトーマ」と言います。
<君が想うより社会は1000倍も汚い>
・被災地では除染作業が行われていますが、これは全く意味がありません。
・ゼネコンに何兆円もの除染の仕事を与えると、見返りに政治家が献金をもらえ、公務員は天下りができるため、みんな「除染は無駄」という本当のことを口にしないのです。このように何の効果もない空想上の解決を「パタフィジック」と言います。
<すでに憲法は止まっていた>
・このように憲法で定められた権利の侵害により生存がおびやかされる様子を「違憲状態」と言います。
<経済の仕組みとはたったこれだけ>
・だから国を豊かにするには国民一人一人を豊かにするしかないのです。このようにひとつの連続する流れの中で考える図式を「スパイラル」と言います。
<大企業はどれだけ脱税してもかまわない>
・「パナマ文書」によって外国で税金逃れをしている企業が暴露されました。
・ニホンを代表する企業ばかりです。しかし司法関係者もこれらの企業に天下りしているため、脱税を咎められることがないのです。このように行政と資本が共謀して互いに利益を得る営みを「コープレートクラシー」と言います。
<身分制度を直視すること>
・またリストラなどが当たり前に行なわれることから、大企業の社員も常に下の階層に転落する可能性があります。このように資本家の構想によって作られた地位の階層構造を「ハイアラーキー」と言います。
<国民を食い物にして肥え太るという図式>
・正社員を派遣や請負に置き換えると、企業の利益は増えますが労働者は貧しくなります。
・このように一方の犠牲により一方が豊かになることを「パレート効率性」と言います。
<宗教家が政治家になっておカネを稼ぐ>
・このように宗教に関わる者が政治に関わり利益を得ようとする様子を「世俗化」と言います。
<人とおカネの繋がりから世界の現実を見る>
・このように物事を人とおカネの関連性の中で捉える考え方を「構造主義」と言います。
<無知な人々が絶望の国を作る>
・法律の大半が国会ではなく公務員と在日米軍によって作られることもしりません。このように無知な人々が投票して政府を作ることを「凡庸な多数者の支配」と言います。
<教育におカネを使わないから未来がない>
・しかし平成のニホンにおいては教育支出を先進国最低に引き下げ、それで浮いたおカネを大企業や資本家の減税に充てているのです。だから私たちの未来が明るいはずがありません。このように短期でおカネを儲けることだけを考え、後はどうなってもいいという考え方を「ボトムライン主義」と言います。
<ニホンは独立国家ではない>
・敗戦から70年以上が経った現在においても、国際連合はニホンに対し敵国条項を解除していません。つまり独立した国とは認めていないのです。したがって立法や外交などの全てが、常任理事国によって干渉され、ニホンの国会が決められることは極僅かしかないのです。このように民族が主権を持たない体系を「保護領」と言います。
<なぜ総理大臣は外国におカネを貢ぐのか>
・50兆円以上のおカネをアフリカなどの途上国に援助しています。そうやっていったん外国政府に入ったおカネが、現地で事業を受注する多国籍企業に流れる仕組みなのです。もちろんこのおカネは全てニホン国民が納めた税金です。このように外国資本が相手国の資産を奪うために雇う者を「エコノミック・ヒットマン」と言います。
<オリンピックはおカネ儲けのために開催される>
・2020年に開催される東京オリンピックには、3兆円以上のおカネがかかります。たった2週間のお祭りのために、それだけの税金が使われるのです。東京都などは招致費用を作るために、障碍者の福祉までも削減しているのです。
・このように国民のサービスよりも権力者の利益を優先しようとする政治を「ミナキズム」と言います。
<大統領とは原稿を読むだけの仕事>
・アメリカの大統領は何も権限がありません。演説などもスピーチ・ライターという専門家が書くため、大統領が自分で内容を考えることも殆どありません。
・このようにアメリカの財界が息のかかった者を政界に送り、自分たちに都合のよい法律を作らせる仕組みを「猟官制度」と言います。
<資本家の道具としての政治家>
・このように政治家や国家は資本階級が調整するための道具であるという考え方を「階級国家論」と言います。
<主権を奪われた国が廃れる状態を何というか>
・このように金融機関や大企業が政府に成り代わることによって国の廃れる状態を「再帰的統治化」と言います。
<国民がパニック状態の時に行なわれていること>
・このように民衆がパニック状態のときを狙い、資本家や投資家に都合のよい法律を作ることを「ショック・ドクトリン」と言います。
<消えた年金は誰のものになるのか>
・このように金融市場を通じ国民の財産を受け渡す操作を「マニピュレーション」と言います。
<国民の暮らしではなく資本家の利益が第一>
・このように資本家の利益だけを追求し、国民サービスを最低限にする構想を「福祉国家の解体」と言います。
<最も高い税金を払い、最も低い福祉を受ける>
・このように国が国民の幸福という本来の目的を投げ捨て、あたかも投資機関のように振る舞うことを「国家の金融化」と言います。
<ニホンは「領土」を売る世界でただ一つの国>
・どこの国でも国防のため外国人による土地の取得を制限しています。
・このように自国の領土を切り売りして国を解体しようとする者たちを「シセンオニスト」と言います。
<国民ではなく資本のために働くと誓った>
・ヒラリー・クリントンは「多国籍企業のために戦う」と宣言しました。そして安倍晋三も「世界で一番企業が活動しやすい国を目指す」と公言しています。
・このように本来は国によって監督されるべき企業が、逆に国を監督する独裁的な存在になることを「反転した全体主義」と言います。
<企業も政府も外国人に所有されている>
・このように世界中に跨って事業を行い、各国の政府を動かすほど莫大なおカネを蓄えた会社を「多国籍企業」と言います。
<アメリカとニホンの関係を表す言葉>
・このように外国と対等の関係が認められず、主権を侵害されドンドン貧しくなることを「野獣化と従属化の関係」と言います。
<国民を守る意思の無い国>
・このように国民を守るという国本来の機能とともに道徳や倫理が崩壊した場所を「ワイルド・ゾーン」と言います。
<だから世論調査を信用してはいけない>
・このように世論調査などに都合よく絞られた層のことを「偏りのある標本」と言います。
<なぜ新聞テレビはアメリカのことを批判できないのか>
・このようにマスコミの情報を統制する様々な制約や決まり事を「プレスコード」と言います。
<私たちの認識は常に歪んでいる>
・このように報道によって歪められた社会認識を「虚偽意識」と言います。
<国民は家畜のように大人しくなった>
・派遣法の改正によって労働者は15年間で400兆円もの賃金を失っています。労働者の40%以上を占める非正規社員は、本来受け取るはずの給与から、それだけ莫大なおカネを搾取されているのです。
・しかし新聞テレビが問題の核心を隠してしまうため、国民は社会の仕組みを考えることができないのです。このようにマスコミの洗脳によって、あたかも家畜のように大人しくなった人々を「シープル」と言います。
『二つの真実』
未来を変える衝撃の力に目覚める時代の到来
船井幸雄 ビジネス社 2009/7/8
<とりあえず、「二つの真実」の概要をここで簡単に説明いたします>
・ 一つめの真実は、人類の歴史はもとより、われわれ個々人の生涯につきましても、生没の年月日を含めて、その99.9%以上は何千年も前から決められていたと言っていいことです。
二つめの真実は、その決められていたことが、最近のことですが、案外かんたんに改善できるようになった。よいほう、正しいほうに変えられる。その条件や手法が分った、と言ってもいいことなのです。
<世の中でおこることは、暗号にメッセージとして出ている>
<ランドール博士が説く「多次元世界論」>
・パラレル・ワールドは、物理学的にもあり得る考え方なのです。
このように考えていきますと、UFOが突如現われて、突然消えるとか、「アルザル」という名の地底の別世界があるなどということも肯定できます。つまり5次元世界から見ると、3次元世界の過去も未来も、お見とおしのようです。「聖書の暗号」が、そちらからの情報であり、しかも21世紀のはじめのできごとを、人類に教えようとしたものだと考えると、20世紀から21世紀に入って、だんだんと当たらなくなったり、変更し得るようになったということが、分かるように思います。
事実、それに呼応するように、1996年から当たらないことが出はじめた………と私はまず考えてみたのです。
<驚くべきエネルギーの数々>
<驚異の生体エネルギー>
・生体エネルギーはどのような物にもある力です。私たち人間一人一人に生体エネルギーがあることはもちろん、人の集団ごとにも生体エネルギーがあります。
・(カリヴァン)日々、どのように生きていくか?これまでに現れた古今東西のスピリチュアルな師が言ってきたことですが、最もシンプルな言葉を申し上げましょう。
あなたが抱くすべての感情、すべての考え、あなたの発するすべての言葉、すべての行動において、あなたが人からしてもらいたいように、人にしてあげてください。自分が扱ってほしいように他のあらゆる存在を扱ってあげてください……というようなことを話してください。
植物、動物、大地の守護神、祖先たち、天使たち………これらすべてと一緒に、協働して、これから創造をしていきましょう。
<絶対に言ってはならないことがある>
・ここ3年前から、折にふれ言ってきたことに、医師、コンサルタント、弁護士など、弱者から相談を受けることを職業としている人が、絶対に言ったり書いたりしてはならないことは、「相手の人を脅かしたり、不安にさせたり、心配させたり、マイナスの発想をさせることである」………という禁句についてでした。
・私も40年くらい、相談者(クライアント)には、元気づけても、がっかりさせたことは一度も言ったことはありません。他者の批判や悪口も言いません。
<宇宙はパラレル・ワールドで、すべての可能性が並存する>
・まずは坂本説を紹介しましょう。彼は、次のように述べています。
「バシャールによれば、宇宙はパラレル・ワールドになっていて、すべての可能性が併存する。あらゆるシナリオが存在する。その中のどれを自分が体験するかは、自分がどのシナリオに共鳴するかで決まる。
ポジティブに考えポジティブに行動する人は、ポジティブな地球へと移っていく。逆にネガティブに考えネガティブに行動する人は、ネガティブな地球へ移っていく。
<資本主義の崩壊と人智の急向上>
・「闇の存在」による支配も、彼らの本体が地球域から去ったことも、そして今度、人類やわれわれの生活に大変化がきそうなことも、そしてわれわれで、よい未来を創れそうなのも、「必要、必然、ベスト」ではないでしょうか?よい変化だと思います。
・「聖書の暗号」は、われわれにこのような真実を教え、示唆してくれるとともに、時流も教え、示唆してくれているのです。
私が知ったこれからの時流につきましては、①現在の経済ハルマゲドンは資本主義を崩壊させる。②米軍は近々日本から撤退し、日本は米国の属国ではなくなる。③近々新しいエネルギーが石油にとって代わる。④闇の勢力の支配が終り、世の中は急変革する。⑤未来はわれわれによって創られるが、秘密や陰謀のない「よい世の中」になる。⑥第3次世界大戦の可能性はかなり高いが、それをおきさせない可能性も高い。⑦これから国、宗教、資本集団などは大変化しそうだ、⑧大天災や大人災の可能性も高いが、科学や技術が急発展しそうなので、人類は思想、哲学的にも変化し、災害を乗りこえられる可能性もありそうだ。⑨日本人とユダヤ人には、今後に特別の役割がありそうだ。……などです。
・宇宙からというか多次元界からというか、外部知性からの正しいと思えそうな情報も続々と人間界に入ってきています。
<「地の理」から「天の理」へ>
・このようなことをいろいろ考えた末に、「創造主は創造しながら自らも、創造したすべても生成発展するようにしたにちがいない。そして光の存在であり、愛に包まれた性善ポジティブ型の全ある存在である。しかも思っただけで、すべてを実現させ得る存在でもある。彼には多分不可能はないだろう。なぜなら、どんなことも彼が思えば、すぐに実現するだろうと考えられるからだ」と、私は結論づけたのです。
とはいえ、彼は効率的に調和を持って創造したものを維持・発展させるために、いくつかの大事な方向性とルールをつくったと思うのです。
その大事な方向性を列挙しますと、①単純化 ②万能化 ③公開化 ④自由化 ⑤効率化 ⑥ポジティブ化 ⑦安心・安定化 ⑧平和化 ⑨互助協調化 ⑩自他同然化 ⑪長所進展化 ⑫公平化 ⑬自己責任化などであり、ルールはⒶ秩序維持のルール Ⓑ生成発展のルール Ⓒ波動のルール Ⓓ必要・必然・ベストのルール、くらいだと思うのです。
そして「宇宙」は、基本的には、これらの方向性とルール下で運用されていると言えそうです。これを私は「真の自然の理」、いわゆる「天の理」と言っています。
<光の存在志向の地球人が受け入れてきた闇の勢力のルール>
・一方、いままでの地球上での「この世」と一部の「あの世」(地獄界、魔界など)での管理・統制、あるいは進歩のルールのように、「天の理」とまったく反するようなルール化の社会も、宇宙内にはあると思えます。
私はこれを、「地の理(地球上での特別のルール)」と、20年来呼んできました。
その方向性は、①複雑化 ②セグメント化 ③秘密化 ④束縛化 ⑤非効率化 ⑥ネガティブ化 ⑦不安化・恐怖化 ⑧戦争化 ⑨独占化・競争化 ⑩強欲化 ⑪短所是正化 ⑫不公平化 ⑬他人責任追及化などです。
これは地球上の資本主義発展のプロセスそのものであり、近代の特性とも言えます。
多分、宇宙でも「闇の勢力の支配するところ」では、このようになっているのではないかと思います。地球人は、本質的に、光の存在志向で性善ポジティブ型なのですが、やむを得ずこのようなルールを受け入れてきました。
それは、地球と地球人の真の創造者である創造主が、地球人のスピーディな進歩のために認めた期間限定のシステムだったのでしょうが、いまや、この「地の理」は、限定期間が終り、終末を迎えようとしていると言えそうです。
<人は霊長類の一種ではなく、まったく別の種>
・人間には、他の動物とちがう多くの特性があります。
長所の第一は、すばらしい知力という人間独特の能力があることで、それは活用すればするだけ増加しますし、頭もよくなるということのようです。
理性や良心も、知性とともに、人間にのみある長所のように思います。
逆に体力や腕力は、人間以外の動物に比べると決して優れているとは言えないようです。
<人と霊長類の決定的な違い>
(骨)……人骨は霊長類の骨に比べるとはるかに軽いのです。近代人の骨はネアンデルタールに至るあらゆる先行人類の骨と比べても、はるかに軽いといえます。
(筋肉)……人間の筋肉は霊長類と比較すると著しく弱いのです。人間はどんな霊長類に比べても筋力は5分の1から10分の1です。
(皮膚)……人の皮膚は、地球を照らす太陽光線に対して適していないようです。太陽光線に適応するために皮膚表面でメラニン色素を増大させられるのは人では黒人だけです。それ以外のすべての人種は、衣服で覆うか日陰に頻繁に入るしかないのです。
(体毛)……霊長類が太陽光線に直接当たっても大丈夫なのは、頭から足先まで毛で覆われているからです。一方、人間は、全体を毛で覆われていません。
(脂肪)………人間は霊長類と比べて、皮下脂肪が10倍近く多いのです。また、人間の皮下脂肪は、かつてあったと思われている体毛を補うものではありません。
(髪の毛)……すべての霊長類の頭の毛は、ある長さまで伸びると伸びが止ってしまいます。ところが人間の髪の毛は伸びつづけるのです。これは原始時代から生きるためには不必要なものでした。そのためやむを得ず、石の鋭い薄片などの道具を使って髪の毛を切る習慣が生まれたのです。
(手足の爪)……髪の毛と同様に、人間の爪は常に切らなければならないのです。ところがすべての霊長類の手足の爪は、ある長さまで伸びると止まるので切る必要がありません。これも人が道具を原始時代から必要としたひとつの原因となっています。
(頭蓋骨)……人間の頭蓋骨は、霊長類の頭蓋骨とまったく違う形をしています。人間の頭蓋骨の形や組み合わさり方は、他の動物と比較できないのです。根本的に異なっています。
(脳)……ここで人間の脳を比較しますと、霊長類とは基盤的に大幅に異なっています。
(発生)……霊長類の喉と比べて、人間の咽頭は完全にデザインし直されています。
(性)……霊長類の雌には発情期があり、その時期だけ性的に受容性があります。人間の女性には霊長類のような発情期はまったくなく、性に対して常に受容的になれます。
(染色体)……染色体にはもっとも不可解な違いがあります。霊長類には48個の染色体があり、人間には46の染色体があります。
・どうやら人は、生まれながらにして独特の存在であるようです。それだけに他の動物と比べますと際だった長所と短所があります。
正しく上手に生きるに適している=長所進展をして活用しやすい存在が、人だと言ってもいいようなのです。
<プラズマ宇宙論と地底世界の実在を伝える23枚のカード>
・飛鳥昭雄さんの著作で、どうしても本書の読者に奨めたい本が何冊かあります。その中で「聖書の暗号」に関係していると思えるもので、絶対に読んでほしいのは、つぎの2冊です。
1冊は『完全ファイル UFO&プラズマ兵器』です。この本は大著ですが、特に第4部の「エイリアン=イスラエルの失われた10支族の地球帰還」は、必読に値する文章です。それを分かりやすく私流に解説しましたのが、2007年3月に中丸薫さんと共著で徳間書店から出しました『いま2人が伝えたい大切なこと』です。そこでは、「極小から極大を貫く最先端のプラズマ宇宙論と地底世界の実在を伝える23枚の船井カード」という題名で、以下の23項目のことをかなり分かりやすく書きました。
船井カード① 飛鳥昭雄さんの情報源「M-ファイル」と「J-ファイル」のレポートがすごい。
船井カード② 飛鳥さんが極秘資料を渡された経緯
船井カード③ ロズウェル事件から60年、宇宙人のことを少し本気で考えてみたい
船井カード④ エイリアンは日本人だった……の驚天動地の報告がもたらすもの
船井カード⑤ ロズウェルのエイリアンに日本人と共通する遺伝子「YAP因子」が見つかっていたという報告
船井カード⑥ 宇宙人の姿の典型「グレイ」の正体は、意外なものだった!
船井カード⑦ エイリアンは地球内部から飛来してきた!?
船井カード⑧ 失われたイスラエル10支族の行方が、日本と地球内部の2つにあった!?
船井カード⑨ 失われた10支族が住まう場所の名は「アルザル」!
船井カード⑩ 地球内部世界アルザルを見聞して報告したパイロットがいた!
船井カード⑪ プラズマが生み出す亜空間世界に紛れ込んだのではないか!?
船井カード⑫ 地球内部天体というべき場所を写真撮影していた!
船井カード⑬ 今世紀最大の謎のひとつ、フィラデルフィア事件は亜空間の実在を示唆する!
船井カード⑭ 亜空間の実在というものに、現実味が出てきた!
船井カード⑮ オーロラとプラズマ、それが亜空間でつくり出す原理なのかもしれない!?
船井カード⑯ プラズマには、幽霊のように物体を透過する特性があった!!
船井カード⑰ プラズマ溶接の核心的技術も亜空間への道を拓いている!!
船井カード⑱ ハチソン効果は、フィラデルフィア実験の怪奇現象と同じものか?
船井カード⑲ 学校は本当のことばかり教えてくれない
船井カード⑳ 銀河運動装置で死んだ金魚を蘇生させる!
船井カード㉑ UFO・プラズマは満州国で1942年に完成していた!
船井カード㉒ アルザル人が再び地上に舞い降りる日は近い
船井カード㉓ 悟りを開くと恐ろしいほどの霊力が発揮できる
・飛鳥さんの大著を読めない人も、この拙著の「23カード」のところは簡単にまとめていますので、これだけでも、ぜひお読みください。多分、びっくりされると思います。
そうしますと、イスラエル人と日本人、そしてアルザル人(地底に住むという非常に進化した人類)のことが、真偽は別にして大要はお分かりになると思います。これらは無視できないことだと思えますので拙著内であえて紹介しました。
・あと1冊、飛鳥昭雄、三神たける共著の『失われた古代ユダヤ王朝「大和」の謎』(学習研究社刊)も参考になります。これはだれでも理解できます。
<日本人が中心となり「百匹目の猿現象」をおこせば良い未来をつくれる確率は高い>
<「闇の勢力の本体」が去った>
<陰と陽を組み合わせることによりバランスがとれる>
・創造主は、地球人を「性善ポジティブ型」の人間として創りました。ただ地球人が幼稚で知的レベルも低く、一般動物と余り変わらなかったため、ある文化レベルまで効率的に成長させる必要を感じ、ある期間、「闇の存在」に地球人を支配することを許したのだ、と思います。これが、もっとも分かりやすい答えになりそうです。
・すでにその時点で、知的レベルが高度に発達していた「闇の存在」は、多分、何万年か前に、地球人を自らの支配下においたのだと思います。「闇の存在」は、彼らの方式で地球人を奴隷的に支配することにしたようです。そのためにある期間、「この世」における人類の歴史も個人の生涯も、ほとんど決めてしまったのだと思います。
・彼ら(闇の存在)が去ったために、彼らによって決められたことは次第に実現しなくなり、サムシンググレートの教えにしたがったことが実現するようになってきました。これが、ここ十年来のことと言えるでしょう。また「闇の存在の傀儡」たちの力も最近は急速に落ちはじめました。これで現実のすべてが理解できます。
・いまや地球人の「エゴ」も限界に達してきています。しかし真実が分り、正しい生き方も分かってきました。それらに合わせて、「闇の勢力」が消えつつあり、「よい世の中づくり」がはじまろうとしている……と言えるのではないでしょうか。
<すべては必然、必要、ベストになるよう世の中はできている>
・私は、「すべては必然、必要、ベストになっているとなるように世の中はできている」ように、創造主が世の中の仕組みを創ったはずだと仮説を立てました。その仮説を信じている人間なので、過去のことにつきましては、すべて必然、必要、ベストになっていると思うことにしています。だから、過去については真実とその論理さえ分れば、それ以上は興味がありません。しかし、今後にも関連する大事な真実には、深い興味があります。
たとえば「聖書の暗号」が教えてくれる真実では「死は終わりではない」こととか、「未来は、人間によって創り得る」「第3次世界大戦を演出しようとする勢力が存在する」などには、大いに興味を惹かれます。
・ともかく「聖書の暗号」は、真実を教えてくれている……と言うことを知り、びっくりしました。とともに「闇の勢力」というか、いままでの地球人の支配層は、それらの大半を偽り、大衆にウソを教え、真実を隠すのに汲々としてきたことも知りました。
それらを知ってもほとんどびっくりしなかったのは、「死は終りではない」「人は生まれ変わる」「あの世とこの世の仕組み」「輪廻転生の目的」「未来は人間によって創り得る」などということは、すでに充分に知っていたからです。
<マスメディアの情報しか知らない人が読むとびっくりする事実>
・それらにつきましては、2006年6月にビジネス社から発刊しました私と太田龍さんの共著『日本人が知らない「人類支配者の正体」』の2冊をご一読いただくと、読者の皆さまにもかなりお分かりいただけると思います。
両書には、常識人(マスメディアの情報しか知らないし、信じない人)が読むと、「びっくり」することが満載なのです。ちなみに「聖書の暗号」とは、少し違うところもあります。
『クローン人間にYes!』
(ラエル) (無限堂)(日本ラエリアン・ムーブメント)2002/10/7
「本書は私達が未来に向かって前進をするための手引書」
<(クロード・ボリロン・ラエル)>
・1946年フランス生まれ。当時カーレーサーであった彼は、1973年12月13日、異星人「エロヒム」に遭遇した後、国際ラエリアン・ムーブメントを創設。
著者は、27年前から人類がクローンをつくるようになると予告しており、人類社会が「楽園」を迎えることができると主張。
・世界初のクローン人間会社「クローネイド」を設立。クローン人間第1号をつくる発表をして注目を浴びている。
・異星人「エロヒム」とは、聖書の原点であるヘブライ語聖書の「創世紀」に、一番最初に出てくる言葉だが、ヘブライ語で「天空より飛来した人々」という意味を持ちれっきとした複数形です。単数形は「エロハ」。
<人間のクローニングー永遠の生命の扉>
・ 私は、エロヒムが私の額から採った細胞を巨大な水槽のような機械に入れ(注;日本語版「不死の惑星への旅」参照)、数秒で私の完璧なコピーを作るのを見ました。
<インターネット 一つの宗教的体験>
・インターネットは、情報を自由に直接に伝えることができるため意見を持つ人は、その意見が主流の意見とは違っていても表現でき、人々に考えさせ、公式な物の見方に疑問を提示することができます。政治的なもの、宗教的なもの、科学、あるいは経済に関することでも良いのです。だからこそ、全体主義の国は、彼らの絶対的権力を失わせることになるインターネットを管理しようとしているのです。
・インターネットは検閲の死を意味します。再び禁制が終わるのです。もはや禁制を敷くことはできません。妨害したいと思うどんな考えや表現も小さな抜け穴を通ってインターネットに現れることができるのですから。
・このインターネットの自由が、先に書いたような極端な場合でも、神聖なものと考えられるならば、これは新しく、さらにずっと革命的な地平線への扉を開きます。
印刷機が発明され、考えが自由に行き渡るようになった結果、宗教に革命が起こり、プロテスタントとカトリック教会に大きく分裂しました。そのお陰で当時、カトリック教会において、振るっていた強大な勢力が弱まりました。
・確立された権威に疑問を持ち、新しくて問題になる考えを印刷できるということは、一つの革命でした。それによって考えが口から耳に伝わるよりも遠くへ伝えることができたのですから。一人の天才や夢想家や革命家は一度に少人数のグループに話すことしかできませんでした。つまり、彼らの新しい考えが社会に影響を与えるまでには、何世紀もかかったのです。
・でも印刷機のおかげで彼らの考えが社会に大きな影響をもたらす重要な時間は、ほんの数年に縮まりました。だからプロテスタンティズム(新教)が、あれほど早く爆発したのです。
イエスの時代に印刷機があったならキリスト教がヨーロッパに広まるのに何世紀もかからなかったでしょう。
現在、インターネットを使えば全地球上で即座に革命的な教えにアクセスできます。そして今、E-ブック(電子本)が登場しています。
・紙の出版会社は、新聞であれ本であれ、まもなく消えてしまうでしょう。これは環境に良いことです。紙に印刷するために何トンもの化学物質が川や空気中に吐き出され、紙に印刷するインクも化学物質であり公害だからです。
・より若い世代の人たちは、日曜の朝のミサ(カトリックの儀式)で過ごすよりも、インターネットで過ごす時間が増えています。親がミサに行くことを強要する家庭を除いては、若者はすべてどちらかというと、コンピュータの前で時間を過ごしたいと思っています。彼らがそうするのは、確かに正しいことです。インターネットは、今日どのミサよりもはるかに宗教的な体験だからです。
彼らが持つ小さな画面のおかげで、人種や宗教の区別もなく、人類のすべてとつながることができるのですから。
インターネットほど人類を一つにするものではありません。
< 宗教(religion)>
宗教(religion)という言葉は、ラテン語の(religere)から来ており「繋ぐこと」を意味します。インターネットほど人類を繋ぐものはありません。
・今、一つの巨大な集団意識が出来上がろうとしています。インターネットは神経細胞を繋ぐ電波のようなものです。私たちは、皆、人類という強大な脳の神経細胞です。インターネットは、私達の間を流れるメッセージです。「新人類」は神経細胞を流れる信号のようなものです。
・毎日、何百万人もの人間が世界のネットワーク上の巨大な集団の「ミサ」で、回線上で「聖餐を受けている」のです。
・若い世代の人たちは、この技術と共に育っていますので、古い世代の人たちよりもずっと多く世界の他の場所とつながっています。若者たちの世界的意識は、大人たちの意識よりずっと高いです。彼らは、マウスをクリックするだけで、地球上のどんな場所ともつながることができると知っているのです。