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コロナ危機に影響された家計も企業も、急激な産業構造の変化に対応して、転職や業種転換を余儀なくされる。(1)

 

 

『コロナ危機の経済学』

提言と分析

林慶一郎・森川正之  編著  日本経済新聞出版  2020/7/18

 

 

 

コロナ危機と日本経済  森川正之

コロナ危機の影響

・本書は、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の世界的な拡大と深刻な経済的影響――「コロナ危機」――と政策対応について、日本の経済学者の分析と提言をまとめたものである。

 

・ただし、感染者数はあくまでも検査で確認された数字に過ぎず、無症状者を含めた実際の数字ははるかに多いと考えられている。また、感染の有無がわかっていない死亡者も相当数あると見られ、感染率や死亡率の公表値には不確実性が極めて大きい。

 コロナ危機は、ほとんどの人が想定していなかった事態である。例えば世界経済フォーラムのGlobal Risks Report2020(2020年1月)において、感染症は発生確率の上位10項目に含まれておらず、発生した影響度でも下位に位置付けられていた経済予測の専門家の中にもこの事態を想定していた人はいなかった。

 

・5月頃から各国で社会的隔離措置を緩和する動きも広がったが、平時と同様の活動ができるようになったわけでなく、また、感染動向次第で再び規制が強化されることも十分ありうる。コロナ危機が最終的にいつ終息するかによるが、戦後の大きなショックを上回り、戦前の世界恐慌に匹敵する可能性もないとは言えない。

 

コロナ危機の経済分析

・コロナ危機は、石油危機、世界食糧危機、東日本大震災といった大型のショックと比較されることが多いが、過去の経済危機や自然災害とは顕著な性質の違いがある。生産・消費といった経済活動自体が感染を拡大するという特異性である。不況に対しては、金融政策・財政政策で需要を刺激するのが教科書的な処方箋になるが、コロナ危機の場合、需要拡大策自体が感染拡大を助長し、危機を深刻化する。

 

本書の意図

コロナ危機は経済活動全般に及んでおり、マクロ経済学、医療経済学、労働経済学、ファイナンス行動経済学国際経済学など経済学のほぼすべての分野の研究課題である。

 

感染拡大への対応

感染症モデルと経済学の融合

感染症モデルに経済行動を折り込んだ理論モデルのシミュレーションのいくつかは、外出禁止令など政府の関与がなくても個人の行動変化を通じて感染のピークが後ずれし、死亡者数が減少するという結果を報告している。

 政府が強い関与を行わず国民の主体的な取り組みを基本としたいわゆる「スウェーデン方式」は、こうした考え方に基づくものと考えられる。

 

・特に「医療崩壊」と言われる病院の混雑は深刻な問題で、感染カーブをフラット化するためには、出入国制限、外出禁止令、感染リスクの高い業種の営業禁止といった政府の関与が必要になる。

 

感染症経済モデルのバリエーション

・そして若年者と高齢者のリスクの違いを考慮した社会的離隔政策、年齢に応じた段階的な制限解除といった提言がされている。リスクの低い健康な若者は、医療サービスを混雑させる度合いが小さく、その就労拡大によって経済活動の低下を小さくできる。また、重症化リスクの低い人がある程度のスピードで感染して免疫を獲得することは、社会全体を平時に戻す上で望ましい(=正の外部性)面もある。

 

感染抑止政策の事後評価

・本稿執筆時点において、日本を含む主要国の感染者増加は一旦ピークアウトし、強力な規制を段階的に緩和した国が多い。しかし、有効なワクチンはまだ開発されていないし、人口の6~8割が感染して集団免疫を獲得する時期はまだ遠い可能性が高い。そうだとすれば、当分の間は規制を緩和することで感染者が再び増加し、医療サービス提供の上限を超えない範囲にとどまるようコントロールする期間(=「新しい生活様式)がかなり長く続くだろう。

 

・もちろん、有効な治療薬やワクチンの開発・普及は、健康と経済のトレードオフ自体を解消する上で最善の対応策である。ただし、開発のインセンティブ知的財産権の保護をはじめ様々な政策的要因に依存する。なお、集団免疫にどの程度近づいたかを把握する上で、PCR検査だけでなく無症状の既感染者を把握するための抗体検査の役割も高まってきている。

 

経済活動への影響と経済政策

不確実性と金融政策

・新型コロナの拡大は、消費・投資行動を慎重にさせて財・サービス需要を減少させると同時に、生産活動を制約することを通じて供給力を低下させている。自然災害とは異なり需要増/供給側の複合的ショックである。

 

財政政策による支援措置

・この点で、国民全員を対象とした一人10万円の給付金が最善だったと考える経済学者はおそらく少ない。正当化するとすれば、対象を限定した政策の実施には執行コストと時間がかかるという観点からだけだろう。この意味で、マイナンバーカードの普及率の低さ、所得や資産の補足が不完全であることなど、平時から指摘されていた日本の所得再分配政策の問題点が顕在化したと言える。

 

・コロナ危機を契機に、ターゲットを絞った効率的な所得再分配を迅速に可能にする仕組みを構築する必要がある。感染症への対応が長期化する可能性を考えると、マイナンバーカードの使い勝手を抜本的に改善した上で保有者への給付を優先するなど普及拡大を加速することが考えられる。さらに広い視野から言えば、失業及び所得減少に対応するための基本的なセーフティネットのツールである雇用保険制度及び生活保護制度の問題点を克服し、頑健な社会保険体制を再構築することが必要である。

 

産業構造と新陳代謝

・製造業よりもサービス産業が大きな影響を受けている点も、コロナ危機が過去の経済危機と大きく異なる点である。一般にサービス産業に比べて製造業の方が生産のボラティリティーが高く、石油危機、世界経済危機、東日本大震災といった過去の大きなショックでも製造業が強い影響を受けた。しかし、コロナ危機では、宿泊業、飲食業、娯楽業をはじめ対個人サービス業への影響が深刻である。

 

労働市場への政策対応

・日本はコロナ危機前の時点で深刻な労働力不足の状況にあったため、今のところ失業率の上昇は大きくないが、非正規労働者に集中する形で雇用への影響が生じている。米国では、失業よりも非労働力化という形での影響が顕著なことが確認されている。日本でも失業率の上昇が限られている要因として、休業者の増加や女性・高齢者の労働市場からの退出が寄与している。

 

中長期的影響と課題

長期停滞への懸念

・自然災害や戦争と異なり、コロナ危機は資本設備の棄損がほとんどなく、死亡者の多くは労働市場から引退した高齢者が占めていた就労人口への影響は小さい。このため集団免疫の達成またはワクチンの開発によって感染症自体が終息すれば、経済は回復するというのがおそらく基本シナリオである。特に、コロナ危機の影響を大きく受けたサービス産業は需要が戻れば生産も回復に向かうはずである。ただし、感染症経済モデルに基づく分析の多くは集団免疫の達成(あるいはワクチンの開発)を前提としており、免疫が完全ではなく再び感染する可能性が残るなど、この前提が崩れると感染症の終息自体が遠くなる。1918~19年のスペイン風邪のように、第二波、第三波が起きる可能性もある

 過去の感染症爆発の経済的影響は長期にわたって持続し、自然利子率の低下が何十年にも及んだという分析がある。

 

・履歴効果を持つ可能性のある要素としてコロナ危機下で非労働力化した人の完全な引退やスキルの劣化、学校教育の質の低下に起因する子供の学力低下、企業・個人のリスク回避度の高まりによる予備的なキャッシュ保有性向の高止まり(=投資・消費意欲の低下)、グローバル化の後退などが考えられる。

 

危機が生産性を高める可能性

・他方、コロナ危機後の生産性を高めうる要素もある。日本が遅れているとされてきた生産性向上余地の具体化である。ここでは、①デジタル技術の活用、②企業の業務改善、③規制改革、④新陳代謝の4つを挙げておきたい。

 

・コロナ危機に限らず不況は、生産性の低い企業が撤退し、回復局面で生産性の高い企業が成長するという形で、経済全体の生産性を高める新陳代謝効果を持つ。繰り返しになるが、労働や資本の産業間・企業間での再配分を阻害しないような形で緊急時の政策を行うことが、危機後の成長力を高める上で重要になる。

 

政府債務と世代間問題

・コロナ危機後の経済に影響する政策的な要素として、財政支出拡大に伴う財政収支の悪化、政府債務の増大も無視できない。政府債務残高は世界各国とも大きく増加したが、日本はコロナ危機前の時点での政府債務のGDP比が特に高く、基礎的財政収支も赤字が続いていたので、政府債務が長期的な経済成長に負の効果を持つとすれば、日本は最も深刻な影響を受けかねない。

 

エビデンスに基づく政策形成

・コロナ危機は想定外のショックだったが、経済分析は急速に進んでいる。感染症の疫学モデルと経済モデルを融合した理論モデルが開発・利用されるなど、文理融合型の研究が進んでいる。精度の高い基礎データが限られているため、政策シミュレーションに利用される感染率など重要なパラメーターの不確実性はまだ大きい。

 

・しかし、感染者・死亡者の動向が国によって大きく異なるのは何故なのか、どのような政策が実際に有効なのか、わかっていないことも多い。特にPCR検査件数や集中治療設備が少なく、マスクも消毒薬も不足し、罰則付きのロックダウンといった強力な手段を用いなかった日本で、人口当たり死亡者数が欧米諸国に比べてはるかに低水準にとどまっている理由は謎である。

 

コロナ危機の経済政策――経済社会を止めないために「検査・追跡・待機」の増強を   小林慶一郎  奴田原健悟

外出自粛・休業要請

・今までの日本のコロナ対策のアプローチは、外出自粛・休業要請という行動制限によって感染機会を物理的に減らし、一方、絞り込んだ検査によってクラスターを潰す、という戦略だった。

 

・しかし、既にコロナウイルスが広く市中に拡散し、ウイルスとの共存が不可避と考えられるようになった現状(本稿執筆時の2020年5月末)においては、感染拡大防止のためには、

  • 厳しい外出自粛と企業への休業要請によって感染機会を物理的に減らす状態を、有効な治療法やワクチンが開発され普及するまで維持する(「行動制限」の長期化)
  • 効果的な検査の拡充によって感染者を洗い出し、接触者を幅広く追跡し、陽性者に人との接触を断った療養・待機をしてもらう(「検査・追跡・待機」)

のいずれか、またはそれらの組み合わせを実施することが選択肢となる。

 治療法とワクチンが成功裡に開発され普及するとしても、最低でも、2年以上の時間がかかると見込まれるが、それまで行動制限を高いレベルで続けていたら、大量倒産と大量失業が発生して経済社会がもたない。

 

行動制限アプローチの限界

・半年も自粛と休業が続けば、大量の倒産と失業が発生する。1997年末の金融危機のあと、それ以前は毎年2万人台だった自殺者が毎年3万人台に上昇してその水準が14年も継続したが、それと同じことが起きるだろう。金融危機によって14年間で十数万人が自殺した計算になる。今回のコロナ危機において、自粛と休業で感染症の死者を数万人減らせても、経済苦による自殺者が10万人規模で増えたら政策としては失敗である。

 

・今後を展望すると、緊急事態宣言が5月25日に解除された後、いずれ感染が再拡大し、再び外出自粛・休業要請を導入せざるをえなくなるおそれが大きい。その後、再び感染者数を抑制できたとしても、自粛解禁後、また感染拡大によって三たび外出自粛・休業要請を導入する………というオン・オフの繰り返しになるおそれがある。

 

行動制限と検査・追跡・待機の代替性

・なぜ、新型コロナウイルス感染症の流行に対応して、今、世界中で都市封鎖が起き、日本で外出自粛や休業要請のような行動制限をしなければならないのか。それは、検査・追跡・待機をすぐに完璧にはできないからだった。

 

接触8割削減を検査・待機で代替できるか?

・各人が他人との接触を8割削減すると、感染者と接触する確率も8割削減される。これと同じ感染防止効果は、検査と待機の政策によって「感染者の8割が人との接触を断って待機」すれば達成できる。この点はSIRモデルと呼ばれる数理モデルで確認できる。

 

「検査・追跡・待機」――経済政策としての三つの意義

・「検査・追跡・待機」は経済政策としても大きな意義がある。それは次の三つである。

 

ポイント1、外出自粛や休業に比べて、検査・追跡・待機は、経済コストが安い

 

ポイント2、大規模な検査・追跡・待機は、感染防止と景気刺激の両方の効果を持つ

 

ポイント3、逼迫する医療を支援するため経済政策資源を投入すべき

 

医療崩壊を防ぎ、将来の不確実性を減らすための医療・検査体制の増強

・2020年5月25日に全国で緊急事態宣言が解除された後の今後への政策的合意を考えると、秋または冬に、再び緊急事態宣言を発出することを回避するために、現実問題として、「検査・追跡・待機」政策の大幅な強化が必要であると言える。

 

<コロナ危機で露呈した医療の弱点とその克服  土居丈朗

わが国の医療制度の弱点

・今般の新型コロナウイルスの感染拡大防止に尽力する医療従事者には、その労を多としたい。2020年4月7日に発令された緊急事態宣言も、5月25日には全面解除となるところまでになった。その背景には、わが国の国民性もさることながら、制度面での特長として国民皆保険制度が定着していたことが挙げられる。

 その反面、感染拡大によって、わが国の医療制度の弱点が露わになった。その弱点は、新型コロナウイルス対策だけにとどまらず、2020年代に不可避的に進む高齢化に対応するためにも、克服すべきものである。

 露呈した医療制度の弱点は、かかりつけ医制度が定着していないことと、病床(病院のベッド)の機能分化と連携が進んでいなかったことである。これらは、以前から問題視されていた。

 

かかりつけ医制度の未定着

病院と診療所

・かかりつけ医に診てもらえば、自宅で静養すれば治る程度のものなのか、深刻な病気の予兆なのかを判断してもらえる。必要があれば、大病院への紹介もしてくれる。

 ところが、そんな状態で、新型コロナウイルスの感染拡大の懸念に直面したわけである。

 

患者の外来受診

患者の態度に問題があるのは、かかりつけ医がいないことである。

 

・だから、いざというときに、まずはともあれかかりつけ医に診てもらおうという行動がとれない。今般の新型コロナウイルスの感染で、図らずもこうした実態が露呈したのだ。

 そこで、患者側がとるべき対応には、日ごろから信頼できるかかりつけ医を決めて、まずはかかりつけ医に相談できるようにしておくことである

 スウェ-デンをはじめとする北欧諸国や英国では、消費税(付加価値税)の税率は高いが、ほとんどの医療が無料である。といっても、いつでもどこでも予約なしで医療機関にかかれるフリーアクセスということはない。無論、無料というのは、窓口での患者負担がないという意味であって、医師が対価なく治療するわけはなく、税金でそれを賄っているということである。

 

わが国では、かかりつけ医制度の整備に向けた取り組みはあるが、何をもってかかりつけ医というかについてすら、統一見解が確立できていない。また、多くの先進国で定着しているプライマリ・ケアを、わが国でかかりつけ医が担うのかについても、方針が定まっていない。

 そこには、外来患者がかかりつけ医として腕のいい医師を頼りにして、多くの患者を抱えるかかりつけ医とそうでない医師とが顕在化するのを恐れる医師側の思惑も見え隠れする。そうした現状では、かかりつけ医制度がなかなかわが国では定着しない。

 

病床機能の未分化

医療崩壊」の懸念

新型コロナウイルス感染症は、感染症法において指定感染症に指定された。これにより、新型コロナウイルス感染症PCR検査で陽性になった人は、症状の軽重にかかわらず強制措置入院させることとなった。

 

・指定感染症の強制措置入院は、感染症拡大を防止する効果的な手法と見られていた。しかし、今般の新型コロナウイルス感染症は、無症状や軽症の患者が多い性質や、感染力が強くて感染症が急増する性質があるため、逆に強制措置入院によって医療崩壊が起きると強く懸念された。

 その主因の一つが、前述の退院基準だった。無症状や軽症の患者でも検査で2回連続陰性とならないと退院できないため、入院患者が増え続け、新型コロナウイルス感染患者を受け入れる病床の不足と、医療従事者の過労を引き起こした。

 

過剰な病床と「病床不足」

・それは、新型コロナウイルス感染症に限ったことではない。わが国の医療の弱点の一つは、退院してよい患者を入院させていることである。それは、以前から指摘されていたことである。もちろん、今般の新型コロナウイルス感染症の入院状況は、一般の疾病とは様相は異なるが、退院してよい患者を入院させているという点では共通している。

 一般の疾病では、日本の平均在院日数は、諸外国と比べて長い。以前は突出して長かったが、最近では短くなったものの、それでも長い。

 

地域医療構想の意義

・入院する必要のある患者をきちんと受け入れつつ、在宅医療等で治療できる患者は退院する。この方針を明確に示したのが、地域医療構想である。 

 地域医療構想は、病床の機能分化・連携の促進を一つの狙いとして、2015年度から各都道府県で策定された。

 

・病床そのものなら、日本全体でまだ多くある。日本の病床数は、人口に比して、諸外国よりも多い。先のOECD統計によると、人口1000人当たりの病床数は、日本は13.1床とOECD加盟国の中で突出して最も多く、OECD平均は4.7床である。しかも、日本の病床の平均占有率は75.5%だから、空きベッドはある。

 ただ、それがただちに感染症患者を受け入れられるわけではないところに悩ましさがある。しかも、空きベッドが過疎部で多く、都市部で少ないという地域的な偏在もある。

 

2020年代医療制度改革に向けて

・このように、わが国の医療制度には、良い特長もある半面、不合理・非効率な面が残されている。これは、2020年代の改革課題として残されている。新型コロナウイルス感染症対策として進められる改革は進めつつ、残された課題は2020年代に進む高齢化に対応する形で克服してゆかねばならない。

 

・今般の新型コロナウイルスの感染によって、感染症対策の不備もさることながら、かかりつけ医制度と病床機能の連携が未整備であったことも露呈した。これを機に、かかりつけ医制度が定着し、病床機能の分化と再編が進めば、(コロナ)禍を転じて福となすことになるだろう

 

<新型コロナ危機による労働市場への影響と格差の拡大  菊池信之介、 北尾早霧、御子柴みなも

労働市場

・新型コロナによる危機が日本全国に影響を及ぼし、経済活動を大きく収縮させてしまうことは疑いようのない事実であり、労働市場もその影響を免れない。感染リスクの拡大は、外出自粛や営業休止によって財やサービスの需要と供給を収縮させる。総需要の急激な減少は労働需要の低下をもたらし、雇用環境の悪化が既に顕在化し始めている。

 

・そのため、コロナ危機に対して、どのような人々が最も経済的に脆弱な立場に置かれ、深刻な被害を受けることになるのか、そしてどのような人々が一刻もは早い支援を必要としているのかを見極めることは、政策対応を考える上で重要である。

 

景気変動と所得格差の関係

景気変動と所得格差間の三つのメカニズム

好不況の波によって格差がどのような影響を受けるかを理解するには、景気変動が所得分布の各層に与える影響を精査する必要がある。また、景気変動を引き金として労働者個人の人的資本や、労働市場で求められるスキルが変容すれば、一時的な所得格差の変化だけでなく、中長期的な所得分布にも影響が及ぶ可能性がある。

 

景気循環の影響を最も大きく受けるのはどういった労働者か

・いずれにせよ、上位1%層の例外的な動きを除けば、景気循環の影響を最も受けたのは、低所得者層であると言えよう。

 

・分析によれば、不況の影響は一様ではなく、女性より男性、白人・アジア系労働者より黒人・ヒスパニック系労働者、中高年層より若年層、大卒労働者より大卒未満の労働者に、より厳しい影響をもたらしていることが判明した。また、このような景気循環に対する感応度異質性は、1980年代以降の好況・不況両面において、同様のパターンであったことを明らかにした。

 

・以上の研究を踏まえると、これまでの不況においては、経済が不況に入る以前から既に経済的に比較的恵まれていない労働者に対して、ショックの影響が偏る傾向にあることがわかる。

 

失業はその後の再雇用や収入、キャリアにどのような影響をもたらすか

・まず注目すべきは、ひとたび失業してしまうと、失業前にその労働者と同じような特徴を持っていたものの何かしらの理由で失業しなかった労働者と比較して、収入の減少がかなり長い期間続いてしまう可能性がある点である。

 

・いずれの研究においても、程度の差はあれ、失業が収入に与える悪影響は、長引くほど、良い仕事を見つけるのが難しくなってしまうという点である。

 

・同時に念頭に置くべきは、ひとたび失業し、さらにその失業期間が長引けば長引くほど、良い仕事を見つけるのが難しくなってしまうという点である。

 

景気変動によって産業構造や労働市場がどのような影響を受けるか

・2008-2009年の金融危機下における経済の落ち込みが激しかった地域ほど、その後自動化を含めた設備投資がより盛んになされ、労働者に求められるスキルの要求水準もより大きく変化したということを明らかにした。

 

・不況後に、GDPと比べて雇用が不況以前の水準まで戻らない“雇用なき景気回復”という現象に着目した。とりわけ米国においては、自動化などが進んだことによって失われた中間スキル(製造現場における生産労働者など)の雇用は、産業構造の変化によって、元通りに回復することはなかったと指摘している。

 

新型コロナ危機が引き起こす格差の拡大

・一方で、より早くからロックダウンなどの経済活動制限を行い、また毎月、労働者レベルのミクロデータが公表される米国では、どのような特徴を持った労働者が、ショックに対して最も脆弱で、格差拡大に対してはどういった兆候が見られるかについて、既に様々な学術研究が蓄積され始めている。

 

諸外国の労働市場に関する研究

・当論文は、2ヵ月間間で、全体では15ログポイントの雇用減少を認め、特にパートタイム労働者、賃金が全体の分布の中央値より低い労働者、外国人労働者、大卒未満の労働者などの雇用減少幅が大きいことを明らかにした。またその減少幅の格差の原因にも踏み込み、雇用減少幅が大きかった上記の特徴を持つ労働者は、リモートワークが困難であったり、対人的な仕事が求められたりするような職業に集中していたことも明らかにしている。

 

結果として、男性より女性、大卒以上より大卒未満、リモートワークがより困難、長期雇用契約より短期雇用契約を結んでいる、といった特徴を持っている労働者が、より失業しやすかったことを明らかにした。

 

・通常の不況では、“man-cession”とも言われるように、より大きな影響を受けがちな製造業や建設業などに従事する男性を中心とした労働者の雇用・賃金が低下するのに対し、コロナ危機においては、女性の方が大きな影響を受けるのではないかということを示唆している。コロナ危機以前のデータによると、リモートワークが困難な仕事に女性がより多くついていること、学校の閉鎖などによる家庭内労働の増加に対する負担の偏りがあることなどがその要因であると指摘している。

 

日本の労働市場に関する研究

コロナ危機でより甚大な影響を受ける労働者の特徴

・コロナ危機は、リーマンショック東日本大震災などの過去の経済危機とは異なり、特に、人と人との接触を伴う対人的な産業で勤務し、かつリモートワークなどが困難で非フレキシブルな職務に従事する労働者に対して、大きなショックを与えていると考えられる。つまり、この2つの分類の観点から見た産業・職種のうち、最もコロナ危機に対して脆弱なのは「対人的」で「非フレキシブル」な仕事に従事している人々である。

 

・これを見ると、コロナ危機に対して最も脆弱な労働者は日本の労働者全体のうち約5分の1(20.2%)を占めており、さらに最も年収が低いグループを形成しているということが見て取れる。

 

雇用形態、性別、教育水準ごとに異なるコロナ危機

・次に、コロナ危機に対する脆弱性の分布が、労働者の属性によってどのように異なるかを様々な切り口から見ていきたい。

 日本の労働市場が米国や欧州などの労働市場と異なる点の一つとして、「正規」「非正規」という雇用形態による特有の区分が存在していることが挙げられる。そして、特に景気後退に直面した場合、非正規労働者は、正規労働者と比べて雇用の調整弁として雇い止めされやすい傾向にあることが指摘されてきた。

 

・最もショックに脆弱なグループである「対人的」で「非フレキシブル」な仕事に従事する人々は、非正規労働者の中では約3分の1の32.8%に及ぶ一方で、正規労働者の中に占める割合はその半分以下の13.8%に過ぎない。さらに、非正規労働者の平均年収が正規労働者に比べて著しく低いことも示されている。

 それゆえ、今回の危機の発生以前から既に収入の低い非正規労働者は、コロナ危機によって少なくとも二つのチャンネル、すなわち景気後退における雇用の調整弁として、またコロナ危機に脆弱な産業・職種への集中的な打撃の双方によって多大なる影響を受ける可能性がある。

 

正規・非正規以外の区分で労働者を見てみても、脆弱性には偏りがあることが確認できる。対人的な仕事に就く男性の割合が40.4%であるのに対して、女性のそれは約70%に上る。危機に強い一般的でフレキシブルな仕事に就く男性は28.9%であるのに対し、女性では20%を下回る水準となっている。

 また、女性労働者の中でエッセンシャルな仕事に就く割合が合計で20.7%と、男性の約2倍の割合となっている。これらの女性労働者はコロナ危機の最中においても就業の継続が求められる可能性が高いが、平均年収を見ると、フレキシブル、非フレキシブルな仕事においてそれぞれ285万、155万円と、いずれも同じカテゴリーにおける男性の平均年収の半分以下の水準にとどまっている。

 

・大卒以上の労働者のうち80%以上が、フレキシブルな仕事に従事する一方で、大卒未満の労働者のうちフレキシブルな仕事に従事するのは半数以下にとどまっていることから、大卒未満の労働者の方が、コロナ危機に対して脆弱であることが示されている。また、いずれの産業・職業のグループにおいても大卒未満の労働者の年収は大卒以上の労働者のそれを下回っており、学歴という面から見ても、コロナ危機以前から収入の低い層がより大きな経済的打撃を受ける可能性が高いことを示唆している

 

・コロナ危機は、マクロレベルでの経済活動の縮小だけではなく、労働市場において、産業・職業・雇用形態などの異質性が原因で、所得の低い労働者にとってより厳しい影響をもたらす可能性の高いことが強く示唆される。コロナ危機以前から収入の低い労働者は、対人的でフレキシビリティの低い仕事に就いている割合が高く、コロナ危機によるショックが低所得者層に対してより深刻な影響を与え、格差を拡大する危険性が高いと言えるだろう。

 

米国のミクロデータを用いて、コロナ危機に脆弱な労働者層は収入が低いだけでなく、流動資産保有残高も低い傾向にあることを指摘している。十分な貯蓄がない状況で、職を失ったり収入の大幅な低下に直面したりすれば、消費の低下を余儀なくされ、困窮をきわめることが懸念される。

 政府は今後、変化し続ける労働市場のデータを注視して、特にコロナ危機に対して脆弱な人々の経済状態に細心の注意を払い、甚大な影響を受けた人々に対して迅速かつ十分な支援を行っていくことが重要となるだろう。

 

コロナ後の経済・社会へのビジョン――ポストコロナ八策   小林慶一郎、佐藤主光

ポストコロナ八策

・現在のコロナ危機の経験を経て、感染拡大防止の観点から、社会全体の連帯がより強調される傾向が生まれるかもしれない。その結果、社会保障制度の枠組みも抜本的に変わり、これまで数十年間の格差拡大のトレンドが反転することにもなりうる。また、コロナ対策で世界各国は膨大な財政支出を余儀なくされた。コロナ後の世界では、世界中で増えた政府債務はどのように持続可能なレベルにソフト・ランディングさせるかがグローバルな政策課題となるだろう。世界的な財政運営の協調の枠組みが、第ニ次世界大戦後のブレトンウッズ体制に比すべき新たな国際経済秩序として構築されるのかもしれない。

 本章ではコロナ後を見据えた八つのビジョン(「ポストコロナ八策」)を提示することにした。具体的には、

その1 経済・社会のデジタル化を促進する

その2 医療提供体制を再構築する

その3 支え手を支える新たなセーフティネットを創設する

その4 天災・災害に対して社会を強靭化する

その5 公共と民間の垣根を解消する

その6 選択の自由を広げる

その7 将来世代の立場に立つ

その8 新たなグローバル時代に役割を果たす

 

今、求められる対処と長期的な展望

・しかし、感染への不安が消費や投資を委縮させ、不況を呼び込んでいること、そして、感染症対策としての接触削減政策(外出自粛と休業要請)が経済活動を停止させた結果、人々が経済的困難に直面していることを考えれば、感染症の制圧が最大の景気対策であることは間違いない。

 すると、感染症の解決に政策資源を集中的に投入することが、最大の経済政策である。

 

・今後の長期的な展望について二点挙げる。一つ目はコロナ危機で収入が激減し、困窮する家計や企業への支援のあり方である。コロナ危機の後、接触型の産業は衰退し、非接触型の産業は大きく成長すると予想される。

コロナ危機に影響された家計も企業も、急激な産業構造の変化に対応して、転職や業種転換を余儀なくされる。彼らには、1年程度の期間、政策支援し、その間に転職や業種転換による生活再建を図ってもらう必要がある。

 

・家計への支援を迅速に行うには、リアルタイムで所得情報を政府が捕捉する必要があるが、プライバシーと危機時の支援の利便性のトレードオフはこれから長く議論されるテーマとなるだろう。プライバシーをある程度犠牲にすることに合意できれば、所得変動をリアルタイムで是正する新しい社会保障制度(例えば、誰もが一定の所得を保障されるベーシックインカム制度)が実現するかもしれない。

 

・長期的課題の二つ目は、財政の持続性の問題である。これから数年後、感染症危機が終息したときには、感染症対策のために発行された巨額の政府債務が積み上がっている。日本はコロナ以前から巨額の債務があり、他の国々の債務レベルも様々だったが、コロナ危機によってGDPの2割~3割を超える債務の増加があることは各国共通の現象である。

 

・コロナ危機においては、短期的には検査と医療の増強が最大の経済政策であるし、ベーシックインカム、民間への公的資本注入、世界的な協調財政など、現実から遠いと思われてきた課題が一気に近づいてきた感がある。